Back Numbers : 映画ログ No.34&35



今月の「こんな映画宣伝は嫌いだぁ ! 」 : 最近すごく気に障るのが、映画を見た後と覚しき人に感想を聞いているふうのCF(TVスポットに多し)。他の人がそう言っているからあなたもきっとそう思うんじゃない ? 的な押しつけがましさが、そもそも大きなお世話だっつうに、限りなくヤラセに近い手前勝手なその内容(どんな映画にだって探せば支持者はいるだろうし、大体、サクラが紛れてたって分かりゃしねぇじゃねーの)を、さも“世間一般の意見”か何かのように言ってのけるずうずうしさって何とかならないモノ ? 何とかして欲しいと言えば、最近何故か単館系で上映されるハリウッドものの映画に多い、ストーリーの半分以上をわざわざ解説してくれちゃってるような予告編。内容がほとんど全部まる分かりになってしまうというのに、敢えて本編見に行く必要無くなっちゃうとか、考えたりしないものなのか ? それともあれは御親切にも、見に行くほどのもんじゃないってことを予め警告してくれてるっていうことなのかしらん。

【I Love ペッカー】三星半
とても可愛らしくイイ感じにまとまっている、一見ジョン・ウォーターズ監督らしからぬ( ? )一編。(こんなにカワイイ映画なのに、たかがヘアの大写しくらいでRG指定出すなよナ。)本来の毒気をうまぁくオブラートにくるむワザを身につけたのは、悪趣味で鳴らした監督も年の功を積んだっていうことなのでしょうか。
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【あつもの】二星半
一部には、人間は年を取るごとに浄化され仏様に近い存在になれるのだという信仰のようなものがあるように思うのだが、人生の澱や宿阿といったようなものは歳を重ねるごとにますます色濃く染みついてくるのだ、といった夢裏切られるような現実をこの映画が描き出そうとしていること自体は、非常に評価できるのではないかと思う。今回のこの作品は、テーマを詰め込みすぎたのと、“若い女”像の造形に決定的に失敗してしまった(あんな女いるワケないだろ ! )ので、ちと残念な出来になってしまっているのだが、こういった映画に意欲的に取り組んだスタッフやキャストの皆様には、心から敬意を表したいと思う。
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【アナーキー・イン・じゃぱんすけ】三星半
一瞬に回帰する永遠のイメージ、等々、パンフなどの資料を見ている限りでは、瀬々敬久監督はガルシア=マルケスの『百年の孤独』の瀬々版みたいなのを創りたかったのかなぁ、といった気がした。(そういえば昔、北野武監督なんかも、いつかそんな映画を創ってみたいとおっしゃってましたっけ。)しかし、例えば息子さんが後半いきなりグレてしまうところなど(あんなにやさしいパパなのに反抗するなんて解せないぞ)、全体的にもう少し説明が必要と思われる部分が多いようなのが何か食い足りなくて(上映時間が短いと言うことも考慮にいれなければいれないのかもしれないが、それにしても)、結果、ぶつかりあうイメージの唐突さが、どちらかと言えばいびつな印象を残してしまっているような気がする。とは言え、この作品での瀬々監督の志の持ち方はものすごく買っておきたいのだが。監督、次こそは大傑作を期待しております ! (ギャラリーは無責任だからもう。)
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【アナライズ・ミー】三つ星
この映画のデ・ニーロってば、『シネマ通信』のロミー&ラスティお得意のデ・ニーロのモノマネにそっくりだ ! デ・ニーロ本人もきっと、これは今まで演じてきた数々のギャング役のセルフ・パロディ的な要素があることは当然、意識していることだろう。ビリー・クリスタルの方も自分でプロデュースしているだけあって、彼の持ち味が引き出せるぴったりとした面白い役柄ではある。結果、隅から隅までウェルメイドな期待どおりの映画には仕上がっているのだけれども、それ以上の意外性も無いっちゃ無いような気がするのだが……。
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【カスケーダー】二星半
一回こっきりなら大ワザだと認めてもいいあの予告編(2回やったら単にセンス無しである)に笑ってしまったので見に行くことにした。思ったよりはちゃんと、お宝探しのようなストーリーもあったりしたのだが(宣伝文句から想像するに、もーっと中身も何にも無い話かと……)、もともとアクションものにはからきし鈍く、【インディ・ジョーンズ】さえあまり得意ではない私には、スタントを見るだけで2時間弱はちょっと……といった感は否めなかったのだが。までもとりあえず、彼の愛の深さだけはよぉ~く分かったからいいんだろうか。
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【クルーエル・インテンションズ】二つ星
とにかくビバヒルふうでちょっと目新しいものを作ってみたかったから、お手頃な古典(よりにもよって『危険な関係』だと !? )をネタにして適当にアレンジしてみました、っていう感じだろうか。まるで大昔の日本の少女マンガみたいな嘘っこの世界の作り上げ方は、それはそれで笑えるような気はするけど、クチバシ真っ黄っ黄の彼らに頽廃や残酷という言葉の重みを表現させるにはあまりにも無理があり過ぎるっていうことに、思い至らんもんなのかな~。全く以て一部のハリウッド人種は、分不相応だとか畏れ多いとかいう感覚が欠如しているようである。
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【黒い家】三つ星
どうやら現実の方が、最早ずうっとエグい地平に行き着いてしまっているからなぁ……全編、あくまでもマンガチックなホラーとして見ようとするならば、それなりに楽しめるのかもしれないが。あと、天才といわれて久しい大竹しのぶも、演技の方向性のカンが外れてしまった今回のようなケースでは、上手いというより一種独特な芸と化す傾向があるように思われてならないのだが…… ? 西村雅彦も、今回に限って言えば“頑張っちゃってる”感じの方が目立ってしまったような。う~む、森田芳光監督とこの俳優陣だからって、もっとスんゴいものを自ずと期待してしまっていたのが間違いだったのか。
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【黒の天使vol.2】三つ星
黒コートを翻す天海佑希さんはメチャかっこいい ! 彼女は実は非常にハードボイルド向きの人なのではあるまいか ? 全体的になんとなくVOL.2の方が好きな気がするのは、彼女の熱演に拠るところも大きいのではないかと思うが、しかし考えてみるに、VOL.1、VOL.2とも、“天使”なるもののコンセプトがちょっと分かりにくいかな ? その辺りがもっとすっきりとストーリーラインにはまっていれば、これはもっともっと見応えのあるシリーズになると思うのだが。
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【月光の囁き】四つ星
SMをテーマにした映画自体はこれまで世界中にゴマンとあったと思うのだが、10代の初々しい高校生カップル、というあまりにも日常的なパラダイムから逸脱していった挙げ句が、最後には二人にしか理解できない特殊な関係性への到達である、という描かれ方をしたのは、世界でも初めてなのではないだろうか。というか、あるカップルに於いてサドとマゾという関係性が成立する過程をここまで丹念に追った作品自体、私は初めて観たような気がする。変態云々に関わらず、結局当人同士の関係は二人にさえ分かればいいものだというのは、人間関係の普遍的な在り方に係わる命題なんだろうな。
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【シックス・センス】四つ星
本当に久々に「やられたぁ ! 」と叫んでしまった。ホラーというよりは人間同士の繋がりや理解をテーマにしたドラマといった方がいいに違いないその切り口といい、ラストの大どんでん返しといい、すっかり出尽くしたかのように言われることもある映画の語り口も、まだまだこんなに新しいことが可能なのか ! と目を開かせてくれるところが凄い。また、他の人に見えないものが見えてしまうという苦悩を、驚異的な説得力を以て見事に演じ切ったハーレイ・ジョエル・オスメント君には、やはり言及しない訳にはいかないだろう。彼がいなければこの映画は全く質の違うものになっていたというのは、前評判に伝え聞く通りである。しかしみんな、ブルース・ウィリスがシリアスな演技をするのがどうしてそんなに意外だって言うのぉ ? 例えば、他の凡百の筋肉男が【ダイ・ハード】を演ったところで面白くもなんともなかったはずであって。もともと彼の真骨頂はひねくれた味のユーモアにこそあるのだと、はずっと思っているんだけど。
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【シュウシュウの季節】三つ星
どうにもならない環境にスポイルされていく少女の姿のはかなげな美しさといったものを画面の上にくっきりと映し出す手腕というのは、ジョアン・チェン監督、初監督作ながらなかなか評価されてしかるべきかもしれない。しかしこの女の子、いくらヤケになってるからって何もそこまで周囲のアホ男共に蹂躙されるがままになってるこたぁないだろうとか、あのおっさんは目の前に展開される事態をどうしてただ黙って傍観しているだけなのかとか、最後はいきなり美しい心中ものみたいになってしまうのもクサイものにフタ方式みたいに見えるからどうもすっきりしないとか、見た後にどうにも解せないなぁと思う気持ちが残ってしまうのもまた事実なのである。思うに、過酷な運命に翻弄されるがままになるだけで抵抗の一つもしやしないヒロインというのがなんなんだか。そんな少女の姿をわざわざ描いてみる必要なんて今時無いんじゃないのかと、私には思われてならないのである。
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【娼婦ベロニカ】一つ星
なぁんで16世紀のヴェネツィア人が、思考様式も行動様式も、まんま現代アメリカ人なワケ ? 資本の論理が許すなら、世界中の素材をつまみ食いだけして歴史だろうがなんだろうが好き勝手に捏造しようと勝手でしょ、とでも言いたいのかしらん ? それでも衣裳とかはまぁ綺麗だったから、もう少しはいい星をつけようかとも思っていたのだが、予定調和も度が過ぎるラストのあまりの安っぽさに、その気もすっかり消え失せた。わざわざ見に行った時間と金を、本気で返して欲しいわい。
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【Slap Happy】三つ星
ある浪人生のなんてことのない淡々とした日常の繰り返し。一見地味~な映像ではあるが、これを少しずつズラして積み重ねながら不思議と飽きさせないように見せていくうち、実はドラマも少しずつ進行しているという構成が実にうまいと思った。三原光尋監督という方は、想像以上にしっかりとしたテクを持った人のようである。関西ではどのように御活躍なさっているのか、もう少し詳しく知りたい気がしたな。
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【どこまでもいこう】四つ星
今時の子供というよりは、どちらかというと丁度私達くらいの年代の人間の子供時代が投影されているような気がする。確かにあの頃の日常ってこんなふうだったかもしれないなぁと思わせつつ面白く観せてくれるのは、ディテールの積み上げ方とか演出の仕方の抜群の上手さの賜物である。しかし塩田明彦監督は、本当に【月光の囁き】もこの映画も監督しているの ? 人間同士の関係性に焦点を当てて映し出したという描き方にいくら共通点があるかもしれないと言っても、ここまで内容の違う映画を二本ともあっさり傑作に仕上げてしまうって、その新人離れした度量は一体どこから来たんだ !? どんな映画でもスコーンと創ってしまえそうな勢いを感じさせるこの人は、これから一体どんな映画を創ってくれるつもりなのやら、そら恐ろしい限りである。
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【飛ぶは天国、もぐるが地獄】三つ星
本当を言うとビデオの画像はあまり積極的に好きではないし、まだまだ発展途上の俳優さんたちの演技にも食い足りない部分はあるのだけれど、そういった部分の質を多少犠牲にしてまでもとにかく映画を創りたいんだ ! という熱意を秤に掛けて、こういう方法を選択した若松孝二監督の姿勢は、確かに初期の作品群を彷彿とさせるものがある。星は三つにしたけれど、もともと1000円で興行していることだし、正札以上の価値はあると判断しても差し支えないだろう。来世紀には新しい表現の可能性がビデオから生まれてくる傾向がますます強くなるであろうことを予感させる一本だが、御歳60才過ぎでこのスタンスを取ることのできる監督のフットワークの軽さには、とにかく拍手を送りたい。
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【ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア】三星半
ストーリーラインなどはそれほど斬新だとは私には思えなかったのだけど、悲劇的な展開をそのまんまの形で表すのに照れがある世代には、消せない嘆きを内側に抱えつつも、表ではカッコつけながら軽いジョークを飛ばし合う、というタッチの絶妙な匙加減が、感覚的にぴったりくるのかもしれない、などという気がしたりした。しかし、私が観ながらずっとつぶやいていたことはただ一つ、お前ら、まどろっこしい寄り道ばっかしてないでさっさと海に行けっ ! (時間が限られているんだったら当然、一番やりたいことを最優先にすべきでしょ ? )。でもそれじゃあミもフタも無いというか、そもそも映画が成立しないんだよねぇ。
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【HEART】四つ星
夫を愛していてもどうしても不倫に走ってしまう美しい妻に、夫と愛人それぞれの嫉妬、夫への心臓提供者の母親の、近親相姦すれすれの激しすぎる愛情……描かれている世界はげろげろにディープで、どっちかといえば嫌いなタイプの話かもしれないはずなのに、一見そうと感じさせずにさらりと観せてしまう洗練された語り口を、なんか好きだなぁと思ってしまった。しかしこれは、もしかして、最後は全部お母サンの策略どおりだったってことなの ? だとしたら相当コワイんですけどぉ~。
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【白痴】四つ星
今の日本人にとっての現風景であろうかの戦争のイメージを、個人の内面の崩壊、世界の終末、またはメディア統制なんてものと結びつけ、現在の世界を映し込む壮大な判じ絵に仕立て上げるなんて芸当が、一体今までどこの誰に出来たであろう。多分、手塚真さんという人は頭が良すぎ、想像力がありすぎて、生半可な規模のプロジェクトでは、その沸き起こるビジョンを実現化することが出来やしないのだ、ということが今回やっと分かった。自らビジュアリストを自認するごとく、そのイメージの豊かさは、そんぞょそこらの人のそれとは掛け離れている。日頃なんとなく抱いている漠然とした“世界の終わり”の姿がこんなにも明確に映像化されているものを、私は初めて見た ! 世紀末という言葉をいたずらに弄ぶ諸々の事象を、全て似非に見せてしまうだけのパワーを持った作品である。
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【母の眠り】三星半
私ならそもそも最初のところで絶対に親の言うなりにはならなかっただろうし、意識して守ろうとする人がいて初めて家庭というものは成立し得るだなんて何を今更あたりまえのことを言ってるんだ、といった辺りには、正直、そのまんま共感することはできなかったのだが、レニー・ゼルヴィガーが等身大で演じる娘の姿には、親子の問題について何かの葛藤を抱えたことのある人(特に女性)なら、どこかしら自分自身を重ねあわせてしまうところがあるのではないかと思う。ウィリアム・ハートの演じる父親の位置(家族を気に掛けていない訳じゃないんだけど今一つ肝心なことをしてくれなかったりする)にも、何だか見ていて嫌になるくらいのリアリティがある。これは脚本がすごく丁寧に描き込まれている故なのではないか。でもってやっぱりメリル・ストリープは相変わらず、何もそこまでっていうくらいに上手いし。それでこの映画は、納得できないところはそのままに、それでいて最後まで身を乗り出して見入らせてしまうだけの芯を持った作品になったのだと思う。
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【梟の城】三星半
前作の【写楽】などで味をしめたのか、篠田正浩監督は今回も大掛りな歴史絵巻物的な大スペクタクルを作るべく、奮闘していらっしゃる。しかし、本来語られるはずだったと想定されるテーマや、CGを売り物にした凝った美術や仕掛け、ゴーカな役者の顔ぶれなどを見ていると、これならもっと印象に残る映画になってもおかしくなかったのに、結局そこまでの域には達することなく、表面的なにぎやかしに終わってしまっているような気がしてしまったのだが。まるで雑味の残るお酒みたいで、本当はもっと洗練されて研ぎ澄まされた味のものが出来ていてもよかったはずだと思われてならないのに、なんとも勿体ないのである。
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【プリティ・ブライド】三つ星
とりあえず、素直に面白いと言うには難のありすぎる設定だった【プリティ・ウーマン】よりは楽しめたとは思うのだが。恋に落ちると最初っから決まりきってる二人の心の動きの描き方などは案外雑だったように思うので、ロマコメでそんなもんでいいんですかぃ ? という気も少ししたのだが、他の部分でテンポよく楽しめればまぁそれでOKなんでしょうかね、この場合。
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【《古川タクのアニメおもちゃ箱》】四つ星
古川タクさんのアニメーションには、一枚一枚描いた絵をパラパラとめくって動かす、動画の原点を思い起こさせるような喜びがある。ロシアやチェコなどの旧東欧圏の傑作短編アニメーション群を再び見直す機会が増えている感のある昨今、作品のレベル的には全く劣らない日本の第一人者の魅力も再発見してみるいい機会ではないだろうか。
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【ヘンリー・フール】三星半
時間を掛けて丁寧に紡ぎ出されたであろうと思われるそれぞれの人物像が、とても魅力的なのである。この作品は、今まで観たハル・ハートリー監督の作品の中では私は一番好きだ。でも、ちょっと文学界のモーツァルトとサリエリを思い起させてしまうような主人公たちを見ていると、私自身は一体、何で、何の為にものを書くという行為を性懲りもなく繰り返しているんだろうと、自問自答を繰り返すはめに陥ってしまった。勿論、自分の姿が投影されるのはフール(おバカ)君の方である。それってちょっとつらいかな。
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【マーサ・ミーツ・ボーイズ】三つ星
マーサちゃんは、まぁかわいい。ジョセフ・ファインズ君も、まちょっとハンサムというよりは特異な造作の顔だけど、いい奴の役ではある。これで二人の恋が始まるお膳立てはすっかり整ったのだけれども、するってぇと、引き立て役に終始する残りの二人の役回りって、ひたすら影が薄くてマヌケなだけなんだけど。これはこれで、まぁまぁウェルメイドなラブストーリーということになるのかもしれないが、原題からどうしたって期待されてしまう1対3の四角関係を念頭に置いていると、少し物足りないような気もするが。
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【M/OTHER】四つ星
Mを取ったら他人です、ってどっかの家庭教師会社とタイアップしているの ? ……と閑話休題。まるでその場に居合わせているような諏訪敦彦監督の演出の独特の臨場感にはますます磨きが掛かっているし、【2/デュオ】の時よりは多少オトナの分別のある人達のお話になっているみたいなので、見ていてうんざりすることも少なかったように思う。(けどやっぱりまた痴話ゲンカの話だったけどね ? )心の軋みを表現しようとしているらしいあのホラー映画みたいな音楽は大袈裟で好きじゃなかったけど、自分が思い描くような理想の自分に行き着くことが出来なくて知らずと自己崩壊を始めてしまう様、そこのところを理解し合えなくてもがき苦しむ姿の描写は圧巻だった。けど、他者っていうものは構造的に、自分の外側にある存在だっていうのは仕方ないことなんじゃ ? そこんところは覚悟して、理解し合えないことを前提にしつつも、それでも言葉を交わそうとする努力を続ける以外に道は無いじゃない ? でもって、私は私の努力を続けるのであなたはあなたでガンバッテねと言うより他に仕様がないんだけどねぇ。ともあれ三浦友和さん、掛け値なしの代表作が出来て本当によかったですね。正統派のいい俳優さんだとは思っていたけれど、正直、こんなことまで出来てしまう人だという認識はなかった。皆さんもこの映画を観れば、きっと友和さんを見直すと思うよ。
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【萬歳樂】三星半
古典芸能界きっての理論家であろう(多分)野村万之丞先生の文化人類学講座で、芸能のルーツやそのあるべき姿について貴重な講義を拝聴させて戴きました、といった趣き。映画表現自体としてのスペクタクル性にはちと欠けているような気もなきにしもあらずだが、文化というものの在り方を見つめようとする氏の目からは、未来への誠実で切なる祈りが感じられる。文化なんてものは結局無駄(余裕とも言う)の集積の中からしか生まれてこない、という主張には大賛成 !
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【皆月】四星半
眩暈がしそうなほどに濃ゆくてクラクラしてしまう。カラダで始まる運命の恋、というモチーフを持つ望月六郎監督一流の中年のファンタジーの世界は、花村萬月氏の原作に荒井晴彦氏の脚本を得て、一つの到達点に達したと言っていいだろう。私は敢えて監督の最高傑作だと断言してしまいたい ! 奥田瑛二対北村一輝の演技合戦も必見である。なんのかんの言ってもやっぱり役者は、芝居で勝負してナンボのもんだわい。
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【港のロキシー】二つ星
十代の頃に住んでいたことがあり、今ではかの地で映画祭も主催しているくらい、函館に思い入れのあるあがた森魚監督だけあって、そのどこかもの哀しい風景に対する愛情が、画面の端々から溢れ出しているのが見て取れる。が、そんな風景の方があまりにも雄弁に物語ってしまい、ノスタルジックな風合いを含むファンタジー色の強い話の本筋の方が、負けてしまっていたような気がする。こういった世界観を成立させるには、もっと相当本格的な演技力が必要とされるのでは。正直言ってその辺、ちょっと苦しかったかもしれないなぁ。
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