平成七年(フ)第三六九四号、同第三七一四号

            申立人     高橋シズエ  外
              破産者       オウム真理教
            破産管財人   弁護士 阿部三郎


    平成一〇年四月二三日
 右申立人ら代理人
弁護士  宇都宮健児
同 武井共夫
同 飯田正剛
同 瀧澤秀俊
同 伊藤芳朗
同 大川康平
同 横松昌典
担当同 中村裕二

東京地方裁判所民事第二〇部 御中

意 見 書


一、裁判所及び破産管財人団の尽力により、「オウム真理教にかかる破産手続における国の債権に関する特例に関する法律」(以下、「特例法」という。)が四月一七日に成立した。
 また、一部新聞報道によると、東京都、山梨県、富沢町及び上九一色村も、被害者との関係では交付要求を撤回する方針を明らかにした。
 特例法は、サリン事件の被害者ら(以下、「被害者ら」という。)を救済する目的で、国の届出債権が生命または身体を害されたことによる損害賠償請求権に劣後する旨規定したもので、その結果、被害者らへの配当率を上昇させ、右特例措置とあわせて、被害者らに対し、届出債権額の約二割の配当を可能とするものと解する。
 しかしながら、被害者らは、特例法や地方自治体の特例措置をもってしても、被害額全体の約二割の配当を受けるにすぎず、残りの約八割については配当を受けられない。もし、本件破産手続がこのまま終結したときは、被害者らは、届出債権額の約八割について泣き寝入りしなければならない状況であると予想される。
 すなわち、被害者らは、被害総額約四〇億円のうち、約八億円の被害弁償を受けるにすぎず、その余の約三二億円をオウム真理教に踏み倒される結果となる。

二、そこで、申立人らは、御庁に対し、「オウム真理教犯罪被害者救済基金」(以下、「基金」という。)の設立を求め、ここに提案する。
 基金構想の骨子は左記のとおりである。


1、基金の目的は、オウム真理教による犯罪被害者を救済するため、広く社会(企業等を含む。)から募金を募り、集約した基金を、特例法でいう「被害者」に対し、本件破産手続の配当表 に従って分配することとする。

2、基金の主体は、裁判所及び破産管財人とする。但し、破産法等法令上の困難な問題が存し、基金の設立が遅れそうなときは、その主体について別途考慮検討する。しかし、広く救済金や募金を集約し、それらを被害者らへ公平に分配するためには、主として裁判所及び破産管財人が基金の中心とな る必要があるものと解する。
3、基金は、直ちに設立し、右主体が運営管理及び分配事務を掌理する。なお、募金活動等については、被害者らも裁判所、破産管財人らと協力してこれを行う。
4、基金の目標額は、未配当額に相当する三二億円とする。
5、救済金や募金の集約方法、その分配時期や分配方法、その他については、今後速やかに検討する。

三、ところで、申立人らは、本年四月一三日、麻原彰晃こと松本智津夫の所持金九六六万五五六三円万円を執行の上取得した。このうち金二〇〇万円は、申立人らが民事裁判で負担した訴状印紙代等費用約三〇〇万円の一部に充当するため、申立人らが取得するが、残金約七六六万五五六三円については、基金に寄付する所存である。
 また、申立人らは、本年三月、「それでも生きていく」(サンマーク出版)を出版したが、その印税を右基金に寄付したいとの意見が申立人らから出されている。
 さらに、申立人らは、これまでの二年以上にわたる被害者救済活動の中で、多くの方々から募金提供の申し入れを受けてきた。もし、基金が設立されれば、相当額の集約が期待できるものと解する。

四、確かに、過去の破産手続において、このような基金が設立された例は知らない。
 しかし、破産管財人が被害者らに対し、集約された募金等を、配当表を利用して分配することにつき、法律が禁止しているとは解せない。
 本件破産手続は、オウム真理教の財産の精算だけでなく、教団犯罪の被害者らの救済をも目的として進められてきたもので、それ故、国が前例のない特例法を立法し、地方自治体が交付要求の撤回という異例な措置を講じたものと解する。
 被害者らを救済し、本件破産手続の目的を完遂するためには、国や自治体からの救済金、企業や組合その他民間団体や個人など一般社会からの募金を、幅広く集約できる公の受け皿が必要であり、そのため裁判所及び破産管財人が主体または中心となる右基金の設立が必要不可欠となる。また、基金を被害者らに対し、公平に分配するためにも裁判所及び破産管財人が基金の主体または中心とならなければならない。

五、よって、申立人は、本意見書をもって、御庁及び破産管財人に対し、「オウム真理教犯罪被害者救済基金」の設立を提案する。
以上