Back Numbers : 映画ログ No.49



【アリーテ姫】三つ星

一言で言うと :
お城の塔に閉じ込められ“大切に”育てられているアリーテ姫だが、本当は自分自身で色々なことをやってみて生きていることを実感したいと考えている。そんな態度が姫君らしからぬと思ったお城の人々は、彼女をおとなしくさせる魔法を使った魔法使いの元に彼女を無理矢理嫁がせるのだが……。
ダイアナ・コールス原作の絵本『アリーテ姫の冒険』をスタジオジブリ出身の片渕須直監督がアニメ化。
かなりよかったところ :
淡い色遣いの丁寧な画面には、創り手の誠意のこもった姿勢が充分に感じられる。
人間が自分の手で何かを産み出すことの出来る職人仕事のような能力自体が本来魔法的なのであって、いわゆる魔法というのはそのようにして先人が獲得した技術に過ぎない、だから、今まで手づから創り出したことがないものを魔法で新たに創り出すことは出来ないのだ、(未熟な魔法使いは先人の遺産を食い潰しているだけなのである、)といった着想は面白いと思った。
ちょっと惜しかったところ :
かように魔法の正体についての面白い考察が垣間見られながら、結局、人間の作り出す魔法もいわゆる普通の魔法もごっちゃに呈示されているので、論点が整理されず着想が弱められているのではないかと思われた。
あまりよくなかったところ :
姫は冒頭から自分自身の手で何かを創り出す行為に憧れているのだが、お話は彼女が囚われの身の上から抜け出すところまでで終わってしまっていて、それ以上の段階には至らずじまいである。それではちょっと中途半端なのではないだろうか。
上記のような、魔法とは何かとか、姫君は何をしたいのかとかいったことはほとんど台詞の中で抽象的に説明されているので、分かり難くなっているきらいがあるように思われる。その辺りをもっともっと具体的なエピソードに消化していくような工夫は必要なのではないのだろうか。
コメント :
筆者は以前に本編の原作を読んだことがあり(珍しいことに)、アリーテ姫が自分の持てる智恵と能力を駆使して能動的に道を切り拓いて行こうとするところにワクワクしたものだ。女の子がしたいことを自らやろうとするのは、現実の世界ではお蔭様で当たり前のことになりつつあるけれど、結構トラディショナルな童話の世界ではまだまだ珍しいことだから。けれども、今回のお姫様はもう少し沈思黙考型というか、自分の身に降り懸かる火の粉を受けて返すのが精一杯で、原作ほどの積極性があまり感じられなかったのが、私には少し残念に思えた。そこに引き摺られてしまったために、点数が少し辛目になっているかもしれません。

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【A.I.】四星半

一言で言うと :
母親を一心に愛することをインプットされながら捨てられてしまった子供型ロボット・ディヴィッド(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は、人間になりたいと強く願うのだが……。
すごくよかったところ :
愛することが出来るようになるというのは、逆に愛されないことや愛せないことの痛みを知ることなのではないか。だからって、機械をわざわざ痛がらせるように仕向けてどうするんだ。(物語の最初にその辺りを示唆するシーンがある。)エゴイスティックにもほどがあるんじゃないか。神様か何かのつもりなのか。
しかも、人間なら自分に刷り込まれてしまった思い込みを(あるいは自分をボロボロに破壊してでも)解除することが出来るかもしれなくても、機械は自分で自分をリセットできないんだよ !? 何でわざわざそんなものを作り出すんだ ! 酷すぎる !!
痛さを感じるかどうかが一つの物差しなのかもしれなくても、痛みも感じず人間の行動パターンをなぞっているだけであるはずのテディ氏やジゴロのジョー(妹が“メカ・ジュード”と命名)、“ジャンク・ショウ”で壊されるロボット達にも、何かの“生命”が宿っているように感じられないか ? そのどこに線引きをして、どこからを“生命”と定義することができるのだろう ?
例えば日本には、長い年月を経たモノには生命が宿るという考え方が昔からある。で、もっと若いモノには“まだ”生命が宿っていないのだとしても、無遠慮に壊してしまったりすることをかわいそうだと感じたりすることはない ? 例えお茶碗だとて“壊してしまってごめん”とかどこかで思ったりしない ? しかるに、所詮は機械だから、という扱いを受けるディヴィッド君を初めとするロボット達の命運には、なんでそんなことしやがるんだ ! かわいそう過ぎる ! の嵐を禁じ得なかった。(この冷血人間のワタクシが ! )
あるいは、モノであるにしろ生命であるにしろ、存在する、ということ自体に、ある種の哀しさがつきまとうのだ。それでもディヴィッド君は、僅かな救いを求めて行動しようとする。それがまた“生きている”ということの証左なのだろうか。でもそんな救いにもならないような救いでいいのか !? 全く無いよりはいいのかもしれないけれど……。
かようにこれは、実は相当残酷かつ身も蓋も無い物語だと見た。なので、本作を観る際にはそれなりに覚悟が必要なのではないかと私は思う。
あまりよくなかったところ :
筆者は「これこそがスピルバーグの代表作になる映画だ ! 」とかなり盛り上がっていたのだが、ウチの妹は「どうしようもない駄作だ」と言って憚らない。通常、姉妹の間で映画の好みはほとんど一致しているのだが、ここまで意見が完璧に割れてしまったのも珍しかったりして。こりゃ面白い。
ちなみに妹によると、「筋はどこを切ってもステレオタイプな上、どのキャラにも全く感情移入できない」とのこと。筋に関してはその通りだと思うけど、むしろそれでいいお話なんじゃない ? というのが筆者の苦しい弁明。キャラに関しては……厳密に言えば、私もキャラクター達に課せられた運命やその痛みに感情移入しているのであって、キャラクター自体がどうとか思っている訳ではないような気がするんだけど……難しいなぁ。
ということで、皆様の一人一人がどのようにお感じになるかというのは、結局各自で御覧になった上で決めて戴くしかなさそうです。
コメント :
全体のモチーフは『ピノキオ』だということだが、導入部は『鉄腕アトム』、意匠には原作者のキューブリックのテイストを少ぉし振り掛けて、仕上げはアーサー・C・クラーク、といった感じかな ? ちなみにキューブリックは、アメリカで放映されていた『鉄腕アトム』のアニメを見て当時製作中だった『2001年宇宙の旅』の美術デザインを手塚治虫にオファーしたことがあるそうだし(手塚氏は超多忙のため断らざるを得なかったそうだが)、アーサー・C・クラークにも昔、脚本の手伝いを依頼したことがあるのだそうだ。
人間型ロボットの研究は世界最先端を行っているという日本だが、その牽引役となったのは、かつて『アトム』を見て感動した世代の研究者だという。手塚治虫のおかげで、“ロボットと人間”というのは日本の人には入り易いテーマになっているのではないだろうか。【メトロポリス】の際に触れた『火の鳥 復活編』を重ねてお薦めしておきます。

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【ELECTRIC DRAGON 80000V】四星半

一言で言うと :
電気と感応し爬虫類と心を通わせる男、竜眼寺盛尊(浅野忠信)。電気を修理し怪電波をキャッチする謎の男、雷電仏蔵(永瀬正敏)。二人の宿命の対決の時が迫る !
すごくよかったところ :
停滞する1970年代の終わりから80年代の初頭の日本映画界に、【狂い咲きサンダーロード】【爆裂都市 Burst City】といった暴走系のパンキッシュな作品で殴り込みを掛けた伝説の映画監督・石井聰亙の真骨頂はコレだ !
“2000万ボルトの俺は8万ボルトのお前とは格が違う ! ”“8万ボルトも250回で2000万ボルトだ~ ! ”……ああもうっ、あんまりにもおバカ ! ファンキー過ぎて涙がちょちょ切れる !
大体、爬虫類系の盛尊さんに(“トカゲの王”と呼ばれたドアーズのジム・モリソンへのリスペクトであることは明白)、あまりにもありがたい風貌でお婆ちゃんにまで拝まれる仏蔵さんですぜ ! こんな映画のストーリーがどうとか言っている人は、映画の見方を根本的に考え直してみた方がいいと思うよ。
監督率いるパンクバンド・MACH1.67(浅野・永瀬両氏も参加)がガンガン曲を掻き鳴らす中、これは勢いだけで突っ走る映画みたいに言われているが、実はモノクロ画面の美しさやサウンドのミキシング技術の高さなど、かなりハイレベルなテクニックに裏打ちされてもいたりする。静と動の対比のさせ方も昔とは較べものにならない切れ味。酸いも甘いも噛み分けた石井聰亙監督が、昔より一回りデカくなりつつまた同じ地点に立っているというのが清々しいじゃないかぁ !!
監督さんへの思い入れ度 : 95%
コメント :
好きな人と嫌いな人に分かれる、というよりは、この映画は己れの人生に石井聰亙を必要とするか否かで評価がキッパリ分かれてしまうのだろうと思う。私は石井聰亙の最初の衝撃をオンタイムで目撃した世代な訳ではないのだか、私の人生には彼と山本政志監督はとっくに必須になっているので。

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【王は踊る】三星半

一言で言うと :
母親とその取り巻きに政治の実権を握られている若き日のルイ14世(ブノワ・マジメル)は、得意な芸術の分野から権力を体現しようと試みて、音楽家のリュリ(ボリス・テラル)や劇作家のモリエール(チェッキー・カリョ)を寵用する。リュリはルイに全身全霊の愛情を捧げるが、体力の衰えからダンスの出来なくなったルイが実際の権力を掌握していくのと平行して、徐々に顧みられなくなっていく。
【カストラート】のジェラール・コルビオ監督によるコスチューム・プレイ。
かなりよかったところ :
コスチューム・プレイは、昔の意匠を再現するという難題をクリアした時点でかなり安心してしまい、それ以上の目新しさというものを打ち出すのは案外難しいのではないだろうか。そういったジャンルなのにも関わらず、ジェラール・コルビオ監督が毎回新機軸の切り口を見せてくれるのには感心する。
ちょっと惜しかったところ :
太陽王と言われた絶対君主のルイ14世がダンスの名手だったとは知らなかったけど、ブノワ・マジメル君が吹き替えを拒んで一生懸命に練習したというその珍しいバロック・ダンス(アイルランドのリバーダンスみたいにほとんど足だけで踊るダンスで、ステップが超難しいので見た目よりずっとハードなんだそうだ)、折角だからもっとじっくり見せて欲しかった。カットバックがインサートされ過ぎててぶつ切れになってしまい、ちっとも落ち着いて見れかったんだもの。
あまりよくなかったところ :
話法が我田引水というか、結構唐突で強引だったりしない !? 出てくる人物やその行動について不親切なくらい説明不足だったりするところもかなりあるので、注意して観ていないと作者の意図を見失ってしまいかねない部分もあるかも。
コメント :
渋谷で1、2を争うおシャレな映画館と言われているシネマライズには珍しく、お客さんにはかなり年齢が高めの人も多く、しかも暑い最中にも関わらず長い行列ができるほどの結構な混み具合だった。何がそこまでお客に訴求しているのか筆者にはよく分からないのだが、【カストラート】の時と同じく本作もかなりヒットする可能性はあるかも。

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【案山子 KAKASHI】四つ星

一言で言うと :
伊藤潤二(『富江』他)原作のホラー。行方不明の兄を探しに寒村にやって来たヒロイン(野波真帆)の運命は…… ?
かなりよかったところ :
昔から、人型には魂が宿るという。おどろおどろしい祭りに絡んだお話がよくまとまっており、伊藤潤二ものでは随一の出来との評判に納得。
【愛を乞うひと】に引き続き野波麻帆さんが好演。これからかなり期待できる人かも。
柴咲コウさんファンの方には、ホラーな彼女も一興かも。
個人的にスキだったところ :
松岡俊介さん。
監督さんへの思い入れ度 : 25%
コメント :
松岡俊介さんは、TVでお馴染みのYOUさんの旦那様。私は望月六郎監督の【極道懺悔録】以来のファンなのだが、村上淳さんとキャラが少しかぶっている(!?)のか、これという役がなかなか回って来ないようなのが残念。それでもここのところ少しずつ出番が増えているみたいだから、これからもっともっと活躍して戴けるといいな。

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【ギフト】四つ星

一言で言うと :
夫の死後、持って生まれた霊能力での占いで家計を支えながら三人の子供を育てているヒロイン(ケイト・ブランシェット)が巻き込まれた事件とは。“gift”には“贈り物”“特別に授かった才能”という意味がある。
すごくよかったところ :
他人には見えないもの、また見たくも無いような人間の醜い部分が見えてしまう。だからといって、それに見合った解決能力が必ずしも与えられているとは限らないんだよね。卓越した霊能力者でありながら中身はごく普通の人間であることの苦しみ、また、そんな自分の状況に懸命に向き合いながら地に足を着けて生きていこうとする一人の人間の姿が描かれているところがいい。
脚本にはビリー・ボブ・ソーントン(監督・俳優としてより、最近はアンジェリーナ・ジョリーの旦那として名を馳せる)が参加しているそうだ。この人、やっぱり凄い。
こんなヒロインの姿が見事に血肉化されているのはケイト・ブランシェットが演じればこそ ! 同年代ではNo.1かもしれない彼女の演技は見逃せない。
ホラーというより、そういったドラマの部分を楽しむことをお薦めしたい。
個人的にスキだったところ :
ヒロインの友人役、ジョバンニ・リビシに注目 !
その他のみどころ :
かなりイメージの違う役で出ているキアヌ・リーヴスとヒラリー・スワンク。
監督さんへの思い入れ度 : 25%
コメント :
サム・ライミ監督って、フィルモグラフィを眺めれば眺めるほどワケワカラなくなるお人だが、【シンプル・プラン】や本作のようなここ最近の作品は大変好み。こういった路線のものをもっともっと創っていって欲しいものです。昔ながらのファンの人は反対するかもしれないが。

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【夏至】四つ星

一言で言うと :
ベトナムのハノイに暮らす三姉妹(グエン・ニュー・クイン、レ・カイン、トラン・ヌー・イェン・ケー)それぞれの、結婚生活や不倫や恋愛などについて。
かなりよかったところ :
じっとりと汗ばんだ肌に髪の毛が貼りつくような、いかにも湿気をたっぷりと含んでいそうな官能的な画面。13歳以降はフランスで育ったという特別な経歴を持つトラン・アン・ユン監督の描く故国ベトナムの空気は、多分世界中の他の誰にも真似できないものだ。
特に本作では雨や湖や、洗い物をする時などの様々な水の表情、また、緑の美しさとの兼ね合いが印象的だったように思う。
個人的にスキだったところ :
ベトナムの朝の爽やかだけどどこか気だるい雰囲気に、ルー・リードのまったりした曲がこんなに合うとは思わなかった !
コメント :
でもお話自体は割とどうでもいいような感じというか、監督はただただ、美人三姉妹がゆったり、たゆたゆと無駄話をするような画面を撮ってみたかっただけなんじゃないのだろうか。とはいえ本作は、監督の今までの三作の中では最も完成度が高いように思われるし、私もまぁまぁ好きだ。

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【けものがれ、俺らの猿と】三つ星

一言で言うと :
町田康原作の小説を、ミュージック・クリップ界の異才・須永秀明監督が永瀬正敏を主演に迎えて映画化。
かなりよかったところ :
もしかしたらそういう人もどこかにいるのかも、と一見思わせながら、でもその存在感の根っこがどこか奇妙にぐにゃりと曲がっている人達のオンパレード。その人達相手に感じる「どいつもこいつもふざけやがって」的な違和感を、最初から最後までくまなく構築できているのは立派かも。
あまりよくなかったところ :
でもそういったストレス感がどこまでも溜まっていく一方なだけのシチュエーションって、見てる側にとってもあまり気持ちのイイものではないんだよねぇ。
コメント :
鳥肌実さんのようなタイプの人って正直私はあまり好きではないのだが、こういう使い方だと確かに他の追随を許さない独自の存在感が出るんだな、と感心。そういったキャスティングのセンスとか、画づくりのセンスとかいった感覚では、監督はやはり独自のものを持っているのだろうと思う。
ただ、劇場用映画という時間的な枠組みがある程度設定されている中では、見る人を意外な感覚に放り込んで何がしかの衝撃を与える、ということに加えて、見終わった後にそれなりのカタルシスがなくてはいけないと、常々思っているのですが。ラストの永瀬君の壊れっぷりだけでは、それまでのストレスをすべて吹っ飛ばすような大した大団円にはならなかったような気がしたのが残念。

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【ザ・コンテンダー】四つ星

一言で言うと :
米大統領(ジェフ・ブリッジズ)が急死した副大統領の後継に指名したのはベテラン女性上院議員(ジョーン・アレン)だった。彼女のライバルと裏で手を組んだ下院の有力議員(ゲイリー・オールドマン)は、彼女をスキャンダルで失脚させようと画策し……。
すごくよかったところ :
女性議員を失脚させようとあの手この手で揺さぶりを掛ける下院有力議員。でもあからさまにやってしまうと自分にもマイナスイメージになるから、裏では汚い手を色々と講じつつ、表面上ではいかに言葉を弄して巧みに攻撃するかがカギとなる。(そうそう、大人ってこうやってイジワルするものなんだよね。)それを受けて立つ女性議員との、表向きは慇懃無礼な丁々発止のやり取りも、また見応えあり。
ビル・クリントンは、在職中にセックス・スキャンダルにまみれたアメリカ史上初の大統領になった。アメリカの議会・マスコミの加熱ぶりに対して、ヨーロッパ諸国(特にフランスなど)では「家庭や個人の問題に国を挙げて大騒ぎするなんて反応がお子様」と冷笑的だったという。本作はクリントン以降の時代の話であることがはっきりと明示されているのだが、その辺りを気にしながら観てみるのもまた一興かも。
大統領・女性議員と彼女のライバルは民主党。敵役の下院有力議員や女性議員のパパは共和党(彼女も元は共和党員だったという設定になっている)。両者の政策にあまり違いはないとも言われるが、共和党の方が多少保守的で、民主党の方が多少リベラルとされている。その辺りの立場の違いを気に留めながら観てみるのも面白いのでは。
こんな骨太のドラマを見応えのあるものにしている役者さん、みんな素晴らしい !
あまりよくなかったところ :
ラストの辺りの展開は二転三転してどうもスッキリしない。この収め方はアメリカ人の好みなのかも知れないけど、根本的な解決にはなっていないんじゃないの。実に惜しい。
個人的にニガテだったところ :
「女が副大統領になる。それが罪ですか ? 」ってキャッチコピー。だっさいし、大体“罪”っていう言葉の使い方が少し間違ってると思うけど。
コメント :
日本の女優さんで有名政治家の役ができるような人なんて、すぐには思いつかない。ジョーン・アレン、カッコいいなぁ。日本での知名度はいまいちなのだが、本国では相当な実力派と目されているようで、アメリカの大きな賞でもよくノミネートされているのを見掛けたりする(今回の役もアカデミー賞の主演女優賞候補だった)。と、今回調べていたら、彼女はなんと劇団ステッペン・ウルフ(ジョン・マルコヴィッチやゲイリー・シニーズらが主催していたので有名)の設立メンバーの一人だったことが判明 ! びっくりしつつも、痛く納得。
脚本・監督を手掛けたロッド・ルーリーさんは、映画評論家として高名な人なのだとか。どうりで、初めて名前を聞く方にしてはえらくシブい出来の作品だと思った。
ゲイリー・オールドマンは、今回エグゼクティブ・プロデューサーまで務めているにも関わらず、こんな憎まれ役を敢えて選ぶというのが、らしくっていいなぁ。久々に、彼の役者としての奥行きを心から堪能できる作品に出会えたような気がする。

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【ジャニスのOL日記】三星半

一言で言うと :
母親の治療費を稼ぐため、スコットランドからロンドンにやって来て契約社員の職にありついたジャニス(アイリーン・ウォルシュ)の、ちょっと調子っぱずれな奮闘ぶりを描く。
かなりよかったところ :
スキルなどの売りにするところもあまり無いのに、身一つでやっていくしかない弱い立場。筆者も派遣社員をやっているので、その寄る辺ない気持ちはすごぉくよく分かる。それでも誰もが自分なりのやり方で頑張ろうとしている姿(時にはかなり逸脱しながら、だけど)は、なんかいいなぁと思った。
個人的にスキだったところ :
今回ちょっと悪い奴なのに、やっぱり何だか憎めないリス・エヴァンス。
そのリス君を見たジャニスの頭の中に音楽が鳴り響くところ。一瞬だが可笑しい !
その他のみどころ :
パッツィ・ケンジットの演じるお局様。若い皆さんはもうエイス・ワンダー(バンド名)なんて知らんだろうなー。
ちょっと惜しかったところ :
オフィスの他の女子社員達をもっと描き込んであれば更によかっただろう。
コメント :
虚言癖の類いは通常あまり好きではないんだけど、このヒロインには生きていくための心の砦として必要だったんだということがよく分かる。で、普通そういう人って不幸になるパターンが多いんだけど、妄想と現実の狭間で、何となくシアワセな地点に着地してしまう展開は、割と後味がよくてほっとする。
契約社員は、期間限定の社員契約を勤務先の会社と直接結んでいる社員。派遣社員は、派遣会社を間に入れてもっと短期の一時契約を結んでいる時間給労働者(長期に渡る場合は契約を更新していきます)。最初の頃、宣伝の中でもちょっと混ざっていたみたいだけど、両者ははっきり違うんですよー。

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【すべての美しい馬】三つ星

一言で言うと :
国境を越えて一旗上げようとしたカウボーイの物語。
監督さんへの思い入れ度 : 10%
個人的にニガテだったところ :
色々と苦手なジャンルがあることは分かっていたつもりだったのだが、西部劇やカウボーイものも相当鬼門らしいということに今回ようやっと気がついたとは、マヌケに過ぎる。多分、彼らがある種のかっこよさにどこか陶酔しているように見えるところに入っていけないんだろうなぁ、よく分からないけども。
で、この設定の中なりに、主人公が周りで起こる様々な事柄に対して抱く感慨がきめ細かく描かれているのだろうとは思うのだが……。そこに感情移入出来ないのは、映画のせいというより私の感性の限界のせいと言った方がいいに違いない。すみませーん。
それにしても、“all the ~ = すべての~”って英語の授業じゃないんだからさー。この邦題、もうちょっと工夫しようよ。
コメント :
マット・デイモンって、そこそこ悪くはないとしても、そんなに何本もの映画に主演させてもらえるほど魅力があるのだろうか ? ハリウッドのプロデューサー達も存外、学歴主義的なところがあるのではなかろうかと思われてならないのだが、どんなものだろう ?
ペネロペ・クルスも嫌いじゃないんだけど、彼女のイメージはカウボーイの世界には合っていないんじゃなかろうか。違和感を抱いてしまったのは私だけ ?
アメリカには原題の『ALL THE PRETTY HORSES』と同じ名前の美しい子守歌があるのだと、友人が教えてくれました。アメリカの人は一般的に、日本の人よりも馬という生きものをもっと身近に感じているのかもしれません。そう思うと、ハリウッド映画の西部劇やカウボーイものも、また新たな視点から眺めることが出来るかも。

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【千と千尋の神隠し】五つ星

一言で言うと :
引越しの途中で不思議な街に迷い込んでしまった千尋は……。御存知、スタジオジブリの宮崎駿監督の最新作。
すごくよかったところ :
この奔放な想像力 ! 人間、一体どこをどう鍛えればこんなことを思いつくような域に達することが出来るのだろう。
千尋を何かと助けてくれる美少年・ハクの正体とは !? 監督がこの設定に、この国の風土がもともと持っていたはずの美しいものや清らかなものに対してのどれだけの思いを込めたのかと思うと、涙が出てきた。とにかく、全編そんな感じ。
宮崎監督自ら、自分の中の開けてはいけない蓋を開けてしまったかのようだとおっしゃっていた。監督は過去何十年にも及ぶ修養の果て、ついに、あの世の神話的世界とこの現世を繋ぐイタコと化してしまったのだろうか。ユングの言うところの集団的無意識(便利な言葉だね ! )みたいなやつにダイレクトにチャネリングしているみたいな ?
監督が持てる全てをぶつけたという前作の【もののけ姫】は、観る側もその衝撃を受けとめる気構えがそれなりに必要な超重量級の映画だったように思うが、本作はもっと気軽に入っていくことが出来る作品なのではないだろうか。で、見てる間はひたすら面白く、それでいてじわじわ~っと残って、後でしみじみいいなぁと思えるような。しかしインタビュー等を読んでいると、この映画に込められた監督の思い自体はますますシビアに先鋭化してきているのようなのだけれども。
ああもう、うまく説明できん ! 皆様、これはとにかく一度観てみてから判断してみて下さい。
監督さんへの思い入れ度 : 75%
ちょっと惜しかったところ :
働かない者は存在することが出来ない世界、という割には、千尋が実際に働いているシーンというのはもしかするとそれほど多くはなかったのでは !?
コメント :
劇場で予告編を見ている段階で既にあの主題歌がツボに嵌まってしまい、まだ本編の公開前だというのに人目も憚らず滂沱しておりましたが、本編を観終わった後に聞くとまた感慨もひとしおです。(シングルも買ってしまいましたってば、ええ。)特に「繰り返すあやまちのそのたび ひとは/ただ青い空の青さを知る」「こなごなに砕かれた鏡の上にも/新しい景色が映される」といったようなところは、ああなんか凄くよく分かる ! というか何というか。「かなしみの数を言い尽くすより/同じくちびるでそっとうたおう」「海の彼方にはもう探さない」といったところもかなり……おっと、書いてるだけでまた泣きそうになってきた。ちなみに監督は、本編の製作中にはこの歌をずっとエンドレスで掛けていたのだそうです。

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【ダンジョン&ドラゴン】二星半

一言で言うと :
ドラクエやファイナル・ファンタジーよりずっと以前からある老舗中の老舗のRPG『ダンジョン&ドラゴン』の映画化。
かなりよかったところ :
ドラゴンを操る杖、秘密の地図に牢獄のカギ、斧を操るドワーフ、エルフの村、そして極めつけは悪い魔法使い ! ゲームの『ダンジョン&ドラゴン』をやったことはないが、今のファンタジックRPGの典型的なモチーフの原型がみんな含まれているのは見て取れる。コンピューターゲームの世界その他に絶大な影響を与えたのであろうこの作品を是が非でも映画化したかったのだという、監督の意欲は買いたい。
見ているうちに、確かにこのゲームをやってみたくなった。
あまりよくなかったところ :
しかし映画を見てるより、実際にゲームをやる方が数倍面白そうだったりして。
プレイすると何十時間も掛かるゲームを2時間くらいに凝縮するとなると、どうしても単純化・類型化されてダイジェスト版になってしまうのは仕方のないことなのか。お話を追い掛けるのが精一杯で、どうしてもドラマとしての豊かさや広がりには欠けてしまうような。
おまけに、どうも主人公の男女二人に……言っては何だか、華が無い。主人公の親友役のマーロン・ウェイアンス君がコミカルな味を出していたのが救いだったんだけど……。(マーロン君は現在公開中の【レクイエム・フォー・ドリーム】でも主人公の親友役として出演、こちらではシリアスな演技を披露しています。)
個人的にニガテだったところ :
かのジェレミー・アイアンズをダイコンに見せてしまう演出なんて、そりゃ何か間違っていますって。
コメント :
ゲームの映画化というのは、元が異なるプラットフォームのものを無理に変換させるのだから、やはり本質的に非常に難しいことなのではないのだろうか。これから公開になる【トゥームレイダー】や【ファイナル・ファンタジー】はこの問題を如何にクリアしている(又はいない)のだろう !?

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【《チェブラーシカ》】四つ星

一言で言うと :
1960年代~70年代に旧ソ連で製作された連作ものの人形アニメ。ちっちゃなチェブラーシカはくまに似てるけれど、学術的には正体不明の生き物らしい。
すごくよかったところ :
チェブラーシカは他の登場キャラに比べてもとにかくちっちゃい。このちっちゃいチェブ君が何かをやろうと精一杯、一生懸命動いている姿には、純粋さ以外のものが入り込む余地が無いのだ。これがもう、反則ワザ的なくらい可愛い ! 多分止まっている写真よりも、動いている姿の方が何倍も可愛いのではないかと思う。
お人好しもいいところのワニのゲーナ君など、他のキャラクターもいい味が出ている。
背景等はセットなんだけど、この簡略化されたフォルムとか色使いのセンスとか、相当ポップだと思うのだけれど。まるで夕暮れ時みたいな哀愁を湛えたライティングもよし。
使われている音楽がまたロシア民謡調なものだから。哀切極まりないこのメロディは、日本の人のツボにはきっと嵌まるはず。
コメント :
旧ソ連や旧チェコスロバキアなどでは、短編を中心とするアニメーションは国が政策として保護していたので、優れた作品が沢山輩出されたというのは御周知の通り。ロマン・カチャーノフ監督は、『話の話』などで世界的に評価が高いユーリ・ノルシュテイン監督(現在はゴーゴリ原作の『外套』を製作中と伝えられる)の師匠筋にあたる人なのだそう。本作もそういったレベルの高さが随所に見て取れる秀作だが、ま、そんなこと別に考えなくても、まずは一見して楽しんでみて下さい。

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【デュカネ 小さな潜水夫】三つ星

一言で言うと :
夏休み、船を持つおじいちゃんの元でダイビングを楽しむ兄弟は、旧ドイツ軍の潜水艦が沈んでいるのを発見するのだが……。デンマーク発の海洋サスペンス・ファンタジー。
かなりよかったところ :
まるで積み木を組み立てたみたいにキュートで美しい街並(一度立ち寄ったことがあるだけだけど、デンマークの街って本当にこんなんです ! )。まるで絵に描いたみたいな“海の男”のおじいちゃん。ああ、こんな夏休み過ごしてみたい !
ちょっと惜しかったところ :
“ファンタジー”という触れ込みだったのでそのつもりで見ていたら、話の中心は潜水艦の中にいた幽霊達だった…… ! これに旧独軍の“お宝”を狙う悪者がからんで、とかいったような内容で、私の印象では、サスペンス・ファンタジーというよりはむしろジュブナイル向けのサスペンス・ホラーといったところ(そんなに恐くはないけど)。中身が悪いとかいったようなことではないけれど、予想していたものと違ったのでちょっと拍子抜けした。
個人的にニガテだったところ :
事情はどうあれ、夜中に子供だけで海に潜ろうとするなんて ! そんな無茶する子供達には同情できません !
コメント :
デンマークもバイキングの子孫の国だから、昔から海とは縁が深く、ずっと慣れ親しんできた文化があるはずだ。この作品のサスペンスの部分とかはまぁ普通かなと思ったのだが、海とデンマーク人の親密さみたいなものを感じさせてくれるようなところはいいなと思った、ってそれはやっぱり本来の見方じゃないか。

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【天国から来た男たち】四つ星

一言で言うと :
身に覚えの無い麻薬不法所持の容疑でフィリピンの刑務所に入れられてしまった日本人ビジネスマン(吉川晃司)の行く末は…… ?
すごくよかったところ :
吉川晃司さんはやはり見せる。エリート・ビジネスマン役もあまり違和感ないし。これまたハマっている山崎努さんとのコンビネーションが絶妙 !
二人を含む主人公の6人組を一気に胡散臭く怪しい集団へと色づけてしまう遠藤憲一さんの怪演は見逃せまい !
その他のみどころ :
竹中直人さんと及川光博さんがチョイ役で出ています。
監督さんへの思い入れ度 : 50%
コメント :
三池崇史監督作品にしては話がよくまとまっている( ! )ので、いわゆる三池監督のファンの人以外にも取っつきやすいのでは。そういった意味で大いにオススメです。
でも、フィリピンの刑務所って本当にこんななのかしら…… ? どうなのよ ?

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【19〈ナインティーン〉】四つ星

一言で言うと :
暴力的な三人組の男に拉致された男子大学生は、無理矢理行動を共にさせられるうちに、彼等に奇妙な親近感を覚え始め……。
かなりよかったところ :
最後まで脅される側と脅す側、という構図に変わりはないのに……彼等の間に芽生えたものは“友情”に近いものなのか、何なのか。しかし、今日びの若もんが、誰かとある時間を一緒に過ごして一瞬だけ時間を共有したような思いを抱く感覚を、昔ながらの意味合いでの“友情”というものになぞらえようとすること自体、もしかしたらナンセンスなのかもしれない。お互いに対する距離感が前提となっているそのような関係性が、こういった設定の中に凝縮されて現われているのだとしたら面白い。
全編ハレーションの掛かったような、ちょっと粒子が粗めの画面が挑発的。各シーンの構図なんかもバシバシ凝りまくっている。
その他のみどころ :
この映画を見た三池崇史監督は、監督・主演の渡辺一志さんを「そのまま演ってくれていいから」と【ビジターQ】の謎の男役にスカウトしたのだそうだ。成程、確かにそのまんまかも !
コメント :
新人なのにどうしてこんな図抜けたもんが創れるんだ。彼は一体どこからこのようなものを発想したのだ、とつらつら考えてみるに、これは北野武監督の【ソナチネ】などの一連の作品に非常に似ているのではないかと思えてきた。そうか、もう北野武の映画を観て大っきくなった子供達が映画を撮り始める時代になったのか。感無量だなぁ。(なんて、間違ってたらゴメンナサイ。)

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【パズル】四つ星

一言で言うと :
キーワードは“アドベルサリオ”(敵対者)。留守電メッセージに残された奇妙な脅迫を発端に、主人公(エドゥアルド・ノリエガ)は、《聖週間》に沸く古都セビリアを震撼とさせる事件に巻き込まれていく……。
すごくよかったところ :
カトリックのお祭りで賑わうセビリアの街全体を舞台に、『バイオ・ハザード』みたいなゲームを立体化(ゾンビ抜きで)したみたいなもんだと思いねぇ。この犯人の仕掛ける“アドベルサリオ・ゲーム”は、ものすごく頭のキレる人が少しアレンジすれば、現実に出来てしまう可能性があるかも知れない。“退屈”を理由に ? うーんそれって怖いかも。
犯人にはそれほど意外性がないか ? と思っていたら、もっと意外な展開になってしまった。(読めたという人もいるかもしれないが。)このテのシャープなストーリー展開は、かなり好みだ。
あまりよくなかったところ :
TVゲームを一切やらない人には、この面白さは伝えにくいかもしれない ?
監督さんへの思い入れ度 : 40%
コメント :
監督のマテオ・ヒルは、スペイン本国では記録的な大ヒットとなった【テシス・次に私が殺される】の共同脚本家で、同映画の監督アレハンドロ・アーメナバールや、主演をつとめていたエドゥアルド・ノリエガとは、それ以前からの盟友関係にあるとか。(アーメナバール監督は、今回の映画では音楽を担当しています。)【テシス…】は猟奇殺人事件に巻き込まれる女子大生が主人公の映画で、【ミツバチのささやき】のアナ・トレントが主演。ビデオでは【殺人論文】とかいういまいちな題名がついているけれど、かなりオススメのサスペンス映画なので、よかったら探してみて下さいね。

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【白夜の時を越えて】二星半

一言で言うと :
祖母を亡くして養護施設に預けられていた双子のイレネとヘレナは、母親の新しい情夫のいるサーカスで生活することになる。が、ほの暗い命運はどこまでもつきまとい……。
かなりよかったところ :
幼い頃の双子を育てていた婆さんは、ナチの驚異から国を守ってくれたソ連を崇拝しており、双子のそれぞれにウラジミールとイリイチというレーニンの名前をつけていた(そりゃ男名前だってば)。彼女達がサーカスで巡業することになる国々にも、第二次大戦後のヨーロッパの色んな歴史が少しずつ垣間見え、そういうところは工夫してあるなと思われた。
原題は“FIRE-EATER”。それと分かるシーンにはハッとさせられる。
あまりよくなかったところ :
才能があり、後には心を病んでしまう姉に対する妹の、普通の人間としての心の葛藤を描きたかったのか。はたまた、自堕落な母親に振り回される娘の愛憎半ばする思いを描きたかったのか。いろんな要素を詰め込みすぎて、結局ポイントが絞れずに曖昧な印象が残ってしまったように思う。
コメント :
このいかにもヨーロッパ映画な雰囲気は、かなり好みではあるのだけれど。惜しい。

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【ポエトリー,セックス】二つ星

一言で言うと :
性的に過激な詩のリーディング・パフォーマンスをしていた若い女性が行方不明になった。事件を捜索中の私立探偵(スージー・ポーター)は女性の詩のクラスの教師(ケリー・マクギリス)と出会い、その魅力に溺れていくが……。
あまりよくなかったところ :
サスペンスとしての出来はまるっきり粗いし、ポエトリー・リーディングやレズビアンの世界観での色づけを狙うにしては、どちらも掘り下げ方が甘い。総じて、どの要素も中途半端で物足りなく映る。
コメント :
お話の鍵を握るケリー・マクギリスを「ステキ ! 」と思えるかどうかが結構この物語のキモだと思われるのだが、久々にお目に掛かった彼女はセクシーというよりは、逞しさがいや増したというか何というか……。でもそういった方が好きだという人もいるのかもしれないし、その辺りはよく分からんわ。
原題の“The Monkey's Mask”は「年年(としどし)や猿に着せたる猿の面」という芭蕉の句から取られているのだそうだ。猿回しの猿に猿の面を被せても所詮猿でしかないように、正月が来て年を取っても人間の中身は大して変わりはしない、という意味らしいのだが……ジム・ジャームッシュが【ゴースト・ドッグ】で『葉隠』という本を取り上げた時にも思ったのだが、日本の文学が海外でどのように流通しているのかというのは、結構ナゾである。

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【焼け石に水】三星半

一言で言うと :
中年男(ベルナール・ジロドー)が美青年(マリック・ジディ)を誘惑し、一緒に棲み始めるようになるが、それを窮屈に感じ始めた中年男の態度は次第に自己中心的になる。そこに青年のフィアンセや、中年男の昔の恋人が入り乱れ……。
早世したニュー・ジャーマン・シネマの鬼才R・W・ファスビンダーの原作を、フランスの短編映画の旗手フランソワ・オゾン監督が映画化。
かなりよかったところ :
シャープでパキパキとした構成や、話の運び。
個人的にスキだったところ :
4人で踊る“指差し確認ダンス”と、何だかどうも耳に残ってしまう主題歌。
その他のみどころ :
中年男の昔の恋人というのが、モロッコで手術した元男友達のマダムという設定。アンナ・トムソンの美しいけど特徴のある風貌はこの役にとてもよく合っているのだが……。
監督さんへの思い入れ度 : 50%
コメント :
私だったらこんなワガママ男、絶対に速攻別れるから、この青年の行動は全く理解できないし、となると、このお話のどこにそんな人生のアイロニーがあるのかという肝心なところが、実はよく分かっていないのではないかと思われる。それで一体どの面下げてこの映画を好きだとか言えるのだろう ??
でも、今まで長編はどれも今ひとつだったフランソワ・オゾン監督が、短篇のビリっとした切れ味をそのまま生かしてまとめあげた作品を初めて観たような気がするものだから。この皮肉っぽいテイストは、やっぱり何か好きなので。
それにしても、フランス語の“amour”にはセクシャルな欲求があからさまに込められていて、つくづく日本語の“愛”という言葉とは同じじゃないよなぁと、確か先日【ロマンスX】を観た時にも思ったような気がする。

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【RUSH ! 】四つ星

一言で言うと :
焼き肉屋のオヤジの五千万円を巡って、狂言誘拐を企む娘(キム・ユンジン)と従業員達(哀川翔、他)、オヤジから殺しを請け負った悪徳警官(大杉漣、阿部寛)、偶然居合わせた冴えないサラリーマン(柳葉敏郎)とその妻の愛人(千原浩史)らが入り乱れ、幾重にも重なったパラレル・ワールドのストーリーを展開する。
すごくよかったところ :
主人公達が何組もいて、始まりと終わりも幾通りもあり、しかも物語中にバラバラにちりばめられている。こんなお話、観たことない !
個人的にスキだったところ :
私にとっては完璧に近い、超ゴーカなキャスティング !
キャストに対する思い入れ度 : 合計すると200%くらいにはなりそうだ。
監督さんへの思い入れ度 : 85%
あまりよくなかったところ :
そこに在るということを根源から掘り起こそうとするかのような瀬々敬久監督の映画は、どうにも歩みが遅いというか今一つアップテンポにならないのが欠点といえば欠点。この映画も“RUSH”という題名の割には疾走感が全然足りない ! それが監督の資質なんだからしょうがないのだけれど。
一見して戸惑ってしまうような構成なのは確か。分かりにくい、と思う人は当然いるだろうし、起承転結なタイプの映画じゃないと体が受け付けない、という人には、当然のことながらお勧めできないだろう。
コメント :
最近意欲的に色々な役柄に取り組んでいるとはいえ、柳葉敏郎さんがこういった映画に出るのは珍しいなぁと思っていたら、主演兼プロデュースの哀川翔さんとは一世風靡つながりじゃないですか ! ううむそうでしたか、納得。

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【ラッチョ・ドローム】三星半

一言で言うと :
インドから中近東、東欧を巡り、果てはフランス、スペインまで。自らロマ(ジプシー)のルーツを持つトニー・ガトリフ監督は、各地のロマの人々の音楽と踊りを映し取ることにより、彼等の何百年にも及ぶ壮大な足取りを印そうとした。題名はロマ語で「よい旅を ! 」の意。
すごくよかったところ :
ワールド・ミュージック(って言葉は今時あるのか ? )とか、ケルトなどのヨーロッパ系のフォーク・ミュージック(アヴァンギャルドなものも含む)のような生演奏系の音が好きな向きには、こたえられない内容。
個人的にスキだったところ :
かくいう私も、最近ロックなどの若い人向けの音楽にほとんど興味が湧かなくなってしまい、もっぱらそっち系統の音楽ばかり聴いていたりして。(あの打ち込み系の音って、最早体が受け付けないみたいなのね。)本作のどの音楽も踊りも、とにかく迫力満点で素晴らしいのですが、個人的にはやはりフラメンコが一番好みかもしれません。
ちょっと惜しかったところ :
トニー・ガトリフ監督の映画には、何にも変えがたい独特の息吹はあるのだけれど、演出自体に更にもう一歩踏み込んだ独自の冴えが見られれば無敵の存在になれるのにな、と思う。
コメント :
一言でロマと言っても、各地でこれだけ顔つきも音楽も違っていたりする。彼等の辿ってきた遥かな道のり、その時間と場所の遠大さを目のあたりにするスペクタクル ! 本作は軽んじられてきたロマの歴史を目に見える形にして刻み付けようとした試みに他ならず、私の評価なんぞよりはずっと重要でエポック・メイキングな映画であることは間違いない。

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【ラマになった王様】四つ星

一言で言うと :
ワガママでナルシストで自分のことしか考えていない最悪な性格の王様は、クビにした側近に殺されてしまうところが、ちょっとした手違いで何故かラマにさせられてしまった。親切な村人の力を借りた王様は果たして元に戻ることができるのか、はたまた、少しは改心することができるのでしょうか ?
すごくよかったところ :
この王様の性格は、成功したアメリカ人VIPというステレオタイプの極端なカリカチュアなのだろうか !?
そんな王様を助けることになるお人好しの男との凸凹コンビに、強欲な婆様の元側近、その手下の筋肉野郎と、みんなどこかおマヌケなところがほのぼのとお茶目でチャーミング。
そんな彼等が、アメリカのアニメーションの伝統的なお家芸である過激なスラップスティックで、画面狭しと暴れ回る ! で、こんなにデフォルメされた絵柄なのに、よく見ると仕上がりはやはり丁寧で美しい。そういうところは、さすがディズニー。
とにかくテンポがいいし、ちょっと毒気があるところも好き。いわゆる古典的な作品を除いたここ20年くらいのディズニー・アニメの中では、私は本作が一番独創的で面白いんじゃないかと思った。このマーク・ディンダル監督のセンスには、今後も大いに期待してみたい !
コメント :
しかし、非常に不満な点が一つだけ。この映画、都心の映画館では日本語版しか上映していないのだ ! 字幕版を見たければわざわざ都下のワーナー系列のシネコンまで足を伸ばすしかないのだが、実際かなり遠いので、そんな時間は取ってられませんって。日本語版の出来自体は決して悪くはなかったけど、やはり原語での雰囲気も味わってみたいというオトナのアニメファンも日本にはそれなりの数いるはず、なのに完全無視な訳 !? 都心では全く上映しなかった【アイアン・ジャイアント】の時もそうだったが、自分達の方式を押し付けようとするばかりで痒いところに手が届かないというか、これだから外資系は、ってそんなにも言わせたいのだろうか。

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【レクイエム・フォー・ドリーム】四つ星

一言で言うと :
息子(ジャレット・レト)とその恋人(ジェニファー・コネリー)が麻薬に溺れていく一方、寂しい生活の中でテレビ番組に出ることを夢想し始めた息子の母親(エレン・バース ティン)は、いつしか劇薬のダイエット錠の中毒になり……。
すごくよかったところ :
麻薬をめぐる人々の生き様を描いた【トラフィック】が外堀を埋めるように理知的に迫る映画なのだとすれば、本作はもっと生理的な感覚に訴えて、五臓六腑にダイレクトにズドンと来る感じ。
しかし単にクスリの中毒というだけでなく、“何かに中毒するということ”自体をも描こうとしているから、この映画は恐ろしいのではないか。人間、特に今の世に生きる人々は、何かにハマることなしに生きていけやしないんじゃないか ? かくいう私も(お分かりのように)立派な映画中毒だし。
そんな中毒状態を表現する、畳み掛けるようなカットや早回しなどの技巧の工夫が秀逸。(今後マネする人も現れるんじゃないかな。)
そして俳優さん、特にエレン・バースティンの鬼気迫る捨身の演技が凄い ! この女優根性、アカデミー賞を始めとする各賞にノミネートされるのも当然。
かくて現出する残酷な地獄絵図に、とにかく心底肝が冷えた。これは生半可なホラー映画なんて太刀打ちできない、この夏一番の恐怖映画なのではないだろうか。
監督さんへの思い入れ度 : 40%
コメント :
こういうのを文部省推薦映画にしてガッコで巡回上映とかすれば、興味本位でクスリに手を出す若い人とか絶対減るんじゃないのかな ? あるいは、渋谷駅前の巨大三面スクリーンを一日借し切りにしてずっと流してみるってのはどないだ。

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【ロマンスX】四つ星

一言で言うと :
自分とのセックスに興味を持ってくれない恋人に業を煮やしたヒロイン(キャロリーヌ・デュセイ)の辿る性の遍歴。
かなりよかったところ :
昔どこかで聞きかじった、ルイス・ブニュエルの【昼顔】という映画の解説で、セックスを汚いものと思っている部分があるからそういう欲求に身を任せようとする時にわざと自分を貶めようとするのだ、といったものがあった。本作のどこかのフレーズにその解説を思い起こさせる部分があって、これは、【昼顔】を女性の側から描いたような話なのではないかと思えたりした。実際、カトリーヌ・ブレイヤ監督は少女時代に【昼顔】の原作(ジョゼフ・ケッセル著)を愛読していたのだそうで。おお、わりかし当たってるのかも ?
あまりよくなかったところ :
どうして自分の欲求を満たしてくれようともしない、そんな努力をする素振りすら一切無い男にしがみつこうとするのだ ? 自分をみすみす不幸にするようなマネをして一体どうするんだ ? あるいは彼女は、そんな自分の不幸を愛しているだけではないのだろうか ?
相手が自分に興味を示してくれなくても、それでも別れられないっていう場合も確かにあるのかもしれないけれど、だったら彼を逆恨みすんなよ、と思う。そんな奴を敢えて選びつつ切れずにいるっていうのは自分の責任でしょ ? 相手に幸せにしてもらうのが当たり前、っていう考え方なのかなぁ ? 監督さんは1950年頃の生まれの女の人なので、その辺りの感覚は少し違っているのかもしれないけれど。
そんな彼女がヤケッパチになって性的な冒険に乗り出す、というのは……ま、本人がそれでいいのならいいんですけどねー。
個人的にニガテだったところ :
毎度毎度しつこいようですが、画面の意味を不必要に歪めてしまう「ぼかし」は何とかして欲しい。
コメント :
監督のセックスなり女性の在り方なりに対する考え方にはほとんど賛同出来ないような気がするが、全くのひとごととして観察しつつ、ちょっとクラシックな文学作品に相対するような気持ちで観賞してみれば、それはそれとして面白いのではないかと思う。
【昼顔】は、1966年作、カトリーヌ・ドヌーヴ主演。何かしら満たされない上流階級の若妻が昼の間だけ売春をする、といった話。忘れもしない小学校6年生の時(映画をちゃんと見始めるようになるより遥か昔)、私はTVの金曜ロードショーか何かでこの映画を見てしまい、そのあまりの淫靡さに打ちのめされてしまいました。おかげ様で私は中途半端にグレることも出来なくなり、無事(?)現在に至っているという訳で。ありがたやありがたや……。

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