なぜコケた?ゴジラ2000

注:http://www.godzilla.co.jp/で「ゴジラ2000」のストーリー、キャスト、スタッフの
  詳細がご覧になれます。(2000年2月17日現在)

人は怪獣映画に何を求めているか、この一点を見失っていたのが
「ゴジラ2000」であった。では、制作者達は何を見失っていたのか?
それは文明の破壊である。米国版「GODZILLA」(ああ、このHPでは以後
「ゴヂラ」と表記する。バチモノだったからである)がコケたのも同様。

我々が見たかったのは摩天楼を打ち倒す神の獣であり、ビルの隙間を
縫って逃げ回る大トカゲではなかった。

ゴジラ映画には南海の孤島を舞台とした作品がいくつか存在したが
評価が高いのはやはり都市の破壊描写があった作品群である。
70年代のある時期、ゴジラが正義の味方として振る舞った際には
敵怪獣が都市を破壊して我々ファンを満足させてくれた。
それでは「ゴジラ2000」はどうだったか?

冒頭の根室上陸は確かに迫力があり、これからの展開に期待を
持たせてくれたにもかかわらず以下に述べる中盤の東海村襲撃、
最後の新宿決戦は私の膨らんだ期待をしゅるしゅると凋ませてしまった。

東海村ではゴジラ対自衛隊の死闘に海底から浮上したUFOが乱入するのだが
妙に淡々とした描写の為もうひとつ盛り上がりに欠けた。

ならば新宿のラストで盛り上がるのかと思いきや、相変わらず淡々とした調子のまま
UFOは怪獣オルガに変身し、淡々とした戦いをゴジラと繰り広げるのである。
巨獣同士の戦いである以上確かに周囲のビルは破壊されるが、カタルシスは
微塵も無い。

都市破壊が殆ど無かったにもかかわらず評価の高かった怪獣映画が
無いわけではない。「フランケンシュタイン対地底怪獣」である。
これらの作品に於いては都市破壊の代わりに新キャラクターである
怪人フランケンシュタインの忌まわしい(そして悲しい)出自を語ると同時に
地底怪獣バラゴンの猛威を余すところ無く描ききり、また怪獣に関わる事と
なった登場人物達の葛藤を上手くドラマに取り込んで最後まで観客の目を
スクリーンに釘付けにしたのである。

然るに既知の存在であるゴジラに観客が期待するのは何か?
それはあのシッポで、放射能火炎で、あるいは巨体そのものを使って都市を蹂躙し、
荒ぶる神の末裔として人類の上に君臨する事である。ところが「ゴジラ2000」では
ゴジラに破壊を振りまく機会が冒頭以外に与えられず、オルガに至っては
ラスト近くにUFOがいきなり変形したものであり、どういう存在なのかが
明らかになる前にに敗北、映画は終わってしまう。

脚本では民間によるゴジラ予知のビジネス化、自衛隊内にゴジラ対策部門の常設、
貫通ミサイルという対ゴジラ専用兵器の開発といったゴジラの存在する世界に
なんとかリアリズムを持たせようとする工夫や、主役のゴジラ予知業者の父
、しっかり者の娘(小学生)と彼らに仕事の為嫌々つき合う女性記者
(嫌々、という所がいい)といった人物配置に光る物はあるのだが、映画全体の
底上げには貢献していない。逆にこれらの設定を説明するのに時間をとられる
結果となった。

”ゴジラの居る世界”に深みと奥行きを持たせたいのなら「ゴジラ(一作目)」の
「また疎開か・・」とため息をつく新聞記者や「キングコング対ゴジラ」の
「ねえねえ、ゴジラ見に行こうよ」とだだをこねる子供のセリフのように
市井の人々の描写によった方が効果的だと思えるのだが。
ちなみに共同脚本を書いた一人、三村渉はパンフレットや雑誌で
UFOの設定を長々と語っていたが、映画中で語り尽くす努力をするべきでは
ないのか。脚本家としての姿勢がそもそも間違っているとしか思えないが。

さらにドラマ、特撮の双方の描写が何のヤマ場の感じられない淡々とした物に
なってしまった最大の原因は音楽に帰せられるであろう。
服部隆之による音楽はつかみ所が無いというか、画面を盛り上げようという
意志を欠いたものであった。もちろんあの楽曲にOKを出した監督、
プロデューサーの罪も大なり、である。

最後にデザイン面に目を向ければ、新ゴジラは
立ち上がったワニにしか見えない
無様な代物であり、放射能火炎の色が
何故か赤に変更されていてゴジラの出自たる核の影響が曖昧になってしまった。
オルガに至っては見るべき所がないとしか言いようがない。

細かい点に関して言い出すとキリがない(特技、役者についてまだまだいくらでも
ある)のでここまでにしておくが、「ゴジラ・ミレニアム」と銘打ったわりには
お祭り気分に欠けた、しょぼいしょぼい映画となってしまった。
一ファンとして残念である。

ラスト、さしたる理由もなく赤色に変更された放射能火炎で新宿を焼き払う
ゴジラの姿は私の目に
「こんな中途半端な映画をつくりやがって」というゴジラとファンの
怒りの表出そのもののように映った。

(2000.02.15)

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