特選詩集   

 

蛸を見る

昼間
水族館で見る蛸は
細い糸の目を
している

細くて黒い
一本の線の目をしていて
眠っているのだが
見物人の人間は迷惑だろうに どういうわけか
よく見えるガラスの壁に
貼り付いていることが 多い

水蛸は一メートルでも 小さい方だ
という
その手足をいっぱいに 伸ばして
目は黒い線
銀色の円盤の中心に
一本の黒い横線である

不眠症加減の私としては
その
堂々とした眠りようが
うらやましくもなってしまうのだが
人間のざわめきを聞きながら
週に六日
どんな夢を見ているのだろう

案外
平安な暮らしに慣れていて
静かな海の一隅に住み家を得た
気持ちなのかも 知れない
私達は風景のような
通り過ぎてゆくだけの魚なのだろう
どこへ ゆくのか
分からないままの
魚も 何匹かはいるにしても



松本 賀久子