法律の窓(その1)
交通事故−保険から修理代が出ない?!
担当 瀧澤秀俊
<ケース1>
あなたが道路脇の駐車場に愛車カローラ(平成元年登録)を止めておいたところ、スピードを出しすぎハンドル操作を誤った乗用車が突っ込んできて、あなたの車に衝突しました。あなたの車は後部のバンパーやトランクが壊れてしまいました。修理工場に持っていったところ、40万円くらいの費用で直せるとのこと。加害者は十分対物保険に入っています。
さて、このとき、その40万円の修理費を保険は支払ってくれるでしょうか?
答えはNOです。
カローラの平成元年型は、現在の中古市場相場においては、おそらく20万円前後の評価額と思われます。そもそも損害賠償というのは、事故の直前にそのものが持っていた客観的評価額を基礎として、そこから事故によって減った価値を補うというものです。したがって、上記ケースでも、20万円を越える損害賠償請求権は発生しないのです。簡単にいうと、同程度のものを買い換えるよりも修理する方が高くつく場合には、修理は認めず廃車にして買い換えなさい、ということなのです。物理的には修理可能であっても、経済的には修理不能とされ、「全損」扱いとされるのです。これは判例において一般的にとられる考え方で、保険会社もそれに従っています。
ということで、あなたが、もしどうしてもこの車に愛着があり、修理して乗りたいというのであれば、修理費差額を自己負担しなければなりません。また、やむなく同程度の車を買い換えることにしたとしても、車を探すための労力や時間や費用は、原則的にあなたの負担となります。さらに、損害賠償は金銭での賠償が原則ですので、同じ程度の車を用意してほしいと求めても認められないのです。
自分には何にも落ち度がないのに、なぜ被害者がそこまで負担しなければならないのか、あまりにも被害者の気持ちを無視しているのではないか、というご不満はよくわかります。現実に、加害者(保険会社)と訴訟や交渉において争うケースもあります。 しかし、「損害の公平な分担」という理念に則って賠償理論を構築している現在の法運用実務においては、被害感情が100%満足しえないケースが少なからず出てきます。上記ケースもその1例といえるでしょう。
<ケース2>
上記は古い車のケースでした。逆に新しい車の場合にも問題がよく起きます。
あなたが、クラウンの新車を車両本体価格500万円で買ったとします。納車まで1ヶ月待たされました。今日か明日かと首を長くのばして待ちに待った新車がやっとあなたの手元に届きました。ところが、何とその納車の翌日、上記ケースと同様にぶつけられて愛車は破損してしまいました。まだシートのビニールもはずしていません。修理工場に見せると、修理費200万円かかるということで、かなり大きな損傷です。あなたとしては、このような事故車には今後乗りたくはありません。500万円をもらって、もう一度新しいものを買いたいと考えています。
さて、500万円は支払われるでしょうか?
答えはNOです。
上記ケース1とは異なり、車両の客観的価値が修理費の200万円を越えていることは明らかですから、「経済的修理不能」とは言えません。あくまで修理することが前提となります。
ただし、この場合には「事故車」になることによって事故のない同型車よりの評価が下がることは避けられませんので、いわゆる「格落ち」(「評価損」)として、一般的には修理費の1〜3割程度(年式や程度による)の賠償金が加算されます。
<ケース3>
さらに、ケース2で、あなたの車の破損がもっとひどく、修理不能(全損)とされた場合に500万円は支払われるでしょうか?
これも答えはNOです。
新車といえども、一度登録してしまうと、その時点で即中古車になります。これは登録の10分後であろうと、また走行距離がどんなに少なかろうとも変わりません。この「登録落ち」によってその車の評価額はいきなりガクンと下がりますので、事故の時点での評価の基礎は500万円ではあり得ないのです。
以上、<ケース2><ケース3>も、「損害の公平な分担」という理念からくる法運用実務において、被害感情が100%満足しえないケースといえるでしょう。