滝本太郎弁護士の陳述
1997/7/8
中川智正被告公判にて
結論から言うと、中川智正被告について、厳正な処罰を望みますり。しかし、死刑にはしないよう、強く望みます。
理由は少し長くなります。
私は、元々死刑廃止論者ではありません。むしろ何人かを残虐に殺したとき、原則として死刑にすペきものと思っています。
中川被告は極悪非道の行為をした。田□さん、浜□さん殺人事件、仮谷さん事件、多くの殺人未遂事件、松本サリン・地下鉄サリンそして89年の坂本一家殺人事件。
あなたは多くの人を殺した。多くの人を苦しませた。松本サリンで殺された7人、地下鉄サリンで殺された12人、1人ひとりの人生があった。あなたはその命を奪い、多<の人を苦しめてきた。今も2人の人が重態のままです。
しかも、私の事件での一件記録からも明らかなとおり、あなたはいわば遊び半分で事件を起こしたこともあります。
あなたの手をみせて下さい。あなたはその手で多くの犯罪を犯した。あなたは、
1989年11月4日未明、その手で坂本龍彦ちゃんの鼻をふさいで殺した。
龍ばう
おばあちゃんがお歌をうたってあけるね
トンボのメガネは水色メガネ
青い空をみてたから
みてたから
もう一つね
メエーメエー 森の仔山羊 森の仔山羊
仔山羊走れば小石にあたる
あたりやあんよがあーいたい
そこで仔山羊はメェーと鳴く
龍ぼう
元気で早く帰っておいで
おばあちやんがだっこして
又、何回でも何回でも
君の大好きなこの歌
うたってあげるから
あなたはなぜ坂本堤を殺したんですか。なぜああも簡単に殺したんですか。坂本は、池で溺れているあなたたちを助けたいと活動していたのです。なぜ都子さんを殺したんですか。なぜその手で龍彦ちやんを殺したんですか。なぜサリンまで作ったのですか。
私はあなたをほんの少しも許しません。現世だけではなく、もし来世というものがあるなら、あなたの来世でも、そのまた来世でも許さない。オウムでいうならば、何カルパでも、何万カルパでもあなたを許しません。
でもそれでも、私はあなたを死刑にしたいとは思わない。オウム真理教を知れば知るほピ、そのマインド・コントロールと洗脳の実態を知れば知るほど、あなたを死刑にしたくはない。
オウム真理教は強烈な破壊的カルトでした。破壊的カルトとは「教祖または特定の主義主張に絶対的に服従させるべく、メンバーの思考能力を停止ないし著しく減退させ、目的のためには違法行為も繰り返してする集面」を言うと思います。
思考力を停止させるために 使われたのは、マインド・コントロールと洗脳です。マインド・コントロールとは、対象者の思考能力を減退させるペく集積されシステム化された意識・思想・感情の操作手法の総体のうち洗脳を除いたもの」を言うと思います。
松本智津夫は、「豊かな社会」で生き甲斐と現実感を失った若者を引き付ける方法を知っていました。
第一には、自分が絶対者だと称することです。それも現世においてだけ絶対者であるというのではなく、来世そのまた来世でも、それ以外のアストラル世界とかコーザル世界と言われる世界をも乗り越えた絶対者であり、そんな「真理」を知る最終解脱者と称します。通例の神という概念よりも、より高度な存在だと主張します。
この主張は、極めて魅力的なものです。人は、支配されたい欲望、時にマゾヒスティックにまで絶対的に服従してしまいたいという欲望を持つものです。この欲望を刺激されたとき、松本智津夫は強烈に魅力的な存在になります。
第二には、様々なマインド・コントロールの手法を駆使します。松本智津夫は極めて巧妙に、さまざまな手法を集積しシステム化してきました。自己を権威化する手法、ダライラマや阿呆な知識人など外的な権威を利用し、賞賛手法、赤ずきんテクニック、催眠、暗示テクニック、フットインザドアテクニック、ローポールテクニック、人・物・時間の眼定テクニック、一本釣リテクニックを使い、報恩他の原理、同調性の原理を利用し、ハルマゲドンや無間地獄などの強烈な恐怖説得、更に集団催眠の手法、秘密の共有という優越感の利用法、そしてルビコンの川手法など使いました。説明すればきりがありませんが、ここまでの手法が使われたとき、どんな人が松本智津夫にはまってしまってもなんら不思議はありません。
第三には、神秘体験という魅力あるフックがありました。以前は、空気を大量に吸うことによるつまり過換気症候群や、呼吸を止めることによる低酸素性悩症を狙つて神秘体験をさせました。勿論、監禁部屋に長くいれておいて変性した意識状態にさせ、神秘体験もさせました。後にLSDや覚醒剤まで使用しました。神秘な体験は脳生埋学的には説明がつきますが、体験をした本人にとっては、まさに「現実」であり、薬物と分かっている者であっても現世の方が「幻」になってしまいます。
その体験をさせてくれるのが、松本智津夫であり、彼が造ったシステムなのです。
破壊的カルトにおいては、組織は教祖のおもいのままになります。松本智津夫は、決して精神病者でも宗教家でもありません。彼は、権力欲と社会への恨みと、強烈な破壊願望という煩悩に支配された人でした。勿論誰でも、私も煩悩に悩まされる存在です。私も、松本とともに輪廻の大海に浮沈する生き物です。しかし、松本ほどに強烈な煩悩にさいなまれている人間はまずいませんでした。ですから、彼がこの煩悩を実現するためにオウム真理教を作ったとき、行き着くところは見えていました。タントラ・ヴアジラヤーナの思想は、松本の思想が凝縮されたものであり、信徒は他の手足だったのです。
そして中川被告のように幹部ともなれば、松本の破壊願望が伝染しているものであり、二人組精神病の二人目と類似した状態になっていたと思います。幹部は、いわば松本智津夫の手によって新しい人格をつけられ、歪んだ自己実現をはかったということになると思います。その結果、松本は、オウム真理教のメンバーの能力に応じて物理的に可能なことは、すべてできたのです。言い替えれば、松本の代わりはいないが、中川被告の代わりは、いくらでもいたのです。
そんなあなたを、死刑にしたいとは思いません。たとえ本人が死刑を望んでも止めたいと思います。
あなたとしては、今できることが二つあります。一つはあなたの知る限りすべての真相を明らかにすることです。たとえ元の法友に迷惑をかけようと話す義務があります。二つは、松本智津夫と自分自身について思索し尽くし、すべてを話すことです。迷う時は迷うなりに、心の動きを正直にすべてメッセージにして下さい。
その二つによって、今も残る「尊師には深い考えがある」と誤解している現役信徒の、たとえ一人でも松本智津夫の桎梏から解き放つことができます。殺された人、苦しんでいる被害者が、少しですけれど癒されます。そしてこんな悲劇を二度と起こさない力になります。あなたも一つの命を与えられた者として、その義務があります。
それをしたときにのみ、あなたは、ぎんげし、謝罪する資格があります。つらいからといって話すことをやめてしまうとき、あなたはぎんげする資格も謝罪する資格もありません。
あなたは松本智津夫ではありません。あなたは、必ずや話してくれると思っています。
以上の理由から、中川智正被告について、厳正な処罰を望みます。しかし、死刑にはしないよう、たとえ本人が望んでも死刑にはしないよう強く望みます。
以上