芳賀さんの
不定期通信 オウム法廷番外編
林泰男被告第4回公判 97・10・23
地下鉄サリン事件実行犯として最後に逮捕されながら、異例のスピードで審理が進んでいる林泰男被告の公判に、早くも検察側証人として林郁夫、井上嘉浩被告が出廷した。
これまで、林泰男被告の供述調書の内容が明らかにされていなかったが、弁護側の反対尋問でその一部が伺えた。
同事件をめぐっては、麻原公判での井上証言の信用性が問われたが、やはり林泰男vs井上嘉浩の間では、供述内容に相違点が多いことが明らかになった。
井上嘉浩証人
泰男被告との接見内容をもとに相違点を突く弁護側は、村井秀夫元幹部から指示を受けた後の平成7年3月18日、第6サティアンでサリンのまき方を検討した際の場面で追及。
弁護人「あなたから泰男に『村井に任せると細かいことがダメだ』と言ってないか」
井上 「言っていません」
弁護人「犯行に使用した車も、あなたが『山梨ナンバーでは目立つから、東京のナンバーにする。自分が用意する』と」
井上 「違います」
弁護人「当初、運転手として指示された平田信と寺島啓司について泰男が『キタカ(寺島)はチャランポランだし、ポーシャ(平田)はもうこういうワークはやりたくないと言ってる』と言ったのを聞いていないか」
井上 「記憶にありません」
弁護人「泰男が運転役に反対したら、あなたは『じゃあ、だれがやるんだ』とは」
井上 「記憶にないし、違う部署の人の名前を挙げることもない」
井上は否定を続ける。弁護団からはさらに、犯行を井上がリードしようとしていた可能性を指摘する質問も飛び出した。
弁護人「まき方を検討するとき、『VX事件でやったように、注射器をやったらどうか』と提案したのでは」
井上 「秘密のことなので、そんな話を林さんにすることはあり得ない」
弁護人「2人で林郁夫の部屋に行ったのは」
井上 「泰男さんがサリンのまき方などで悩んでいて、第6に村井さんを探しに行ったとき、偶然、廊下で出会ったから」
弁護人「泰男は目的を持って林郁夫のところに行ったと話しているが」
井上 「そんなことはない違います。偶然です」
弁護人「林郁夫に『サリン200tが注射器に入るか』を聞きにいったのではないか」
井上 「違います」
井上被告に先立って尋問にたった林郁夫被告は、この問題について「記憶がない」と証言。意見は真っ二つに別れたまま。
このほかにも、弁護団は井上主導を浮かび上がらせるべく、林泰男の供述を元にした尋問を繰り出した。
弁護人「島田教授宅爆破事件(自作自演)の際、泰男と平田を連れていったか」
井上 「地図をみせて『この路線からなら爆発が分かるから』と頼んだ」
弁護人「泰男は『頼まれた覚えはない。面白いものを見せるから来いと言われた』といっているが」
井上 「そんことはありません」
サリン事件に出掛ける渋谷のアジトでも
弁護人「ペアを伝えて、「だれが何両目のどのドアに立て』と指示したのでは」
井上 「言っていないです」
弁護人「よく聞いておけ、とも言ったのでは」
井上 「言ってません」
一度、渋谷に集合し上一色村に戻る際にも
弁護人「泰男に『サリンを取ってくるので、先に休んでおけ』と言ったのでは」
井上 「言ってません」
村井元幹部から渋谷のアジトで待つメンバーに「上一色村にサリンを取りに来い」と電話があり、林泰男被告は「井上に待っていろと言われた」というと、村井は確認後に再び電話をかけ「オレの指示だ。井上は関係ない」と怒っていたという。
この件について井上被告は「尊師に勝手に動くなと怒られた」と証言した。麻原公判では「なぜ怒られるのか理解できなかった」としていたが、この日の公判では「麻原弁護団の反対尋問でも何となく説明した」と述べた。
井上と林泰男。いったい、どちらの言葉が真実なのか。
最後に、裁判長から相違点があることをたずねられると、井上被告は「林さんの調書では、数カ所しか違っていない。しかし、尋問ではかなりふくらんでいる。林さんは今、辛い立場にあると思う。自分も逮捕されて1年ぐらいは辛かった。本当のことを勇気がまだ出ないだろう。押しつけたくなるのが人間の性。恨みはしないし、悩んでいるんだろうと感じる」と分析してみせた。
自ら、取調段階では意図的に事実を隠したという井上被告。自分と同じ立場だから理解できる、とでも言おうとしたのか。それでも真実はどちらなのか。
はからずも、この日午前に証言した林郁夫被告も、井上被告から頼まれた指紋除去の日付については、井上被告との食い違いを何度も指摘されながら、頑として「記憶ですから」と曲げていないひとり。泰男被告に対し「井上とか、記憶の違う人がいるが、こだわらずいろんな証言をしてほしい。分かる人には分かるはずだ」と語りかけた。
また、「私たちのやったことは殺人だが、林泰男イコール殺人鬼という報道には抵抗を受ける。人の評価だから、こだわらないで。償いなどできないから、せめて自分や仲間のことを分析して、今後、こうした事件を防止するための資料になればいいなと、そのことに集中してほしい」と諭した。
全員が、自分こそ真実と信じているのだろうか。