インターネットの法律トラブル
驚くべき速度で発展するテクノロジーは、ほんの2〜3年前まで誰も予想しなかったような社会現象を次々と巻き起こしています。たとえば、これまで税関で厳しくチェックされていた海外のポルノグラフィーも、今や茶の間のパソコンで簡単に見られるようになっています。
しかし、いかに高度なテクノロジーといえども、それを操作し利用するのはこの現実社会に生きる生身の人間です。「バーチャル」という言葉が一人歩きしていますが、現実ら切り離された「仮想の世界」すなわち無法地帯がそこに出現したと考えるのは誤りです。あくまで「法律」や「倫理」や「常識(モラル)」によって規律される社会の一部分であることを、改めて認識しなければならないと思います。
以下では、様々なQ&Aを通じて、インターネットの世界に法律がどのように関わってくるのかを考えてみましょう。
<ワイセツ>
Q1 私は、時々自宅のパソコンで外国のサイトから無修正のアダルト画像を取り込み見ています。これは違法なことですか?
またそのような画像を自分のホームページに貼り付けた場合はどうですか? 外国のサーバーにホームページをおいてワイセツ画像を掲載しても違法ですか。
A1 「ワイセツ画像」を自宅などで個人的に楽しむことまったく問題はありません。我が国の刑法ではそのような行為は犯罪とはしていませんので、仮に警察が知っても何もとがめられることもありません。
しかし、ワイセツ画像は、公開して他人に見せたりしてはいけないことになっています(刑法第175条のワイセツ物陳列罪)。
従って、インターネットでダウンロードした無修正画像を自分のホームページに掲載し、第三者がで見られるようにすることは、犯罪になります。これは、アクセスが有料か無料か、また、会員制か否かで変わりません。
他方、外国のサーバに置いたときは多少ややこしくなります。国外におけるワイセツ物陳列行為については日本の刑法は処罰対象としていないからです。しかし、サーバが海外にあるといっても、そのデータの管理は全て日本国内に居ながらにしてできてしまうのですから、サーバは第三者への情報伝達の途中経過に過ぎないともいえます。したがって、実質的に「国内犯」と解釈される余地は十分あります。有罪の可能性は否定できません。
Q2 自分のホームページに、外国のアダルトホームページをリンクさせました。クリックするだけで無修正の画像が飛び込んできます。これは犯罪になりますか?
A2 結論として、無罪と考えます。 96年9月、同様のケースで、広島のプロバイダーと会員が警察から家宅捜索を受け、書類送検されるという事件がありました。警察はこのようなケースを違法と考えているようですが、未だ裁判所で判決が下されたケースはありません。つまり法律解釈としては結論が出ていないということです。
私見としては、次の理由から刑法の解釈としてはこれを有罪とするのは無理があると思います。
@刑法上「ワイセツ物」とは、「文書、図画、その他の物」とされ、「有体物」を言うというと解釈されています。リンクされたワイセツ画像はあくまで形のないコンピュータのデータに過ぎず、刑法が本来予定していない無形物なのです。(ただし、そのデータの入ったHDDを有形物とする解釈がとられる可能性はあります。)
A リンク自体は、HTMLの中で、Webの所在(URL)を指示したものに過ぎず、その記載自体にはなんらのワイセツ性もありません。またこの場合自分のホームページ上にワイセツ画像を掲載したものでもありません。ディスプレーにワイセツ画像が映るのは、見ている人が直接海外のサイトへアクセスしてワイセツ画像を要求し、その海外サイトからデータが転送されてくるからなのです。そこには、利用者の主体的な行為が介在しているのです。もしこのようなリンク行為が犯罪になるならば、巷にあふれるインターネット雑誌はもとよりYahooなどのサーチエンジンは軒並み犯罪者ということになってしまいます。法解釈として無理があることは明らかです。
B 問題の海外サイトの管理者が行っているワイセツ物陳列行為を日本において助けた(幇助した)共犯として犯罪になるのではないかという問題もあります。しかし、刑法175条は、国外犯は処罰できませんので、その管理者の行為は日本の刑法上は適法行為になります。「主犯」が適法である以上、リンク行為だけを独立に共犯とすることはできません。
ちなみに、前記の広島の事件では、結局検察が不起訴処分としました。検察官も法解釈上無理があることを認めざるを得なかったものと思います。
Q3 いわゆる「モザイク外しソフト」を使って、インターネットでアクセスした画像を処理することは許されないのですか。ソフトの作者が検挙されたそうですが、このようなソフトは作ってはいけないと言うことですか。
A3 かの有名なFLMASKの作者が、今年の4月、ワイセツ物陳列罪の幇助(共犯)の容疑で逮捕され、5月1日に起訴されました。この記事が出版される頃には裁判所の結論も出ているかもしれません。ちょっと大げさに言うと、日本のインターネットの未来に重大な影響を与えかねない重大な裁判です。
注意しなければならないのは、この検挙・起訴がソフト自体を違法としているのではないということです。検察の主張によれば、その作者が自分のホームページにおいて、「ワイセツ画像」を掲載した他のサイトに「リンク」した行為をもってワイセツ物陳列罪の幇助としているのです。ところがマスコミは「モザイク外しソフト検挙」となどと一斉に報じ、あたかもソフト自体が違法であるかのような印象を与えていますが、明らかに間違いです。ソフト自体は無色透明であり、何の罪もありません。問題はそれを使う人間の問題なのです。FLMASKも単なる画像処理ソフトの一つにすぎませんので、それを使ってモザイク外しに使おうとも、全くとがめられることはありません。
さて、上記事件では、ソフト作者を逮捕拘留し、ついに起訴までした警察・検察の姿勢は、インターネットワイセツ画像摘発に向けた並々ならぬ強い決意をうかがわせます。
インターネットの普及によってポルノ流入の水際対策に効果がなくなり、事実上解禁状態となりつつあることに警察当局は相当危機感があるのでしょう。威嚇的効果・「見せしめ」効果を狙ったとしか思えないかなり強引な検挙を次々おこなっています。しかし、刑法は安易に拡張解釈してはならないというのが大原則。警察の姿勢は、私には時代の大きな流れに逆行するもののように見えてしまいますが、皆さんはいかがでしょうか。
私見としては、この作者については無罪と考えています。ソフト自体ワイセツではありませんし、リンク先のワイセツ画像と常に一体不可分とは言えません。もし「リンク」がワイセツ画像の表示に役立っているというのであれば、インターネットエクスプローラやネットスケープも同罪です。LHAで圧縮して送ったならば、その作者までもワイセツ幇助で逮捕するのでしょうか。そこまで言うと、様々なソフトウエア技術、ひいては「インターネット」そのものを否定しなければならなくなってしまいます。
今後の判例に注目しましょう。
<著作権>
Q4 自分で撮影した風景写真をホームページに掲載したところ、他のホームページで勝手に使われていることがわかりました。この写真については著作権登録などの手続きは何もしていませんし、マルCマークや著作権は自分にあると明記もしませんでした。どうしようもないのでしょうか。
A4 使用差止め請求や、損害賠償請求ができます。
我が国の著作権法では、著作権は写真・文章などの著作物を創作した瞬間に発生し、登録などの特別の手続きを必要としません。これを無方式主義といい、特許などと異なるところです。したがって、著作権があることを明記しなくても、またマルCマークを書いておかなくても、権利は保護されています。しかし、それは日本国内においてのみいえることであって、外国には通用しません。海外のサイトが自分の写真を流用していることを見つけても何も言えないことになってしまいます。国境のないインターネットの世界においてはこれは重要なことです。そこでこのような問題を解決するため、万国著作権条約が制定され、日本を含め約100カ国が加入しています。これによると、無方式主義の国の著作物でも、マルCマークを表示しておけば方式主義を採る国においても保護されることになっています。
ということで、自分の著作物を外国に対しても権利確保しようと思うならば、マルCマークの表示をお勧めします。(単にマークだけではなく、著作権者名と初めの発行の年を併記しなければなりません。)
Q5 新聞に興味のある記事が載っていました。それをコピーして自分のホームページに掲載しましたが、違法でしょうか。また、記事をそのままスキャナーで読み込んで掲載したらどうでしょうか。
A5 「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、著作物に該当しない」(著作権法第10条2項)と規定されています。したがって、事件事故の報道など客観的事実を伝えるだけの記事であれば、新聞社の承諾なくして掲載することができます。
しかし、単なる事実の伝達にとどまらず、記者の説明・解説・感想などが含まれていると、それは「著作物」ということになりますから、その場合には新聞社の承諾をとらなければ転載はできません。ただし、正当な目的で「引用」する場合は承諾不要です。
次に、スキャナーで記事を画像として取り込む行為ですが、次のように分けて考えられます。
たとえば、「海をきれいにしよう」をテーマにホームページを開設している人が、海洋の美化を取り上げた新聞の社説に共感して、スキャナーで取り込む場合には、著作物たる記事の内容そのものの掲載を目的としているので、新聞社の承諾が必要です。他方、海岸美化キャンペーンが実施されたことをホームページで報告する中で、そのイベントが新聞にも載ったという事実を伝えるためにその記事を取り込んだ場合には、その記事を著作物として使用したわけではないので新聞社の承諾は必要ありません。
<ショッピング>
Q6 [売り手側]
会社でダイエット効果のある健康食品を開発しました。ホームページで広く宣伝し販売したいと思います。どのようなことに注意したらいいでしょうか。
A6 インターネットショッピングは、「ヴァーチャルショップ」などともいわれ、何か新しく特別なもののように誤解される向きもありますが、実は「テレビショッピング」や「カタログショッピング」と全く同じ「通信販売」の一形態にすぎないことをまず認識しなければなりません。
「通信販売」については、その広告内容について細かな表示義務があります(訪問販売法第8条以下)。また申込みを受けたときの承諾不承諾の通知義務もあります。さらに「誇大広告」についてはきわめて厳しく禁止されており、違反した場合には罰金や業務停止等の処罰があります。
また、医薬品などのように本来的に許認可が必要な商品については、インターネットショッピングであろうと当然許認可が必要です。「ダイエット効果のある健康食品」という場合、いろいろな意味で規制の対象となる可能性がありますので、十分注意してください。
Q7 [買い手側ー1]
インターネット上のショッピングモールで広告されていた洋服が気に入ったので注文しました。申込み入力の際、色の指定で(1.赤)(2.青)とあったので赤にしようと思いつつ、うっかり2にチェックしてしまいました。最後に申込み内容を確認してきましたが、赤が2と思いこんでいたので、そのまま「OK」してしまい、品物が来てから間違いに気づきました。何とか取り消しはできませんか。
また「クーリングオフ」はできないのでしょうか。
A7 残念ながら、取り消しもクーリングオフもできません。
そもそもこのような注文間違いは、民法第95条で意志表示の「錯誤」といい、原則として注文の意志表示自体が無効となります(つまり注文取り消し可)。 ところが、民法第95条の但書は、意思表示者に「重過失」があるときは、錯誤無効の主張を認めないとしています。 本件では、一度誤ったデータを入力し、最後に入力内容を再確認する画面が表示されたにもかかわらず、またもや誤データを送信してしまったわけで、2度も誤った操作を行っていることになります。その点から、あなたに「重過失」があると言われても仕方ありません。錯誤無効の主張は難しいでしょう。
次に「クーリングオフ」ですが、「通信販売」にはクーリングオフは認められていません。そもそもクーリングオフとは、押し売りやキャッチセールスのような予期しない押しつけ販売において、冷静な判断ができないまま契約をしてしまった買い手に、一定の冷却期間内での自由解約を認めようという制度です。
ところが「通信販売」は、通常買い手が自由な意思により広告にアクセスし、かつ冷静に申し込みすることができるのですから、特別に保護する必要はないとされているのです。
Q8 [買い手側ー2]
あるホームページから商品を買いました。代金を振り込みましたが、商品を送ってこないばかりか、問い合わせようとしたところ、すでにホームページが閉じられていました。どうすればよいのでしょうか。
A8 残念ながら、これといった解決方法はありません。
誰でも元手なくして簡単に店を開けられるところに「インターネットショップ」のメリットがあり、同時にリスクでもあるのです。従来の通信販売では「日本通信販売協会の会員かどうか」などというチェックも可能でしたが、「インターネットショップ」の場合にはほとんど全てそのような会員ではないでしょう。プロバイダを通じて相手方の情報が得られればいいのですが、プロバイダにも守秘義務がありますので、刑事事件として警察が動きでもしない限りまず情報は得られないでしょう。
警察への被害届けの他、通産省の消費者相談室、各地の消費者センター、弁護士会などに相談してみてください。場合によっては、同じ業者に関する被害事例や情報が寄せられていることもあります。