被害者の司法的救済の現状と限界
地下鉄サリン事件の被害者たちは、平成7年12月、東京地方裁判所に対し、オウム真理教の破産の申立を行いました。そして、同8年3月、オウム真理教の破産宣告が下されました(東京地方裁判所平成7年(フ)第3694号、同3714号)。
オウム真理教の破産手続において、破産管財人が平成9年2月19日に作成した貸借対照表によると、資産合計が金12億1763万2476円、負債合計が金51億2203万7859円となっています。
これによると、被害者らに対する配当率は約19%となりますが、未売却の不動産が簿価よりも低額で売却される可能性があることや、破産管財業務の費用が今後配当原資から控除されることなどを考慮すると、この配当率は更に低下することが確実です。つまり、被害者は、わずか1割そこそこの配当を受けるだけで、司法的救済には限界があります。
そもそも、オウム犯罪の原点といわれている坂本弁護士一家殺害事件について、事件直後から教団幹部らが犯行に及んだ可能性が極めて濃厚であるという状況の下で、しかもその後の救出運動で180万人もの国民が署名により捜査体制の強化を求めていたにも拘わらず、当局は怠慢な捜査を続け、結果的に松本サリン事件や地下鉄サリン事件など大惨事が引き起こされたものです。
国や警察は、サリン事件をはじめとする一連のオウム犯罪の責任を痛感し、被害者の救済に全力を挙げるべきです。
サリン事件などオウム真理教の犯罪による被害者の実情を多くの方々に理解していただき、国や地方自治体による被害者の救済活動を促すためにもこの、手記集を多くの方々にご覧になっていただきたいと思います。
地下鉄サリン事件被害対策弁護団
事務局長 弁護士 中村裕二