Back Numbers : 映画館で見た映画2020



2020年に映画館で見た全作品です。(大体見た順に掲載しています。)

【パラサイト 半地下の家族】(10/10)
原題:【기생충 (Parasite)】
監督・脚本:ポン・ジュノ
共同脚本:ハン・ジンウォン
出演:ソン・ガンホ、チェ・ウシク、パク・ソダム、チャン・ヘジン、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チョン・ジソ、チョン・ヒョンジュン、イ・ジョンウン、パク・ミョンホン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:韓国の天才、ポン・ジュノ監督のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。ある金持ち一家に出入りするようになった青年の一家が、金持ち一家に気づかれないようにどんどん寄生し始める。彼等の行状はいつバレるのか?と最初はハラハラしていたが、途中からそんな臨界点も超えたブッ飛んだ展開になり、この先一体どうなるの?と恐いもの見たさの期待感から、最後は“どーん”と打ちのめされ……。しかし、【スノーピアサー】も【オクジャ】も悪くなかったけど、やっぱり地元で撮った作品の方が胸に迫るかもしれないなぁ。映画に血肉が通っているというか。(是枝裕和監督の作品もそう。)

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【マザーレス・ブルックリン】(7/10)
原題:【Motherless Brooklyn】
監督・脚本・出演:エドワード・ノートン
原作:ジョナサン・レサム
出演:ググ・バサ=ロー、ブルース・ウィリス、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォー、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:エドワード・ノートンが監督・脚本・主演を務める私立探偵もの。主人公には言うべきでないことを口走ってしまうトゥレット症候群という病気があるのだが、そういう特異さもしばらくすると見慣れてきてしまう。全体的にもう少しコンパクトにまとめることもできた気もするが、テンポ感よりも、1950年代のニューヨーク裏社会の雰囲気描写に重きを置いた結果なのかもしれず、これはこれで悪くないのかもしれない。

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【mellow】(7/10)
監督・脚本:今泉力哉
出演:田中圭、岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナ、白鳥玉季、SUMIRE、山下健二郎(三代目 J SOUL BROTHERS)、ともさかりえ、小市慢太郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:こちらも今泉力哉監督作品。優しい雰囲気で概ね心地よく見ることができるけれど、いくら良い花束を作るためでもプライベートなことをいろいろ聞いてくる花屋とか、私ゃ絶っっっ対無理。田中圭さんだからギリギリ成立……しているのかなぁ?あと、花屋さんはアレンジメントの仕事だけじゃなく、水切り仕事など結構な肉体労働だとも聞くのだが。相手役の女性が家業として営むラーメン屋さんもそう。二人の関係にはお互いの仕事に対するリスペクトが基本にあると思うので、そういうところももう少しだけ描いて欲しかったかも。

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【オルジャスの白い馬】(7/10)
原題:【Horse Thieves】
監督・脚本:竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ
出演:マディ・メナイダロフ、森山未來、サマル・イェスリャーモワ、他
製作国:日本/カザフスタン
ひとこと感想:竹葉リサ監督がカザフスタンのエルラン・ヌルムハンベトフ監督と共同で監督した合作映画。大地の雄大な印象とは裏腹に、結構ハードだったり生々しかったりする出来事が起こる。草原に暮らす主人公の少年を演じるマディ・メナイダロフくんの存在感に大変説得力があって素晴らしい。一家の下にやってくる謎の男を演じる森山未來さん、ナチュラルにカザフスタン語を話しながらナチュラルに馬に乗る才能の塊(知ってた)。もしかして海外の人が見たら彼がカザフスタン人じゃないって分からないんじゃないかなー。

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【イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり】(6/10)
原題:【The Aeronauts】
監督:トム・ハーパー
脚本:ジャック・ソーン
出演:フェリシティ・ジョーンズ、エディ・レッドメイン、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:19世紀イギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーが気球で高度11277mまで到達したという史実を基にした一編。酸素もほとんど無くマイナス何十度にも達する世界……これがどんなに無謀なことかこの時に分かったから、この高度の記録は未だに破られていないのだろう。相方の操縦士が女性というのは創作らしいし(モデルになった人はいるらしいが)、ほとんどが気球の上の二人のやり取りだけなので若干の単調さは否めないけれど、気球には個人的にどうしてもロマンを感じてしまうので少しおまけ。

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【エクストリーム・ジョブ】(6/10)
原題:【극한직업 (Extreme Job)】
監督:イ・ ビョンホン
脚本:ムン・チョンイル、ペ・セヨン
出演:リュ・スンリョン、イ・ハニ、チン・ソンギュ、イ・ドンフィ、コンミョン、イ・ムベ、テッド・チャン、他
製作国:韓国
ひとこと感想:韓国で大ヒットしたという警察もののドタバタコメディ。脱サラを考える人がフライドチキン屋を始めるというルートは韓国で一時流行ったらしいけど(テレ東の経済番組調べ)、軌道に乗せるのはなかなか難しいらしく、捜査のため偽装で始めたフライドチキン屋を大繁盛させてしまうなんてどんだけ才能があったのか(笑)。しかし、クライマックスで大立ち回りを見せるこのチームがどうしてあんなにポンコツ扱いされていたのだろう。いろいろ謎だけど、面白いからまぁいいや。

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【リチャード・ジュエル】(8/10)
原題:【Richard Jewell】
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ビリー・レイ
原作:マリー・ブレナー
出演:ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、ジョン・ハム、オリビア・ワイルド、ニナ・アリアンダ、イアン・ゴメス、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:ある野外コンサートで爆弾の第一発見者となるもメディアに犯人扱いされ糾弾されたアメリカの警備員の実話を基にした話。クリント・イーストウッド監督は多くの作品でアメリカという国と個人との距離感を検証し続けてきているように思うが、いわゆる成功者ではないが故に一層愚直なまでに模範的アメリカ市民として振る舞おうとするリチャード・ジュエル氏の人物描写は非常に興味深かった。反面、彼を告発する実在した女性ジャーナリストの描写があまりにもお粗末すぎて残念。(色仕掛けで情報を取った云々もそうだけど、大して裏取りもしないまま記事にして、ごく初歩的な実証実験で改心して泣いているとか、頭が悪すぎじゃね?)こんなことでせっかくの良作を傷物にしてどうすんのよ。

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【ジョジョ・ラビット】(8/10)
原題:【Jojo Rabbit】
監督・脚本・出演:タイカ・ワイティティ
原作:クリスティン・ルーネンズ
出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス、トーマシン・マッケンジー、スカーレット・ヨハンソン、サム・ロックウェル、スティーブン・マーチャント、レベル・ウィルソン、アーチー・イェーツ、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:第二次大戦末期のドイツ。ヒトラーを空想上の友達にしていた気弱なジョジョは、家の中にユダヤ人の少女が匿われているのを発見してしまう。以前ドキュメンタリーで見たヒトラー・ユーゲントはもっと規律重視でユーモアに欠けた全然違う雰囲気で、これはあくまでもハリウッドの解釈によるナチス・ドイツの話なのだということに身構えてしまう。ただ、スカーレット・ヨハンソンさん演じるジョジョの母親や、サム・ロックウェルさん演じる大尉などの人物造形が魅力的で、だからこそジョジョが向き合わざるを得なくなる現実の残酷さがより鮮明に心に残る。きちんとした矜恃を持った力強い映画だと思った。

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【フォードvsフェラーリ】(9/10)
原題:【Ford v Ferrari】
監督・脚本:ジェームズ・マンゴールド
共同脚本:ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース、ジェイソン・ケラー
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベイル、カトリーナ・バルフ、ノア・ジュプ、ジョン・バーンサル、トレイシー・レッツ、ジョシュ・ルーカス、レモ・ジローネ、レイ・マッキノン、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:1966年のル・マン24時間耐久レース。フェラーリ社に勝ちたいフォード社に雇われた元レーサーは、あるドライバーをスカウトする。はみ出し者の二人が、時に商売優先の上層部と衝突しながらもレースへの情熱をたぎらせる姿は胸熱。カーチェイスとガンファイトは眠くなる体質なので最初は鑑賞リストから外していたのだが、マット・デイモン様が出演を引き受けるような作品はさすがに人間ドラマもしっかりしていた。クリスチャン・ベイルさん演じる無骨で不器用なドライバーがあまりにもカッコよく、その結末に涙せずにはいられなかった。

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【テリー・ギリアムのドン・キホーテ】(7/10)
原題:【The Man Who Killed Don Quixote】
監督・脚本:テリー・ギリアム
共同脚本:トニー・グリソーニ
出演:アダム・ドライバー、ジョナサン・プライス、ステラン・スカルスガルド、オルガ・キュリレンコ、他
製作国:イギリス/スペイン/フランス/ポルトガル/ベルギー
ひとこと感想:ついに、ついに、ついに出来上がった【ドン・キホーテを殺した男】。テリー・ギリアム監督は、ドン・キホーテの映画化を思いつくも原作を読んで不可能だと悟り、ドン・キホーテ的なエッセンスを加えた話を構想したそうだけど、それは見果てぬ夢を追いかけるこういう男の物語だったのか、と感無量。このバージョンはおそらく最初考えていた形と全く同じではなく、歴代の出演予定者で出来上がっていたらどうなっていただろう、とどうしても頭をよぎるけど、これは最早そうした30年来の歴史ごと受容せざるを得ない希有で特異な作品なのだ。でもこの映画のことを初めて知った若い人には何のこっちゃかもしれないな。

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【his】(9/10)
監督:今泉力哉
脚本:アサダアツシ
出演:宮沢氷魚、藤原季節、外村紗玖良、松本若菜、松本穂香、鈴木慶一、根岸季衣、堀部圭亮、戸田恵子、中村久美、他
製作国:日本
ひとこと感想:【愛がなんだ】の今泉力哉監督の新作。恋人に去られたことで心を閉ざし流れ着いた田舎で暮らす青年のもとに、その元恋人が子供を連れて現れる。この男性二人のそれぞれの気持ちも、彼等がその土地で受容されていく姿も、子供の親権を巡って離婚調停中の元恋人の妻の気持ちも、繊細に描かれていて圧巻。キャストはみんな素晴らしかったけど、宮沢氷魚さんのあまりの透明感にはウッときた。彼等はこれから一体どうなるのか、考えさせてくれるようなラストシーンもとても印象的だった。

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【ラストレター】(8/10)
監督・脚本:岩井俊二
出演:福山雅治、松たか子、広瀬すず、森七菜、神木隆之介、豊川悦司、中山美穂、庵野秀明、小室等、水越けいこ、鈴木慶一、木内みどり、他
製作国:日本
ひとこと感想:岩井俊二監督の最新作。ある人物のお葬式の様子から始まるのだが、高校卒業までの姿しか映されないその人物に対する追憶がこの映画の影の主役だったのだと、最後に気づかされた。でも彼女が味わったであろう地獄の苦しみを思うと、周りの人々の姿はあまりにも淡々とし過ぎてないか?いや、もうその段階は過ぎ去ったからこそ、彼女の美しい姿を記憶に留めることで彼女の生きた道筋を慈(いつく)み、自分達が生きる糧にしようとしているのか?うぅむこれは、考えれば考えるほど一筋縄ではいかない映画であるような気がしてきた。

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【ロマンスドール】(8/10)
監督・脚本:タナダユキ
出演:高橋一生、蒼井優、きたろう、渡辺えり、ピエール瀧、三浦透子、浜野謙太、大倉孝二、他
製作国:日本
ひとこと感想:タナダユキ監督の最新作で、高橋一生さん演じるラブドールの製作者が、蒼井優さん演じる妻と出会って愛を育む道のりが描かれれる。監督が描きたかったのは、行き違いを乗り越えてやっと分かり合えた二人の愛の交歓か、その果てに行きついた極致なのか、それともあの浜辺のラストシーンか。彼は魂を込めて美しいラブドールを創るけれど、愛する女性とそっくりなドールが人手に渡るって人形師さん的にはどういう気持ちがするものなの?とふと思った。ピエール瀧さんがどこか怪しげな社長の役にぴったりだった。

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【風の電話】(8/10)
監督・脚本:諏訪敦彦
共同脚本:狗飼恭子
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行、三浦友和、渡辺真起子、山本未來、他
製作国:日本
ひとこと感想: 東日本大震災後に多くの人が訪れたという岩手県大槌町の「風の電話」をモチーフにした諏訪敦彦監督作品。震災で家族を失った少女の喪失感と、彼女がつらい記憶と向き合いながらそれでも生きていこうと思い始めるまでの過程が繊細に描かれているのが素晴らしく、特にモトーラ世理奈さんが「風の電話」をかけるクライマックスのシーン(何とアドリブなのだそう!)は圧巻だった。ただ、以前「NHKスペシャル」でこの電話のドキュメンタリーを見たことがあって……フィクションにはフィクションの良さや独自の役割があるとしても、現実の迫力はまた次元の違うものだよなぁ、と思わざるを得なかった。

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【プリズン・サークル】(9/10)
監督:坂上香
(ドキュメンタリー)
製作国:日本
ひとこと感想:対話をベースに自分と向き合うTC(回復共同体とも治療共同体とも訳される)という教育プログラムを日本で唯一採用している刑務所で実際に撮影したドキュメンタリー。坂上香監督は「暴力の後をいかに生きるか」が自作のテーマだとのこと。受刑者の中には子供の頃に過酷な経験をしている人も多く、辛い気持ちを思い出したくなくて感情を停止させているから自分の感情に向き合って整理するのが苦手、という人達が結構いるらしいというのに驚いた。エンドロールの最後に「暴力の連鎖を止めたいと願う全ての人へ」という言葉が掲げられるが、そのために予算や労力を配分することは、長い目で見れば社会全体で無駄なコストを大幅に減らし一人一人の人間が持つ力を有効に使っていくことに繋がるのではないだろうか、と思った。

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【AI崩壊】(9/10)
監督・脚本:入江悠
出演:大沢たかお、松嶋菜々子、田牧そら、賀来賢人、岩田剛典(三代目 J SOUL BROTHERS)、三浦友和、広瀬アリス、芦名星、髙嶋政宏、玉城ティナ、余貴美子、他
製作国:日本
ひとこと感想:入江悠監督のオリジナル脚本による作品。2030年の日本は衰退していて医療くらいしかまともな産業がないというのも、あるデータベースに様々な情報が集約化されるというのもありそうな話。その設定に乗せたサスペンスの組み立ても申し分なく、力のあるキャストが演じていて見応え充分。あの【サイタマノラッパー】の入江監督がこんな壮大な話を創るようになったんだなぁ、と感慨深かった。ところで作中に出てくるあの法律、まるで自民党が執心している「緊急事態条項」みたいだね。

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【前田建設ファンタジー営業部】(6/10)
監督:英勉
脚本:上田誠
原作:前田建設工業株式会社
出演:高杉真宙、上地雄輔、岸井ゆきの、本多力、小木博明(おぎやはぎ)、町田啓太、六角精児、他
製作国:日本
ひとこと感想:マンガやアニメの世界の建造物を実際に造ろうとしたらどうなるのか、ということを真面目に追求した前田建設のウェブ連載を、劇団ヨーロッパ企画が舞台化し、これを更に映画化した作品。そうか、マジンガーZの格納庫って本当に造れるんだ……。ドラマとしての脚色部分は良し悪しかもしれないが(紅一点の女子の扱いがステレオタイプなのがどうも)、こんな活動をしている企業があるなんて世間は広いなぁ、と知ることができてよかったと思う。

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【淪落の人】(6/10)
原題:【淪落人 (Still Human)】
監督・脚本:オリヴァー・チャン
出演:アンソニー・ウォン、クリセル・コンサンジ、サム・リー、セシリア・イップ、ヒミー・ウォン、他
製作国:香港
ひとこと感想:半身不随となった男性と、彼を世話する住み込みのフィリピン人メイドを描いた香港映画。男性とメイドの女性は、最初は隔たった立場にいるけれど、お互いの苦しみや夢を知り、次第に人間同士としていたわり合うようになる。二人の関係性の細やかな描写がしみじみ胸を打った。お目当てだったアンソニー・ウォンさんも凄くよかった。

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【静かな雨】(7/10)
監督・脚本:中川龍太郎
共同脚本:梅原英司
原作:宮下奈都
出演:仲野太賀、衛藤美彩、三浦透子、坂東龍汰、古舘寛治、川瀬陽太、河瀬直美、萩原聖人、村上淳、でんでん、他
製作国:日本
ひとこと感想:【わたしは光をにぎっている】の中川龍太郎監督作。記憶障害系のストーリーには大概「もうええわ」と思ってしまうが、両思いで後は告白するだけというタイミングで彼女に記憶障害が起こり、毎朝イチから説明し直さなければならなくなってしまった彼氏が苦悩する、という筋立ては技ありだと思った。仲野太賀さん演じるこの彼氏みたいな男性、凄く好きだなぁ。中川監督のような作風は商業ベースには乗りにくいと思うけど、今後の作品も期待しています!

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【ファンシー】(4/10)
監督・脚本:廣田正興
共同脚本:今奈良孝行
原作:山本直樹
出演:永瀬正敏、窪田正孝、小西桜子、深水元基、長谷川朝晴、吉岡睦雄、榊英雄、佐藤江梨子、宇崎竜童、田口トモロヲ、他
製作国:日本
ひとこと感想:設定はともかく、取り立てて特徴も魅力も無い相手役の女性の設定がしょーもなさすぎる。1998年の原作とのことだが、女の子の造形が古すぎ。永瀬正敏先生にこんな意味の無いカラミをさせてんじゃないよ、先生まで安っぽくみえてしまうじゃないの。漫画や小説の世界なら成立するのかもしれないことでも、実写にして成立するのかどうか、ましてやそれを今の時代に持ってきても大丈夫なのか。どんな作品でもよく考えてから映画化するかどうかを決めた方がいいと思う。

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【影裏(えいり)】(8/10)
監督:大友啓史
脚本:澤井香織
原作:沼田真佑
出演:綾野剛、松田龍平、筒井真理子、國村隼、安田顕、中村倫也、永島瑛子、平埜生成、他
製作国:日本
ひとこと感想:転勤先の岩手県盛岡市に住む男性が、友人となった人物の知らない側面に翻弄される大友啓史監督作。ゴーアヤノが松龍に片想いしてその二面性に思い悩む話だと考えれば凄くシンプルなんじゃなかろうか。最近は大友監督の作品からすっかり遠ざかっていたが、やはり見るべき作品を創るポテンシャルを持っている方なのだなぁと再認識した。

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【グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇】(6/10)
監督:成島出
脚本:奥寺佐渡子
原作:太宰治、ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:大泉洋、小池栄子、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江、皆川猿時、濱田岳、松重豊、田中要次、池谷のぶえ、犬山イヌコ、水澤紳吾、戸田恵子、他
製作国:日本
ひとこと感想: 太宰治の遺作を元にしたケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の舞台を、成島出監督が映画化。女性達に対して優柔不断かつ無責任が過ぎる大泉洋さん演じる主人公に、太宰治もこんな野郎だったのかなとウゲーっとなる。これに対し、主人公の偽婚約者という役柄の小池栄子さんの破天荒なパワフルさは痛快。しかし彼女はクセのある役柄ばかりが当たり役になってしまうよなぁ……少し勿体ないような。

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【屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ】(5/10)
原題:【Der Goldene Handschu】
監督・脚本:ファティ・アキン
原作:ハインツ・ストランク
出演:ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、ハーク・ボーム、他
製作国:ドイツ
ひとこと感想:ファティ・アキン監督が故郷のハンブルクの街に実在した殺人鬼の話を映画化した一編。彼に感情移入する必要は無い、と主人公の内面描写をバッサリ切っているのですが、その結果、奇怪な人物が起こした残虐な事件、というエッセンスだけを煮しめたような作品になっており、これが果たしてよかったのかどうか。

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【名もなき生涯】(8/10)
原題:【A Hidden Life】
監督・脚本:テレンス・マリック
出演:アウグスト・ディール、ヴァレリー・パフナー、マリア・シモン、ブルーノ・ガンツ、マティアス・スーナールツ、他
製作国:アメリカ/ドイツ
ひとこと感想:ナチス政権下のオーストリア。良心的兵役拒否により投獄された男性とその妻を描くテレンス・マリック監督作。どんな目に遭っても信念を曲げない夫と、狭い共同体の中でエグい村八分に遭いながらも夫を信じ愛し続ける妻の姿が、ヨーロッパの農村の美しい風景と相まって荘厳な印象を残す。監督のこれまでの作品の中で最も好きな1本になったかもしれない。

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【Red】(8/10)
監督・脚本:三島有紀子
共同脚本:池田千尋
原作: 島本理生
出演:夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗、片岡礼子、酒向芳、山本郁子、浅野和之、余貴美子、他
製作国:日本
ひとこと感想:かつて不倫をしていた男性との関係が再燃する女性を描いた小説を三島有紀子監督が映画化。いくら物分かりがいい可愛い妻を演じることに疲れたからって、こんな独占欲丸出しのカッコつけ自己中男のどこがいいんだ?と思ったが、そんな彼の弱さや狡さもひっくるめて魅かれてしまったのならもう仕方ないんだろう……。そんな良し悪しだけでは量れない人間の在りようが驚くほど精密に描写されているのが圧巻。夏帆さんと妻夫木聡さんの深淵をえぐり出すような演技や、脇を固める柄本佑さんや片岡礼子さんの佇まいが素晴らしかった。

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【初恋】(6/10)
監督:三池崇史
脚本:中村雅
出演:窪田正孝、小西桜子、大森南朋、染谷将太、ベッキー、内野聖陽、顔正國、段鈞豪、村上淳、塩見三省、三浦貴大、藤岡麻美、滝藤賢一、ベンガル、他
製作国:日本
ひとこと感想:窪田正孝さんがヤクザとチャイニーズマフィアと悪徳刑事の争いに巻き込まれるボクサーを演じた三池崇史監督作。三池監督の描くヤーさんにはある種クラシックな型が出来ており、懐かしさに近いものを抱く反面、古めかしさも感じてしまう。最近のヤクザってもうこんなじゃないんじゃないかなぁ……よう知らんけど。酷い目に遭わされるがままのヒロインの女の子もどうも魅力が感じられなかったのに対し、愛のためにブチ切れ自ら行動を起こすベッキーさんは無茶苦茶よかった。

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【娘は戦場で生まれた】(7/10)
原題:【For Sama】
監督:ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
(ドキュメンタリー)
製作国:イギリス/シリア
ひとこと感想:壊滅に追い込まれていくシリアのアレッポの人々をジャーナリスト志望の女性が撮影したドキュメンタリー。他のシリア関連のドキュメンタリーと大きく違っているのは、監督がアレッポ最後の病院の医師と結婚して子供を産むこと。こんな絶望的な状況の中でも人間は人間としての営みを続けようとするのか、という不思議な感慨があった。

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【星屑の町】(6/10)
監督:杉山泰一
原作・脚本:水谷龍二
出演:のん、大平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、戸田恵子、小日向星一、菅原大吉、相築あきこ、柄本明、他
製作国:日本
ひとこと感想:売れないムード歌謡グループを描いた25年続く舞台シリーズを、のんさんをヒロインに迎えて映画化。チームの息はピッタリだけど、時々オジさん達のノリについていけないし、のんさんのキャラ設定にもところどころブレがあるような。それでも銀幕ののんさんはやはり輝いていて、彼女を起用した製作陣には感謝するばかり。お話を彩る昭和歌謡の数々も楽しい。

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【ジュディ 虹の彼方に】(6/10)
原題:【Judy】
監督:ルパート・グールド
脚本:トム・エッジ
原作:ピーター・キルター
出演:レネー・ゼルウィガー、ジェシー・バックリー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェル 、マイケル・ガンボン、ダーシー・ショウ、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:【オズの魔法使】で大スターとなったジュディ・ガーランドの後半生にスポットを当てた映画。レネー・ゼルウィガーさんの熱演が凄くて、彼女が演じていることを途中で忘れてしまうほど。ただ、これほど波乱に満ちた生涯ならもっともっとドラマチックかつダイナミックなストーリーを構築できたのではないか、という不満も。脚本が良ければ【エディット・ピアフ 愛の讃歌】に比肩されるような名作になっていたかもしれないのに……。

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【スキャンダル】(6/10)
原題:【Bombshell】
監督:ジェイ・ローチ
脚本:チャールズ・ランドルフ
出演:シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー、ケイト・マッキノン、コニー・ブリットン、マルコム・マクダウェル、他
製作国:アメリカ
ひとこと感想:2016年にFOXニュースの最高経営責任者ロジャー・エイルズがセクハラ問題で辞任した事件の映画化。欧米でも未だに度々セクハラ問題が話題になるのは、社会の中にまだそういうものが存在すればこそだ、と改めて思った。そうした国々より遥かに後塵を拝するジェンダーギャップ指数世界121位の日本では、道のりは更に遠そうである。

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【ジョン・F・ドノヴァンの死と生】(5/10)
原題:【The Death & Life of John F. Donovan】
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
共同脚本:ジェイコブ・ティアニー
出演:キット・ハリントン、ジェイコブ・トレンブレイ、ナタリー・ポートマン、キャシー・ベイツ、スーザン・サランドン、ベン・シュネッツァー、タンディ・ニュートン、他
製作国:イギリス/カナダ
ひとこと感想:グザヴィエ・ドラン監督が初めて英語で撮った作品。(今までフランス語で撮っていたので監督はてっきりフランス人なのだと思っていたらカナダ人でした……しまった。)子供の頃にレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという経験を基に、少年とスターの文通という物語を発想したのはいいと思うのだが、最初に思いついた幾つかのシーンのイメージを整合性のある物語に構築できなかったのではないか、という印象を受けた。

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★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


【一度も撃ってません】(6/10)
監督:阪本順治
脚本:丸山昇一
出演:石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり、佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、新崎人生、井上真央、柄本明、寛一郎、前田亜季、渋川清彦、小野武彦、柄本佑、他
製作国:日本
ひとこと感想:阪本順治監督作。脚本は『探偵物語』『あぶない刑事』【野獣死すべし】【いつかギラギラする日】などの丸山昇一氏。主人公は団塊の世代のハードボイルド作家。周りは次々にリタイアしていく年回り。小説のネタのために殺し屋を名乗っているが、本当に依頼を受けたら外注している。そんな彼がトラブルに巻き込まれる……。う~ん、これはコメディなのか?
ハードボイルドをこじらせたおじ(い)さんが右往左往する様子を愛でたり、寄る年波には勝てないという言い知れ得ない寂寞感を噛み締めたりすればよいのかな?これは登場人物の皆さんと同年代の人に向けた話という感じだが、さすがに自分はまだその域には行っていないかもしれない。


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【海辺の映画館―キネマの玉手箱】(10/10)
監督・脚本:大林宣彦
共同脚本:内藤忠司、小中和哉
出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子、小林稔侍、高橋幸宏、白石加代子、尾美としのり、武田鉄矢、南原清隆、片岡鶴太郎、柄本時生、村田雄浩、稲垣吾郎、蛭子能収、浅野忠信、伊藤歩、品川徹、入江若葉、渡辺裕之、手塚眞、犬童一心、根岸季衣、中江有里、笹野高史、本郷壮二郎、川上麻衣子、満島真之介、大森嘉之、渡辺えり、窪塚俊介、長塚圭史、寺島咲、犬塚弘、他
製作国:日本
ひとこと感想:本作がついに大林宣彦監督の遺作となってしまった。ここ何作かの大林監督は、一作一作に命を削って、若い人に言いたいことや映画に対する思いを作品に注ぎ込んでいたように思う。本作には特に監督の映画愛がぎゅうぎゅうに詰め込まれて、隅々にまで溢れかえっているように見える。
最後の最後まで映画のために命を燃やし続けて、私達に愛を残してくれた監督には感謝しかない。監督がまた会いましょうと言ってくれたから、またどこかで会える気がする。宇宙のどこかの次元できっとまたいつかお会いしましょう。

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【ステップ】(7/10)
監督・脚本:飯塚健
原作:重松清
出演:山田孝之、田中里念、白鳥玉季、中野翠咲、広末涼子、國村隼、余貴美子、角田晃広(東京03)、片岡礼子、伊藤沙莉、川栄李奈、他
製作国:日本
ひとこと感想:密かに好きな飯塚健監督作。妻に先立たれた男性が、男⼿⼀つで娘を育て、やがて再婚もする。育児を妻に任せきりにしていた人がそんなに簡単にいろいろできるようになるのかとか、仕事に制約がつくことにもっと葛藤は無かったのかとか、その辺りにもっと言及して欲しいような気もしたが、敢えてあっさり描いているのかもしれない。
長年に渡る彼の心の変遷や家族との関わりが誠実に描かれているのは心地よい。こういう等身大の男性を演じる山田孝之さんをもっともっと見たいなぁと思う。

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【糸】(8/10)
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫
出演:菅田将暉、小松菜奈、榮倉奈々、斎藤工、山本美月、倍賞美津子、成田凌、二階堂ふみ、高杉真宙、馬場ふみか、永島敏行、竹原ピストル、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、石崎ひゅーい、片寄涼太、他
製作国:日本
ひとこと感想:歌のイメージから何か話をこしらえるといった企画が好きではないので、本作も、瀬々敬久監督じゃなければ絶対スルーしてただろうな……。
初恋同士の二人がそれぞれの道を歩み、紆余曲折を経て、十数年の後に結ばれる、といった話だが、エピソードの一つ一つが無理くさくなく、案外すんなりとストーリーに入って行けて、気がつけば登場人物たちの人生に思いを馳せていた。林民夫氏の脚本はさすがに強い。
そして、菅田将暉さんや小松菜奈さんの輝かんばかりの存在感は、目が離せなくなるような吸引力があった。

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【ミッドナイトスワン】(6/10)
監督・脚本:内田英治
出演:草彅剛、服部樹咲、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、他
製作国:日本
ひとこと感想:内田英治監督の映画はブルドーザーみたいなイメージがある。ものすごくエネルギッシュ。だけど細かい感情の機微をなぎ倒していく感じ。本作も、せっかく草彅剛さんがトランスジェンダーの女性を丁寧に演じているのに、何故、後半ストーリーをああいう方向性に持って行ってしまうかな。
母になりたいってそういうことじゃないのでは。旧来のステレオタイプなジェンダーの鋳型に当てはめて考えることしかできないなら、こういう主題に安易に手を出したりしない方がいいんじゃないかと思う。

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【浅田家!】(7/10)
監督・脚本:中野量太
共同脚本:菅野友恵
原案:浅田政志
出演:二宮和也、妻夫木聡、平田満、風吹ジュン、黒木華、菅田将暉、渡辺真起子、北村有起哉、野波真帆、他
製作国:日本
ひとこと感想:ユーモラスな家族写真を撮る写真家の浅田政志さんの話を中野量太監督が映画化。個人的に二宮さん主演の映画はもう見なくていいかなーと思っていたのに、妻夫木さんを二番手に持ってくるなんて汚い手を使うとは……(←妻夫木さんファン)。
しかし、周りのキャストも演技力が抜群に高い人ばかりな中、二宮さんの演技も案外あまり疑問を感じたりすることなく見ることができた。ご結婚などをきっかけに演技にも変化が出てきたのだろうか。そうであればいいのだが。

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【TENET テネット】(8/10)
原題:【TENET】
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー、ディンプル・カパディア、ヒメーシュ・パテル、マイケル・ケイン、他
製作国:アメリカ/イギリス
ひとこと感想:この筋書きが1回で理解できた人は凄い。私は本当に薄ぼんやりとしか分かりませんでした。まぁ何度も見てもらうことを前提にしているのかもしれませんが……。クリストファー・ノーランという人はこんなことばかり考えて生きているのでしょうか。真性の変態だと思います。

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【スパイの妻】(8/10)
監督・脚本:黒沢清
共同脚本:濱口竜介、野原位
出演:蒼井優、高橋一生、坂東龍汰、恒松祐里、みのすけ、玄理、東出昌大、笹野高史、他
製作国:日本
ひとこと感想:【ハッピーアワー】【寝ても覚めても】を手掛けた濱口竜介・野原位両氏に、黒沢清監督が脚本執筆を依頼したとか。出来上がったのは、たとえ世界を滅ぼしてでも貫きたいと願う愛の話。
いろんな解釈があるんだろうけど、私の考えでは、あれはあそこまでやらなきゃ成功しないくらい危険なことで、彼女はそれを理解したのだと思う。蒼井優さんの口調や立ち居振る舞いを見ると、昔の映画もすごく研究しているのだろう。高橋一生さん共々、役柄へのアプローチが的確。こんな日本映画界の至宝の二人をがっつり見られるのは本当に眼福だ。
けれど個人的にはこのタイトルがイマイチ。内容的には間違ってないんだけど、「スパイ」という言葉にも「妻」という言葉にも全然ロマンを感じられなくてときめかないんだよね……。

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【空に住む】(5/10)
監督・脚本:青山真治
共同脚本:池田千尋
原作:小竹正人
出演:多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、大森南朋、髙橋洋、鶴見辰吾、岩下尚史、永瀬正敏、柄本明、他
製作国:日本
ひとこと感想:この映画、三代目 J Soul Brothers の同名の曲との絡みで作られたらしい。(そして三代目の岩田剛典さんも出演している。)しまった、そういうインスパイア系の作品は苦手なんだが……あまりにも前情報無しで行くのも考えものだな。主人公の女の子は、両親を失って叔父が所有する高層マンションで一人暮らしを始め、同じマンションで暮らす有名男性芸能人と親しくなるのだが、随分安易な話でないかい?身の丈に合わない生活や叔母の介入に対するとまどいや仕事上の逡巡など、彼女の心情を丁寧に追っているところはそれなりに見応えはあったけれど、親の葬式で泣けなかったことに過度に感傷的になって“可哀想な私”の自分語りを始めるところに、薄っぺらさを感じざるを得なかった。お葬式で色んな感情が処理しきれなくなって泣けないなんて、ごく普通のお葬式あるあるなんじゃないのかな。彼女が編集者として認められるために取る手段というのも何だかな~という感じだし。

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【朝が来る】(9/10)
監督・脚本:河瀨直美
共同脚本:髙橋泉
原作:辻村深月
出演:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登、中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮、山下リオ、森田想、堀内正美、山本浩司、三浦誠己、池津祥子、若葉竜也、青木崇高、利重剛、他
製作国:日本
ひとこと感想:度重なる不妊治療でも子供を授からなかった夫婦の長年の苦悩と、養子という形で子供を得た迸るような喜び。一方、本気で愛し合ったつもりだった男の子との子供を手放さざるを得なかった女子中学生が、その後どんどん深めていく孤独。凡百の映画監督が描いたら単なるステレオタイプな事実の羅列で終わってしまいかねないこの物語がこんなにも心に突き刺さるのは、人物の感情の描写で物語を紡ぐ河瀨直美監督の独特の手腕によるものだろう。それは誰にも真似できない領域に達しているなぁと改めて思った。しかし、剥き出しの感情の描出がしばしば方向性を見失ってしまうから、監督の場合は、オリジナルのストーリーをこしらえるより、他の人の手になる原作を採用する方が、その資質が活きるのではないかとも思った。
夫婦役の永作博美さんと井浦新さん、出産する女の子役の蒔田彩珠さんの素晴らしさは言うに及ばないが、特筆したいのは養子縁組のコーディネイター役の浅田美代子さん。こんなにも上手い女優さんだったのかと度肝を抜かれた。
こうした話の流れとは別に、性教育や養子縁組制度の問題についても考えざるを得なかった。愛を語る前に避妊を学べと言いたくなるが、現実は待ったなし。もうちょっと何とかならんか日本の性教育。そして、養子をもらうのに共働きをやめるのがマストって、もう完全に今の時代に合っていないと思うのだが……。

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【罪の声】(8/10)
監督:土井裕泰
脚本:野木亜紀子
原作:塩田武士
出演:小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治、宇野祥平、篠原ゆき子、原菜乃華、阿部亮平、尾上寛之、市川実日子、火野正平、宇崎竜童、川口覚、梶芽衣子、阿部純子、橋本じゅん、浅茅陽子、塩見三省、正司照枝、高田聖子、宮下順子、須藤理彩、若葉竜也、水澤紳吾、山口祥行、堀内正美、木場勝己、桜木健一、佐藤蛾次郎、佐川満男、沼田爆、岡本麗、他
製作国:日本
ひとこと感想:森永・グリコ事件で3人の子供の声が使われていたのは事実らしいのだが、原作者の塩田武士氏はそこから着想を膨らませ、一時新聞記者にまでなって15年掛かりで本作の原作小説の構想を膨らませたのだそうだ。そうして様々な背景が交錯する物語が組み上げられた骨太の原作をベースにした上で、2時間余りの無理のないストーリーに再構築している野木亜紀子氏の脚本や土井裕泰監督の演出が的確でいいと思う。犯人にどんな理由や言い分があろうが越えてはならない一線があるのだということをはっきり描く野木亜紀子氏の姿勢は好ましい。そして、着々と増える野木組の面々に小栗旬さんが加わったのが嬉しい。今すぐじゃなくてもいいけど、野木さんの脚本を中心にした更に大きなプロジェクトとか、何かできないですかね。

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【おらおらでひとりいぐも】(8/10)
監督・脚本:沖田修一
原作:若竹千佐子
出演:田中裕子、蒼井優、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎、田畑智子、黒田大輔、山中崇、岡山天音、三浦透子、六角精児、大方斐紗子、鷲尾真知子、他
製作国:日本
ひとこと感想:このタイトルは宮沢賢治の「永訣の朝」の「自分は自分で一人で行く(死ぬ)」という意味のフレーズから来ているはずだが、女性にとって別に恋愛や家族がすべてじゃないんだぞという当然の概念を、一人暮らしの老境の女性を主人公に描いているのがおそらく原作の面白さなのだろうと予想する(未読ですみません)。原作はモノローグがベースになっているようだけど、沖田修一監督は映画化にあたり、主人公の内面の寂しさを3人の男性キャラクターで擬人化したり、監督のお母様のエピソードなども入れたりしてかなりアクティブにアレンジしている様子。人間の内面を表現するのは難しいけれど、監督による映像表現への翻訳は効を奏していると思った。

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【ホテルローヤル】(7/10)
監督:武正晴
脚本:清水友佳子
原作:桜木紫乃
出演:波瑠、松山ケンイチ、安田顕、夏川結衣、余貴美子、原扶貴子、斎藤歩、稲葉友、正名僕蔵、内田慈、岡山天音、伊藤沙莉、丞威、冨手麻妙、和知龍範、玉田志織、友近、他
製作国:日本
ひとこと感想:舞台はラブホテルだけど、いわゆる濡れ場的なものはそれほどない(無くはないが、期待して見に行ったらおそらくガッカリするような感じ)。波瑠さんは、映画ではもともと少し寂しげな役柄が多い印象があるのだが、うらぶれたラブホテルの跡取り娘という役柄がいい意味でぴったりくる。短編集だという原作を、主人公のある種の成長物語とホテルの有為転変を中心に、様々な人々の群像劇として再構成しているのも分かりやすくていい。けれど、彼女が終盤にある決意をしてからの流れは、もっとサラッとしていた方が個人的には好みだったかな。

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【脳天パラダイス】(5/10)
監督・脚本:山本政志
共同脚本:金子鈴幸
出演:南果歩、いとうせいこう、田本清嵐、小川未祐、柄本明、玄理、村上淳、古田新太、他
製作国:日本
ひとこと感想:山本政志監督の映画で一等好きなのは【てなもんやコネクション】。あれは無茶苦茶なエネルギーに満ち溢れた実にアナーキーな映画だったと思う。もしかすると、本作はそんな破壊的な方向性を目指していたのではないだろうか。けれどどうしても、あのカオスを再現しようと無理矢理頑張っているように見えてしまって、個人的にどうも盛り上がることができなかった。

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【ばるぼら】(6/10)
監督:手塚眞
脚本:黒沢久子
原作:手塚治虫
出演:稲垣吾郎、二階堂ふみ、石橋静河、渋川清彦、美波、大谷亮介、片山萌美、ISSAY、渡辺えり、他
製作国:日本/ドイツ/イギリス
ひとこと感想:『ばるぼら』は手塚治虫先生の怪奇趣味と70年代カルチャーの描写が融合した先生の作品群の中でも非常に特殊な一編だと思うのだが、手塚眞監督が初めてお父様の作品を映画化するのにこの作品を選んだというのが興味深かった。あの美倉という、今の時代の感性から見れば相当古くさいキザ野郎の主人公をどう表現するのだろう?と思っていたが、小説家であるという自意識が行き過ぎてあがく姿が滑稽にすら映るこのキャラクターを稲垣吾郎さんは実に見事に演じていて、そのことにいたく感動した。しかし、手塚眞監督がこの作品を映像化した割には期待したほどブッ飛んだ映像表現になっていなかったような気がして、少しガッカリした気持ちも。(もっと【白痴】の一部みたいな箇所があってもよかったと思うのだ。)でも、後で原作を読み返してみると案外原作に沿った作りになっていたので、監督のせいではなく、作品に対する自分の中のイメージが勝手に暴走していただけだったみたい。

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【アンダードッグ】(8/10)
監督:武正晴
脚本:足立紳
出演:森山未來、北村匠海、勝地涼、瀧内公美、新津ちせ、柄本明、水川あさみ、市川陽夏、萩原みのり、風間杜夫、冨手麻妙、二ノ宮隆太郎、熊谷真実、上杉柊平、秋山菜津子、他
製作国:日本
ひとこと感想:またボクシング映画?と正直思ったが、【百円の恋】の武正晴監督と足立紳氏が男性のボクシングをどう描くのかという興味がつい湧いてしまった。改めて考えると、【あゝ、荒野】などは青年の悩みを案外オーソドックスに描いた王道映画と映るのに対し、本作で描いているのは、チャンピオンになる夢を諦め切れず地を這うようにボクシングにしがみつく年配ボクサーで、その姿はもっともっと泥臭く見えた。そのボクサーを演じる森山未來さんも、彼がアンダードッグ(かませ犬)として対戦するタレントボクサーや元天才ボクサーを演じた勝地涼さんや北村匠海さんもそれぞれリアルな存在感があり、それはそれは素晴らしかった。けれどもうお腹いっぱいなので、関係者の方々は当面ボクシング映画の企画は出さないで戴きたいなと思った。

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【泣く子はいねぇが】(7/10)
監督・脚本:佐藤快磨
出演:仲野太賀、吉岡里帆、寛一郎、山中崇、余貴美子、柳葉敏郎、他
製作国:日本
ひとこと感想:父親になる心の準備もないまま子供ができてしまったある秋田の青年の心の逡巡を描いた物語。そう書いていたらダルテンヌ兄弟の【ある子供】という映画を思い出したが、自分の身体の中に起こる生理現象として子供を授かる女性と違って、男性は世の東西を問わず、自分が親になった実感をなかなか持つことができなくて親としての成長が遅れてしまうものらしい。正直ハッピーエンドとは言えない結末だけど、彼が自分に起こっている出来事を自分のこととして受け入れる覚悟ができたのは、彼の人生のためによかったことなのだろうと思う。そんな青年に血肉を与えている仲野太賀さんがとてもリアルに映った。

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【天外者(てんがらもん)】(6/10)
監督:田中光敏
脚本:小松江里子
出演:三浦春馬、三浦翔平、西川貴教、森永悠希、森川葵、筒井真理子、蓮佛美沙子、生瀬勝久 、内田朝陽、迫田孝也、六角慎司、丸山智己、徳重聡、かたせ梨乃、田上晃吉、榎木孝明、八木優希、ロバート・アンダーソン、他
製作国:日本
ひとこと感想:五代友厚を主役にしたオリジナル脚本の幕末群像劇。史実にどれだけ忠実なのかは分からないが、予め史実をよく分かっている人向けの描写といった印象で、私のような素人にはもう少し詳しい説明が必要なのではないかと思った。けれど、高い志を持つ五代友厚という人物を熱意を持って演じている三浦春馬さんには魅きつけられた。彼はずっと素晴らしい俳優だったけれど、これからどれほど磨かれてどれほどの境地に到達したことだろう。彼のことをずっと見ていたかった。彼を失ったことが心から残念でならない。

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【Away】(7/10)
原題:【Away】
監督・脚本:ギンツ・ジルバロディス
(アニメーション)
製作国:ラトビア
ひとこと感想:ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督が一人で制作したというアニメーション。世界のどこかに不時着した少年が、どこまでも追いかけてくる大きな黒い影からバイクで逃げながらある場所を目指すという話。少年が旅するどこか不思議な世界は何となく『ICO』というゲームの雰囲気が思い出されたが、この世界は何かのメタファーなのだろうか。見ていると色々なイメージが喚起される豊かな作品だと思った。

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【私をくいとめて】(7/10)
監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ
出演:のん、林遣都、臼田あさ美、橋本愛、片桐はいり、若林拓也、他
製作国:日本
ひとこと感想:【勝手にふるえてろ】と同じ綿矢りさ原作×大九明子監督作。一人でいることに慣れすぎていて頭の中のアドバイザーと会話している会社員の女性が、紆余曲折を経て新しい自分を受け入れるまで。小生、さすがに頭の中にアドバイザーはいないけど、ずっと独身なので、自分自身と会話する心境は分からないじゃない。でも彼女は、壁にぶち当たり何のかんのと迷いながらも、結局自分に折り合いを付けて新しい道に踏み出して行こうとするので、私なんぞより随分立派だと思う。のんさんはそんな女性を見事に体現していたと思うが、彼女一人のシーンの印象が強烈なのに対し、相手との会話のキャッチボールが必要なシーンが少し平坦じゃないかと気になった。

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