Back Numbers : 映画ログ No.24



【あ、春】四星半
相米慎二監督は、ついにこんなマスターピースを創ってしまったか。素晴らしく上手な役者さん達を擁したあまりにも完璧な出来栄えについつい騙されそうになってしまうが、これは決してほのぼのとした人情噺なんかではない。それぞれの人が、本音を建て前で包み込んで表面上平穏に、ある意味小狡く、互いの人間関係をうまく取り繕いながら日常生活を送っている様は、実に日本という国の原風景だなと、私なぞの目には映るのである。(主人公を突然訪ねてくる父親と主人公の妻だけは少し例外で、だからこの2人は妙に共鳴し合うのだが。)そしてその微妙な人間関係のバランスが少しずつシフトして、前とは少しだけ互いの本音に近づいた部分に地点に着地していく様の描写がまた実に巧い。思うに、相米監督は、人間同士のかかわり合い方についてかなり批判的な観察眼をお持ちなのではないだろうか。そうでなければ、とってもこうは描けない筈だと思うのである。
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【アルマゲドン】三星半
この映画のプロデューサーをしているジェリー・ブラッカイマーという人は、必ずや当たる映画を作れるということで今乗りに乗っている人なのだそうだが、そう思ってみればこの映画には、観客心理を嫌らしいくらいについた見どころがどっかんどっかんと満載されているのが見て取れる。詳しくは「プレミア」12月号掲載の特集などを御覧になって戴きたいのだが、泣く子も黙るブルース・ウィリスを中心に据え、若手スター(ベン・アフレック)、映画マニアにも受ける曲者(スティーブ・ブシェミ、ビリー・ボブ・ソーントンetc.)、そして雰囲気を和らげるためのヒロイン(リブ・タイラー)をとどめに配し、お話の方も、世紀末を合言葉にいかにもな勢いで作られている地球壊滅パニックものに、“ほとんど実現不可能な困難に立ち向かって人類を救う”というヒーローものには欠かせない要素をプラスした上で、親子や世代間の葛藤と和解、ラブロマンス、同業者同士の仲間意識といったエッセンスをこれでもかと振り掛けてみたりする。そりゃあ受けない訳がなかろうというものだ。敢えて言えば、そこまで雑多な要素を詰め込みつつも、怒涛のような勢いを失わせずに1本の作品としての統一感を持たせた監督の手腕には敬意を表したいところだが、人物設定の伏線を丁寧に張ろうとしていた前半はまだそれなりに面白く見られても、小惑星に着いてから以降の部分はあまりにも“平坦な展開を無理矢理盛り上げるための起こらずもがなの事件の連続”のように思われて、個人的にはかなり食傷気味になってしまったのである。また、ブシェミ様の中途半端な使い方もどうも気に入らなかったし(あれでは本当にいいところなしの単なる変人ではないか ! )、ロシアの人達が怒ったというあんまりなロシア人の描き方にもやはり笑えなかったりしたので、やり過ぎにげんなりさせられてしまったというところでお星様の数は少しばかり下げさせて戴きました。
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【アンナ・マデリーナ】二星半
金城君はやっぱりこういう、下手するとフラレ役にすらなってしまいかねないくらいの“とことんいい奴”の役がよく似合う。そんな彼にはやっぱり幸せになってほしいような気がしてしまうので、本編よりも劇中劇のハッピーエンドの部分の方が印象に残りすぎてしまい、ややバランスが欠けたように見えてしまったのが惜しいのではないかと思う。
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【ジョー・ブラックをよろしく】三つ星
死神ってもっと何でも知っていそうで、だから人間の生活などには全く関心も無さそうな、もっと超然としているイメージがあるんだけど……という前提の部分は言っても仕方がないので黙っておくが、まぁ予め思っていたほどお話に無理はなかったし、アンソニー・ホプキンスの演じた自分の人生の終わりを見つめる財界の紳士の役柄にも説得力があったし、クレア・フォラーニは予想以上によかったしで、予想していたよりは割と楽しめる、落ち着いた感じのいい映画ではあった。しかし、やはり3時間は長すぎる。その日の5本目としてオールナイトなんかで見ちゃっている身には、尚更こたえたのであった。
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【シンク】三星半
誰かのすぐ側にいるみたいにあらゆることを伝えあうことも、その人ともう二度と会うことが出来ないかもしれないことも、まるで紙一重であるかのような、この他者との距離感自体が、すごく新しい世代に属している感覚であるように思う。そういった空気感が、登場人物の息遣いすら聞こえてきそうな臨場感を以て伝わってくるのは、これがビデオ作品であればこそであろう。ビデオであることがここまでうまく生かされているものを見るのは、初めてなような気がした。
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【スモール・ソルジャーズ】四星半
何を隠そう私は【グレムリン】の大ファンである……しかも、続編ということを逆手に取って悪ノリの限りを尽くした2の方がまた大好きで ! この映画を一見するや、あのジョー・ダンテ監督独特の、小悪魔的なお茶目さとささやかな悪意を湛えた破茶滅茶な大騒ぎが見事にカムバックしてきていたので、私は思わず快哉を上げてしまった ! しかもこのお話、一見単なるドタバタコメディのようにも見えるしそういう見方をするのも全くOKだとは思うけれども、例えば会社の合併だのリストラだの何だのでなりふり構わないお金儲けの方法に暴走しまうところなど、実はかなりシビアに現実を茶化しているのではないかと思われる。更に、正義の見方として作られたコマンドー・エリート達が、実際には“敵を倒す”という行動指標しかインプットされておらず、その目的を果たすために一度敵と見做した者達を追い求め続けどこまでもエスカレートしていく姿に至っては、もしかして現実の軍隊のような組織のある側面をパロディ化しているのではなかろうかと考えると、これは相当にブラックなのではないか。また、その醜い姿ゆえコマンドー達の敵にさせられてしまったゴーゴナイト達の方こそ実は平和主義者であった、というところも誠にツボをついている。結局はそのゴーゴナイト達(彼らの一体一体が思わず飾っておきたくなるほど実にキュートである ! )と、お話の当初で少し問題を抱えていた主人公の少年の友情&成長の物語であるところも、基本をしっかり押さえてあり実に素晴らしい。とにかく私個人的には、これはいきなり古典に指定してしまいたいほどの大傑作 !! と化してしまったのであった。
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【精霊の島】三星半
原題の【Devil's Island】は、“一度出ていったら二度と帰りたくない島”という意味で、アイスランドに付けられた渾名なのだそうだ。そう思ってこの映画を見た方が、故郷に対して好悪が相半ばする登場人物達が繰り広げる戦後のアイスランドのサーガが、更に真に迫ってくるのではないかと思う。すごく派手なところはないけれど、一癖も二癖もある登場人物たちのことを、ずっと後になっても思い出してしまいそうな気がする。
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【たどんとちくわ】二つ星
椎名誠の世界のある種の荒唐無稽さは、陽性のユーモアによって支えられているからこそ絶妙なバランスをもって成立し得るものなのかもしれない。しかるにこの映画では、市川準監督が特有の静謐さと生真面目さをもって純文学的にこの題材を突き詰めていったのが今回ぱかりは裏目に出てしまって、結果、何だか難しい方向に着地してしまったような気がする。このような出来上がりを評価する向きもきっとあるのだろうというのは分かるのだが、純文学の苦手なには正直言って、全編ついていくのがかなり苦しかったのである。
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【ドクター・ドリトル】二つ星
これではドリトル先生も、動物たちを治したいんだか何なんだかさっぱり分からないではないか。登場人物たちが場面の都合によってころころと態度を変えてしまうというのは、全く以て脚本の練り不足だと思う。いくら主役は動物たちとは言ってみても、あまりにも子供だましというか、こんなんでは子供だって騙せないんじゃないかな。
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【鳩の翼】四つ星
かっちりと創り上げられた完璧な出来栄えの“文学作品”。全編、“これぞヨーロッパ”な深みのある豊かな豪華さを湛えているところがよいのだが、かといって重苦しくもなり過ぎず、現代的な印象ですっきりとまとまっているところが更によい。それにしても、普段ならあまり正視したくもないような人間の嫉妬心や浅ましい知恵なども、ヘレナ・ボナム・カーターが演ると、人類が抱え持つ崇高で普遍的な苦悩に見えてきてしまうから不思議である。
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【フェイス】三星半
裏切り者は誰か ? というサスペンスな筋立てからも目は離せないが、お話全体が、ロバート・カーライル扮する主人公が辿る絶望から再生への軌跡になっている側面の方が、より見逃せない気がした。しかし、普通だったら、こんな奴にこんな素晴らしい女の人が寄っていく訳なかろうが、と文句の一つも言いたくなったりするところなのだが、アントニア・バード監督はさすがに女の方だけあって、女がそんなロクデナシに惚れ直してしまう瞬間のことをよく分かってらっしゃる !
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【ベルベット・ゴールドマイン】三星半
何を隠そう私は過去、デヴィッド・ボウイさんのアルバムばかりをトチ狂ったように聴きまくっていた時期があった。残念ながらリアルタイムのファンではなかったのだが、それでもそれなりにいろんな資料なぞをあたってみたりしたものだ。で、そんな私がこの映画を観て思うのは、これは当時を忠実に再現したものと考えると違ってしまうのではないかということだ。登場するエピソードなどは確かに実際の出来事や人物に取材している部分も多いのだが、どうもかの時代の破茶滅茶なエネルギー感にはちと欠けるというか、流れている空気感がやはり90年代のものであるように思われるのである。また、バイセクシュアル的(グラムの時代の合言葉 ! )というにはあまりにもホモセクシュアル色の方が濃く出ているので、むしろどうしても監督の旧作【ポイズン】の方に近い印象を抱いてしまう。ということでこの映画は、トッド・ヘインズ監督が自らの世界を表現するのにグラムという意匠を素材として選んだものなのだと考えた方がしっくりくるのではないだろうか。出来自体は決して悪くはないとしても、この映画で展開されているのはあくまでも、監督が創り上げた“観念上の70年代”なのである。
おまけ : ボウイさんのアルバムでが特に好きなのは「Aladdin Sane」「Diamond Dogs」「Station To Station」など。「Low」や「Scary Monsters」なんかもよい。ボウイさんの曲はメロディもさることながら歌詞が素晴らしいものが多いのだが、『Station To Station』という曲の歌詞、「It's too late to be grateful/It's too late to be late again/It's too late to be hateful」は、今でも私の座右の銘である。ちなみに、この映画の題名になっている「Velvet Goldmine」は、「Ziggy Stardust」( 映画のサントラじゃない方)のCDにボーナストラックとして入っています。ボウイさんがこの映画に楽曲提供を拒んだのは自分でその時代の映画を作る計画があるから、ということらしいのですが、将来映画が完成した暁には、この作品と見比べてみると面白いかもしれません。
しかしなぁ…… : ユアン・マクレガー君がイギー・ポップをモデルにしたという役を演じたことにどうしても納得できないものを感じたのは私だけなのだろうか……俳優という職業にだけ関して言えば、体型が醸し出す説得力、というものは決して無視できないものなのではないかと思うのだが…… ?
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【マイ・スウィート・シェフィールド】三星半
人間の生活がどれだけ苦渋に満ちていようとも、鉄塔を渡る風はあくまでも爽やかで優しい。“さよならだけが人生”な、もしかするとシビアであまり救いようがない、スウィートというよりはかなりビタースウィートなお話なのだけれども、これがじめっとしたいかにも悲劇的といった展開にならず、そこはかとなく希望さえ滲ませているのがまことによろしい。“大人の分別”を湛えたシブい映画である。
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【ラストゲーム】三星半
いかにもスパイク・リーが取り上げそうなテーマだし、お話的にもよくまとまっていると思うのだけれども、いつものような濃厚な監督らしさがどうも薄まっている感じて、悪い出来ではないけれど私は何だか物足りないような気がしたのだが(しかしもしかすると、監督のカラーが出すぎていないからこそアメリカで一般ウケしたのかもしれないよなぁ)……と思っていたら、これはもしかしたら音楽のせいではなかったか。スパイク・リーだからといって必ずしもラップやジャズである必要はないとは思うのだが、それにしてもオーケストラを多用したスコアってなーんか彼の映画にはそぐわないというか、らしくないというか。単なる私の偏見なのかもしれないけれど。
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【ラブ&デス】三つ星
こういう“時代遅れな頑固者”って冷ややかな目で見られたり笑われたりする展開になるのが常なのではないかと思うのだけれども、このお話では、主役の老作家の周りの人達があくまでも彼に暖かく接しているのが何かよかった。また、彼がどんなテーマを扱ってもあくまでも高尚になってしまうところもおかしかった。いいじゃないの、時代遅れでも何でもそれなりに生きていけるものなのよね……ってそれは本来のテーマじゃないんだけどさ。
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【ラブゴーゴー】四つ星
チェン・ユーシュン監督の前作【熱帯魚】の脱力感さえ漂うオフビートな世界は、偶然の産物ではなく計算し尽くされて創られたものなのだということがはっきりしてしまった ! この映画は、観ている最中には大笑いしているのに、観終わった後によくよく考えてみると幸せになっている人が誰もいなかったりする、かなりのアンチ・ハッピーエンドである。にも関わらず、観終わった後残っているのはむしろ甘酸っぱいような爽やかな印象で、何だか幸せな気分にすらなってしまっている、という驚異的な作りなのである。登場するエピソードの一つ一つが秀逸なものばかりなのも素晴らしくて、私は特に「ピンクの風船」の使い方や、ホールピースのレモンパイを前にして泣き笑いするシーン(どうしようもなく絶望している時にも人間は笑えるのだ ! )には完全に唸らされてしまった。
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【ルル・オン・ザ・ブリッジ】三つ星
一瞬、何だ夢オチか ? と思ったら、よく考えると違う訳なのね。しかし、本来のポール・オースター氏の領分は都会の片隅に生きる人々の彷徨を描くことではないかと思うのだが、その本来の持ち味を充分に観る側に伝えたいと思うのならば、SF的な設定などは一切持ち込まない方がよかったのではないのだろうか ? 日本に生きるワタクシ達と致しましては、あれを見るとどうしても「あ、飛行石 ! 」とか思ってしまうではありませんか。
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【私の愛情の対象】三星半
友情でいいって言っていたくせに物事が自分の気持ち通りに運ばなくなってくるやヒスを起こすなんてなんつー自己中な女や、などと思ったりもしたのだが、最後辺りまで見ていると、思う人に思われずに気持ちを持て余す彼女の心情も何となく分かるような気がして、思わず頷いてしまっていた。彼女の思い人がゲイだ云々の設定にはあまりこだわらない方が、いっそ普遍的な物語としてこのお話を楽しめるのではないかと思う。
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