Back Numbers : 映画ログ No.42



【インビジブル】四つ星
ちょっと才能が行き過ぎていて孤立化していく一方のエキセントリックな下種男の悲しみなんて、いかにもポール・バーホーヴェン向きの素材ではないか。(この邦題は悪くないけれど、原題の【Hollow man】=“からっぽの男”の方がもっとぴったりと内容を言い表しているように思う。)男がどんどん逸脱していて異常になっていくのに対して、相対する男女はごく普通に考えてごくノーマルで正常な行動を取っているだけと思われるのだが、ケヴィン・ベーコンの名演のなせる技もあってか私なんかは下種男の方に完全に肩入れしてしまい、綺麗事ばかり言う偽善者のてめーらなんか一生刑務所にでも入っとれ ! とまで思ってしまったのであった……。男が人から見えなくなることで本性を剥出しにし、狂暴化していく有様がホラーと化していくバランスも絶妙でいい。という訳で、映画のテーマを体現したケヴィン・ベーコンがどう考えても本作の主役だと思われるのだが、何故凡庸なヒロイン役のエリザベス・シューのクレジットなんかが彼よりも上にあるのやら、私には皆目分からない。まぁいいや。人体組織を皮から一枚一枚剥いで解剖していく過程やその逆回転を早回しにして透明化・非透明化を表現したSFXだけでも、ちょっとグロいけど充分一見の価値はあることだし。
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【ウェブマスター】三つ星
北欧のいかにも意味ありげな静謐さと、人間の理性の限界を過剰なまでに押し広めようとするオランダ辺りのアグレッシブさを併せ持つデンマーク映画は、独特の質感を持っていて、無条件に心惹かれてしまうものがある。本作は、電脳空間ものを連想させるタイトルの割にはそういった描写はほんの一部で、その周辺の人間のお話の方がほとんどになっているし、ネットのデザインもいかにも一昔前のカルトSF風(今や日本製のゲームソフトの方がよほど上なのでは ? )、ストーリーもありがちなら、展開もかなりまったりしているのだが、そのキッチュさが逆に妙に懐かしく感じられたりして。
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【X-メン】四つ星
アメリカン・コミックを映画化する際の方向性として、ティム・バートン監督の【バットマン】が力技で自分の世界に引き摺り込むという一つの類型を示しているならば、本作は原作のテイストを忠実に掘り起こすという極めてオーソドックスな方法論を呈示している。サイキック・ウォーズものとはいえ、SFXに振り回されることもなくあくまでも様々な 人間のダークなドラマを精緻に描いている本作は、さすがはブライアン・シンガー監督、のシャープな手腕が冴え渡る。渋る彼を是非にと引っ張ってきたプロデューサーの慧眼に脱帽。
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【オルフェ】三つ星
【黒いオルフェ】三星半
ギリシア神話をベースにした59年の【黒いオルフェ】を現代っぽく翻案したのが今回の【オルフェ】で、両方ともブラジル映画である。モーニングショーで併映していた【黒…】も見較べてみると面白いと思うが、【黒…】の方がオリジナルの素朴さがあって妙な衒(てら)いのようなものも無く、私はより好きかもしれない。今回の【オルフェ】は、原色の艶やかさやきらびやかな音楽には大いに目や耳を奪われるが、お話は結構図式的なところが目立ってしまう気もするし、主人公のあの彼が“神も嫉妬するほどの”ミュージシャン ? とか、ほとんど主人公達のチームしか出てこないリオのカーニバル ? とかいった諸々の描写が何かもの足りない気もするし。面白くなくはないんだけど、今ひとつ期待通りにふくらんでくれない感じが、何だか惜しいと思った。
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【カノン】四つ星
つい先日【素肌の涙】を観たばっかりだし、いくら表現上のこととはいえ近親相姦を肯定する結論になってしまうのには、やはりどうしてもしこりが残ってしまう。映像というのは文学などに比べて、感覚へのインパクトが直截にやって来るものだから。でも正に表現として考えてみた場合、この作品には簡単に切って捨てるのが難しい核が強固に存在しているのも、また本当だと思われるのである。どれだけあがいても抜け出せない絶望的な袋小路に嵌まった人の抱え持つ、どろどろに腐った膿のようなもの。人生そのもののような長さで延々と続く堂々巡りの繰り言。まだ人生に未来の明るい希望がある人には、こんなのは用の無い映画だ。腐った膿なんて、知らずにいられればその方がいいに決まっているから。でも、それをどこかに抱え持ってしまった者には、彼に訪れる奇跡のような救済の形も、また見通すことが出来るのではないか。自分の預かり知らぬ何かから押しつけられたモラルなんて、何の意味も為すはずがない。彼を裁くことが出来るのは、彼が愛する娘だけなのだ。“フランス”なるものをこのような救い難いメタファーで描いた映画を、私は未だかつて観たことがなかった。そのことだけでもこれは、記憶されるべき映画なのではないかと思う。
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【キッド】三星半
ジョン・タートルトーブ監督の映画は、歴史や人生観が変わってしまうような大きな驚きとかがある訳じゃないんだけれど、見終わった後には必ずや何か心地よい余韻を残してくれる。大甘で見え透いたハッピーエンドでもなく、かといって辛過ぎて目を背けたくなったりもしない、その絶妙な匙加減がどの映画を見ても発揮されているっていうのは、実はものすごいことなんじゃないか。そんな気持ちが、ここへ来て確信に変わりつつあるように思う。ブルース・ウィリスがこのテの映画に、という言われ方がよくされるけれど、私の中の彼のイメージは元々こちらの方向性に近かったりする。一度固まってしまったイメージを突き崩すのは、周りにとっても本人にとっても大変なことなんだなぁと思う次第。
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【金髪の草原】四星半
「すべてがあまりにもすばらしい」。自分を20歳だと思い込んでいる、心臓が悪くてごく人並みの人生を送れなかった老人が、遥か遠くの記憶に残る憧れやときめきがリンクした“この現実”を噛み締めて言う科白は、痺れるほどにまぶしくて目が眩みそうになる。大島弓子さんの原作の力もさることながら、そのニュアンスを見事に掘り起こして独自の映画へと転化させた犬童一心監督の手腕には唸らせられる。関西系の芸人さんなども多用したキャスティングのうまさにも唸らせられたし、池脇千鶴さんも勿論よかったが、中でも件の老人を演じた伊勢谷友介さんには本当にびっくりさせられた。老人の夢の世界と現実との解離を一つのシーンの中に現出させるなんて離れ業をやってのけるには、演出の力もさることながら、まずは20代の彼が実際に老人に見えてこなければお話にならないだろう。日本の若手男優にそんな役が出来てしまう人がいたなんて ! 私の今年の主演男優賞は、既に彼に半決まりである。
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【クリミナル・ラヴァーズ】二つ星
それぞれのシーンのイメージは鮮烈なんだけど、話の展開は何だかいきあたりばったりで、全体としては一貫性があるように見えず、結局のところ何を言いたかったのかさっぱり分からなかった。本国フランスでは短篇王と言われていたというフランソワ・オゾン監督、やはり短篇の方が得意なのだろうか。長編となると間を持て余してしまっているようなきらいが、どうにもしてしまうのである。
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【クレイドル・ウィル・ロック】四つ星
資本主義社会では、資本家の不利益になるような概念は最初からコントロールされ、見えないように封じ込められているというのは自明の理。芸術なんて分野でも勿論そうだ。(昨今人畜無害のものが嗜好されるのは、経済至上主義の世情と奇妙に符合していないだろうか ? )しかし、誰もが生まれる前から飼い馴らされているそんな檻をも破って、枠組みに囚われない生きた魂の叫びが立ち表れてくる瞬間が存在することだってある。丁寧に張られた伏線が一体化してそんな瞬間が屹立する最後のミュージカル・シーンこそ、やはりなんたってこの映画の白眉であろう。さすがはハリウッドの最左翼ティム・ロビンス監督が創りそうな内容だ。(それでいて双方の視点にくまなく目配りしているところもまた彼らしいのだが。)しかし、こんな金持ちを揶揄するような内容の映画に大枚をはたく人がいる辺りが、またハリウッドが一筋縄では行かなくて面白いところなんだけども。
閑話休題 : 私の読みでは来世紀の前~中半頃、今の世情がもう少し二進も三進も行かなくなってきた辺りで、そろそろマルクスの最解釈が流行ってくると思うんだけどなー。
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【五条霊戦記//GOJOE】四つ星
私は【エンジェル・ダスト】以降の石井監督の無茶苦茶なファンだということは最初に宣言しておこう ! 本作でもここ何作かの石井聰互監督作品よろしく、見ていると細胞レベルから変質させられてしまうような凄まじいエネルギーが、外側に向かって弾け飛ぶというよりは、内側に向かって凝集していくのを感じた。日本では昔から人間の心の闇を鬼と呼び慣わしてきたのだが、この映画では、現世にはびこる鬼を叩き切ってやる、という石井監督の強い祈りが火花を散らしているかのよう。話が進むにつれ、知らず知らずのうちに、折れるんじゃないかと思うくらい歯をぐーっと食いしばっていたのに気が付いたときはまいった。少し気になったのは、台詞が全体的にぼそぼそと篭っていてところどころ非常に聞き取りづらかった(行った映画館の設備のせい ? )のと、特に前半、折角凝りまくっていたらしい殺陣が黒っぽかった衣裳のせいか画面の暗闇に沈んでしまい、よっぽど注視してないと何が何だか分かりづらかったところ。まぁそんな点も、この映画の圧倒的な迫力を少しも弱めたりはしないのだけれども。
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【ことの終わり】三星半
予告編などではロマンチックな恋愛ものやら不倫ものやらみたいな触れ込みだったので、そのつもりで見ていたら、前半は大して面白くなかったので正直がっかりした。が後半、これは恋愛ものというよりは神様の存在証明の話なのだと判明してビックリ ! ある出来事がきっかけで女は神の存在を信じざるを得なくなり、男はそんな神を憎むことでまた神の存在を認識せざるを得なくなる、という粗筋で、彼等の恋愛沙汰だって言うなればその道具立てにしか過ぎなかったといってもいいくらいなのである。何だ、そう考えれば前半の展開だってまぁ納得できたのに。(てゆーか、文学の素養が無いとか原作を読んどけとかいう話にはなるんだけどね。しかし)そうやって宣伝に騙されて、映画が本来持っているはずの面白さを充分に楽しめなかったりしたら本末転倒じゃないんだろうか。いい加減、例えば神様話だからといって必要以上に避けて通るなどの、不用意に内容を歪めて伝えたりする幼稚で的外れな売り方はやめにしてもらえないものなのか ?
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【サノバビッチ☆サブ/青春グッバイ】二星半
ワセダの演劇閥出身の監督と言われてみればいかにもそんな感じの、ナンセンス・バイオレント・スラップスティック。松梨智子監督自身が出演しているという最初の辺りのシーンや、エンディングの持っていき方なんかはなかなか面白かったんだけど、宗教ネタなんかが入ってくる途中の展開は、学生ノリの自主製作映画にありがちなネタ運びに近いんじゃないかなという気がしてしまった。でも監督のバイタリティはとにかくよく分かったし、後は監督ならではの表現の色や形がもっともっとあからさまに見えてくるようになれば、とんでもなく大化けする可能性は充分にあるのではないだろうか。期待して待ってま~す。
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【さよならS】三つ星
チンピラの真似事にボクシングって、どこかの国の青春映画を思い出して何だかデジャブな気分になったのは私だけ ? 筋立て自体はありがちなようにも思ったけれど、淡々と綴られていく身も蓋も無さ加減の、簡潔な語り口が却って記憶に残る気がした。
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【60セカンズ】二つ星
私でも書けるんじゃないかしら ? と思えるくらい笑っちゃうほど説明的で要点だけしか出てこない導入部の脚本は、このお話には人間ドラマなんて皆無ですよ、そんなものは一切期待しないで下さいね、と宣言しているようなものだから、それはそれでいっそいいのだろうか ? それならどうしてラストまで来て「兄弟愛はスバラシイ」なんて魂が抜けちゃうような馬鹿なシーンを取って付けて観客を思いっ切り脱力させるのだ ? (まさかこんなんで感動出来ると思うほど製作側も度し難いマヌケじゃないわよね ? )中盤の運びはまぁまぁだったとしても、カーチェイスは終盤までほとんど出てこないし、おまけに最後は銃撃戦で片を付けるのでは、これは車系の映画とは言えないということだけは確かなのではなかろうか。相変わらず変わり映えがしないニコラス・ケイジはさておき、脇には折角個性的な役者が揃えてあるのに、数が多すぎたせいもあるのか全然生かしきれてなかったところも不満。映画全体を通じて、総じて消化不良な印象が残ってしまったのだった。娯楽ものに徹するのは構わないけど、それならそれでもっとクールなものを創ってくれないか。
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【シベリアの理髪師】二つ星
外国資本を入れることを検討せざるを得ない状況にあるらしいロシア映画の今後の一つの方向性を占う意味で、潤沢な資金を出してもらえる“名のある巨匠の大作”を見にいってみたのだが……こ、これって、“おおらかで人情味豊かなロシアっぽさ(みたいなもの)をじっくりと描いてみたかった”ということなのだろうか ? それとも、外国人の観客向けのサービスとしていかにもなロシアっぽさをパッケージングして見せようとしていたのだろうか ? いずれにせよ結果として出来上がった映画は、前半は締まりの無いシーンがだらだらと続いてなかなか本筋が姿を表さず、後半になってようやく薄ぼんやりと見えてきたのはアメリカ人女性とロシアの青年将校のどうにも陳腐な悲恋物語、といった有様。勿体つけてはいるけれど、実は無駄なシーンが多いだけ。せめてもっとタイトな展開にした方がずっと美しいでしょうに、たったこれだけの話に2時間40分は長過ぎる ! おまけに、どこから見てもヨーロッパの賢夫人でしかないジュリア・オーモンドは、アメリカ女にも、取り返しのつかないバカなことをしでかす愚かな女にも見えないし、相手役の男の人もどう見ても中年男で、20歳そこそこの青年将校と言い抜けるにはあまりにも無理がある。このミスキャストでは感情移入のしようもない。退屈極まりないと言うほどの酷い出来ではないものの、よっぽどお金と暇がある人以外に、この映画をわざわざ映画館まで見に行くことは、私は勧められません !
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【17歳のカルテ】四つ星
理解できないものや扱いきれないものにとりあえずレッテルを貼り、分かったような気になってそこから先は思考停止してしまうのは、いつの時代にもありがちな防衛機制だ。(「17歳」という言葉をいたずらに流行らせるだけで満足している今のマスコミも同じ。)10代の不安定さもいつの時代にもあったものだと思うけど、時代や場所が違えば“病気”と呼ばれたかどうかすら曖昧かもしれない少女達が、たまたま60年代当時のある種の文化にそぐわなかったためにある種のレッテルを貼られてある場所に隔離された、という状況が切り取られて描かれているのがこの映画である。そういった状況が存在したことに対して本作は何も具体的な回答を示している訳ではないし、またお話としても(実話の映画化にありがちなことだが)物語の山場を特定しにくく、起承転結がすっきりとした形できれいに盛り上がる訳でもない。それでもこんなお星様をつけてみたのは、自分もかつて経験したというそのような状況をちゃんと形にして呈示しようとしたウィノナ・ライダーの意志にかなり感銘を受けたから。俳優さんがプロデュース業をすることも多くなってきた昨今だけれど、年若い女優さんが自分のビジョンをに形にしたいという姿勢をこれだけ明確に打ち出すことは、まだまだ珍しいのではないだろうか。彼女は色々な意味で今後が楽しみな人になってきているのかもしれない。頑張れウィノナ !
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【素肌の涙】四つ星
陽も射さない暗いトーンの画面、BGMも少ない重苦しい空気。荒涼とした土地を舞台に、軽くなりようの無いテーマが展開される。子供の頃に性的虐待を受けていたことを最近のインタビューで公言しているティム・ロスは、どれだけの思いで初監督作品としてこの作品を選び、創り上げたのだろう。あまりにも無力な私は、彼の決意の証をただ見詰めることしかできない。ゲイリー・オールドマンの自伝的な初監督作品に続き本作でも物語の要となる父親の役を務めているレイ・ウィンストンに注目 ! 本気でアブないおっさんにこんな難しい役は頼めないし、演技者としても人格的にもよっぽど信頼されているってことだよね。
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【東京ゴミ女】四つ星
人のゴミを漁ってその私生活を垣間見ることを趣味にするなんて、そんじょそこらの生半可な変態よりタチが悪い。(主人公が可愛い女の子だからって胡麻化されてはいけない。これがおっさんが主人公でどこかの女の子のゴミを漁っていると考えてみたら…… ? )ゴミくらい気兼ねなく捨てさせろ ! てな訳で、いくら彼女の片思いがそれなりに純粋な気持ちなのだとしても、個人的には途中まではとても見るに耐えられなかった。しかし、彼女が実際に“現実”に遭遇して、彼女をストーキングする男を始めとする周りのちょっと後ろ向きな人達と自分が何ら代わりのない人間なのだ、という事実を鼻先に突き付けられ、そんな自分と訣別しようとする脚本の切り返しが実にお見事 ! なのである。廣木隆一監督も、この流れを過不足無く見事に映像化しており、彼の監督作では一番好きかもしれない映画になった。本作は、三原光尋、行定勲、篠原哲雄、塩田明彦、三池崇史といった錚々たる顔触れがビデオで競作するという《ラブシネマ》シリーズの第一弾。これは今後のラインナップも期待できそうである。
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【DOG STAR MAN】三星半
主に物語形式のフィクションである場合が多い商業映画は、映像表現なるもののうちのほんの一部の形式を採用しているにしか過ぎない。たまにはこういったものを見てみて、視覚的な刺激が頭の中でどのようにイメージとして膨らむかを目撃し、自分の映像的感性をリフレッシュしてみるのもいいのではないでしょうか。まぁ、こういうものは古典なんだしね。
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【ヒーロー・イン・チロル】三星半
卒論の資料に当たっていた頃に、ヨーロッパの農村部では20世紀に入っても魔女狩りが行なわれた記録がある、などという記述を読んで仰天した記憶がある。もともとヨーロッパでは都市部と農村部は文化的に隔絶している伝統があるのだそうで、今や確信犯でやっているに違いない分、ヨーロッパの農村は世界最後の秘境になりうるのかもしれない……かといってこの映画のそれは、あまりにも漫画的に誇張されてはいるのだが ! お決まりの分かり切った展開がだらだら続くのはちょっと冗長な感じもするが、ヨーデル・ロック・ミュージカル( ? )の波状攻撃に、頭はただもうクラクラ。何もここまで命を掛けてバカなことをやらずともよかろうに。
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【ひかりのまち】三つ星
自分でデート相手を募集しといて、現れた男性がいくら気に入らないからって途中でブッチして帰っちゃう ? そういう心掛けじゃ幸せになれなくてもそりゃ仕方ないんじゃない ? と、のっけのシーンから印象がよくなかった時点で、この映画との相性はいまひとつだったのかもしれない。他にも、転職したがっている夫の言い分に耳を貸そうとしない女とか、イライラするからって隣ん家の犬に毒を食わせる女とか……どれもすごい犯罪って訳じゃなくっても、日頃から筆者がそりゃイケマセン ! と何とな~く思っているセンにざらりと引っ掛かってしまうようなことをする女の人ばっかりが出てくるのはどうしてなの ? それがリアルってことなのかなぁ…… ? それはきっと映画としての致命的な欠陥とかいうのではなくて、本当に微妙な好き嫌いの範疇のような気はするのだが、登場人物の誰にも自分を重ねられないとなると、見ていてどうにも身の置き所がないのである。
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【不貞の季節】三星半
人が精魂傾けてやってる仕事を批判する女房なんて私が夫なら即刻叩き出すけどな……って、この映画にはそんな状態に至ってしまうまでの女房の側の言い分とか、そんな仕打ちを受けてもなお夫が彼女を愛している理由とかまで詳しく書き込まれてはいないから、気を留める必要もないのだろうけれど。ドライで重くならないタッチに仕上げた艶笑奇譚といった趣きの本作は、原作者である団鬼六先生のSM世界の深淵を覗き込めたりする訳ではないにしろ、女房の浮気すら作品の糧にしてしまう作家の悲しい業の部分が、あくまでもコミカルに描かれているのが笑える。大杉漣さんでなければこの何とも言えない軽みのあるおかしさは出なかっただろう、正にぴったりのはまり役だ。
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【フランソワ・オゾン短篇集~アクション・ヴェリテ/ベッドタイム・ストーリーズ/小さな死】四つ星
前回フランソワ・オゾン監督の長編が劇場公開された時もそうだったのだが、今回もレイトショーの短篇集の方が明らかに出色の出来だった。短篇というものは将来長編を作るためのエチュードに過ぎない、映画作家は長編を撮ってナンボだという考え方が世界の大勢を占めているのだが、オゾン監督の短篇と長編を見較べていると、短篇という形式でこそ的確に、豊かな世界を構築できる作家もいるものなのだなということがよく分かる。興行サイドは、作家の真の才能をきちんと世に知らしめてより観客に楽しんでもらうためには、長編でなければ商売にならないという固定観念を捨て、思い切って短篇集の方を昼間のプログラムに組んでみるくらいの冒険を真剣に検討してみる義務があるのではないのだろうか。また、資金を調達する関係などから実際は難しいのかもしれないけれど、オゾン監督はこの際短篇だけを創り続けることで自らの得意分野を押し広め、世界の趨勢に一石を投じてみるのもいいんじゃないかと思うのだが。
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【ホールド・ユー・タイト】四つ星
のっけから全然美しくもないオッサンの同性愛シーン ! 主人公にかなり絡んでくるこの小太りメガネのオッサン(でもチャーミングでやさしい人なんだが)を許せるかどうかで、この映画に対する評価は大きく変わってくるかもしれない。話自体はどっちかというと何てことない(というよりウザったいくらい ? )かもしれないが、皮肉に満ちて時には堪え難い思いもする各々の人生を描くスタンリー・クワン監督の視線は辛辣でなく、あくまで慈愛に溢れており、それが画面の隅々から伝わってくるのがまるでベルベットのような手触りで心地よい。この人はきっと似非でない本当の強さを持った人なのだろう。今度から「パパ・クワン」とお呼びしようかな。
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【ポルノグラフィックな関係】三星半
その種の広告でそんな手頃な相手が簡単に見つかるかどうかは別にして……ごくノーマルに見える普通の中年の男女が、自分の性や、性愛に限りなく近い正体不明の愛に正面から取り組もうとしている姿を、ごく理性的に、理知的に描くなんてことは、フランス映画じゃなければ出来そうにない芸当。さすがだ。セックスをするということはある種の底無し沼のような関係性のほんの入り口なのであって、セックスにさえ持ち込めればそれであがり ! になってしまうハリウッド映画やテレビドラマは幼稚に過ぎる。そんなことに改めて気づかされ、当面見るのがイヤになってしまったじゃないの。
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【マルコヴィッチの穴】四つ星
他人の人生に成り代わってまでいい目をみたいなんて私は思わないけどなぁ、と考えだして、これはドラマと捉えるよりは、全編カリカチュア(風刺戯画、または漫画 ? )として捉えるべき発想重視の映画なのだということに始めて思い至った。独創性では今後10年お目にかかれないかもしれないほどに群を抜くし、ジョン・マルコヴィッチ様の顔と名前を全国に広めて下さった功績は讃えたいけれど、これはやっぱり万人向けに発信される映画というよりは、見て面白がる人が自ずと限定されてくるアートハウス系の映画なような気がするのだが。(本国でアカデミー賞なんかにノミネートされたのは、コッポラ家の婿ということと全~く無関係とは言えないんじゃないの ? といった見方はあまりにも穿ち過ぎ ? )これを全国公開系の映画に据えるとは、最近番組編成に苦労している様子がしのばれる東急松竹系ならではと思えたのだが、いかがなものだろう。
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【ワンダー・ボーイズ】三つ星
登場人物は皆それぞれにコケティッシュで魅力的。でもねぇ、天才としてデビューした作家が二作目を上梓できなくて苦悩しようが、そこに才能のある青年(でも病的なウソつき)が登場しようが、そんなこと人にはどうだっていいことじゃない ? 書かれるべき必然性のある文章ならほっといたっていつかは形になってくれるし、仮に書けなくったって死んだりなんかしないわョ。というか、主人公がそこまで追い詰められているようにも見えないからこそ、お話自体に大した感慨が湧きにくかったのだろうか ?
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