お客さまに「お花きれいですね」と言われる度に、私は「マスターが活けています」と話す。私が活けていると思っているお客様は、一様に驚きの表情を見せる。そんな時夫は「花を活けてると心が安らぎます」と話すのである。夜レストランを閉めるときには、花を全部花瓶から抜いて水に入れておき、毎朝生け直してもいる。両親は、夫が花を大切にしてくれることを知って、喜んで送ってくれている。
夫は、家から店までの街路の植え込みも、きれいに手入れしている。周りを見ると、どこの植え込みも、夏草が植木の倍以上の丈に生い茂っている。彼が手入れをしているところだけが、きれいになっているのである。自分の庭だけをきれいにしている人は、いくらでもいるが、公共の場所までも、と考え、実行する人はそういるものではない。彼は、年とともに自然に親しみを感じるようになってきている。
最近彼と良く話し合うのは、二人の定年後の具体的な生き方である。私たちは、自営業を営んでいるので、定年の時期は自分たちで決めなくてはならない。夫は、定年後は妙高の自然の中で、晴耕雨読の生活をする事を夢見ている。気がついたら、いつのまにか、自然を恋しく感じ「定年の時期をいつにしようか」と考える年齢になってきた。私は事ある毎に「50歳で定年」と言ってきたが、これからは具体的にそのことを考えたい。 |