Back Numbers : 映画ログ No.54



【インティマシー 親密】四つ星

一言で言うと :
ひょんなことで知り合って不倫の関係に陥った男(マーク・ライランス)と女(ケリー・フォックス)は、いつしかお互いにそれ以上のものを感じ始めたのだが……。【マイ・ビューティフル・ランドレット】の脚本家ハニフ・クレイシの小説を元に、【愛する者よ、列車に乗れ】のパトリス・シェロー監督が映画化。
すごくよかったところ :
よくよく筋だけ考えてみれば、どうってことのない不倫ものである。でも主人公の男女や周りの人物の生々しい感情の襞、その空気感、温度や湿度までそのまま切り取ってきたかのような緻密な描写がとにかく素晴らしい !
濃厚なセックス・シーンがたくさん出てくるけれどそれが、背負うものも手放したいものも抱えてしまった中年の男女の普遍的な感情の次元に、的確に落とし込まれているのが見事だ。性愛そのものずばりの解釈ならば【愛のコリーダ】の域には遠く及ばないだろうけれど、性愛が存在する(または存在せざるを得ない)状況の分析として観るならば、これは秀逸であろう。
こういった映画こそ、最高の知性なしには創れないはずだ。
その他のみどころ :
最初、予期しないシーンが唐突に始まったりするので面食らってしまったりもするが、後になると段々とそれぞれの意味が繋がってくる。この辺りは【…列車に乗れ】の手法によく似ていたように思う。
コメント :
ヒロインの知人役で出てくるマリアンヌ・フェイスフル(大昔にミック・ジャガーの恋人だった女優かつミュージシャン)の以下の科白が好きだったので御紹介しておきたい。「つまり死んだのはあなた自身ね。死にたくなったら私がそばについている。一緒にいたいの。私が死んだ時には誰もいなくて一人だったわ。でも乗り越えたの、誰も傷つけずに。」(一部訳語等変えてあります。)おぉ~っさすがはマリアンヌ・フェイスフル ! こんな科白を言わせて世界で一番嵌まるのは文句なく彼女であるに違いない。

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【ヴィドック】二星半

一言で言うと :
フランス革命後の19世紀初頭、凶悪犯から警察官になり後に探偵になったという伝説的人物ヴィドック(ジェラール・ドパルデュー)を巡る物語を、【エイリアン4】などの特殊効果やCFなどを手掛けてきた映像クリエイターのピトフ監督が映画化。
かなりよかったところ :
意匠や特殊効果にこだわった陰影に富む凝った画面作りで、一見して受ける印象の通り、ちょっと変わったテイストのコスチューム・プレイになっていると思う。
その他のみどころ :
【デリカテッセン】【ロスト・チルドレン】【エイリアン4】などの美術を手掛けてきたマルク・キャロが、本作にキャラクターデザインで参加しているのだそうな。ずっとコンビを組んでいた監督のジャン・ピエール・ジュネは袂を分かった後【アメリ】を完成させたのは御周知の通り。本作との作風の違いに思いを馳せる毎に、かつてのコラボレーションの中にあった幸福な映画的化学反応をますます実感する。
個人的にニガテだったところ :
とにかく目まぐるしすぎる画面 ! 3秒以上同じカットがないんじゃないかと思われるぐらい。おまけにアップや手持ちカメラなんかも多用されていて、スピード感があるというより只々気ぜわしい……だ、駄目だ、私のようなオバサンには、こりゃもう生理的についていけない。
かように画面の展開についていけないと、それなりにどんでんがえしなんかもあるらしい筋立てなんかもちっとも頭に入ってこないし、そうなると、凝りに凝ったセットもビジュアル・エフェクトもまるで意味など無くなってしまう。だってそれって、魂のこもらない絵画を見つめているようなものじゃない ?
コメント :
【ムーラン・ルージュ】に引き続き、私はもうこの手の映画は駄目なのかもなぁ、と思うと何だか少し悲しかった。若い読者の皆様、あまり感想らしい感想になっていなくて本当に申し訳ありません。

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【カラマリ・ユニオン】三つ星

一言で言うと :
めいめいがフランクという名前の15人の男達+1名が、腐った現実の向こう側(街の反対側 ? )にあるという理想郷《エイラ》を求めて疾走する ! フィンランド映画の存在を全世界に知らしめたアキ・カウリスマキ監督の初期作品。ちなみに、カラマリってイカ墨のことなんだそう。
かなりよかったところ :
地図を広げて指し示される《エイラ》っていうのが、どう見てもたかが隣り街くらいの位置にあるんだけど……そんな理想郷、どう考えても《ここ》と同じくらいに大した場所ではないように思われるんだけど……しかも道中、いろんな妙な理由で一人、また一人と脱落していって、ほとんどまともにたどり着ける気配もないんだけど……どうやらこれは多分、全編が、日常からの脱出と理想への到達を巡る皮肉たっぷりのパロディなのだ !
個人的にニガテだったところ :
しかしこの映画では、カウリスマキ監督印のサツバツとした間(ま)が、もっと歯止めの効かない状態でそのまんま放り出されてまして……監督の他の映画では、それも慣れると段々と快感になってくることもあるのだけれど、今回の私にはちょっとキツかったかなぁ。
コメント :
本作は、ユーロスペースの《アーリー・カウリスマキ》特集の一本として、監督の長編デビュー作の【罪と罰】(ドストエフスキーの原作を現代フィンランドにアレンジしたもの)などと一緒に公開されています。監督をお好きな皆さんは、やはり一度チェックしておいてみてはいかがでしょう ?

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【カンダハール】三つ星

一言で言うと :
アフガニスタンのカンダハールに住む妹から自殺予告を受け取った亡命アフガニスタン人の女性ジャーナリストが、困難な旅路を急ぐ。監督はイランの巨匠として著名なモフセン・マフマルバフ。
かなりよかったところ :
この作品は、マフマルバフ監督らしい美しく詩情に溢れた感傷的な物語だと解釈して見た方がいいのではないだろうか。
ちょっと惜しかったところ :
しかしこれはあくまでもイラン人の男性監督、しかも西洋的な考え方にかなり同化している面もあると思われる人物の視点で描かれたお話に他ならないと思う。
女性一人では何かにつけ行動が制限されるのに、誰も危険な地域へ敢えて行きたがらないから旅路が思うに任せない、等々、この主人公の女の人が感じる不自由さって所詮、西洋的な常識ではふるまえない不自由さのことなんじゃないのか。当地の常識が100%総て正しいとは勿論言わないけれど、それにしたって郷に入ったら郷に従った考え方を少しはしてみようよ、と少しずつイライラした気持ちにさせられてきてしまったのだが。
個人的にニガテだったところ :
おまけにこのラストって……そりゃ必ずしも結論を出す必要はないっていう考え方も、ドラマの作法として成立はするのかもしれませんが。
コメント :
この映画は“実際にアフガニスタンに暮らす”女性の心の内面にまで降りていったものではないので、現実の彼女達の“心の牢獄”なるものを垣間見ることは出来ないんじゃないかと、私は思う。
また、今現在のアフガニスタンの政治の状況を詳細に反映したものだとも言い難いであろう。
そうしたものは一切期待せず、ある西洋人旅行者(内面的にはどう見ても)のある特殊な地域へのセンチメンタル・ジャーニーとして捉えるのであれば、それなりの出来になっているとは思うのだけれども……。

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【素敵な歌と舟はゆく】四つ星

一言で言うと :
超多忙なエリート実業家の母親と、ほとんどヒモ状態で悠々自適の生活を送る父親のいるお屋敷の息子(ニコ・タリエラシュヴィリ)の周りの様々な人達。グルジア出身のオタール・イオセリアーニ監督は、ヨーロッパでは知る人ぞ知る映像作家だとのこと。本作には父親役で出演もしている。
かなりよかったところ :
中心人物は一応、お屋敷の息子や父親なんだけど、たくさん出てくるさまざまな人物が、少しずつ関わりあい、大きなサークルを描いて回っているみたい。皆が主人公のように見えるともいえる。構造的には、ロバート・アルトマン監督の【ショート・カッツ】辺りを思い浮かべて戴くと一番似ているだろうか ? (雰囲気はかなり違うけど。)
どうも肩身の狭そうな立場ながらそれなりに人生を謳歌している様子の父親に、そんな父親の気質をきっちり受け継いでいるかに見える息子。でも彼等を巡るサークルも年月の経過によって少しずつつずれていき、ある時取り返しのつかないような状態にまで陥ってしまう……。(踏んだり蹴ったりの息子、気の毒だなぁ。でも人生ってそんなもんか。学ぶしかあるまい。)
船出のシーンは、とても美しいけれども何かしら物悲しくもあった。まるで自由そのものを背負うみたいに。
といっても、映画のトーンはそれほど悲観的な訳ではさらさらない。淡々としたユーモアをもって生きていることのいろいろな側面を写し取る、豊かで“素敵”な映画だった。
コメント :
グルジアといえば稀代の映像詩人セルゲイ・パラジャーノフの出身地。豊穣な芸術性を擁するお国柄を勝手に想像してしまう。オタール・イオセリアーニ監督については、今までも特集上映などは組まれていたみたいだが、一般の映画館で紹介されるのは多分初めてのことだろう。勉強不足のため今まで存じ上げなかったけど、過去の作品などもいろいろと拝見してみたくなった。

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【DEAD OR ALIVE FINAL】四星半

一言で言うと :
日本一多作な三池崇史監督のライフワークの一つ(に違いない)【DEAD OR ALIVE】シリーズの堂々完結編 ! 主演は勿論、Vシネマの二大帝王・哀川翔と竹内力。
舞台は、一度文明が壊滅した後の西暦2346年の香港……じゃなくて横浜。翔兄ィは反体制組織と馴染みになる流れ者の戦闘レプリカントで、力兄ィはそれを取り締まる警察側の幹部。しかしやがて意外な事実が明らかになる……。
個人的にスキだったところ :
前二作を上回る衝撃のラスト ! しかもこれは……前世の因縁なのか !? そ、そういうことだったんですかこのシリーズは !? そんな力技で押し切ったりしていいんですか本当に !?
途中のシーンなんて、ワザとか ? と思えるほどドラマチックだったり詩情にすら溢れてたりもするのに……。(特に、翔兄ィとジョシー・ホーさんのツーショットのシーンなんて凄くいいのになぁ。)
三池さん、あなたってお人はホントにもう……。でもこの聞き分けの無さこそが三池崇史の真骨頂なのね、と再確認。最近の三池監督の映画では、期待された“三池崇史らしさ”を全うしようとするあまりどこかマジメになり過ぎていたのが、もしかしてつまらなくなっていたんじゃなかろうか、などと手前勝手に想像してしまった。
その他のみどころ :
未来の横浜(でもどう見ても香港ロケ)では、中国語でも日本語でも英語でも各自が好きな言葉をしゃべっていた。でも、下手に言語を統一してしまったり無理に慣れない異国語の台詞を喋ったりするよりも、この方がよっぽど自然で逆に近未来的にも見えるっていうのは、思わぬ発見だった。(相手の会話は聞き取れているってことになるのだから、要するに皆バイリンガルだかトリリンガルだかってことになる訳ね。)
監督さんへの思い入れ度 : all or nothing !
あまりよくなかったところ :
この映画は無論、良識的な諸兄には一切奨められません ! 第一作目の【DEAD OR ALIVE 犯罪者】を見て大丈夫だった人しか行ってはいけないでしょう。
コメント :
翔兄ィと力兄ィをコンビで見るのもこれが最期かと思うと一抹の寂しさが……でも新年からアホらしくもケッ作な映画を見せてもらえて嬉しいったらありません。ああこれで今年も張り切ってバリバリ映画が見れそうな気がしてきた。映画の神様、ホントにどうもありがとう !

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【バスを待ちながら】四つ星

一言で言うと :
待てど暮らせどバスの来ないとある田舎のバス・ターミナル。バスの修理にも失敗した彼等の間に、そのうち奇妙な連体感が生まれ始め……。トマス・グティエレス・アレア監督と【苺とチョコレート】を共同監督したホアン・カルロス・タビオが描く、魔法のような邂逅の物語。
すごくよかったところ :
前半を観ている段階では、凄くいい人達やちょっと悪い人たちがすごく分かり易い予定調和を繰り広げる、何トカ喜劇みたいな甘々な話かと思ってちょっとげんなりしていたら……これが後半、どんどん予想もしていなかった方向に転がっていったのでびっくり。
ありあわせのものを持ち寄って心づくしの食事をしたり、時間にあかせてターミナルの改装を手掛けたり……個性的な面々がいつしか結束、キラワレモノすらそれなりの位置を占めながら、そのうち誰もが、あまりにも幸せすぎるこの場を離れたくない~、という思いを共有し始める。そして主人公の恋も……。
一過性の関係の中に成立した共同幻想、ありえないかもしれないからこそ愛しく感じられるユートピア。そんなバカな ! と思うくらい幸せなお伽噺、かと思いきや……う~ん、これもラテンアメリカのマジック・リアリズムの系譜に連なるお話ってことになるんですか。ニ重三重の意外性を踏まえたラストシーンは一本取られた ! って感じ。
コメント :
しかしここまでバスが来ないバス・ターミナルって、キューバではよくあることなの ? こりゃ日本では(というか、普通に機能している資本主義社会では)どうしたって成立しそうにない話ってことになるんですね、きっと。

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【花子】三つ星

一言で言うと :
京都在住の22才の今村花子さんとその家族の、端目にはちょっとオフビートかもしれない日常。
この花子さんという方はいわゆる知的障害者で、デイセンターに通ったり、油絵を描いたり(抽象画だけどかなり本格的)して暮らしている。で、この花子さんがある時自分の食事の一部を畳の上やなんかに並べ始めたのを、母親はアートだと言って面白がって、毎日その写真を撮り続けている。
他には父親と姉が暮らすその家は、皆がかなりばらばらに暮らしているようにも見受けられるけど(姉は家を出て暮らすことを計画中)、それでもやはり縁あって何年も一緒に暮らしていた絆は感じられるように思われる……。
かなりよかったところ :
本編の中ではいわゆる知的障害者とかいった言葉は使われていなくて、花子さんは“ちょっとワガママだけど面白い人”というふうに捉えられている。
家族の営みらしきものが希薄になってしまっているかにも見えるこの家には、今までいろいろと一筋縄ではいかなくて紆余曲折を経た面もあったのではないかということも推察されるのだが、そういったレベルはもう越えてしまっているかのように、悲惨でもなく、特別にドラマチックでもなく、淡々と日常を続けていくことの底力を、たださらりと見せている。
この家は、この家ならではのやり方で独自の形の家族を続けているとも言える。でも、どの家にもそうした独得のやり方があったりするのかもしれず、そうすると、この家はまた逆に普遍的な家であると言えるのかもしれない。しかしそもそも、“家”とは一体何なのかという命題も難しいものだったりしてね……。
佐藤真監督も舞台挨拶で、やはりあの“たべものアート”は残飯の山にしか見えないとおっしゃっていたりした。でも、個人が何か執着を持った物を・ある種の衝動をもって・通常の使い方と違った何かに変成させていくという行為は、確かにアートと呼ばれる営みそのものとしか言いようがないかも……アートとそうでないものの境界線って一体何なのかという命題も、なかなかにディープなものかもしれない。
コメント :
監督が実際にはどういうものを映したかったのか、私に理解出来ているのかどうかは全く定かではないのだけれど……でもこういった映画は、観る人それぞれがそれぞれに受け取るものがあればいいのだろうということで御容赦戴ければ。

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【フロム・ヘル】三星半

一言で言うと :
19世紀末ロンドンで娼婦達を猟奇的に惨殺した切り裂きジャックの事件の謎を新たな解釈で脚色。監督はアルメニア系アフロ=アメリカンの双子で、デビュー作の【ポケットいっぱいの涙】で注目を集めたヒューズ兄弟。
かなりよかったところ :
何のかんの言いつつも、結構最後まで飽きずに面白く見てしまっていた。
ここのところ、ジョニー・デップさんを2~3ヶ月に1回くらいのペースで見ているような気がする。働きものだな~。でもって、子供が出来てから落ち着いたというのか脂がのってきているというのか、最近の彼はすっごく艶があって、何を演じていてもカッコいいですわ~。(ちなみに今回は、人生投げやりになっているアヘン中毒の警部という設定。)
個人的にスキだったところ :
【ハリー・ポッター…】で森番のハグリットを演じていたロビー・コルトレーンを始め、【ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ】のジェイソン・フレミング、【奇跡の海】【キャリア・ガールズ】のカトリン・カートリッジ、【ウェイクアップ ! ネッド】【ノーラ・ジョイス 或る小説家の妻】のスーザン・リンチなど、結構注目しているイギリス出身の実力派の俳優さんが大挙して出演している。これがまた映画に厚みを加えてもいるんだろう、けれど、非常に勿体ない使い方だと言えなくもないかも……。
あまりよくなかったところ :
最初の周辺の状況の説明の仕方なんがあまりにも紋切り型のパターンに陥っていたり、悪者の見せ方があまりにもステレオタイプだったりする。
本格実力派の他の女優さん達と較べてしまうと、お姫様然としたヘザー・グラハムはどうしたって娼婦には見えないし。でもって、彼女とジョニデさんが恋愛関係に陥るところは、大した前振りもなく、あまりにも唐突に見える。
肝心の事件の核心も、これではあまり分かり易い呈示の仕方とは言えないだろう。それまでに出てきていたいろいろな要素も……あれは伏線って訳じゃなかったってことなの !?
で、このラストもちょっとイキナリなんじゃないかなぁ。
コメント :
ある種の空気感をキープしつつお話を最後まで引っ張ってくるというのは、それなりに演出力はあるってことなんじゃないかとは思うのだけれども……私の好みからすると、作りがちょっと雑に見えた部分も多すぎたかもしれない。残念。

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【仄暗い水の底から】四つ星

一言で言うと :
鈴木光司原作+中田秀夫監督の【リング】のコンビによるホラー映画。
幼稚園に通う娘と二人で暮し始めた離婚調停中の母親(黒木瞳)の周りで、次々と怪異現象が起こり始めるが……。
すごくよかったところ :
エキセントリックというほどではないけどちょっと線が細くて感情も高ぶり易いところがあるこの母親は、離婚問題で相手に子供を取られそうになっていて寄る辺ない不安感がいや増している。そこに幽霊さんがつけ込んじゃうという訳で……二人きりでも一生懸命頑張ろうとしている母娘をそんな目に合わせるなんて、なんちゅうイケズなお話や。
この母親を演じている今回の黒木瞳さん、役柄にぴったりはまっていて抜群にいいです !
ドラマとしての部分が丁寧に描かれていて相当質が高い上、ホラーとしての恐さやその中の救い(あるいは救いのなさ)が上手くリンクしているのが見事だと思った。10年後のシーンで事件の全体像やその後が実に端的に描かれている辺りを見ても、中田秀夫監督はやはり確かな手腕を持っていらっしゃる方なのだなぁと、改めて確信できた。
個人的にスキだったところ :
今回の幽霊は、その正体や思うところがまだ常人にも理解しやすかったような気がするし(“貞子”にも崇る理由はあったと思うけど、何だかもっと圧倒的な不条理として迫ってくるのが恐かったのよね~)、見ているうちに黒木さんにシンクロして「自分が恐がってる場合じゃな~い ! 親なら子供を守るんだ ! 」モードにも段々となってきたし、恐がらせポイントに仕掛けられている音楽のワナなんかも今回はある程度は予測が出来たので、【リング】ほどには恐くなくって大丈夫で、それがとにかくありがたかったです……。
コメント :
しかし、私もそんなに恐いのがキライならいい加減、ホラーなんて観に行かなきゃいいのにさー。(“出来がいい”とかいう評判を聞いてしまうとつい……)。

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【みんなのしあわせ】四つ星

一言で言うと :
不動産のセールスしているオバサン(カルメン・マウラ)は、あるアパートで死んだ老人が物凄い額の籤の賞金を隠し持っていたのを発見し、独り占めしようとする。が、実はアパートの住民全員が結託してその金を狙っていたのだった……。スペイン映画界のリーサル・ウェポン、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の放つ“幸せって何だっけ ? ”なブラック・コメディ。
かなりよかったところ :
ヒロイン役のカルメン・サウラを筆頭に、きっと皆様スペインではそれなりに名を知られた、キャリアのある立派な俳優さんばかりに違いないのに……登場人物のほぼ全員が人間の醜い欲望を剥き出しにして仁義なき闘争を繰り広げる、こんなにエゲツないコメディを大真面目に演っているなんて……凄まじすぎる。
まるで昔のアメリカのB級サスペンスのパロディみたいな味つけが、どうも余計に可笑しかった。
その他のみどころ :
まともな奴はアイツだけ……それにしてもアレハンドロ・アメナバール監督(【バニラ・スカイ】のオリジナルの作者)といい、どうしてスペインの若手監督ってこうも×××に甘いのだろう ? (アメナバール監督のデビュー作【テシス】を参照のこと)。
監督さんへの思い入れ度 : 70%
コメント :
しかし、これはハッピーエンド、なのか ? こんなハッピーエンドで本当にいいのか ? いいんだな ?
裏を返せば、人間の醜さもいじましさも、微笑ましいものとして肯定しているかのようだと言えなくもない(?)。この矛盾しているようだが慈愛(?)に満ちた視点が、この映画を憎めなくさせているところ、なのだろう……本当に ???

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【息子の部屋】四星半

一言で言うと :
突然息子を失った家族に訪れる危機とその再生。2001年カンヌ映画祭パルムドール受賞作。監督・主演は私小節風の独自の作風で知られるイタリアのナンニ・モレッティ。
すごくよかったところ :
ずばり言ってこれは、かつて家族を亡くした経験のある人でなければ、そのよさが分かりにくい映画なのではないかと思う。しかも、そういった経験をある程度客観的に思い返せるくらいに時間を置いた人でなければ難しいかもしれない。
死んだ人について、あの時ああしていればよかったのか、なんて思っても本当は仕方ないのだ。だってそれはどうしようもないことなのだから。実のところ、時間は辛い経験の痛み自体は決して癒してはくれない。その痛みとうまく距離を置いてつき合う方法を、ほんの少しずつ示唆してくれるだけなのだ。
“再生”と書いたけれども本当は、残された家族は決して元の形には戻らない。けれども、違う形になっても人間は生き続けていくしかない。そしてその方法は、長い時間を掛けて少しずつ学び取っていくしかないのだ。この映画は、これから何とかやっていく為のヒントをほんの少し掴みかけた、くらいのところで終わっているのだが、それこそがまさに、この題材を誠実に描いていることの証しなのだと思う。
コメント :
若い男のコが愚にもつかないようなことでうだー、うだーと悩んでいるような映画が大嫌いだったから、正直言って私は昔、モレッティ監督の映画を観てもちっとも面白いと思わなかった。それが2~3年前に監督の【エイプリル】を観て、自分の弱さや欠陥をユーモアをもって直截に見つめることが出来るというのは得難い資質なのだということが、やっと分かり掛けてきた。すっかりマエストロの風格の漂い始めた監督の映画、今度もう一回最初から観直してみようかな。
しかし、こういった映画をあんまり感動、感動と安売りしないで欲しいわよね。狼少年のセリフと一緒で全っ然心に響いて来ないし、それに、この映画から得られる感覚は、いわゆる“感動”というのとはちよっと違っているように思われるのだけれども。

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【レイン】三星半

一言で言うと :
耳の聞こえない天涯孤独の殺し屋(パワリット・モングコンビシット)は、ある時出会った女の子に心魅かれるが……。監督は香港出身で現在はタイに拠点を構える双子のオキサイド&ダニー・パン兄弟。
あまりよくなかったところ :
主人公が耳が聞こえないという設定以外は、結構ありがちで平凡なエピソードばかりのお話なのかもしれない。
かなりよかったところ :
しかしあまりそうと感じさせないのは、その主人公の設定を主人公の孤独感と重ねあわせたところから、独得の雰囲気が生まれているからだろう。
そこにいろいろな要素をバランスよく配合して、それなりにスタイリッシュにも見せつつうまくまとめられているのではないかと思う。
それらの総ての要素を活かして仕掛けられたラストはワザありだと思った。
個人的にニガテだったところ :
しかし、セリフがほとんど無い状態で延々と続くガン・アクションというのは、去年公開された香港映画の【ザ・ミッション/非情の掟】などと同様、個人的にはやはりかなり辛かったかもしれない……。
コメント :
私的なことでたいへん恐縮だが、この主人公のパワリット・モングコンビシットさんというのが、ウチの弟が昔もっと痩せていた頃の姿とどうも似ているのだ(今はもう見る影もないけど)。画面で自分の兄弟みたいな人が動いてる姿を見るというのは、なんだかヘン感じ……。
しかし、香港出身の人の作るタイ映画、ですか。これからの時代は、今まで全く考えられもしなかったような人や物の流れや組み合わせが、もっとどんどん見られるようになるんだろうな。日本だってこの際、原形を留めないくらいぐちゃぐちゃに変わっていってしまう方が、断然面白いんじゃないかと思うけど。

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