おなじみ芳賀さんの
不定期通信 オウム法廷番外編
麻原彰晃公判 第49、50回(97・9月18、19)
麻原彰晃被告に対する公判は昨年4月の初公判以来、紆余曲折を経てついに50回を数えた。しかし、この間に実質的に審理されたのは、17事件のうち「地下鉄サリン事件」「坂本弁護士一家殺害事件」の2つ。しかも、いずれの事件も検察側立証がすべて終わっているわけではない。このままでは、被害者の痛み、証人の記憶だけが先へ先へと追いやられていくばかりとなる。
18日の公判では、午前中に地下鉄サリン事件で死亡した人の血液を鑑定した医師らの尋問が行われ、続いて坂本事件の実行犯、端本悟被告の弁護側反対尋問が行われた。
弁護側の反対尋問の意図は、すでに回数を重ねて反対尋問を行っている(現在も維持)岡崎一明、早川紀代秀両被告の証言の信用性をはかることにあった。ことに、双方が譲り合う。“上下関係”については、しつこく問いただした。
弁護人「村井、岡崎、早川、新実の関係は」
端本 「新実さんは出しゃばらないし、力関係もワンランク下。岡崎さんは解脱も早いし、印象としては岡崎さんが早川さんをうまく持ち上げながら、という感じを受けた。うまく手玉にとっているというイメージ」
弁護人「同格にみせながら、年上としてたてながらうまく使っていたのか」
端本 「そうですね」
弁護人「早川に怒られたことは」
端本 「怒りっぽいが、いい年なのに純情でたまにホロッとするところもある。関西弁だからキツク聞こえるかもしれない」
さらに、早川被告について「熊本で逮捕された(国土法事件)とき、坂本事件を話しそうになり、麻原さんの説法を聞いて心の揺れをとめたときいた」ことを明らかにした。
翌19日の法廷にも、端本被告が引き続き出廷。証言は事件に至る経緯に踏み込んだが、やはり実行行為については証言を拒んだ。
この態度に、麻原弁護団の副団長は、「反省しているというが、今ここで話すことはできないのか。それでは矛盾ではないか」と執拗に揺さぶりをかけた。これまで、挑戦的な態度を示すことはあったが、比較的スムースに証言していた端本被告は、ついに顔を紅潮させ号泣。
「(反省してるのか)その言葉を麻原に言いたい」とはき捨てた。
証言もここまでかと思われたが、休廷をはさんで主任が尋問を担当。再び端本被告に口を割らせることに成功した。同被告は坂本事件について「あんな計画でできるはずがないと思っていた。教団はバカ」「本音を言わせてもらえば、巻き込まれたという気持ちが強い」と激白。
さらに、「引き金を引いたのはだれだ」と聞かれ、「岡崎さん。カギを2回も見に行ってるんですから。それさえなければ、いつもの悪い冗談で終わったんです。早川さんだけだったら、吹き出すような愛嬌あるオッサンで終わりだった」と、まくしたてた。
だが、主任は「坂本弁護士はもっとたまらないだろう」と言葉を投げると、「ハイ」。
さらに「家族の反対を押し切って出家して、プライドがあったのでは」と向けられると、「だから今ここにいるんです。今は、引くのも勇気だったと思う」と証言した。
証言ペースを取り戻した端本被告は、実行行為をのぞいて遺体を運び出す状況から証言をはじめたが、この日はタイムアップ。次回も引き続き同被告の尋問となった。
涙ながらに証言を続けた端本被告。何も知らないまま、ただ「倒すだけでいい」とメンバーに加えられ、その後、教団を抜ける機会を失ってしまった。「今でも悪夢から覚めるのではないかと思う」とも語った。しかし、遺族や関係者はどうか。端本被告が苦悩する姿は確かに痛々しいほどだった。だが、じっと傍聴席で証言を聞いていた都子さんの遺族は、その場で麻原被告に悪口を浴びせることもできないし、端本被告の言葉に自分の反論も意見も言うことはできない。
また、これとは別に弁護団の尋問の稚拙さは回を追うごとに悲惨を増している。なぜ、法廷の場で『仏教とは何か』の意見交換をしなければならないのか。『ポア』の意味について何度も、重複して質問する必要があるのか。過去の公判記録を何度も読み直し、録音用マイクをいじくりまわすのは、質問に詰まり時間をもてあましたからではないのか。
端本被告を厳しく追及するのも、糾弾するのもいい。法廷戦術であれば、口をつぐもうとする証人の口をこじ開けることも大切だ。12人のうち、証言を見事に引き出せる弁護人と、重複、意味不明な意見の押し付けに終始する弁護人とが混在しているように見えてならない。50回の節目を迎えた公判を機に、うならせるような、的確な尋問を期待したい。