Back Numbers : 映画ログ No.43



【アンジェラの灰】四つ星
アラン・パーカー監督はロンドン出身で、特にアイリッシュ系のバックグラウンドとかがある訳ではないようなんだけど、本作然り【ザ・コミットメンツ】然りで、アイルランドものとなるとどうしてこう慈愛に満ちたドラマを創り上げることが出来るんだろう。実話をベースにしたお話なのに決してだらけた感じにならない演出の妙と、一流の役者の演技その他が相俟って、本作は極上のドラマとして仕上がった。飲んだくれの父親のいるどん詰まりに貧しい家庭だからといって必要以上に陰々滅々とすることもなく、さりとて現実離れした絵空事でその悲惨さを胡麻化すでもない。そのバランスが実に絶妙 ! 今回もやっぱり安心して観られる、さすがの名人芸、である。
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【いつまでも二人で】四つ星
マイケル・ウィンターボトム監督の映画って、ほっといたって完璧なものが作れてしまうが故に毎回どこか冒険しようとして、結果どちらかの方向へいびつに偏ってしまう場合も少なくないのではないのだろうか。でも本作に関して言えば、肩の力をほどよく抜いて軽めのタッチで創られているからこそ、完璧さがいい方向で発揮されて小気味よくまとまった仕上がりになったのではないかと思われた。さりげないけれどもきめ細やかな人物描写で夫婦の危機がごくナチュラルに演出されていて、見てると誰の気持ちもよく分かってしまうところがいい。いわゆる大作の部類には入らないのだろうし、落ちだけはちょっと安易かとも思ったけど、【バタフライ・キス】以降の作品の中では個人的には一番好きである。
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【映画作りとむらへの道】三星半
今回、この映画の公開に併せて企画された小川(紳介)プロダクションと福田克彦監督による三里塚シリーズのドキュメンタリー特集に行ってきた。今まで断片的にしか観たことがなかったので、今世紀中にまとめて観ることが出来て個人的には非常に満足したけれど、この特集が開催期間も一週間と短ければ、たまたま見掛けたチラシ以外目にしたパブリシティもほとんどなし。当然、観客の数もどうも寂しい。うーん何だかなぁ……小川プロという母胎を食い破って独自の歩みを模索した福田克彦監督について検証を進めることはそりゃ必要かもしれないが、その前にっっ !! 小川プロの存在やその仕事の歴史的意義自体についてもっともっと世間(や若い人)に知らしめる努力が、少なくとも今の50倍以上は必要だと思うんだけど。日本の映画史、いや世界の映画史について考える時ですら、彼等はぜぇーーっったいに外せない存在なんじゃないのか。内輪の人達が、フィクションとドキュメンタリーのカテゴリー分けや、政治的であること云々の議論を延々と繰り返すことに終始してるとすれば、そりゃあんまりにも視野が狭すぎるってものなのではなかろうか。
『小川プロ』ひとこと解説 : 日本の高度成長期真っ只中(1960年代の終わり頃以降)の時代に、手塩に掛けた土地で農業を続けたいとの願いから成田国際空港の建設のための一方的な土地の収奪に抵抗した農民達、及びその反対運動の姿をドキュメンタリーとして撮り続けたのが、小川紳介率いる小川プロダクションです。その後、運動のある程度の鎮静化及び永続化に伴い、小川プロは山形に移住し、日本の農村共同体の姿やその歴史的な記憶を見つめ直すことによってもともと農耕民族であった日本人の姿を検証し直す、という方向性にシフトして行きました。(その後、山形で国際ドキュメンタリー映画祭が開催されるようになった経緯には小川プロの存在が関係しています。)一方、長年小川監督のサポートなどを務めてきた福田克彦監督は、その後も一人で三里塚にゆかりの深いドキュメンタリー等を撮り続けました。しかし、被写体や表面上の手法などは違っても、彼等は結局、生涯似たようなテーマを見つめ続けようとしていたのではないのでしょうか。
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【絵里に首ったけ】四つ星
『まいっちんぐマチコ先生』+『白鳥麗子でございます ! 』+大阪系のコテコテお笑い(+元ネタは当然【メリーに首ったけ】、だろうねぇ)、でどうして爽やかな印象すら残す青春感動スポ根映画になるのか、全くもってナゾである。見てる方はただ無責任に笑っていりゃいいのだが、こういうタイプの映画を破綻なく創り上げるのって、実は相当大変なはず。三原光尋監督の確かな手腕は、これからもっと注目されることは必至でしょう ! 本作でコメディエンヌに大開眼した大河内奈々子さんも、今後活躍の幅が広がるんじゃないんだろうか。
舞台挨拶を見ました : これから公開になる某映画を見て大感激したという三原監督は、次回作は『チャーリーズよしこちゃん』とか『バイオニック奥さん』とかにしたいんだって ! (後者が分かる人は確実に30歳以上ですな。)
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【カオス】三星半
予告編などを見る限りもっとワケが分からん系のお話かと想像していたら、案外骨組みのしっかりしたサスペンス仕立てになっていて、思ったよりは終盤まで退屈せずに見ることが出来た辺りに、中田秀夫監督の手腕が感じられた。しかし、いくら般ピーに百万円は大金だとはいえ、あんまりにもヤバソ気な案件には手を出さずにおいておくのが庶民の知恵ってもんじゃない ? あと、ラスト近くでネタバレした後の展開にどうも締まりがないように思われたりもしたのだが……どうやらその辺りは総て、中谷美紀が圧倒的なファム・ファタルであるということを前提にしないと機能しないような作りになっているのではないかと思えてきた。でもって、“演じている”という自意識を強烈に感じてしまうのでどうも昔から今一つ彼女を好きになれない私としては、肝腎なところでどうにも盛り上がれずに、折角面白かったドラマが中途半端に終わってしまったような印象を受けたのだが。
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【キャラバン】三星半
本編は、最初ドキュメンタリーで作ろうという話もあったらしい。確かにその方が数段美しい映画になっていたかもしれない、けど、ストーリーものとドキュメンタリーでは資金の集まり方も何倍も違うだろうし、映画になったとしても日本でこういう形で公開されて目にすることが出来た可能性は非常に低かったかもしれない。お話の方はまぁ普通なんだけど(というか、現実を見据える能力を失って皆に迷惑を掛けまくるワガママ頑固じじいほどキライなものはないのよ、私ゃ ! )、とにかく超絶美しいヒマラヤの風景や大っきくて逞しいヤクの群れだけでも十二分に観る価値ありだから、まぁよしとしようか。
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【グリーン・デスティニー】三つ星
チョウ・ユンファがあんまりにもじじむさい。ワイヤー・アクションがやり過ぎでギャグと化している。しかし何よりも、あの女の子の行動パターンがあんまりにも支離滅裂で、とても一人のまともな人間として扱われているとは思えないところがひどすぎる。人間ドラマには定評があったはずのアン・リー監督が、そんな杜撰な仕事をやっていてもいいのか ? (原作がどうなっているのかは知らないが、改良の余地はあったはず。)チャン・チェン君の登場シーンは良かったし、カンフーなんかはすごく見応えがあったんだけどもねぇ……。
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【グリーンフィッシュ】三つ星
先日公開された【ペパーミント・キャンディー】のイ・チャンドン監督の第一作。よくある青年の転落物語と一味違うのは、ハン・ソッキュ演じる善良な青年が根はそんなにスレないままに終わりを迎える辺りか。彼が夢見た大家族主義的な帰結っていうものが、今現在の韓国ではどのように受け取られるのかというところには興味がある。私自身は、その辺りには人生の回答は転がってないとは思うけど。
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【クロコダイルの涙】二星半
予想通り、お耽美なジュード・ロウは途中まではかなり堪能できる。というか、どこから見てもその目的で作られた映画だとしか思えないのだが、だったらいっそ最後までお耽美を貫いてくれればよさそうなものなのに……獲物の女に惚れてしまった彼は栄養不足で段々白っぽくパサパサになってくるのだが、彼の見栄えが落ちると、どういう訳かお話も混乱して訳が分からなくなってくるのよね。果たしてこれは成就されない愛の孤独を描きたかったのか、はたまた本能を制御できない吸血鬼の残虐性を描きたかったのか ? 本気で好きなら命くらい捧げてみんかい ! って思う私はアナクロなのかもしれないが、でも結局その辺りがどっちつかずで、何か中途半端に映ってしまうのだ。ヒロインの魅力も今一つで、話に余計説得力を欠いているし。ジュード・ロウの美しさには星一つくらい上げたい気はするが、それでこの評価ってことは、彼に興味のない人にはこの映画は勧められないってことですね……。
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【倦怠】三つ星
今までかなりの数の映画を見てきた筈だけど、こいつはもしかしたらワーストワンかもしれないくらいのバカ男である。(しかし、どうしてよりにもよってシャルル・ベルリングが演ってるの ? )自分の周りの世界(この場合は女)が自分の意のままに動かないってことにヒステリックになり、挙げ句の果てに“絶望”するなんて、そりゃ一体、それまでどんな人生を歩いてくればそんなことになるんだ ? これだからフランス男ってば、もう……戯画として見れば、確かにそれはそれとして笑えるんだけれどもさ。
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【サン・ピエールの生命<いのち>】二星半
パトリス・ルコント監督がヒロインを評して曰く、「情熱的だがとてもシンプルで善良な女性だ」……あぁ、正にそこなんだよね。ジュリエット・ビノシュは別に下手とかいう訳ではないんだけど、やはり滲み出てくる雰囲気みたいなものがあるでしょう ? 夫の権力があればこそある意味好き勝手に振る舞って、いよいよ夫が失脚する段になって初めて「私のせいね」なんて……嘘でぇぃ ! 海千山千の彼女は、目先のことに熱中するあまり全体の流れが見えなくなってしまうような女性にはどうしたって見えないのだ。このストーリーとヒロインにリアリティを持たせたかったのなら、せめて他の女優さんを探すべきだった。
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【シャフト】四つ星
あのテーマソングが画面から流れてくると、やっぱりゾクゾクしちゃうねーっ !! 一部の70年代フリークの間では本作は「真面目すぎる」とあまり評判が芳しくないようだが、70年代のオリジナルにそれほど思い入れが無いせいか、私はこっちの方が断然好きなのだが。サミュエル・L・ジャクソンというこれ以上ないくらいの主役を迎えているところといい、オリジナルの甥という微妙な設定といい(息子とかじゃない辺りが)、リチャード・ラウンドツリーをオリジナルの役柄でちゃんと出してるところといい、スコアもオリジナルと同じアイザック・ヘインズに頼んでいるところといい、オリジナルに対してこれ以上無いリスペクトは払っているでしょ ? で、エイズ問題にアフロ・アメリカン文化再検証の80年代を通過した現在、必然的にキャラクター的にもテーマ的にも昔よりもストイックさがあって当然のはずだし、今の時代にこの作品を創り直すとしたら、一体これ以上どういう創り方があるというのだ ? お話の方も、結構二重三重に入り組んだ設定で、ジョン・シングルトン監督の熟練した手法じゃなきゃこうスッキリと面白くは見せられなかったはず。敵役の一人のジェフリー・ライト(【バスキア】を演っていた彼だ ! )のキレぶりも一見の価値あり ! で、世紀末の【シャフト】は、私にはこの上なくカッコよかったんだけどなぁ。
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【十五才・学校IV】三星半
その昔、当時はまだそれほどポピュラーじゃなかった大検という制度を知っていたら、私は絶対に高校を中退していただろう。日本の学校教育制度の矛盾なんてそれこそ昔から山のようにあったと思うが、最近の(特に公立の)学校の教育環境は一段と悪化しているやに聞く。不登校児の少年が旅して成長する、行く先々の総ての場所が学校だという主張に特に異を唱える気はないし、さすが山田洋次御大が手懸けているだけあってエピソードの組み立て方とかいちいち巧くて面白く(周りの人が皆いい人すぎる ! というきらいはあれ)、きっとそれなりに感動することも出来るのだろう。でも、最後には本物の学校へ行くことになってめでたしめでたし、ってラストって ? 学校なる場所自体の問題については、主人公の断片的かつ個人的なグチとして出てくるのみで、肝心な部分に踏み込んで語るのは巧妙に、一切避けられている気がするのだ。これは今現在の学校の在り方を描いた映画じゃない、という言い方をすることは出来るのだろうが、それなら、ただ漠然と安易に、いわゆる学校なる場所に帰っていくようなオチにすべきじゃないと思うし。不登校の問題を個人の在り方の問題に還元してしまうような内容に結局のところなってしまった映画の企画に、大手の会社がこぞって参加し、文部省も喜んで推薦して満足している、なんて構図を想像すると、私はちょっとぞっとしない。映画の出来自体からすれば少々辛い点なのかもしれないが、10代の頃には学校制度そのものについて死ぬほど言いたいことがあった立場からして、今回は敢えてこの点数で。
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【趣味の問題】三つ星
自分と恋人が所詮決して同一の存在にはなれないことを世界最大の悲劇みたいにうだー、うだーと思い悩むのは、フランスの恋愛映画にありがちなテーマのような気がする。では、自分と全く同じ感覚を持った“他者”が現われる(同性だけど)っていうこのドラマは、もしかして究極の恋愛映画ってことになるのか ? うげー。そんなもん、フランス人じゃなきゃ絶対に創らなさそー。でもそんな根本的に不毛な問いかけに人生の時間を費やすこと自体、私は出来れば避けて通りたいのだけど。
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【新・仁義なき戦い。】四つ星
いわゆる続編やリメイクものが許せるかどうかは、私の場合、オリジナルへの敬意がきちんと払われているかどうかというのが、一つの基準としてあるように思う。何故阪本順治監督がこのような企画に手を出したかと言えば、この冠なら金を出してくれる人がいたという事情に他ならないのだろうが、【傷だらけの天使】といい本作といい、オリジナルとは全く異なった自分独自のテイストのものを敢えて打ち立てようとするところが、監督なりの最大級の敬意の表し方だと思われるのだがどうだろう。70年代にオリジナルが出来た【シャフト】同様、前作に思い入れのある人からはあまり積極的な誉め言葉は聞かないけれど、私はオリジナルは随分後の時代になってオベンキョウで見たクチだからそれほど思い入れはないし(確かに名作だし面白いんだけど : といいながら、結局のところは下らない地位争いで無駄くさい殺し合いをしてるっていう話の骨格は、敢えて重ね併せてあるようなのだが)。【傷天】の経緯を見てたらこんなふうな出来上がりになることもある程度想像がついたし、青春が逡巡しちゃってる【傷天】よりはイカツいキャラがぶつかり合う本作の方が好みだし。日本ももう終わりや、とつぶやく子供が出てくる最初のシーンからして、私の中の日本なる国の原風景とも重なって(というか、最初から終わっていた腐れ切った国だったけど)いきなりすっごいシンパシーを感じてしまったのも、監督の思うツボなのだろう、とはいえ、これはこれとして完璧に成立している本作を、私はかなりの名作だと思ったんだけどな。でも一つだけ不満が。これだけの超オールスターキャストでこの終わり方だと、もう続編は創ってもらえないってことだよねぇ。
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【SWING MAN】三星半
思ったよりずっとしっかりとした正統派の語り口。オチはちょっと弱かったような気がするのけれど、ごく普通の表情の中にも徐々に狂気をみなぎらせていく木下ほうかさんは正に彼にしか出来ないハマり役で、結果、手応えのある出来の映画になっているのが頼もしかった。Vシネ等で活躍しているような知る人ぞ知る俳優さん達の日常が垣間見えるのも面白い。
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【スペース・カウボーイ】三星半
じじい同士のナイスな合いの手がファンキーで笑える、地上のシーンはおおむねすごく良かった。でも宇宙に行った途端、まるで重たい宇宙服を着込んでしまったかのようにテンポが遅くなってダレてしまい、周りの出来事もシールドの向こう側の事柄のように真に迫って来なければ、危機的状況になってもどうにも緊迫感が盛り上がらなかったりするのが残念だった。しかし、こんなじじいムービーにすら無理矢理若い女とのロマンスの要素を入れるってどうなのよ。あと、最近の宇宙映画って、必ず重要人物の誰かを殺さないと間が持たないのかしらねぇ。
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【スリ】四星半
アル中に対する感慨は書き切れないので省くことにするが、そんな袋小路のくびきを自ら断ち切ってまでスリとしてのプロのプライドを守ろうとする、原田芳雄さん演じる主人公の気迫が凄まじい。それを追う石橋蓮司さん演じる老練な刑事とのおっさん対決には静かな火花が散る散る。ラスト近くのシークエンス、特に遠ざかる原田さんの後ろ姿のシルエットなんて激シブ ! 久々に、映画における気骨というものを十二分に堪能させてもらえた気がする。で、こんな超おっさん映画にあって、彼等のオーラに取り込まてしまうことなく独自のペースと佇まいをちゃんとキープしている柏原収史さんと真野きりなさんがまたエライ。彼等の存在がこの物語に同時代的なテンポと風通しの良さを与えているからこそ、この映画は古臭い印象に陥ることを免れているのだと思う。
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【タイタス】三星半
『タイタス・アンドロニカス』 ? へー、シェイクスピアにそんな戯曲があったんだ、知らんかった。シェイクスピアの話って予め内容が分かっているから普段気がつかないだけで、結構粗野で荒唐無稽な要素もあるのかもしれないと気づかせてくれる題材のチョイスや演出の切り口、意匠のセンスなんかは確かになかなか面白くて(でも、現代的な風物を古典に取り入れること自体は、例えばデレク・ジャーマンなんかも【カラヴァッジオ】でやってたように、特に目新しくはないと思うが)、『ライオン・キング』の舞台演出家ジュリー・テイモアの力をたっぷりと堪能させてくれる。ただ、映画ならではのダイナミズムがあるというよりは、やはり舞台的な発想で作られているなという画面の平坦さを感じないではなかったのが惜しいか。オーラスに至る前の大団円も、演劇なら結構無理がないのかもしれないが、映画にすると笑えるほど無茶苦茶だよなぁ、などと思ったりしたのだが。でもま、いろんな意味でお勉強にはなりそうだから、たまにはこういうものを観てみるのも面白いんじゃないのだろうか。
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【DADDY】三つ星
想像を絶するような由緒ある名家という環境下の、何もかもがあまりにも支配的な父親(性的にも ? )の元で育ったら、屈折の三つや四つは簡単に抱え込んでしまってもちっともおかしくないに違いない。そんなアーティスト、ニキ・ド・サンファルのオブセッションをイメージ映像とモノローグの連続で紡いだ1972年製作の本作は、一昔前にはよくあったに違いないいかにもなアートフィルムの典型といった趣き。最近はこういった映画が創られること自体難しいものがあるだろうから、何だか懐かしいような気はするのだが、彼女に興味がある人以外には、いきなりこういったものを鑑賞するのはやはりちとキツいものがあるのでは。ということで、本編のテキストとして、一昨年公開された傑作ドキュメンタリー【ニキ・ド・サンファル-美しい獣】を併せて観てみることを是非お薦めします !
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【チャーリーズ・エンジェル】三星半
アクション満載、カンフー満載、お色気満載、コスプレ満載、80年代の懐メロ満載(ス、スパンダー・バレエですってェ !? )……で見どころは満載。3人の新エンジェル達のバランスもいいし、全編、退屈はしないんだけど、良くも悪くも低年令向けのマンガみたいかも。自分の年のせいもあるんだろうけど、昔のエンジェルってなんかもうちょっと大人っぽくって、子供心にはそういうところが魅力的だったような気もするんだけどなー。
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【弱虫<チンピラ>】三星半
主演の北村一輝さんはインタビューで「はっきりとした起承転結があるような話じゃないので、全体のバランスを考えて群像劇の中のひとりという感じで受け身の姿勢で演じた」というようなことをおっしゃっていた。その通りこれは、オチも弱過ぎれば、カタルシス感にもちと欠けていて、望月六郎監督が大好きな私でもちょっとばかりもの足りない感じが残る映画なのだが、その代わり(と言ってはなんだが)登場人物の魅力ではかなり見せてくれる。今回オイシイとこ取りの頼れる兄ィ・田口トモロヲ、姑息な小心者ガダルカナル・タカ、チョイ役では麿赤児、大杉漣、竹中直人etc.……キラ星の如くの配役だが、中でも、色ボケの痴呆オヤジなんてとんでもない役を迫真の演技で演じておられた長門裕之さんは特筆しておきたい ! そして、そんな登場人物達の要の位置にいるのがやっぱり北村さんなのよね。すべての人物が引き立っているのは、彼が計算して抑えた演技をしていればこその結果でしょう。ふっふっふっ。(←ただのお馬鹿なファン)
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【独立少年合唱団】三星半
緒方明監督は本作の主人公達と同年代らしいところからして、監督にとっては学生運動の時代の少年達というのはどうしても消化しておきたいテーマだったのかもしれない。しかし、そのコンセプトを聞いた時にどうもピンとこなかったのと同様に、実際に映画を観てみても、やはり私には今一つしっくりとこなかったのだ。少年達の心を丹念になぞり、非常に丁寧に手堅く創られているのは分かるのだが、それでも彼等の状況と私自身の人生に直接の接点がないのは如何ともしがたいような気がする。という訳でこの映画は、当時の学生運動の世界的なムーブメントに何かしら引っ掛かりがある人にしか遡及しないのではないかと思うが、そんな中でもまた特にジャパニーズ・ローカルな展開の内容をベルリンの審査員達にしっかり理解させて賞を取らせたとすれば、仙頭武則プロデューサーは噂に違わずよっぽど根回しが巧いのではないのでしょうか。閑話休題。滝沢涼子さん(ファンなんです ! )の確固たる存在感、その目の光のまっすぐな輝きはやっぱり良い。世のプロデューサー様、監督様、彼女をもっと使って差し上げて下さいな !
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【閉じる日】二つ星
作家っていうのはもっとこう、どこか取り憑かれているような人種なのではないかと思う。で、あの主人公の女の人ってどうも作家には見えないんだよね。そこのところはさて置くとしても、近親相姦というモチーフを使ったすごく閉塞的な展開といい、女の人の造形の仕方といい、どうも全体的に3~40年前(60年代~70年代)のセンスといった感じ。監督は監督の感性で誠意を持って創っていらっしゃるんだろうけど、私にはどうにも肌に合わないのは、いかんともし難いのだが。
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【ノーフューチャー】三星半
かつて【グレート・ロックンロール・スウィンドル】も【D.O.A.】も見たけれど、この映画では更に、セックス・ピストルズのこれまで知らなかった側面をいくつも見せてもらえた気がした。ジョニー・ロットン(ジョン・ライドン)って思っていた以上に真摯で真面目に表現に向かい合っていた人なんだな。でも『アナーキー・イン・ザ・UK』を歌っていた頃の輝きが失われ、本当にうざったそうに『ノー・ファン(面白くねぇんだよ ! )』と歌う解散寸前の頃の彼の姿は痛々しい。しかしそれ以上に、ピストルズの熱狂的なファンだったというシド・ヴィシャス少年(少年でしょうよ、あれは ! )がバンドのメンバーになり、状況に翻弄されるがままに死に向かっていく姿は、あまりに無知で愚かしくとも、あまりに無力で無防備なので胸が痛む。そしてジョニーは、奴等は彼の死までカネに変えやがった ! と吐き捨てる。所詮、巧く立ち回る者だけが肥え太るのだ。(「彼等は私が創った芸術作品だ……Fuckoff, Malcom ! 」)あれから20年以上経ち、パンク・スピリットは拡散して一般に浸透したからこそムーブメントとして終息したのか、それとも、飼い馴らされてシステムにすっかり吸収され、今では最早残骸しか残っていないのか。その戦いの夢の跡って、何だか涙無しには見られない。
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【バッドムービー】三つ星
どこの世界にも、勿論韓国にも、鬱屈した若者っているものなのね。この映画では、そんな彼等の気分を、まるで落書きを思わせるような破茶滅茶な手法の組合わせで再現しようとしている。韓国にもこんな実験的な作りの映画ってあるのだな。初めて見たような気がする。
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【花を摘む少女と虫を殺す少女】五つ星
矢崎仁司監督自身が舞台挨拶で、「途中でお手洗いに行っても眠っても構いません。一瞬見逃したからって分からなくなってしまうような作りの映画にはなっていませんから。」とおっしゃっていた。だから気軽に観に行こう ! つまんない映画を2本観るよりは絶対におトクだし、ゆったりとした時間の流れの中で、他ではまず得られないような映画体験が出来ることだけは絶対に間違いないから。最初は一見ばらばらなそれぞれのピースが噛み合わさった時に立ち現われてくる、紛れもない映画の姿が、この上もないほどに美しい。ものごとが在る姿をあるがままに捉えようとした、空気の粒子の一粒一粒に溶け込んだかのような視線。こんなのを創れるなんて人間業じゃない。これは天使の視線だ ! 今世紀中に、この映画に出会えてよかった。次の世紀もまた映画の力を信じられるような気がしたから。
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【漂流街・The Hazard City】三つ星
とりあえず、吉川晃司の映画復帰は吉報だとは思ったが。渋谷だの新宿だのの風景がいかにも三池崇史監督作品らしくパッケージングされてるものの、監督らしいギラギラした匂いのようなものがどうもいまひとつ感じられないような。過激な描写ばかりが三池監督の色を決定づけている訳じゃないだろうが、縛り系のフィギュアがせいぜいというのではいかにも弱く、やはり大手からの注文仕事となると有形無形の制限が色々と掛かってしまって、そうなると三池監督の仕事っていつも今一歩な感じになってしまうよなぁ、なんてことを思ったりしたのだが。あと俳優さんの方も、ここで徒花散らしてやるぜ ! みたいな、Vシネのような場であればこその熱気や執念のようなものが、もしかすると少ぉし足りなかったような気もするのだけれども。
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【BLOOD : THE LAST VAMPIRE】四つ星
タイトにまとまった現代の吸血鬼譚にぴったりの、圧倒的な映像のクオリティ。48分という長さも「アレは一体何だったのか」落ちには丁度いい。工藤夕貴が主人公の声をしているのはセリフの8割方が英語だったことと無関係じゃないだろうが、さすがにきっちりいい仕事をしている。総じて、アニメーションの地平線をまた一つ拡げる、世界に誇るに足る出来である。お子様向けのディズニー以外のアニメも見られる国に生まれてきて本当に良かったな。いや、ディズニーにはディズニーの役割がきっとあるんだろうけど。観客の多くがアニメに詳しそうな濃ゆい感じのお兄さん方で、しかもレイトショーとなると更にその空気が凝縮されているような気配はあるけれども、それでもめげずに一見しておく価値は、それなりにありそうである。
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【ブラッドシンプル/ザ・スリラー】四つ星
お恥ずかしながら【ブラッドシンプル】は今の今まで未見だった。そんなんではコーエン兄弟ファンを名乗る資格はないっすね、ええ。静かな中にも異様な緊張感を湛えた【バートン・フィンク】、歯車が少しずつ狂っていって予想もつかない悲喜劇になる【ファーゴ】など、コーエン作品の原点は確かにここに存在していた。まだインディーズの匂いも色濃く残っている、今なお新鮮な面白さがある切れ味鋭い秀作である。
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【ペパーミント・キャンディー】四つ星
イ・チャンドン監督によると、本作は、正に自殺しようとしている男がどのような過程を経て全ての希望を失っていったかを遡り、最後にはまだ純粋さを擁していた時代にまで辿り着く時間旅行の映画なのだという。その一人の男性の逆順の歴史に、現代から20年前までの韓国の人々のメンタリティや風俗の変遷が重ね合わされ、そこには光州事件という悲劇を通過する前の時代の“無垢な”韓国の姿までが映し出される。その出来栄えは見事と言う他ないし、20年間の逆回しの人生を一人で演じ切った(しかも映画の流れと同じく中年から若者になっていく“順撮り”だったという……)ソル・ギョングのもの凄さにはただただ驚嘆するばかりだ。しかしね。彼がどれだけ深い心の傷を負ったのかなんてのは他人には測りようもないことなのかもしれないが、そこの地点に拘泥するあまり結局全てを失ってしまうなんて、あんまりにもあからさまに後ろ向きすぎるから、はっきり言って腹立たしかったりもするのだが。「人間は生まれてきたからには幸せになろうと努力する義務がある」というのは私の友人の至言である。イノセンスを失ったことを嘆いている場合じゃないだろう。
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【ラヴァーズ】三つ星
男が国外退去処分寸前のユーゴ難民、とかいった筋書きは一応あるけれど、基本的には実在の恋人同士のうだうだした日常をそのまま切り取ってきて収めたような感じ。それが、ドグマ95式の手法のせいか、妙に新鮮で瑞々しい印象に映る。このような題材に、敢えてそういった方法論を採用した辺りには、ハリウッドとは離れた地点であくまでもヨーロッパ的な独自の道を行こうとしているジャン・マルク・バールのセンスが感じられるような気はした。けど個人的には、やっぱりこのテのうだうだした話は好きじゃないんだよなぁ、うーん……。
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【悪いことしましョ ! 】三星半
くるくる変わる場面にコスチューム、安定感のある筋書き。さすがにハロルド・ライミス印のコメディは何もかもがうまく出来ていて安心して見られるんだけど、あまりにもお約束通りな分、少々パンチ不足かなぁ……。でも、悪い奴じゃないんだけど何かテンポが噛み合わず、人に受け入れられようと的外れな努力をすればするほどうざったい、なんて難しいキャラクターを、そこはかとない悲哀を漂わせつつさっくりと演じて笑わせてみせるブレンダン・フレイザー君のセンスってば抜群 ! 本作では彼を見るだけでも充分に価値があることでしょう。個人的には、エリザベス・ハーレーの今時珍しいくらいの正統派美人顔もかなり好きだしね。
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