中村裕二弁護士の
質 問 状
199/10/15
平成七年(フ)第三六九四号、同第三七一四号
申立人 高橋シズエ 外
破産者 オウム真理教
破産管財人 弁護士 阿部三郎
右申立人ら代理人
弁護士 宇 都 宮 健 児
同 武 井 共 夫
同 飯 田 正 剛
同 瀧 澤 秀 俊
同 伊 藤 芳 朗
同 大 川 康 平
同 横 松 昌 典
担当同 中 村 裕 二
東京地方裁判所民事第二〇部 御中
第一、国の債権取り下げについて。
一、本件破産手続に関する国などの破産債権届出に関し、平成九年三月二〇日付け読売新聞の朝刊で次のような記事が掲載された。
「破産手続に関係したある省庁の関係者は『もともと破産請求は教団封じと被害者救済の二つを目的に行ったもの。国が自ら申立人に加わったのは、債権回収により被害者たちの側面支援の狙いが大きかった。優先債権の放棄は難しいだろうがその他の債権は公的機関も被害者も対等なので検討すべきと思う。』と語る。また、別の省庁の担当者も『被害者の気の毒な立場は分かっている。政治判断などがあれば、他の省庁の対応に合わせることになるだろう』と話している。」
これは、法務省及び労働省の当時の各担当者の話である。
本件破産手続は、地下鉄サリン事件、松本サリン事件、坂本弁護士事件及び假谷事件の各被害者らが平成七年一二月一一日に申立を行い、その翌日国が追随して申立を行ったという経過があるが、それは前述のとおり、国の教団封じ、すなわち国がオウム真理教の資産隠しを封じ込み、犯罪の再発を防止するとともに、破産手続の配当金を被害者が受給して、被害回復にこれを充当するという、それぞれの目的があったためである。そして、当時の国の担当者らもこのことを十分承知していたものである。
そもそも、本件破産宣告が下された直後の平成八年三月二九日付け朝日新聞朝刊の社説は、「国も教団に損害賠償請求を求めているが、事件の被害者へ支払われる賠償額を、少しでも多くするため、こうした債権は放棄すべきだろう。」「オウム教団による傷跡を癒し、速やかに修復するのは、私たち社会全体の課題だ。オウム教団の破産手続はなによりも、悲惨な被害者の救済のために進められなければなら
ない。」と論じていた。
これが本件破産手続の初心であったところ、破産管財人におかれては、これまでの経過を内閣などの各行政担当者に十分説明した上で、その債権届出の取り下げを求めるなど交渉に当たっているかどうか、質問する。
二、地下鉄サリン事件及び松本サリン事件の被害者らは、平成九年六月二六日、衆議院第二議員会館内会議室で、「松本・地下鉄サリン事件被害者救済の集い」を開催したところ、国会議員三〇名(うち代理人一八名)並びに警察庁、法務省、外務省、文部省、労働省、厚生省、自治省の各担当者とマスコミ関係者など合計一二〇名が参加した。
その会議で、国会議員らは次のとおり発言した。
秋葉忠利議員(社民党)
「オウム真理教問題を考える国会議員の会」の人数を増やして、もう少し国会の方でも充実したい。住専処理に莫大な金を出しておいて、弱者救済に出さないのはおかしい。弱者を踏みにじる政治体制が明らかとなった。犯罪被害者・災害被害者に対する救済について取り組んでいきたい
木島日出夫議員(共産党)
現行法の壁があり一省庁の判断ではできないかもしれない。特別立法が必要ではないか。となればまさに国会の責任。ぜひやり遂げなければならない問題であり、他党と力を合わせていきたい。
枝野幸男議員(民主党)
法的に役所が動きにくい状況になっているので、国会の責任であると思う。行政は被害者救済の邪魔をしないで欲しい。破産法の原則はわかるが、何事にも原則と例外がある。本件で例外をどう適用していくのか。柔軟な知恵で法の壁を乗り越えて行く方向で努力していきたい。
漆原良夫議員(新進党)
地下鉄サリン事件当時弁護士をしていた。根本的に解決したい。立法で乗り越えて行く必要がある。国が配当をもっていくのはどうしても納得できない。
穀田恵二議員(共産党)
政治的決断と世論が大切。
生方幸夫議員(民主党)
議員立法が必要。被害者だけが泣きを見るということだけないようにしていかなければならない。
中川智子議員(社民党)
サリン事件当時、兵庫県で暮らしていた。急に震災の報道がなくなり、オウム報道だけになった。震災については公的支援の法律を作るようにがんばっている。今日、サリンの被害者も国から放っておかれているのだと言うことを知った。被害者の法的救済が急務である。
橋本敦議員(共産党)
皆さんの要求は全面的に支持している。国が力を入れて断固とした捜査をしていれば。警察は「失踪」事件として踏み込んだ捜査をしていない。松本サリンが起きたとき裁判官を狙ったものと思った。それでも警察は動かなかった。それなのに債権だけを要求することは許されない。これまで前例のない事件に対し、これまでの法律だけで解決していいのか。
大森礼子議員(平成会、新進党)
弁護士出身、坂本弁護士と同期。法の枠だけの問題ではない。住専の時には超法規的措置をとったではないか。この件でも同様に。
石井紘基議員(民主党)
今日明らかになった問題点を認識し、持ち帰って真剣に各部署において方向を定めていただきたい。今後国会でも執拗に追っていきたい。休会中なのにこれだけ議員が集まったことは異例。これから国会でも取り組んでいきたい。オウム事件は新しい型の犯罪、これまでの法律で解決できない問題なのだ。死滅していた破防法が出てきたり、総理府がどうしていいのかわからない、この席に出てもこれないような状況。新しい組織犯罪について取り組んでいかなければならない。新たな立法も必要になってくる。検討したい。今日採択された要請文を橋本総理に届けたい。これを契機に世論を盛り上げていき、しかるべき到達点を得るよう固く決意した。
なお、これら国会議員の発言を受けて、会議に出席していた 行政担当者らの多くは、「役所に持ち帰り、検討する。」旨回 答していた。
本件破産手続において、被害者救済のため国が届出債権を取り下げることは世論も一致して支持するところと思われるが、破産管財人におかれては、これら国会議員の発言をふまえた上で、他の国会議員や政党など立法関係者と、国の債権取り下げ問題について、理解を得る何らかの活動を行っているかどうか、質問する。
第二、オウム教団の営利活動について。
オウム教団の信者たちが「オウム真理教」の名称を無断で使用し、現在も盛んな営利活動を行っていることに関連して次の とおり質問する。
一、公安調査庁は、平成九年八月二六日、「オウム真理教の組織実体の概要要旨」を公表した。
右要旨によると、「教団は、上記決定(破防法による解散指定処分請求棄却決定)以降、中央機構の再生・強化とともに、閉鎖を余儀なくされた地方組織の再建に向け活動を活発化させ、現在までに、仙台、水戸、松本、金沢、高崎の五支部を相次いで再建したほか、本年五月には、東京都内に一〇〇人以上の信徒が一堂に会することができる東京本部道場を新設した。この結果、地方組織は一五支部一道場と認められ、このうち、名古屋、福岡、大阪の三支部については、より規模の大きな施設に移設するなどして拡充・強化を図り、これらの施設において、説法会・セミナー等を頻繁に開催するなど活発な活動を展開している。現在、これら拠点施設は、上記一六支部道場の施設を含め全国に二六か所と認められる。さらに、教団は、福島・小名浜アジト、埼玉・越谷アジトなどの拠点施設の確保に際しては、暴力団系ブローカーを介し、根抵当権が設定された不良物件に多額の資金を投入している。このほか、本年五月下旬には、元暴力団組長・幹部信徒が所有していた長野・木曽福島町の元旅館(敷地面積約一三七〇平方メートル、総床面積三六〇平方メートル)を一〇〇〇万円で買い取ったが、その後、同組長が岐阜・古川町の元旅館(敷地面積約一八〇〇平方メートル、総床面積約八〇〇平方メートル)を相場の倍値に当たる三〇〇〇万円で即金購入するなど施設確保」をしている。
また、信者の「居住用施設として全国に約一一〇か所が把握されている。」 さらに、教団は、一二の会社と五つの店舗を活用して営業活動を行っている。このうち、三社三店舗については、パソコン販売等を営業目的とし、台湾から輸入した廉価なパソコン部品を組み立てるなどして事業収益を得ている。 このほかにも、教団は、PSI(電極付きヘッドギア、一〇〇万円)、電磁波防護服・防護帽、魔除け効果があると称したカセットテープ(一〇万円)などを販売して収益をあげている。
以上のように、教団は、「オウム真理教」の名称をそのまま使用し、ときには名称をインターネット上にも公然と表示して、これら営利活動を行っている。
二、教団の信者たちは、オウム真理教の名称などを無断使用し、従前からの施設の一部も利用して、実体としての同一性を維持したまま、これらの収益活動を行っているものである。その財産の中には、教団が隠匿した資産も含まれている可能性もある。
例えば、平成七年三月二二日に開始された教団への強制捜査に際し、捜査官が教団の施設内で七億円相当の現金・金塊等を確認したにもかかわらずこれを押収しなかったとの情報があるが、これらの資金が流用されて、現在の教団の営利活動の元手とされ、或いは右不動産購入代金として使用されているのではないか、大きな疑問が残る。
このような疑問が残るような状況の中で、配当率を示されたとしても、教団の犯罪行為による被害者である債権者としては全く納得することはできない。破産管財人におかれては、公安調査庁の右調査要旨をふまえた上で、右教団の資産や営利活動などについて今後厳密な調査を実施する予定があるかどうか、また、教団による「オウム真理教」の名称などの無断使用についてこのまま放置されるのかどうか、質問する。
第三、以上の各点につきご回答願いたい。
以上