Back Numbers : 映画ログ No.18



今月の一言 : ハリウッドがネタに困って旧作のリメイクをするという話は、何も今に始まったことではない。しかし、あのジョン・カサヴェデス監督/ジーナ・ローランズ主演の【グロリア】をシャロン・ストーンで、ルネ・クレマン監督/アラン・ドロン主演の【太陽がいっぱい】をマット・デイモンでリメイクするつもりだとは !? マスターピースに敬意を払って手を付けずにおこうという発想は無いのか ? (無いんだな。)大体、オリジナルの持つ美しさ、力強さを凌駕する勝算がどこにあるというのだろう ? そりゃあまりにも恥を知らないというか、分別に欠けているのじゃないか。(ジミー大西顔のマット・デイモンは、美しいと言い切るにはちょっと難ありだとは思わないのかね ? )

【愛の破片】三星半
ヴェルナー・シュレーター監督の【アイカ・カタパ】は、が今まで見た三大“ワケ分かんねーよー”映画の1本となった思い出深い作品である……(ちなみにあとの2本は……ゴダールだな、やっぱり)。しかし、昨年山形で特別上映されている時に見たこの映画は、ひたすら音楽(特にオペラ)の美学の世界がフィーチャーされているので、分かり難くなりようもない ! うーん、私は何か変なところで感動してしまったが、皆様は、日本でベタベタの日常生活を送っているとなかなかお目に掛かることの出来ない“美”なるものの一つの在り方を現わしたドキュメンタリーとして、この映画を観賞して戴ければ幸いである。
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【内なる傷痕】三つ星
フィリップ・ガレル監督の映画はなーんとなく今まで避けて通って来ていたのだが、この作品に関してはともかく映像の美しさがとっかかりになるかもしれないと思い、見に行くことにした。こんなふうにイメージで綴っていく形の映画は嫌いではないし、今の時代にはなかなかこういったものは創らせてもらえないので、たまに見ると面白いよなぁと思う。しかし……自分の内側に向かっていくら孤独だ、孤独だと言い続けても永遠に救われないし、そういう関係性はどこまで行ってもそりゃ不毛に決まっておる。そういうのをあんまり愛とか呼ばないで欲しいような気が……昔からしているんだが。ぼそぼそした内省を繰り延べ続けるようなタイプのフランス映画に私があんまり馴染めないのって、結局そこなんだよねー。
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【愚か者 傷だらけの天使】三星半
前作の時も思ったのだが、別に“傷天”ていう冠は必要ないんじゃないかなぁ……って、まぁそれが無かったらこの企画自体存在していない(“傷天”て付いているからこそお金を出してもらえる)のだろうから仕方ないんだけどさ。さてそれで、冠を除いた映画の方だが、何をやっても今一つ歯車がうまく回っていかないお人好しの久というキャラクター(真木蔵人さんって本当にいい役者さんだ ! )に、何か非常に泣けてしまった。でもそれが悲惨に見えすぎない絶妙のユーモアこそ、阪本順治監督の(【トカレフ】を除いた)映画に共通する良さなのだろうと思う。華やかさこそあまり無いけれど、いぶし銀の渋さを持った一本であった。
ちなみに : 【トカレフ】もすっごい好きな作品です ! 念のため。
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【ガタカ】三星半
人間の遺伝子の解析技術がもう少し進んでくると、例えば生命保険の加入時に掛け金の差別などが起こってくるのではないかという議論が、アメリカの一部には既に存在しているのだそうだ(保険会社にしてみれば病気になると分かっている人なんて加入して欲しくなからね)。そうだとしたら、この映画に描かれているようなバリバリの“遺伝子差別社会"なんていうのも半ば現実味を帯びている話で、たかが空想物語とたかを括ってもいられないのかもしれない。(しかしそんな社会では、私のような欠陥だらけの遺伝子の持ち主なんぞ真っ先に抹殺されてしまいそうだわい、けっけっけっ。)映画の方は、近未来の雰囲気がよく醸し出されてる美術は前評判通りの水準の高さだったが、体組織のサンプルを提供してくれる本体様や弟くんなどの優良遺伝子の持ち主と主人公の愛憎関係がもっともっと丹念に描き込まれていれば、更に見応えのある映画になったのではないかと思う。ジュード・ロウの演じる将来を阻まれた屈折したエリート君の(いかにもイギリス人っぽい)陰影の深さはとても印象的だったが、良くも悪くもフラットなイメージのイーサン・ホークとのバランスが少し悪かったような気もする。しかし、ユマ・サーマンってホントつくりものみたいにキレイで、こういう役ってピッタリやね~。
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【キングス・オブ・クレズマー】三星半
東欧系のユダヤ人コミュニティでパーティの時などに演奏されていた音楽をルーツにするというクレズマー・ミュージック……って、今回の映画を観るまで私は全然知らなかったのだけれど、これは民族音楽のようなものではなくて、ジャズなどに近いような独特の響きがある音楽である。ユダヤ人というと、政治的な話題に登場してくることはよくあっても、彼らが実際どんな文化的なカラーを持っているのかというとあまりよく見えて来ないような気がするのだが(うーん、でもアメリカの映画業界とかだってほとんどユダヤ人に牛耳られてるっていう話なんだけどなぁ)、この映画の中の音楽を聴いていると、そんな彼らのメンタリティのほんの一片でも垣間見ることが出来るように思われる。よく出来た音楽ドキュメンタリーは、それだけで豊かな気持ちになれることだし、この映画は、とりあえず観ておくことをお薦めする。
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【黒の天使Vol.1】三つ星
松竹は、奥山和由氏と一緒になーんでシネマジャパネスクまで御破算にしてしまうかなぁ。こういうものは継続してこそ意味の増してくる企画だろうに、勿体無いったら。しかしこの映画は、そういう騒動のとばっちりを受けたのかどうかは分からないが(って、シネジャパ系での公開は随分前に決まっていた筈だから全く影響が無いってことはないだろうけど)、ともかく、石井隆監督にしては何か雑だなぁという印象を受けてしまった一本だった。照明の当て方とか安っぽくなってしまった部分もあったような気がするし、お話の方も何に重きを置きたかったのか分かりにくかったような気がするし……。それでも、根津甚八さんや椎名桔平さんの迫真の演技にはやはり見入ってしまったし、高島礼子さんにもここまでやっちゃっていいの ? というような文字通り体当たりの演技を見せて戴けたし、あちこちで絶叫する葉月里緒菜さんも、いつもは違和感を感じてしまう“葉月里緒菜様っぽさ”が薄くてなかなかいいなぁとか思ったし(小野みゆきさんの役柄にはもう少し重くてネットリとした存在感が欲しかったかなぁ)。何のかんの言いながら、石井監督の映画は、最後まで画面にかぶりついて見入らせてしまうだけの力強さはやはり内包しているのだと思う。でもそれだからこそ、もう一歩上のクオリティを自ずからどうしても求めてしまうというのは、観る側としての要求が贅沢すぎるのであろうか。
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【ザ・ウィナー】四つ星
場所はラスベガス。神懸かり的に勝ちまくるある純真な男の周りに、二重三重の人間関係が錯綜する。ヴィンセント・ドノフリオ、ビリー・ボブ・ソーントン、マイケル・マドセンなど役者さんは皆よかったが、特にレベッカ・デモーネイの演じる蓮っ葉女の役が面白かった ! アレックス・コックス監督は(やはりと言うべきか)ハリウッドのプロデューサーとは馬が合わなかったらしく、監督が望んだバージョンでの公開は日本だけで可能だったという話だが、この完璧な人物配置や小気味よい話の展開のどこをどう、プロデューサー氏は改編したというのだろう ? 日本という国に、ある種の映画のよさを世界のどこよりも認識できる土壌があるとするならば、(それがたとえ一部の人の偏った好みであれ、)喜ばしいことだなぁ、と私は思った。
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【すべての些細な事柄】三星半
この際一度白状しておこうと思うのだが、私は20才前後の5~6年間くらい、離人症状というやつの顕著な神経症と思われる状態に陥っていた。(ついでに言うと、心身症だか自律神経失調だかで身体的な状態もめっきり悪かった。これらについては、医者というものが信用できず病院の類いへは全く行っていなかったため、専門的な病名等はよく分かりませんので悪しからず。)自分がそういう状態になってつくづく思ったのは、狂気と呼ばれるものと正常と呼ばれる状態の間には明確な境界線など一切存在していないということである。【音のない世界で】のニコラ・フィリベール監督の、フランスのある精神病院を舞台にしたこのドキュメンタリーは、他の人にはどう映ったのかは分からないが私の目には、ある人達の普通の生活を描いたごく普通の映画であるように思われた。(“ごく普通”に捉えているところこそが、この映画が特別な所以なのである。)映し出されているのはただ、人間が自分の周りの対象といかにして関係を切り結ぶか、ということに関する省察であって、それは心の問題の有無に関わらずあらゆる人間に共通する普遍的な命題なのだ。
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【ソウル・フード】三星半
ソウル・フードは黒人の魂の拠り所……って、ずーっと昔の『美味しんぼ』にあったよな。あまりにも不毛な方向に行きすぎてしまったギャングスタ・ラップの世界に対する反動で、お互いに対する思いやりや優しさをもっと大切にしよう、という価値観が強調された作品が作られるようになったのは、きっといいことなんだろう。で、このお話は、いかに甘々とはいえ、いろんなタイプの黒人の人物を登場させ、あらゆる層にまんべんなく受け入れられるようなウェル・メイドな作品に仕上げているので、これはこれでいいのだろうと思う。が、文化的背景の違いなどを尺度に入れるとしても……基本的には私は、家族主義的な伝統に回帰しても問題は解決しないと考えている方なので、心から拍手を送る気にもどうもなれなかったりするのだが。結局メシ作るのは女かい ? っつーのも、何だかなぁと思ってしまったし。
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【中国の鳥人】三星半
何度も言うがは田舎者である。だから、“都会の人が田舎へ行って忘れていた何かを取り戻す”てなタイプのお話はすごく嘘臭ーい ! と感じられてしまって仕方なく、基本的にとても抵抗感があるのは否めない。とはいえこのお話は、緑色のトーンで統一された神話的な世界のとても美しい映像とあいまって、最後までダマされるがごとく見てしまっていた。これはやはり三池崇史監督の語り口のなせる業か。俳優さんでは、モックンはふぅんという感じだったが、“ハリウッドの底ぢから”マコ・イワマツ氏はやっぱり巧いんだなぁと、新たに認識し直した。ところで、あの女の子の歌う「アニーローリー」って、まるで烏龍茶のCFみたいって思ってしまったのは私だけ ?
三池崇史監督といえば : 昨年の映画【極道黒社会 RAINY DOG】はとにかく傑作なので一度是非 !! 今年はこれから公開になる 【BLUES HARP】【アンドロメディア】なんかも楽しみ(?)ですなぁ。(SPEEDだろうが何だろうが、えーえー、見に行きますとも。ふん。)
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【ディープ・インパクト】二星半
そんな選民思想的な政策は御免だ、とか、他の国はどーなったのよ ? とか細かくツッコミたくなるところはたくさんあるのだがそれはまぁ置いとくとしても。実際に彗星が地球に衝突、なんて事態になったら、引き起こされる社会的混乱やそれに伴う恐怖感・パニック感は、この映画の100倍は下らないんじゃないかと思う。ある少数の人々の道行きに焦点を当てて混乱のさなかの人間ドラマを描き出す、という狙い自体は決して悪くはなかったとは思うのだが、そちらの方に比重を置きすぎたあまり、人類滅亡の危機が家族レベルの問題のみに矮小化されてしまい、全体的な印象がこじんまりとしすぎてしまったような気がする。思うに、この描き方をまっとうして、なおかつスケールの大きなクライシス・ムービーとしてのインパクトを出したいと思うのなら、TVドラマ並みの時間枠が必要になるのではないかしら。(貶めて言っているのではない。ある種の題材やその描き方にはTVドラマの方が絶対的に有効なのは周知の通りだ……それこそ監督の古巣の【ER】とか。)ミミ・レダー監督は、TVと映画のメディアの使い分けの明確な方法論を確立するのには、ひょっとしてもう少し時間が掛かるのかもしれない、と思った。
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【遥かなる帰郷】二星半
ごく大雑把に言えば、ナチスの収容所から解放された人々がいかにして家まで辿り着いたか、という話である。しかし、収容所でどれだけ精神を痛め付けられてぼろぼろになってしまったか、という原作ではかなり大切だったと考えられる要素が、必ずしも充分に表現され切っていないような気がした。いやそれよりも全体的に、お話の見せどころとか泣かせどころとかの決め方が、何故かすごーくアメリカナイズされちゃっているような印象を私は受けて、そちらの方がとても気になってしまったのだけれども……。
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【普通じゃない】二星半
キャメロン・ディアスとユアン・マクレガーはとても素敵だと思った。ところどころ笑ってしまったところもあったし、脚本もそれほど悪くないのじゃないかと思った。でも、面白くなりそうかな~ ? と思っていると、今一つハズされてしぼんでしまい、全編居心地の悪いままに終わってしまった感じ。天使の二人の役回りもちょっと分かりにくくなっていて残念だったし、全体的にどうもバランスが悪くなってしまっていた気がする。しかしこの様子なら、編集のやりようなどによってはもっと期待通りの面白い作品になっていたんじゃないのかしら。もしかして、お話のポイントの置き所がよく分かっていない人に変にいじられてしまったんじゃないのか、という印象があるのだが。やっぱりハリウッドが出資しているとなるとなぁ……。
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【不夜城】二つ星
原作者の馳星周氏のペンネームは、周星馳(=チャウ・シンチー、言わずと知れた香港の大スター ! )を逆さにしたものだという。この話にシビれたので、今回、私としては非常~にめずらしいことに、先に原作を読んでみることにしたのだ。しかし、これが大失敗であった ! 映画を見ている間中、「これは原作とは違うんだから……」と一人つぶやき続けるはめに陥ってしまったからである。中国人マフィアの抗争という寒々とした話を背景にしているにも関わらず、この映画の雰囲気はちっとも荒んでいない。歌舞伎町はパッケージ化された箱庭みたいだし、金城くん(今回ちょっと巻き舌かしら ? )は、裏社会を這い擦り回る一匹狼のアウトローというにはあまりにもジェントルマンでナイーブ過ぎる。テーマになる曲も、B'zや「Unforgettable」じゃなくやはり崔健なのではないかしら……。原作の主人公・劉健一は、自分以外の存在を全く信じることの出来なくなってしまった人間であり、だからこそ自分と同類の人間である夏美こと小蓮(かよわい女の系譜よろしく悪者に堕落させられたことになっている映画とは違い、原作では凄まじいいじめから逃れるために自ら体を投げ出した女という設定である)に自分と近しいものを感じてしまったのだが、映画の方からこのような、擦り切れたぼろぼろの惨めさを共有する者だけが持っている詩情がどこまで伝わってくるであろうか。原作の雰囲気を保ち続けるのが金科玉条であるなどと言うつもりは勿論無いにしても、これだけ原作の良さばかりが思い起こされてしまったということは、やはり映画の方には、原作のトーンを凌駕していくだけの独自の力強さが不足していたということになるのではなかろうか。しかしてこの映画は、大手の商社やら広告代理店やら書店やらが大挙して関わったプロジェクトであり、作品というよりは大イベントであることを最初から運命づけられている商品なのである。原作の夢も希望もカケラもないひりひりとしたタッチはマス向けに流通させていくのには不適当である、と判断されたのは致し方の無いところだったのだろうし、となると、このようなピントの甘い地点で成立させるのがギリギリの限界だったのは、もともと方向付けられている話ということになるのかもしれないのだが。
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【ボクサー】三星半
自分は犠牲を払ったのだから、という怨念でお互いを延々と縛り付け合うという状態には、発展性が皆目存在していない。それってまるで日本とかいう国の田舎のコミュニティの話みたいで、私の思考回路は、そこから先の昔懐かしい世界観に没入していくことを全く拒否してしまったのだが……う~ん、ストーリーそのものに(多少図式的なところがあるような気はするが)致命的な欠陥がある訳じゃあなし、ダニーちゃん(ダニエル・デイ・ルイス)とエミリー・ワトソンも油の乗り切った素晴らしい演技をしているというのに。何だかすごーく損した気分がする。
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【ボスニア】四つ星
【アンダーグラウンド】が現在のユーゴスラビアの情況を寓話的に描いたものなら、この映画は、紛争の最前線にいる兵士たちが実際に憎しみ合う姿をごく直接的に描いたものである。私らの目から見ると、誰がセルビア人やらムスリムやら全然分かりゃしないんだが、台詞にあった言葉を借りると本当に「何のための戦争」なのか、ますます分からなくなってしまう。ところで、“ボスニアを東京まで拡大せよ”とはなんてベタなコピーだろう、と思っていたら、これが映画の中に実際に出てくるフレーズであった ! 多分東京とは、彼らにとって思いつく限りの世界の最果てにある都市の名前として引用されたのだろう(ということにしておこう)。パンフにある監督の言葉を引用すると、「私が目指すのは、ボスニアの戦火から遠く離れて、ぬくぬくと映画を楽しんでいる君たちに惨めな思いをさせることだ」ということになる。しかし、「私たちが他人に対してもっと寛容になれたら戦争なんて起こらないのに、なんて甘っちょろいセンチメンタリズムや人間の“善性”が世界を覆っているとは断じて認めない」という言葉にはちょっとだけ異論があるかな。確かに、人間の“善性”は世界を覆ってなどいないと思う。でも、人間は放っておけば破壊の方向に向かってしまわざるを得ないからこそ、死に物狂いで“寛容”の方向に歩み寄り、共に生きていく道を模索せざるを得ないのではないか ? “絶対的な憎しみ”を容認して、一緒になって殺し合いを始めろとでも言うのか ? “ぬくぬくと映画を楽しんでいる”地点から何を言っても説得力が無いのかもしれないけれど、“不寛容”の歴史の果てに未来が存在していないことだけは確かなのではないだろうか。
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【ムトゥ・踊るマハラジャ】四つ星
きゃあ~っ踊って踊ってぇ~っ !! 御都合主義の嵐が吹き荒れるこってこてのストーリーでもオーッケイ ! カンフー映画ばりのアクションに、【ベン・ハー】もびっくりのカート・チェイス、そして何と言っても、往年のハリウッド・ミュージカルも真っ青のゴォージャスな歌と踊りの洪水に、気分はもう桃源郷……とにかく頭をカラッポにして楽しみたいのなら、この映画は現在公開中のどんな作品と較べても全くひけを取らないだろう。そういうイミでこの映画には、四つ星の価値は充分あると思うんである。そしてこれを、【トレインスポッティング】【ブエノスアイレス】の大ヒットでも有名な、渋谷一のおっしゃれーな映画館として誉れの高いシネマライズでやることの意義こそ、とてつもなく深いのではなかろうか。インド映画の魅力を一般にアピールするのに、東京ではここ以上の劇場はないことだろう。うーむさすがはシネマライズ、の大英断。偉いっ !
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【レインメーカー】四つ星
この映画で何が一番印象深かったかというと、白血病の息子を抱えるあまり裕福ではない一家の様子、というより、その家のちょっと変り者のお父さんが何かあると引きこもってしまう庭先の車のボンネットに集まってくる、たくさんの猫たちであった。この描写一つが、この映画における登場人物一人一人の立て方が非常に丁寧であることを象徴しているかのようである。このように、画面に出てくる隅々の人物やディテールまで疎かにしないで独特の深みを与えることにこそ、実はコッポラの真骨頂ってあるのではないだろうか。そしてこのお話に、従来のジョン・グリシャム節以上の何か特別派手な展開がある訳ではないにしろ、とても手堅くまとめられていて、コッポラ監督の近作の中では秀逸の出来になっているのではないかと思う。ところで今回見ていて初めて気が付いたのだが(今頃気付くなって)、グリシャムさんのお話の中の理想に燃える主人公って、必ずロー・スクール出たてのルーキーの弁護士か法学生なのね。しかも今回のお話のラストではしっかりと、“学校出たての頃は理想に燃えていても弁護士を続けるうちに皆堕落してしまわざるを得ない”なんてことを言っていたりして……う~ん、そんなんで大丈夫なのか、アメリカの法曹界は ? 人の国のことながら心配になってしまったじゃないの。
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