意 見 書
地下鉄サリン事件被害対策弁護団
1998/3/25
一、本件破産手続における国の債権届出の取り下げ問題に関し、与党国会議員らは、三月一八日、国が有する債権で届け出済みのもの約四億六〇〇〇万円を劣後債権とし、サリン事件の被害者ら債権者が優先配当を受けられるよう立法措置を講じる旨発表した。
この立法措置は、議員提案ではあるものの、政府側がサリン事件等の被害者らの経済的支援に取り組む姿勢を見せたはじめての動きである。
このような政府側の動きを導き出した大きな要因は、裁判所、破産管財人、常置代理人及びその他関係者らの勇気ある決断と精力的な活動の賜と解され、これまでの尽力に心から敬意を表する。
二、サリン事件の被害者たちも、昨年初頭から東京都、山梨県、富沢町、上九一色村などに赴き税金の交付要求の撤回を求め、又総理府や各省庁に対し求償債権の撤回を求めてきた。更に昨年末からは、国の債権取り下げを求める署名運動に取り組み、約二万九〇〇〇人以上の署名を集約することができ、この署名を今年三月二〇日政府に提出した。
サリン事件の被害者ら債権者たちほ、要請書の趣旨を一刻も早く実現するため、今後も再び、山梨県など自治体に赴き、税金の交付要求の撤回を求めていく所存である。
三、そもそも、東京都はオウム真理教の宗教法人化を認め、教団を指導監督すべき立場にあったにも拘わらず、平成七年三月二二日の強制捜査まで、何らの調査もせずまた対策もたてないまま、ただ漫然とこれを放置し続けてきた責任がある。
また、山梨県や大阪府なとの地方自治体も、事実上教団の増長を黙認してきたものであって、教団の数々の凶悪犯罪について責任の一端を痛感すべきである。
更に、昨年一〇月時点での税金の交付要求額である約八四〇〇万円(延滞税を含む)は、形式上優先債権とされているため、配当率に与える影響が非常に大きい。
それ故、東京都、大阪府及び山梨県その他の自治体が、サリン事件の被害者らに優先してこれら交付要求の弁済を受けるというのは言語道断であり、その交付要求をその余の債権とともにすべて撤回すべきである。
四、加えて、帝都高速度交通営団(以下、「営団」という)の一億五三六〇万五六四八円の債権届出についても撤回されるべきである。営団は、オウム真理教が資産隠しに懸命となっていた平成七年七月ころ、教団の再度のテロを恐れ、破産手続の申立債権者となることを辞退した。にもかかわらず、平成八年三月オウム真理教に破産決定が下されると一転して、右債権届出を行ったものである。
サリン事件の遺族及び受傷者の有志並びに仮谷事件及び坂本事件の遺族らは、多くの被害者たちの救済とオウム真理教の解体を願って、本件破産手続を申し立てた。被害者らは、オウム真理教の逃亡犯が逃走を続ける中、自己の氏名や自宅の住所がオウム真理教に届くことを覚悟して、営団に代わり、教団の矢面に立った
ものである。
営団は、これらの事実経過をふまえ、サリン事件の被害者らを救済するため、その届出債権をすべて撤回すべきである。
五、よって、裁判所及び破産管財人団におかれては、今後、地方公共団体の交付要求撤回及び債権取り下げを並びに営団の債権取り下げなどを実現し、犯罪被害者である債権者たちの配当率を上昇させた上で、一刻も早く配当を実施されるよう期待する。
以上