松本智津夫被告第46回公判
1997/7/18(毎日新聞より)
岡崎被告に反対尋問
オウム真理教の松本智津夫被告の第46回公判は18日、東京地裁で開かれ、元教団幹部の岡崎一明被告に対する5回目の弁護側反対尋問が行われた。岡崎被告は2度にわたって坂本堤弁護士宅を偵察し、在宅を確認した状況などを証言していった。
弁護側はこの日も、激しく岡崎被告の証言の矛盾を追及し、何度か法廷に険悪なムードが漂った。
傍聴希望者は256人だった。
裁 判 長:阿部 文洋(52)
陪席裁判官(47)
陪席裁判官(39)
補充裁判官(34)
検 察 官:山本 信一(48)
=東京地検公判部副部長ら5人
弁 護 人:渡辺 脩(63)=弁護団長
大崎 康博(63)=副弁護団長ら12人
被 告:松本智津夫(42)
検察側証人:岡崎 一明(36)=元教団幹部
(敬称・呼称略)
午前10時、阿部裁判長が声をかけて開廷。既に入廷していた松本被告は、前日と同じく薄いグレーのズボンに白いTシャツを着て、被告席でつぶやき続けている。検察側証人として出廷している岡崎被告に、弁護人が質問を始めた。
弁護人「新宿駅から車2台で出発して、坂本弁護士宅までの時間は」
証人「2時間前後ではないかと」
検察側冒頭陳述によると、1989年11月3日朝、車2台で教団富士山総本部を出発した岡崎被告ら実行グループ6人は、新宿駅周辺で変装用のスーツなどを購入した後、夕方になって横浜市磯子区の坂本弁護士宅近くまでやって来た。
弁護人は、その到着以降の6人の動きを丹念に尋ねる。最初に車を止めた場所から坂本弁護士のアパートまでの道順、その途中に一方通行の道があったかどうか、「ビッグホーン」と「ブルーバード」の2台の車の位置関係、アパート付近を通った後で再び車を止めた「金山神社」近くの場所……。17日の法廷でも使った地図を示しながら、弁護人はチェックしていった。
岡崎被告らは車から離れて神社へ行き、双眼鏡でアパートを見ているが、その証言に弁護人はこだわった。
弁護人「一緒に神社に行ったのは、だれですか」
証人「村井さん、早川さん、私の3人です」
弁護人「神社に3人で行って、残りの人は何をしていたんですか」
証人「車の中で待機していたと思います」
弁護人「双眼鏡で見た人の位置から坂本さんの家の玄関まで、どのくらいの距離があったんですか」
証人「15mか20mないかくらいだと思います」
弁護人「神社とアパートの間にさくとか植木とかはあったんですか」
証人「道路の方はさくがあったと思いますけど。木は神社にありました」
弁護人「あなたは双眼鏡を見なかったんですか」
証人「はい」
弁護人「見た人はだれなんですか」
証人「村井さんが持っていたので、村井さんは見たと思うんですが、早川さんも見たかもしれません」
弁護人「双眼鏡で見た人は、坂本さんの家の表札の名前まで見えるというふうに言ったんですか」
証人「『あそこだ』と聞きました」
弁護人「あなたは肉眼で表札を見たんですか。表札の文字は見えましたか」
証人「はっきりとは見えなかったと思います。目はいい方なんですが」
弁護人「表札の手前に何か表札が隠れるものがあった記憶はありますか」
証人「ありません」
弁護人は、事件後の89年11月8日から9日にかけて神奈川県警が撮影した写真3枚を岡崎被告に示す。
弁護人「表札のすぐ前に表札より高い葉の茂った植木が置かれている。この状態だと、表札、まして名前が見えたのか、疑わしいんですが」
証人「難しいのは分かります」
弁護人「さっきの『あそこだ』と言った意味が、しかも名前まで確認したというのは疑わしいんじゃありませんか」
証人「私は村井か早川の言ったことを信じました。肉眼でも、少なくとも半分は表札は見えていましたから。当日とこの日の写真とずれもあります」
弁護人「神社からどうしましたか」
証人「神社を離れてから、アパートの敷地内に入りました。階段を上がって砂利敷きのところまで行った。砂利敷きを明るい時間に見た記憶がありますから」
その後、再び車に戻った後の様子について質問が続く。
弁護人「洋光台駅から坂本弁護士宅までの、どこのどの道なら襲いやすいと話し合ったか」
証人「はっきりした記憶はないが、そういう話はあった」
弁護人「どこか指摘できるか」
証人「はい」
松本被告はテーブルに両腕をつけ、身を乗り出して「何を言っているか、分かっているか」などと岡崎被告に話しかけた。
弁護人「襲う場所に×印をつけて下さい」
岡崎被告が書き込む。
弁護人「どうしてここがふさわしいと」
証人「地図の上から見て、ここなら必ず通るだろうと」
弁護人「人通りはどうだったんですか」
証人「なかったと思う」 弁護人「やはり端本(悟被告)が空手で気絶させて、ビッグホーンにすぐ乗せてということ」
証人「そうです」
坂本弁護士の顔を知っている早川、新実智光両被告が駅付近で弁護士が電車から降りてくるのを見張り、残りの4人がアパート近くで待機する模様が“再現”されていく。
弁護人「ブルーバードの早川と新実はどちらがリーダーなの」
証人「早川です。グルの信頼度もありますが、ワークの面ですね。いろいろな部署のリーダー格で、麻原も『大師』と付けて話していましたから」
弁護人「ビッグホーンのリーダーは」
証人「村井です」
弁護人「あなたじゃないの」
証人「村井の方が信頼があり、成就も早いですから」
弁護人「では、6人の中のリーダーは」
証人「1人にするのは難しい。全体のリーダー格は早川、村井、私と認識しています」
待機中の車の中で、坂本弁護士の写真が載っている小冊子を見ていた場面に移る。
弁護人は、顔写真を現場近くに行ってから見せた点を「遅すぎる」と追及する。
証人「車内のメンバーが一度も坂本弁護士と面識がないという話が出て、見せたと思う。それでも遅いと思いますけど」
弁護人「プロフィルに坂本弁護士の体重、身長は書いてあったんですか」
証人「はい」
弁護人「端本さんが襲って、一撃で気絶させられると思いましたか」
証人「端本君は『自信がある』と言ってましたから。私としては、坂本さんが武道やスポーツをやっていたか知らないし、どうかなと思いました」
弁護人「その不安を車内でだれかと話したか」
証人「端本さんと話しました。端本さんは『どこかを正拳突きでやると気絶します』と。中川君(智正被告)も柔道をやっていますからと」
弁護人「いざとなると、中川さんも手伝うという話だったんですか」
証人「はい、そう言っていました」
弁護人「あなたは加勢することをどう思った」
証人「私はそのつもりはなかった。運転手として、いつでも速やかにその場から出ようと」
当時、身長161cm、体重51キロだったという岡崎被告。剣道二段だったが、当時は練習もしていなかったと説明する。
松本被告が傍聴席の方を向き、しゃべり始める。傍聴席最後列では、坂本都子さんの父、大山友之さんが、松本被告の方を見ようともせず、じっとメモを取り続ける。
弁護人「待機中に中川さんが坂本弁護士に薬物を注射する話は聞いた」
証人「はい。中川君に『準備は大丈夫か』と聞いた。アンプルか注射を4、5本見せられた記憶があります」
弁護人「中川さんの検事調書では注射器は3本となっているが、4、5本か」
証人「私はそういう記憶です」
弁護人「待っている間、洋光台駅前の早川さんや新実さんと(車に積んだ無線機で)連絡は取り合っていたんですね。早川さんから連絡があり次第、襲うための準備をしていた」
証人「はい」
数時間たっても、坂本弁護士は駅から姿を現さない。そこで、岡崎被告がアパートの様子をうかがいに行った。その前後の動きを、弁護人が尋ねる。
弁護人「証人が坂本弁護士の自宅を見に行く前に、早川さんと端本さんが坂本弁護士宅に電話していますね。何時ごろか」
証人「午後10時過ぎだったと思う。自宅にはだれもいないというような内容だった」 弁護人「坂本弁護士宅はどうなっていると思ったか」
証人「留守ではないか、帰っていないのではないかと」
弁護人「それであなたが様子を見に行こうと」
証人「はい」
11時55分、弁護人が「ここで区切りたいと思います」と午前中の尋問終了の了解を求め、検察側が同意を得た証拠の一部を読み上げてから、休廷。
午後1時15分再開。
陳述席に近寄った弁護人は現場写真と見取り図を示して、坂本弁護士宅の様子を尋ねたあと、自分の席に戻る。タイミングを計ったように、松本被告が声を張り上げた。「……分からないのか、ばかものどもが」
弁護人「あなたは『留守なのを確認するために坂本宅に近づいた』と言っているけれど、本当の狙いは、『坂本弁護士が室内にいるかどうか』を確認するためだったのではないか」
証人「だって、外からではいるかいないか分からないでしょう」
弁護人「留守かどうかを確かめるためではなく、狙うために近づいたのではないか」
証人「その時点では、それは分からないですから」
検察官が立ち上がり、「裁判長、異議あり。重複です」と大声を上げた。
弁護人「重複とは思わない。細かい部分は違ってますから……でもまあ、いいでしょう」
坂本弁護士宅の玄関前まで来た岡崎被告がドアスコープをのぞくと、室内の明かりが見えた。岡崎被告は、さらにドアポストを押して中の様子をうかがい、ノブを回して無施錠と確認した、という。弁護人は、その行動を細部にわたり尋ねていく。
弁護人「明かりが見えた後で、なぜドアポストに触れたのですか」
証人「中に人がいるか確認するためです」
弁護人は、岡崎被告が人の気配を確認した後も、自分の存在を察知されかねない行動をとった不自然さをあぶり出そうと試みる。
弁護人「危険を冒してまで、ノブを回したことは、証人自身が殺害目的を達成する強い意思があったということではないか」
証人「グルの命令であれば、目的を達成しなければいけないという思いはありました」
岡崎被告は仲間の待つ車に戻る。無線で駅前にいた早川被告に知らせた。
弁護人「カギが開いていたことなどを麻原に連絡してほしい、とあなたが言ったのはどうしてか」
証人「次にどうするか指示を受けたかったから」
弁護人「この時点で(まだ)坂本弁護士一人を襲おうという考えは」
証人「ありました」
弁護人「なぜ自分で報告せず、村井さんにさせた。おかしいではないか」
証人「無線係として村井さんがいた。ないがしろにはできなかった」「それが私の記憶です」
検察側の冒頭陳述によると、早川被告は公衆電話で松本被告の指示を仰ぐ。帰宅途中を襲って坂本弁護士一人を殺害するという当初計画の変更。「もし坂本弁護士が帰宅していれば、家族ともどもやるしかない」と松本被告は命じたとされる。その構図を、弁護人がただしていく。
弁護人「弁護士が出張などで外泊していた場合はどうするつもりだった」
証人「それは中止です」
弁護人「踏み入って、家族以外の人が家にいたら」
証人「記憶がないんですよ」
弁護人「尊師の指示を聞いて、村井さんは何か言ったか」
証人「はっきり覚えていないが、尊師の指示であれば肯定的な話になる」
弁護人「端本さんと中川さんはその時いなかったが、その後村井さんから聞いたのは
間違いないか」
証人「はい」
弁護人「計画変更を聞いた2人の反応は」
証人「中川さんが『子供までやるんですか』と言ったのが記憶に残っている」
この後、岡崎被告は、最終電車が到着するまで、二手に分かれて待機し続けた状況を証言した。
弁護人「待つ間に証人はもう1度、坂本弁護士宅に行った。2回目もノブに手をかけて回した」
証人「はい」
弁護人「手袋は」
証人「していました」
弁護人「坂本さん宅に明かりは」
証人「暗かった」
弁護人「ドアを引いたら開いていた」
証人「はい」
弁護人「部屋の中は見たのか」
証人「見えなかった。ドアを1・5cmぐらいずらしただけで、それ以上は開けていない」
岡崎被告は陳述席に置かれた紙コップの水を口に含んだ。
弁護人「だれか起きている感じはしたか」
証人「そういう感じはなかった」
弁護人「村井、早川にどう報告したのか」
証人「『ドアが開いてましたよ』『暗くなっていて、寝てるみたいですよ』と。早川さんは『ああ、そうですか。じゃあ仕方ないですね。やるしかないですね』と」
弁護人「その後、3人でどんな話をしたのか」
証人「早川さんの方から『いつごろ入りましょう。何時ごろがいいですかね』と聞いてきたから、それに対して『午前3時ごろがいいんじゃないですか』と答えました」
弁護人「その結果について松本被告に承諾を得ようとは考えなかったのか」
証人「終電まで待ってだめだったから、後はグルの言われた通りにやるしかないと思った。そこまで電話する必要があったとは考えなかった」
弁護人「あなた自身はどうやって襲おうと」
証人「端本と新実が空手を知っているから、すぐに気絶させてその後に注射かなと思っていた」
弁護人「坂本さん一人の襲撃は前から計画していたけれど、今度は人数が増えるわけでしょう。難しくなるんじゃないの」
証人「そこまで考えていなかった。ずさんというか、行き当たりばったりだったので」
右端のヒゲの弁護人が尋問役に立ち、坂本弁護士宅に来る途中で革手袋を既にしていたことを尋ねた。
弁護人「理由は」
証人「指紋を残さないためですよ」
弁護人の声が勝ち誇ったように大きくなった。
弁護人「新実とか中川とかが襲うことになっていたとあなたは言うけれど、違うんじゃないの。自分も実行行為をする予定だったから手袋をつけたんでしょう」
証人「どういう場合になっても、手袋が必要になると思ったからつけたんです」
弁護人「あなたも拉致、あるいは殺害に加わる意図で手袋をつけたんでしょう」
証人「そういう意図はありませんでした」
弁護人が代わる。
弁護人「殺害計画が変更になりましたね。中川さんは当初、1人殺害のつもりで注射を用意したと思うけれど、3人を殺害するに足る液体を準備していた」
証人「予備を持っていたんじゃないですか」
弁護人「3人に足りるかどうか、あなたは気にならなかったですか」
証人「記憶が出てこないですよ」
弁護人「大事な点です。思い出してください。中川さんは注射について何も言わなかったんですか」
証人「注射に関することは何も覚えていないんです」
弁護人「(話は)なかったということですか」
証人「記憶にないということです」
3時2分、休廷。
3時20分、再開。弁護人は、岡崎被告とほかの実行役の証言が食い違う点を集中的に突いていく。
弁護人「『坂本の自宅を見てくる。子供のころからこういうことは慣れているんです』というのは」
証人「記憶にない」
弁護人「中川さんの供述調書で、あなたがこう言ったとはっきり書かれている」
証人「そんなこと言ってないと思うんですが」
弁護人「思い出して。『慣れている』といった理由に思い当たらないか」
証人「子供のころ新聞配達をしていたから、鎖の長い犬などが怖くて、郵便ポストにこっそりと新聞を入れたりしたことはあったが……」
弁護人「あなたには悪いけれど、『忍び込んだりするのに慣れている』という意味に聞こえる」
堂々巡りの質疑が繰り返された後、弁護人がもう一度質問する。「そういう意味のことを、言った記憶はまだないか」
岡崎被告は少し間合いを取った後、答えた。「そう言ったかもしれません」
様子見の後の報告内容も、中川、端本両被告の調書では食い違いを見せていた。
弁護人「あなたが『おい開いてるぞ。3人いるぞ』と言った、と中川さんは言っている」
証人「それは絶対ない」
弁護人「しかし、端本さんも言っている。『坂本ともども自宅にいる。しかも家のカギが開いている』とあなたが言ったと」
証人「絶対言っていません」
弁護人「2人が同じことを言ってるんですよ。あなたは自分の責任を軽くしようとして、否定しているのではないのか」
岡崎被告は「そういう確認はできなかったし、できるはずもない」とムッとして答えた。
弁護人はさらに、カギが開いていたかどうかを問題視する。検察側は「開いていた」と指摘しているが、「不用心にカギを開けたままにするわけがない」と遺族もこだわり続けていた点だ。
弁護人「(事件後)心配した坂本弁護士のお父さんが自宅に行った時、カギがかかっていた。あなたの話では、カギは開いていないといけない」
証人「はい」
弁護人「あなたが一番最後に出たんでしょ」
証人「はい。カギはかけられない。カギはないんですから」
弁護人「しかし、カギは閉まっている」
証人「おかしいなと感じます」
弁護人「あなたたち以外の別動隊がいたということか。逮捕前にそれをにおわしていないか」
証人「私の分からないところで何かあるかも、ということは言った。刑事さんに」
弁護人「週刊誌の記者には」
証人「話している」
弁護人「自分の罪を軽くしようとして言っているのではないか」
証人「本当にそう思ったんです」
尋問は、実行グループが二手に分かれた経緯に戻る。岡崎被告は「午後5時ごろ分かれた」と述べているのに対し、早川被告は「午後7時か8時ごろ」と供述している。
弁護人「早川さんは、車2台で襲撃場所で待ち伏せしたが、7時、8時になっても坂本弁護士が帰ってこないので不安になり、そこで初めて二手に分かれたと言っている。もし早川さんの言う通りならば、あなたの言う謀議の中身が成立しなくなる」「麻原さんから、『駅と自宅近くの二手に分かれて、無線で連絡を取れ。岡崎は運転手、無線は村井。駅は早川と新実』という指示があったという話はないことになる」
証人「早川さんの話が矛盾している。早川さんの話なら、無線はいらなくなる。なぜ2台の車が2、3時間も現場にいなければならないのか。おかしいでしょう」
弁護人「いやそんなことはない」
弁護人と岡崎被告の間で激しいやり取りが続く。その中で弁護人は再び「カギのことは、あなた自身の中で結論が出たのか」と追及。岡崎被告は「初めから開いていた。私に言えるのはそれだけです」
松本被告は頭を右肩に倒し、熟睡している。4時20分、反対尋問は実行行為後の状況に移る。
弁護人「アパートを出た時間は」
証人「午前3時前後じゃないかと思う」
岡崎被告の運転するビッグホーンには、村井、中川、端本の各被告が同乗。新実被告の運転するブルーバードには早川被告が乗り、先発した。岡崎被告は、ブルーバードを見失う。
弁護人「ブルーバードはどこへ向かったと思った」
証人「富士山総本部ではないかと」
弁護人「どうして」
証人「麻原が、終わったら、すぐに帰って来いと言っていたと思いますから」
弁護人「えっ、それは何。あなた、本当にそんな言葉、覚えているの。早川さんは捜査段階で、最初から遺体を富士山総本部に持って来いとは言われなかったと言っているんだよ」
弁護側は、岡崎被告の証言のあいまいさを厳しく追及する。
岡崎被告の態度にたまりかねたのか、裁判長が「記憶にないことは発言しないように」と述べる場面も。
弁護側は「反対尋問を無駄にするようなことはしないでください」と反発、法廷に険悪なムードが漂った。
弁護人「戻る途中の車の中で、どんな話を」
岡崎被告は「端本が『(遺体が)動いている』とか大きな声で驚いていたのは記憶している」と、今年2月の検察側主尋問で述べた記憶を繰り返した。
弁護人「遺体をどうしようかは考えなかったの」
証人「車の中で考えた記憶はない。その時は、気が動転していて、事故をせずに帰ることに集中していたと思う」
弁護人は、岡崎被告が主尋問でも話した「村井元幹部は『グルの意思通り、殺害しました』などと松本被告に電話報告した」という証言に疑問を呈した。
弁護人「あなたは捜査段階では、村井は報告したとは言っていない」
証人「はい。その後、思い出しました」
弁護人「いつごろ」
証人「今年の初めごろ」
弁護人「きっかけは」
証人「電話をかけたということがある。1回だけでなく2回ということも」
弁護人「それも話しているよね。でも、村井が話したとあなたに報告したということは出てこないよね。なぜ突然思い出したの」
証人「人間の記憶ですから、そういうこともあります」
しばらく尋問を続けた弁護人は「じゃあ今日はこの辺で」と打ち切った。
「被告人、次回は9月4日の午前。分かりましたね」。
裁判長に語りかけられても、松本被告は目を閉じたまま反応しなかった。
5時3分、閉廷。