1996年(平成 8年) 月 日
内閣総理大臣 橋 本 龍太郎 殿
要 請 書
地下鉄サリン事件被害対策弁護団団長弁護士 宇都宮健児
松本サリン事件被害者弁護団 主任弁護士 伊東良徳
坂本弁護士一家損害賠償請求弁護団事務局長 杉本 朗
假谷事件民事訴訟弁護団主任弁護士 伊藤芳朗
上記各弁護団連絡窓口弁護士 中村裕二
私たちは、オウム真理教の一連の凶悪犯罪により犠牲となった数多くの被害者たちが一刻も早く救済され、且つ今後再び同様の悲劇が繰り返されないようにするため、次の通り 要請します。
要請の趣旨
1、内閣におかれましては、関係各自治体とも協力の上、国や地方公共団体がオウム真理教の所有する土地、建物、動産及びその他 の財産を、適正価額にて速やかに買い取るようご尽力いただきた く要請します。
2、内閣におかれましては、オウム真理教が所有する建物や動産類を撤去処分する費用を負担し、同教団が所有する土地の土壌調査 等安全を確認するための費用を負担していただきたく要請します。
3、内閣におかれましては、オウム真理教の破産手続によっても救済されない被害者の損害について、直ちに救済策を講じていただきたく要請します。
要請の理由
1、オウム真理教は、平成元年11月横浜市内で坂本堤弁護士ら一 家3人を殺害し、同6年6月松本市内でサリンを散布して7人を殺害し500人以上に重軽傷を負わせ、同7年2月目黒公証役場事務長の假谷清志氏を拉致監禁の果て死亡せしめ、同年3月東京都内で再びサリンを散布して12人を殺害し5700人以上に重軽傷を負わせました。
オウム真理教は、これら以外にも数々の凶悪犯罪を引き起こし、現在でも莫大な数の被害者たちが十分な救済を受けられないま苦しんでいます。
そもそも、このような空前の犯罪被害が発生した結果については、平成元年にオウム真理教を宗教法人として認証した東京都をはじめ、180万人を越える国民が広域的且つ適切な捜査を求めていた坂本堤弁護士一家惨殺事件などその後のオウム真理教の傍若無人に有効な手だてを打てなかった国や地方公共団体にも責任の一端があります。
2、私たちは、平成7年12月11日、坂本弁護士一家事件、松本サリン事件、假谷事件及び地下鉄サリン事件の被害者ら45人から委任を受け、同人らを代理して、東京地方裁判所に対し、オウム真理教の破産申立をしましたところ、同裁判所は、同8年3月28日、オウム真理教を破産者とする旨の決定を下しました。 従って、本来ならば、裁判所より選任された破産管財人がオウム真理教の資産を売却処分し、その売却代金の中から被害者に対する損害金が直ちに支払われ救済がはかられるべきところです。
しかし、次に述べるとおり、オウム真理教の破産手続には不動産の売却問題はじめ様々な困難があり、このまま放置すれば被害者たる債権者に支払うべき配当金の財源をほとんど確保できないという事態に陥ることは確実です。
3、オウム真理教は、実額約10億円前後の資産を保有していると思われますが、その主要な資産が土地であります。
しかし、その土地上には数多くの建物が建設され現在でもほとんどが残存したままであります。これら建物群のほとんどは、適正な建築技術を持たない素人集団であるオウム真理教の信者たちが築造作業にあたったもので、中には違法な建築物もあり、およそ建物が安全に使用できる保証はありません。
更には建物の中で殺人が行われたり、化学兵器や細菌兵器の開発が試みられたりした過去の異常な利用状況や、またそもそも修行用に多くの小部屋を設けるなど特殊な建物の構造上、他に転用性がないなどの点に鑑みても、一般の買い受け人が容易に名乗り出てくることなど予想できません。
他方これらの建物の取り壊し費用も莫大な金額となります。すべての建物を解体するならば数億円の費用がかかる見通しです。もし、オウム真理教が所有する建物の解体費を破産財団から支出するならば、被害者ら債権者に対する配当も1割前後に落ち込むおそれがあります。
そもそもオウム真理教が所有する建物を解体するということは、オウム真理教の危険性を除去し公共の安全を回復することに直接つながる重要な仕事であって、極めて公益性の高い作業です。その公益的作業のために被害者が受くべき配当金を使用するなどおよそ国民感情にそぐわないものであります。これはオウム真理教が所有する建物ばかりに限った話ではなく、例えば、オウム真理教が放置している危険な薬品などをいかに安全に処分するかなどという動産に関する問題もあります。これら危険な不動産や動産類を万一民間に払い下げてしまえば、転売の結果再びオウム真理教の手に渡ってしまう恐れもあります。
4、私たちは、前記のとおり国費を支出することにつき、法律上様々な問題が存することは承知しております。しかしながら、戦時中の不発弾の撤去処理にあたり、或いは外国が保有する化学兵器の処理にあたり国費を支出することは多くの国民が理解を示しているところと思われます。また、オウム真理教の犯罪を契機としてサリン等有毒ガスを利用した犯罪を撲滅するための法令が直ちに制定されたという経過もあります。
被害者の救済についても、同様に、現行法の柔軟な運用及び立法措置も視野に入れたご対応を強く期待します。
5、上記のような問題点を解決し、多少なりとも被害者の救済をはかり、同時にオウム真理教の将来の復活の芽を完全に摘み取るため、既存の救済制度を十全に活用し、或いは新たに立法措置をはかるなどして、関係各自治体とも協力の上、国や地方公共団体がオウム真理教の所有する土地、建物、動産及びその他の財産を、適正価額にて速やかに買い取るようご尽力いただきたく要請します。
また、仮に国や地方公共団体がオウム真理教の所有する建物動産類をすべて買い取れないとしても、少なくとも、それらを安全且つ確実に撤去搬出処分するための費用及び土地の土壌が安全か否かを調査する費用など原状回復のための費用を負担していただきたく要請します。
そして、被害者救済こそがテロ対策の第一要件であり、このようなテロが二度と起こらないようにするため、オウム真理教の破産手続によっても救済されない被害者の損害について、直ちに救済策を講じていただきたく要請します。
以上
上記のような政府への要請行動について、皆様のご意見をお聞かせください。
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