あとがき



 本書の構想は、科学特捜隊のファンである妻との日頃の雑談の中から生まれたものであ
る。執筆は一九九四年の夏、前年とはうって代わったうだるような暑さと水不足の最中に
行われた。脱稿から現在までの間には、本書の内容にも関わる様々な事件があった。

 たとえば、同年十月十三日、大江健三郎氏のノーベル文学賞受賞が決定。翌九五年一月
十七日には阪神大震災、そして三月二十日の東京都心地下鉄サリン事件、三月三〇日の国
松孝次警察庁長官狙撃事件と日本の安全神話を根底からくつがえすような事件が続発した
。さらに、その一連のテロ事件については、警察による捜査の過程で、終末感を唱えるカ
ルト教団・オウム真理教の問題が浮上し、マスコミでは、その教義にアニメやゲームなど
のサブ=カルチャーが与えた影響が取り沙汰されるようになった。

 大江氏が予見し、私が本書でその実現が迫っていると主張した「未来法廷」は、どうや
らすでに始まってしまったようである。その意味では、本書の内容はすでに現実に追い越
されてしまった。私は予言者に成り損なったのだろうか。

 しかし、今改めて読み返してみるに、本書は一九九四年夏という時期を外しては書きえ
ない内容のものであったことも確かである。そして、この「未来法廷」でいかなる判決が
下されるべきか、本書はその思考実験の出発点としての意義を有するものに思われてきた
。そこで本論の骨子は崩すことなく、一部加筆の上であらためて本書を世に問うことにし
た次第である。今や誰もが知っているサブ=カルチャーのヒーロー、ウルトラマンの周辺
を通して現代と近未来を解読する、本書がその試みの礎となれるならば幸いである。


一九九五年 月 日
                             原田 実


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