『日立世界ふしぎ発見!』はどこへ行く?

 

 


 

 

 『日立世界ふしぎ発見!』(TBS系、土曜21時〜21時55分放映)といえば、海
外取材番組の草分けであり、幅広い年齢層からの支持を誇る人気長寿番組である。ところ
が次第にこの番組に暗い影が指してきた。最近、同番組はサギやペテンに肩入れするよう
な内容を乱発しているのだ。

 

 

面白くなればそれでよい?

 

 阪神大震災、地下鉄サリン事件、坂本弁護士一家殺害に関連してのビデオ漏洩事件、ペ
ルー日本大使館占拠事件、海上での重油流出事故、そして一連の金融・証券不祥事と事あ
るごとにマスコミに取り沙汰される「危機管理」だが、実は当のマスコミそのものが「危
機管理」の何たるかに無自覚なようである。

 今から三〜四年前、『日立世界ふしぎ発見!』で三国志をとりあげたことがあった。私
はその番組を見ていて、冒頭から苦笑してしまった。なんと行商から帰った劉備を迎えた
母親が、みやげの茶を投げ捨てるという場面が出てきたからだ。

 実はこの話は正史『三国志』『三国志演義』、柴堆三国志(三国志の登場人物に関する
中国の民話)のいずれにも出てこない。それはあくまで日本の作家・吉川英治が小説『三
国志』の中で創作し、横山光輝がマンガ『三国志』で踏襲しただけの話なのである。

 再現ドラマに出ていた中国現地の俳優たちは聞いたこともない劉備の母のエピソードに
首をかしげたことだろう。

 同番組のこの会では、解答者の一人で、当時、三国志の本を出したばかりの直木賞作家
が実は三国志について何の知識もないことを露呈するなど、三国志好きとしては頭を抱え
ざるをえない内容だった。そのあたりから、私はどうもこの番組を見る時は眉にツバをつ
けた方がよいと思ったのである。
『日立世界ふしぎ発見!』の製作方針に疑惑を抱く人は少なくないようだ。SF作家の山
本弘氏はアーノルド事件(1947年、青年実業家ケネス=アーノルドが自家用機で飛行
中の九つの飛行物体を見たと証言、「空飛ぶ円盤」という名称を生むきっかけになったが
、その物体そのものは円型ではなかったという)について、次のように指摘する。
「アーノルド事件はひどく歪曲されて伝わっている。特にひどかったのは、TBSの『世
界ふしぎ発見!』という番組のUFO特集で、アーノルド事件を再現した映像である。こ
の再現ビデオのなかでは、五個(九個ではなく)の円盤型物体がアーノルド機のすぐ近く
をかすめ、強烈な光を放って彼の目をくらませたことになっていた!実際には、太陽を反
射してキラリと輝いた程度だったのだが」(と学会著『トンデモ超常現象99の真相』洋泉
社)。

 UFOのように真偽未詳の情報が錯綜する問題をドキュメンタリー仕立てにする以上、
事実の扱いはむしろ慎重であるべきだと思うのだが、どうも同番組の製作者(TBSおよ
びテレビマンユニオン)は面白くなればそれで良いと思っているようなのだ。

 

 

希代のインチキ本を大宣伝

 

 また、2年ほど前には同番組で太古、太平洋にあったというムー大陸をとりあげ、司会
者が番組を挙げてその取材に力を入れると宣言したことがある。

 ムー大陸説は、自称元英国陸軍大佐チャーチワードなる人物が1931年の著書『失わ
れた大陸ムー』の中ででっち上げたものであり、その実在は今や完全に否定されている(
『歴史を変えた偽書』ジャパンミックス刊、所収、参照)。もっともさすがにこのネタは
後が続かなかったらしく、同番組でムーが取り上げられることもなくなった。

 最近では、グラハム=ハンコック『神々の指紋』(翔泳社)のベストセラーにも『日立
世界ふしぎ発見!』が一役かったことが知られている。
『神々の指紋』はエジプトや中南米の謎の古代遺跡は12000年以上前の超古代人が残
したものであり、彼らを滅ぼしたのと同様の天変地異が今度は西暦2012年に起こると
して終末感をあおりたてる本である。
『「神々の指紋」の超真相』(Hユウム他著、データハウス)は、冒頭で次のように指摘
する。
「日本の大手テレビ局のひとつであるTBSが、『世界ふしぎ発見』という看板番組(老
若男女に広く支持され高視聴率を誇っている教養番組)で二週連続にわたってこの『神々
の指紋』を採り上げたのが、ブームに火をつけた最大の要因だと考えられている。(中略
)本書『「神々の指紋」の超真相』のスタッフが真偽を確かめてみたところ、事実の歪曲
、都合のよい文章だけ引用、知っているくせに知らないふり、二分法の罠(二者択一を装
うが実は真実は別にある)、明らかに誤りと知りつつ引用、読者の無知に便乗、失われた
環の詐術、虎の威をかるキツネ、年代のごまかし、ミスディレクション(誤誘導)、そし
てイラスト詐欺・・・・・・などなど、およそ考えられる文章トリックのほぼすべてが駆
使されている、希代の書物であることが判明した。つまり『良書』などとは正反対のシロ
モノだったのである」

 重ねていう、この『「神々の指紋」の超真相』こそ真の意味での「良書」である。

 それに対して、『神々の指紋』の方は、それこそ、以前の『日立世界ふしぎ発見!』で
エジプト、中南米を扱った回を見ていれば容易にそのインチキが見破れる程度のものにす
ぎない(『日立世界ふしぎ発見!』製作者は視聴者が前の回を覚えているはずはないとタ
カをくくっているのだろうか?)。

 それにしても、このような本が240万部以上も売れて、まだ版を重ねているというの
だから『日立世界ふしぎ発見!』の威光たるや怖るべしである。

 その上、同番組の『神々の指紋』特集では、この本のもっとも危険な部分、世界終末予
言のくだりまで映像化していた。どうやらオウム真理教の教訓などはまったく生かされて
いないらしい(TBSの番組だというのに!!) 。

 さて、去る1997年6月21日放映の『日立世界ふしぎ発見!』は三内丸山遺跡の発
見などで注目を集める古代東北地方の特集、レポーター嬢は最新の考古学的知見に基づく
縄文料理に舌鼓を打ち、土偶から復元された縄文ファッションに身を包んで古代東北の豊
かさを語る。現代の眼鏡のような遮光器に解答者から「サングラスみたい」との声がかか
った。だが、謎の祭祀遺跡ストーン=サークルが出てくるあたりから、番組の展開に奇妙
な翳りが見えてくる。

 青森県亀ケ岡遺跡出土の有名な遮光器土偶の映像。

 ナレーション“宇宙人説もとびだしたこの実にユニークな土偶、雪の多い地方で使われ
た遮光器をつけた顔ともいわれているがその確証はない”

 ちょっと待て、それではさっきレポーター嬢がつけていた遮光器は何なんだ?

 製作者は縄文ファッション復元に協力した考古学者を内心バカにしているとしか思えな
い。だが、番組の流れが本当におかしくなるのはこの先である。

 

 

ついに出現『東日流外三郡誌』!!

 

 レポーター嬢“ここ津軽を中心とした東日本に強大な国があったのではないでしょうか
。それが後に大和朝廷がなかなか東北を支配できなかったことの原因になったのかも知れ
ません。ところが古代史は大和朝廷側から書かれていて東北にはエミシと呼ぶまつろわぬ
民、したがわない民がいるとしか書いてないんです”

 ナレーション“ところが昭和50年、東北に古代王朝が存在したという古文書が発見さ
れた。それがこの『東日流外三郡誌』である。(解答者たちの「ほほー」と感心する声)
そしてその内容は驚天すべきものであった。これによれば今から2500年前、つまり縄
文末期、津軽に古代王国が築かれたという。そしてその後、大和朝廷が成立した時、大和
を追い出されたナガスネヒコが津軽に亡命してきて王国をひきつぎ西の大和朝廷に対抗し
たと記されているのだ”場面は『東日流外三郡誌』の映像。

 これだけ騒がれたのだから今さら言うまでもないことと思っていたのだが、『東日流外
三郡誌』をはじめとするいわゆる和田家文書はいずれも現所蔵者・和田喜八郎氏の手にな
る偽作である。だが、この文書を信奉する者、あるいはこれを利用して甘い汁を吸おうと
する者は後を絶たず、彼らが擁護の論陣を張っているという状況もある。ところが同番組
では『東日流外三郡誌』をめぐって真贋論争があることすら触れようとはしない。

 さて、次の場面は青森県市浦村の神社、「浜の明神」。

 レポーター嬢“『東日流外三郡誌』に書かれていたことが事実ならば途方もないことで
すね。そしてその書にはここにあった神社に遮光器土偶が祭られていたと書かれていて、
津軽にあった王国が縄文文化を継承していたと言っているんです”

 もちろん浜の明神に遮光器土偶が祭られていたという事実はなく、すべては『東日流外
三郡誌』の創作にすぎない。ちなみに『東日流外三郡誌』では遮光器土偶はアラハバキな
る神の神体とされている。

 

 

遮光器土偶はアラハバキに非ず

 

 話は変わるが、アラハバキをエミシの神とする説について、この場を借りて批判を加え
ておきたい。

 アラハバキという神が日本各地で広く信仰されていたのは事実だが、その神格は本来、
出雲系の地主神であったらしい。その祭祀の分布は関東で濃密である(斎藤隆一「荒覇吐
神の幻想」『季刊邪馬台国』54号、所収)。これは武蔵国造が出雲国造と同祖であるこ
とと関連しているのかも知れない。したがって、この神が特に東北地方で信仰されている
というわけではない。

 この神格をエミシの神としたのはまず『東日流外三郡誌』であり、次いで民俗学者・谷
川健一氏の『白鳥伝説』(1982〜1985、『すばる』連載、後に集英社より単行本
・文庫化)である。

 谷川氏はまずアラハバキの神格に邪霊撃退の役割があるとした上で、「アラハバキ神の
性格は西国と東国とでは一般的にはおなじであるが、具体的にみるとちがっている」とし
、「(東北地方のアラハバキ祭祀で)このばあいの邪霊は抽象的で眼に見えない存在では
なく、明らかに蝦夷であった。そこに西国の場合とちがう東北におけるアラハバキ神社の
特異性がある」と論じていく。そして東北地方のアラハバキは「先住民族の面影をやどす
異族の神」「もともと名前をもたない蝦夷の神」であったと結論付けるのである。

 しかし考えてみよう。エミシを邪霊として撃退するというのは、エミシ側の神としてふ
さわしい振る舞いといえるだろうか。そして、東北地方におけるアラハバキ祭祀の地とし
て谷川氏が挙げるのは、多賀城をはじめとしていずれも大和朝廷の東北における前線基地
ばかりなのだ。アラハバキはやはりエミシ側ではなく大和朝廷側の神であったとみなされ
るべきだろう。

 なお、谷川氏が『白鳥伝説』において、「『東日流外三郡誌』は明らかに偽書であり、
世人をまどわす妄誕を、おそらく戦後になってから書きつづったものである。(中略)『
東日流外三郡誌』の文章は拙劣である。また拙劣ながらも野趣をおびた近世文の趣きをも
っているというものでもない。こうした書物は一顧にも値しない。『東日流外三郡誌』の
荒吐族の説と私のアラハバキの説とはまったく無縁である」と明言しておられることは氏
の名誉のためにも書きそえておきたい。

 アラハバキをエミシの神とする説さえ疑わしいというのに、ましてや、遮光器土偶がそ
の神体だなどと説く『東日流外三郡誌』は実にトンデモないシロモノなのだ。

 

 

キリストの墓まで登場

 

 さて、話を『日立世界ふしぎ発見!』に戻そう。

 司会者“『東日流外三郡誌』に記されておりました謎の古代王国というのは本当に実在
したものなのでしょうか、どうなのでしょうか”場面は十三湖周辺の安東氏関係の史跡。

 ナレーション“安東氏は出生が明らかになっていない。一説によるともともとは大和朝
廷に抵抗したエミシだったといわれ、まさに津軽古代王国の後継者にふさわしい。安東氏
は強力な水軍を持ち、独自に中国大陸と交易してその都十三湊は10万の人口を持つ壮大
な都だったという。だが突如襲った大津波によって一夜にして湖の底に沈んだとされてい
る”

 ここで場面は十三湊遺跡の発掘風景に移る。レポーター嬢により、発掘の結果、ここに
大きな都市があったことが明らかになった、と語られる。

 もちろん、地元の郷土史家が安東水軍の存在に否定的なこと、十三湊遺跡からは大津波
や洪水の痕跡は見当たらなかったこと、十三湊の最盛期は『東日流外三郡誌』が大津波の
あったとする興国元年(1340)より1〜2世紀後と推定されていることも同番組では
まったく触れられていない。

 さらにレポーター嬢が十三湊遺跡から出土した中国の銅銭を示し、十三湊の国際性を強
調した上で次のように話が転がっていくのである。

 ナレーション“十三湊には驚くべきことにキリスト教の教会があったという。(映像は
『東日流外三郡誌』のチャペルの絵)そしてもっと驚くべきことは十和田湖の東にキリス
トのものという墓があるのだ”

 こうして場面は青森県新郷村のキリストの墓に移る。念のため言っておくが、このキリ
ストの墓の話は昭和十年頃に創作されたもので古くからこの村に伝わっていたわけではな
い。くわしくは拙著『幻想の超古代史』『幻想の津軽王国』(いずれも批評社)を参照さ
れたい。

 

 

視聴者へのマインドコントロール

 

 番組の締め括り近く、レポーター嬢は語る。

“縄文時代東北に王国が栄えていたかどうかは今後の発掘調査にかかっているわけですが
少なくとも縄文時代東北は私たちの想像を遥かに超えて豊かであったことは事実だったよ
うです”

 これでは基礎知識のない視聴者が、今後の発掘調査が『東日流外三郡誌』の記述を実証
していくに違いないと思ってもおかしくはない。否,むしろ番組スタッフが視聴者の判断
をその方向に誘導しようとしているという方が正解だろう。

 たとえば、何か大きな犯罪があったとして、ワイドショーで、ある特定の人物が怪しい
と匂わせる描写を重ね、締め括りで「この人が真犯人だという証拠はありません。真相は
今後の捜査にかかっています」といったところで、視聴者は「ああこの番組の立場として
は無実だと言っているんだ」などと思うだろうか?これは冤罪作りの手法である。

 作家の阿井景子氏は日本テレビ『知ってるつもり!?』とNHK大河ドラマ『秀吉』の例
を引き、「試聴率さえ上がればよいのかも知れぬが、良心を置き忘れては困る。実在の人
物を取り上げれば、たとえドラマであろうとも歴史と思って見ている人が多いのである。
少なくとも、疑わしいものを断定して、あたかも本物のようにみせるのは慎んでもらいた
い。テレビは影響力が大きいだけに、偽物が本物としてまかり通れば、真実がわからなく
なり、後後まで害を及ぼす」と指摘している(「史実を歪める害を知れ」『現代』199
6年12月号)。

 この批判は『日立世界ふしぎ発見!』にもあてはまるだろう。一応は「教養番組」の体
裁をとる以上、夢とロマンがあればよいというわけにはいかないはずである。

 

 

『東日流外三郡誌』事件の本質は詐欺

 

 さて、現時点で判明しているところによれば、『東日流外三郡誌』事件というのは学問
上の真贋問題というよりも単なる詐欺事件である。和田家文書は和田氏が取り扱う書画骨
董の由緒書としての性格を持っている。つまり偽の由緒を作ることで怪しげな書画骨董に
それなりの値をつけられるのである。それに昭和薬科大学教授のお墨付きまで加わればな
おさら効果的だ。また、『東日流外三郡誌』が話題になることで和田家文書そのものにも
金銭的価値が生じてきた。

 これが刑事事件として立件されにくいのは、和田氏が各一件ごとに地方自治体や複数の
人物、企業を巻き込むようにしているため、贋物をつかまされたことが発覚した場合、被
害者までが責任を追求される仕組みになっているので、誰もすすんで面沙汰にしようとは
しないからである。

 以上のことは関連資料(後述)を書店で探すなり、図書館で調べるなりすればすぐにわ
かる(つまり、TBSとテレビマンユニオンはその程度の労も惜しんだわけである)。

 安本美典氏は『ゼンボウ』平成8年8月号および『季刊邪馬台国』61号に掲載の論考
「トンデモナイ偽書『東日流外三郡誌』」において、「最近は、『東日流外三郡誌』偽書
説もようやく市民権を得てきたようである」として、最近のベストセラー『トンデモ本の
逆襲』(と学会編・洋泉社)から次の文を引用している。
「何しろ江戸時代に書かれたと称する文書に、1930年に発見された『冥王星』が出て
きたり、明治辛巳年(1881年)発表の図と称して大陸移動説を解説した図が載ってお
り、『ウェゲナー學説』『起大陸パンゲア』(原文のママ)などと書いてあるのですから
、まったくトンデモない(ちなみにウェゲナーが生まれたのは1880年。1歳で大陸移
動説を発表していたことになる!)」

 冥王星の発見者トンボーがこの世を去られたのは1997年、つまり今年のことなので
ある。冥王星発見は江戸時代の話どころか、本当につい最近の事件といってもよい。

 なお、この『トンデモ本の逆襲』における和田家文書(『東日流外三郡誌』等)批判は
、と学会会長・山本弘氏による拙著『幻想の津軽王国』への評の中で言及されたものであ
る。

 それはさておき、安本氏の言うように、私も『東日流外三郡誌』偽書説はかなり世間に
広まっていたものと思っていたのだが、この度の『日立世界ふしぎ発見!』で、まだまだ
努力が足りないことを痛感させられることになった。

 さて、和田氏ら『東日流外三郡誌』偽作者および擁護者が詐欺行為を続けるには、善意
の関係者の間に「和田家文書が本物である」(「本物であってほしい」「本物でなければ
困る」を含む)という幻想が維持されなければならない。

 そこでこの幻想を守り、疑い始めた人を引き戻すために和田氏らはさまざまな仕込みを
行っている。1994年7月2日、『東日流外三郡誌』の真作を証明する一級資料が見つ
かったとのニュースが共同通信社から配信されたのはその典型的な例である。

 同記事を掲載した新聞各社は後にいずれも訂正の記事を出したが、その時にはすでに和
田氏らにより新聞コピーが関係者に配付された後だった。

 いったん肯定的な記事を新聞に載せさえすれば、訂正記事が関係者の目に触れる確率は
ごく小さいということを見越しての作戦である。

 ところがここに和田氏らの側から仕掛けられたわけでもなく、おそらくは犯意さえもな
いまま、単に取材能力の欠如から和田氏らの詐欺に加担する番組が作られてしまった。自
社の名を冠した番組が悪質な目的に利用されかねないとなれば、スポンサーとしても迷惑
なのではないだろうか。

 

 

日本のことを知らずに他国が判るか?

 

 もう一つ気になることがある。『日立世界ふしぎ発見!』は海外取材番組であり、レポ
ーターたちは世界をかけめぐっている。しかし、日本国内のことにさえこの程度の調査能
力しか示せないスタッフに海外のことが調べられるのか。

 かつて同番組がユーゴスラヴィアを扱った際、セルビア人、クロアチア人、イスラム教
徒が互いの憎悪や偏見を捨てて仲良く暮らす国として描き出したものだ。

 しかし、数年後、同国の民族・宗教対立が一気に噴出、その後の惨禍は周知の通りであ
る。

 むろん、その回の放映時点ではまだユーゴの将来を予見することが困難だったのも確か
である(そしておそらくはユーゴ取材に関わった同番組のスタッフが旧ユーゴの人々の現
状を心配すること、現地を知らない多くの日本人の比ではないだろう)。

 だが、あるいは同番組により、他国の歴史や状勢について、もっと大きな誤解が視聴者
に植えつけられたようなこともあるのではないか。

 結局、テレビに知識や教養を求めること自体が間違いなのかも知れない。日本のテレビ
製作会社には、たとえばBBCのドキュメンタリーのような重厚な作品を作れるほどの予
算的・時間的余裕は与えられていない。

 毎週毎週、ルーティンワークとしてテレビ局に(そして視聴者に)消費されるだけの番
組を作り続けなければならない製作会社に、あまり高い水準の仕事を要求しては酷という
ものだ。『日立世界ふしぎ発見!』はあくまで解答者のボケを楽しむバラエティ番組であ
り、レポートはあくまでそのボケを引き出すためのネタふりと考えていれば、作る方も見
ている方も気が楽というものだろう。

 最後に現在、書店注文で容易に入手できる『東日流外三郡誌』問題の資料を列挙したい
。その内、1は拙著であり、2〜7にもそれぞれ私の論考が収録されている。参考になれ
ば幸いである(値段はいずれも本体価格)。
1,原田実『幻想の津軽王国』,2670円(批評社)
2,ジャパンミックス編『歴史を変えた偽書』,1456円(ジャパンミックス)
3,『季刊邪馬台国』53〜58号および61号,各1214円(梓書院)
4,『ゼンボウ』平成8年8〜12月号および平成9年3月号,各485円(全貌社)
5,市民の古代研究会編『市民の古代』第16集,2136円(ビレッジプレス)
6,『別冊歴史読本』特集64「古史古伝の謎」,1845円
   および特集76「よみがえる縄文の秘密」,1262円(新人物往来社)
7,安本美典編『東日流外三郡誌「偽書」の証明』,2136円(廣済堂)
8,安本美典『虚妄の東北王朝』,1359円(毎日新聞社)

 

 

 

                       1997,7,20  原田 実