Back Numbers : 映画ログ No.51



【愛のエチュード】三星半

一言で言うと :
心に様々な傷を負っていたチェスの天才プレーヤー・ルージン(ジョン・タトゥーロ)。世界大会の開催地で出会ったロシア貴族の令嬢(エミリー・ワトソン)と恋に落ちたことで、すべてがうまくいくかに見えかけたのだが……。『ロリータ』のウラジーミル・ナボコフの短篇を、【アントニア】【ダロウェイ夫人】のマルレーン・ゴリス監督が映画化。
すごくよかったところ :
ジョン・タトゥーロの演技がとにかく素晴らしい ! 彼の演技だけで映画の評価を半分~一つは上げているかも。これは彼の代表作の1本になるのではないだろうか。
その彼(と子供時代を演じるアレキサンダー・ハンティング君)の表現する、あんまりにも救われない天才の運命。映画の原題は“THE LUZHIN DEFENCE(ルージンの防御)”だが、実の親にはチェスへの情熱を理解されず、育ての親には食い物にされた挙げ句捨てられて(これがちょっと、マンガ的なまでに非道い奴で)、彼は一体何かを“防御”することができたのだろうか ? 命を削ってまで完成させようとしたエチュード(チェスの一連の芸術的な手のことをいうのだそうです)は生き続けるのかもしれないけれど、彼自身はどう見ても、全然救われていないじゃない。
あまりよくなかったところ :
で、私はその辺がお話のテーマだと思ったのだけど、そう考えるとエミリー・ワトソン演じる令嬢との恋愛云々の描き方が、もの凄く中途半端に見えたのだけれど。
大体、彼女が彼を好きになる過程がいまいち描写不足というか……ルージン君はどう見ても全き変人だし、ならばそんな彼にコロっと参るきっかけがどこかに描かれていないと。彼女が並み外れて優しいだの変わった人が好きだの、理屈で説明するだけじゃ駄目だってば。
そんなこんなで、彼女は彼の絶対的な理解者になるのかと思いきや、結局は彼をチェスから遠ざけようとしたってことは、それまでの人々と同様、彼女も彼の情熱を抑圧する側に回ってしまったってことでしょう ? だとしたらあのラストは、とっても中途半端では。(ちなみに、あのラストは映画のオリジナルなのだそうです。)
そう考えると、原題より更に恋愛の方に重きを置いてしまったこの邦題(若い女の子の受けを狙ったんだろう)はどうかなぁと思うけど。
監督さんへの思い入れ度 : 20%
コメント :
お話に納得できない点は多々あれど、ジョン・タトゥーロの演じる天才の繊細さ・痛々しさがあまりにも真に迫っているので、全て許そう。

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【VERSUS<ヴァーサス>】三つ星

一言で言うと :
死者が蘇るという不思議な森で、二人の男は前世からの因縁の対決に挑む……。ハリウッドで新作を撮ることが決定しているという俊英・北村龍平監督によるアクション映画。
かなりよかったところ :
チャンバラ、銃撃戦、格闘技などの色々なアクションの組み合わせ、様々な立場の人物の交錯、たくさんのゾンビが沸いて出てくる設定等々、お話の見せ方に、見る側を飽きさせまいとするあの手この手の工夫がこらされている。
因縁の戦いを繰り広げる主演の二人、坂口拓さん・榊英雄さんのフォトジェニックさ。特に坂口拓さんは、演技自体はまだまだといった感じでも、とにかくかなり画面映えする。今後の展開次第では楽しみな人になるかも。
その他のみどころ :
サントラに、あの津軽三味線の吉田兄弟の弟くん(吉田健一さん)が参加しているらしい。そういったちょっと和風も取り混ぜた味つけが、また映画のテイストに合っている。
ちょっと惜しかったところ :
この内容で2時間というのはさすがにちと長いか。もう少し見せ場を絞り込んでもよかったかも。
ラストも少し余計かもしれない。因果は巡るということが言いたかったのだろうけど……。
あまりよくなかったところ :
大変申し訳ないけれど、この映画の致命的な欠陥はヒロインである。彼女の役柄の出来の悪さが、他の部分で頑張って紡いだ映画的説得力を総てぶち壊しにしていると言っても過言ではない。それが設定や演出等の問題なのか、女優さんの資質の問題なのかはここでは判断をつけないことにするが、少なくともこの映画のこの役に関しては、誰か他の人の方が相応しかったのではないかと思われる。
経験を積んでいて見せ方を心得ている俳優さんも勿論多くいらっしゃるけれど、はっきりいってアマチュア同然のレベルの人もかなり見受けられるように思われる。予算が限られている等の関係もあるのだろうし、それがかえってイキのよさに繋がっていたりもするのだろうけれど、やはり見劣りしてしまう場合もあるのはいかんともしがたい。
コメント :
まだまだ発展途上の出来といった感じは否めないのだが、とにかく勢いがあるところは多いに買っておきたい。

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【ヴァージン・ハンド】四つ星

一言で言うと :
浮気者の妻を殺しバラバラにして埋めたつもりの夫(ウディ・アレン)だったが、何故か手だけが偶然ある村に拾われ、信じがたい奇跡を次々と起こしまくったからさぁ大変。【紅い薔薇ソースの伝説】のアルフォンソ・アラウ監督が描くドタバタ・コメディ。
すごくよかったところ :
神様の存在自体は疑いもしない訳だから、皆ある意味凄く信心深い人達なんだけど、欲求が何でも叶うとなると、どの人も思いっきり現世的で即物的な御利益を求め始めるのだ。そもそもその村の神父さんからして売春婦と恋仲で、皆それをごく自然に受け止めているという設定からしてそうだけど、そんなふうに表面的な宗教の教条的な部分を軽くいなしておちょくっているところが、とにかく笑える。
でもそうやって狂奔する人々の姿を、決して否定的に捉えてはいないんだよね。彼等はとても敬虔とは言い難いだろうけど、神様は実は、そんな彼等の下品で愚かしくも前向きな逞しさを愛し給うているのではなかろうか(、と監督さんは言いたかったのではないだろうか)。
アルフォンソ・アラウ監督はメキシコ出身。ラテン・アメリカっぽいマジック・リアリズム的な世界(?)が、あくまでもC調に展開していくところが、とにかく楽しい。
その他のみどころ :
殺された元妻の手(どハデなマニキュアをして“ファック・ユー”のポーズをしているからそれと分かって、TVで見たウディ・アレンが慌てるという訳)はどうして奇跡を起こすのか ? 元妻の役を演じているのはシャロン・ストーン。この人時々、かなり意表をついた仕事の選び方をするよねぇ。
コメント :
アメリカでは上映禁止になったと聞いたのだが(不遜な宗教ものだから ? )、日本でも読んだ評という評が軒並み悪かったのはどうしてぇ ? 私には相っ当面白かったんだけど。

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【ウォーターボーイズ】四つ星

一言で言うと :
廃部寸前の水泳部。男の子達は成り行き上、文化祭でシンクロナイズド・スイミングを披露しなければならなくなり……。悪戦苦闘しつつも段々本気になっていく高3男子達のひと夏の物語。監督は【裸足のピクニック】【ひみつの花園】等のコメディの独自の作風が印象的な矢口史靖。
すごくよかったところ :
ぼけーっ、のほほーんとしてて、ちょっと情けないけど、でもイージー・ゴーイング。矢口監督の映画の雰囲気を言葉で表すのはとても難しいのだが。
無責任でお気楽な彼等が、たまたま何かに一生懸命になって、ついには何とかやり遂げてしまう。なんと言っても最後のシンクロのシーンが圧巻。エンディングの一人一人のアップの、作り物でない充足感に満ちた表情が素晴らしい。
仲間同士で思い切りおバカをやりながら過ごす彼等の高校生活最後の夏は、どれだけキラキラ輝いていることか。あんまりにも眩しすぎて、涙が出てきそうになる。諸般の事情で、私にはこんな時代はなかったものでねぇ~。
個人的にスキだったところ :
『学園天国』はキョンキョンでも慎吾君でもなく、やっぱりフィンガー5よねっ ! そうよ矢口っさん、あんたは正しい !
これからTV等でカッコイイ路線を一直線に突き進むのであろう妻夫木聡君だが、極めて“矢口度”の高い表情がこんなにもよく似合う人だとは思わなかった。さすがに監督がオーディションで即決しただけのことはある !
監督さんへの思い入れ度 : 80%
コメント :
とにかく泳げる人というのがキャスティングの第一条件だったというだけあって、泳げる設定の人も泳げない設定の人も、みんな逆三角系の引き締まったい~いカラダをしているんだわ。う~ん、とれとれのピチピチ。見てるだけでエネルギーをもらえて元気になりそう。若い女のコ達を見て喜ぶおっさん連中の気持ちが初めて少しだけ分かってしまったような……。
最初に行った館はお立ち見もいっぱいで入ることすら出来ず、時間を空けて次に行った館でも場内ほぼ満席の状態だった。若い人が多かったが、観終わった後の客席の反応もすこぶるよかった。これはもしかしてかなりヒットするかも。

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【今日から始まる】五つ星

一言で言うと :
北フランスの、決して裕福ではない地区にある幼稚園。園長先生(フィリップ・トレトン)を始めとするスタッフや周囲の人々は、手におえない問題が次々と降りかかっても、粘り強く対処していこうとする。【ラウンド・ミッドナイト】【田舎の日曜日】の名匠ベルトラン・タヴェルニエ監督による社会派ドラマ。(社会派ドラマっていう言い方も何だかな。)
すごくよかったところ :
環境が悪いから無気力になるのか、無気力だからますます環境が悪くなるのかのニワトリタマゴ。失業、低賃金、アルコール中毒、精神的な不安定さなどの親の問題は全て、子供の幸せに直結する。それらを総て親本人の責任だけに還元してしまうとなると、子供達は一体どうなってしまうのだ ?
“自己責任”の名の元、行政の福祉予算も削減の一途で、本当に必要なところに必ずしも助けの手が届く現状だとは限らない。他人事なんて思っちゃいけない。“痛みを分かち合う”なんてお題目の元、本当に痛むのは実は庶民のフトコロばかり。実は日本の社会の一部では既にこの映画みたいな状況になりかけていて、それが徐々に顕在化しつつあるのではないだろうか。
今の社会で何をしてみたところで、それが未来に繋がっていかないのなら、総ては虚しい。子供だけが次の時代を形作る唯一の資産だ。社会全体で(出来ることなら、一つの国の話だけでなく、全世界的に)、子供がちゃんと育つことができる環境を、全力で創り出す努力をしなくてどうなる。自分達の未来を自分達の手で狭めてどうする。子供の笑顔に将来への希望を託しているラストは象徴的だ。
私達は何のために、何をしていかなければならないのか。必ずしも総ての問題が解決する訳ではないし、実際、解決できることはあまりにも少ない。だが、現状を嘆くだけでなく、自分達に何が出来るのかを真剣に考え、自分達で何とか解決していこうとする強い姿勢が園長先生を始めとするスタッフ達(や一部の親達)はあるからこそ、この映画は観終わった後も決して暗い感じにはならず、むしろ力強くポジティブな印象が残るのだと思う。
こういったテーマが、教条的なトーンに陥ることなく、血の通ったドラマとして生き生きと描かれているところが、何と言っても見事である。
その他のみどころ :
園長先生はいつも非常に忙しく働いているが、プライベートの方もちゃんと充実した時間を過ごしているようで、決して滅私奉公をしてるという訳ではなさそう。さすがフランス人。でも人生、そうでなくっちゃね。ちなみにこの園長先生というのは、30~40代くらいの思いっきり働き盛りの男性です。この人が、映画が進んでいくにつれ、どんどんカッコよく見えてくるようになるんだな。
先だっての大阪の事件で問題になった「学校開放」だが、本来は、地域の人がこんなふうな自然な形で子供達の教育に関わることを言うんだろうなぁと。日本ではいろいろとハードルが高いそうなんだけど、なんとか工夫していくことができないものなのだろうか。
監督さんへの思い入れ度 : 65%
コメント :
この映画のテーマは、今の自分のツボにかなりばっちりと嵌まってしまった。もちろん若い皆様にもお勧めしたいが、それ以上に、私と同じくらいの年代の人にこそ是非とも観て欲しいと思う。
今回タヴェルニエ監督のフィルモグラフィを見ていたら、監督の映画は日本には半分くらいしか来ていないらしいということが分かった。資本主義の仕組みだけに頼っていては、私達にとって本当に必要なものを必ずしも手に入れることが出来ない場合もあるのだということを、そろそろ真剣に考え始めてみなくちゃならないのかもしれない。
ともあれ、この映画にはちゃんと出会うことが出来たことを、配給会社と岩波ホールの人々に感謝したいと思う。

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【ザ・ミッション/非情の掟】三つ星

一言で言うと :
組織の仕事のために召集された今は堅気の三人(アンソニー・ウォン、ラム・シュー、ロイ・チョン)と現役プロの二人(フランシス・ン、ジャッキー・ロイ)の間にはいつしか奇妙な連帯感が生まれていたが、ボスの妻と関係を持ってしまった一人を他の四人で処分しなければならなくなり……。香港発のスタイリッシュ・アクション。
かなりよかったところ :
何といっても主演の5人 ! タイプを活かした性格づけが効いていて、それぞれのキャラがしっかり立っているところが秀逸。
その他のみどころ :
主演の一人のアンソニー・ウォンといえば、未だに【八仙飯店之人肉饅頭】の長髪振り乱した怪優、というイメージがあったりして(未見なんですけど)。しかし今回のこざっぱりした髪型のアンソニー・ウォンを見てると、何故か穴戸錠に見えてきて仕方なかったのですが。
ちょっと惜しかったところ :
最初と最後の状況説明字幕って何だか興醒め。まぁ分かり易いっちゃ分かり易いんだけどねぇ。
個人的にニガテだったところ :
後半の展開にはまだ興味が持てたとしても、銃撃戦中心の前半にはやはりどうも食指が動いてくれない。でもまぁこれは筆者の三大鬼門の一つ(あとの二つは一体 ? )なので、どうぞ大目に見てやって下さい。
コメント :
根っこは結構トラディショナルな香港の黒社会ものだと思うが、従来のものよりずっとタイトでスタイリッシュにまとめているんだなというのは見て取れる。ガンアクション等がお好きな人にはこの映画はお薦めできるし、評価ももっともっと高くなるはずです。

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【シビラの悪戯<いたずら>】三星半

一言で言うと :
叔母の家に預けられた14歳のシビラは、周囲に対して挑発的な行動を繰り返す……。田舎の村の美しい風景の中に描かれたグルジア映画。
かなりよかったところ :
すんなり伸びきった手足に、形のいい胸、ちょっとハスキーなロートーン・ボイス。でもどこかやせっぽちな体に奇妙な未熟さが残る。ヒロインのこの微妙なアンバランスさが、思春期真っ只中の彼女の危うさを更に印象づけているかもしれない。
個人的にニガテだったところ :
彼女は自分の性的魅力が周囲を掻き回し、意中のオジサン(彼女に思いを寄せる少年のパパ)をも実はドギマギさせていることを知っていながら、敢えて挑発的な態度を取り続けるのである。それだけ自分の魅力に自覚的だっていうことでもあるんだろうけれど、それって自分の性をアピールする以外の方法では周りに影響を与えられない、周囲と関係を取り結べないってことにもなるのでは ? う~ん、今後の道行きがそんなに狭くていいのか。人生、他にもまだいろいろやることはあるはずだぞ。
コメント :
自分が逆に、そういう方法で周囲と関わろうとか自分の存在意義を確かめようなどと発想したことがほとんど一切無いものだから。私には彼女の考えていることは全然分からないんじゃないのかな。
まだ14歳なんだからさー、もっと勉強するとか何とかして他の方法でも世界を広げるようにした方がいいんじゃないの ? 周りに不穏な空気を撒き散らして喜んでいるだけなら、それはまるっきり子供のすることじゃん。などと言ってみたところで、彼女には大きなお世話であるのは目に見えている。彼女にとって、私はこの映画に出てくる頭の固いオバサン連中の仲間の一人でしかない。う~ん、入っていく余地も相容れる余地も無いじゃん。

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【少女 an adolescent】四つ星

一言で言うと :
山あいにある地方都市。中年の不良警官は、複雑な事情を抱え持つ14歳の少女(小沢まゆ)にのめり込んでしまうのだが……。奥田瑛二が自ら主演も兼ねる初監督作品。
あまりよくなかったところ :
こんな若いコがこんなオジサンを一途に愛するようになる(しかも大した訳もなく)ってところに、オジサンに都合のいい手前勝手な妄想が炸裂していると思う。そういったオジサン向けファンタジーのハードルを越えられない人には、この映画は全然駄目なことだろう。
奥田瑛二も相変わらず、何の役をしていても奥田瑛二にしか見えないし。
この設定、というか奥田瑛二の相手役の女の子の境遇もまぁかなり特殊である。そこに“少女”という一般名詞を被せるのは、出来ればやめて欲しいんだけどなぁ……。
かなりよかったところ :
でもそういった部分を看過することが出来れば、本作は、表現なるもののの在り方について強い一嘉言を持つ奥田瑛二さんらしいスタンスやこだわりを随所に感じることの出来る、なかなか力のある作品になっているのではないかと思う。
夏木マリさん、室田日出男さんといった一流どころが周りを固めているから、少女役の小沢まゆさんの熱演も一層引き立っているように思う。脇の俳優さんの使い方も面白い。個人的には吉村昭弘さん、そのまんま東さん、日比野克彦さん(本編の美術監督も担当)らの悪友仲間や、同僚役のなすびさん(久々 ! )なんかがいいなぁと思った。
ちょっと惜しかったところ :
主題歌として使われているこのおフランスのシャンソン、そこだけ浮いているように聞こえてしまって、どうしてもそぐわないなような気がしていたのは私だけ ?
監督さんへの思い入れ度 : 10%
コメント :
ナボコフの創造した“ロリータ”が、どこまで行っても決して主人公のことをかえりみることがない全き他者であったのに較べ、日本人男性の考える女のコというのはどうしてそうも簡単におっさんになびいてしまうのだろう…… ? でもそういったナルシスティックな設定の物語を監督デビュー作として選んでしまうっていうこと自体、いかにも奥田瑛二さんらしくって、興味深いといえば興味深いと思うんだけど。
どっちにしろ、この映画はアメリカとかでは上映させてくれそうにないですな。

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【スコア】二星半

一言で言うと :
表向きはジャズ・バーを経営している凄腕の金庫破り(ロバート・デ・ニーロ)の元に、老フィクサー(マーロン・ブランド)が、若い男(エドワード・ノートン)と組む大仕事を持ち掛けてきたのだが……。新旧3人の演技派俳優の出演する犯罪サスペンス。
かなりよかったところ :
ジャズ・バーのオーナーで、恋人(アンジェラ・バセット)のために裏稼業の方は引退を考えているという役どころの今回のデ・ニーロはなかなかシブい。自らレストランを経営していらっしゃるというデ・ニーロさんの実像はもしかしてこの役柄に近いものがあるのでは ? などと想像してしまったりするのだが。
話題の御大三人のスリー・ショット、ぱっと見は悪くない。
あまりよくなかったところ :
けれど件の三人は、お話の中ではがっぷり四つに絡んでるという訳でもなく、宣伝に煽られた期待は少々上滑ってしまったみたい。実際は、主人公のデ・ニーロに生意気な若造役のノートンが絡む、といったところ。M・ブランドの出番はホントにちょっとだけ。
金庫破りのための準備の過程みたいなものを、たいした演出の工夫も無いままにそんなに淡々・長々と描かれても……もしかしたらそういう過程に美学を感じる人もいるかもしれないけれど、概ね一般の人は退屈に感じるのではないだろうか。最後の20分くらいになってやっと筋が盛り上がってくるのでは遅すぎるでしょ ?
コメント :
監督が気に入らないから自分の出演シーンだけデ・ニーロに監督させたなんて話も聞こえてくる、相変わらずワガママばかりのM・ブランドさんだけど、今回、ちゃんと立ち上がって画面を軽やかに横切っているところを見ただけで結構「おおっ ! 」っと思ってしまった。最近では“元名優”の陰口を聞かない訳じゃないけれど、この存在感はやっぱり蔑れないじゃない。まあねぇ、演技さえ素晴らしければ後は総て許されるみたいな非常識を未だに真剣に信じている昔気質の俳優さんなんて、もう絶滅寸前の天然記念物みたいなもんなんだから、この際暖かく見守ってあげるというのはどうよ。

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【空の穴】三星半

一言で言うと :
北海道旅行の最中に恋人に置き去りにされた女(菊地百合子)は、街道沿いの古ぼけたドライブインを経営する男(寺島進)の元に偶然身を寄せることになったのだが……。【鬼畜大宴会】で衝撃的なデビューを飾った熊切和嘉監督の第2作目。
あまりよくなかったところ :
自分の身の回りのあまり広いとは言えない世界しか知らない、閉じられた環境に生息しているかのようなこの主人公、申し訳ないがあまりにいじましく見えてしまうといえばそう。この手の男と行きずりの女では、そりゃ最初から結末は目に見えているような……。
すごくよかったところ :
しても仕方のないような嫉妬をしたり、思い込みや押し付けから相手を余計傷つけるような言動を取ってしまったり……等身大の男の生々しさを演じきる寺島進さんは圧巻の一言 ! ラスト近くの、諦念とも悟りとも決意とも何ともつかない、アップの表情が素晴らしすぎる。
かなりよかったところ :
凝ったショットの数々を見ていると、熊切監督ってすごくクラシックな意味合いでのいわゆる“映画青年”なんじゃないかなぁと感じさせられる。
個人的にニガテだったところ :
あの女のコがはしゃぐ時のオクターブ高い声はどうもイメージにそぐわないというか……寺島進さんのキャラクターに較べ、女性キャラの方はこれといって見えてこなかったような気がしたのが、どうにも物足りなかった。
監督さんへの思い入れ度 : 20%
コメント :
一歩間違えればものすごく嫌いになりかねないタイプの話だと思うのだが(で実際、あまり明るい話でもないのだが)、不思議と嫌な感じは残らない。逆にとってもいとおしいような気分にすらさせられてしまうのは、全編に熊切監督の“愛”が満ちているからなんすかねぇ。

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【チャック&バック】三星半

一言で言うと :
子供の時から成長が止まってしまっているかのようなバック(マイク・ホワイト)は、母親の死をきっかけに、今はヤンエグとなっているチャック(クリス・ウェイツ)と“旧交”を暖めようとするが……。アメリカのインディペンデント界で数々の高い評価を受けた一作。
個人的にニガテだったところ :
バック君の成長していなさ加減というのは、通常子供っぽいとか言うのとはレベルが違う。合理的に考えれば明らかに正しくない方向性に理不尽に執着するとか、周囲があからさまに迷惑がっているのが全然見えていないとか、悪い奴ではないのだが、とにかく不愉快なまでに鈍感なのがアイタタタ、といった感じ。途中までは、見てるのが非常~に辛かった。
その他のみどころ :
彼がどうしてこうなったかという説明はほとんど一切無いままに話は進むのだが、彼は特殊なケースなのか、それとも日本とアメリカでは、“成長しない”とか“幼児的”とかいった概念の違いの間に深い溝があるのだろうか。
このバック君とチャック君は幼少時代、子供特有の好奇心から一種同性愛的な関係にあったというのが、また話を複雑にしてまして……。
かなりよかったところ :
でもそんなバック君も、少しずつ自分のおかれている状況を理解し、少しずつ自分の居場所を見つけていけるようになっていくところが、見ているとそれなりに感動的であった。社会への適応能力その他の有無の問題に関わらず、どんな人にも等しく居場所が与えられるというのがバック君の生きる社会の根本的な理想なのだとしたら、それは懐が深いことだなぁと思った。
コメント :
こんな映画は始めて観た。とにかく、他のどこでも見たことがないようなユニークな作品ではあることは確か。私には多分、理解しきれていない部分もたくさんあるのだろうと思うけれど、それは受けた印象のそのままに、記憶のどこかにストックしておくことにする。

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【ファイナルファンタジー】四つ星

一言で言うと :
謎の地球外生命体“ファントム”により滅亡寸前の人類を救うべく、女性科学者アキ・ロスは、世界に散らばる8つの“精神体”を集めようとする……。日本の二大ロールプレイング・ゲームの一つ『ファイナル・ファンタジー』シリーズの生みの親・坂口博信プロデューサーが、最先端のCG技術を駆使して創り出したオリジナル映画。
すごくよかったところ :
このCGのクオリティ !! 信じられないくらいに高い !! この細やかで自然なゆらぎや光線の加減といったものまで全部数値的なデータに変換されているのかと思うと、その仕事量のあまりの膨大さに呆然としてしまう。このクオリティは世界のトップクラスをひた走っているのは確実で、ともあれこのような新しい地平を自分達の手で創り出そうとしているフロンティア精神は、素直に称賛したいような気がする。
ちょっと惜しかったところ :
キスシーン一つ取っても、唇がぶつかる時の弾力係数がどうとかいう話になるのだといった話を聞いた。画のクオリティがあんまりにも凄いことになってしまっているため、ストーリーその他の要素までじっくり鑑賞している余裕なんて、実は無かったような気が……。とはいえ、話がもっと救いようもなくつまんなかったらどうしようと実は内心心配していた割には、それほどひどくはなかったんじゃないかとも思われるのだが。
ただ、映画のシナリオというよりはやはり、これをこのままゲームにしたらどうなるかといったことを想起させやすいような展開ではあったかもしれない。やはりそういう創作上のクセって、無意識に出てくるものなのだろうか。
日本より先に全米で公開されたこの映画だが、こういったストーリーやエンディングは、あまりアメリカ人好みとは言えないんじゃないかとは思った。
個人的にスキだったところ :
アレック・ボールドウィンにドナルド・サザーランド、ジェームズ・ウッズに、何とスティーブ・ブシェミまで ! なにげに声の出演陣がむちゃくちゃ贅沢で凄い。
『ファイナル・ファンタジー』への思い入れ度 : 80%
コメント :
観ているといつの間にか前のめりになって、ついつい手を動かしたくなるような衝動に駆られてしまったりしていて。これだけのクオリティのものを作れてしまうとなると、例えばハリウッド・スターの顔や動きをデータとして取り込んで、コントローラーを使って3Dゲームの画面上で動かすなんてことはもう可能なんじゃないか。先日出たゲームの方の『ファイナル・ファンタジーX』では、映画的な演出とゲームのインタラクティブ性の融合がもうかなりのレベルで達成されていたし。この映画を将来振り返ってみた時に、映画というメディアの伝統的な守備範囲を曖昧にし、その境界を踏み越える全く新しい何らかのメディアの初期の形を提示した、重要な一里塚になっている可能性は高いのではないだろうか。
これで植松伸夫さん(FF全シリーズの作曲家)の音楽つきなら、私的にはカンペキなんだけど。

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【ブリジット・ジョーンズの日記】三星半

一言で言うと :
恋人が欲しい30過ぎの独身女性ブリジット・ジョーンズ(レニー・ゼルウィガー)が織り成すドタバタ恋愛コメディ。ヘレン・フィールディングの人気小説を、原作者自らが脚本化。
かなりよかったところ :
単なるコメディとして考えるなら、軽快なテンポや飽きさせない展開は、なかなか面白く見ることが出来た。
いろいろ失敗もするけれど、ブリジットの真摯でひたむきなキャラはやっぱり憎めない。彼女を嫌みなく可愛らしく演じ上げているレニー・ゼルウィガーの力量は、やはり大したもの。
個人的にニガテだったところ :
このお話の中だけを見ていたら、一人が駄目ならすぐ別の人と、新しいオプションが次々と現れてくるように見えてしまった。現実はそんな都合よく行かないんじゃないかなぁなんて、ちょっと思ってしまったりして。その前段階として長~いシングルの時期があった、ということは示唆されているのだろうけれど。
経済的にも独立した女性、なんていう宣伝の文句を真に受けたのがいけなかったんだろうけど……あんなぬる~い仕事をしていたら、私らなんて一発でクビになりますって。彼女ォ、そろそろいいトシなんだろうから、もうちょっとしっかりしておくれ。
コメント :
お話としてはまぁ面白かったけんだど、私は彼女とは全然違うタイプの人間なものだから、彼女に感情移入みたいなことは全く出来なかったので。30代の独身女性、と一口に言ったって実際はいろんな人がいるんだから、全部まとめてひと括りにされたって困るのよねぇ、と宣伝会社の人には文句を言っておきたい。

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【ブロウ】三星半

一言で言うと :
60年代のアメリカで麻薬王にのし上がった実在の人物、ジョージ・ユング(ジョニー・デップ)の栄光と凋落。
かなりよかったところ :
この映画は、別に薬物を擁護している訳ではない。(薬物中毒の悲惨さについても全く言及してはいないけれど。)ただ、ある男が社会から後ろ指を差されても仕方のない手段で成り上がり、様々な裏切りに遭ってまた零落していくところが淡々と描かれているだけだ。望んだ幸せとは何だったのか、自分でもよく分かってはいなくて、それにやっと気づいた時にはその手から零れ落ちてしまっていたなんて、それが人生だと言い放つにはあまりにも悲しすぎる。
それにしても、こうして見るとジョニデさんってやっぱりカッコイイなぁと、つくづく。
あまりよくなかったところ :
お話的には、あれがどうなりました、そしてこうなりましたと、まるで子供の作文のような事実の羅列みたいだとも言える。スッキリとスムーズに進んで分かりやすいところは買えるかもしれないけれど、どうも今一つドラマチックな盛り上がりには欠けるというか、映画のテーマとしてもどこに力点を置きたかったのかが見えにくい。(一応、アメリカン・ドリームの本質についてなどの話じゃなかったのか。)
コメント :
ヒステリーなビッチ役のペネロペ・クルスより、前の恋人役のフランカ・ポランテの方がずっと可愛い。彼女とずっと一緒にいることが出来てれば、あんなふうにまではならなかったのかもしれないのにねぇ……合掌。

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【魔王】三つ星

一言で言うと :
ドイツ軍の捕虜になったフランス人兵卒のアベル(ジョン・マルコヴィッチ)はいつしか、周辺の子供達を誘拐してきて一人前のナチス少年兵にすることこそが子供達を救う道であり、それが自分の天命であると信ずるようになった……。ミシェル・トゥルニエ原作の小説を、【ブリキの太鼓】のフォルカー・シュレンドルフが映画化。
すごくよかったところ :
あらすじを聞いただけではエッ ? と思うような設定なのだが、主人公の心情を幼い頃から順々に丹念に綴っていくことで、人間と運命なるものを巡る一種壮大な絵巻を構築することに、ある程度は成功しているのではないかと思う。
その他のみどころ :
【バグダッド・カフェ】のマリアンネ・ゼーゲブレヒトさんは、とっても好きな女優さんの一人。久々に拝見できて嬉しかった。
監督さんへの思い入れ度 : 45%
あまりよくなかったところ :
しかしこの設定で言語が英語っていうのはいくら何でも……ドイツ語を喋らないナチス ? そりゃ説得力が半減どころじゃないでしょう。しかもこれはハリウッド産って訳でもなく、純然たるヨーロッパ映画だというのに……。
言葉が英語になったのは誰の意向なのかよく分からないけれど、マルコヴィッチさんも、この映画に出たくて、そして本当に掛け値なしの世界的な名優と呼ばれたいのなら、本来なら死ぬ気でフランス語やドイツ語をマスターすべきだったのじゃないのだろうか。テーマが伝わればそれでよいという意見もあるかもしれないが、私はやっぱり、言葉そのものが内包している文化や歴史を軽視しないことは大事だと思うのだ。
コメント :
だとしても、この映画はシュレンドルフ監督のフィルモグラフィ上、やはりそれなりに重要な作品なのではないかと思うのだが、それが5年も来なかったとはね……やれやれ。(以下同文。)

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【YAMAKASI ヤマカシ】二つ星

一言で言うと :
身軽に壁をよじ登り塀を難なく飛び越えるフランスの7人組のパフォーマンス集団『ヤマカシ』の出演するアクション映画。『ヤマカシ』とはコンゴのリンガラ語で“超人”の意味。
かなりよかったところ :
彼等のパフォーマンスは、目の前に立ち塞がる障害物を乗り越えていくことを体現してみせた“移動の芸術”なんだそう。そんな彼等の活動の一端を垣間見ることができるのは興味深い。
7人のキャラクターは一人一人がとっても魅力的。
あまりよくなかったところ :
でも彼等はあまりにも簡単に壁登りや柵越えをこなしてしまうので、かえって何だかあまりありがたみを感じられなかったりして……。それがどれだけ凄いことなのかを画面から感じ取りにくいというのは、撮り方に何か工夫が足りないということなのではないだろうか。
折角これだけ各人のキャラが立っていて、実際一人一人をわざわざスクリーン上で紹介までしておきながら、その個性を生かす展開には全くなっていないというのは、一体どういうことなんだろう。
でもって、いくら最初から期待してなかったとはいえ、この小学生並のストーリーは一体どうしろっちゅうの。いや、そんなことを言ったら小学生に失礼か、というくらい御粗末過ぎて話にならない。
コメント :
総じて、素材は良くても撮り方が余りに雑、といった印象。勿体なさ過ぎる。

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【夜になるまえに】三星半

一言で言うと :
同性愛者であるが故に革命後のキューバで迫害され、ニューヨーク移住後にはエイズが発症してこの世を去った詩人レイナルド・アレナス(ハビエル・バルデム)の物語。
かなりよかったところ :
主人公のレイナルド・アレナスの独特の翳りや熱気があってこそ成立するこの映画の空気感。彼を演じるハビエル・バルデム君は、とりあえず一見しておく価値はあるに違いない。
その他のみどころ :
ジョニー・デップさんの女装姿 !
ちょっと惜しかったところ :
でも監督のジュリアン・シュナーベルさんは結局この映画で何がやりたかったのかというと、そこのところはどうも判然としない。作者のキューバなるものに対するスタンスもどうも曖昧なような気がするし。【バスキア】の時もそう思ったけど、この人は何かしらの雰囲気を形づくる以上のことにはあまり興味が無いのではないのだろうか。
直接その場に居合わせるというよりは、まるでガラスの向こう側からこの世界を観察しているかのような印象を与える語り口にも、好き嫌いはあることだろう。
コメント :
地の会話文まで概ね英語だというのに、たまに気が向いた時だけスペイン語を喋らせてみる(詩の朗読とか)ってのは、カッコつけ以外の何者でもないんじゃないかな。まぁ何かそんな映画、と思ってしまったりしまして……。

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【ラッシュアワー2】二星半

一言で言うと :
ジャッキー・チェンとクリス・タッカーの凸凹コンビが、香港やラスベガスを股に掛けて暴れ回るコメディ第2弾。
かなりよかったところ :
2人のキャラのコンビネーションはやっぱり魅力的。
個人的にスキだったところ :
久々に見たジョン・ローンさんの御姿 ! 世間的にはチャン・ツィイー(【グリーン・デスティニー】【初恋の来た道】で売出中の彼女)の方が話題になっているみたいだけど……。
あまりよくなかったところ :
しかしお話の方は何だかかなり行き当たりばったりで随分とお粗末、前作のような畳み掛けるような盛り上がり感には欠けているように思われたのだが。
コメント :
ハリウッドではもう3の話とか出ているらしいっすけどね。お二人のキャラ自体は名残惜しい気もするけれど、とりあえず私はもういいです。

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【ルムンバの叫び】三星半

一言で言うと :
1960年にベルギーから独立したコンゴ民主共和国(旧ベルギー領で後にザイール共和国と改称、最近またコンゴに戻る)の初代首相で、短い在位機関ののち暗殺されながらも今尚カリスマ的な人気があるという、パトリス・ルムンバの物語。
かなりよかったところ :
第二次世界大戦後の20世紀後半にはこのように、旧植民地だった地域が独立しては、自分の陣営に引き入れたいアメリカやソ連が裏で自分の言うことを聞いてくれそうな勢力に資金や武器を提供し、結局政情不安が続くといった現象が世界中で起こっていた。ベトナム戦争もそのような構図の上に起きた悲劇だったし、例えばチリのピノチェト軍事政権などもそうだった(コスタ・ガブラス監督の【ミッシング】などは、この軍事政権成立にアメリカが関わっていたことをはっきり示唆している。)この映画に描かれているのもそんな現象のほんの一角だ。そしてその現象の後遺症は、今現在のこの現実の中にまで確実に尾を引いている。それらの大国がそれだけの犠牲を作って、そうまでして守ろうとしたイデオロギー(例えば“民主主義” ? )とは一体何だったのか。今の情勢が情勢だから、観ていて暗い気分になることしきりだった。
ちょっと惜しかったところ :
詳細に渡って掘り下げられた事実関係が描かれているのだが、通常は関わりの少ない国の話なので、細かい点まで把握するとなるとさすがに少し大変かもしれない。時代的な背景等の予備知識も、全く無いとなるとちょっと難しいかも。
コメント :
ラウル・ペック監督はハイチ出身で、昔家族でコンゴに滞在していたことがあるなどの縁から、ルムンバの映画を創るに至ったという。(本作の前にルムンバのドキュメンタリー等も監督している。)当のコンゴでは、この映画にも出ていたモブツ大統領をやっと失脚させたカビラ大統領も評判が芳しくなくて結局地位を追われ、未だに厳しい状況が続いており、とても映画を作るどころの話ではないらしい。……私は、ただ単に悲しがっているしか能が無い。

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【ロンドン・ドッグス】四つ星

一言で言うと :
退屈なカタギの仕事に嫌気が差し、ギャングの一員の幼なじみジュード(ジュード・ロウ)に頼み込んで組織に入れてもらったジョニー(ジョニー・リー・ミラー)だったが、ボスのレイ(レイ・ウィンストン)を始めとして皆あまりに平和主義者なのに拍子抜け、対立組織のチンピラ(リス・エヴァンス)と勝手に小競り合いを始めたのだが……。【ファイナル・カット】の製作・出演チーム+αによる、ロンドンが舞台のギャング映画。
かなりよかったところ :
それまでの呑気に笑えるトーンから一転、場面場面にインサートされる愉快なカラオケ・シーンと主人公の滑稽なピエロの扮装の意味が明らかになる、終盤からラストの展開にはびっくり。
というか、このギャング達がこんなにまで平和主義者なのは、本気で争っても互いがボロボロになるまで体力を消耗するだけで誰の得にもならないということをよーく知っているからなんじゃないのか(実は経験でそれを知っているほど場数を踏んだ奴らなのだ)。ということを一挙に明らかにして、それまで見ていた場面の意味まで全部反転させてしまうこの落とし込み方って、結構ワザありなのでは ?
その他のみどころ :
【ファイナル・カット】同様、役名と俳優名が同じ人が多いのが、まるで役者同士の稽古用の即興芝居でも見ているような不思議な感覚を醸し出す。
コメント :
予算たっぷりな大作の雰囲気からは程遠い、いかにもちょっとした小品といった趣きの作品なんだけど、破綻もなくかなりよくまとまっているんじゃないかと思う。こういうの、結構好きなので。

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【忘れられぬ人々】四つ星

一言で言うと :
今はひっそりと暮らす元ヤクザの男(三橋達也)は、親しい戦友達(大木実・青木富夫)と共に、ずっとかたみの品を預かっていた死んだ戦友の孫娘に会う。一方その恋人は、老人相手に悪徳霊感商法を行う会社に入社してしまい……。【おかえり】の俊英・篠崎誠監督が描こうとしたのは、生きることの証やそれぞれの人間同士の関わり、受け継がれていくもの、といったようなものだろうか。
すごくよかったところ :
この映画のテーマを言葉で言い表わそうと考えてみたけれど、どうも何かうまく言い当てられない……(それじゃこんなもん書いている意味がないじゃん ! )しかし下手に小細工を弄した言葉より、あのおじいちゃん3人組やその奥さん(漫才の内海桂子師匠 ! )や恋人(風見章子)のおばあちゃん達の存在感の方が断然勝っているんだもんなぁ。重過ぎもせず軽過ぎもしないそのたたずまいそのものが、一人一人の様々な人生経験を何よりも雄弁に物語ってしまうというか。俳優さん御本人達の今までの紆余曲折や芸歴の長さによってしか培われない年輪というのは、年若い人がどんなに逆立ちしたって創り出せっこないものだから。素晴らしすぎる。
ストーリーを書き出そうとしてみたら、思ったよりかなり入り組んでいて難しかったのでびっくり。(前項記載のあらすじは相当端折ってあります。)観てる時は全くスンナリと自然に受け入れられたんだけど、これは構成がすごく上手に練られていて、緻密で無駄がないってことなんじゃないかと思う。う~ん美しい。長編第2作目にしてこの余裕と風格は一体何 !?
かなりよかったところ :
リトル・クリーチャーズがサントラに参加してるって意外だったが、いい目のつけどころだなぁと思った。
個人的にスキだったところ :
真田麻垂美さんの演じた戦友の孫娘さん=看護婦さんがいいなぁ。こんなふうに地に足をつけたしっかりものの若い女性(しかも大変性格がいい)って、映画の中できちんと造形されて描かれることって案外少ないように思うので。で、男の子(遠藤雅)の方がちょっとだけ頼りないこんなカップルって、その辺に本当にいそうだし。
監督さんへの思い入れ度 : 75%
ちょっと惜しかったところ :
終盤の展開がかなり意外になるのでびっくり。戦争中も苦しみ、戦後も苦しんだ彼等にとっては、国も警察もあてにならないってことか。よく考えれば分からないではないような気もするのだけれど、この展開を唐突に感じる人も中にはあるかもしれない。
コメント :
篠崎監督は私と同年代くらいの人のはずなのに、どういった動機があって彼等を主役に据えた映画を撮ろうとしたのだろうか。それが分かればもう少しは、この映画の良さをうまく伝えられるだろうか ?

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