Back Numbers : うーぴーの異常な愛情 : 第三回



第三回 : 80年代映画が好きっ !! の巻


大島渚、ルイス・ブニュエルという筆者にとっての二大巨匠の話をする前に、映画を大量に見始めた頃に観て感銘を受け、今でも筆者の映画の好みの核になっているのではないかと思われる13本の映画について、御紹介したいと思います。


【ベティ・ブルー】 1986年 仏
監督 : ジャン・ジャック・ベネックス
狂おしいまでの愛が宝石のような思い出に転化され、これから生きていく力になっていくのであろうと暗示する、あまりに美しすぎるラストシーン。そうか、こりゃファンタジーだったんだ ! と気づいた時の衝撃は今でも忘れられない。何から何まで、涙が出るくらい好きな映画。

【ベルリン・天使の詩】 1987年 西独=仏
監督 : ヴィム・ヴェンダース
これも何から何まで大好きな映画。何故かセピア色のイメージの美しくくぐもった画面、アンダーグラウンドな響きの音楽、そしてやさしい声、天使達。私の中のヨーロッパ的なるもののイメージは、この映画に集約されていると言っても過言ではないかもしれない。

【マイ・ビューティフル・ランドレット】 1985年 英
監督 : スティーブン・フリアーズ
男の人って所詮女性の体が目当てなのだろうか ? などと恋愛なるものに不信感を持ち始めた時期に観て、何故か心が洗われた映画(同性愛ものなのに ? )。この映画でダニエル・デイ・ルイスは、私にとっての永遠の愛のメッセンジャーになったのでした !

【ZOO】 1985年 英
監督 : ピーター・グリーナウェイ
騒々しくも無機質に、そして憂鬱に過ぎ去る、当時“死”の概念に囚われていた私の中の“死”のイメージに一番近かったのがこの映画だ。今でもさほど変わってないかもしれないが。マイケル・ナイマンの私にとってのベストは、今でもやっぱりこの映画のあの曲。

【マーラー】 1974年 英
監督 : ケン・ラッセル
60~70年代がケン・ラッセルの仕事が一番充実していた時期だと思うが、そのあまりに奔放な創造性は、確実に次の時代への扉を開けたのではないだろうか。その時期の彼の作品の中でも、最も好きなのがこの映画だ。

【ブラザー・フロム・アナザー・プラネット】 1984年 米
監督 : ジョン・セイルズ
すごくこじんまりしていて、可愛らしい、手作り感覚のSF映画。でも、アイディアさえよければお金を掛けなくても感動的な映画を創ることは可能なんだ ! ということに目を開かされた一作。

【バグダッド・カフェ】 1987年 西独
監督 : パーシー・アドロン
キーワードはずばり“Magic”。大人になるということは、自分を解き放つ魔法を自分の足で探しに行けるようになることなのヨ。

【ラスト・オブ・イングランド】 1987年 英
監督 : デレク・ジャーマン
私は真性のデレク・ジャーマンのファンという訳ではないと思うのだが、自分にとっての映画なるもののイメージを掘り下げていくと、彼の存在はどうしても外せなくなる。圧倒的な映像詩は、ただただ衝撃的である。

【緑のアリが夢見るところ】 1984年 西独
監督 : ヴェルナー・ヘルツォーク
ニュー・ジャーマン・シネマの系譜の中には、もっと他にも重要な作品がありそうなものなのだが、でも何故か、この映画がとても、とても心に残ってしまったのだ。同じ大地を見つめていても、見ているものは全く違う。世界は多重性に満ちている。当時の日本ではまだそれほど知られていなかった“アボリジニ”なる存在に、初めて遭遇したのもこの映画。

【達磨はなぜ東へ行ったのか】 1989年 韓国
監督 : ペ・ヨンギュン
水墨画のような超絶的な映像美の画面に捉えられる、生々流転の一瞬。アジアにあまねく仏教の魂が、ここには凝縮されている ! 韓国映画の中では今もって一番好きな一本だ。

【シーズ・ガッタ・ハヴ・イット】 1985年 米
監督 : スパイク・リー
スパイク・リーとジム・ジャームッシュはニューヨーク大学の同窓生だったそうだが、当時一世を風靡していたジャームッシュの方は私にはまぁまぁといった印象だったのに較べ、既成の映画にはほとんど見られなかったような独特のリズム感と質感を叩きつけてきたこの映画には、本当に度胆を抜かれた。本編が彼のベストという訳ではないのだが、色んな意味でその後の布石となった、思い出深い一作だ。

【ニキータ】 1990年 仏
監督 : リュック・ベッソン
ロザンナ・アークエットがあんまり好きではないせいか、どうも【グラン・ブルー】よりもこっちの方が好印象。当時これと【ベティ・ブルー】を観た人には、ジャン・ユーグ・アングラードが永遠の“優しい恋人”のイコンになってしまったとしても、それは仕方がないでしょう ?

【スタンド・バイ・ミー】 1986年 米
監督 : ロブ・ライナー
当時はハリウッド映画なるものはほとんど大嫌いだったのだが、この映画だけは観て泣いた。泣いた。絶対今までで一番泣いた映画だと思う。(あ、【バタフライ・キス】を忘れておったか。)10代の頃に、世界中にたった一人でいいから自分のことを分かってくれる人がいたら、どんなによかったことだろう。ありし日のリバー・フェニックス君に合掌。


自分にとって特に印象深かった13本の映画を選んでみて、13本のうちの何と11本までが80年代に創られた映画であり、残りの2本もその周辺の時代に創られた映画だったのだということに思い至って、改めて感じ入ってしまったのでした。映画を大量に見始めた時期に刷り込まれた記憶がその人の映画的感性の基本の形を培うというのは一般的によく見られることのように思いますが※1、私の映画的感性は80年代(つまり10年以上前 ! )の一連の映画達によって形作られたのだとはっきり言えるような気がします。無論それは私にとっては、すこぶる幸運で幸福な経験だった訳なのですけれども。


補足 :
※ 1 : その人がその時点でどういう映画を取捨選択し、どういうふうに感銘を受けるかというのは、その人が元々持っていた資質にも拠るでしょうから、同じ時期に映画を見始めても同じ趣味になるとは限らないでしょう。ただ、その時代ごとの空気みたいなものに、知らないうちに影響を受けているといったようなことはあるのではないでしょうか。



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