科学特捜隊


科学特捜隊誕生

 一九六六年一月、放送開始された『ウルトラQ』の好評でスタッフは気をよくしていた
。『ウルトラQ』は諸般の都合から、放送開始時には全二七話(ただし本放送時はそのう
ち「あけてくれ!」が放映されず、六七年の再放送時に第二四話として挿入された)の撮
影が終了しており、シリーズ延長企画のための時間は十分にあった。

『ウルトラQ』製作当時、スタッフの間では、延長案として怪獣どうしを闘わせる怪獣ト
ーナメント・シリーズを検討していた。それが具体的にいかなる予定だったかは謎だが、
当時、検討された脚本プロットとして、イリアン島から帰ってきた大猿ゴローが宇宙怪獣
(ガラモン?)を退治する「ゴロー対スペースモンスター」や、巨大なカエルと巨大なサ
ンショウウオが闘う井伏鱒二もビックリ?の怪作「ゲロンガ対山椒ラウス」などが残され
ている(『ウルトラマン白書 第二版』朝日ソノラマ、参照)。

 しかし、『ウルトラQ』では、レギュラー登場人物が毎回毎回、御都合主義的に怪事件
と出会うといううらみがあった。

『ウルトラQ』の主要レギュラーは、セスナ機パイロットでSF作家の万城目淳(佐原健
二)と、見習いパイロットでギャグメイカーの戸川一平(西条康彦)、新聞記者の江戸川
由利子(桜井浩子)とデスクの関(田島義文)、そして専門不明の万能科学者・一の谷博
士(江川宇礼雄)といった顔触れである。彼ら一般市民を主人公にする限り、事件とから
む不自然さはぬぐえない。

 こうした悩みは、推理小説のシリーズなどにもついて回るものである。ごく普通の生活
をおくっているはずの市民が行く先々で殺人事件と遭遇していては、終いには、その主人
公こそ連続殺人鬼ではないかという気がしてくる。そこでシリーズ・キャラクターを持つ
推理作家はその素性を職業探偵(警察官、私立探偵を問わず)とするか、何らかの形で警
察に関係を持っている人物として不自然さを糊塗しなければならない。

 中には、同一人物がいくつも難事件にあたるのはおかしいということで、あえてシリー
ズ・キャラクターを作らない推理作家もいるが、それでは売れ行きを安定させるのが難し
い。推理小説ファンの多くは、単に特定の作家のファンであるだけではなく、その作家が
生み出した名探偵のファンなのである。

 かくして、『ウルトラQ』についても従来の設定を改め、怪事件専門の名探偵を出して
はどうかという案が生まれた。そうなれば怪獣出現の状況も無限に設定できる。

 一方、当時、円谷プロが抱えていたお蔵入り企画の一つに『WOO』があった。アンド
ロメダ星雲から飛来して地球に居候を決め込んだ宇宙人ウーが、相棒の青年カメラマンと
怪事件に挑むという話で、六四年、フジテレビ用の企画として提出したがボツになった。
円谷プロでは、この企画に備えてアメリカのオックスベリー社から、高価なオプチカル=
プリンターを購入したため、スタッフ一同、頭を抱えたという。もっとも『ウルトラQ』
で大胆な光学合成を多用できたのは、その機器のおかげではあったが。

『ウルトラQ』に続くシリーズ第二作はこの『WOO』をたたき台として考案されること
になる。その第一案は、宇宙から来た正義の怪獣ベムラーと、怪獣事件専門の捜査チーム
の活躍を描いた『科学特捜隊 ベムラー』だった。つまり、シリーズ第二作は、当初、あ
くまで科学特捜隊をメインにおき、正義の怪獣を配するという予定だったのだ。

 しかし、この案は正義の味方が怪獣ではヒーローとしての魅力に欠けるという理由で却
下、科学特捜隊だけを生かしてヒーローの強化を目指すことになる。次の改定案『科学特
捜隊 レッドマン』では、ヒーローのデザインを除いて『ウルトラマン』の基本設定とほ
ぼ同じものとなっている。

 ちなみにウーは『ウルトラマン』第三十話「まぼろしの雪山」、ベムラーは同第一話「
ウルトラ作戦第一号」の怪獣名に生かされた。また、レッドマンの名は一九七二年、幼児
番組『おはよう!こどもショー』の怪獣ショーのヒーローに受け継がれたが、その全身が
真っ赤に塗られてしまったのは惜しかった。

 本来、レッドマンとは人類をリード(lead)する先導者の意を秘めた「LEDMA
N」であり、赤い男などではなかったのである。

 さて、このような紆余曲折を経て、「ウルトラQシリーズ」第二作『ウルトラマン』は
ようやく産声を挙げることになる。この経緯を見ても判る通り、科学特捜隊の誕生はウル
トラマンの誕生に先んじていたのである。

科学特捜隊とは何か

 さて、科学特捜隊とはいかなる組織なのか。第一話でのナレーションなどによると、科
学特捜隊は国際科学警察機構に属しており、本部はパリにある。支部は世界各地に二十数
個所置かれているらしいが、日本支部以外、『ウルトラマン』全三九話の中で実際にドラ
マの中でその存在が語られているのは、ブラジル支部(第六話)、インド支部(第七話)
、トルコ支部(第七話)、中近東支部(第十三話)、ニューヨーク支部(第二七話)、南
米ボリビア支部(第三一話)である。この内、ブラジル支部だけは科学特捜隊ではなく、
国際科学警察の支部と呼ばれており、他の支部と性格を異にするのかも知れない。

 また、インド支部とトルコ支部は中東の砂漠における隕石落下と連続航空機墜落事故の
関係を調査中、多くの行方不明者を出している。また、南米支部は吸血植物ケロニアのた
めに一時、壊滅したらしい。

 各支部とも数カ国にまたがる広域をカバーしているようだが、中近東支部とトルコ支部
、南米ボリビア支部とブラジル支部の関係は不明である。

 第二話では、防衛隊の緊急会議にムラマツ隊長が出席し、謎の宇宙人(バルタン星人)
への対応について発言しているが、これはオブザーバーとして参加を許されたものとみな
すべきだろう。科学特捜隊は防衛隊(軍)に属するものではないが、緊急時には助言を求
められることがある、というわけである。ちなみにこの時、議論紛糾の末、けっきょくは
ムラマツの主張が通る形で会議が終わっている。科学特捜隊の経験と専門知識には防衛隊
でも一目置かざるを得ないだろう。なお、防衛隊の上部組織には総合防衛委員会なるもの
があるらしい(第三六話)。

 防衛隊は科学特捜隊本部が四次元怪獣ブルトンに占拠された時、フジ隊員からの要請で
これを攻撃している(第十七話)。また、ケムラーが大武市に侵入しようとする時、科学
特捜隊に先立って攻撃したのも防衛隊である(第二一話)。むろん、いずれの場合も、通
常兵器では歯が立つものでもなかったが。

 防衛隊と自衛隊との関係ははっきりしないが、科学特捜隊はゴモラ迎撃のために自衛隊
伊丹基地との連携作戦も行っており、一応、両者は別組織と考えた方がよさそうである(
第二七話。なおこの作戦では大阪府警も協力した)。科学特捜隊と自衛隊との連絡は必ず
しも綿密なものではなく、そのため第三四話ではせっかく空中に飛ばしたスカイドンを航
空自衛隊が打ち落とすという大失策を演じている。

国際科学警察機構のモデル

 科学特捜隊の上位組織としての国際科学警察機構、その実在のモデルはおそらくインタ
ーポール(INTERPOL)だろう。インターポールは国際刑事警察機構(Inter
national Criminal Police Organization)の電
信略号である。一九〇一年、スコットランド=ヤード(ロンドン警視庁)のE=ヘンリー
総監は国際交流の活発化が、犯罪の国際化を招いていることを憂慮し、ヨーロッパ各国共
同の捜査共助機関をつくることを提案した。ヘンリーの原案では、それは各国警察でファ
イルした犯罪者の指紋を一ケ所に集めるというものだったが、数次の国際会議を経て、そ
の案は次第に具体化・精密化し、一九二三年にはようやく国際刑事警察委員会(ICPC
)の成立にこぎつけた。加盟国はヨーロッパのみならずアジア、アフリカも含めた二十カ
国、その中には日本も含まれていた。

 ICPCは第二次世界大戦で機能が停止し、形ばかりの組織になったが、四六年、ベル
ギーの警視総監F=E=ルワージュの提案で再建されることになり、新しい憲章作りがす
すめられた。五六年、第二五回ICPC総会で、ICPO憲章は採択され、ICPCの発
展的解消が決定する。こうしてインターポールが誕生したのである。

 インターポール本部は科学特捜隊と同様、パリに置かれている。その目的は、国際犯罪
の捜査活動で、各国警察間の相互協力を促し、推進することにある。また、国連人権憲章
の精神に基づき、政治的、軍事的、宗教的、人種的性格を持つ事件の取扱いがきびしく排
除されている。具体的活動としては広汎な通信網による国際手配の迅速化、国際捜査網の
拡充、情報照会や刑事事件の調査研究などがある。加盟国は一九九三年一月の時点で一六
九カ国、共産圏の解体や小国の独立ラッシュでこの数はいっそう増加する傾向がある。

 ただし、インターポールの活動は加盟各国の国内法の範囲で行われるため、現場での捜
査や逮捕は各国警察にまかされているというのが実情である。つまり、インターポールの
ゼニガタ警部が埼玉県警のパトカーでカリオストロ公国に乗り込むという光景は実際には
ありえないのだ。最近では、麻薬密輸や多発テロなど国際犯罪も複雑化・凶悪化している
ため、インターポールの他にも国境を越えた警察権を持つ組織が必要だという意見もあり
、国連の常設軍をそれにあてるべきだと説く論者もある。

 それはさておき、国際科学警察機構という命名には、このインターポールが強く意識さ
れていることは間違いない。国際刑事警察機構をICPOと呼ぶひそみにならえば、国際
科学警察機構はさしずめISPOか。

 また、インターポールが国連とはまったくの別の組織であることも注意しておく必要が
ある。『ウルトラマン』が製作される以前、すでに国連は朝鮮戦争で多国籍軍を組織した
例があり、すでにその軍事連合的性格を明らかにしていた。そこで当時のスタッフは、国
連とは別組織のインターポールにモデルを仰ぐことで、科学特捜隊の国家や軍に対するフ
リーランスな立場を強調したと思われるのだ。

科学特捜隊のモデル

 さて、科学特捜隊が国際科学警察機構に属し、世界各地に支部があるといっても、実際
に作中で常に活躍するのは、日本支部ムラマツ班の正隊員五名のみである。

 こうした少数精鋭の特殊技能チームは、六六年四月、NHKで放映が開始された『サン
ダーバード』(イギリス、ITC製作)の国際救助隊を連想させる。しかし、『サンダー
バード』の放映開始時には、すでに科学特捜隊の基本設定はできていたはずだから直接の
影響は考えにくい。これはやはり、『事件記者』(五八年開始)『七人の刑事』(六一年
開始)『特別機動捜査隊』(六一年開始)『ザ・ガードマン』(六五年開始)など先行す
る事件モノ・探偵モノの捜査チームに学んだものと思われる。

 そもそも日本におけるTV探偵モノの元祖は一九五五年、KRテレビ(現TBS)製作
の『日真名氏飛び出す』だった。探偵役のカメラマン日真名氏(演・久松保夫)と間抜け
な助手の泡手大作(演・高原駿雄)が毎回、難事件を解決するというものである。当時、
おりからの推理小説ブームで、『日真名氏飛び出す』も大ヒットとなり、一九五七年には
本格推理のTVドラマ版『私だけが知っている』(NHK)、刑事事件実話のドラマ化『
ダイヤル一一〇番』(日本テレビ)も始まって、探偵モノはTVでもおなじみのジャンル
になった。そして、『事件記者』でレギュラーの捜査チームというパターンが定着するこ
とになるのである。

 ちなみに『日真名氏飛び出す』のレギュラー設定は『ウルトラQ』の人物設定に明確に
影響を与えている。『ウルトラQ』から『ウルトラマン』への展開は、事件モノ・探偵モ
ノにおける、素人探偵−専任捜査チームという流れの後を追うものだったのである。

チームの要・ムラマツ隊長

 科学特捜隊ムラマツ班隊長・ムラマツは、強い指導力と部下の言に耳を傾ける器量を合
わせ持ち、上司に持つならこんな人、といいたくなるような人柄の人物である。演ずるは
小林昭二氏。小林氏は一九三〇年九月生まれ、放送開始当時は三五歳だった。

 一九七一年、『仮面ライダー』がTVドラマ化される際、当初のキャスティングでは主
人公の庇護者となる立花藤兵衛役に別の俳優が決まっていたにも関わらず、ムラマツ役の
実績を買われて急遽、小林氏が起用されるといういきさつがあった。

 おかげで、小林氏は後に、とんねるずの特撮パロディでも、「おやじさん」役で引っ張
り廻されることになるのだが、それも小林氏の演ずるムラマツや立花藤兵衛のキャラクタ
ーが印象深ければこそだろう。

 ムラマツに話を戻すと、彼は隊員たちからは「キャップ」と呼ばれ、慕われている。「
キャップ」は語源的には、キャプテンの省略形である。『ウルトラマン』に先行する人気
ドラマ『事件記者』では、アイさんこと、相沢編集長(演=永野智雄)が他の記者からキ
ャップと呼ばれていた。『事件記者』放映当時、永野氏は、たまたまけんかの現場にいあ
わせでもすると、周りから「何をしているんですか、キャップ」と声をかけられたものだ
という。重々しい「隊長」に比べ、軽い語感の「キャップ」は、民主的雰囲気を持つ科学
特捜隊にふさわしいものだった。

 ムラマツはパイプ党で、パイプ片手の姿がしばしば見られる。パイプは木製、桜材の高
級品だろうか?第三一話では、火の嫌う吸血植物ケロニアの超能力のしわざで、パイプを
吸おうといくら火をつけても手元で消えてしまい、困るという場面があった。パイプは落
ち着いて火をつけ、じっくりと吸い込まないと味わえない代物である。スパスパと吸える
紙巻きよりも、心を鎮める効果は高い。パイプが似合う人は思慮深く見えるものである。
ムラマツが他の隊員(そしてTVの前の子供たち)に与える安心感には、このパイプも寄
与していることだろう。なお、小林氏は『帰ってきたウルトラマン』第十三話・第十四話
では船長役で出演しているが、そこでも相変わらずパイプ(マドロス・パイプだが)が似
合うところを見せつけてくれた。

 街中で突然の雨に出会って、ビートル機で傘を届けさせる(第三四話)など、やや公私
混同ぎみのところはあるが、それでもなお、度量が大きくて頼れる、日本型企業での理想
の上司といえるだろう。

働く女性・フジ隊員

 フジ隊員、名はアキコ。科学特捜隊正隊員の中では唯一、フルネームが判明している人
物である。演ずるは、前作『ウルトラQ』の江戸川由利子役で女優デビューした桜井浩子
氏。桜井氏は一九四六年三月生まれ。『ウルトラQ』第十七話では1/8人間になってバ
スケットに隠れ、『ウルトラマン』第三三話では、巨大化してビルを壊すなど、身長の点
でも幅広い役どころをこなした。余談だが、ある書籍で、彼女の写真としてこの二場面の
スナップのみを掲載した例がある。編集者ももう少し考えれば良いのに、とも思ったが、
それでも笑いが止まらぬ対称の妙ではあった。

 最近、桜井氏は回想録『ウルトラマン青春記』(小学館)を出され、撮影秘話をいろい
ろと明かしてくださっている。

 さて、フジは働く女性である。彼女は時代の最先端を行く職場・科学特捜隊の一員であ
ることを誇り、「現代のファーストレディ」を自認している(第十四話、ちなみにこの話
では、彼女の誕生石が真珠であることが明かされる)。

 主な仕事は、本部への通信を受け取る係だが、他の隊員とともにビートル機で現場に赴
くこともある。また、まめにコーヒーを入れ、疲れて本部に帰ってくる隊長や他の隊員の
労をねぎらっている。第五話では、アラシが特性アキコスープを出される栄に浴している
(もっとも、それを味わう前に彼は闘いへと駆り出されてしまうのだが)。

 休暇がとれれば旅行もするし(第四話、ただしわずか二日間の特別休暇で行き先も湘南
だった)、給料日には銀座でショッピングを楽しむ(第十四話)など、勤務中以外のプラ
イベートな表情をもっとも多く見せてくれたのも彼女である。

 女性の社会的進出が進んだ今では、女性にお茶くみを一任するというのは、反発を招く
光景だが、一九六〇年代当時といえば、(経営者の意識では)ほとんどお茶くみのためだ
けにオフィスに女性を置くということが珍しくなかった時代である。

 その時代にあって、フジは入隊以来、一度も自分からは休暇を申し出ないという頑張り
を見せ(第四話)、また、アラシの「そんな事件は女子供にまかせておけばいいでしょう
」という発言の言葉じりをとらえて、出動のチャンスをつかんでしまうようなたくましさ
もあった(第二一話)。しかも、考えてみると、本部での通信管理というのは、直接、情
報のたずさわっている分、現場での実働以上に責任ある任務なのだ。私は第四話を見なが
ら、フジ抜きで本部は果たして大丈夫か、と気をもんでしまった一人である。

 感情的な反発だけでは、頭の固い男どもの意識を変えることはできない。女性の社会的
地位を向上させるためには、お茶くみを押しつけられながらも、一人一人が地道な努力で
職場での地歩を固めてゆかねばならぬ時代があったのである。フジはそのゲリラ戦の闘士
であった。

 もっとも、科学特捜隊のコーヒー管理がフジにまかされていた理由の一つには、フジの
休暇中、イデが入れたコーヒーに塩が入っていたというムラマツの鹹い、いや苦い経験が
あるのかも知れない。

 設定年代(近未来)ではなく、製作時(六〇年代)の働く女性の記録として、『ウルト
ラマン』を見直すというのも興味深いテーマになりうると思う。

闘う発明家・イデ隊員

 イデ隊員はひょうきんさとナイーブさを合わせ持つ人間味豊かなキャラクターである。
演ずるは二瓶正也氏。一九四〇年十二月生まれ。後に『マイティジャック』の源田隊員役
や『おやこ刑事』のポパイ刑事役としても、ひょうひょうとした演技を見せてくれた。

 最近では、本業の方が忙しく、俳優としてはよほど気に入った役しか引き受けられない
のだそうたが、たまには私たちファンに、最近の姿を見せていただきたいものである。

 さて、イデは持ち前の明るさで、科学特捜隊のムードメイカーになっている。オイリス
調査団の生き残り・浜口節子から話を聞く際のもったいぶり様から、アラシに「ばか、シ
ャーロック=ホームズみたいに気取るんじゃないよ」とつっこまれたり、金星探検ロケッ
ト・オオトリから自らの食事風景を送信する毛利博士に合わせて動き、ついには踊り出し
てしまう時など、本当にノリやすい、おっちょこちょいな面を見せてくれるのである。

 また、女性には弱く、イエスタディ氏失踪事件の捜査中、その助手が美人だというだけ
で、「彼女は絶対犯人じゃないよ」と言い出したり(第十七話)、フジのショッピングに
つきあって、たくさんの荷物を持たされたりもしている(第十四話)。

 しかし、彼は悩むべき時には、力一杯悩む。自分たちの先輩ともいうべきジャミラと闘
う時の深刻な苦悶(第二三話)や、「ウルトラマンさえいれば我々科学特捜隊は必要ない
のでは?」と眠れないほど真剣に考え込む様(第三七話)には、彼こそが科学特捜隊の良
心なのでは、と思わせるものがあった。

 とはいえ、科学特捜隊としての彼の属性で、筆頭にあげられるのは発明家だということ
である。

 彼の発明としては、バリアーマシン(第十二話)、全宇宙語翻訳機、マルス133(第
十六話)、マッドバズーカ(第二一話)、スペクトルα・β・γ線(第二三話)、特殊合
金溶解機(第二四話)、水爆探知機、強力乾燥ミサイル(第二五話)、探査ビーコン(第
二七話)、地底戦車ベルシダー(第二九話)、QXガン(第三六話)、スパークX(第三
七話)、ニードルS80( 第三八話)などがあげられる。

 その多くが実用的な携帯型兵器であることは、発明家としてのイデの関心が主にどの方
面に向かっていたかを示している。第二七話で、彼は「新兵器のことならまかせて下さい
」という頼もしいセリフを吐いているほどである。

 また、スーパーガンやスパイダーショットなど、科学特捜隊が日常的に用いる火器の点
検・修理もイデの仕事だった(第三七話)。

 彼の発明の多様さは、彼が一つの専門に閉じ籠もる学者タイプではなく、応用力のある
技術者タイプであることを示している。たとえば全宇宙語翻訳機を作るためには、コンピ
ューターなど理系の知識ばかりではなく、言語学など文系の素養も要求されるはずなので
ある(イデは第二話で宇宙語の研究にとりくんでいる)。

 また、QXガンやベルシダーのようにイデ自身の発案で長年かけて開発したものもある
が、その他の多くは必要に応じ、他人から与えられたヒントを取り入れて発明したもので
あり、ここにもイデの応用力の広さがうかがえる。

 たとえば、スペクトルα・β・γ線はムラマツの、マッドバズーカはホシノ少年のヒン
トに基づき、きわめて短期間に開発したものだった。溶解機にいたっては、海底の科学セ
ンターに閉じ込められたムラマツらを救うという、時間との闘いの中で作り上げたものだ
ったのである。

 ちなみに第二一話でイデは、ホシノ少年から「ケムラーの急所を狙って一発で仕留めれ
ばいい」というヒントを受ける前、怪獣ケムラーの毒ガスを中和する薬品の研究にとりく
んでいた。その時、彼はメガネをかけているが、これは別に彼の目が悪かったことを示す
ものではないようである。化学の実験、特に強アルカリを扱う場合、実験者がダテメガネ
をかけることは、大学の研究室などでよく見られる情景である。ケムラーの毒ガスの主成
分は亜硫酸ガスであることが判明している(第三七話)ので、中和剤もおそらく強アルカ
リをベースとするものだったのだろう。

 いったん発明の楽しみにとりつかれた人は、なかなかその誘惑を逃れることはできない
という。おそらくイデは科学特捜隊を引退した後も、持ち前の人を食った性格で怪しげな
発明品を売り込み続けていることだろう。

楽観と直観の人・アラシ隊員

 アラシ隊員は誤解を受けやすい人物である。なにしろ、第五話や第十二話に見られるよ
うに、怪獣を見ると真先に突っ込んでいく性格だし、「オレは怪獣を見るとむしょうに撃
ちたくなるんだ」などという迷セリフまである。かつて刊行された怪獣本の中には、彼の
ことを、「性格破綻者」と紹介したものまであった。

 しかし、彼は決して粗暴な人柄ではない。第二七話や第三〇話のラストで彼がもらす感
傷的なセリフは、その内面の心優しさをうかがわせるものだった。

 アラシの一見、好戦的に見える行動は、実は責任感に裏打ちされている。本人も「私が
いくらスパイダーショットの名手だからって、そうむやみにぶっ放すわけじゃありません
よ」と言っている(第十二話)。

 攻撃されればされるほど強く凶暴になる怪獣ザラガス相手に、攻撃禁止の命令を受けて
いながら、目の前の子供を救うために発砲するまでの葛藤は、アラシの面目躍如たるとこ
ろである(第三六話)。

 また、第五話のオイリス島調査団員連続殺人事件で、アラシは、シャーロック=ホーム
ズ気取りのイデを尻目に、真先に犯人の正体を指摘している。第八話では、「おれの推理
とスパイダーは外れたことがないって有名だぜ」と豪語している。彼は、その真摯な性格
ゆえに余計な夾雑物に惑わされず、真相に到達できるらしいのである。アラシが中心にな
るストーリーでは、主にその責任感に焦点が当てられているが、鋭い直観力もまた見逃す
べきではないだろう。アラシもまた、他の四人と同様、科学特捜隊という「名探偵」を構
成する重要な要素なのである。

 また、イデとの名コンビぶりも印象が強い。アラシのツッコミにイデのボケという会話
の呼吸は、しばしば重要なコメディ・リリーフとなっている。それに、イデがいかに強力
な兵器を発明しても、それにアラシの射撃の腕がともなわなければ、威力が発揮できなか
ったのである。ナイーヴなイデと呼吸が合うあたり、アラシが単なる猪武者ではなかった
という何よりの証拠だろう。

 アラシを演ずるは、石井伊吉、後の毒蝮三太夫氏である。立川談志師匠が、「あいつは
怪獣に食いつくほどだからマムシに違いない」といって、高座名を与えたというエピソー
ドは有名である。毒蝮氏は続く『ウルトラセブン』でも、フルハシ隊員役を好演し、最近
の新作『ウルトラセブン』では、フルハシ隊長に昇格しておられる。

謎の男・ハヤタ隊員

 ハヤタ隊員はまったく性格がつかめない男である。他の隊員たちのように、人間性を垣
間見せるようなスキがない。『ウルトラマン』全三九話を通しで見ても、ハヤタのプライ
ベートに関する情報は、さっぱり出てこない。一応は科学特捜隊日本支部のエース、副隊
長格であり、ムラマツが行方不明の時には、キャップ代行として実際に指揮をとったりし
ている(第二八話)が、ふだんはイデ、アラシ、フジと同格の隊員としての節を守ってい
る。いささか出来過ぎた人柄で、面白みというものがまったくない。

 せいぜい、インド支部から来たパティ隊員の案内役をおおせつかるため、イデとアラシ
をインチキのくじで引っ掛けたり(第三二話)、カレーを食べている最中に慌てて出てい
ったため、スプーンでウルトラマンに変身しようとしたくらいである(第三四話)。

『ウルトラマン』では、悩む役はイデに、ガムシャラに突進する役はアラシにまかせ、ハ
ヤタは個性豊かな科学特捜隊隊員のまとめ役に撤しているのである。

 しかし、一般的に当時のヒーローというものは、人間としての面白みがないのがふつう
であった。彼らに求められたのは完璧さであり、人間味ではなかった。一九六〇年代後半
になるまで、人間味あふれるヒーローが子供向けのTV番組に登場することはめったにな
かったのである。

 手塚治虫原作のアニメ『ジャングル大帝』で、アフリカの仲間たちと人間の間で葛藤す
るレオの姿が描かれたのは一九六五年、主人公・星飛雄馬の心理描写で話題になった梶原
一騎原作『巨人の星』のアニメ化は一九六八年のことである。『ウルトラセブン』のモロ
ボシ=ダンにしても、悩めるヒーローとしてはかなり早い例に属している。

 したがって、一九六六年時点のキャラクターであるハヤタに、ダンのような悩めるヒー
ロー像、あるいは『帰ってきたウルトラマン』の郷秀樹のような人間的に成長していくヒ
ーロー像を期待しても無理というものなのだ。

 それに第一、今だからこそハヤタのキャラクターに物足りなさを感じるわけで、『ウル
トラマン』放映当時、ハヤタは、日本中の子供みんなの憧れを一身に集めていた。ハヤタ
の無性格さは、かえって得体の知れない宇宙人ウルトラマンと命を共有するにふさわしい
キャラクターを形成していたのである。

 ハヤタを演ずるのは黒部進氏。当時、黒部氏はヒーローにふさわしい役作りのために走
り方やポーズの一つ一つに気をつかい、撮影現場では、桜井浩子氏や子役の津沢彰秀氏ら
の憧れの的だったという。

 『ウルトラマン』終了後、黒部氏は特撮モノや時代劇の悪役として、おなじみの顔にな
っていく。私もハヤタに憧れていた一人として、黒部氏の演ずる悪役を複雑な思いで眺め
ていたものだ。ひょっとすると、黒部氏は優等生的ヒーローを演じていた間の欲求不満を
悪役として解消していたのかも知れない。

 なお、黒部氏演ずるハヤタは、ウルトラマンの仮りの姿として、『帰ってきたウルトラ
マン』第三八話、『ウルトラマンタロウ』第三三話、第三四話にも登場する。『ウルトラ
マンタロウ』でのハヤタ(ウルトラマン)は、それぞれに個性的なウルトラ兄弟のまとめ
役に撤しており、『ウルトラマン』時代の役どころそのままで苦笑してしまった。

 ちなみに一九九三年十月十七日放映の『有言実行三姉妹シュシュトリアン』(フジテレ
ビ)第四〇話、「ウルトラマンに逢いたい」では、黒部氏は、円谷プロで着ぐるみの修復
をする「怪獣おじさん」役で出演。円谷プロを逃げ出して暴れるバルタン星人らを鎮める
ため、久々のウルトラマン変身シーンまで見せてくれている。

ホシノ少年と科学者たち

 科学特捜隊の正隊員としては、他にパリ本部のジム隊員(第七話)、アラン隊員(第二
三話)、アンヌ=モーハイム隊員(第二二話)、インド支部のパティ隊員(第三二話)ら
が登場する。また、第三話で初登場して以来、なぜか科学特捜隊本部出入り自由の特権を
持っていたホシノ=イサム少年は、第十六話でとつぜん隊員服を着用した姿を見せ、第十
七話ではその独自の捜査ぶりが認められて、正式に特別隊員に任命される。彼がどういう
きっかけで科学特捜隊に出入りできたのかは不明だが、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズ
になじんでいた当時の子供たちにとって、少年探偵の存在はドラマ上、それほど不自然な
ものでもなかった。今の子供たちにとって、学校や家庭に縛られない同年代の子供を受け
入れることは困難である。だが、六〇年代当時、子供たちに対する学校や家庭の心理的抑
圧は現代ほどには厳しいものではなかったのである。

 なにはともあれ、ホシノ少年は、テレビの前の子供たちを代表して、科学特捜隊に出入
りしていたともいえよう。演ずる津沢彰秀氏は、ハヤタを演ずる黒部氏に憧れていたとい
うが、その感情が、第十八話、ザラブ星人に捕らわれたハヤタを救出する場面などで自然
な演技をもたらしたのであろうか。

 その他、第二〇話でイデと電話で話をする警備員など科学特捜隊本部には隊員以外の職
員もいる。また、名前はわからないが、ムラマツ班以外の隊員とも共同作戦を行うことが
あるらしい(第二六話におけるジョンスン島からのゴモラ空輸や、第二三話の人工降雨弾
によるジャミラ撃退など)。

 さて、科学特捜隊の作戦において、隊員たちと同様、あるいはそれ以上に重要な役割を
果たすのは、オブザーバーとしての科学者たちだ。その中でも、もっとも活躍するのは科
学センターの岩本博士である。彼は、第五話で連続殺人犯人の遺留品を分析して以来、サ
ブレギュラーとして、科学特捜隊の作戦活動に助言してきた。専門は生物学らしいが、天
文学にも造詣が深く(第二五話)、第十六話では宇宙ロケット・フェニックス号を開発し
たり、科学特捜隊のビートル機に外宇宙用のサブロケットエンジンをつけるなど、技術者
的側面も持っている。『ウルトラQ』のレギュラー・一の谷博士のような万能型の科学者
だったのだろう。このようなキャラクターの存在が許されるだけでも、当時は本当にのど
かな時代だったと思う。なお、『ウルトラマンベストブック』(竹書房)は、『ウルトラ
マン』本編に語られない、マニアックな裏設定が付け加えられていて楽しませてくれる本
だが、それによると、岩本博士はかつてゴジラの生態研究で有名な山根博士(『ゴジラ』
『ゴジラの逆襲』)と、一ノ谷博士の二人に師事していたという。

 ちなみに、ウルトラマンよりも強い宇宙恐龍ゼットンをも粉砕する新兵器「無重力弾」
もまた、岩本博士の発明である。演ずる故・平田昭彦氏は、『ゴジラ』(五四)で、新兵
器「オキシジョン=デストロイヤー」を発明し、海底でゴジラと運命を共にする芹沢博士
役でも有名。よくよく強い怪獣を倒す新兵器に縁がある人だったらしい。

 また、第十九話で登場、怪獣相手の実戦にも参加した宇宙考古学の権威・福山博士は、
第二二話で再登場する。この時、福山博士はテレビセンターで、東京一円の電波通信網混
乱について調査していた。

 その他、一回きりの出番ではあるが、生物の能力を持つという未知の隕石を分析した科
学センターの山本博士(第十一話)、宇宙からの赤い霧を分析した同じく科学センターの
森田博士(第十八話)、ゴモラの万博展示を計画した阪神大学の中谷教授(第二六話、第
二七話)、宇宙線研究所の異常を調査にきた中央宇宙原子力研究所の秋川技官(第二八話
)、高良市の怪植物を調査した二宮博士(第三一話)、ロケットセンターの月ロケット開
発者(第三五話)、ピグモンの言葉を分析したイルカ語の権威・東西大学の権田博士(第
三七話)など、それぞれに魅力的な科学者たちが科学特捜隊に協力している。

 彼らは一応、科学の肯定的な側面を代表する存在ではある。しかし、マッド=サイエン
ティストの歴史は近代科学と同じくらい古い。小説・映画・TVを問わずSFに登場する
科学者が「皆そこはかとなく狂っている」とは、米田仁士氏(イラストレイター)の名言
である。科学特捜隊の顧問たちも一歩誤れば、大先輩たるフランケンシュタイン博士やジ
ーキル博士、モロー博士らの轍を踏むところだっただろう。

 岩本博士は、七千年の眠りから醒めた古代人のミイラの(第十二話)、中谷教授は、一
億五千万年の太古より生き延びてきたゴモラの生命力の秘密を探るため、すでに犠牲者や
被害が出ているにも関わらず生け捕りに固執していた。けっきょく、彼らは人命尊重の立
場から、資料を殺すことに同意したが、中にはそうした決断ができない者もいる。

 怪獣の生命力に魅せられ、怪獣を愛するあまり道を踏み外した科学者。それは第十話に
登場する「モンスター博士」こと二階堂教授である。二階堂教授は、イギリスのネス湖探
検で恐龍を見つけ、それを連れ帰って怪獣に育てあげてしまったのである。成長した怪獣
ジラースは、マナーの悪い釣り人がまいた毒のために狂い、育ての親の二階堂教授を踏み
つぶしてしまう・・・

 意外なことに、二階堂博士は、バルタン星を滅亡させたというかの星の科学者を除いて
『ウルトラマン』に登場する唯一のマッド=サイエンティストである。ちなみに、回想シ
ーンでの二階堂教授はサファリ=ルックで熱帯の密林をかきわけるようにしてネス湖に向
かっている。彼が目指したネス湖はいったいどこにあったのだろうか(実在のネス湖はス
コットランドの寒冷地)。

 ウルトラQシリーズでは、科学の否定的側面は語られることはあっても、それが科学者
自身の悪意と結びつくことは慎重に避けられている。『ウルトラQ』第八話「甘い蜜の恐
怖」は新発明の成長剤を飲んだモグラが巨大な怪獣となる話であり、一見、科学者がもた
らした悲劇のように見える。しかし、その事件の直接の原因は、同僚の成功を妬んだ人物
のいたずらによるものだった。ここでも、事件の遠因をもたらした科学者と、悪意の主体
とは明確に区別されているのである。全般的には、ウルトラQシリーズの科学観は、楽天
的なものである。科学は心正しい人の手にありさえすれば、その否定的側面が押さえこま
れ、人間に貢献しうるはずというわけだ。しかし、それだけに科学の否定的側面に人格ま
で飲み込まれてしまった二階堂博士の存在は、ウルトラQシリーズ全体を通して、精彩を
放っているのである(なお、けっきょく映像化されることはなかったが、『ウルトラマン
』劇場用台本「ジャイアント作戦」には、二階堂博士以上に本格的なマッド・サイエンテ
ィスト、ゾオ博士が登場する)。

 協力的な科学者たち、彼らなしでは科学特捜隊はその捜査活動を押し進めることができ
なかった。その意味では、彼らも科学特捜隊の活動を助ける重要な要素であったというこ
とができよう。

名探偵・科学特捜隊

 さて、科学特捜隊を組織として見れば、それはどのようなものになるだろうか。科学特
捜隊がインターポールのような超国家的な警察組織に属していることは、すでに述べた。
また、その任務の専門性から現実のインターポールにはないような特殊な権限も与えられ
ているらしい。彼らの一見、過剰に見える武装も、警察官が持つピストルや警棒の延長線
上にあると考えることができよう。もっとも、彼らはその武装ゆえに警察と軍隊の間の塀
に登っているということもいえる。そして、科学特捜隊はかろうじて軍隊側に落ちるのを
免れていたのである(憲法議論でいつも槍玉にあげられる自衛隊が、その発足当初、警察
予備隊と称していたのが思いおこされる)。

 だが、話を日本支部・ムラマツ班に限ると、問題は別の様相を呈してくる。前述の『ウ
ルトラマン新研究』では、これを企業組織に見立て、「創造性」「ゆとり」「個の尊重」
を欠いている点では絶望的だと論じている(同書終章、二二〇〜二二二頁)。

 しかし、企業ではないものを、企業を基準として批判されては科学特捜隊も迷惑という
ものだろう。

『ウルトラマン』全話からうかがえるムラマツ班の特性は、ムラマツを擬制的父、フジを
擬制的母(もしくは姉)とする、家父長制的な擬似家族である。フジはハヤタに憧れてい
るらしく、また、イデとデートらしきものを楽しんでもいるが、そこには恋愛感情が芽生
えるような徴候は見られない。それも「家族」であれば、当然のことだろう。

 そして、その擬似家族的特性ゆえにホシノ少年は出入りを許されていたのだ。ホシノ君
は彼ら全員のかわいい弟というところだったのだろう。家内産業の零細企業ならいざ知ら
ず、大企業の経営戦略をこうした組織にあてはめようとしても、うまく行くはずはない。
一切の組織を企業モデルでしか理解できない、これは現代人に特有の疾病のようにさえ思
えてくる。

 しかし、TVの前の子供たちを魅きつけた要因の一つには、その科学特捜隊がかもしだ
す家族的雰囲気があったのではないか。家族以外の現実の組織にそうした雰囲気を求める
ことは困難なばかりではなく、場合によっては有害である。家族というのは温かいもので
あると共に、多分に煩わしいものでもあるからだ。しかし、フィクションの世界でだけは
組織に家族的雰囲気を求めても良いかも知れない。そういえば、当時の事件モノ、刑事モ
ノの捜査チームはみな、そうした家族的雰囲気を漂わせていた。それは決して日本だけに
見られる現象ではない。たとえば『サンダーバード』の国際救助隊。この組織は大仰な名
称にも関わらず、その実体としてはトレーシー家という一つの家族(とその家長の友人た
ち)に他ならなかったのである。彼らを束ねるものはジェフ=トレーシーの強力な家父長
権であった。

 さて、ムラマツ班は組織の構造としては擬似家族的特性を持っている。では、その目的
はいかなるものだったのだろうか。

 最近のウルトラマン=リバイバルの原動力の一つに『ウルトラマン研究序説』(サーフ
ライダー21編、中経出版)のベストセラーがあることは間違いない。それはウルトラマ
ン研究と銘打ちながらも、実質的には「科学特捜隊研究序説」と題した方がよいものであ
る。それは目次を一瞥しただけでもわかる。第一章の「科特隊、その組織戦略と管理にみ
る人事戦略」から終章の「『科特隊型』組織が社会を変えるヒントになる!?」まで、『ウ
ルトラマン研究序説』の各章はすべて表題に「科特隊」を冠しているのだ。『ウルトラマ
ン研究序説』が昭和三〇年代生まれの多くの人々の共感を呼び、「ウルトラマン世代」と
いう用語を定着させた功績は私も認めるところである。しかし、これを読み終えた時、私
は嘆息しないわけにはいかなかった。

 この本の編著者たちは科学特捜隊という組織の特性をまったく理解していないのである
。それどころか、その第二章では軍隊、第一章と最終章では企業経営のモデルとして科学
特捜隊の組織を持ち出すという愚行まで犯している。この誤解は、科学特捜隊の存在目的
を怪獣または宇宙人との戦闘と規定してしまったためにもたらされたものだろう。第二章
で科学特捜隊を軍事組織と同一視して、憲法第九条との関係を考察しているあたり、混乱
のもっともたるものといえる。

 しかし、『ウルトラマン』で見る限り、科学特捜隊がタッチした事件にはなんらかの形
で怪獣が関わっている。しかし、怪獣出現を確認してから、科学特捜隊の活動が始まると
いうケースは思いのほか少ない。全三九話の中でも、せいぜい第九話「電光石火作戦」第
十三話「オイルSOS」第十五話「恐怖の宇宙船」第二九話「地底への挑戦」第三〇話「
まわろしの雪山」第三四話「空の贈り物」第三五話「怪獣墓場」第三七話「小さな英雄」
の八話のみなのである。しかも、「小さな英雄」で、通報を受け、出動した科学特捜隊を
迎えたのは、あの友好珍獣ピグモンだった。

 他の話では、すべて原因不明の事件を捜査中、事態の進展、あるいは原因究明の結果と
して怪獣が出現しているのである。科学特捜隊が決して怪獣退治を目的とする組織でない
ことは明らかである。科学特捜隊は決して戦闘を目的とする組織ではない。たしかに科学
特捜隊は武装を認められているし、怪獣や宇宙人との戦闘に入ることはあるが、当初から
戦闘目的で事件に関わることはないのである。

 そもそも「特捜隊」という言葉には、本来、軍事的な意味合いはないはずである。それ
は警察の通常捜査では手にあまる事件を扱う「特別捜査隊」なのだ。

 科学特捜隊はあくまで警察機構の下部組織なのである。そのため、一見、ふつうの刑事
事件のように見えるケースでも、状況次第で警察から捜査への参加を依頼されることがあ
る。オイリス島調査団員連続殺人事件(第五話)、探検家イエスタディ氏失踪事件(第十
七話)など、いずれも怪獣出現という展開を迎えはしたが、その捜査の手続きは通常の警
察と大きく異なるものではなかった。

 また、自然現象とおぼしき事件についても、調査に応ずることはある。伊豆伊和見山の
古井戸から響く怪音事件(第三話)、北山湖の魚類異常発生事件(第十話)、大武山の有
毒ガス発生事件(第二一話)などである。おそらく、科学特捜隊が扱った未公開事件ファ
イルには、けっきょく通常の警察に委ねることになった刑事事件や、大事にいたらなかっ
た自然現象の類が一山収められていることだろう。

 なお、科学特捜隊に一般の警察が協力した例もないわけではない。たとえば、第六話で
は神奈川県警、第二七話では大阪府警との共同作戦が行なわれている。ことに第六話の場
合、その作戦に防衛隊や自衛隊が参画していない点が注目される。

 科学特捜隊員の職務は警察官のものであり、軍人のものではなかった。しかし、『ウル
トラマン』に続くウルトラ・シリーズ第三作『ウルトラセブン』では、その設定は変わっ
てしまう。『ウルトラセブン』におけるウルトラ警備隊は、地球防衛軍の一セクションと
して位置付けられるのである。それはウルトラQシリーズとそれ以降のウルトラ・シリー
ズの世界観の違いの反映でもあった。

 『ウルトラセブン』以後のウルトラ・シリーズにおいて、歴代チームは常に軍部にその
行動を掣肘され続ける。

 科学特捜隊はその難を免れた点で、特異な地位を保っているのである。それというのも
、科学特捜隊が単なる戦闘集団ではなかったおかげというべきだろう。

 また、科学特捜隊は超国家的組織に属しているため、一般の警察と距離を置いた行動が
とれる。軍(防衛隊)からも警察からもフリーランスな立場で、しかもその発言が重んじ
られるということでは、科学特捜隊の位置はかつて推理小説の世界で活躍した「名探偵」
に相当するものかも知れない。実際、第六話で、歯形が刻まれた体長二十メートルのサメ
の死骸がうちあげられたというニュースから、ハヤタが「なぜサメが二十メートルにも大
きくなったか」「そのサメが噛み殺したのは何者か」という二つの疑問を引き出すあたり
、本格推理の名探偵をほうふつとさせるものがあった。

 そうなるとイデがホームズを気取るのも当然だといえよう。ムラマツがパイプを愛用し
ているというのも意味深である(パイプはディアストーカー、インバネス・コート、虫眼
鏡とともにシャーロック=ホームズ氏を象徴するアイテムである)。

 『ウルトラマン』を探偵モノとして見直す、この試みは意外と面白いものになるかも知
れない。少なくとも、科学特捜隊の組織に企業や軍隊を見出すよりも、はるかに健全な見
方にはなることだろう。


第四章 M78星雲の彼方