Back Numbers : 映画ログ No.22



【イノセントワールド】一つ星
そもそも、このヒロインがどうした訳で“傷ついちゃって”いるんだか、のっけからよく分からないんですけども……。スクリーンの上ではどんなにヘヴィな状況だって割と当たり前に存在していたりするのだから、“傷ついちゃっている”ことに本気で説得力を持たせたいのであればよっぽど丁寧な説明が必要でしょう。この作り方では、“そんな傷だらけな自分”たちに登場人物が何の疑問もなく浸り切ってしまっているようにしか見えないので、そのテの自意識過剰を“イノセント”って呼ばれてもなぁ……といった気分にしかなれないのだが。
タイトル・インデックスへ

【エデンへの道・ある解剖医の一日】二星半
後になって見た予告編に、外国のメディアのこんな評文が載せてあった……「この映画のイマージュに心動かされない人は心臓に毛が生えているに違いない」。そ、そうだったのか、毛が生えていたのねワタシって。だって実家は医者系だったし親の死に目にもあって死体も触ったことあるんだから、人間は死んでしまえば土に還る存在で一皮向けば皆あのようになるという事実自体は、別に今更特別なことでもないんだけどなぁ。(まぁそれって一般的な感想ではないのかも知れないが。)ところで、解剖医とてお医者さんだから尊敬されこそすれ白い目を向けられるって話は、日本では特に聞いたことないように思うのだが、ハンガリーではそんなに世間の目が厳しいのかな ? それは文化的・宗教的な違いとかに起因しているのだろうか ?
タイトル・インデックスへ

【学校III】四つ星
一本目は最初は馬鹿にしていたのだが、見たら案外面白かった。続編なんて作りやがって、と思いつつ見に行ったIIも、悔しいことによく出来ていた。で、やっぱり面白いんだろうなー、と渋々見に行った今回も案の定だったのだ……。確かに、ちょっとどうかなと感じるような表現上の違和感も2,3はあったのだが(1.その非常識さ故に皆から嫌われていた元部長さんとどうしていきなり親しげに身の上話などを始めたのか2.“非常識に出来上がってしまった会社一筋人間”って一般的にあんな可愛いらしいものではなく、もっと手に追えない人種であるように思われるのだが3.黒田勇樹君のナレーション・演技は良かったんだけどね)、障害児の子供を持つこと、失業、過労死、親子の断絶、病気に自殺にetc...怒涛のように迫り来る人生の荒波にただ対峙していくしかない人々の姿は,ある年齢以上の人ならば一つくらいは身につまされる覚えがあり、画面の誰かに自分の姿を重ねて見ざるをえなくなるのではなかろうか。また、似たようなテーマを他の人がやると絶対いやらしくなりそうなのものなのだが、山田洋次監督がやると、べたべたしすぎないさじ加減でうまく決まるんだな。これが若い人が相手となるとどこまで遡及出来るかは分からないのだが、少なくとも中高年相手には非常に深く訴えかけるものがあると思われるので、もしかしたら、通常は滅多に映画を見に行かない層・特におじさん質などを映画館に呼び込むことが出来るかもしれない !? と思ったのであった。
タイトル・インデックスへ

【カンゾー先生】四つ星
うーぴーは実は岡山県の出身なものだから、水島・玉野・倉敷・西大寺といった地名や「~じゃけぇ」「ぼっけぇ」「~なら」「おえん ! 」といった岡山弁を聞いてついつい和んでしまったのかもしれない。ともあれ、カンゾー先生のキャラクターは今村昌平監督作品のキャラにしてはすこぶるノーマルで親しみやすいと思うので(何でも肝臓病と診断してしまうのはヤブなのではなく、栄養状態の悪い戦時中にはウィルス性の肝炎が実際に蔓延していたのだそうだ)、【うなぎ】のような作品よりはもっと一般的に受け入れられ易い取っ掛かりはありそうである。そして周りを固める人物は、“ただまんはやらない”女の子に破戒僧に、モルヒネ中毒の外科医に脱走兵……タテマエを排した部分で自ら最も大切だと思われる原則に則って行動する人々の群れは、いわゆる若い人が見てわーっと来るような面白さには乏しいかも知れないが、声を立てずに腹の底でくっくっと笑ってしまうような可笑しさならたっぷり味わえる。今村監督お得意のタッチだが、この作品は特にユーモラスで、後口の良さもあるように思う。原作はこういう終わりかたではないらしいのだが(監督も言っていることだが、瀬戸内海でクジラが獲れたという話も岡山から原爆が見えたという話も聞いたことがない)、原爆も敗戦も逞しく乗り越えて彼等には子供をばんばん作って欲しいもんだ ! と思わせるこのラストの方向性には、かの戦争の後、妙な方向に歪み固まってしまった今の日本をもう一度元気良く生まれ変わらせたい、といった祈りのような気持ちが、あるいは込められているのかもしれない。
タイトル・インデックスへ

【ガンモ】四つ星
マドンナの『ライク・ア・プレイヤー』はこんなにも荒涼とした原風景を持つ歌だったのか、しかしこれほどまでに崇高に響く曲なのだと今回初めて知った。アメリカの悪夢、なんて表現はあまりにも陳腐だから使いたくはないが、例えば通常の商業ベースの映画-代表的なのはハリウッドもの-が、どのようなタイプの話であれある種洗練されパッケージング化されていることをテーゼとしているならば、この映画は、そのパッケージングの過程で通称は否応なく削ぎ落とされてしまう生のノイズ(普段あまり聞きたくないような)を拾い集めて、一つの表現として形にしたものだろう。この映画を酷評している人もいるようなのだが、これを評価するか否かは、映画というものに対して何を求めているかに依るのだと思う。しかし、人間には美しく刈り込まれたつるつるの世界以外のものを知覚する領域も存在している以上、時としてそのような部分が感じ取っているものにも目を向けてやらないと、感覚がいびつな形に固まってしまうのではないか。だからこのような映画もあるべくして存在するのだと、私には思われるのである。
ほんとーにつまらなくてすいません : ガンモといえばおでん、じゃなくて細野不二彦さんのマンガ『Gu-Gu ガンモ』を思い出してしまうのは私だけではあるまい ?
タイトル・インデックスへ

【TOKYO EYES】三星半
ジャン・ピエール・リモザン監督が吉川ひなのをヒロインに指名した理由は、画面を見れば一目瞭然であった……そうか、ひなのちゃんって、いわゆる60年代辺りのフレンチ・アイドルの系譜の後継者だったって訳ね。これは東京という場所を借りた御伽話ということなのだが、そういえばこの映画が持つある種現実離れした感覚には、それらの映画の持つタッチと共通しているものがあるかもしれない。でもそれは非現実的ということではなくて、現在の東京、あるいは日夜距離感が狭まりつつある世界中の大都市のある層に共通して存在している独特の浮遊感覚を、合せ鏡のように映し出しているかのようである。今回のフランス・日本のコラボレーションがほとんど違和感が無いくらいうまく行っているのは、まさにそのような“感覚の共有”を前提にしていたからなのかもしれない。
タイトル・インデックスへ

【ピガール】二星半
パリの夜の顔にいかに誰しも興味があるだろうとはいえ、前半は割とありきたりなお話という感じがする。が、そこらは丁寧に伏線を張っているということらしくて、中盤以降の、傷心のフィフィ君をヴェラちゃんが慰めようとする辺りからはそれなりに面白くなってくる(ところで、あれは前ならOKだったのでしょうかしら……やっぱり ? )。でも全体に、どうも上品でこじんまりとした印象になってしまったような気がするのは、日本の風俗産業界の発するもっともっとエグい情報の数々に、ある種私らは慣れてしまっているからなんでしょうかねー。
タイトル・インデックスへ

【ブギーナイツ】三星半
ブルース・リーのポスターをべたべた貼った自室で、ビキニ一丁で鏡の前に仁王立ち……って、どっかで見たことがあると思ったら【サタデー・ナイト・フィーバー】だっけ !! この監督さんは何だって若いみそらで、70年代から80年代の風俗を、それもポルノ業界を中心に描くことなんて思いついたのかしらん、と思っていたら、実際に監督さんが生まれ育った街が、この話の舞台になっているサン・フェルナンド・バレーだったのだそうで……(そりゃスゴい環境ですなぁ)。私自身は70年代に対しても80年代に対しても全く思い入れが無く、アメリカのポルノ業界に対してもポジティブにもネガティブにも何の感情も持っていないので、この映画は、ある限定された地域と時間を背景にした夢と栄光と挫折、そしてその後の物語というふうにしか映らなくて、それだとちょっとだけ長いかなぁ、というふうにも感じた、のだけれど、そのどれかに少しでも何らかの思いのある人ならば、この映画はもっともっと深~く楽しめるのではないかと思う。
タイトル・インデックスへ

【フラワーズ・オブ・シャンハイ】三つ星
かの時代の上海の娼館には全然興味が無いので、全編見ていてもどうしても“ふ~ん”という感じで終わってしまうのだが。ただ、この一見した無駄くささが、画面の豊潤さと相俟って醸し出すまったり感にこそ、ある種の贅沢さが存在していそうな心持ちは、するかなぁ。
タイトル・インデックスへ

【ポルノスター】三星半
脚本も映像上の表現方法も、監督が言いたいことを十二分に表現するのにはまだまだ修練不足、といった感はある。しかしそういったこなれきっていない部分を補って余りあるエネルギー、鬱屈した、抱え込まれた思いがこの映画には満ち溢れている。千原浩史の演じるキャラクターの冷え切った存在感、鬼丸の圧倒的な迫力を見事に表出していることだけでも、これは観る価値があるだろう。豊田利晃監督の次回作には切に期待をしたい。
タイトル・インデックスへ

【マスク・オブ・ゾロ】四つ星
昨今のハリウッドはリメイクブームなんて言われていたりするようだが、それは単に企画力やオリジナリティを醸造しようとする土壌にこと欠いた結果なだけ、であるように思われるのは気のせいなんだろうか?で、例によって、私は二番煎じのリメイクものにはほとんどの場合は食指が動かないのだが、しかしこの映画に関してだけは、製作が初めて伝えられた時点から絶対に見に行こうと心に決めていたのだ。だって想像しただけで、“快傑ゾロ”のイメージってバンちゃん(アントニオ・バンデラス)にぴったりくるではないか !! これは通常のリメイクというよりは、バンちゃんのためにこそよくぞ見つけ出してきた素材、であるかのように私には思われたのだ。(でも他のリメイクも一応はそのように意図されているんじゃないの?と言われれば、それは全くその通りなのかもしれませんよね……。)で、内容の方も、バンちゃんの魅力を最大限に引き出し、かつ飽きさせないような工夫を随所に凝らしつつ、コメディもシリアスも緩急自在に取り入れてコンパクトに盛り上げていくさまは実にお見事で(特に、小汚いバンちゃんがカッコよくなっていく過程の作り方が上手いと思った)、これならお話の多少の行き過ぎたデフォルメ(火事を起こすならまず檻を開けてからにせんかい ! とか)もある程度大目に見ようかという気にもなる。また、先代ゾロのアンソニー・ホプキンスの、さすがはサー !! のあまりにもエレガントなたたずまいとそのチャーミングさは予想外の驚きで、ひょっとしたらバンちゃんを差し置いてしまうかもしれないくらい、すっかりシビれてしまったのだった。……という訳で、気分はすっかりミーハーに入っている。このお星様の付け方にはどう考えてもその気分が反映されてしまっているのは、どうぞ御了解戴きたい。
タイトル・インデックスへ

【マルセイユの恋】三つ星
どうもマルセイユって、歴史のある大都市ではありながら、グローバル経済の発展とかといったものからは取り残されているうらぶれた港町、というイメージが付きまとう(あくまでもイメージです、念のため)。そのマルセイユに花咲いた大人の御伽噺、というかフランス映画における山田洋次的世界、とでも言った方がいいのか、これは ? お話自体は取りたててどうということもないもののようにも思うが、登場人物一人一人の人間味に溢れるやり取りがとにかく微笑ましいのでいいんじゃないかな。
タイトル・インデックスへ

【モンタナの風に抱かれて】三星半
例えば【リバー・ランズ・スルー・イット】では、ロバート・レッドフォード監督はただ一点、フライ・フィッシングの糸の美しい動きを描いてみたかったのに違いない。同様にこの映画では、監督はただただ“馬とお話が出来る人”を描いてみたかったのではなかろうか……きっと監督自身が馬とお話が出来るので、それを自慢してみたかったんだな。(だから今回自分で主役を演っているのだろう !? )でもそれだけではお話として余りにもなんだから、女の子のエピソードや不倫話を付け加えたくらいにさえ見えるんである。しかし女の子の方はまだともかく、不倫話の方はまるっきり【マディソン郡の橋】の二番煎じみたいだし、うーぴーはなんたってサム・ニールの大ファンなもんで、クリスティン・スコット・トーマス(の演じた役柄)って何てヤな女 !! としか思えなかったんですが……〔すごく上手いんだけどね〕。ところで今回、“馬のことしか知らない”カウボーイをリアルに演出したいがためか、レッドフォードさんはそのかなりシワシワな顔をどアップで画面にさらしていたのだが、その結構ものすごい勇気 ? を持った彼をセクシー俳優路線に嵌め込んで売ることに、日本の配給サイドはいつまでこだわり続けるのだろう ? 他の売り文句を見つけられないというのでは、余りにも情けないんじゃないか ?
タイトル・インデックスへ

【ワイルド・マン・ブルース】三星半
ウッディ・アレンのクラリネットはなかなかのもの。これなら充分プロにもなれたことだろう……ただ映画と違って、未知の何かを創り出すということがどこまで出来たかは分からないけれど。あと何といっても見どころなのは、新しい奥さんのスン・イー・プレビンさんを交えたウッディ・アレンの現在の生活のトーン。どこまでリアルなのか、どの程度フィルムの前で作っているのかは分からないが、そのユーモラスなやりとりは彼の映画のセリフそのまんまで、最近の伸びやかな作風がどこからやって来ているかを彷彿とさせるのである。しかしこう言っては申し訳ないかもだが、再婚した理由も、ミア・ファローとの結婚時代(特に後半)に現代の病める夫婦の話ばかり作っていた理由も分かりすぎるほど分かってしまうのが、当時の映画も好きだった身としては少し悲しくもあったりして。
タイトル・インデックスへ


ご意見・ご感想はこちらまで


もとのページへもどる   もくじのページへもどる