おなじみ芳賀さんの
不定期通信 オウム法廷番外編
98年1月16日 弟62回 麻原彰晃被告公判
検察側が地下鉄、松本両サリン事件の被害者を大幅に撤回。この訴因変更に伴う意見陳述が行われた。昨年4月、水野さんVX事件をのぞく16事件について「否認」の陳述をした麻原被告が、約9カ月ぶりに公式に発言する機会が訪れた。しかし、その内容は予想通りというより、予想よりはるかに陳腐で無意味なものとなった。
麻原被告は新たな訴状が朗読される間も、読み上げる検察官の方を向き、「ミスター・フミオ・アベは…無罪を…。地下鉄サリンがなぜ少ないんですか」と不規則発言を連発。阿部裁判長から再三にわたって「静かにしなさい」と注意を受けるが、「私が関与しているというなら、私と実行犯の話し合いは、サリンを製造した人との話はどうですか。なんで話がゼロなんですか?」…
ようやく裁判長から発言を許されると、開口一番
「私は完全な無罪です。無実といってもいい」。予想していたとはいえ、あまりにもナメきった答え。続けて「管財人が、イギリスでチェックしている。私の心境は刑事14部と検察側に心を転化(伝播?)した。心の状態はドンピシャ一致している。あと数時間だから、のんびりさせてもらうと、ありがたいですね。後は不可能ですよ」理解不能の陳述に終始した。
当然、接見ができない弁護側も当惑。主任弁護人が立ち上がり「聞こえないんだ。もう一度お願いする」と再度の発言を要求した。
しかし、麻原被告の口から出るのは「エー、ジャッジメント、フミオ・アベアロー…」といつもの英語。裁判長から「日本語で」と促され、「つまり、 1996年11月15日、阿部文雄、ブンユウという人もいるが、私に対して全面無罪を宣告していらっしゃる。この拘留は異常事態です」と、相変わらず裁判長の名前を間違え、釈放されている主張した。
傍聴席からは失笑が漏れ、弁護側は頭を抱える。検察側は固い表情を崩さず、裁判官は困った顔で麻原被告を見つめる。結局、麻原被告の言葉は、一切の意味をなさず、勝手な解釈を述べ、異常ぶりを強引にアピールするだけの”麻原ショー”に終わった。
一方、弁護側は訴因変更に異を唱えなかったが、渡辺脩弁護団長は「そもそも、証拠がずさんと言ってきた。検察には一言ぐらい『こんなことをさせた悪かった』と言ってもらいたいぐらいだ。反省を求める」と強い口調で意見を述べた。
一方、陳述の後は坂本弁護士一家殺害事件の審理に戻り、早川紀代秀被告に対する弁護側の反対尋問が行われた。
この日の傍聴席には、麻原被告の意見陳述を期待したのか、信者が20人以上も座っていたため、早川被告は入廷するなり、うすら笑いを浮かべて2、3回軽く会釈するなど、余裕の表情。副主任による尋問も重複の連続となり、早川被告「もう答えてますから」とあしらう場面も見られた。
代わって、切れのある尋問で井上被告を追い詰めた主任弁護人が登場したが、さしたるポイントを引き出せなかった。
本当に最後となった尋問では、別の弁護人が「これで最後だが、また麻原被告と会うと思うか。国松警察庁長官銃撃事件に関与していれがばくると思うが」と、強引に持ちかけた。しかし、早川被告は「一切(関与は)ない」と一蹴。
さらに弁護人が「今でも信仰があるのでは」とたずねると、「おっしゃる通り、教団にいたころとは違うが、信じている部分はある。インチキ、詐欺師とは思ってないし、霊性は高いと思ってる」と述べた。弁護人は「あなたは言い逃れしているように見える」「実行行為の話で笑っているが、どういう心境なのか」とたたみかけるが、「私なりに言い分はあるし、好きにとらえてもらっていい。笑ってるのも、勘ぐり過ぎの尋問に苦笑しただけ」と、切り返した。
坂本弁護士一家殺害事件で、事件を話すことができる早川、岡崎一明両被告に対する尋問は、一応この日までで終了した。果たして、事件の真相は究明できたのか。検察側は十分に真相を引き出せたのか。
黙して語らない被告はいるが、意味のないことしか語らない麻原被告が言葉を発しない限り、麻原ー早川、麻原ー岡崎の間で交わされた会話の内容は、その真意を推し量る術はない。残る事件でも、空しく苦労の多い審理が続く。
(了)