Back Numbers : 映画ログ No.36



今月の“おめでとうございます ! ” : ポケモンの映画が全米で一位になったらしい。そりゃものすごい快挙だ。心からお祝いを申し述べたいと思う。しかしよく分かんないのがアメリカの批評筋で、子供向けのアニメ映画相手に「単純すぎる」だの「深みが無い」なんてことを言ってるだけで本気で満足してるのかな ? “ポケモン”はアニメである以前に、ありとあらゆるメディアで展開されている非常に高度な戦略性に裏打ちされたハイブリッド商品だっていう前提があるんだから、例えばマーケティング上での展開から見たストーリーの解析だとか、もっとそーゆうのが必要なのと違うのだろうか。

【アナとオットー】三星半
運命的なつながり、というモチーフを北欧の神秘的なイメージを借りてロマンティックにまとめた上げた本編には、確かに独創的で面白いテイストはある。(現地ヨーロッパの人ですら、北欧、という響きには何か独特なものを感じてしまうんだね。)しかし、最後、余計だとも思われるくらいひっぱるだけひっぱっといて、いきなりあの終わり方はないんじゃないの ? 物語というものは確かに、必ずしもハッピーエンドで終わる必要はないのかもしれないけれど、でもカタルシスっつーもんだけは絶対に必須だと思うのよ。それまで丁寧に積み上げられてきた経緯も何も総て無にしてしまい、後に消化不良な感覚だけを残してしまっているようでは、かなり勿体ないような。
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【海の上のピアニスト】三星半
下界はキーのありすぎる鍵盤みたいで弾ききれなさそうなのが恐い、だと ? なぁんでこんなうつけたことを言う友人の言うなりになって、爆破される船にそのまま残してくるかなぁ ? 私だったら絶対、首ねっこを押さえてでも引き摺り降ろしてやるのだが。溢れかえる情報の洪水を前に呆然となっても、その中で四苦八苦しながら道を探さなくてはならないのは、現代人に宿命的に課せられた避けて通れないテーゼじゃないか。そんなのはいやですー、なんてことを平気な顔して言っちゃう映画が今の時代に作られなければならない必然性がどこにあるのか、私にはよく分からない。でもまぁ、そんな現実離れした主人公をチャーミングに演じ切っているティム・ロス先生の出ずっぱりのお姿を堪能できるのだけは、嬉しいかなということで。
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【AMY/エイミー】三星半
見る前になんとなく【アニー】のようなミュージカルを想像していたらどうも違っていて、“オーストラリアの下町”なんていう今まで見たようで見たことの無かった舞台をバックに、パパが死んじゃって失語症になった娘を抱える母子家庭を描いた、設定としては割と暗め(“救いが無い”、ではない)の物語だった。過去の回想シーンの入れ方とかは少しもたついててあまり好きではなかったのだが、このテの物語にしては登場人物の心情描写などもかなり丁寧になされていたので、なかなか好感が持てた。特に、途方に暮れながらも娘に懸命に愛を注ごうとするママ(レイチェル・グリフィスの好演 ! )の姿がすごく良かったなぁ。エイミーちゃんは勿論可愛かった(そして上手かった)しね。
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【大いなる幻影】三つ星
予算が掛かっていなさそう、なのがエライという訳ではないが、淡々とシンプルに映し出された映像の中に、いかにも黒沢清監督らしい近未来世界予想図が切り取られ納められているのには、まるで水墨画みたいな端正さがあってそりゃあもう美しい。しかしね。そもそも私自身の人生にはどん底の再起不能状態とかそーいうのしか無かったからもんだから、漠然とした中途半端な不安感、みたいなものって、実は今一つよく理解できないのだ。どこまでも“不毛”ならそれでもOKなんじゃない ? それならばそれなりに、心豊かに暮らしてしまえそうな気分に私はなってしまっているのよ、非常にオソロシーことに。
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【風が吹くまま】四つ星
キアロスタミ監督の映画というと、そんな気はなかったのに何かどうもイスラム世界独特のエキゾチズムを無意識に期待してしまっていたような気がする。しかしこの映画の主人公は、ひっきりなしに掛かってくる携帯に呼び出され続けで、せっかく田舎にやって来ているのに多分周りの自然なテンポの生活の流れなんてちゃんと目に写すこともできない、典型的な都市生活の囚人だ。背景に広がる風景はどうあれこの映画は、全世界の文明社会に共通しているらしい、素晴らしく現代的なテーマを喝破しているのに結構驚かされてしまった。どっこも同じなんだなぁ。でもって二十一世紀には、世界はますます均質化していくのだろうという予感がした。
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【ゴースト・ドッグ】四つ星
『葉隠』なんて本の存在、今の日本で知ってる人は百人に一人いるのだろうか ? でもこういった偏在した文化の伝わり方もそれはそれとして面白い、といったことは、【Mr.Pのダンシングスシバー】の欄で書いたとおりである。フォレスト・ウィテカーという人も今のハリウッドの中では面白い佇まいで仕事をしている人で、今回はこの人が主役でとても端正ないい味を出している。この映画の“間”の使い方はジム・ジャームッシュ監督の初期の作品を彷彿とさせるものがあり、とにかく本作は、近年の彼の映画の中では一番好きかもしれない。
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【ゴジラ2000 ミレニアム】三つ星
外国製のパチモンゴジラにも内国産のガメラにもやられっ放しで、ついにリベンジに立ち上がったか平成ゴジラ ! しかし、見るに耐えられなーい ! という程ひどい出来ではなかったにせよ、例えばどうして光をエネルギー源にするUFOが新宿のビルの上に止まってるのに辺りに灯火管制を敷かないんだとか、どうして政府機関に民間人がそうも易々近付けるんだとかいった疑問が噴出し、全体的にえらくざっくりとした出来だったという印象が残った。いや、これは【ガメラ】よりもっと一般的な観客を対象にしているつもりなのだからそこまで細かいことを言わなくても……と反論されるだろうか ? しかし、もうどっぷり【ガメラ】に影響されてしまっている立場からすると、そういった念が入り過ぎくらいの細部の描き方こそが面白さに直結してるんであってね……。あっでも、破壊神・ゴジラを印象づけるあのラストシーンの描き方は良かったと思うよ、ウン。
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【御法度】四星半
松田龍平君の演じる加納惣三郎という少年は、厳密に言えばこの物語の主役なのではないと思う。彼は男達の欲望をその身に集める真空の器、欲望を映し出す鏡、あるいは、欲望を具現化する美しい人形なのであって、周りの男達が右往左往する様を描くために捧げられたスケープゴートに過ぎないのだ。だから彼はその存在感さえ指し示すことが出来れば、百歩譲って演技が下手でも、あるいは、マグロであってもいいのである。彼が乗り気になってしまったあからさまなセックスシーンなんてほとんど無いからこそ彼らの関係性を好きなように解釈できるのであって、だからこれがエロティシズムの欠如であるという某映画雑誌にあったような批判は的外れだと、私は強く思うのだがどうだろう。映画創りに於いてセンセーションを巻き起こすことを常に自らに課してきた感のある大島渚監督が、この映画を手懸けることになった元々の動機というのは確かに、【戦メリ】の時にホモセクシャリズムを描いたら案外受けがよかったから、といったくらいのものだったかも知れない。が、テーマなんて大して考えていないんだよ、とうそぶく大島監督の、経験の積み重ねによる明白な自信に裏打ちされた“考えてない”は、私達が一般的に言うそれとは明らかにレベルが違っていて、この映画はキャストといい、筋の仕掛けといい、画面の美しさといい、隅々までぬかりなく創り込まれており、あらゆるレベルで観る者を充分に堪能させてくれる。印象に残るシーンは多々あったが、特に象徴的なラストシーンは忘れられない。彼(この映画の真の主役だ ! )は桜の木と一緒に、組織なるものがすべからく内包し、しかも否応なく無秩序の方向に向かおうとするがそれ故に美しく輝く“生”のエネルギーのようなものを切って捨てたのだ。だからその後、新選組が滅びの道を歩み始めるのは必定だったのである。
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【ジーンズ・世界は二人のために】二星半
【ナトゥ】三星半
主人公達が世界6ヵ国を股に掛けて踊りまくるダンス・シーンは噂に違わぬゴージャスさ。ミス・ワールド出身のアイシュワリヤ・ライが美しいドレスを身にまとい華麗に舞う姿は、まるでお姫様みたいに綺麗でため息が出そうになる。ここまで豪華に作るなら、お話の方ももうちょっと頑張って工夫してみれば、さぞや見応えのある映画になっただろうに……。しかし同時上映の【ナトゥ】の方は、とてもテレビ番組の企画モノで作った短篇だとは思えないほどの出色の出来。セリフや歌は吹き替えを使ってあるのでまるで本場ものみたいだし、たった40分間の間にお話もほどよくまとめてある上、何とダンス・シーンが3回も登場 ! さすが芸能界社交ダンス部の統領だけあってナンチャンの踊りは見栄えがするし、これで入場料720円(“ナトゥ”に引っ掛けてんのね)というのはかなりお得かも。
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【ジャンヌ・ダルク】三星半
何でフランス人なのに英語を喋って……もぉええっちゅうんじゃ。リュック・ベッソン監督は、ひとえにミラ・ジョヴォビッチのヨロイ姿が見たくてこの映画を着想したのであろうか(前半はともあれ、中盤以降の彼女は何かに憑かれたように叫び回っててスゴイことになっているのだが)。何のかんの言っても、監督には観客を最後まで飽きさせずに見させるような力量はあるのだなぁと再確認したし、それはそれとして評価すべきことなのではないかと思った。だが、こういう歴史ものを作ろうとするのなら、もっともっと正統派路線のクラシカルな作り方にするか、いっそ自分の解釈を全面に押し出して作り込んでしまうかの、どちらかに的を絞るべきではなかっただろうか。何だか今回、中途半端な感じがしてしまい、映画史に名を残す数々の名作ジャンヌ・ダルクものに比べると、どうしても見劣りしてしまう感じが否めなかったのである。
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【地雷を踏んだらサヨウナラ】三つ星
かの奥山和由氏の松竹退社後初のプロデュース作品がようやく公開となった。彼の素材の拾い方はいつもバラエティに富んでいて面白いなぁとは思うけど、どんな人が監督をしている場合であれ、彼がプロデュースした途端に何故かこの程度のことをやれば客は感動するだろう、みたいな決め打ちが透けて見えてきてしまうような気がするのはどうしてなんだろう ? 浅野忠信君の熱演もあって、この映画も決して悪い出来という訳ではないのだけれど、例えば主人公の一ノ瀬泰造さんが全く何の障害も無しにカンボジア社会に溶け込めている(ようにしか見えない)のって本当なのか ? とか、そういった細部の描き込みの食い足りなさ、詰めの甘さのようなものが、どうもこの映画のリアリティを保証してくれず、映画をそれ以上のものとして評価することを妨げているように思われるのだが……。何だか中途半端で勿体ないような気がする、と感じたのは私だけなのだろうか。
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【白 THE WHITE】三星半
真冬の厳寒の北海道を単独自転車旅行に……行ってどうする。平野勝之監督にあるのは多分、こうすることで映画が創れるのだと直感する本能、そして、一度決めた目標を果たすという意地だけに突き動かされた、無謀以外の何物でもない目的意識だけである。こんな旅に意味なんてある訳ない。それはもう、人生なるものと同じくらいに無い。それでも力いっぱい走り終えた一瞬には、何かを垣間(かいま)見ることが出来るのだろうか。その一瞬を思い描いて生きてみることも悪くはないのかもしれないと、映画を観ていて思った。
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【新選組】二星半
新選組の歴史を細かく解説してくれてありがとう ! というのが一番率直な感想だろうか。しかし、切り絵を動かして市川崑監督一流の照明の美学で味つけしたもの(でついでに崑センセファンの小西康暢氏にカッコよさげな曲を作ってもらったりして)というのは、お金を掛けずにそれっぽい時代劇を作る方法としては一考に値するかもしれないが、手法としては昔からあるものだし、それほど斬新な訳でもなんでもないでしょ ? おまけに、それ自体には生命の無いモノを言わない紙人形って、1時間以上も見つめているとさすがに飽きてきてしまうのだが……。またこれが江守徹さんなどのいたずらに豪華な俳優陣を声に使ったりなんかしてるものだから、私ゃやっぱり生身の俳優さんが演技してくれる方がいいなぁ、という以上の感想を持つことが出来なかったです。
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【ターザン】三つ星
深ぁい緑の森の中を飛ぶように軽々とどこまでも移動していく姿……って、これが【もののけ姫】から全く何の着想も得ていないとは言わせないゾ ! しかし、それこそ【もののけ姫】を通過してしまった私らには、この映画で描かれる無条件の自然賛美の姿って、あまりにナイーブに過ぎるような ? 人間が勝手な思い込みで“自然”に託すユートピア像、なんて地平に戻るなんてことは、もう出来やしないというのに。
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【DEAD OR ALIVE・犯罪者】四つ星
日本の裏主流映画界のスター総出演、といった感のあるこのキャスティングのゴーカさ ! (これで北村一輝が出てればカンペキだ……って、謎の配役“カズキ”とはもしかして ? )でもってお話の方は、哀川翔・竹内力の両主役のどちら側に肩入れしてもOK、しかも一つの流れの中でいろんなタイプのドラマを多重的に楽しめてしまうという、なんともおトクな構造。それでも、一部方面では評価の高い同(三池崇史)監督の“黒社会シリーズ”よろしく、シリアスな表現として押さえるところはきっちり押さえているよなぁ……なんて油断してたらとんでもなくて、それまでの流れも何もかもをすべて豪快にぶち壊し、これは純然たる娯楽映画以外の何物でもないのだと高らかに宣言するあのラストシーンの痛快さってば ! そのあんまりな馬鹿馬鹿しさには、呆れるのを軽く通り越して何だか涙が出そうなくらい大笑いしてしまった。いやぁ、これだけスカッとした気分で映画館を後にすることが出来たなんて、近年珍しいんじゃないの ? どうでもいいような映画を見て無駄に時間を潰すくらいなら、この映画の他じゃ見れないアナーキーさって絶対に“買い”でしょう !
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【ナビィの恋】三星半
以前、中江裕司監督が参加したオムニバス映画の【パイナップル・ツアーズ】って、実はうーぴーのオールタイム・フェイバリットの一本だったりして。この映画にもあの【パイナップル…】の破天荒さの一端はあるような気はするが、あの映画の突き抜けた青空のような明るさの代わりに、この映画はもっとしっとりとしたムードが全体を覆っているような気がする。私は最初はそれを少し物足りなく思ったりもしたのだが、よく考えたらこの“大人っぽさ”こそが中江監督個人の個性なのかもしれませんですよなぁ。
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【ハイロー・カントリー】四つ星
全くスティーブン・フリアーズ監督という人は器用なので、どんなテーマの映画を創っても楽々と完璧に仕上げてしまう。でもだからこそ、この監督のキモ(一番創りたい世界)は一体どこにあるのだろうと、分からなくなってしまうこともしばしばである。この映画も例によってそりゃあもう完璧な出来栄えで、ドラマとしても見応えあるし、ウッディ・ハレルソン様を始めとする俳優さん達も実に生き生きと演技しているのだが、じゃあどうして監督は今時このようなカーボウイものを手懸けようと思ったのか、その意図のようなものは何だかよく分からない。もとはサム・ペキンパー監督の企画だったというこの映画、ペキンパー監督が創っていたらどんな感じになっていたのか想像に難くないような気がするが、例えばそういった目に見えやすい個性、明らかな“色”と比べると、フリアーズ監督の創る作品は無色透明で、スマートっちゃスマートに過ぎるのかも。でもこういった色の無さも、完成度の高さだと思えばキライじゃないんだよね、私としては珍しいことに。
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【橋の上の娘】四つ星
ダニエル・オートゥイユさんはいい俳優さんだとは思っていたけれど、恋する女を一途に見つめる瞳の演技が、こんなにもセクシーに見えたのは初めてだ ! ヴァネッサ・パラディも、申し訳ないが今までどうしてもアイドルの延長線上でしか捉えることが出来なかったのが、初めてしっかりと一人の女優さんとして見えてきた気がする。いい俳優さんがいい監督さんと出会っていい仕事ができたなぁ、という典型みたいな映画。思えば、【ハーフ・ア・チャンス】の出来栄えはあんまりにも悲しかった。職人・(パトリス・)ルコント監督のお仕事はこうでなくっちゃ。
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【ファイト・クラブ】四つ星
なんか終盤になればなるほど、お話が破茶目茶で荒唐無稽になってくるよなー。(原作って、一体どんなふうになっているのだろう ? )それでも、何だか目が離せないまま、ついつい最後まで引き摺り込まれるがごとく見入らせてしまうだけの、何だか得体の知れない不気味な力がこの映画にはあるように思う、で、何だか分からないけどそれが妙に小気味いいのだ ! 全く、こんな美しく整然とした出来から程遠いような映画を、よくハリウッドで創らせてもらえたもんである。しかし、ブラピ君ってどの映画に出ていても演技同じだよなぁぁと、今回特に感じてしまった。この映画が面白かったのはひとえに、エドワード・ノートン(とヘレナ・ボナム・カーター)がお上手だったからである。ま実際、ホントは彼の方が主役な訳ですしねぇ。
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【ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ】三つ星
超絶的なテクニックと海より深い音楽的包容力を擁するキューバの幻のミュージシャン達による、もう二度と実現しないかもしれない素晴らしいライブ・シーンをまのあたりにすることが出来るだけで、そりゃあもう至福の一時を過ごせることは受け合いだ。しかし、ライ・クーダーにヴィム・ヴェンダース監督にこのシブ~イ面々となると、何だかあまりにも“お達者くらぶ”な組合せなのではなかろうか……う~ん、そんなんでいいのかヴェンダース ! こういうのは創る前からどんなもんになるのかということがかなり分かり切っているんじゃないのか。今回はあくまでもシュミと成り行きで作った一作ということで、今後こういった方向性で落ち着いてしまうという展開だけは無しにして欲しいのだけれども。
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【ブレア・ウィッチ・プロジェクト】三星半
ビデオ(と16ミリフィルムも併用しているらしいが)を使いドキュメンタリーを装った演出をしてホラーを作る、というアイディアは発明品と言ってもいいかもしれないほどに秀逸(でもって最初にやったもの勝ちだろう)。でもそれよりもっと感心したのが、その思い付きをきちんと形にしてみせるだけの技術力が在野にごろごろしているらしいという、アメリカの映画文化の層の厚さだ。この映画の監督さん達は映画学校の元同窓生ということだが、もし日本で同じことを思いついたとしても、これだけのものが出来上がる展開はなかなか考えにくいもんなぁ……万が一映画が出来上がったとしても、その後の展開も全然違うことだろうし。エ ? それで本編はどうだったかって ? 勿論気持ち悪かったよー。最後までテキさんの正体は全然分かんないのに(インターネットや関連本にまで手を出そうとは思わなかったので)、ただ一方的にパニックに追い込まれていくのがエラい不気味でさー。
御注意 : は、手持ちカメラのブレブレ映像ですごく気持ち悪くなってしまった、と申しておりました。その手の映像が苦手な方は充分にお気を付けください !
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【ペルディータ】三星半
モラルなんてナニソレ ? といわんばかりに本能だけに従って好き放題を繰り返すペルディータも、濃ゆい ! を絵に描いたようなその情夫のおっさんも、からりと暑くて埃っぽい、メキシコの砂漠のイメージがよく似合う。【ハイル・ミュタンテ】の時といい【ビースト・獣の日】の時といい、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督という人はどうしてここまで、他では絶対に見たことないような映画を発想することが出来るのだろう ? 主人公達の性質があまりにぶっ飛び過ぎているから、もしかするとおいそれとこれに共感するのは難しいのではないかと思うが、今後こういうヒロインが出てきたら(出てくるのか ? )みんな「ペルディータ型」と呼びたいくらいの強烈な個性は、そうそう忘れられやしないだろう。
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【無問題<モウマンタイ>】二星半
岡村君は違うといっているが、やっぱり彼が怪我してしまったのはこの映画の出来に影響してしまったんじゃないのかなぁ。香港でスタントをする話、と聞くとやはり誰だって岡村君がコミカルな動きを披露するシーンを期待してしまうのではないかと思うが、残念ながらそういったシーンがほとんど見られなかったのは、やはり訓練の時間などがほとんど取れなかった為なのではないかと思うのだがどうだろう。その代わり(と言ってはなんだが)この映画は全編“さわやかな青春恋愛もの”になっていて、それはそれで一応味にはなっているのだが、しかしあの岡村君にそういったテイストを期待して映画を見ようという人は、一体どれくらいいるのだろうか。そういうことならばいっそ、もっとコメディ色を強めて岡村君の面白さを全面に出した方が、映画としても面白くなっていたのではないかと思うのだが……お茶の間の岡村君を知らない香港の監督さんにそういったことを期待しても、やはり限界があるかなぁ。
何はともあれ : ナイナイの二人と映画には【岸和田少年愚連隊】という幸福な出会いがあったのだが、テレビのバラエティの第一線で活躍している彼らが映画というメディアに興味を持っていてくれるのは、とても嬉しいことだと思う。(とか言いながら矢部君の【メッセンジャー】はとうとう見に行かずじまいだったのだが。)
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【ラスベガスをやっつけろ】三つ星
燃え残ってしまった60年代、というテーマを幻惑的なトリップ映像と絡めて描けば面白いものが撮れそうだ、という着想だったのかもしれない。しかし、もしかするとテリー・ギリアム監督自身の中ですら、狂気の60年代を思い出したり懐かしんだりするという発想自体がもうとっくに終わったものだったのかもしれない、ということに、もっと早く気が付くべきだったのではないだろうか。それこそ私らなんて更に完璧に部外者なもので、彼らの道行きなんて本当にどうでもいいことだとしか写らないしなぁ。
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【ロッタちゃん はじめてのおつかい】三星半
人生強気でいったもん勝ちのロッタちゃん。しばらく前の【ポネット】などの例を挙げるまでもなく、日本人はかわいい子供が主人公の映画が大好き。でもってこの邦題といい、奈良美智のイラストを使ったイメージ戦略といい、これでもかというほどに分かりやすい。本編も、期待通りのものをそのまま出してくれている、といった手堅い出来で、こりゃヒットするんだろうなぁ。他人事みたいな言い方で申し訳ないんだけど。
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【ワイルド・ワイルド・ウエスト】三星半
上品さとスマートさとセクシーさを兼ね備えた若手随一のスター、ウィル・スミス ! 女装でも変態でも何でもござれ、見る度にその芸域の広さに驚かされてしまうケヴィン・クライン ! そして、コンプレックス丸出しの性格ひん曲がったマッド・サイエンティストを、これまで見たことないくらいに嬉々として演じているケネス・ブラナー ! そんな彼らが、時代考証端から無視のインチキ機械を駆って対決を繰り広げる様は、一般的な大受けを狙っていると言うよりはあまりにもマニアックだ ! 仕掛けのハデさに較べてお話の方は少しまったりしてしまったのでは ? という批判も当たってなくはないのかもしれないが、それでもこの凝りに凝った大嘘西部劇の世界は、一回見たら忘れられやしないと思うぞ。同じ無駄金使うなら、いっそここまで悪ノリして楽しませてくれるべきなんじゃない ? というお手本みたいな映画。
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【ワンダーランド駅で】四つ星
ボストンに住んでいた友人に昔聞いたところによると、ボストンの人達は自分達のことをほとんどヨーロッパ人のようなものだと思っているんだそうで……成程。最初イギリスかどこかの映画だと見紛ってしまったこのタッチに、80年代のオシャレ系みたいなところを彷彿とさせるボサノヴァをフィーチャーしたサウンドトラック(当時あんまりエンが無かったとはいえ)となると、これは何だかもう完璧に心の琴線をくすぐられてしまって参った。お話の方は、“二人はなかなか出会えない”というキャッチコピーにある通り、二人は本当に延々と出会えないので、最後の方は心配が高じていい加減疲れてきたりしてしまったのだが、必ずしも成功しているとは言いがたい人生が幸福に導かれつつある予感、のようなものを実に丁寧に繊細に描いているのが、これまたどうしようもなくツボにはまってしまって困った。ううむいいところを突きすぎだそりゃ。見終わってもやはりアメリカ産なのがにわかに信じ難い、今年一番の“恋愛”映画、だった。
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