錬金術
(化学大辞典より)

 4〜16世紀の頃、封建社会を背景としてヨーロッパに支配的であった中世的化学およびその化学思想。

 卑金属を貴金属に変換する技術の探求を目的とした。

 それによれば、すべての物質は一つの根元的な物質より成り、それに何らかの性質を付与することによって、他のあらゆる物質が得られる。

 根元的な物質と見なされたのは水銀で、後には水銀、硫黄、塩がそれに代わった。

水銀は実在するものではなく、現実の水銀から抽象されたその精ともいうべき神秘的仮想的物素であった。

 錬金術は実在の水銀に思いのままの変化を起こさせて、いっさいの物質を作り出す万能材料(哲学者の石)を発見するとともに、のちには、種々の神秘思想と合体して不老不死の薬を発見することもその目標となった。

 錬金術の思想はプラトン、アリストテレス的な元素転換思想とエジプトの化学技術とが結びついて誕生し、更に中世の宗教的神秘思想と融合して発展したものであり、この元素観はルネッサンス期の化学においてもなお保持され、R.Bacomのような思想家や、R.Boyle,J.R.Glauberらもこの思想を信奉していたといわれる。

 歴史的には、初期錬金術はヨーロッパ封建制成立の直前(1〜3世紀)、エジプトで金銀宝石を意識的に模造する化学技術として発生し、当時、没落しつつあった僧侶階級によって占星術や魔術と結びついて神秘化され、錬金術思想の根底が形成された。

 その後(3〜6世紀)シリア、アラビアを経てスペインに渡って、封建制度もようやく衰微のきざしが見え始めたヨーロッパに伝えられた(12世紀ごろ)。

 ヨーロッパではルネッサンス初期(14〜15世紀)にその最盛期を見た。

 封建制崩壊過程で間断なく繰り返された内乱は多くの国を荒廃させ、経済の衰微という状況のもとで、領主の財政的危機を償おうとする欲求と、錬金術による黄金の追求とは相互にそのよりどころを見いだした。

 生産力発展の方向からはずれていたために、物質変化の研究という化学本来の課題は狭くゆがめられるとともに、本来の化学技術は、当時の生産力の段階では相互関係は少なく、職人の手による緩慢な進歩にとどまらざるをえなかった。

 そして、また錬金術がもともと詐術を意図するものであったために、個々に蓄積された化学知識も中世の神秘蒙昧思想と結びつき、キリスト教権によって支持されたプラトン、アリストテレスの元素観に唯一の理論的根拠を見いだすだけで、化学技術としての発展はあり得なかった。

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