Back Numbers : 映画ログ No.53



【青い夢の女】四つ星

一言で言うと:
とある精神分析医(ジャン・ユーグ・アングラード)が診療をしている最中に、美人だが性癖にかなり難ありのギャングの妻の患者(エレーヌ・ド・フジュロール)が死んでしまったからさぁ大変 ! ……【ディーバ】【ベティ・ブルー】のジャン・ジャック・ベネックス監督が劇場用長編としては8年振りに手掛けた、独得な感覚で描くコメディ。
あまりよくなかったところ:
問題の美人患者が診察中に過激な話をするといつも眠たくなってしまって、で、ある日気がついたら彼女が殺されてましたって ?? で、いくらそれがマズイからって、警察にも行かず大して有効な手立ても打たずに、死体をそんなところに隠すか普通 ?? といったような、いくらなんでもそんな馬鹿な事が実際に起こる訳ないでしょ、みたいなエピソードのオンパレード。一体なんちゅうストーリーなんだ、これ。
かなりよかったところ:
で、これがあまりにもすっとぼけていて人を喰った展開であるが故に、これはシリアスなストーリーものなどではなくて、一種の寓話的なコメディなのだと気づかされるのだ。
暴力でしか愛情を確かめ合えない美人患者とギャングの夫、謎の路上生活者、墓場のDJなど、なんだか変な人ばっかり出てくる。というか、ジャン・ユーグ氏演じる主人公本人からして、やることなすこと、かなり変。ジャン・ジャック・ベネックス監督はこの8年の間に日本のオタクに関するドキュメンタリーなんかも撮ったりしていたそうだし、きっと最近は変わった人に興味があるってことなんじゃないのかな、うん。
コメディといってもいわゆるコメディとはかなり趣きが違っていて、人間は変なことをする変な生き物なのだという不条理さを面白がっている、というふうに感じられた。ただ、それって一般受けするかどうかはかなり怪しいかもしれないと思うのだけれど……。
個人的にスキだったところ:
同じ俳優とは一度しか仕事をしないということを信条にしているというベネックス監督が初めて二度目に組んだというジャン・ユーグ・アングラード氏。役の中身はどうあれ、久々にかっこよく見せてもらいました ! 【アンダーグラウンド】のミキ・マノイロヴィッチさんなんかもかなりよかったです(うちの妹が好きらしい)。
二人に限らずどの俳優さんも、このある種荒唐無稽な話を的確なリアリティとユーモアをもって演じていらっしゃるから、これはコメディとして嘘臭くならずにギリギリ成立したんじゃないかと思われた。その演技の絶妙な匙加減がどの人も素晴らしかった。
監督さんへの思い入れ度:115% !
コメント:
原題の“MORTEL TRANSFERT”(英語だと“MORTAL TRANSFER”ですね)には“死の概念の転移”という精神分析的な意味を持たせているんだそう。そう思いながら観てみると、またいろいろと違った発見があるかもしれない。
ジャン・ジャック・ベネックス監督の久々の新作ということで、多少評価が甘くなっているのかもしれませんが……だって好きなんだもん、しょうがないでしょ。次回作への更なる期待も込めまして、今回はこの点数で。

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【赤い橋の下のぬるい水】四つ星

一言で言うと :
懇意にしていたじいさんがかつて隠したという宝を求めて北陸の地方都市にやって来た男(役所広司)が、そこで出会った不思議な女(清水美砂)とは。カンヌ映画祭で2度の受賞歴を持つ今村昌平監督によるそんなアホな ! のセクシャル・ファンタジー。
かなりよかったところ・あまりよくなかったところ・個人的にスキだったところ・個人的にニガテだったところ :
この女っていうのがいわゆる“潮吹き女”ってやつで、あまりに過剰なその“水”に困ってて、じゃあボクが水抜きをしてあげましょう、なんて話で……。(“潮吹き女”が分からない人は、お近くの物知りかスケベな人に聞いてみて下さい。)あーあーもう何だかなー。老い先短いと思ってとぼけた振りして、確信犯的に好きなことやってるでしょう、今村監督は。
そんなふうに性に鷹揚な女は、今村監督にとっては完璧な女神様かもしれないけど……そんな女がいるかいね ! と思いつつ、もう怒る気にもなれんというか、トホホーと脱力するしかないというか……。
まぁ日本人は伝統的に性には寛容な文化を持っていたと申しますので、それを今村監督が理想とする形を以ってユーモラスに造形するとこうなる、って感じなのでしょうか。
逞しくも懲りない登場人物達は、皆おおらかで力強くて面白いんですけどね。
でも、女神様というのはしばしば観念上の存在で実在はしないものなのよ、ということだけは、この際敢えて申し上げておきたい。
その他のみどころ :
主人公をなにくれとなく助けてくれる、金髪だかしっかりものの地元の若い漁師を演じた北村有起哉さんがよかった。本作にも登場している北村和夫さんの息子さんなんだそうですが、いい俳優さんになりそうな方です。
コメント :
それにしても役所広司さんって……相当メジャーになったこの期に及んでも、お尻まで丸出しになってしまうこのような役に臆せず挑むとは……大した役者根性だわ。

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【アメリ】四星半

一言で言うと:
冷たい家庭に育ったため空想の世界に遊びがちなアメリ(オドレイ・トトゥ)は、他の人をちょっとだけ幸せにしたり懲らしめたりするささやかなイタズラを仕掛けるのが好き。そんなアメリがある青年(マチュー・カソヴィッツ)に恋をして、やがて現実の世界への扉を開けなくてはならないことに思い至る。【デリカテッセン】【ロスト・チルドレン】等の特異な作風で知られるジャン・ピエール・ジュネ監督による、大人のためのお伽話とも呼べる一編。
すごくよかったところ:
大まかには、空想から現実へ、といった話の流れがあるのだけれど、それは決して空想の世界を否定的に描いているものではない。むしろこの映画における“現実の世界”は、ファンタジックな空想の世界のより素晴らしい延長線上にあるみたいだ。ほんのちょっとの勇気さえあれば……。
この映画の中の様々な「好きなこと」と「嫌いなこと」のリスト(例えば「好きなこと : クリーム・ブリュレの焦げたカラメルをスプーンで潰すこと」といったような)は、ジャン・ピエール・ジュネ監督が長年、実際に書き溜めたものなのだそうだ。みんなちょっとしたことなんだけど、いちいち頷けてしまう。そんな些細な事柄にまで丁寧に注がれる惜しみない愛情が、この映画の真骨頂かなと思う。
アコーディオン奏者ヤン・ティルセンのちょっとせつなくて可愛い音楽が、この映画の雰囲気にはぴったり。
ラストのバイクの二人乗りのシーンは、私はこれから先、思い浮かべる度に泣けてしまうだろう。
その他のみどころ:
アメリが恋するちょっと変わった青年役のマチュー・カソヴィッツは、若いながら監督として既にかなり名の知られている人。でもその作風はどちらかというと、人間の憎悪を剥き出しにして叩きつけるようなタイプで、その彼がこんな好青年役を演るなんて一種のサギではなかろうか(笑)。まぁ、それだけ彼のパーソナリティに振れ幅や深度があるってことなんでしょうね。
監督さんへの思い入れ度:95% !!
ちょっと惜しかったところ:
でも普通、現実は、アメリが仕掛けたような綿密な計画の通りには動いてくれないですよね。だから、そんな手の込んだことをやっている間にもっと他の方法を考えた方がいいんじゃないの ? と思えなくもない部分もなきにしもあらずだったかもしれなくて……そんなもどかしいところが自分の性格に合わなくて見てられないという人も、もしかしたらいるんじゃないかなとは思う。
ましてや、好きな人相手にそんな悠長なことをやっていたら普通は逃げられてしまいますって。それでもうまくいってしまうところがお伽話と言えばそうかもしれないのだけれど(……でもそれこそがこの映画のいいところ、ではあるのよね)。
コメント:
下手な解説を要しないというか、言葉で表現できる領域を凌駕してしまっている映画というのが、しばしば存在すると思う。この作品も、既に『アメリ的』としか言えない何ものかを創り出してしまっているので、いくら言葉を弄してみたところで捉えきれないというか、何かが違ってしまうというか。機会があったら是非一度、それがどんなものなんだか御自身の目で確かめてみることをお勧め致します。

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【イースト/ウエスト 遥かなる祖国】三星半

一言で言うと :
【インドシナ】等、最近のカトリーヌ・ドヌーヴ出演作品を多く手掛けるレジス・ヴァルニエ監督が描いた大河メロドラマ。ロシア人の夫と共に冷戦時代のソ連に渡ったフランス人女性が舐めた辛酸を描く。
かなりよかったところ :
確かに壮大なスケールのメロドラマだ。
ヒロイン役のサンドリーヌ・ボネールを始め、ヒロインを助けるフランスの大女優役( ! )のカトリーヌ・ドヌーヴや、ヒロインの夫役のオレグ・メンシコフ、西側への脱出を企てる若き水泳選手役のセルゲイ・ボドロフ・Jr.など、役者さんの演技にはそれぞれ、正統派の風格があって良かった。
個人的にニガテだったところ :
しかしこのヒロイン、話が始まったすぐそばから帰りたい、帰りたいとヒステリックに連呼するのがどうも……。いくら情報が制限されていた時代のこととはいえ、見も知らぬ初めての外国で暮らすってことをナメ過ぎているんじゃないの ? しかも、ダンナの深慮遠謀に較べ、奥さんはいつまで経ってもあまりにも近視眼的で、周りの状況などをなかなか学習しようともしないし……。(そりゃダンナ、浮気もするわいなと思っていたら、その後の展開がいかにもメロドラマ的で。)
確かに旧ソ連では言論の自由も何もなく、息が詰まるような相互監視の元で個人の権利が大幅に制限されていて、ましてや他国の出身者にはあまりにも辛いことが多かったというのは事実なのだろうけれど……だったらそういう辛いエピソードの方をまずはきちんと描いてからヒロインの決心を描くのが筋道ってものでしょう ? 順番が逆になってしまっては説得力も何か中途半端だよなぁ、と感じられてしまって仕方なかったのだが、きっと“旧ソ連は唾棄すべき悪の帝国だ”という点には疑問を持ったりしなくていい、というテーゼを前提に創られているということなのでしょうね、これは。
コメント :
どうして冷戦が終わってから10年も経った今、しかもフランスなんて国でわざわざ、ソ連はかように酷い国だったということを描こうとするような映画が作られなければならないのかという製作意図が、結局私にはよく分からなかった。
旧共産主義体制の欠点をいくら暴いてみたところで、資本主義が優れているということの証明にはならないんじゃないかと、私は思ってしまったのだけれど……特に、資本主義体制の歪みが一挙に吹き出してきたかのような昨今の世界情勢を見るにつけ。
この映画が(アメリカの)アカデミー賞の外国語賞にノミネートされていたというのも、何だかちょっとキモチワルイのですが……。

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【伊能忠敬 子午線の夢】三つ星

一言で言うと:
江戸時代後半、隠居後の50歳から学問を志し、55歳から18年かけて日本全国の海岸線を歩測で測量し地図の作成に当たった伊能忠敬の半生を、『大岡越前』でお馴染みの加藤剛主演で描く。俳優座の創立55周年(どうしてそんなに中途半端なの ? )記念作品。
かなりよかったところ:
そもそも何故この映画を見ようと思ったのか ? 1)伊能忠敬という人物に興味があったから。官民のパワーが渾然となって体を為していた江戸時代の文化や学問の在り方、また、引退後の第二の人生の在り方という観点からしても、示唆するところが多くあるのではないかと思う。
本作では特に、伊能忠敬が農民階級出身だったという点に少し比重を置いて描いているのが特徴的だと思った。確かに、全国の海岸線を全部歩いて地図を作るなどという地道な努力の積み重ねを必要とするような仕事は、筋金入りの根性を擁した農民的なメンタリティがなければ成し遂げられなかったかもしれない。
個人的にスキだったところ:
2)実は加藤剛って結構好きだったりして。あの年代の役者さんって、出てくるだけで画面がピシッと引き締まるのがいいよねぇ。(ちなみに、私の携帯電話の着メロには『大岡越前のテーマ』が入ってます……って、あまり関係ないですけど。すいません。)
あまりよくなかったところ:
しかし映画の描写自体は新鮮味に欠けている印象で、やはり旧態依然の日本映画といった感が拭えなかった。
特にヒロインの扱い方が全くいただけないところに古くささを感じた。だって出会いのシーンからして思いっきり不自然だし、後々の展開でもただひたすら主人公に都合がいいように動かされる手駒だってだけみたいなんだもん。
あと、肝心の測量のシーンのほとんど(1~2回を除く)が、ちょっとしたインサート・ショットだけで処理されているというところが、どうにも物足りなかった。何年も掛けて全国の海岸線を歩いて回るなんて並大抵の労苦ではなかったはず。その迫力がどうも手応えをもって伝わってこないのだ。でもそれを言ってみたところで、「そんな予算はなくて……」とかで済まされてしまいそうだけど。
コメント:
伊能忠敬を選んだという目のつけどころは決して悪くなかったと思うのだが……いいところも少なくないだけに、ちょっとばかり残念な出来。

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【オテサーネク】四つ星

一言で言うと :
短編アニメーションの世界的巨匠ヤン・シュヴァンクマイエルが、本国チェコの民話を現代風にアレンジ。不妊に悩む夫婦は、人型をした木の根っこを自分達の赤ん坊として育て始めるが、その恐るべき食欲はやがて周りの人間を……。
すごくよかったところ :
ほんとは恐いお伽噺、を地で行くホラー的世界。
監督さんへの思い入れ度 : 65%
コメント :
総てを食い尽くそうとする赤ん坊は一体何の象徴なのか。そんな赤ん坊を殺そうとする父親や、なおも執着し続けようとする母親は ? 何故か赤ん坊に味方する女の子は ? 周りの人々は ? ……。
シュヴァンクマイエル監督にしか出せない、欲望なるもののおどろおどろしさやその寓意性。いくらでも深読みしちゃって下さい !

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【かあちゃん】三星半

一言で言うと :
市川崑監督が脚本家の夫人・故和田夏十の遺稿を43年ぶりに自ら映画化。時は江戸時代、ある長屋に押し入った若い男は、その一家の主の母親の人柄に触れて道を外すのを思い留まる……。
かなりよかったところ :
まるで上質の古典落語を見ているかのような端正さと完成度。
掛け値無しの大女優、の岸恵子さんがこんな長屋のかあちゃん役なんぞをやって浮いてしまわないのか……これがちゃんと出来てしまうところが、大女優が大女優たる本当の所以なのだね。
あまりよくなかったところ :
しかしこんな“人情”みたいな概念が今の時代にどう映るのか、どれだけの説得力を持って通用し得るのかは疑問だ。例えば、訳あって貯めたお金の由来を泥棒相手に延々と話して、それだけの理由があっても持って行きたければ持って行け ! と啖呵を切ってみたところで……喜んでホイホイと持っていってしまいそうな輩の方が、昨今は多いような気がするしなぁ。
コメント :
【プーサン】【ビルマの竪琴】【処刑の部屋】【炎上】【鍵】【野火】【黒い十人の女】【破戒】【私は二歳】【雪之丞変化】【太平洋ひとりぼっち】【東京オリンピック】etc.……市川崑監督が最も脂が乗ってクリエイティブだった時期の最良の仕事の数々は、脚本家・和田夏十とのコラボレーションが欠かすことの出来ない要素だったという事実は、もっともっとクローズアップされてしかるべきなのではないだろうか。
その和田夏十が、敢えて母親という立場から信じ抜くことの強さのようなものを描こうとしたのがこの脚本だったのではないかと思われる。(「信じてる。」というコピーは秀逸だと思う ! )市川崑監督が、その骨子を今風に改竄したりなどせず、夏十さんが彼女の生きていた時代の中で実感したものをその意図の通りに描こうとしたことは、それはそれで決して間違っていなかったのではないか、という気が、観終わってしばらく経ってからしてきた。
ちなみに私は、もしあり余るほど時間があったら和田夏十さんの仕事の在り方についてもっと研究してみたい、というのがちょっとした夢です。

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【神の子たち】三星半

一言で言うと :
フィリピン・マニラ市近郊の巨大ゴミ捨て山“スモーキー・マウンテン”でゴミを拾って暮らす人々に取材した【忘れられた子供たち/スカベンジャー】から6年。今回、四ノ宮浩監督は、閉鎖された“スモーキー・マウンテン”から移り住んだ人も多く暮らすというケソン市のパタヤスゴミ捨て場の4家族を取材している。
コメント :
映画中、ゴミの崩落事故のため4ヶ月ゴミの搬入が止められ、人々は、ただでさえ仕事もないのにいよいよ食べるのにも困るといった状況に陥っていた。また、有害物質の濃度が高いのか、子供の発病率や死亡率が大変高いようで、途中、大人一人で軽々と運べるくらいの小さな棺が何度も出てくるのが痛々しかった。
でも、そんな悲惨な状況にしばしば押し潰されそうになりながらも、それでも人間は生きていこうとするし、そんな中でも生まれてくる子供達もいるのだということが、画面に淡々と映し出されていた。
これを見て日本がどれだけ恵まれているか考えろとかいった意見はそりゃ何か違うだろうと思うし(食べるにも事欠く状況がこの世に存在すること自体は当然解決されなければならないけれど、彼等は私達の社会の疲弊が比較的軽いなどと証明するために存在している訳ではない)、そこに家族の絆云々の命題を見ようとする見方も私には出来ない。しかし、最低限の説明のみであとはただ呈示してみせるだけのこういう形のドキュメンタリーでは(といっても編集はしてある訳だからそこに作者の意図は介在しているのだが)、人によって見えるものも違ってくるのだろうし、またそれでよいのだろうとも思う。

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【キプールの記憶】三星半

一言で言うと:
イスラエルのアモス・ギタイ監督が、自らの戦争体験を基に描いた戦争映画、というよりは戦場映画と言った方が適切か。
かなりよかったところ:
派手なドンパチのシーンなんかがそれほど頻繁に出てくる訳ではない。いわゆるハリウッド製の戦争映画などと較べれば、一見地味に見えるくらい。ただ映画中、どこまで行っても遠い砲弾や爆撃の音や、ヘリコプターの音、車の音が鳴り止まない。それが段々と人の神経を麻痺させ、滅入らせて狂わせていく様が、余計リアルに映っていたような気がした。
コメント:
この監督さんについても(かなり有名な方らしいのですが)、キプール方面での戦争の歴史についても、ほとんど知っていることがない。調査不足で誠に申し訳ありません……。

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【ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃】四つ星

一言で言うと:
平成【ガメラ】シリーズの金子修介監督がついにメガホンを取った【ゴジラ】シリーズの最新作 ! ちなみに【ゴジラ】の世界はその製作年代ごとのパラレル・ワールドになっているのだそうで、本作は1954年の初代【ゴジラ】から約50年ぶりに二匹目が現れたという設定。
すごくよかったところ:
今回のゴジラは完全に悪役というコンセプトで創られているそうだが、この破壊の大王ぶりはなるほど凄まじい。街を薙ぎ倒して行くところは勿論のこと、放射能を吐く場面なんて……背ビレが青白くパリパリ光る→口の中にゆっくり光がせり上がってくる→そして、ドーン !!!!! キャーッ !! その光は浴びるといかにも被曝してしまいそうな色をしていて(その前に直撃すれば死ぬけど)、ああやっぱりゴジラって危険な生物なんだわと再認識。今回のゴジラ、かなりマジメに恐いです。
思いきり引いたロングショット、あるいはどアップ、あるいは真下や後ろからと、ゴジラの姿を捉えるのに様々なアングルが工夫され駆使されている。これが面白い効果を生んで、ゴジラの見え方に新鮮な印象を与えていたのではないかと思われる。(この手法、【ガメラ】などでも一部使っていたのではないのかな ? うろ覚えなのですが。)
で、その悪者のゴジラを“護国聖獣”のバラゴンやモスラやギドラ達が守ろうとするという訳なのだが、彼等が守ろうとするのは山や川などの国土としての“くに”であって、“国家”を意味するものではないのだそうだ。そして、彼等は彼等の都合の為に戦っているだけで、その過程で人間の街がいくらブッ壊れようが人が死のうが関係ないし、そんなことはどうでもいいみたい。う~んなんて壮大なスケール感だこと……。
個人的にスキだったところ:
箱根の大涌谷には何度も訪れたことがあるのだが、実際に見て知っている場所や建物が怪獣達に破壊される様を見るのって、これほど異様な興奮が喚起されるものだとは思わなかった !
その他のみどころ:
冒頭辺りのシーンにちらっと出てくる会話によると、日本の学者はアメリカに出現したタイプのものはゴジラとは認めていないんだそうな。
「実戦経験のないのが誇りでした」という科白、いいですよね。
監督さんへの思い入れ度:20%
あまりよくなかったところ:
てなふうに前半は最高に盛り上がったのだけれど、後半はやや失速してしまった感があるかもしれない。
まず、ゴジラは第二次世界大戦中に死んだ様々な国の人達の残留思念だから通常兵器では倒せない、云々の説明がよく分からなかった。だから護国聖獣に倒してもらわなければならないというのはまだいいとして、それではラスト辺りで自衛隊の人が出撃して武器攻撃をする意味なんてどうしてあるの ???
ゴジラは最高にかっこよく、モスラやバラゴンはまぁまぁだったけど、一番好きなキングギドラ様がいまいちっていうのは……アップになるとハリボテ感まるだしだし、全身ショットになるといかにもCG然としてて生き物感に乏しいんだもん。
個人的にニガテだったところ:
ヒロインの新山千春さんがマイナーCS局で働く仕事熱心なレポーターだという設定は悪くなかったけれど、それで自衛官の偉いさんである父親(宇崎竜童)との関係に齟齬を来しているという部分の描き方は、全く行き当たりばったりでいい加減であるように思われた。大体が大して行き違いがあるようにも見えないしな、この二人。
コメント:
マニアック(オタク?)な層にアピールする要素を多く持っていた【ガメラ】に比べ、【ゴジラ】はオーソドックスで王道な路線を狙っているという違いが見て取れる。
私が見た回ではほぼ満員の場内の9割5分方が親子連れだったが、子供達はどっちかというと併映の『とっとこハム太郎』目当てといった雰囲気で(私は『ハム…』は見てません。すいませんです。)【ゴジラ】を一番楽しんでいたのは実は一緒に引っ張ってこられたパパ達だったのではないかと思われた。はっ、もしかしてそれを目当てに創られていたんだったりして ?? 映画を一番見ない層というのは社会人の男性なのだそうだから、その層を掘り起こすというのは映画産業の活性化のためには必要なことだとは常々思っていたのだが、お父さん達が楽しんで映画館から出たのであれば、それは注目するべき貴重な事実なんじゃないかと思う。

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【殺し屋1】三星半

一言で言うと:
山本英夫原作の人気コミックを三池崇史監督が映画化。泣き虫の殺し屋イチ(大森南朋)と、イチを待ち受ける超マゾヒストのヤクザ・垣原(浅野忠信)や、イチに司令を下す謎のジジイ(塚本晋也)らの姿を描く。
かなりよかったところ:
とにかく強烈で個性的なキャラと、それを演じる味の濃~い面々。特に、塚本晋也さん、SABUさん、松尾スズキさんといった、御自身でも演出家として相当キャリアのある方々を多く使っていらっしゃるところが面白い。
監督さんへの思い入れ度:34%
あまりよくなかったところ:
あれ、でもこのお話ってイチさんが主役だったんじゃなかったでしたっけ ?
イチ役は最後まで難航して決まらなかったというし、実際、誰がやっても難しかったんだと思う。大森南朋さんは非常に健闘していたと思うし。(大森さんは芸歴長いんですねぇ。【カルテット】のビオラの彼と同一人物なんてびっくり。)ただ、いじめられっ子の経験から過剰な暴力に走り、人を殺す時に性的な興奮さえ覚えてしまいつつも自分をコントロールし切れずに泣いてしまうなんてキャラクター、マンガのデフォルメされた線で描かれている時には許せても、現実の人間の肉体の中に落とし込んでしまうとかなり異様でキモチワルくなってしまうかもしれない。
だから出来ればこのキャラは、リアルな中にも人を何かしら引き付ける独得の魅力を持たせつつ、なおかつどこか現実離れしたところも兼ね備えることが出来るのが理想なのでは。しかし、そんなところまで演技で出すというのは相当な高等技術が必要になってしまうはず。残念ながら今回のイチは、リアルな面が勝ち過ぎて多少据わりの悪いものになってしまったのではないかと思う。
そんなこんなで、原作とは全然違う解釈ながら役の的確な現実化が出来てしまった浅野忠信さんが、結果的に主役的な位置をさらっていってしまったのではないだろうか。
個人的にニガテだったところ:
話の性質上仕方ないんだけど、やはりあまりにも多くの人が無造作に死んでいくのは……これもマンガで見た時にはそれほど違和感がなくても、3次元化された映像の中で見るとなるとかなり厳しいかもしれない。
コメント:
三池崇史監督は原作をかなり忠実に映画化していると思うし、エゲツない内容でも最後までグイグイ引っ張って見せる勢いがあるし、実は観終わった後もそれほど不快な後腐れ感はない。ただ、人を一人殺すのも現実的には相当大変なこと。そんなに簡単にファンタジー化してしまえないんじゃないかと感じてしまうのは、やっぱりこういった御時世だからなのか。

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【修羅雪姫】三星半

一言で言うと:
500年間鎖国を続けているとある国で、反政府主義者の粛正を請け負っている暗殺者集団・建御雷一族の雪(釈由美子)は、一族の姫だった亡き母が現在の長(嶋田久作)に殺されていたことを知るが……TV等でお馴染みのアイドル釈由美子主演のSFアクションドラマ。
かなりよかったところ:
私はアクションシーンはあまり得意じゃないはずなのだが、この映画のアクションは、スピード感もさることながら、渾身の力を振り絞って戦っている感じがよく出ていて、観ててもそんなに飽きがこなかった。ちなみにこの武器は日本刀もどきの刀。ああやっぱり、チャンバラに対する嗜好というのはDNAに深く刻み込まれているものなのかしら ?
ヒロインを演じる釈由美子さん、私はあまり存じ上げないのだが、悪くないなと思った。アップとスローモーション以外の猛スピードのアクションはさすがに吹き替えみたいだったが、上手い感じで繋がれていたので違和感は無かった。
個人的にスキだったところ:
今年の大河ドラマ『北条時宗』で博多商人・謝国明の息子役をやっていた松重豊さんが出演なさっていた ! もっと出番が多ければ更に嬉しかったんだけどね。
ちょっと惜しかったところ:
ヒロインとその組織の対立のストーリーに比べ、ヒロインの相手役の男性と彼の組織の対立の方は少し地味に写ったかも。お話の対比としては悪くなかったのですが。
それにしても、登場人物のほとんどが死んでしまうというのは、やっぱりちょっと虚しくなるかなぁ。
コメント:
テアトル新宿の椅子が新しくなっていた ! しばらく前から一部のカバーが外れて中身が見えちゃうくらいオンボロになっていたからね~。ちなみに今度の椅子はカップホルダー付き。ここの館は割とコーヒーが美味しいから、嬉しいわ。

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【シュレック】三星半

一言で言うと:
見かけの悪さで敬遠されてしまう故かすっかり孤独癖が身についていた緑色のオーガ(妖怪みたいなもの ? )のシュレックが愛と友情に目覚めるというお話のフルCGアニメーション。
この映画を製作したドリームワークスのジェフリー・カッツェンバーグ氏は、この映画への高い評価により古巣ディズニーのマイケル・アイズナー社長に一矢報いたと言われている。
かなりよかったところ:
不潔なのはともかく、ロマンティックで勇敢で憎めない性格のシュレック。軽口だが友情には篤いロバ君や、勇ましいお姫さまもかわいくていい。
お伽話のセオリー自体をパロディ化するという発想は、なかなか面白いと思う。
ちょっと惜しかったところ:
しかしそのテは二度は使えまい。次回作は全然別の発想で話を作らないとね。
個人的にニガテだったところ:
この映画のCG、よくできているとは思うんだけれども、私は絵柄が少しニガテ。ドリームワークスのCGってなんかちょっとシュールなんですよね。CGの画面って本質的には無機質ものだから、もう少しどことなく丸みのある雰囲気が個人的には欲しいんですが……。
コメント:
実は夜になるとお姫さまは……という秘密が分かったところで、オチはあらかた予想がついた気がした。この話の持って行き方は実はちょっと不満なんだけど、でもこれ以上書くとネタバレになってしまうので御免。

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【スパイキッズ】四つ星

一言で言うと:
誘拐されたパパ(アントニオ・バンデラス)とママ(カーラ・グギノ)がかつて世界的な大スパイだったことを知った子供達(アレクサ・ベガ&ダリル・サバラ)は、知恵と勇気と数々のスパイグッズを駆使して二人の救出に向かった ! 監督は【エル・マリアッチ】【デスペラード】のロバート・ロドリゲス。
すごくよかったところ:
子供達がイキイキと大活躍しているのが何と言っても爽快 ! 気が強いけどしっかりもののお姉ちゃんもさることながら、気弱でちょっとぷくぷくだけど、TVやゲームの知識が思わぬ力を発揮するインドア派の弟君のキャラクターも秀逸。
金魚型潜水艦や電気ガム、ロケット飛行装置など、最新式のスパイグッズの数々が楽しくてワクワクしてしまう。
かなりよかったところ:
結局は家族が協力し合うことが大事っていうテーマが、押し付けがましくはないけれどはっきりと謳われているところが、ファミリー映画を求める層のニーズにはぴったり合っていたのかも知れない。
その他のみどころ:
ダニー・エルフマンのサントラ。スパイもののワクワク感の中にもラテン風のエキゾチックなテイストなんかも出してみちゃったりして、なかなか秀逸なのでは。
オーラスのシーンでちらっと出てくるパパとママのボスって……一体誰なのかは映画を見てのお楽しみ !
監督さんへの思い入れ度:50%
ちょっと惜しかったところ:
子供番組製作者だが裏では世界支配を目論んでいる ? という悪者役のフループ(アラン・カミング)は、【バットマン】のジョーカー辺りをイメージしてもらえば少しは近いだろうか ? 彼の創り出すTVキャラクターのフーグリーズや親指ロボットのサム・サムは、私はキッチュで面白いと思ったけど、人によっては悪趣味なだけと受け取る向きもあるかもしれない。
コメント:
ロバート・ロドリゲスという人は、子供の頃からビデオカメラをおもちゃ代わりに、手近な人が登場する短編を撮りまくって遊んでいたのだそう。ビデオ小僧がそのまま大きくなったような彼が今後どんな映画を撮るつもりなのか、正直言って危惧していた面もあったのだけれど、今回のプロットを聞いてこの路線があったか ! と膝を打った。
自分の道を次々と見つけられるというのも、また才能のうちなのだろう。この際彼には、興味の赴くままに楽しい映画を撮り続けていって欲しいものである。

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【スパイ・ゲーム】三つ星

一言で言うと:
ロバート・レッドフォードとブラッド・ピット主演のスパイ・アクション。
かなりよかったところ:
スタイリッシュでスピード感のある、安定感のある話運び。プロ中のプロが撮ってる映画って感じがする。
ロバート・レッドフォードが割とかっこよくってほっとした。前回【モンタナの風に吹かれて】を見た時は、アップの顔があんまりシワシワだったから正直どうしようかと思ったもので……やっぱり年相応の役柄や撮り方っていうものもそれなりに研究しないとね。
個人的にニガテだったところ:
スパイの仕事の意義ってものに過剰なロマンティシズムを抱いているわ、思惑を持って近づいてくる女にもころりと参ってしまうわ、こんなに甘々で本当にスパイなんて仕事が勤まるの、ブラピ君の演じる彼ってば ? レッドフォードの演じる上司様も、口では厳しいことをいっていても心根は似たり寄ったりなのではという気もするし。
コメント:
たまには王道中の王道の映画も見に行ってみようかな、なんて気まぐれを起こしてみたのだが、やっぱり興味の涌かない題材の映画を見ても仕方ないんだよなぁと改めて思った。これは映画に対しても悪いことをした。すみませんでした。

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【ソードフィッシュ】四つ星

一言で言うと :
カリスマ的なテロリスト(ジョン・トラボルタ)に拉致された、凄腕のハッカー(ヒュー・ジャックマン)はやがて彼の仕事を手伝わなければならない羽目に陥るが……。
あまりよくなかったところ :
あからさまにテロを扱ったこの映画には、今の時分に上映するには不謹慎だという声もあるのかもしれない。
かなりよかったところ :
しかし、ファンタジーとしての暴力ならある程度楽しめてしまう部分のある自分のメンタリティの問題自体も含めて、この映画には無視するには難しい側面がいくつか含まれているのではないだろうか。
最もそれを感じるのが、トラボルタの演じるカリスマ・テロリストの存在だ。高邁な目的のためには少数の犠牲はやむをえないとさえ公言する彼の行っていることは非道な破壊活動に他ならない。しかしその目的は、アメリカ人に仇なす海外のテロリストを根絶するための資金を得ることで……。
ヒュー・ジャックマン演じるハッカーは、自身も犯罪者ではありながら、凶悪なテロを実行するという犯人達の方向性には全くついていけなかった。アメリカを守るためのテロリズム ? この矛盾した視点を提出し、敢えて放置したままで終わらせてしまっているところに、この作品の脚本家のちょっと並ではない着眼点を感じた。
……なんて書くと難しく聞こえてしまいそうだが、中身はまぁ、アクションあり、陰謀あり、大金あり、ねーちゃんあり、子供もあり、葛藤もあり……といった盛りだくさんな活劇ですから。これだけの内容を詰め込みつつ、最終的にはバランスの良い娯楽ものとして手際よくまとめているのは、大した手腕だと思う。
個人的にニガテだったところ :
これで【マトリックス】を越える云々なんて阿呆なコピーさえなけりゃねぇ……爆破シーンが空中で止まってたから ? コンピュータの画面とか出てくるから ? せいぜい意匠の一部をすごく希釈して使ってるくらいで、中身は全然別物でしょう ? どうして比較をするのかさえ分からないんだけど、全く。
コメント :
役者さんには、様々な役をこなすことによって徐々に魅力を獲得していく人と、そんな魅力を最初から天性のものとして持っている人がいると思う。本作でも“悪の華”の役が光っていたジョン・トラボルタは明らかに後者の人だ。これでいい出演作を選ぶ目さえあれば無敵なのに、どうしてたまにとんでもない出演作を選んで、毎度毎度キャリアを危うくするのだろう……彼だけは本気で、自分の出るべき映画を選んでくれるプロフェッショナルのコンサルタントを雇った方がいいんじゃないのかな。
【Xーメン】出身の俊英、ヒュー・ジャックマンとハル・ベリーは、今後とも要注目 !
ジョエル・シルバー(本作や【ダイ・ハード】【マトリックス】等のプロデューサー)は、ジェリー・ブラッカイマー(【アルマゲドン】【パールハーバー】等のプロデューサー)よりは、新しい才能や感性に対する一貫した審美眼があるのではないかと、今回確信した。

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【地球交響曲 ガイアシンフォニー第四番】四つ星

一言で言うと :
龍村仁監督のライフワークの第四弾。今回は、『ガイア理論』の創始者であるジェームズ・ラブロック、伝説的なサーファーのジェリー・ロペス、チンパンジーが道具を使うことを世界で初めて発見した霊長類学者のジェーン・グドール、沖縄・伊是名島(読谷村)出身の版画家の名嘉睦稔を迎えてインタビューし、地球と彼等の関わり合い方を解き明かしていく。
ちなみに『ガイア理論』とは、地球自体が一つの大きな生命体であるという考え方で、【地球交響曲】シリーズのバックボーンとなっている。
すごくよかったところ :
この映画のよさを口で伝えるのは非常に難しいので、特に心に残ったインタビュー中の言葉などを幾つか御紹介してみよう。
「私はいつも海の力の一部になりたいと願っています。大自然の力は決して対抗できるものではない、唯一の許される道は共に歩むことです。」
「私には、こんなに素晴らしいことを成し遂げこんなに美しいものを創造できる人間が、単なる間違いなのだとはとても思えません。」
「世界中の子供達がたっぷり幸せを獲得しても、この世の幸せは少しも減りません。」
ごく自然に発せられる彼等の言葉を聞いているだので、全く違う次元に連れていかれてしまうのは、どうしてなんだろう ? ちなみに私は今回は、ジェーン・グドールさんのパートが最も印象に残った。あんなに上品に美しく歳を取れるなら、長生きしてみるのも悪くないのかもしれない。
コメント :
人類は最早文明を放棄することは確かに出来ないだろうけど、生きていくためにはそれほど多くのものは実は必要ないんじゃないかと、今回の映画を観ていて改めて思った。まるで壊れた機械か何かみたいに、尽きることのない欲望のままに手当たり次第に闇雲に収奪を繰り返すだけの過剰主義は確実に地球を枯渇させるし(その結果人類も生きていけなくなることは必至なのに)、その飽くなき欲望の結果生じた富の偏在は世界中に様々な歪みを引き起こし、それで人類は実際に今も悲鳴をあげている。何か、全く違うシステムが、必要なのではないだろうか。それが何なのかは具体的にはさっぱり分からないのだけれど。
この【地球交響曲】シリーズは、上映を希望する有志が上映会を主催するという方式で全国各地で上映されており、シリーズ3作目まででのべ160万人以上を動員したのだそうだ。ちなみに、例えば東京のミニシアター系の映画館では1万人を動員すれば大ヒットと言われているから、これがどれだけとてつもない数字かお分かり戴けるだろう。もしお近くで上映会が開催される機会がありましたら、騙されたと思って ! どうぞ一度だけでも、足を運んでみて戴けると嬉しいです。

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【ノーラ・ジョイス 或る小説家の妻】二つ星

一言で言うと :
アイルランドの文豪ジェイムズ・ジョイス(ユアン・マクレガー)とその妻ノーラ(スーザン・リンチ)の物語。
かなりよかったところ :
ノーラ・ジョイスを演じたスーザン・リンチは、精神的にも肉体的にも、その存在感にかなり説得力があったように思う。
あまりよくなかったところ :
ぼそぼそ喋っている系の演出は地味に映る上、あっちゃこっちゃ飛んでしまういきあたりばったりなお話やキャラクターの行動は、見ていて訳が分からなくなってきてしまう。
コメント :
人間の行動というのは確かに常に矛盾を孕むものだし、それがモノホンの作家ともなれば尚更のことだろう。しかしそういったものをまとめて人に提示しようとする場合には、もっと通低する一貫した視点が必要になってくるのではないだろうか。

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【バニラ・スカイ】三星半

一言で言うと:
スペインの俊英アレハンドロ・アメナーバル監督らが手掛けた映画【オープン・ユア・アイズ】をトム・クルーズが自らプロデュースしてリメイク。監督は【ザ・エージェント】でもトムと組んだキャメロン・クロウ。
何もかもが恵まれた境遇にある男(トム・クルーズ)はパーティで知り合った女性(ペネロペ・クルズ)に一目惚れするが、男のガールフレンド(キャメロン・ディアス)が嫉妬に狂って引き起こした自動車事故から総ての歯車が狂い始める……。
かなりよかったところ:
オリジナルのスペイン映画版を観た時には、主人公の男が傲慢で相当ヤな奴だったから、こいつが幸福になろうが不幸になろうが知ったこっちゃないわいという感じであんまり好きになれなかったんですが……。でもこのハリウッド版では、主人公はやっぱり傲慢でヤな奴だとはいえ、そこに若干の人間臭さや人間的な魅力を付け加えることによって(そういうのはキャメロン・クロウ監督は得意そうですよね)、映画をぐっと見やすいものにすることに成功しているように思う。
普通そういったハリウッド流の“手加減”ってマイナスに作用することが多いのだけれども。偶然なのか確信犯なのかは判らないにせよ、この映画では効を奏している点は、それなりに評価しておきたい。
個人的にニガテだったところ:
でもこのお話って一種の夢オチなんですよねぇ。その構成は確かに非常に見事だと思うけれど、だから何 ? と言われてしまえばお話としてはちょっと弱いんじゃないかと私は思うのだが。
コメント:
スペイン語のオリジナルがどうであろうが関係なく、普通この映画だけを見る分には、純粋に一種のラブサスペンスとして楽しむことが出来ればそれでいいのだろう。そういう観点からすれば、これはある程度元を取って楽しむことができる映画であることには違いないと思う。

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【ハリー・ポッターと賢者の石】四つ星

一言で言うと :
御存知、魔法使いの少年を主人公にしたJ・K・ローリング原作の大ベストセラーの映画化。
かなりよかったところ :
原作がこれだけ有名なファンタジーなのだから、どう作ったところで普通は批判が出そうなものじゃない ? しかし本作は、中途半端な映像化によってイメージを壊されることを極端に嫌った原作者との綿密な打ち合わせの甲斐もあり、原作の趣きを損なわないほぼ完全な映画化が実現したのではないかと思われる。これは奇跡的なことだ !
ハリー(ダニエル・ラドクリフ)、ロン(ルパート・グリント)、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)の三人組はもとより、森番のハグリッド、ダンブルドア校長、マグゴナガル先生、いけ好かないマルフォイやいとこのダドリーといった役どころに至るまで、キャストはほぼ完璧 ! セットや様々な意匠、SFXも◎で、ビジュアル面ではこれ以上のものを望むのは難しいほどの出来だったのではないかと思われる。
原作より良かったのはスピード感満点のクィディッチのシーン ! そうか、これはこういう球技だったのね。
ストーリーの判定は難しいところで、後半をすこし冗長に感じたり、逆に原作を知らない人には少し説明不足では ? と思われた部分もなきにしもあらずだったが、しかしこれ以上長くしても短くしても、原作の流れをうまく伝えられなかったのではないだろうか。
原作の本を読む楽しみとはまた較べるべくもないのかもしれないが、映画化するということを前提に考えるなら、今回の製作者やスタッフは実によく頑張ったのではないかと思う。
コメント :
いい加減なものを作ると全世界のファンに串刺しにされるからね、と語ったというクリス・コロンバス監督は、御自身もハリー・ポッターの大ファンなのだそう。隅から隅の細かいディテールに至るまで、疑問に思ったことは全て原作者に問い合わせたという仕事の丁寧さは、今回充分に実っていたのではないだろうか。
そう、キーワードは、ずばり“謙虚さ”だ。それは原作(者)に対する敬意の念であり、世界中の観衆の“見る目”に対する畏れの念である。ああ、そういったごく当たり前の感覚を持ち合わせていないから、大方のハリウッド映画ってつまらなくなってしまうのね。

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【バンディッツ】四つ星

一言で言うと:
刑務所を脱獄したジョー(ブルース・ウィリス)とテリー(ビリー・ボブ・ソーントン)は銀行強盗として名を馳せるが、ひょんなことから人妻のケイト(ケイト・ブランシェット)を連れ歩くことになり、やがて……。【レインマン】のバリー・レビンソン監督の描く、一風変わったロード・ムービー。
あまりよくなかったところ:
銀行強盗モノという血沸き肉躍るイメージからすると、これは随分地味なイメージに映ってしまうかもしれない。
かなりよかったところ:
この映画は新しい形のボニー&クライドと言うことができるかもしれないが(結末は大分違うけど)、銀行強盗云々というよりはむしろ、主人公3人(+α)の関係性に重きを置いたロードムービーという点に目を向けて観た方がずっと楽しめるのではないかと思う。
キレると凶暴なマッチョだけどロマンティックな性格で女にももてるらしいジョー。それをブルース・ウィリスが ? でもやはりぴたりと嵌まっているところはさすが(髪型はちょっとヘンだけどね)。インテリだけど神経質で病気恐怖症のテリーは、ビリー・ボブ・ソーントンには適役そう。一方、ちょっとイカレた人妻のケイトだが、ケイト・ブランシェットは見る度にイメージが違うくらいどんな役柄でも見事にこなす人だからな~。この3人の折りなす微妙な三角関係は、それだけで充分な見応えがある。
そして結末は意外なことに……。
個人的にスキだったところ:
サントラは全体的に控えめなのだが、グローヴァー・ワシントン・Jr.の『Just The Two Of Us』(名曲 ! )を始め、使われている曲がいちいちシブくてかっこいい。
コメント:
派手な大仕掛けよりも会話やディテールに凝っているタイプの映画を、ハリウッド映画では久々に観たような気がする。お話の展開の方向も含めて、私はとっても好き。万人にではなく、シブ好みの向きに限定してお薦めしてみたい映画だ。
こういった映画は全国の系列館で粗雑に大規模公開してしまうより、本来はもっと小規模にじっくりと公開するべきなのではないのだろうか。どうも勿体ないったら。

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【光の雨】四つ星

一言で言うと :
1972年、連合赤軍を名乗るあさま山荘事件の犯人は、事前に潜伏していた山中で14名もの同志を粛正していたことを供述した。この一連の連合赤軍事件を題材にした立松和平の小説『光の雨』を、同作品を映画化しようとする人々の姿を通して描いた劇中劇。
ある中堅のCMディレクター(大杉漣)は初監督作品として『光の雨』の映画化に着手する。オーディション等で選ばれた役者達は、題材に戸惑いながらも何とか役をつかもうと試行錯誤する。が、ある日監督が失踪してしまい、撮影は中断してしまうかに思われたのだが、メイキング編の若手監督(萩原聖人)が新たに監督に起用され……。
すごくよかったところ :
何と言っても、この話を劇中劇で表現するというアイディアを思いついたところが出色 ! ただでさえこれだけ隔たった時代の、しかも際だって常軌を逸していた事件をいきなりダイレクトに描いてみても、今の時代の皮膚感覚ではやはりにわかには理解しがたい部分があるのではないだろうか。現在の若い俳優さん達が悪戦苦闘しながら当時の人々を演じようと取り組む姿を捉えようとしたことで、題材に対して適度な距離感が取れたのではないかと思う。(ちなみに脚本の青島武氏(兼プロデューサー)は、私と近い年代の方のようだ。)
その若い俳優さんたちを演じた役者さん達が、有名・無名を問わずみんな素晴らしい ! 中でもリーダー役の2人の熱演は印象に残るのだが、今よりも5年後、5年後より10年後が楽しみな山本太郎君はともかく、裕木奈江さんがここまで本格的に演技のできる女優さんだとは正直思っていませんでした。完全にみくびっていたかもしれません。スイマセンでした。
事件の当時は私は子供だったのだが、事件の記憶はとんと無く、その後も学生運動の流れなどとは無縁なままに過ごしてきた。全共闘運動などについてもごく断片的に聞きかじるだけで、その詳しい内容を知ることもついぞ無いままだったのだが、私のような人間にとってこの映画は、一連の流れについておおまかなあらましを知るいいきっかけになるのではないかと思われる。
ちょっと惜しかったところ :
現在40代の後半から50代くらいの、正にその時代の当事者だったと思われる人達は、当然のことながら事件に対する思い入れや感慨が全然違う。もっと政治的な側面を描くべきだとか、中心人物の二人が悪者っぽくなってしまったのが解せないとか、微妙な部分に対してまで、彼等の注文はまー細かいんだわ。そりゃ個人で思っていることはそれぞれ違うのだから、いろいろ言いたくなる部分も当然出てきますよね。(そういった詳しい内容の解説や評論については、総て彼等に委せましたわ。)
コメント :
場の力学に流されて個人が本来発揮するべき判断力が麻痺してしまうというところに、オウム真理教の事件や昨今のいじめの問題、または日本における様々な村的なコミュニティに通底する他力本願なメンタリティを感じる。それは、かの事件が日常から切り離された異常事と見なされるばかりで、その経験の痛みが消化され活かされることもなく時代が下ったということの証左なのではあるまいか。
しかし、全共闘時代に何らかの方法で政治運動に関わった人々にとっては連合赤軍事件はあまりに痛恨の出来事で、正面からまともに向き合うのに長い時間を要したというのもきっと事実なのだろう。ましてや、複数の人間や膨大な資金をそれなりの説得力をもって巻き込まなければならない映画というメディアでは尚更である。この映画に関しては、とにかくよくぞ形にしてくれたというところに感服するばかりだ。きちんと語られるための努力は、きっとまだ端緒につけたばかりなのだ。
革命っていうアイディア自体は悪くないのではないかと私は思う。(BGMにはビートルズの『Revolution』をどうぞ。)でも本当に何かを変えようと思ったら、百年とか二百年とか、下手をすると何百年もの歳月が掛かってしまうものなのではないだろうか。人間は大して長くは生きられないものだから、つい性急に結論を求めてしまうものだけど。
【青春の殺人者】【太陽を盗んだ男】の監督で幻の巨匠と言われる長谷川和彦監督も同様の企画を長年暖めていたというが(今回の映画化にあたって高橋伴明監督は事前に仁義を切りに行ったということだ)、長谷川監督版はいつか実現することがあるのでしょうか。監督独自の切り口をいつか是非観てみたいとは思うのですが…… ? それより、あさま山荘事件を鎮圧した警察の側、というか権力の側から書いた話を【金融腐食列島・呪縛】の原田眞人が映画化するっていうのは、一体どうなのよ ? こちらはかなりコワいような気はするのだが、多角的な視点を一つのストーリーの中に落とし込む【…呪縛】で見せてくれた見事な手法が活かされることを、せめてなりとも期待したい。

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【ピストルオペラ】四つ星

一言で言うと :
組織No.3の殺し屋“野良猫”(江角マキコ)は、誰も正体を知らないNo.1の殺し屋“百眼”殺害の指令を受けるが……。映像のアナーキスト・鈴木清順監督が自らの旧作【殺しの烙印】をアレンジした、10年ぶりの新作。
かなりよかったところ :
昔は鈴木清順監督の映画を観てもどうもピンと来なかったし、あまり好きにもなれなかったけど、最近やっと監督の映画の観方が少しだけ分かってきたような気がする。監督の映画は、細かいことはあまり考えず、流れに身を任せて、画(え)のフォトジェニック性やモチーフの組み合わせ方の意外さ、その素っ頓狂なケレン味を素直に楽しむ姿勢で観るようにした方がいいみたいだ。
本作では、脚本の伊藤和典・特撮の樋口真嗣など意外なところで“平成【ガメラ】組”が頑張っていたり、他にも若手のミュージシャンなど、鈴木清順にリスペクトを寄せる様々な才能が集まって、“鈴木清順的世界”をますます盛り立てて純化させているかのようだ。
そんなこんなで、今までの清順監督の映画の中では一番面白く観ることができたのではないかと思う。
あまりよくなかったところ :
しかしここまで視覚から入るインパクトに重きを置いているのなら、総ての俳優さん達の演技に、もっと統一感の取れた客体性とか様式美を徹底して求めてもよかったのではないだろうか。
例えば、江角マキコさんはその体型自体に抜群の説得力があるとはいえ、いくつかの箇所ではポーズを決めるのに照れらしきものが見られたりして、ツメの甘さを感じない訳ではなかった。平幹二朗さんなどの演技は人間臭すぎて、この全体のトーンの中ではしばしば浮き上がって見えてしまった。
確かに、様式に徹しきってしまう演技って、実は一番難しいぐらいに難しいものなのかもしれないけれど……。(その辺りを一番理解して意識して演技していたのは、実は山口小夜子さんだったのではないかと思われる。さすがは元超一流モデルだ ! )
個人的にニガテだったところ :
でもって、この沢田研二の使い方はあまりに酷くない ? 往年のジュリーファンが見たら泣くよ、絶対 ?
コメント :
世界中に高齢の映画監督は何人かいらっしゃるだろうけど、御年78歳にしてここまでブッ飛んだ映画をしゃあしゃあと創って涼しい顔をしている監督さんとなると、さすがにちょっと見当たらないかもしれない。歳を取れば取るほどに手に負えない存在になるとは、なんてそら恐ろしいお方だ。

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【フェリックスとローラ】四つ星

一言で言うと :
移動遊園地のアトラクションのしがないオーナー(フィリップ・トレトン)は、ある日見掛けた哀しげな女(シャルロット・ゲンズブール)に魅かれるが……。パトリス・ルコント印のラブ・ストーリー。
あまりよくなかったところ :
はっきり言ってお話の骨子自体は平凡でありがちというか、どうという特徴が無いと言えるかもしれない。
かなりよかったところ :
でもその平凡なお話を、いろいろなとっかかりを用意しつつ飽きさせずに1時間半きっちり見せるのは、さすがは職人ルコント監督のなせる技だと思う。
今回、儚げな女に扮しているシャルロット・ゲンズブール。そのミステリアスな存在感を狙って出しているのなら凄いかもしれない。
で、この相手役の男の人、フィリップ・トレトンってどこかで聞いた名前だなぁ、と思っていたら、な、なんと、何週間か前に御紹介した【今日から始まる】の主人公の園長先生を演じていた人ではありませんか ! うわ~、体型も髪型も雰囲気も何もかも違っているから全然分からなかった。でも、根っこが暖かそうなところが心惹かれるこの人のこの存在感無しには、この映画自体、きっと成立しなかったはず。この人、本国フランスでは既に名前が知られていると見た。要チェックです。
コメント :
しかし、哀しみが似合う女、って発想はちょっとイヤかもしれないけども。

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【フォロウィング】三つ星

一言で言うと :
【メメント】のクリストファー・ノーラン監督が、サラリーマン時代に自ら資金を集めて製作し、その後注目されるきっかけとなった長編デビュー作。小説のネタ集めの為に他人を尾行する小説家志望の青年が巻き込まれた事件とは ?
かなりよかったところ :
テンポよく進む話に、スタイリッシュなモノクロの画面がぴったりマッチしている。どんでん返しもバッチリ決まる。う~ん、なんてムダなく、完璧に出来上がっているのだろう ! とても新人監督が自主製作した作品とは思えないレベルの高さだ。
ちょっと惜しかったところ :
とは言えやはりこれは、ものすご~く低い予算でやっとのことで撮られた映画だと思われるので。やはり出来上がりがどうしても地味というか、華やかさに欠けている印象は否めない。
個人的にニガテだったところ :
私は他人のプライバシーにはとんと興味がない人間なので、他人の生活を覗き見るという主人公の彼の行動の何が面白いのかそもそも分からないし、ましてや美女のプライベート・ライフなんて本当にどうでもよかったりして。筋立てに全然感情移入出来ないっていうのは、やっぱりちょっとキツかったかな。
コメント :
主に個人的な好き嫌いのせいで、結果的にはそれほど高い評価にはならなかったけど、一見しただけでノーラン監督の才能はひしひしと感じられる作品だと思った。
今準備中の新作【Insomnia】にはアル・パチーノだのロビン・ウィリアムスだのといった面子が出演予定なんだって。こりゃかなり期待できそうだ !

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【プラットホーム】三つ星

一言で言うと :
時代が少しずつ変わりはじめた80年代の中国を舞台に、小さな町の文化劇団に属していた二組のカップルの青春と、その終焉を描く。
かなりよかったところ :
ロングショットの画の構図と色彩に、非常に力を感じる。この語り口は、もし嵌まることが出来れば堪えられなくなるのだろうなぁとは思う。
個人的にニガテだったところ :
何だか世をスネちゃってるようなあのメガネのにーちゃん。独り善がりの能書きをぼそぼそと垂れ流すばかりで行動が伴っていないという自覚がない若い男の子っていうのも、うーぴーさんの鬼門の一つでして……。
今まで観た限りでは、中国の第6世代の監督さんの作品ってどうも語り口が内向きというか、言いたいらしきことがこちら側まで積極的にアピールしてこない。好き好きということになるのかもしれないが、私はこの作風、やっぱりどうも苦手だ。
コメント :
この作品の製作にはなんとあの ! オフィス北野(言わずと知れた北野武監督の事務所)が一枚噛んでいるようだ。この作品に限らず、日本と外国、特に東アジア方面(香港・台湾・中国・韓国など)のプロダクションとのコラボレーションは最近はかなり頻繁に見掛けるようになってきた。今はまだ端緒につき始めてお互いの手の内を交換しているくらいの段階なのだろうが、何年か後には、この流れが今まで全く想像もしたことがなかったような新しい概念なり方法論なりを生み出していく可能性があるのではないだろうか。なんか面白いなぁ。

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【Pain ペイン】四つ星

一言で言うと :
AV出身の石岡正人監督がクールな視点で切り取った、風俗業界の周辺の若者達の姿。家出して東京にやって来たカップルだったが、未成年のため仕事も思うように見つからず、そのうち男の子はAVのスカウトマンの道に足を踏み入れ、一方女の子は、パーティ券の販売や売春の仲介やホストクラブ通いをして日々を過ごす少女と親しくなる……。
すごくよかったところ :
極めて不安定で微妙なある種の力学の上に、まるであぶくのように一瞬だけ浮かぶみたいにして存在している特殊な世界。例えばそれは今の日本の東京にも厳然と存在しているもので、外部には曖昧模糊として映るその状況そのものの形や、そんな中で生きている人の乾いた痛み、その決してウェットな方向には行かない温度感や空気感まで、極めて的確に切り取っているように見えるところが凄いと思った。
“痛み”という題名をつけてあるくらいだし、どれだけドライに見えたって、本当は痛いんだよね。どの人も、いろいろなことを織り込み済みで心はとっくに動かなくなってるけど、あまり変化が無いように見える表情にも本当は乾いた涙がつたっているといったふうな、そんなイメージがした。
監督もAV界の御出身だということだが、普通自分も片足を突っ込んでいるとこれだけ客観的には描けず、もう少し何かしら、荷担しているものとしての自意識や自己弁護が出てくるものではないかと思うのだが。監督は極めて冷静で頭のよい方なのだなと思わずにはいられなかった。
役者さんは無名の人が多かったが、主人公の特に男の子の方(中泉英雄)、先輩スカウトマン(吉家明仁)、ヒロインと知り合うコギャル系少女(藤本由佳)、ベテラン女優(小室友里)など、こんな人達本当にいそうだと思えるほどリアルで印象的に見える人が多かった。
コメント :
今週たまたま人と、性を切り売りする状況が存在してしまうことの是非の話になったりしたのだが……その辺りを書いているときっと大論文になってしまいますので、今回はちょっと御容赦下さいませ。

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【ホセ・リサール】四つ星

一言で言うと:
近代フィリピンの精神的支柱となった19世紀末の作家ホセ・リサールの生涯を描き、本国フィリピンで記録的な大ヒットとなった映画。
ホセ・リサールは、フィリピンでは授業でその生涯や著作を教えることを義務づけられているほどの重要な人物なのだそう。また彼は文学のみならず、医学や語学、美術や博物学などにも通じていた一種の天才で、当時、向学のため多くの国を訪れており、東京の日比谷公園には彼の来日を記念した石碑があるのだそうな。
すごくよかったところ:
すごーくオーソドックスな伝記映画 ! ホセ・リサールさんという人の一生を生い立ちから死に至るまで追い掛けながら、その業績や思想に至るまで立体的に捉えており、彼の名前を聞いたことがない人でもそのあらましを知ることが出来るような、見応えのある内容になっているのではないかと思う。
かなりよかったところ:
タイトルロールを演じたセサール・モンタナさんは、レスリー・チャンをちょっとラテン系にバタくさくしたような感じ ? (レスリー・ファンの人、怒らないでね。)端正な中にも色気のある佇まいがなかなか魅力的。
ちょっと惜しかったところ:
3時間という上映時間を長いと感じる人もいるかもしれない。確かに、エピソードをもっと絞り込み物語としての密度を更に高めてドラマチッに盛り上げるという方法の方が昨今は一般的かもしれないが、でもこういうのはこういうのでいいものだとも思うのよ。
コメント:
こういった、由緒正しく折り目の正しい映画って、最近はあまり見掛けなくなったような気がするなぁ。由緒も折り目も正しくない映画というのもそれはそれで好きなのだが、そういう映画ばかりになってしまうというのも少し寂しいような気がするのだが。

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【まぶだち】四つ星

一言で言うと:
地方の中学校に通う中学生が、理不尽な担任教師の教育方針に反発を覚えながら少しずつ成長していく姿を描く。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)出身の古厩智之監督の7年ぶりの新作。
すごくよかったところ:
この担任教師というのが、例えば、生徒達に宿題として毎日“生活記録”なるものをつけさせ、その内容によって生徒を“優等生”“不良”“クズ”とランク分けして大きなグラフにして教室にデカデカと貼り出すとか、ちゃんと記録を書いて行かなければ呼び出して説教だとか、場合によっては体罰だとか……げーっ信じがたい!こんな感受性のカケラもないような教育方法で生徒達の人間性なるものを育くむことが出来るだなんて、本気で信じているのだろうか……。
しかし、今は知らないが少なくとも私が中学生だった頃には、実際にたくさんいたんだよなぁ、こんな阿呆な先生。しかもこんなタイプの先生こそ“熱心”だと勘違いされて権力持っちゃったりするんだよね、タチの悪いことに。
こんな理不尽さを前にした彼等の胸の内を実に繊細かつ的確に、しかもさりげなく切り取って見せているところに、監督の確かな手腕を感じた。この世界をちゃんと形にしてみせたということだけで、これは凄いことだと思う。
監督さんへの思い入れ度:35%
ちょっと惜しかったところ:
でもこの感覚って、実際に日本の地方の公立中学とかに通ったことのある人じゃないと分かりにくいのかもしれない。こりゃ東京の小洒落た映画館なんぞで細々と上映してる場合じゃないだろう ! フィルム担いで全国行脚でもするべきだってば。
個人的にニガテだったところ:
本当のことを言わないことが唯一の反抗だっていう屈折は分からないじゃないけれど、やっぱりそれだと伝わらないものもあるのでは ? というか私なら、もっとあからさまに先生に反抗して、体罰覚悟で意見なんかバンバン言っちゃってただろうと思うのよね。(そんなこんなで更にドツボにはまる人生なわけだ(笑)。)……とはいえ、中学時代の自分は、それが理不尽だってこと自体に気がつけるほど頭がよくなかったかもしれないけれど。
オーラスのモノローグはそこまで要らないというか、ちょっと蛇足だったんじゃないだろうか。
コメント:
古厩監督の新作はもう観れないのかしら、なんて半ば諦め掛けていたのだが……なんだ監督、やれば出来るんじゃん ! まぁ、こんなインナー・ワールドに正面から向き合って形にするのは相当苦しかっただろうとは想像つくし、だからなかなか手を付けられなかったというのは分からないじゃないのだけれど。でも出来れば今度は、もう少し早めに新作が拝見できると嬉しいんですけどね。

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【みすゞ】三星半

一言で言うと :
夭折した天才童謡詩人・金子みすゞの半生の映画化。監督は【地雷を踏んだらサヨウナラ】の五十嵐匠。
かなりよかったところ :
風の音や木漏れ陽の美しさまで掬い上げられているような、丁寧な演出。
個人的にニガテだったところ :
真面目で大変に真摯な部分は好感は持てるけれど、抑揚がなさすぎるのが見ていて辛くなってくる。
個人的にスキだったところ :
これだけかっちりとした演出だからこそ、存在感そのものに色気のある寺島進さんのような役者さんを使うと一挙に映えるのではないだろうか。……って、また彼のことばかり褒めるというのも私も芸が無いよなぁ……。
コメント :
かつていろいろな詩を読んでみていた頃があって、童謡ではサトウハチローや西條八十(本作ではイッセー尾形さんが演じています)などはかなり好きだったのだが(『かなりや』は今でも私の心のテーマソングの一つです ! )、何故か金子みすゞには全然目が向かなかったんですよねぇ。でもこうした形にしてもらうと、その行間の一つ一つに深い味わいがあるなぁと改めて認識できたような気がする。今後機会があれば、今一度じっくり読み返してみたいところなのだが……。

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【耳に残るは君の歌声】四つ星

一言で言うと:
20世紀前半のヨーロッパ、幼い頃父親と生き別れたユダヤ系ロシア人の少女の道行きを描く。
父親と別れた後、ロシアから独り英国に渡って養父母の下で成長した少女(クリスティーナ・リッチ)は、持ち前の美声を活かしパリに出て舞台に立つことを決意する。ルームメイトになった同郷のロシア人女性(ケイト・ブランシェット)は、才能はあるが性格は屈折したイタリア系ユダヤ人の花形オペラ歌手(ジョン・タトゥーロ)の恋人になるが、少女自身は同じ舞台に立つジプシーの青年(ジョニー・デップ)に惹かれていく。だが時代には徐々に戦争の影が忍び寄り始め……。
すごくよかったところ:
この個性的な実力派の4人の役者のアンサンブルは、それだけで一見しておく価値はあることだろう。
かなりよかったところ:
ユダヤ人やジプシー(ロマ)、ロシア系移民といった複雑な人種的・文化的な背景を、ファシズムやナチズムの台頭する第二次世界大戦前のヨーロッパという時代的な背景と絡め、一人の少女の物語の中に溶かし込んで展開させているのがかなり面白いと思う。
ちょっと惜しかったところ:
しかしこれはもしかしたら、サリー・ポッター監督自身が今現在オペラやジプシー音楽などに興味があって、それらの要素を全部同時に映画に出すためにこういったお話を無理矢理こしらえ上げた、ということだったりして…… ? ポッター監督は、その時々に個人的に興味のある事柄を映画の題材として取り上げるということは今までにもなさってきていた方だし。
ストーリーはいろいろな要素の寄せ集めのようでもあり、今ひとつ全体としてのまとまり感に欠けるというのは事実だ……でも実のところ、物語を紡ぐというよりはイメージを呈示することが中心だったアーティスト肌のポッター監督のこれまでの作風からしてみれば、これでもまだストーリーラインはハッキリしている方なんですけどねぇ。
コメント:
例えば、ジョン・タトゥーロの演じたオペラ歌手の故国イタリアではムッソリーニによるファシズム政権が台頭してきており、彼はこれを支持しているけれど、イタリアは後に同盟国としてナチスドイツを選んだはず。また、パリを含めた北フランスはこの後ナチスに占領されることになるはずだし、ナチスがユダヤ人の次に多く虐殺したのは確かロマの人達だったはず。(ということはジョニデ君の運命は……。)こういった背景がストーリーの上でかなり重要な意味を持っていると思われるので、ある程度は分かっていないと、残念ながらこの映画の面白さは半減してしまうかもしれない。

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【ムーラン・ルージュ】三星半

一言で言うと:
高級娼館『ムーラン・ルージュ』の花形娼婦(ニコール・キッドマン)と小説家志望の青年(ユアン・マクレガー)の悲恋を、【ダンシング・ヒーロー】【ロミオ+ジュリエット】のバズ・ラーマン監督が独自のミュージカル・レビュー形式で描く。
すごくよかったところ:
古今東西のロックのクラシックと様々な種類のダンスを駆使したレビューの連続は、華々しくて賑やかで、まるでジェット・コースターに載っているような迫力。
よくよく考えてみると、ユアン・マクレガーがこれだけ正統派の役柄を演るというのは実は今までほとんどなかったことなのではないだろうか ? ユアン君をこれだけチャーミングに撮ったというだけで、今回のバズ・ラーマンには充分な功績があったと言えよう。ニコール・キッドマンは相変わらず人間離れした美しさだし、美男美女ならお話は完璧だ。
ストーリー自体はそれほど凝ったものではないというか、あまりにも定番でものすごく分かり易い展開なのだが、それでもラストシーンで思わず泣きそうになってしまったというのは、ひとえに主演の二人の力技と申せましょう。
監督さんへの思い入れ度:45%
あまりよくなかったところ:
特に前半の、手持ちカメラを駆使したレビューのシーンなんかは、あまりにも動きが激しすぎて、もはや体力がついていきません……。元々ストーリー展開を楽しむタイプの話ではないのだから、その派手派手しさを心ゆくまで楽しめるというのでなければ、評価もどうしてもそれなりになってしまうのですが……。
コメント:
昨今、ベストコンディションで映画を見に行けるなんて滅多にないことだからなぁ……体力勝負の映画って私にはもう難しいのかもしれない。
あとこの映画、【アメリ】の直後に観に行ったっちゅうのがちょっと失敗だったかな。【アメリ】と並べてしまうと大抵の映画はどうしても大味に見えてしまうだろう、っていうのは、観終わった後だから言えるんですけどね。

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【ムッシュ・カステラの恋】四つ星

一言で言うと:
会社社長のカステラ氏は、本業は女優をしている英語の家庭教師に恋をするが、典型的なオヤジである中身がどうにも彼女に好かれない……。今まで何本もの脚本を手掛け、時には出演も果たしてきたアニエス・ジャヴィとジャン・ピエール・バクリによる共同脚本による本作で、今回ジャヴィが初めて監督を担当した。
すごくよかったところ:
芸術方面の話には全然ついていけないのに話の輪には入りたがって、いざ口を開いてみると下品なネタばかり……フ、フランスにもいるんだ、こんな人。確かにこういう人が周りにいたら、私も思いっきりサベツして冷たくあたってしまいそう。
でもそのカステラ氏が自然な形で芸術方面に目覚め始め、それと同時に女優の彼女にも少しずつ彼の性格の優しさや実直さが分かり始める、という展開は素敵だった。
周囲の人物も一人一人愛情をもって丹念に描き込まれ、それぞれに魅力的なところがよかった。特にカステラ氏のボディガードのおにいちゃん二人組。恋に悩む黒服ボディガードの図なんて、普段はあまり想像できないものね。
全体的にそれほど派手さはないけれど、さりげなく楽しむことが出来る。こういうのこそ正に、いわゆるオトナ向けの映画なんじゃないかと思う。
コメント:
芸術なんて、自分の感性に合ったものを自然に楽しめればいいのであって、自分にそういう感覚があるということに目覚めることが一番大切なことなんじゃないだろうか。世の中の、自分に感動するという感覚があること自体に無自覚なオジサン達がみんな目覚めることが出来れば、日本もそれだけで相当いい国になるかもしれない。私も先入観だけでオジサン達をサベツしたりせず、もっと暖かい目で見守るようにするべきなのかもしれないか……。
カステラ氏って名前は単なる偶然みたい。でもこの邦題、シンプルで解り易いけどアイキャッチがあって、なかなかいいかもしれない。

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【メメント】四星半

一言で言うと :
妻が殺された事件で負った怪我の後遺症で新しい記憶を持つことが出来なくなってしまった男(ガイ・ピアース)は、メモ代わりにポラロイド写真を撮り、大事なことは体中に刺青にして刻みながら、亡き妻の復讐を果たそうとする……。新鋭クリストファー・ノーラン監督が放つ、かつて観たことのない形のサスペンス !
すごくよかったところ :
男の記憶が常に断片的(ものの10分も経つとそれ以前のことは忘れてしまう)なことを効果的に演出する意図からか、映画を観る側にも常に断片的な情報しか与えられない。復讐を果たしたシーンから始まって、断片的なストーリーが少しずつ巻き戻されて時間を遡って行き、最後に物語の全貌が判るといった仕組みだ。一体どうしてそんなことが思い付けるの !?
“物語の全貌が判る”と書いたが、実のところ、真実とはあまりに主観的で、記憶なるものと同じくらい曖昧なものなのだ、ということが解ったに過ぎないのかもしれない……。私は一度観ただけでは、とてもじゃないが総ての謎を把握した自信はない。この映画は何度でも観る毎に、事象の様々な側面を万華鏡のように見せてくれるのではないだろうか。私達はその断片を拾い集めて、真実なるものとは一体何者なのか、思いを巡らせてみるしかないかもしれないのだ。
ガイ・ピアースの衝撃的な全身の刺青姿は、今後も永く記憶される映画的イコンと化すのではないだろうか。
コメント :
最近の映画はつまらなくなったとのたまう人は常にいて、かくいう私も、マンネリ気味になって煮詰まってしまうことも実は少なからずあるのだが、そんな頃に必ず、それまで存在しなかったような新しいものがどこからか立ち現れてくるのだ。これは一体何なんだろう。だから映画ってやめられないのだ。
取り敢えず今年、何か一本だけ全く新しい映画を観てみたいという人には、迷わずこの映画をお薦めします !

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【UFO少年アブドラジャン】四つ星

一言で言うと :
【E.T.】に感動したウズベキスタンのある小さな村の村人が、スピルバーグに宛てて自分の村で起きた“本当の出来事”を書き綴った、というイントロの、可愛くて可笑しくてちょっと切ない、手作り感覚のお伽噺。空から落ちてきたUFOに乗っていた男の子を我が子のように家に迎え入れた初老の男とその妻、そして男の子の巻き起こす奇跡とは ?
すごくよかったところ :
ウズベキスタンの人達はみんないい人……な訳はなく、このほのぼのとした、というよりすっとぼけた笑いのセンスは、監督の個性やお人柄に裏打ちされた独自の作風なんだろう。
よく考えてみると、主人公の家族とアブドラジャン君を除くほとんどの主要な登場人物は、味の濃ゆいオジサンばっかりじゃない !? でもどのキャラも強烈に個性的で、見れば見るほどに味が出てくる。
でもやっぱり話の中心は、アブドラジャン君と主人公の家族とのやりとりにある。さんざん面白がらせておいて最後には少しほろりとさせてしまうなんて、心憎いばかりの演出 !
アルミ鍋を逆さにしただけみたいなUFOに代表されるようなあまりにも懐かしいタッチの特撮 ? などと相俟って、一見とても素朴な出来に見えるけれど実は、どこの世界に持っていっても確実に笑ってもらえるような、非常にソフィスティケイトされた話法に裏打ちされているのではないかと思う。さすがは旧ソ圏、基本的な映画作りのポテンシャルはすこぶる高いのではないかと見た。
コメント :
ウズベキスタンでは現在、元共産主義者の大統領が国内のイスラム教徒に対して非常に人権抑圧的な政策を取っているのだそうだ。で、アフガニスタンでの軍事作戦の基地を置いている米国がウズベキスタン政府に肩入れし、国内の人権侵害を見て見ぬ振りをすれば、反政府勢力のイスラム過激派がますます活発化する恐れがあるのだとか。……この映画に出てくる村人達は、宇宙人のアブドラジャン君を除き、皆イスラム教徒である。この映画はもうざっと10年前に出来た映画のようなのだが、今ここでこそ、人間臭いイスラムの姿を観ておきたいような気がする。

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【日本鬼子〈リーベンクイズ〉】四つ星

一言で言うと :
満州事変から第二次世界大戦終結に至るまでの対中国の泥沼の侵略戦争の中で、日本軍が実際にどのような残虐行為を行ったのかを、元兵士達の加害者側の立場からの証言によって描き出した迫真のドキュメンタリー。副題は“日中15年戦争・元皇軍兵士の告白”。
すごくよかったところ :
手当たり次第の拷問や殺戮、強姦、物品の略奪に、挙げ句の果ては生体解剖や細菌兵器の人体実検まで……彼等の口から語られる言葉はどれも想像を絶するような凄惨な内容だ。一つ一つの断片はそれまでにどこかで聞いたようなことがあるような話でも、実際にそういった行為を行っていた人の口から語られた時の圧倒的な生々しさは、想像以上だった。
徹底的に破壊し尽くし、収奪し尽くして、彼等の通った跡は文字通り草も生えないような状態であったに違いない。中国の人々が何故日本人を『鬼子』と呼んだのか、彼等の恐れや怒り、憎しみは想像するに余りある。
自分の頭で考えて判断するという教育を受ける機会が少なく、自分以外の何かに判断を預けてしまうという傾向に陥りやすい日本人が、戦争という異常な状態の中でどのようにして・どこまでその判断力を麻痺させて狂気に満ちた状態に陥っていったのか。戦後、彼等の大多数を死刑にすることなく、一定期間の拘留の後に釈放する道を選んだ中国の周恩来首相の真意とは何だったのか。また、戦うということをこのような形でイメージする人々は、防衛するということの観念が私なんぞとは何か根本的に違っているのではないだろうか、等々。改めていろいろなことを考えさせられてしまう映画だった。
この方々はよくぞ証言して下さった、また監督はそれをよくぞこのような形にして下さった。その勇気と誠意に感服し、感謝する。
コメント :
ところで、【紅いコーリャン】の主演俳優の姜文(チャン・ウェン)さんが監督したという映画【鬼子来了】は、今後日本で公開される予定は全然ないのかな ? テーマ的にはこの映画と似たような感じではないかと思われるのだけれども(無論、中国の人の立場から描かれている筈ですが)。

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【リベラ・メ】三つ星

一言で言うと:
火を消すことに命を懸ける消防士達と、心に傷を追った知能犯の放火魔との戦いを描く韓国映画。
かなりよかったところ:
消防士の話と放火魔の話を螺旋状に絡めたサスペンスな展開は、軸がしっかりしていて見応えがある。役者もいい。
まるで生きているみたいに矢継ぎ早に襲いかかってくる炎。これがCGじゃないなんて凄い !
あまりよくなかったところ:
かように悪くない要素ばかりだったのに、一体何がよろしくなかったのだろう ? 話の展開のハデさに比べて語り口自体は割と地味だったところかなぁ ? それとも後半、火があんまりにもどっかんどっかんし過ぎていて、まるで行き過ぎのアクション・シーンみたいな催眠効果を催してしまったところだろうか…… ?
コメント:
それでも基本的には迫力があって、底力を感じさせる映画だったとは思うのですが。

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