Back Numbers : 映画ログ No.52



【エスター・カーン めざめの時】三星半

一言で言うと :
19世紀のロンドン、ユダヤ人の少女エスター(サマー・フェニックス)は女優になることを志す……。フランスの俊英アルノー・デプレシャン監督による英語劇。
かなりよかったところ :
サマー・フェニックス(故リバー・フェニックスの妹さんだ ! )の演じる、常に満たされず孤独で寂しげだが芯の強いところを見せるヒロインは魅力的。
そのヒロインがいかに女優根性を培っていくかを活写する。女優というのはつくづく因業の深い商売だなぁと。
ちょっと惜しかったところ :
でもその女優なるものの解釈は、少々ステレオタイプかもしれない。
英語のセリフにしては舌っ足らずかなぁと思われる俳優さん(多分フランス人)が何人かいらっしゃったのはちょっとばかり気になった。
コメント :
思い起こす限り、私は過去のデプレシャン監督の作品とはどうも相性がよくないみたいだったのだか、それは、青二才のおにいさんが悩んだってどうしようもないようなことでウダウダ理屈をこねているようなタイプの話が概ね嫌いだというところに起因していると思われる。本作の語り口にも必ずしも好きではない部分もあったようにも思うが、女性が主人公だった分、まだ見やすいものに映ったのかもしれない。

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【おいしい生活】三星半

一言で言うと :
ドジなコソ泥(ウディ・アレン)は金庫破りを計画したが、カムフラージュのために女房(トレイシー・ウルマン)に始めさせたクッキー屋の方が大当り。が、金持ちになったのを機にハイソな生活に明け暮れ始めた女房が、コソ泥には面白くない……。御存知ウディ・アレンの新作コメディ。
かなりよかったところ :
いつもながらの軽快で無駄のない、テンポのよい話運び。
生活の程度の違いなんて、人間が本当に幸せに暮らせるか否かという問題には実はあまり寄与しないのだということを、ずばっと言ってしまっている辺りはいいかも。
監督さんへの思い入れ度 : 60%
ちょっと惜しかったところ :
しかし、いわゆる学の無い人達がとんちんかんな受け答えをするのを笑いものにしているきらいがあるのが、見ていてあまり気持ち良くないような……。
個人的にニガテだったところ :
ウディ・アレンが演じた男のような、実力が伴わないくせに虚勢を張って後でもっとドツボにはまってしまうタイプの人って、個人的には見ていてかなりツライかも。
コメント :
だって、実像はどこをどう切ってもインテリの筈のウディ・アレンがこういう役をやるというのは、な~んか嫌ったらしくないですか ? そうでもない ?
一応面白いことは面白いんだけど、今回はどうも自分のトラウマのどこかにも引っ掛かってしまうような部分も多く、何だか心から楽しんでは見れなかったような気がする。

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【オー・ブラザー ! 】四星半

一言で言うと :
今世紀初頭の南部アメリカ。刑務所を脱走した三人組(ジョージ・クルーニー、ジョン・タトゥーロ、ティム・ブレイク・ネルソン)の辿る旅路を、ホメロス神話をモチーフに描くコーエン兄弟の新作映画。
すごくよかったところ :
南部なまりも丸出しの三人のオトボケ道中記、なんだけど……出てくる人間、皆が皆くせもの揃いなところに、人間ってなんて可笑しい存在なんだろう、としみじみ感じさせてくれる。
そんな妙なトーンのコメディなのに、何か神話的なイメージを喚起させるような神々しさがあるというのは、一体どういうワザなんだ !
ホメロス神話の筋書はどういったものだったか、よく覚えちゃいないのですが、旅路の果てに宝を手にする、というモチーフは全体をまとめて引き締めているのだろう。冒頭、まるで詩を歌うように朗々と主人公達の運命を詠したトロッコの預言者(リー・ウィーヴァー)には、全身、ザァーっと鳥肌が立つのを感じた。
オマケ : 盲目の預言者の預言の文言です : You seek a great fortune, you three who are now in chains. You will find a fortune, though it will not be the one you seek. But first... first you must travel a long and difficult road, a road fraught with peril. Mm-hmm. You shall see thangs, wonderful to tell. You shall see a... a cow... on the roof of a cottonhouse, ha. And, oh, so many startlements. I cannot tell you how long this road shall be, but fear not the obstacles in your path, for fate has vouchsafed your reward. Though the road may wind, yea, your hearts grow weary, still shall ye follow them, even unto your salvation.
個人的にスキだったところ :
筋書に登場する政治家の話で、大衆の好むものを理解しそれをうまくコントロールできた者(しばしばメディアをうまく操って)こそが結局権力を制するのだ、という視点は面白かった。
監督さんへの思い入れ度 : 120% !!
コメント :
コーエン兄弟の作品には駄作が1本も無い。そして、新しい作品を観れば観るほどもっと好きになる。もうすっかり中毒患者です。早く次のが観たい。
でも、ブラピが第2次大戦中の脱走兵の役で日本でロケする予定だった映画ってのは一体どんなんだったんでしょう……何だか見たいような見たくないような。取り敢えず延期になったと聞きワタシはほっとしておりますが。

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【陰陽師〈おんみょうじ〉】一つ星

一言で言うと :
平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明を主人公にした夢枕獏の人気小説の映画化。
個人的にニガテだったところ :
コミックス版の作者の岡野玲子さんの『ファンシイダンス』の頃からのファンなもので……陰陽道そのものの解釈にまで迫ろうとする岡野版はかなり難解で、私も100%理解している自信は全く無いのだが、それにしても自分で思っていた以上に影響を受けまくっているのだなぁと、今回激しく納得。
まず、野村萬斎氏が安倍晴明役というのが全然私のイメージにはそぐわない。いくら原作者の夢枕獏さんの御指名だったとはいえ、この世への執着などまるで超越してしまっているかに見えるコミックス版の晴明に比べると、萬斎氏にはどうも透明感が足りなくて俗的に見えてしまう。
源博雅役の某君は……申し訳ないけれど、ちょっと下手すぎる。科白棒読みじゃん。
敵役その他を配して作っている今回のストーリーは、単なる底の浅い勧善懲悪のスペクタクル性を狙ったサイキック・ウォーズものにしか見えない。コミックス版等の世界観の拡がりと較べてしまうと、これはどうにも、あんまりにも物足りなく感じられてしまう。
コメント :
最初は見る予定にしていなかったのについ気まぐれで見に行ってしまったのだが……やはりやめておくべきだった。大変後悔している。
映画は映画で原作やコミックス版とはまた別物なのだろうから、同列に並べて見てしまうのはフェアな見方とは言えないかもしれない。全くの予備知識なく本作だけを見てみれば、これはこれで面白いのかもしれないし。ただ、世の中には岡野版のファンの人も数多く存在していることだろうし、その中の何%かは私と同様の感想を抱く人もいるかもしれないと思ったので、敢えてそのまま書かせて戴くことに致しました。

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【カルテット】三星半

一言で言うと :
宮崎駿、北野武といった監督の作品には最早欠かせない作曲家・久石譲がついに監督業に進出 ! カルテットを組む4人の若者が成長し、美しい弦楽四重奏を奏でるようになるまでを描く。
すごくよかったところ :
全編に流れる弦のアンサンブルの響きがとても心地よい。音楽って、いいなぁ。さすがは久石さん、「本格的な音楽映画を創りたかった」と抱負を語っただけのことはある。
かなりよかったところ :
彼等は一応、ちゃんと楽器を弾いているように見える ! 大抵の映画の楽器の演奏シーンでは本当にがっかりさせられてしまうことが多いので、これは特筆すべきことだ。
個人的にスキだったところ :
主演の袴田吉彦さんは、やはり画面映えする人なのだなぁと再確認。あと、4人の恩師役の三浦友和さんはやっぱりいいですね。
ちょっと惜しかったところ :
波打ち際で演奏をしたりとか、どしゃぶりの中で楽器を持ち歩くとか(いくらケースに入れているとはいえ)……画的な効果はともかく、そんなことをして楽器は大丈夫なのか ?
ストーリーの運びは悪くないけれど、お話の展開自体はありきたりと言えばまぁありきたりかもしれない。
コメント :
お話自体にはそれほど目新しい部分は多くないとしても、それを補ってあまりある品の良さがあるのがいい。よっぽど体質的にクラシックを受け付けないという人以外には、まずお薦めできると思う。

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【Go ! 】三つ星

一言で言うと :
惚れてしまった年上のあの人に約束のピザを届けたい ! ピザ屋でバイト中の高校生(高田宏太郎)が、東京から長崎までの1300キロを配達バイクで爆走する姿を、道中の人々との交流などを交えながら描く。
かなりよかったところ :
ピザ宅配道中1300キロ ! その発想は出色だ。
主演の高田宏太郎君のイキのいい演技には注目。
個人的にスキだったところ :
全国に伸びゆく「PIZZA-LA」網 ! う~ん、全国に広がるファーストフード店の力を総結集すれば、何かスゴいことが出来てしまうのかもしれない……。
ちょっと惜しかったところ :
元のアイディアの斬新さに較べ、途中のお話の展開や実際のその間の取り方などには、かなり保守的で古めかしい日本映画の匂いがしてしまったのがどうも気になった。
コメント :
ちなみに、金城一紀さん原作・窪塚洋介君主演の【Go】とは別作品ですので御注意を。(そちらは2週間後の公開になります。)

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【Go】四つ星

一言で言うと :
在日コリアンの高校生を主人公にした金城一紀の人気小説を、宮藤官九郎脚本・行定勲監督により映画化。
すごくよかったところ :
なんと言っても、主人公の杉原をまるで原作から抜け出してきたかのように演じる窪塚洋介さん ! 彼以外での映画化はありえなったというか、最早考えられないというか。彼はやはり何年かに一人の逸材なのではないかという予感は、また一段と強くなった。
周りの役者さんも、山崎努さん、大竹しのぶさんを始めにこれ以上のキャスティングはありえなかったかもと思わせるくらい秀逸で、実際にどの人も素晴らしい演技を披露してくれた。特に、主人公の親友のジョンイルを演じた細山田隆人さんは、イメージにぴったりでいい感じだったかも。
原作のエピソードや味を活かしつつ、非常に的確にまとめられていた脚本もとてもよかったと思う。
あまりよくなかったところ :
ヒロインの桜井には、原作者がもともとイメージしていたという柴咲コウが折角キャスティングされていたというのに、どうももの足りないままに終わってしまった。
監督は原作の桜井の“スノッブさ”があまり好きではなくてもっと普通の女の子に近付けてみたのだとか言っていたけれど、それは要するに、監督は小難しいことを言うような女はお嫌いらしいとか解釈していいのかな ?
しかし、桜井のその“スノッブさ”こそが好きで、その部分を介しての主人公との気持ちのやり取りこそに面白さを感じていた私のような受け手には、この映画の二人の何だか焦点の無いような関係は気の抜けたソーダか何かみたいで、全然手応えが感じられなかった。
まぁ、女の好みが違うという溝ばかりは、いかんともしがたいでしょうか……。
コメント :
私は行定監督のオリジナル作品を過去に一本見て、この監督には一生近づかない方が多分お互いの身のためだと悟った覚えがある。かように監督の感性とは相性が悪いので、まるであら探しをするような、通常より厳しい見方になっていた傾向はあったかもしれない。
おまけに今回は、筆者には非常に珍しいことに予め原作を読んでいたので尚更……。
いやそれでも、みどころはたくさんあるし、全体的に丁寧に創られたよい映画でしたよ、ハイ。

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【ショコキ ! 】四つ星

一言で言うと :
故障したエレベーターの中で密室エレベーター・コントを考え始めるジョビジョバの面々だったが、同じく止まってしまったすぐ隣のエレベーター内では、ほぼ彼らが想像した通りの事態が進行していた……。人気お笑い集団ジョビジョバのリーダーのマギーこと児島雄一が脚本・監督を手掛ける一編。
かなりよかったところ :
一応コメディ仕立てにはなっているけれど、その実、かなりシュールなメタ・シチュエーション。面白いことを考えるもんだ。
舞台はほぼこの2台のエレベーター内のみ。それで手を換え品を換え、1時間半近く話を持たせてしまうのもすごい。
この特異な設定と展開に、ジョビジョバのパフォーマンスのほとんどの脚本と演出を手掛けているというマギーさんの才覚を、改めてひしひしと感じた。人によって合う合わないはあるかもしれないが、私は結構好き。
個人的にスキだったところ :
本編の主役は誰が何と言っても遠藤憲一さんですってば。今回は視聴率に追われまくっているギョーカイの敏腕ディレクター役。イヤな奴からイイ奴から、真面目な奴から不真面目な奴まで、この人は何を演らせても本当にきっちりと、見応えのある演技をして下さる。
その他のみどころ :
私は昔から、河相我聞さんが結構スキ。彼が演技しているところを久々に見れて嬉しい。
ちょっと惜しかったところ :
ところどころ、テンポがちょっと落ちる部分を感じない訳ではなかった。惜しい !
コメント :
ジョビジョバがかつてフジテレビで深夜にやっていた『ロクタロー』という番組の「キネマの天使」というシリーズもののコントが大好きだったのだが(この番組は赤盤・白盤という2本組のビデオになっています。興味のある方は是非)、やっぱりマギーさんってかなりのスキモノだったんだということが判って、とても嬉しい。これからも何をやってくれるのか、とても期待しています !
ところで「ショコキ」って題名の意味が未だに分からないんですけど……。(←その後、何人かの方から「昇降機」の意味だとの御指摘を戴きました。ありがとうございます !! )

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【スキゾポリス】三星半

一言で言うと :
【セックスと嘘とビデオテープ】で華々しくデビューしたスティーヴン・ソダーバーグ監督が、その後のキャリアのどん底時代に、友人達と手持ちの資金を掻き集めて撮ったという実験的作品。
個人的にスキだったところ :
すごくヘンテコでナンセンスなエピソードのオンパレード……というか、最後まで見てるとこれで一応筋らしきものがあったという方がビックリだったが。
この話のつなげ方は何か『モンティ・パイソン』みたいだな、と思いながら見てたのだが、監督の念頭には『モンティ・パイソン』とルイス・ブニュエルとリチャード・レスター(【ナック】他)があったのだそうな。後者の2つは、ふ~ん成程、といった感じ。ブニュエルならさしずめ【ブルジョアジーの秘かな楽しみ】とか【皆殺しの天使】とかいったところ ?
スティーヴン・ソダーバーグ監督は趣味に走るとこーなる人なのだということは、今後の参考にさせて戴くことにしよう。
その他のみどころ :
なんかセリフが、ところどころヘンな日本語になったりヘンなフランス語になったりする……その意味するところは一体何なのか……よく分からん。
コメント :
まぁ、こういった映画は好き好きだから……万人に奨めるつもりもないのだけれど、最近のフツーの映画は何を見たってワンパタで変わりばえがせず、いい加減飽きが来ているという人には、たまにはこういった映画も視点が変わっていいんじゃないのかな。
それにしても、この映画が日本で上映される機会がよもやあるとは思っていなかった。確かに、ソダーバーグ監督のフィルモグラフィ上ではそれなりに重要な作品だとは思うんですけど……こんな粋狂をやらかしてくれるなんて、さすがはアップリンクさんだ。

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【ターン】四つ星

一言で言うと :
交通事故にあった銅版画家の女性(牧瀬里穂)は、同じ一日が何度も繰り返される誰もいない世界に行ってしまうが、絶望の淵に沈みかけた時にどこからか一本の電話が掛かってきた……。北村薫の人気小説を、【愛を乞うひと】の平山秀幸監督が映画化。
すごくよかったところ :
こんなに異常なシチュエーションの中、ヒロインは、いつもと変わらない日々の生活の営みを着実にこなすことで正気を保とうとしているかのようだ。この牧瀬里穂さんがとにかく抜群にいい ! 懸命な彼女の姿を見ているだけで何だか泣けてきてしまったりして……このテのお話では非常に珍しいことなのだが。
牧瀬里穂さんの母親役の倍賞美津子さん(小学校の先生)がまた素晴らしい !
SF的な設定もさることながら、そんな中でも努めて冷静であろうと常識的に振る舞う地に足のついた女性達の造形が、この映画の一番の魅力だと思った。このような等身大の女性達を映画の中で見かけることはまだまだ少ない。平山秀幸監督がその辺りを丁寧に描いて下さっているところに、非常に好感が持てた。
個人的にスキだったところ :
大河ドラマもいいけれど(『北条時宗』いよいよ佳境です、お見逃しなく ! )、北村一輝さんはやっぱりスクリーンで見てこそよねっ。しかしまたこの手の役っていうのも一種のタイプキャストだと思うんだけど……いい人の役の彼もとっても素敵なんだけどなぁ。
その他のみどころ :
中村勘九郎氏の御長男・勘太郎氏は(もうこんなにおっきくなったんですねぇ)、オーバーアクトぎりぎりってところでしょうか。でも真面目そうな雰囲気はこの役柄には合っていたように思う。
監督さんへの思い入れ度 : 15%
コメント :
この映画の一番の欠点は、ワーナーマイカル系のシネコンでしか上映しないこと。都心での上映は一切ナシ。配給会社にしてみれば何かの戦略のつもりなのかもしれないけれど……ウチからは単に遠いだけなんじゃ~っ !! アスミック・エースのタコ !

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【タイガーランド】三星半

一言で言うと :
ベトナム戦争末期の厭戦感漂う軍事訓練所の様子を、ジョエル・シューマッカー監督が『ドグマ95』的な手法を用いて描く。
個人的にニガテだったところ :
21世紀になってもまだベトナム戦争か……うーん正直言って、題材自体には最初はそれほど興味は沸かなかったのだけれど。
かなりよかったところ :
けれど、戦争末期(60年代後半~70年代前半の『ウッドストック』などのカウンターカルチャー華やかなりし頃か)には軍隊の中でさえ相当士気が落ちてきていたというところを正面切って扱った作品には初めて出会ったように思うし、そういった部分はそれなりに面白く観ることが出来た。
個人的にスキだったところ :
しかしもっと面白いなぁと思ったのは、今までハリウッドの王道映画を数多く作っていながら、今回、通常の商業映画的手法からはほど遠い方法をわざわざ用いてこのような映画を創ろうとしたジョエル・シューマッカー監督その人だ。
コメント :
ジョエル・シューマッカーという人は、ノった時には抜群に面白い映画を撮ることもあるけれど、反面、頼まれるがままになんとも気の抜けたような映画を平気で作ることもある、なんだかヘンな監督だという印象がある。
監督もベトナム戦争やカウンターカルチャーに対しては思うところのある世代だと思われるのだが、そういった監督が現行のハリウッドの馬鹿馬鹿しくも巨大なシステムをどのように捉え、実際どのように身を処してきたのか ? そして今回何を思ってこのような映画を撮ろうと思ったのか ? その辺りの精神史を検証してみると、いっそ面白いのかもしれない。

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【トゥームレイダー】三つ星

一言で言うと :
スーパーヒロイン・ララ・クロフトが主人公の超人気アクションゲームを、アンジェリーナ・ジョリー主演で映画化。
かなりよかったところ :
この映画はもう、1にも2にもアンジェリーナ・ジョリー。カッコイイーっ !! それに尽きる !
個人的にスキだったところ :
忠実( ? )でシブい執事と、メカ&コンピュータなら何でもござれのオタクエンジニア。そんな便利な部下なら一度持ってみたいかも ?
その他のみどころ :
アンジェリーナ・ジョリーとジョン・ボイトの初の本格親子競演(しかもそのまんま親子役)。
あまりよくなかったところ :
でもあとの部分は、ストーリーといい仕掛けといいこれといって特筆する点もなく、単なるごく普通のアクション映画以上のものには見えてこなかったので残念だ。
コメント :
アクションゲームは苦手なので『トゥームレイダー』は一度もやったことないんだよね。聞いた話だとかなり難しいらしいのだが……。

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【同級生】四つ星

一言で言うと :
自らをゲイと自覚する男子高校生(ベン・シルヴァーストン)の恋と成長を描く舞台劇の映画化。
すごくよかったところ :
自分の同性愛的志向を周囲に隠そうとする恋人(彼は一生隠れゲイになるのかもね)に苦悩しつつも、“リアル”であることを選ぼうとする主人公の男の子が瑞々しい。(本作の原題は“GET REAL”である。)
で、観終わった後の印象が非常に清々しい。何か久々に素敵なものを見せてもらったという感じがした。
コメント :
何故イギリスの学園ドラマには、【アナザー・カントリー】だの【モーリス】だのといったような同性愛ものが定番のように周期的に現われてくるのだろうか ?
ただし今回の映画では、周囲の女性達(友人とか母親とか)が、男性達よりもよっぽど考えの柔軟な良き理解者として登場しているのが特徴的だった。特に、主人公の幼なじみのちょっとぽっちゃり系の女の子のキャラが秀逸である。

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【ファニーゲーム】四つ星

一言で言うと :
今年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得したミヒャエル・ハケネ監督の本邦初公開作。別荘を訪れたある家族に降り懸かる不条理な暴力を描く。
すごくよかったところ :
ほんの些細なことからいちゃもんをつけ、家族の必死の懇願も抵抗も全く意に介さずに、顔には不気味なニヤケ笑いを浮かべながら容赦なく“ゲーム”を続ける奴ら……。ここにはどんなコミュニケーションも成立しない。どれほどもがいても、ただ蹂躙されるがままの圧倒的なやりきれなさがあるだけだ。
暴力とは本来、こちらの都合などまるでお構いなしの、意志の疎通の阻害を前提にせずには成立しないものなのだ。暴力のそんな側面を、ここまで正面から余すところなく描いてみせた映画は初めて観た。
個人的にニガテだったところ :
確かにこれは表現としては凄いレベルのことをやっているのだけれど……ココロやカラダが弱っている状態でうっかり観てしまうとかなり立ち直れなくなってしまうかも(筆者は失敗しちまいました)。この話、はっきり言って救いは一切期待出来ません ! コンディションはよく整えて、かなり覚悟を決めてから観ることをお勧めしておきます。
コメント :
何が“ファニー”なんだよぉ ! そりゃもの凄いブラックユーモアだな。

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【リリイ・シュシュのすべて】四星半

一言では……難しいが(ネタバレ御免 ! ) :
どちらかというといじめられっ子の中学生蓮見雄一(市原隼人)は、ネット上で秘かにリリイ・シュシュというミュージシャンのファンサイトを運営している。リリイの“エーテル”が世界を浄化するのだという。
蓮見と仲のよかった星野(忍成修吾)はあるきっかけで凶暴化し、いじめを牛耳る側の立場になっていく。彼は蓮見のファンサイトの常連投稿者だったのだが、彼も蓮見も、互いにそのことは知らなかった。
美少女の久野(伊藤歩)はクラスを仕切る女子から嫌われて、彼女の差し金でついには集団レイプされてしまう。星野らに売春をさせられている津田(蒼井優)は蓮見と心を通わしかけるが、結局現実的な抜け道を見つけることは出来なかった。
そしてリリイ・シュシュのコンサート会場で出会った蓮見と星野はついに……。
すごくよかったところ :
様々ないじめのシーンなど、非常に凄惨な光景がいくつも出てくるのに、何だか妙に静謐で美しい。肉体感覚を伴っていなくて、まるで夢の中の出来事みたい。でもそういえばあの時代の出来事って、具体的な物事の流れよりは、それぞれの個人の内の、絶対的に純化された世界を志向する観念の中にこそ存在していたのではないか。(そんな“絶対”など存在しないということを知るのが年を取るということなのだろうけれど……。)描かれている一つ一つの出来事よりも、それが一種現実感を伴っていないということを捉えていること自体が、あまりにリアルだと思った。
そんな捉えどころのない感覚自体を描いてみせようとする人がいるなんて……岩井俊二監督の真価が初めて少しだけ分かったような気がした。さすがは庵野秀明監督(『エヴァンゲリオン』他)のお友達だこと。
個人的にスキだったところ :
ラストシーンの星野君が泣けるなぁ。ちょっと許しがたいようなとんでもない奴と化してしまった彼だけど、だからこそその心情を想像してしまうと悲しすぎる。
その他のみどころ :
ある種の音楽に絶対的な帰依を求める感覚というのは、判るような気がする。私にとってのYMOは“エーテル”ではなかったけれど、この世の不条理さを総て解読することが出来る方程式の万能の解のようなものだった。
しかしあのリリイさんの曲って、アレンジは今風でもヴォーカル自体は70年代辺りの山崎ハコさんとかみたい(それこそりりィさんとか ? )。今の若い人がそんなようなもので感動している図というのが、なんかシュールだ。
コメント :
10代には絶対に戻りたくない。どんな条件を積まれたって、死んでもイヤだ。万が一読者の方に10代の方がいらっしゃったら……頑張ってねと言うことくらいしか出来ないのが申し訳ないのですが。でも私達には、いつの日か自分の地獄を自分の手で終わらせることが出来るようになる潜在的な能力は備わっているのだと、私は信じています。

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