未だ活動を続けるオウムの資産を取り上げて被害救済に回すことはできないのか?
質問
はじめまして私は恥ずかしながら、破産宣告と免責について無知なものですから、おたずね致します。一般個人の場合、破産宣告を受けても、免責にならないと債務から逃れることはできないとは存じております。では、団体はどうなのでしょうか?オウム教団は破産しましたが、彼らはまだ団体として活動を続けております。しかも信者のある集団は、パソコンショップを経営して、年間40億円もの売り上げを得ているという報道もあります。つまり教団としては収入を得ているわけです。すでに免責されているのならダメでしょうが、もし破産宣告だけであれば、今後の彼らが集めるであろう莫大な教団の資産の中から、被害者に全額賠償させるということは出来ないのでしょうか?このままでは教団は、2割程度の債務を支払っただけで、大きな資金を形成することになるのでしょうか?たとえ免責になっていたとしても、教団の活動状況を鑑みて、取り消しの申し立てなど出来ないのでしょうか?この点について、メディアからの報道は何もされておらず、不満に感じておりました。どうかご教授ください。 金田真一
回答
現在進められているのは、宗教法人たるオウム真理教の破産手続です。
法人の破産の場合、一般的には最終配当が行われ、裁判所の「破産終結決定」が下されますと、裁判所が法人登記簿に「破産終結」という登記をします。これにより「法人」は最終的に消滅し、この世の中から消えてなくなったことになります。権利義務の帰属主体である「法人」そのものが消えてしまうのですから、その債務も存在しないことになります。他方、「自然人」の場合には破産が終わっても死亡してしまうわけではありません。その存在は残りますから、「免責」によって残債務を消してやるのです。
通常の会社の破産の場合には、「破産終結」登記によっておしまい、でいいのですが、問題はオウム真理教のように「教団」の実体が残って活動を続けている場合です。
「宗教法人」でなくなったとしても、一定の教義があり、信者がいて、宗教活動をする「教団」は現に存在しています。それが自由に経済活動して財産を築いているのに、オウムによる犯罪の被害者にはわずか2割配当しかないというはどう考えてもおかしいと私も思います。
しかしこれには2つの点で限界があります。
一つは、破産法が「固定主義」を採用しているということです。
つまり「破産宣告」の時点で破産者がもっている全財産を取り上げ、それを配当の原資とし、破産者が「破産宣告」後に新たに取得した財産は破産財団に取り込まない(破産者が自由に使える)という建前を「固定主義」といいます。これに対し、「破産宣告」後に取得した財産も財団に組み込んでいく建前を「膨張主義」といいます。両者にはそれぞれ長短がありますが、我が国の破産法は、とにかく「固定主義」を採用しているのです。従って、オウム真理教についても宣告後の財産にかかっていくことはできません。
二つ目は、現在の「教団」の活動を、破産宣告を受けた「宗教法人オウム真理教」の活動と同視してよいかどうかという問題です。「宗教法人オウム真理教」の財産は破産管財人の管理下にあるべきなので、もし元々「宗教法人オウム真理教」に帰属していた資産を元手にして現在の経済活動が行われているのであれば、それは破産管財人が財団の管理の問題として関与していく余地もあるでしょう。しかし、実際にはそのような「教団」資産はありません。また、教団のスタッフや信者が個人として宗教活動をすること自体は(破防法でも適用されない限り)制限できません。
以上のような理由から、破産手続の中では新たな「教団」の活動に干渉していくことはできないのです。
さらに「教団」としての実体があるのですから、「権利能力なき社団」として(宗教法人オウム真理教の破産とは別に)、それに対する破産申立を別途行ったらどうか、などとも考えましたが、そうすると今度は「権利能力なき社団」たる教団に対する「債権」を構成することが困難です。
結局、被害者側の感情としては非常に残念ですが、現在の法制度上いかんともしがたい、というのが結論なのです。「オウム潰し」それ自体を目的とする新たな法律でもできれば別でしょうが、信教の自由などとの兼ね合いでそこまでの動きは出てきていません。