十.最後に

       娘たち夫婦はそれぞれ、はやくから自分の進むべき道をしっかりと見据え、その実現
      に向けて懸命に努力を重ねてきた夫婦です。堤は弁護士として社会的弱者を護り、都子
      は障害者が自立できる社会造りをと、長年抱いてきた理想の実現の緒に付き、付こうと
      した矢先であり、また、結婚五年目にやっと授かった龍彦を中心に、ささやかであって
      も幸せな家庭・平和な家庭を築き社会の一成員としての責務を忠実に果たそうと鋭意努
      力をしてきた者たちです。その志を、人生の総てを閉ざされた無念さを思うと、この身
      を焼かれる思いです。龍彦については全く言葉もありません。只々不憫としか言い表し
      様がありません。    
       娘たちは、実に真剣にそして誠実に生きてきた二人です。一才二か月の幼い龍彦を含
      め一家三名の命を奪った凶悪な犯行の全容糾明なくして、三人の冥福を祈っても虚しさ
      だけが胸に残ります。まして、冒頭陳述並びに実行犯の供述等では「アパートの玄関は
      無施錠だった」とあっては尚更です。 
       私は洋光台のアパートに数度訪れたことがあり、その時の体験からドアチエーンや施
      錠を怠ることは全くあり得ないことであり、そのようなだらしない生活は絶対にしてい
      ないと確信しております。事件当時堤はかなり危機感を持って生活していたことは事実
      であり、当然都子にも注意を促していたはずです。もし万が一、施錠の習慣もなく・危
      機感も持たず・注意も促さず・鍵の掛け忘れであったとしたら、娘夫婦にとってこれ以
      上不名誉なことはないと思います。
       しかし、残念なことに娘たちは、人の前に立ち真実を訴え一家の名誉を守ることの出
      来ない身となってしまいました。あれほど真剣に・誠実に・几帳面に生きてきたあの子
      達が、しかも、死後にその名誉を穢されることは到底忍び得ません。たとえ、どの様な
      手段を取ろうとも、娘たちの名誉を守ってやりたい。守ることが残された親として当然
      の責務であると思えてなりません。
       現在刑事裁判が進行中であり犯行の全容についての審理に至ってない段階ですが、こ
      れまでの、冒頭陳述並びに実行犯の供述等では、まだまだ事件の真実が語られていない
      と思わざるを得ません。刑事裁判が進行するに従い真実が糾明されることと期待を寄せ
      ておりますが、大多数の市民は卑劣なオウム犯罪に対する怨嗟の念も強く「一日も早い
      判決と処刑を」と強く望んでいる現状です。不遜とは存じますが、こうした世論を背景
      とした裁判で、どれだけ時間をついやすることが出来るのか、何処まで真実追求が出来
      るのか危惧の念を抱いている次第です。  
       オウム真理教の卑劣極まりない犯罪に対する、私たちの怒り・憎しみ・悲しみは筆舌
      に尽くせぬものがあります。この社会に二度とこのような犯罪を許してはならないと強
      く思っており、オウム真理教を消滅させ、カルト集団を拒否する意味からも、また、娘
      家族の名誉回復の為にも先(七.オウム真理教について)にも申し述べましたが、是非
      当法廷に於て次の七件について、真実を明確にして戴きたく切にお願い致します。
        1.アパートの玄関の鍵の件について。
        2.押し入った時刻について。
        3.殺害の時刻について。
        4.アパート内の証拠隠滅について。
        5.アパートを引き上げた時刻について。
        6.ボンでの共謀内容について。
        7.犯行後、殺害について他の信者に伝えたか。
       以上のとおり、娘とその家族の身上、並びにこの七年間を振り返っての私の心情等の
      一端を申し述べましたが、もとより浅学非才の身、分をわきまえず礼を失した点多々有
      るかと存じます。ましてや、裁判のことについては全く知識がなく民事と刑事の範疇も
      知らぬまま、意中を申し述べた非礼をお許し頂きたいと存じます。何とぞご賢察の上ご
      高配賜りたく、切にお願い申し上げます。
      
        平成八年十一月十八日
                                   大  山  友  之



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