Mr.HAGAの
オウム裁判番外編
平成9年4月24、25日
第34、35回 麻原彰光(松本智津夫)公判
期日が流れ、昨年の初公判(この日も4月24日)からようやく1年で被告人の意見陳述が行われた。
昨年9月の井上嘉浩に対する証人尋問に端を発し、不規則発言、退廷と続き「意見を言わせろ、被告人の権利だ」などとのたまっていた麻原が、ついに自分の口で事件の存在を認めた。
改めて起訴状の朗読が行われ、検察側が17事件を列挙。麻原は地下鉄サリン事件から認否を始めた。
以下は簡単な意見内容(麻原の陳述順)
@地下鉄サリン事件 「弟子たちがおこした、本質的に傷害」
A落田事件 「私は指示はしていないが、弟子が直感的なもので殺した。ヤソーダラー、松本知子さんも一切関わっていない」
B薬事法(チォペンタール) 「法務部に『日本の厚生省が許可するならいい』と言った。20万円程度の罰金なので作ったと…」
C假谷さん事件 「殺されている可能性があるので、井上に『情報を集めろ』と言ったら、翌日、逮捕・監禁していた」
D坂本弁護士事件 「私は指示していない。電話があり、『とにかく時間をのばせ』と言ったが…。すべて無罪である」
E田口さん事件 「大内君が彼を連れてきて『性欲があり、自殺を考えた』などと言っていたが正確に覚えていない。従って無罪」
FGH麻薬類(LSD、メスカリン、覚せい剤) 「遠藤が作った。製造の許可は出していない。人類の進化のためだ。販売や金儲けをしていない」
I自動小銃 「マシンガンは作りました。しかし、弾はないから無罪。仮に弾を買ったとしても使っていないから無罪」
J浜口さんVX 「VXではないが、山形(明)が誤って注射器で刺して亡くなった。指示はしていない」
K富田さん事件 「新実の行為は判例からも無罪。阿部フミオ裁判長も無罪とおしゃってる」
Lサリンプラント 「94年12月26か27に村井と豊田と話し、3、4工程を停止させた。5工程も途中で止まっているので殺人予備は成立しない。従って無罪」
M滝本弁護士サリン事件 サリンは非常に少なく無罪。村井の友人の気象庁の方が拡散方程式で計算し無罪になっている。ピストルを持っている人が使わず帰ったのと同じです」
N松本サリン事件 「村井は天才科学者。裁判官にまいたというが、場所を考えれば間違えるはずがない。教団にサリンがまかれており受けており、まけばサマナが助かった。一番近くに住んでいた人が重症なのだったら、傷害だ」
O永岡さんVX 「痛めつけろと指示したのは事実だが、私がやめろと言ったのに、アーナンダが『どうしてもやる』と言うので、村井にお願いしておいた針のない金属の注射器を手渡した。そこまで」
P水野さんVX 「浸透が遅れるので、髪を狙えと。新実に山形を使えとは言った。従って傷害と認定してくれと言った」
基本的に、麻原は16事件を否認。自ら水野さんVXの指示だけを認め、弁護団も「被告人がそう言っているようだ」と客観的な認識を示した。
無罪主張とはあきれたが、それでもこの日の陳述の意味は大きい。まず、これまで事件の存在すら否定していたが、この日は全部の事件を麻原自身が認定した。さらに、薬物については自分で「体験したが効果がなかった」と認め、さらに浜口さん事件の陳述の中では「報告なしに殺害することは、上下関係のある教団ではあり得ない」と教団内で麻原がすべての許可を下すシステムになっていたことを自ら明らかにした。
それでも、腹の立つ言葉が並んだのは事実。「検察庁は無罪と認めている。吉永検事総長もだ」「ハナゾノ・ヨウイチ裁判長(架空?)が96年12月23日に釈放を許可した」などなど。さらに、坂本弁護士事件にいたっては「早川は求刑2年、端本と中川は入会間もなく3〜4年の求刑。5人で3人を殺害したので非常に小さな罪」と、にわか法律用語と意味不明な説明をベラベラとまくしたてた。
最も人をばかにしたのが、英語による陳述。「イエス、イエス」「リアリー?」「オーライ」と会話しているふうな状況で、言葉がうかばないと「アイ…何ていうのかな、分かんないな」。極めつけは、亡くなった浜口さんを「ナガハマ君」と言い続け、裁判長から「浜口では?」と聞かれても、「いや、ナガハマ君と記憶している。『ナガハマ・ラーメン』と覚えてますから」と死者を冒涜する悪辣さだった。
黙って聞いていた弁護団だったが、たまらず主任弁護士は陳述後に質問する形式を取ったが、「第3次大戦が始まって、もう日本はない。今日は1997年1月5日か6日」と言い放ち、「昨日も坂本堤さんの母と都子さんの母にも、日本はないからここで暮らすしかない。私は子供と暮らしたいと話した」と異常な発言を連発。
「エンタープライズのような空母の上でやるのはうれしい」と続き、英語を聞いている相手は「ロシアン・ピープルですね、プレジデント・サポーターですね、プロフェサー・シンイチ・ナカザワ…オール・オブ・ザ・ワールド」。弁護人が「勘違いしている」と言っても、「こういう裁判はない。遊びだよ」と笑ってみせた。
さすがに弁護人もサジを投げたが、弁護団にも異変が起きた。
24日の公判では、地下鉄サリン事件の被害者の調書の内ほとんどが不同意とされた。傍聴席にいたある弁護士が、その弁護方針について「遅延にほかならない」と語ったことが、国選弁護団を刺激した。
この日の公判終了後、通常どおり会見が行われたが、ある記者が「遅延」発言をぶつけると、渡辺弁護団長は激怒。「そう言う誤った言い方は許せない。断固戦う」と顔を紅潮させた。なおも記者が食い下がり、水掛け論が続くばかり。
その日はなんとかおさまったが、弁護団は翌日にも予定していた会見を<{イコット。渡辺団長は「いくら説明しても、理解してもらえない。記事はあまりにひどい」と社名まで挙げて抗議の一文をマスコミに伝え、「考えが落ち着くまで会見はしない」と伝えた。
弁護団には弁護団の方針もあるだろう。法律の専門家が手続にのっとるのは当然のことであり、正当である。だが、被害者や関係者の意見があることも事実。マスコミにも意見がある。マスコミをダシに使うのも、間違えや偏りがあると非難することも弁護団の主張である。麻原の陳述取材拒否という形での言論封殺ということだけはなってほしくない。