Back Numbers : 映画ログ No.37



今月のビデオリリース : ニール・ジョーダン監督の【ブッチャー・ボーイ】は、神戸の小学生殺人事件のあおりを受けて公開中止になった、という話は本当なのかな ? 監督がこの映画で描こうとしたことと例の事件の底辺に流れる精神性に全く何の関連も無い、とまで言うつもりもないけれど、映画の方は“大人は判ってくれない”的な逡巡(+バーチャル・リアリティに少なからず影響を受けている世代の世界観)の本質をもっとソフィスティケートされた形で表現しようとした“作品”なのに、監督が敢えてそれを現わそうとしたことの意義が観客には分からないと判断されたとは、全くナメられたものである。青少年への影響、とかいったことを考えるなら、それこそR指定をつけるとか何とか、いろいろ手はあったんじゃないのかね ? それとも、周囲のオトナ達の無理解が子供の歩む道を阻むのだ、という現実を鼻先に突き付けられるのが耐え難かった、っていうことなのかしらん ? ともかく、ちゃんと公開されていれば私なら絶対に年間のベスト作品の1本には選んでいたであろう傑作だったのに。異論を唱える方もいらっしゃるだろうけど、何かの機会があれば、是非一見しておいて戴けると幸いである。ところで、前評判の高かった【ゴッドandモンスター】もビデオのみのリリースになるんだそうな。(あるファンの方の努力で東京での一日だけの上映会が実現したとのこと。涙無しには語れない ! )ビデオであれ全く見ることが出来ないよりはましなのかもしれないが、中途半端な扱いしか出来そうにないのならいっそ買ってくんなよ(もっとマシな扱いが出来そうな配給会社にあらかじめ譲っとけ) ! とすら言いたくもなるのである。

【雨あがる】四つ星
大変失礼なんだけど、本編を観るまでは正直言って、この映画は故・黒澤明監督ゆかりの人々が集まってそれぞれの心の中でのお葬式をするためだけの企画なのだと思っていた。実際、映画のオープニングに黒澤監督の生前のスナップがいくつも出てきたくらいだから(そんな映画ってあんまり見たことないわよねぇ)、やはりそういった意図もあったことは間違いないんだとは思う。が、だからと言ってこれは、見る前に手前勝手に予想していたような“黒澤映画の燃え残り”的なカスカスの作品なんかでは全くなく、独特の清涼感とのびやかな息吹を擁しながら、まさに今現在、新しく生まれ出てきた映画なのだと感じられたのであった。想像してみるに、最晩年の“黒澤天皇”は偉大な巨匠だというイメージがあまりに浸透しすぎていて、その元で仕事をするスタッフやキャストには、いい意味でも悪い意味でも、ある種異様なくらいの緊張感が常にあったのではないだろうか。勿論、それは小泉尭司監督の元での仕事に緊張感が無かったなどということを意味するのでは全くないが、適度に肩の力が抜けたところで発揮された超ベテラン揃いの監督・スタッフ・キャストの力量こそが、宮仕えの苦手な主人公とその周囲の人達のおおらかな人間味を存分に引き出し、この映画にぴったりの爽やかな味を創り出していたのだと思う。残念ながら、かなり古いタイプのヒューマニズムを連想させてしまう音楽だけは、個人的にはあまり好きではなかったのだが(亡くなった方には申し訳ないが)、それでも本編は、表面的なスタイルの模倣なのではなくもっと骨太な、映画づくりの本質そのものに関わる黒澤明監督の遠大な薫陶をまざまざと感じさせてくれたのであった。
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【アンナと王様】三星半
アジア人がハリウッドで与えられる役柄って、未だに、いっまっだっにっ、そーいうものしか無い訳なの ? それでも、文句を言ったところで今すぐ変わるわけではない現状はそれとして受容しながら、割り振られた役柄を包容力豊かに、エレガントに演じ切り、その懐の深さを全米に見せつけたチョウ・ユンファ先生には大拍手を送りたい。また、さすがにジョディ・フォスター御大が参加している企画なだけはあって、当時の西洋人が驚いた諸々の非西洋的な風習も、単に非文明的だと決め付けることなくそれぞれの文化の文脈の中で捉えるべきなのだといった視点を割ときちんと提示していたのは、今までのハリウッドの歴史を考えてみるに、さりげなくもなかなか画期的なことだったのではないかと思う。しかしいくらなんでも、この内容で2時間半となると、少々長すぎはしないか。この映画を見に来る人々は多分、主人公達のラブ・ロマンスに期待している層が最も中心であることだろうし、政治絡みのお話の部分はもう少しばかりコンパクトにまとめて全体をすっきりさせてもそれほど文句は出なかったんじゃないかと思われるのだが、いかがなものだろうか。
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【いちげんさん】二つ星
思ったほど悪くもなかったじゃないの、というのが率直な印象(どういう先入観を抱いてたんだ ? ……いや実は、鈴木保奈美さんという人があんまり好きではないもので……)。古都・京都の風物をきめ細かく捉えようとした画面は、まるでブロマイドのように美しくはある。けれど、主人公の心情をモノローグ中心で繋いでいくというのは、小説では有効な方法かもしれないが、映画では登場人物への感情移入が出来にくいから、平坦で退屈な印象を与えてしまうのではないだろうか。もっと具体的なエピソードに書き起こすとかいった脚本上の工夫などが、まずは必要だったように思われるのである。
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【うずまき】三星半
【富江replay】二つ星
だからもうホラーはええっちゅうねん ! という叫びも虚しく、大杉漣さんがうずまき型の奇妙なオブジェに囲まれているカットをどこかで見掛けた時に、これはやっぱり見とかなきゃいかんか、という気持ちになってしまったのだ……。町中がうずまきに侵食されていく、という不条理な世界を、ミュージッククリップ畑出身のHiguchinskyさんを監督に擁し、過度にマンガチックな表現で描こうとしたのは、なかなか狙いがはっきりしていて面白いんじゃないかと思った。ヒロインの初音映莉子ちゃんも可愛かったのだが、しかし“ホラーより怪奇ものを目指す”というスタンスがうまく行きすぎていたのか、出来上がったもんはやはり何かキモチワルくってねぇ……。片や【富江…】の方なのだが、静かで抑揚の無さすぎる語り口は、恐怖感がじっくり焙り出されるというよりは、何か間延びした印象を与えられてしまったのだけれど。単館レイトだった前作の【富江】は見ていない(レイトショーのホラーを見に行く度量は私には無ーいっ !! )のだけれども、どんなもんなんだろう ? もしかして、わざわざ新しく作り直したりなんかするよりも、話題になった前作をそのままカップリングしていた方が、(かなり変則的な興行形態になる困難を考えても)よろしかったんじゃないのだろうか。
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【嘘の心】三つ星
思えば、クロード・シャプロル監督の映画を見に行くのも久しぶりである。悪く言えば、特筆するような目新しさも無い地味な作品でもあろうが、良く言えば、安定した渋い語り口を隅々まで堪能できる佳品である。雑な出来の映画ばかりを続けて見ていると、たまにはこんなふうな、整然とした美しさのある映画を見てほっとしたくもなるもんだよね。
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【ガラスの脳】一星半
【リング】であまりの巧さを見せてくれた中田秀夫監督だから、ピュアなラブストーリーを目指したという本作ももしや ? と思ったのだが……主人公達の演技の水準、という難問に百歩譲って目をつぶるとしても、百年一日、といった感のある古めかしいストーリーラインや決めゼリフの使い方に、今日この作品を作る必然性を感じさせてくれるような新鮮みを感じることが出来なかったのだが。また“キタナイ大人”の象徴なのだろうと思われる榎木孝明さんの役の中途半端で戴けない設定の方法などにも、作品の仕上げ方が雑であるような印象をより一層深くさせられてしまった。これは少なくとも、大人の鑑賞に充分耐え得る映画には、残念ながらなれなかったのではあるまいか。場内の3/4を占めていたと思われるジャニーズ・ファンの女の子達は感涙にむせんでいたようだからこれでもいいのだ、という議論も成立し得るのかもしれないが、本当に優れた作品というのは、ジュブナイルものであれ何であれ、誰が見ても面白いはずなんじゃないのかな。
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【シビル・アクション】四星半
うーぴーの大好きな名作映画【ボビー・フィッシャーを探して】のスティーブン・ザイリアン監督は、どちらかと言えば脚本家としての方が通りがいいらしくて、長編監督作としては今回のこの映画が何とまだたったの2本目らしい。しかし、有名な人からそうでない人まで実に的確な俳優さん達の配置といい、人物をうまく特徴づけるクセや小道具の使い方といい、物語を豊かに織り上げていく絶妙なエピソードのセレクト方法といい、もう何から何までがすご~く好みなんですけど。やはりザイリアン監督の力量は只者ではない。ここで本格的にファンになることを宣言したいと思う。本編の方は、環境汚染裁判にのめり込んでいく弁護士(トラボルタが弁護士 ! でも意外なことによく合っていて、また彼の新たな魅力を引き出しているのだ ! )を中心にしたお話で、必ずしもすっきりとしたハッピーエンドにはなっていかないのだが、一筋縄ではない結論の面白味もちゃ-んと分かってる日本の観客になら、これくらいは充分OKなんじゃないだろうか。日本の市場向けにアメリカ映画を売り込むなら、ステレオタイプで内容スカスカなのを莫大な宣伝費を掛けてなんとかしようとする“超大作”ばかりじゃなくて、こういったものこそもっとリキを入れて、一般に浸透させるべく丁寧にアピールしてもらえないものなのか。
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【シャンドライの恋】三星半
重厚な作風が世界的に評価され、巨匠と呼ばれて久しいベルトリッチ監督が、軽やかで滑らかで、まるでシルクの織物のように美しい光沢を放つ映画を創ることに挑戦しようとは ! そのアグレッシブな意気やよし ! それこそ真の巨匠の姿である。しかし、ヒロインの相手役のデヴィット・シューリス氏が個人的には難と言えば難で(うーぴーんちでは昆虫系とも爬虫類系とも言われてまして……役柄的にも今一つだし)、あの人と恋愛してもあんまり嬉しくないかもしれないかなぁ、という思いがもしかすると、この映画の世界に没入することを妨げていたのかもしれない。結果、私にとっては、すごく美しくはあるのだけれど、何とも静かすぎて眠たい映画になってしまった。非は完璧にこちらにありそうなんだけども、何か損しちゃったような気がするなぁ。
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【シュリ】四つ星
ごく基本的な線としては、どちらかと言えば苦手なジャンルのスパイ・アクションものだったから、個人的なとっつきとしてはあまりよくなかったのかもしれない。しかし、北と南のスパイのシビアな戦いと悲劇的なロマンスの要素が絶妙に合わさって(ハン・ソッキュさんは切ない心情を演じさせたらアジアで一番かもしれない ! )畳み掛けるようにストーリーが展開していく様を見ていくにつれ、何だか頭の中がシビれたような感じになってきて、これはもしかして(もしかしなくても ! )今までに全く見たことのない何かを目の前にしているのだ、という衝撃へと変化していった。「韓国っていつの間に、こんな超本格的エンターテイメント映画を創れるような国になっちゃってるんだ ! 」それは、ベルリンの壁が崩れるのをテレビの映像で見た時みたいに、今までこうだと信じて疑わなかった世界の姿が音を立てて変わっていくのをまのあたりにするような体験だった。時代というのは確実に、自分が今まで想像もしなかったような未知の次元へ入って行きつつあるのだな。こりゃ日本もうかうかしてられないじゃん。日本だって昨今は、世界のどこに出しても恥ずかしくないようないい映画をたくさん創れているのだから、アジアの他の国共々、お互いに切磋琢磨し合ったり協力し合ったりして、グローバル・スタンダードなんて粗雑な方法論だけでは汲み上げきれないような感覚を、もっと明確な形にしていくことが出来るようになるといいのだけれども。(グローバル・スタンダードなるものが作り上げられようとしていることに絶対反対ではないんだけれども、それがお互いのいい意味での個性や特徴を押し潰す形で働いてしまう場合があるんだとしたら、そーいうのは面白くないし勿体ないデショ。)
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【スペシャリスト 自覚なき殺戮者】三星半
私は仕事でやっただけなんだから個人的には責任が無い、だなんて、日本の官僚の人間も何かの機会に出るところに出たら全く同じことを言いそうなのが、気味が悪い。この映画の監督さんが現在フランス在住のユダヤ人(フランスは日本にも引けを取らないくらいの、世界に名だたる官僚国家なのだそう)で、この映画は過去を掘り起こす目的よりは主に現在の世界に警鐘を鳴らす意味で創ったのだというのも、非常に納得である。しかしまた私自身も、世の中に生きて社会生活なるものを少しでも営んでいる限りは、何かしらの形でシステムなるものに加担している訳で、そうしている以上、知らずに(あるいは知ってても ? )何物かを破壊することに関与している可能性は常にあるのだ。大まかに言うならば誰もが生れながらにシステムの歯車であることを宿命づけられている現代の社会で、私達は本当によりよい方向を模索していけるのだろうか。はなはだ心もとなくはあるが、一人一人がほんの少しずつでも自覚的になって周りのものごとを考え始めるしか、打つ手が無さそうである。
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【SLAM】三つ星
前半は(刑務所のシーンなどの見せ場もあるが)ちょっととっちらかっている印象があるのだが、この映画の真骨頂は後半にやってくる。ラップと同じ根っこを持っているという、スラム・ポエトリーの生まれた土壌そのものを感じさせてくれるような主人公達の真に迫ったやり取りや、実際の場面もこんなのだろうかと彷彿とさせてくれる強烈なポエトリー・リーディングのパフォーマンスを垣間見ることが出来るだけでも、この映画を一見する価値はあるに違いない。
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【追憶の上海】二星半
政治的な側面も描かれてないことはないかもしれないけど、こりゃどう見ても大河メロドラマとしての比重の方が高いよな。それは別にいいとしても、上海在住のアメリカ人の目を通して描く、という持って回った設定の仕方が、結局登場人物たちへのダイレクトな共感を妨げているように思われたのだがどうだろう。なるべく中立の立場で話を進めたかった、というのが監督さんの説明だったのだが、植民地的な支配地域に住んでいる西洋人の視点、となると、それこそもっとカギカッコ付きの保留がたくさん必要なようにも思われるのだけれども…… ?
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【通貨と金髪】四つ星
だから“金髪”と聞くと途端にイマジネーションを削がれてしまうような気がするので、あまり題名とかには使わないで欲しいんだけどなぁ(実際にこの映画、望月六郎監督と知らなければ絶対にパスしていたことだろう)……と思っていたらあに図らんや。日本人のオジサンはお金以外のほとんどすべてを犠牲にして高度成長なるものを達成しても、自らの卑俗なコンプレックスは何ら拭い去ることが出来なかったのだ、という痛切な怨嗟が、この一見何じゃいな ? と思ってしまうようなタイトルに込められていたのだ。肝心のパツキンねーちゃん役を日本人の女の子が演っていたので、すわ、予算不足にも程がある ! と一瞬引いてしまったのだが、話を見進めているうちにこれはわざとそうしてるんじゃないかと思えてきた(実際どうなのかは不明)。大枚はたいて外国人娼婦を買ってもその前でマスターベーションしか出来ない主人公のヘボい大学教授が、家畜人ヤプーよろしく崇拝している金髪のねーちゃんを、もし本物の外国人女性に演らせていたら、この映画はエグすぎて見るに耐えないものになっていた可能性がある。しかしこれなら、日本人ホテトル嬢には説教をカマしながら本番を致している姿との対比が、むしろ強烈な皮肉を含んだ戯画として成立することだろう。多分初めてこれだけ端的にカリカチュアライズされ描写された日本人のある種のオジサン原像を、渾身の演技で体現しきった諏訪太朗さん(最近【ガラスの脳】や【うずまき】なんかにも御出演なさっています)は凄まじいの一言である。ラストの解決のつけ方はちょっと安易じゃないかと最初は思ったのだが、これは崇拝の対象も何もかもを全部粉砕してしまい、その生き血を啜ってでも逞しく生きろってことを示唆しているのだろうか ? そこのところも含め、映画全体があまりにも、インターナショナルには通用しそうもない内輪受けの論法だけで構成されているきらいはあるかもしれないが、これだけ強力な表現が可能なのなら、そんな映画もたまにはあったっていいじゃないかと思えてしまうのだ。
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【ディナーの後に】二星半
現代韓国人女性の性に対する意識を大胆に描いた映画、という触れ込みだったのだが……確かに表面的には多少現代的な装いになっていたのかもしれないが、実際の内容となると、ひと頃盛大に輸入されていた一連のコリアン・エロスものにあったような“女って奴は先天的にどうしようもないスケベでよぉ”という一方的なスタンスとあまり変わるところがなく、その視点は結構保守的なままに留まっているんじゃないかな、と思われた。いや、女がスケベだっていうのは別に嘘ではないんだけど、その結論に至る前にはもっと詳細に描かれなければならないはずの心の綾とか葛藤とかが色々あるんであってね。主演の女優さんの一人が奇しくも某誌のインタビューで「やはりこれは女の人が監督をやるべきでした」と言っていたのは、その辺りだったんじゃないかと思う。それでも昔の映画のように女の人が怒涛のように不幸になるということはなく(その断片はあるものの)、自分の進むべき道をまだしも積極的に選び取っている姿を溌刺とした女優さん達が生き生きと演じていたのが、この映画をそれなりに鑑賞に耐え得るものにしていたのではないだろうか。
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【ビューティフル・ピープル】四つ星
ボスニアものといえば暗い(か、過度にクレイジーである)という先入観を見事に打ち破った本作には、「人間は最も悲惨な体験すら越えていけるだけの知恵を持っているはずだ」、という、自らもボスニアからの移民であるジャズミン・ディダー監督の力強い確信が脈打っている。人生を生き抜く上で最大の武器になり得るものはユーモアなのだ、ということが、私もやっと最近、ほんの少しだけ分かりかけてきた。監督の移住先でこの映画の舞台にもなっているのがユーモアの本場の国と言われているイギリスなのも、この映画のトーンと決して無関係ではないのではないか。とにかくたくさん人が出てくるので、最初はちょっとごちゃごちゃしてしまうかもしれないが大丈夫。みんな個性に溢れる愛すべき人々なので、見終わる頃にはきっと一人一人が、忘れられなくなっているに違いない。
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【ポゼスト 冷血】三星半
さすがに【キングダム】の国・デンマーク産のホラーだ ! と思ったら、ラース・フォン・トリアーのプロダクションが製作していたのね(ウド・キアーもチョイ役で出演しているし)。ちょっとジミ目ではあるけれども、恐怖感をダイレクトに煽り立てる強制追い立て型のホラーではなく、あくまでも人間の業の潜在的な恐ろしさを軸にした人間ドラマを中心にしてあるところが渋くてよろしいんじゃないかと思う。病原菌と悪魔とどっちが恐いかは意見の分かれるところだろうが。(でもって、これは一応“世紀末ムービー”だったのね。)
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【ワールド・イズ・ノット・イナフ】三つ星
私が本格的に映画を見始めた頃には既に冷戦も終結に向かっていたし(最近また少しぶり返しているらしいけど)、ショーン・コネリーもボンド役は引退してしまっていたし、キザでマッチョなスパイ、という設定も完璧に時代遅れなものになりつつあった……というか私があまり好きじゃなかったんだが。そんなこんなで、実は今まで007シリーズを1本も通しで見たことが無かったのだが、スパイにとってはすっかり不毛とも思えるこの時代に、他の作品だと古めかしいとも取られかねないバタ臭い二枚目ぶりを見事にツボに嵌めて、新しい時代のジェームス・ボンド像を作り出したピアーズ・ブロスナンの功績に敬意を表して、一回は見に行かなけりゃいかんよな、と思っていたところだった。カスピ海沿岸の石油利権がらみの陰謀、というそれなりにタイムリーな題材の取り方はうまいなぁと思うし、10分に一度(推定)は必ず爆発シーンを入れるといったような、見せ場見せ場の連続で飽きさせない作りは、娯楽映画の王道を潔く突っ走っていて実に清々しい。その割になんで星の数がそれほど多くないのかと言えば、ひとえに悪役のロバート・カーライルの使い方が気に入らなかったから。ショボクレた感じの色気、が身上の彼から色気を取ったら一体何が残るって言うの ? 思えば【ミッション : インポッシブル】でも一番気に入らなかったのはジャン・レノの扱い方だった。“ヨーロッパからの新参者”にハリウッドの礼儀を教えてやる、っていう意図でもあるのだろうか ? しかし、今や一応、世界市場相手に作っているっていうタテマエはあることだろうし、アメリカ以外の人間の好みの傾向も少しは念頭に置いといた方がいいんではないかと思ってしまったのだけれど。
もひとつおまけに : タイアップだか何なんだか知らないけど、日本版のラストだけで中途半端な日本語の曲を流すのは、ださださだからやめてもらえんものかな。
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