幻の『東日流外三郡誌』映画

 

 


 

 

『東日流外三郡誌』支持者として有名な古田武彦氏は『新古代学』第一集(新泉社、19 95年7月5日発行)所収の対談「上岡龍太郎が見た古代史』において、上岡氏に対し、 次のように発言しておられる。
「去年の六月に、何といいましたかアメリカの有名な映画会社(ワーナー・ブラザーズ) が、和田さんのところへ来まして、それでいろいろ撮って帰った(中略)一〇日間か一週 間ぐらいいて、いろいろ撮ってきたらしいですよ。どういう映画になるか楽しみです。や っぱりアメリカでは、偽書説とか何とかそんなレベルではなくて、私は『これは』という か『やはりさすが』という感じを持ちましたね」(同集105頁)

 文中「和田さん」というのは、『東日流外三郡誌』等、和田家文書の所蔵者(事実上の 造作者)和田喜八郎氏のことである。

 古田氏はまた『新古代学』同集の207頁においても次のように記している。「昨年八 月前半、アメリカの映画会社(ワーナー・ブラザース)の招きで中近東・ギリシャ・エジ プト方面を巡回されたから、当方面に対する氏の知識は急増・倍加したことであろう」( 文中「氏」とあるのは和田喜八郎氏のこと)

 私は永瀬唯氏からの御指摘がきっかけでこの発言に興味を抱き、さっそくワーナー・ブ ラザーズ映画日本支社に『新古代学』該当ページのコピーを同封した封書で、映画の製作 状況、公開予定時期について問い合わせたところ、以下の通りの御返答をいただいた(平 成7年8月21日付封書による)。
「お尋ねの件でございますが、『弊社スタッフが和田氏のところへお伺いしていろいろ撮 影して帰った』との記述については、心当りがございません。誠にお役に立てず恐縮です が、取りいそぎご報告いたします」

 念のため、電話で同社の担当の方と話してみたのだが、たとえアメリカの本社から直接 スタッフが派遣されるにしても、日本支社とまったく連絡をとらないまま作業に入ること はありえないという。

 また、そもそも和田喜八郎氏とワーナー・ブラザーズ映画との間にはまったく接触がな く、もちろん和田氏を海外旅行に招待したという事実もない。

 したがって、なぜ『新古代学』にいきなり同社の名が出てきたのか判らないと当惑して おられた。もっとも同社としても、古田氏の社会的立場を考慮し、事を荒立てるつもりは ないという話だった。

 私は以上の経緯について、『季刊邪馬台国』58号(1996年2月、梓書店)で報告 した。その報告からでも2年以上の歳月が流れたわけだが、和田喜八郎氏の映画なる話題 については何らの進展も見られなかった。ワーナー・ブラザーズ映画にとって、この程度 の虚偽情報は些事に過ぎなかったようである。

 また、それ以降、古田氏も私の報告に対して反論を示すではなく、映画の件そのものに ついても、一切コメントを出していない。さらには『新古代学』という雑誌さえ古田氏の 支援組織内での紛争のため、結局、2号までで終わってしまった。

 それにしても、古田氏および新泉社は映画云々の発言を活字にする以前、なぜ、当のワ ーナー・ブラザーズ映画に問い合わせてみるという労を惜しまれたのであろうか。今もな お不思議に思う次第である。  

 

 

                       1998,5  原田 実