Back Numbers : 映画ログ No.39



祝 ! リバイバル : ジョナサン・デミ監督の出世作でもあるライブ・フィルムの金字塔、トーキング・ヘッズの【ストップ・メイキング・センス】が最初に日本で公開されたのは、私がまだ大学生の時のことだった(完璧に年がバレるじゃないのっ ! )。勿論、ビデオもサントラも持っていたりするのだが、再発版のCDは収録曲が倍近くに増えており、昔は未収録だった畢生の名曲『ヘヴン』やトム・トム・クラブの『ジーニアス・オブ・ラヴ』まで入っているので思わず買い直してしまった。文化的に不毛だったと喧伝されて久しい80年代だが、かの時代にもカッコイイものはちゃんとあったのよっ ! ということを証明してみせる逸品でもあるので、見たことのない方はこの機会に是非。

【アナザヘヴン】三星半
観終わった時には、アラなかなか面白いじゃないの、と思ったのだが、周りの見知らぬ男の子達などが「つまらなかった」とか「久々に駄作を見てしまった」とか言っているのを聞いて、【仮面の男】以来、しばらくぶりにやってしもうたことに気がついた……私は知らないうちに、古株でいぶし銀の、己れの長年の経験とカンと実際にその目で見たものだけを信じるシブ~い刑事を演じる原田芳雄さん一人に焦点を当てて観てしまっていたのである……そりゃカッコよかった訳ですな、実際に映画の一番の見どころはそこだったんじゃないかと思うくらいだし。しかし少し辛めに採点してみると、飯田譲治監督の昔の作品【Night Head】などと較べてストーリー展開などは格段に分かりやすくなって巧くなっているものの、この映画が一応テーマとして掲げているはずの“悪意”がどうとかという点になるとちょっとばかり詰めが甘かったような気がしてしまって、その辺りはもしかすると昔の作品の方に軍配が上がってしまうのではないかというふうに思えてしまったのだが……しかしこれは脚本の出来などが悪いというよりは……私の見るところ、申し訳ないけれど、主演の江口洋介さんの演技に調子の強弱しか存在していなくて(他人と絡む箇所の演技ではまだゴマカせていたみたいだけど)、“悪意”なるものの多面性や深みを伝えるニュアンスに乏しかったことが最大の敗因だったのではないのだろうか。う~ん、他の人がどれだけ頑張ったとしても、主役の人がどこまでその映画が表現するべきものを背負って立ってくれるかというのは、やっぱりその映画の生命線になってきてしまいますよねぇ。主役の人の演技がもっと格段に良ければ、もしかするとこれは、とてつもない傑作になっていた可能性だってなきにしもあらずだった、という予感がしてならないのだが。
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【アメリカン・ビューティー】四星半
今日びはどこの国の家庭もそれなりに崩壊しているというか、“アメリカ”の家庭崩壊云々はお話を語る時の方便に過ぎないのであって、私はこの作品のテーマはずばり“ビューティー”、つまり、人生における“美”とは何か、の方だと思う。それは、惨めで悲しいだけのちっぽけな“私”の人生に、生きる意味を与え、完璧なものへと変える何か。(すなわち、「You make me complete」と歌うドクター・イーブルにとっての究極の美とは、自分の縮小版の似姿であるミニ・ミーであるということになる。げろげろ ! あれってそんなにディープな伏線だったのか ! )ケヴィン・スペイシーの演じた平凡で冴えない中年男は、美の(あるいは美の不在の)殉教者であるがごとく映るが故に、泣けて、泣けてしょうがないのだ。こんなに捉えどころのないテーマを見事に形にしたアラン・ラッドの脚本は信じられないくらい素晴らしい。また、演出によってはもっと軽佻浮薄にも、逆に目も当てられないほど陰惨で深刻にもなり得た本作を、このシビアなタッチの、しかし紛れもないコメディに創り上げたサム・メンデス監督の手腕も、これが映画初監督だとはとても思えないほどに完璧だ。無論、俳優陣の演技も逸品である。(最初、アネット・ベニングは少しオーバーアクトでは ? という気がしていたのだが、しかしあのハイトーンで演じなければ、このお話自体、喜劇にはなり得ないのである。なんて凄い技術力なんだ ! )アカデミー賞もたまにはまともな作品を選ぶじゃねーか。これは掛け値なしの傑作である !
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【イグジステンズ】四つ星
んー、始まって5分でお話の大まかな仕掛けは分かっちゃったのだけれども、最後まで観ると、現実と仮想現実の境界の曖昧さとかを焙り出すお話の骨組みの置き方などはさすがに上手いなぁと思った。あと、両生類系のヌルヌルとした諸々の小道具もいちいちウェッとなるキモチワルサで、これもお話にいい味を加えている。何かものすごくビックリするといった感じでもないのだけれども、安定感のある良く出来た逸品、といった趣きのある一本である。
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【ヴァージン・スーサイズ】三星半
監督第一作目ということもあるのだろうか、細かい部分でここはもっとこうした方が……といった箇所もいくつかはあったように見受けられる。5人姉妹の話といいながらキルスティン・ダンストの演じたラックスばかりがどうしても目立っていたのも少し引っ掛かったのだが、しかし何より一番気になったのは、このお話自体、彼女達の隣家に住む男の子達の目線から描かれているはずなのに、彼等の存在感が全くと言っていいほど薄かったため、結局彼女達をどういう存在として描き出したかったのかという部分の筋の通し方が(そのことに全く言及されていないのではないのにも関わらず、)今一つ弱くなってしまったように思われてしまったことだ。とはいえ、それらはどれも本質的な欠点という訳ではあるまい。まるで甘い夢か何かのように一瞬だけ存在した彼女達を、これだけ鮮烈に描き出したその手腕だけでも、ソフィア・コッポラ監督は充分評価されてしかるべきであろう。また、この独特の世界観を形づくるサウンドトラックのあまりの選択眼の良さは特筆に値する。メインにAirを持ってきたのも面白いのだが、「So Far Away」「Alone Again」 「Hello, It's Me」「I'm Not In Love」といったキラ星のごとくの名曲達が実に的確に使われているのには驚くばかりだ。しかし、この映画の裏テーマ曲はズバリ、トッド・ラングレンの「A Dream Goes On Forever」 に違いない ! 私ゃ大~昔に買った彼のベスト版を引っ張り出してきて、最近、毎日のように聞いている(……まだ映画を観ていないですら何故か、サントラの購入を検討している)。ハイ、きっちり彼女の術中にハマッて、影響受けてるってこってすね。
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【NYPD15分署】三星半
一見ヤバい道に染まっているように見えても実は正義の心を残しているヒーローって……なんか昔、香港映画でそういうパターンのものをたくさん見たことがあるような気が絶対するんだけど……。しかし、舞台をニューヨークのチャイナタウンに移し、香港出身でもなんでもない人が監督し、ついでに白人の主要キャスト(マーク・ウォルバーグ君、最近よくお見掛け致しますね~)との絡みがあるお話にしてしまったというのに、まるで昔見た映画の続きでも見ているようにあまり違和感もなく、大量の銃弾や火薬がそれほど得意ではない私が見てもなかなかよく出来ていると思わせる仕上がりになっているのは、むしろ意外なほどであった。こういうそれらしい雰囲気をさらりと創り出せてしまうのもやっぱり技術力なのか、それとも香港ノワールのカリスマであるチョウ・ユンファのオーラが否応無しにそうさせてしまうのか ? どっちにしても、たいしたものである。
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【オール・アバウト・マイ・マザー】四星半
ハンサムで心優しく親孝行な素晴らしい息子・エステバン君を最初に殺してしまうなんて……どうしてそんなに非道いことをする ! しかし彼は彼の母であるヒロインの心の中で最愛の存在として生き続け、ヒロインとその周りの女性達を結びつけ、導いていくのである。彼女達は、誰もが逃れ得ない死という絶対的な断絶を、忍耐と寛容さとユーモアを以て、再生という名の循環の中に紡ぎ直していく。きっとそれがアルモドバル監督の考える“女性性”なるものなのだろう(それは生れながらに規定されるものではなく、勿論自分で選び取ることが可能なのである)。そんなに美化されても困るというか、それなら私などは“女性”というカテゴリーには入らないのだろうとか、まぁそれはそれとして。彼女達はしなやかで“愛”ゆえに強く、そして誰もが、涙が出るほどに美しかった。
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【ザ・ビーチ】二星半
西洋人の若者が幻想を求めて東洋に出掛けて勝手にゲンメツして帰ってくる筋書きなんて、そらアジア人の共感を得ることは最初っから放棄しているっていうことですがな。百歩譲って、主人公が原作の通りイギリス人のままで、昔の帝国主義的な思想の残滓がユートピアのコミュニティ内のやりとりの中に鋭く批判的にあぶり出される、というのであれば、現代においてまだしも描く価値のあるものになっていたかもしれないけれど…… ? なーにが「世界市場を相手にする為にイギリスらしさにこだわらないことにした」ですか ? それって、ハリウッドの持ち掛けた取引にあっさり同意し、巨大な資金を得るために自分の個性やルーツを手放して、アメリカン・スタンダード化されるのをよしとしてしまったのだと宣言しているのに等しいんじゃないんですか、ダニー・ボイル監督 ? ディカプリオ君も、ディカプリオ君なりの誠意がこの映画に対してあったのだということは認めるけど、かように映画の焦点自体が最初からぼけてしまっているのではどうにも仕様があるまい。キツい言い方をすれば、それは作品の選択ミスだと思う。一応お話としての分かりやすい起承転結はあるし、何たってビーチは綺麗だから、もう退屈でしょうがないというほどの酷い出来でもない。でもそれだけ。かつてのボイル監督作品やディカプリオ君の出演作を観て感じたときめきの何かしらが、この映画にある訳ではないのである。
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【サマー・オブ・サム】四つ星
“サムの息子”の影に怯え、理性を狂わされていく、1977年の暑い夏。それまで主人公達が生きてきたコミュニティが疑心暗鬼や排他主義で崩壊する、という筋立てだけ聞くと、かつての名作【ドゥ・ザ・ライト・シング】に似ているようにも思われるのだが、かのお話とは時代の設定も多少違っていれば、舞台になっているのもイタリアン・コミュニティで重要な登場人物もほとんど皆白人、とくれば、それは換骨奪胎された全然別の物語だと考えて差し支えないだろう……あのスパイク・リー監督が、まがりなりにも本当に白人が主人公の映画を創るなんて ! もうそれは完全に驚きなんてものを通り越してしまい、何だかもの凄く隔世の感がしてしまう(……私も年を取るわけだな)。しかし、様々な人々のそれぞれの物語を重層的に配し、当時の時代や文化的な背景を巧妙に絡めて(この映画の場合には70年代ディスコ、パンク、ゲイカルチャー、ポップアート、そして当然公民権運動など)、さりげないユーモアをちりばめながら無理のない1つの流れを創り上げてしまうその手腕にはますます磨きが掛かっており、それはもう泣きたくなるくらいの名人芸の域に達している。そして、一見似たような対立や緊張を描きながらも、否応無しに沸き起こる憎しみが画面に叩きつけられるというのではなく、登場する人物の一人残らずに対して、例え傍目に愚かに映る人であろうとも愛情をもって描かれているように見えるところが、何て言うか昔の彼の作品とは決定的に違っているように、私には思われてならないのだ。(セックスのダブル・スタンダードが内在化しててその矛盾に振り回されるジョン・レグイザモが最高に可笑しかった ! ……エ ? そこは笑うところじゃないんだって ? )昔のようなあからさまな怒りを分かりやすく描かなくなったことを、日和ったという人があるのだろうか。私には、彼がかつてより二回りも三回りも成長した証しに見えて仕方がないのである。
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【実験映画】三つ星
いかにも“実験映画”的な映像なんかも取り入れたりしているところが、いかにも手塚真監督らしいというか。虚構の中でもいかにも虚構的な舞台を用意した中で、映画なるものが生まれ出る瞬間そのものまでを映画として創り出して、フィルムの中に納めてやろうとした試みが、何とも新しくも面白い。不思議な印象を残す作品である。
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【スティル・クレイジー】四つ星
とうの昔に解散したバンドが今更再結成、とかいった話を聞くと、大抵の場合、やっぱりどこか胡散臭いとか思っちゃうよね。しかし誰もが感じるそういった疑問をわざわざ脚本に起こして、映画を一本取ってしまおうとする人達がいるというのが誠に凄い。しかもその脚本が、メンバーやその周辺の人々それぞれの思惑や思い入れを丁寧に描きつつも、彼等が自らの過去と折り合いをつけ現在の自分達の姿を前向きに受け入れようとする姿勢をかなりシビアながらも暖かい視点で綴っているスグレモノで、思わず目頭を熱くさせられてしまう。彼等を演じる役者さんがいちいち上手い人達なのも、本編の出来を中途半端にさせないのに一役買っていて、また最高の盛り上がりを見せながらもきっちり落とす最後の決めゼリフも秀逸。ありがちな題名から受けるありがちな映画を想像したらさにあらず。これは、心のどこかにまだくすぶっている思いを抱え続けている20~30代以上の人には是非一度お勧めしてみたい、思った以上に拾い物の素敵な映画だった。
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【スペーストラベラーズ】三つ星
例えば最初辺りに、銀行員が営業中に客をほっといてカウンター越しに無駄話をしているようなシーンがあるのだが、進行を簡略化するためとはいえ現実的にはいくら何でもありえないというか、そりゃ映画の嘘というのとはちょっと違うんじゃないかと気になってしまう。また、黒地に白字幕で「あなたは今、何をしていますか ? 」と大写しになって深津絵里のナレーションがかぶるラストシーンは、ちょっと押しつけがましくないかあ ? と思えてしまって……。劇中アニメを始めとする細部の仕掛けが凝っているのは見て取れるし、途中のやりとりなどではやはりセンス良く面白いところはあったのだが、時々噛んで含めて言い聞かせるようなのろいテンポになってしまったりするのはどうも好きじゃなかったりする……オバサンって頭固いからさぁ、若い人ならもしかしてノリで許せるのか ? と思われる箇所でもどうもいちいち引っ掛かってしまう辺りを考えると、この映画って基本的にせいぜい20代前半くらいまでの年齢層を対象にしているのかなぁ、という結論に行き当たってしまったのだが。興業成績的にも、スタートダッシュの勢いに比べてその後の伸びが足りない、といった話を聞いたりして(これは【ケイゾク】の映画版などでも似たようなパターンが見て取れるようだ)、宣伝用のホームページなどを中心に盛り上がった、多分マニアックな若い男の子中心の層以上への拡がりが今一つ足りなかったのだとすれば、この手のイベント参加型ムービーの創り方や盛り上げ方にも、今一度再考が必要なのではないだろうか。
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【スリー・キングス】三星半
湾岸戦争を舞台にした戦争を痛烈に皮肉ったブラックコメディ、という触れ込みを聞いたのだが、この映画のどこがそのような皮肉になっているのかは、私には最後までよく分からなかった……もしかしたら、兵士の戦場での行動は愛国心の発露などではなく、あくまでも個人的かつ利己的な動機に裏打ちされたものなのだ、といった辺りがそうだったのだろうか ? しかし映画自体は詰まるところ、フセインはどこまでも絶対的な悪であり、アメリカ人は結局のところは正義をなすように運命づけられているのだ、という視点の限界を脱することはついぞなく、良くも悪くも存在しているそういったアメリカ人的な思考の枠組みを再びなぞってみただけだという気もしてしまったのだが。ジョージ・クルーニー、アイス・キューブ、マーク・ウォルバーグの三人組の人間臭い魅力で、映画としてはそれなりに楽しむことは出来たのだけれども、日本の人にとってこの作品が優れた風刺映画と映るかどうかとなると、背負った文化的・社会的背景の温度差があって難しいのではないかと思われたのだった。
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【太陽は、ぼくの瞳】三星半
スティーヴィー・ワンダーが映画館に行くのが好きだと言っていたという話を、昔聞いたことがあるのだけれども、しかし実際、私も目が見えなくなってしまったら何をよすがに生きていったらいいのだろう……って、そういう映画じゃないんだけどもさ。盲目ではあっても誰よりも豊かな知的感受性を宿す少年は、分からず屋の親父の無理解にもめげず、きっと逞しく生きていくことだろうと思うが、そんな主人公の姿を映した映画を、主人公を演じた彼自身が見ることが出来ないというのが、どうも妙な感じがして。
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【年下のひと】二星半
アブラの乗り切ったジュリエット・ビノシュがまずありき、といった趣きの企画であり、感情の赴くままに恋をするこの映画のジョルジュ・サンド像は、まんま女優ジュリエット・ビノシュの実像の写し絵だっていう気がする。(恋をした歴史が自分の人生史そのものだっていうのは、フランスの大女優の系譜の王道を行っとりますな。この映画の相手役の人ともめでたく子供を作ったのだそうだし。)しかし、思う様にエゴをぶっつけあって容赦無く壊していってしまうその関係を“愛”と呼ぶのは見ていていい加減疲れてしまうし、もうトシだからかそういった展開をフォローする気力も体力もすっかりなくなっているみたいなのだが。前々から思っていたのだが、日本語とフランス語の“愛”という言葉は、実のところ、その指し示す内容が全く異なっているのではないのだろうか。
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【どら平太】四つ星
良質の落語みたいにとにかく大笑いできるダイアログ。豪快で型破りで腕も立ち頭もいい、見ていてスカっとする正義の味方なヒーロー。日本を代表する大監督達のさすがの共同脚本に、キャリアの粋を集めた市川崑監督の軽妙洒脱な演出が冴え渡る。配役もそれぞれ豪華な上に、誰もがぴったりの役柄だったのだが、特に主役の小平太は、例えば三船敏郎さんが演じたらどんなだっただろう ? とそのルーツを少し感じさせつつ、今ノリにノっている役所広司さんという役者を得て、その存在感が底光りしていた。とにかく文句無しに面白い ! 見逃したら勿体ない一本である。
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【ノー・ルッキング・バック】四つ星
鄙びた田舎町を舞台に、そろそろ中年に差し掛かって後がなくなりつつある平凡な男女が自分の行く手を模索する……題材としては本当に地味~でありがちですらあるお話のはずなのに、エドワード・バーンズ監督がこれを描くと何故、絹のように繊細でなめらかで、観ていて飽きることのない、そして後味も決して悪くない良質のドラマに仕上がってしまうのだろう。本当はあんまり好みじゃないローレン・ホリーのアップの顔すらいとおしく思えてしまう。バーンズ監督自身、どちらかというとまだ若い部類の人で、本作もまだ3 作目だかそこらだというのに、どうしてこんな老練な作家のような演出を志向するのか、またそれが出来てしまうのか。謎である。
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【花火降る夏】二つ星
先に香港返還の映像を撮っておいて後でストーリーを考えたのだという話を聞いて、なるほどなと思った。何かを伝えたいのだな、という雰囲気があることは分からないでもないのだが、主人公達の気持ちみたいなものの中には一向に入っていけないのだ。そうなってしまうとまぁ、ありていに言って、見ていて面白くはないですよねぇ。大変申し訳ないのですが。
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【HYSTERIC】四つ星
千原浩史さんという人は、今、アウトロー的な役柄を演じさせたら、そこいらの俳優ではおいそれと太刀打ちできないくらい存在感と説得力があるのではないだろうか。恋に落ち、その場その場を生き急ぎ、待ち受けていたように破滅する、その姿には最初から最後まで釘付けになってしまい、全く目を離すことが出来なかった。小島聖さんという人は、同年代の誰よりも真正面から女優業というものに取り組んでいるように見えるのに、その肉感的な風貌が災いしてか最近オジイサンの慰みものみたいな役回りばかりさせられていて先行きを危ぶんでいたのだが、正に彼女だからこそ生きてくるハマリ役に巡り合えてよかったね。脇を固める人も、鶴見辰吾さんといい村上淳さんといい寺島進さんといい大~好きな阿部寛さんといい、ここにこんな人を使っちゃうの !? といった贅沢な配役ばかり。そして、瀬々敬久監督の世界はここまで濃厚に、しかも普遍性を以て展開する。この出来上がりに、これ以上、何を望むことがある ?
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【風雲・ストームライダーズ】四つ星
跳べ ! 殴れ ! 蹴れ ! 吹き飛ばせ ! こんな押せ押せの勢いって、やっぱりいかにも香港映画らしくっていいですなぁ。SFXも効果的な使い方をされていると思うし、動きがスピーディーで派手なのが、見ていて実に気持ちが良い。あのどっちつかずでいい加減なヒロインだけはどうも気に入らなかったが、悪の親玉のソニー千葉はカンロクたっぷりでさすがの存在感だったし、武骨なアーロン・クォック君もとーってもカッコよかった ! ので、全体としては非常に満足。しかしちょっと気になったのがイーキン・チェンなのだが……演技がどうこうということじゃないのだが、もともとつるーんとしたすべすべの顔だったのが、ちょっと年を取ったせいか輪郭のシャープさが損なわれてくると、少ーし焦点のぼやけた感じになってきた気配が……そんなんでこの先大丈夫 ? 他人事ながらちと心配になってきたのだが。
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【ブック・オブ・ライフ】四つ星
舞台はニューヨーク、スーツ姿の神の子イエス・キリストがAppleのPowerbookに「命の書」を入れて持ち歩く、ハル・ハートリー監督流の世紀末黙示録。出来ればこれも1999年中に見ておきたかった内容かもしれないけど、まぁいいや。ハル・ハートリー監督の真価はこういった少人数での家庭的で親密なドラマ作りの中でこそ最も発揮されるのかもしれず、それにはこの作品のようにビデオというメディアを媒介にすることが、もしかして一番適しているのかもしれない。私が今まで観た監督の作品の中では、本作が一番自由な息吹が感じられ、最も新しさが際立っていて面白い、と思われた。
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【ボーン・コレクター】三星半
確かに犯人の正体や謎解き自体はあまり大したことがないので、例えば【羊たちの沈黙】みたいな犯人達と丁々発止の駈け引きを繰り広げるといった感じのサスペンスを期待して見てしまうと拍子抜けしてしまい、期待外れだったと感じる人も少なからずいるかもしれないということは分からないではない。しかしこの映画の場合、そういった面にそれほど大きな比重は置かれていないのだろうということは、明らかなのではあるまいか。むしろ、手足の自由を奪われたデンゼル・ワシントンの心情の変化とか、いきなり捜査官に抜擢されたアンジェリーナ・ジョリーの戸惑いや苛立ちとか、そういった登場人物達の内面の葛藤、またそれを的確に映し出してみせる彼らの卓越した演技力などに焦点を当てて見た方がずっと楽しめるのではないかと思われたのだが、いかがなものだろう。しかし、ラストがあんなふうになっちゃうのはな~んか安っぽくって、私はあまり好きではなかったんですけどねぇ。個人的には、折角いい役回りをもらっていたかに見えたラティファさんが、結局またあっさり殺されてしまっちゃった辺りもどうもなぁ。
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【ボクの、おじさん】三つ星
印象としては、【絵の中のぼくの村】の青少年編、といった感じ。しかし、生まれ育った風景に回帰することで癒される人ばかりが世間にいる訳じゃないと、私はどうしても思ってしまうんだよな。もともとそこに救いなんてなかった人の心情はどこへ向かえばいいのか、という問いに、こういった映画は最早答えることは出来ないのではないだろうか。
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【ぼくは歩いてゆく】三星半
切ないとか辛いとか言い回って子供の為になーんにもしてやらない(戸籍すら取ってやらないなんて !? )、どころか、下手すると妨害ばっかりしているような奴が子供なんて作るんじゃねぇ~ !! それでもまっすぐに前を見つめる少年の瞳は凛々しくてとても美しいのだけれども、こういう話を見ていると心が寒くなってきてしまうよなぁ……(泣)。
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【ボンベイ to ナゴヤ】三つ星
前半はボンベイ、後半は名古屋、でもってこれが掛け値なしのインド映画。電車の中だの、駅前の植え込みだの、駐輪場だの商店街だの、もー好きな所で踊る踊る。彼等が踊っていると、見慣れたはずの日本の景色すらまるでインドの風景に見えてきてしまうから不思議だ。名古屋在住で名古屋をこよなく愛するインド人の御兄弟が作ったというこの映画、あぁ、国境なんてこんなにあっさり越えてしまって、世界なんてこうやって渡っていけばいいものだったのね。まるでご近所につっかけで出掛けるみたいなそのあんまりな身軽さが、いっそまぶしい。
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【マーシャル・ロー】二つ星
全く危険なだけのわからず屋のテロリストか、既成の権力を前に卑屈なまでに盲従の姿勢を示す輩か、どちらかしかいないというのか。私がアラブ人でも怒るよそりゃ、と思った。アネット・ベニングの役どころなんてワケ分かんないしさ。あとブルース・ウィリスの役なんかも、軍隊内部の矛盾を暴くというのにはあんまりにも薄っぺらな描かれ方しかしてないし。全体的に、こ~んな中途半端な取り上げ方しか出来ないなら、このような難しい題材にはいっそ最初から手をつけるべきではないのではないかと思われたのだが……ああそれとも、ウチがやらなきゃどこか余所の会社に折角のネタを取られてしまう、というあせりが、こんなふうな練りの足りない粗雑乱造品を作らせてしまったりするのでしょうかねぇ。しかし、そんな手ヌキは見る方にすーぐ伝わるんだからさぁ、結局無駄遣いされただけのお金や資材が勿体ないじゃないの。
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【MONDAY】三星半
話が進むにつれて、最初は予想もしなかった状況が最初っから準備されていたのだということに気付かされる展開は非常に面白い。また、堤真一さんの芸達者ぶりをあますところ無く堪能できるのも大満足である。これまでのサブ監督のテンポ感とはまた違った感じで楽しめるのがよかったという気はするのだが、ただ、ポスターにでかでかと載っていた松雪泰子さんの出番が実はワンシーンしかなかったのがちょっとサギ ? と思ったのと、ラストは個人的にはもうひと工夫欲しかったかもしれない、といったところでこの評価。
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【ミニー&モウコウィッツ】三星半
な……なんかあんまり調子が噛み合っているようにも見えなかった二人なのに、どうしていきなり反転してそこまでメロメロになってしまうのか、ちとビックリしてしまったのだが……まぁ、この相手になら自分を曝け出せると確信する瞬間というのはごく唐突に訪れるもので、恋愛ってそんなもんだと言えばそうなのかもしれないのかなぁ。そもそもこういったものを見ながら、登場人物の行動につい合理的な理由だとか整合性とかを求めてしまうこと自体、物語っていう形式にあまりにも無自覚に毒され切っている証拠なのだろうか。
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【ロゼッタ】四つ星
この資本主義万能の御時勢では、働けないっていうことは、ものを食べたり暖かい寝床を確保する権利すらないという状態に限りなく近かったりする。私も何回かは経験したが、為すべき仕事が見つからないというのは辛い。本っ当に辛いことだ。でもその辛さすら認めようとしないロゼッタの凛とした頑ななまでの表情は、安易な同情すら拒絶する意志の強さに満ち溢れている。それが余計に見る者の胸を射り、居たたまれない気持ちにさせるのだ。不必要なBGMを極力排したサウンドの処理がとても印象に残った。彼女の息遣いとその作業の音を丁寧に拾って強調することで、生きるために自分で手ずからしなければならない諸々の仕事の手触り、その重たさが一層生々しく感じられたのだった。
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【ロミオ・マスト・ダイ】三星半
この話のセリフの中にだって出てくるくらい、ジェット・リーは背が低い。そしてお顔もずば抜けたハンサムという訳ではない。それでも彼が披露するカンフーは、まるでバレエのように美しい ! 毎度おなじみアクション感性の低いですら、カッコイイっ !! って叫んでしまいそうになったくらい。正にアジアの至宝、彼はきっと今現在、世界で一番美しいアクションを披露してくれる俳優さんであるに間違いない。本編の方は、『ロミオとジュリエット』が黒人と中国人のマフィアの抗争絡みのお話に翻案されていて、その新機軸な組合わせもまた楽しめる。ジュリエットのアリーヤちゃんも可愛い。パパ役のデロイ・リンドも渋い。お話もそれなりに破綻もなくて、何かと見どころも多く、安心して楽しめるので、かなりお勧め出来る一本である。ところで本作は、かの【マトリックス】を製作したのジョエル・シルバーさんのプロダクションの作品だというではありませんか。ねーねー、【マトリックス】の続編のどちらかにリーさんに出てもらいましょうよー !! 彼ならきっと味方でも悪役でも、ものすごくインパクトのあるキャラクターを演じてくれるに違いないから !!
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