Back Numbers : 映画ログ No.30



【グロリア】【突然炎のごとく】【燃えよドラゴン】【薔薇の葬列】【カルメン】【パゾリーニ特集】等々、今現在やっているリバイバルもののラインナップって、名作揃いでなかなか素晴らしい。しかし、最近何だかリバイバルものが増えてきている(ような気がする)のは、名画座の減少(というかほぼ壊滅状態 ? )や、スクリーン数の増加に反して良質の新作映画が不足していることと相関関係にあるのだとしたら、あんまり素直には喜べないかなぁ。いい作品をスクリーンで観る機会が増えるのは、とりあえずはいいことだとは思うのだが。

【アドレナリンドライブ】三つ星
さすが矢口史靖監督だけあって、筋立ての面白さだけは本当にもう抜群だったと思う、のだが……わざわざタイトルに“ドライブ”とついているにも関わらず、今回何だかテンポが悪かったなぁという印象が。何だか不必要なタメがありすぎるというか……無論、色んな撮り方を試してみるのは悪いことではないとは思うのだが、旧作の【裸足のピクニック】【ひみつの花園】なんかとこの映画とを較べてみる限りでは、矢口監督の荒唐無稽な作風には、やっぱりチープでも軽快にガンガン押しまくるようなタイプの映像の方が合っているような気がするのだが。あと、主人公の安藤政信君と石田ひかりさんだが、特に悪くはないから及第点はあげられるとしても、あまりにも優等生的で平ったい印象で、過去の矢口作品の主人公達みたいな“存在自体の不条理さが醸し出すえもいわれぬおかしみ”といったオーラがあまり感じられなかったのが残念だったかなぁ。矢口作品というと、ヘンな人たちがてれーんてれーんと生息している様をまのあたりにしないことには、どうにも物足りないのよねぇ。
I ・ ジョビジョバ様 : 私ゃ『ロクタロー』の「キネマの天使」の大ファンでございやした !! この映画でも、実は一番面白かったのは彼等だったんじゃあ…… !?
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【カラオケ】二星半
野口五郎さん、島崎俊郎さん、柴田理恵さん、美保純さんなどのキャスティングは秀逸。そして、あの狭いカラオケルームの中に濃ゆい人間ドラマが展開する、という構図がもし佐野史郎監督の意図したところであるならば、その狙い目はなかなかよく出ていたのではないかと思う……のだが、“青春”という言葉にもカラオケにもほとんど興味の無いわたくしは、そもそもあまりこの映画に適した観客ではなかったのではないか。おまけにこの選曲はさすがに私らよりもゆうに一世代は上だから、聞いててもあんまりピンとこなかったのはいかんともし難かったしなぁ。
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【菊次郎の夏】四つ星
この映画のベタなお笑いは日本国内でしかウケないからよろしくないんじゃなかろうか、という意見もあるようだが、この映画で一番言いたかったところはそこにある訳ではないのだから、別にいいんじゃないかと私は思う。寂しさを内に抱える少年が、つかの間だけ思いきり遊んでもらった思い出。行きずりの大人たちは、もう多分二度とは会えないのだと分かっていても、「またね」と言って別れていく。最後は独りにならなくてはならないことを誰もが分かっているからこそ、多分誰もがあまりにも優しいのだ。今までの北野武監督の映画に必ずついて回っていた死の影は、この映画では見事なまでに“別れ”というモチーフに昇華して、おかしくて、でもどこかもの哀しい、北野武的ユートピアを創りあげていると思う。あるいは監督は、手持ちのカードを一枚一枚私達の前にさらけ出して、手の内を全部あからさまにし始めているのかもしれないが、でも彼はカードの最後の一枚に至るまで、間違いなく美しい詩に紡ぎ続けてくれることだろう。本作でそのことを強く確信した私は、その時が来るまで見詰め続けていたいと心から願ったのであった。
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【きみのためにできること】二星半
思えば、【月とキャベツ】はなかなかいい映画ではあったのだが、どうしてこれが“希代の傑作”にはならなかったのかというと、(申し訳ないけれど)ヒロインの演技があまりにも学芸会的だったところがネックだったんじゃないかと思う。では、この映画はどこがマズかったのかといえば、やっぱりというかヒロインなんだよね~。カノジョの方はまぁなんとかOKだったとしても、あの年上の女(ひと)ですか ? 大変申し訳ないけれど、ぱっと見の華もなければ、内面から滲み出る魅力や個性みたいなものもほとんど感じられない。これではいくら主人公が彼女に心惹かれたと説明されたところで全く説得力が無く、見る側としてはそれ以上お話に入って行くのが難しくなってしまうのだ。録音技師を主人公に据える等、音を介する世界観というモチーフを設定する着想は面白かったし、柏原崇君の好演などもあってそこそこ成功していたと思われるのに……何て勿体ない ! 先日公開された【洗濯機は俺にまかせろ】の例を出すまでもなく、篠原哲雄監督は、しっかりした骨組みを擁する豊かな人間味に溢れたお話を創ることが出来る人だということはもう十二分に証明されているのだから、後は女性のキャスティングにもう少し丁寧に臨んでさえ戴ければ、映画の見応えがかなりあっさりと跳ね上がると思われるのだがどうだろう。
またまたどうでもいい余談 : 岩城滉一さんって決して悪くはないんだけど、彼が画面に出てくると、やっぱりどうにも『南の国から'99』みたいな強~いオーラが漂ってしまうんだけど……。
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【クアトロ・ディアス】三星半
60~70年代辺りを中心にした、中南米の政情不安を背景にした映画も多くあると思うが、この作品では革命運動の当事者達の人間性などを中心に描き出し、彼等の迷いや不安などの心の逡巡をも丁寧に追っているところが、今までにあまりなかったカラーを出せていてよかったのではないかと思う。
ところで : 中南米の政情不安を背景にした映画というと、当時亡命中だったチリのミゲル・リティン監督がピノチェト軍事政権下の祖国に潜入するというドキュメンタリー【戒厳令下チリ潜入記】や、同じチリの軍事クーデターで、巻き込まれて消息不明になったアメリカ人青年を探す家族を描いたコスタ・ガブラス監督のハリウッド映画【ミッシング】、アルゼンチンの軍事政権下の“公式見解”に隠された一般人民への弾圧を描くルイス・プエンソ監督の【オフィシャル・ストーリー】、ちょっと毛色は違うけれど、パリで暮らすアルゼンチン亡命者の心情をタンゴをベースに綴るフェルナンド・E・ソラナス監督の【タンゴ-ガルデルの亡命】など、優れた映画が数多くあります。そういえばケン・ローチ監督の近作【カルラの歌】などでもニカラグアの話が背景になっていたりしますね。勿論これだけで中南米の事情の全てが分かるわけではありませんが、何かを知るきっかけぐらいにはなったりするかもしれません。一度お試しあれ。
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【グループ魂のでんきまむし】三星半
私の勝手なイメージだと、大学の映研(特にワセダ方面?)で作るような映画のごく笑える面白い部分だけをたっぷり寄せ集めて過剰なまでに練り上げ、突き抜けさせたような感じ ? もっと削ぎ落としたり逆に説明を加えたりした方がいいんじゃないかと思われるようなところも正直あったりはしたのだが(特に後半)、瑣末な欠点に言及するのも馬鹿馬鹿しくなってしまうような、このあり余るほどのアングラなエネルギーを見てくれ !! ビデオ画像のチープな画面こそが妙にしっくりくるこの作品は、とにかく今年一番の怪作になることは間違いないんではないでしょうか !
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【催眠】星半分
【CURE】や【リング】が受けたから、ここは一発ホラー路線で何かこしらえてみようってか ? だから映画にマーケティングなんて言葉を持ち込む連中は信用できないんだよ ! プロットそれ自体は悪くないのかもしれないが、話を都合よく次に進めることしか考えていない脚本はとにかく雑で嘘臭いし、演出は古めかしくて間が悪すぎる。驚かしの手口もあんまりにもありきたりで子供騙し。吾郎君も管野ちゃんも、大杉さんも宇津井さんも、いくら何でもここまで大根じゃないはずなのにそう見えてしまうっていうのは一体どういう訳 ? ブームを煽ろうとするのは勝手だけれど、それなりに質を高める努力をしないことには、客だってそれ以上黙って騙され続けるほどバカじゃないわよ ! 昭和30年代に映画業界が泥沼に陥ってしまったのは、時代の変化にも関わらず粗雑乱造を繰り返して映画の質を落としまくってしまった業界側の体質にも凄く大きな問題があったんだってことは、もう一度思い出してよ~く肝に銘じておくべきなんじゃないんですか ?
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【スモーク・シグナルズ】三星半
ネイティブ・アメリカンで初めて“そこそこのバジェットがあるストーリー映画”を創ったということで、クリス・エア監督に全く気負いが無かったなんてはずはないと思うのよね。で、ネイティブの一員として言いたいことが沢山あるのもやまやまだけど、さりとて、ネイティブだって他の人種と変わるところのない、普通の生活を営む普通の人間なのだから、見せ物的なエスニック調ばかりを過度に求められるのも納得が行かない、という気持ちの上でのせめぎあいがすごくあったのではないだろうか。その結果が、アル中のパパを持ったある青年の通過儀礼という、割と普遍的にも捉えることの出来るあっさりとしたタッチの物語に結実していたと思われるのだがどうだろう。ということで、あとは【ファザーレス】の感想と重なってくるので、そちらの方も読んでみて下さい。
「アダルト・チルドレン」という言葉はもともとアル中の親を持つ子供を指して言ったものなのだそうだが、(アル中の親がいたから敢えて言わせて戴きたいのだが、)うーぴーはこの言葉が大嫌いである。そんな言葉に韜晦して自分の傷を後生大事に抱え込んでいても、物事は何一つ解決しないんだからね。
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【ハイ・アート】四つ星
アートが生まれる瞬間、またアートを即名声という実態の無い何かに繋げようとする瞬間の生々しさ。よくぞこんな、観念的には語れても実体化するとなると難しそうなテーマを物語にして映画が撮れたものだ。また演じる俳優さんもあまりにもリアルでこれまた生々しさがいや増してしまう。観終わる頃にはすっかり感服してしまっていた。
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【八月のクリスマス】四つ星
説明をし過ぎない抑制の効いた語り口が、誰にも真似のできないような静かな詩情を醸し出す。特にハン・ソッキュさんの演じる余命いくばくもない主人公の溢れ出さんばかりの心情は、それが過剰な描写でないからこそ尚、しみじみといとおしくなってしまう。(ごめん私、ヒロインの方はちょっとわがままかも……とか特に最初の辺りで思ってしまったもので。)これは韓国映画云々という枠をもうとっくに軽々と飛び越えて、世界中の映画の潮流をダイレクトに呼吸する映画となり、ホ・ジノ監督は本作で世界で最も新作が待ち望まれる人々の一人に名前を連ねたであろうことは、まず間違いない。
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【ファザーレス 父なき時代】四星半
“大人”だって万能ではなく、“子供”だった自分が“大人”に叶えて欲しかったことを叶えてもらえなかったのにはそれなりに事情があったのだ、ということを理解できるようになることが、あるいは“大人になる”ということなのかもしれない。この映画のように、親も子供も今より少しだけ強くなって、お互いの置かれている状況を理解して、相手のありのままの姿を受け入れるのだという度量を持つことが出来れば、いわゆる今日の社会問題というやつの何割かはきれいに解決することが出来るのかもしれない、が、実際一般的にはそれが非常に難しいに違いないのだが。
余談 : 作品の質だけを見て、この新人の映画作家達によるビデオ・ドキュメンタリー作品を昼間の興業に据えたユーロスペースは、ほんっとに偉いぞ !! この映画がもしヒットしたりすれば、似たような形の“プライヴェート・フィルム”とでもいうべきジャンルのエピゴーネンが沢山作られたりするような気もするのだけれど、自分の個人的な事柄を題材にするにはそれ相応の客観性、またかなり強固な意志と勇気が必要で、そうでなければここまでの質のものはそうそう出来ないのだということは、取り掛かる前に認識しておいて欲しいような気はする。
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【フラミンゴの季節】三つ星
予告編では、砂漠だってことだけで安易にもピーター・ボクダノヴィッチ監督の【ラスト・ショー】なんかと比較されていたのだが、アメリカの砂漠と南米パタゴニアの大地は全然違うだろ~ !? と思っていたら、パンフではちゃんと【王様の映画】などの作品が紹介されていたので一安心した。お話の方は、閉鎖された社会の人間関係云々というからもっとどろどろとした感じを手前勝手に想像していたら、かなり抑制の効いた理路整然としたタッチだったので意外だった。でも敢えて欲を言うのなら、もう少しくらい破綻しちゃってても構わないから型にはまらないような勢いがあった方が、あるいは面白かったかも。例えば個人的には、もっとスゴい数のフラミンゴを見たかったなぁ、とかね(……って、ひとの映画のタッチを勝手に決めんなよ)。
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【ブルワース】二星半
ウォーレン・ベイティ監督は、今のアメリカの政治に対して言いたいことがとにかく沢山あり過ぎるのだろう。その各論には決して反対ではないし、意気込み自体は少しは買ってあげてもいいんだけれど……映画の屋台骨であるべきお話がこんなにもお粗末なのを放置したままで、とにかく自説を滔々と述べたてることに一番時間を割くなんて、デビューしてン十年の超ベテランがこんな青臭い作り方をしていてよろしぃんですかー ? あと、アメリカの黒人が置かれている状況にアメリカの社会問題の多くが凝縮されているって考え方には特に異論を唱えるつもりはないけれど、だからってラップの真似事だとか、たまたま出会った黒人が言ってたセリフを全部パクって自分の政治信条みたいに並べたてる、なんて、やり方としてちゃちなんじゃないかなぁ ? まさかこれで彼等の全てを理解したようなつもりになんて、よもやなっちゃぁいないわよね ?
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【鉄道員<ぽっぽや>】三つ星
健さんかっこいい。かっこよすぎる。あんまりにもカリスマ性がありすぎて、廃線寸前のローカル線の駅長さんには見えにくいのが難点といえば難点か。しかし、自分の人生を朴訥とまっとうしてきたこの主人公には、健さんでなければ絶対に出せなかったであろう説得力があると思うし、あの広末ちゃんのシーンが泣けるのもやはり相手が健さんだからこそだと思うのよね。確かに、お話自体に非常に目新しい何かがあるとは思えないのだけれど、それでも作り手の側が作りたいものを誠意をもって作ったのだという真摯な姿勢は見る側に十分伝わってくる。雪に埋もれた列車や駅のたたずまいはとにかく美しいことだし、まぁ見どころにはこと欠かない一本なのではないでしょうか。
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【メイド・イン・ホンコン】三つ星
凄く由緒正しいインディーズ映画。その真っ当で真摯な輝きはとても美しいと思う。しかし、アウトローな主人公に、自殺した女の子の遺書、ちょっとのろまな男の子のイノセントさに、治らない病を抱えたヒロイン……この道具立ては、リアルな感情を喚起するというよりは、私には少し抽象的なものと映ってしまったかも。それでも観た後には、何だか切ない気持ちは残ってしまったのだけれどもね。
すっごくどうでもいい付け足し : サム・リー君の演じる主人公の男の子って、なんかロンブーのアツシ君と重なって見えて仕方なかったんだけど……って、似てるのは髪型とケンカっ早いところくらいなんだけどさ。
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【RONIN】二つ星
誰のものとも分かりゃしないスーツケースを奪わなきゃいけないってどうして ? 何の為に ? と思ってしまった時点でもうお話について行けなかったのだな……チェイスやアクションシーンなどのスタイリッシュなかっこよさをそれ自体だけで楽しむことが出来る人にはそれなりにお薦めすることが出来るのかもしれないが、そのテのものへの感性が鈍い私のようなタイプの人間には、とっかかりを見つけるのがちょっと難しそうな映画だったんじゃないかなぁ。
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【ワイルド・パーティ】三つ星
実はこれまで機会を逃し続けていて、ラス・メイヤー監督の映画を見るのはこれが初めてだったりして ! かの時代はこんな奥ゆかしいのでも成人指定だったのかと思うと、何だか感慨深いものがあります。内容的には全体的にとってもオプティミスティックというか、ある種の確信に満ち溢れていて迷いが一切無いっていうか。アメリカが本格的な憂欝に陥る前の最後の時代に作られた作品なのだ、という某映画評論家の解説に痛く納得。
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