不定期通信 オウム法廷番外編
97・11・5 新実智光被告公判
検察側証人 林泰男被告
オウム真理教による地下鉄サリン事件で、逃走のはて最後に逮捕された林泰男被告が、ついに証言した。これまで同被告の公判などを通じ、わずかに供述の主旨がうかがわれてはいたが、ついに本人の口から“林泰男なりの事実”が明かされ、井上証言との食い違いや殺人マシンと名付けられた泰男被告の素顔が浮かび上がった。
以下は、そのポイント
検事 「村井(秀夫元幹部)から、地下鉄サリンをまけと言われてどう思った」
泰男 「初めに嫌な思いがして、断ったらどうなるんだろうと思った」
検事 「なぜ、嫌だったのか」
泰男 「人に危害を加えることが分かっていたから、心に抵抗感があった」
検事 「サリンがどんなものか知っていたのか」
泰男 「湾岸戦争や麻原の説法で兵器だと」
検事 「教団内の製造も知っていたか」
泰男 「はい。平成6年4月ころ、第7サティアンで半月近く電気工事をやったので、ウワサはきいていた。松本サリン事件で使われ、事件後、教団のものだと知っていた」
検事 「サリンをまくことを拒否したか」
泰男 「すぐ承諾はできなかったが、もう1度うながされ、順次うなづいた」
検事 「何か言われたか」
泰男 「村井は『断りたかったらいいよ』といったが、当時の自分たちには断れない。無理と分かっていたはずで、残酷だなと思った」
検事 「なぜ承諾したのか」
泰男 「断ったら、それまでになされていた懲罰やリンチ、それによる死を考えて」
「単なる伝達役だった」と主張する井上嘉浩被告との相違点
検事 「井上が証人の部屋に入ってきてどうなった」
泰男 「井上君は『村井からもう話は聞いた?』と。普通、秘密にするが彼ならいいと思って、『聞いた』と答えた」
検事 「『村井』と言ったのか」
泰男 「いえ、『マンジュシュリー正大師』か『マンちゃん』と」
検事 「井上の反応は」
泰男 「はじめに『村井では細かいところに気付かないだろう。だから自分が面倒を見る、手助けしないといけない』と話していた」
検事 「どう思った」
泰男 「彼ももともと加わっていたんだなと感じた」
検事 「他にも何か」
泰男 「具体的に『車のナンバーは東京か近辺じゃないかと。自分でないと調達できない』と言っていた」
検事 「運転手については」
泰男 「杉本、平田信、寺島敬司の3人を挙げた。計画が具体的になるので抵抗があったので、平田は『假谷事件やレーザー銃など、2度とやりたくない』と言っていたので『ふさわしくない』と。寺島も、杉本から『精神的にチャランポラン』と聞いていたので、『よくない』と言った。杉本は同室で、私と同じように行き詰まっていた。少し疎ましい気持ちがあったが、全員反対することもできず言わなかった」
検事 「井上と何と」
泰男 「『それなら代わりはいるのか』と。そういわれて思いあたる人もなくしょうがないと…」
検事 「サリンのまき方の話はしたか」
泰男 「井上は当時『永岡さんはVXで殺害した』と言っていた。そのとき注射器を使っており、はじめはサリン200tといわれていたので、浣腸器はないかと郁夫さんに聞きにいった」
村井秀夫元幹部の部屋でも井上は
検事 「井上は」
泰男 「路線図を見ていると、井上が『ダメダメ、そんなのじゃ』と言いながら、ショルダーバックから地図を出した」
検事 「車の話は」
泰男 「私か井上が切り出した。村井は最初、『なんで必要なんだ。電車で行け』と言ったが、井上が『電車だと犯行後にストップして逃げ帰れない』というと、村井は『そうか』と納得した。
その後、林、井上両被告はファミリーレストランに行くが、その道すがらの会話は、その後の井上証言と食い違う
検事 「サリンの話はしたか」
泰男 「したと思う。私と実行役と運転役の3人で『東京に行くように』と言われた」
検事 「それから」
泰男 「19日午前8時から9時ごろに上九一色村を出た」
検事 「杉並の家を知っていたのか」
泰男 「知らない。しかし井上が『平田に案内してもらうように』と言っていたので」
この問題に関して井上は「『杉並の家を使ってもいいよ。そのときは連絡して』と言った。その後、林たちが来ていたので驚いた」と証言している。
一行は杉並の今川アジトに到着。井上を待つが現れない。
検事 「話し合いはしたか」
泰男 「まく方法や行く手段について」
検事 「進行役は」
泰男 「特にいないが、ふだんの次官会議などのいきさつ上、自分が中心になったかも。最終的にペア決めも自分がやった」
検事 「決めたのか」
泰男 「下見に行く指示もあったから」
検事 「基準は」
泰男 「もともと平田と仲がよかったので。否定的な2人が一緒にいたいと思い、他のペアはだれでもいいと思って指定した」
検事 「下見に行ったのか」
泰男 「ほかの人は行ったが、ボクは行かなかった」
検事 「なぜ」
泰男 「計画が具体的になるのが嫌だったから。途中で中止になる可能性もあると思って必要ないと」
検事 「現実味を持ったのはいつか」
泰男 「渋谷に移って、井上から指示を受け、サリンの量と5人の運転役が決まったとき『逃げられない』と思った」
否定的だったという林被告は、新宿で買い物をした後、下見に出ない。
検事 「何をしていた」
泰男 「豊田には車に戻って休むように言い、平田とデパートや本屋を1、2時間ブラブラし、ソフトクリームを食べた」
再び井上被告との相違。指揮権を振るっていたことを証言する
検事 「新宿から今川に戻ってどうなった」
泰男 「井上がドヤドヤと入ってきて、『自分の担当だけ覚えろ』と、運転役が替わったことを手短に指示した」
アジト渋谷に移し、いよいよ実行を待つ。井上の指示は続く。
検事 「サリンについては」
泰男 「『1人1gになった』と」
検事 「他には」
泰男 「井上が金を配ったり、電話番号を教えたり」
検事 「金を配ったいきさつは」
泰男 「井上から『トラブルがあったら必要になるかもしれない』と、何人かに配った。
私は必要ないと思っていたら『イシディンナ師(林被告)もいる?」と聞かれたが断った。1人5万円ずつだった」
この問題については、井上被告は一貫して「渡してない」と主張。これまで、林郁夫被告だけが「井上からもらった」と証言していたが、これで2人目。
また、犯行後に勝手にカサを処分すると「キツク井上から叱られた」とも証言した。
一方、メンバーは「井上か村井が持ってくる」というサリンを待つが、ついに上九一色村に戻る指令が下る。そして第7サティアン、問題のサリン袋の話
検事 「サリン袋は」
泰男 「村井から見せられ、『全部で11ある。1人だけ3袋になる』といわれた」
検事 「どうした」
泰男 「沈黙が続き、村井が近づいてきて『イシディンナ、やってくれるか』というので承諾した」
検事 「どう思った」
泰男 「ストレートに『持て』という指示と思った。これは村井の命令。抵抗はあったが、『自分が断ったら他の人が持つことになるから仕方ない』と押し止めた」
検事 「それを聞いて村井は」
泰男 「村井は『3袋持つのはイシティンナだと尊師が言っていた』と」
検事 「どう思った」
泰男 「自分が持つことが決められていたのに、『だれか』とまわりくどいやり方をして、瞬間に憤りがおきた」
検事 「1つ内袋が破損したサリンを取ったのは」
泰男 「半分は受動的。10年教団にいて、供物はより好みしてはいけないという教えがあった。自分が触ってしまったものだし」
そして、ついに実行。3袋のサリンを抱えた泰男被告は落ち着かない
検事 「上野についてどうした」
泰男 「駅で待とうとしたが、じっとしていられず隣の御徒町駅に行った」
検事 「そこでは」
泰男 「地上に出て、時間があるので散歩した」
検事 「その後は」
泰男 「7時45分ころ、駅に。乗るホームや反対のホームを行ったり来たりした」
検事 「実行に際して何を考えた」
泰男 「以前からだったが、サリンが効力がない失敗作であってほしいと念じた」
淡々と、やや小さいとも思える声で証言を続けた林泰男被告。最後は思いのたけを訴えた。
検事 「なぜ、事件を話す気になったのか」
泰男 「このようなことをして、多くの人を傷つけて、ボクの場合は特に8人死亡と多く、それに対する自分の反省。それから、自分の当然の報いとして、自分の死を身近に感じています。ボクは今でも因果応報を信じ、死んだ後はエンマ様によって裁かれると思っている、もちろん、今も裁かれているが、そのとき、ウソも偽りも、沈黙も通用しない。そこでウソをつくなら、自分のなした罪は増大される。ここは新実さんの法廷だが、だれの法廷でも、ボクに起きることは同等の裁きです。検事、弁護士、裁判官の質問も、そのままストレートにエンマ様に質問されていると思っている。ここで言わなければ、罪は増大する。反省して言うなら、その罪は軽減してもらえるかもしれないと思っている。エンマ様の裁きは心の鏡。私がいることは、心の表れでもある。すべて私の心の中にある。検事や弁護士、裁判官の質問は自問自答と思っています。偽りがあれば、自分の本質から外れ闇に落ちる。なるべく正確に、包み隠さず証言したいと思って。かばう心が自分に存在するのは分かっているが、なるべくなくして、それが今まで育んでくれた人たち、被害者の方への最良の方法と思っています」
検事 「終わります」