Back Numbers : 映画ログ No.55



【アモーレス・ペロス】四つ星

一言で言うと :
メキシコシティの白昼の交差点で車が正面衝突 ! その一方の車に載っていた若者(ガエル・ガルシア・ベルナル)、もう一方に載っていたファッションモデル(ゴヤ・トレド)、また通りすがりにその事故を見た訳ありげな老人(エミリオ・エチェバリア)それぞれの、愛(=AMORES)と犬(=PERROS)に関連した物語を描いたオムニバス。
かなりよかったところ :
最初は、若者が兄嫁に一方的な思いを寄せる話。次に、仕事も恋愛も順風満帆なファッションモデルの人生が一転してしまう話。最後は、過激な政治活動のため遠い昔に家族を棄ててしまった男の悔悟の話。メキシコシティを一つの大きな背景にして、これだけタイプの違った話がそれぞれ瑞々しく語られている。それぞれの話が有形無形に関連し合っているのも、オムニバスのお約束とはいえ面白い。
個人的にスキだったところ :
個人的には3話目の犬おじさんの話が一番よかった。(逆に2話目は、他の2つの話とトーンが違っているのが、少し違和感があったかも。)
ちょっと惜しかったところ :
確かにそれなりには面白かったんだけど、様々な映画祭や海外メディアで大絶賛、メキシコ映画の新しい才能 ! という煽り文句から期待したにしては、なんだか割と普通の映画だったような気がしないでもないんだけど……。
コメント :
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督はずっとメキシコのCM業界で活躍していた方なのだそう。思うに、独自の強烈な個性といったものよりは、全世界である程度共通していると思われる商業的映像のバランス感覚や安定感のあるセンスこそに卓越している監督さんなのかも知れない。
もしかして私自身、メキシコ映画だからって、ギラギラしたラテン系のエスニックなテイストとかを無意識に期待し過ぎていたのかもしれない。実際には、その匂いも無きにしもあらず、くらいの印象だったかな。

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【オーシャンズ11】四つ星

一言で言うと :
【トラフィック】【エリン・ブロコビッチ】で去年のアカデミー賞を総なめにしたスティーブン・ソダーバーグ監督の最新作。フランク・シナトラ主演の【オーシャンと11人の仲間】が元ネタだが、中身はほとんどオリジナルに近いとのこと。
刑務所を仮出所したばかりのダニー・オーシャン(ジョージ・クルーニー)は、旧知のラスティ(ブラッド・ピット)に、ラスベガスの大立て者テリー・ベネディクト(アンディ・ガルシア)の難攻不落の大金庫を襲う話を持ちかける。集められた仲間は、カード・ディーラーのフランク(バーニー・マック)、スポンサーのルーベン(エリオット・グールド)、カーマニアのモロイ兄弟(スコット・カーン&ケイシー・アフレック)、セキュリティ技士のリビングストン(エディ・ジェイミソン)、軽業師のイエン(シャオボー・クィン)、爆弾屋のバシャー(ドン・チードル)、詐欺師のソーン(カール・ライナー)、そしてオーシャンの昔の仲間の息子でスリのライナス(マット・デイモン)。ところが実はオーシャンには、現在ベネディクトとつき合っている元女房のテス(ジュリア・ロバーツ)を取り戻したいという算段もあり……。
すごくよかったところ :
何かに失敗するシーンすら御愛敬的な効果として折り込み済み。どんでんがえしも小気味よくキマり、ストーリー展開に無駄がない。ジャズっぽいアレンジが中心の控えめなサントラもカッコいい。といった、いちいち小粋を絵に描いたようなオシャレな演出が小憎らしい。
こういったことが総て計算ずくで出来てしまうところが、もう凄いとしかいいようがない。
個人的にスキだったところ :
「奴は君を笑わせはしないだろう」「でも泣かせたりはしないわ」……個人的には、ジョージ・クルーニーよりも誰よりも、爬虫類系のガルちゃん(アンディ・ガルシア)がこの映画で一番カッコイイと思うな~。
その他のみどころ :
寄せ集めの臨時メンバーにしてはみんな異様に仲良し、チームワークも抜群に良すぎるぞ(笑)。
監督さんへの思い入れ度 : 65%
ちょっと惜しかったところ :
スターがあんまりにも大量に出すぎているから、それぞれの主演作なんかと較べると、各人の印象はどうしても薄まってしまっているかも ?
コメント :
スターの大量出演=昔のハリウッド映画みたいな無意味なゴォ~ジャスさ、を期待していた向きには、この映画の完璧にシェイプアップされたスマートさが物足りなくてお気に召さない、といったこともあるみたいだ。
そんな中には、ソダーバーグ監督は気取ってカッコつけ過ぎているのが気に入らない、といったようなことを言ったりする人もいたりして……しかし敢えて言わせてもらおう。気取ってカッコつけ過ぎてて何が悪い ! それが監督の作風だっつーの。そこが嫌いで楽しめないって人は、お気の毒としか言い様がないもんね。

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【落穂拾い】五つ星

一言で言うと :
ヌーヴェル・バーグの時代から第一線で活躍を続けているアニエス・ヴァルダ監督(【シェルブールの雨傘】のジャック・ドゥミ監督の長年のパートナーでもあった)による、“拾う”ということをテーマにしたドキュメンタリー。元々のアイディアは、ミレーの名画『落穂拾い』から着想を得ているとのこと。
すごくよかったところ :
機械での選別の際に選り分けられて畑に捨てられてしまう大量のジャガイモ(小さすぎるものだけでなく大きすぎるものも“商品”にならない ! )を、生活の糧にするため拾う人々。ブドウ、トマト、イチジクなど、いろんな畑で拾う人々、またそれを禁止しようとする人々。拾う人の権利を擁護する弁護士。都会でゴミを拾う若者やアーティスト、自らのポリシーでゴミだけを食べて生活するサラリーマン。そして、市場の野菜くずを拾って食べる修士出の新聞売り……ここには色々な“拾う人”の姿が収められている。
監督もまた自分自身を“映像やイメージを拾う人”と位置づけ、その興味の赴くままに、様々なものにカメラを向ける。きれいなものやカワイイもの、変わったものや面白いものが大好きなので、かなり脱線も多いのだが、それがまた自由闊達でお茶目な雰囲気を創り出している。
御年70歳を越えてるなんてとても思えない瑞々しさ、逆に、年輪を経なければ決して紡ぐことの出来ない豊かな叡智とユーモア、この映画はその両方を見事に湛えている。そして、辛気くさくも説教臭くもないやり方で、システムや決まりきったルーティーンから零れ落ちたものを拾い集めて、私達の前に提示してみせてくれる。
その他のみどころ :
監督にとって“撮る”という行為はまた、時間が過ぎ去ることへの諦念へのささやかな抵抗の表明でもあるらしい。映画の中にその視点が散見しているのも、また見逃せない点の一つだろう。
監督さんへの思い入れ度 : 65%
コメント :
ゴミを拾って生活するなんてことはとても出来そうにない根性ナシではあるけれど……私もせめて心情的には、「何か」から零れ落ちるものを拾う人でありたい。それは「何か」を見つめ直して、今度は少しでも落とさなくさせるためでもある。

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【カタクリ家の幸福】四つ星

一言で言うと :
韓国のキム・ジウン監督の【クワイエット・ファミリー】をあの三池崇史監督がリメイクすると、インド映画もびっくりのミュージカルになってしまった !
お父さんが脱サラしてやっと始めたペンションだが、待てど暮らせど客が来ず、やっと来た客も部屋で謎の自殺を遂げてしまう。こんなことが外に知れたらオシマイだ ! と、家族は死体を埋めてしまうが、それから後の客も次々に怪死、事態はどんどん泥沼に嵌まって行くのだが……。
すごくよかったところ :
ジュリーや清志郎さん、やっぱり歌うま~い ! 丹波哲郎さんて、普段はちょっと変わった人だけど、演技をさせるとやはり格段に上手いのよね。外にも、マイペースさがちょっと怖かったりする主婦の役もぴったりだった松坂慶子さん、出世作の【ひみつの花園】(矢口史靖監督)を久々に彷彿とさせた西田尚美さん、そういやミュージシャンもやってるんだっけの武田真治さん、等々、プロ中のプロばかりを擁したキャスティング ! この面子じゃなけりゃ、歌って躍りながら演技するといった気恥ずかしくもオソロシーことをのうのうと演ってのけられなかったんじゃないだろうか。
最高レベルの役者に加え、今日びは日本にも一流のダンサーもミュージシャンもたくさんいらっしゃることだし、あとは物好きでセンスのよい監督さんさえいらっしゃれば……なぁんだ、ミュージカルなんて簡単に出来るじゃん !
実際この映画に登場する曲の、全く醤油くさい歌詞と振り付けってば爆笑感涙モノ。スペシャルユニット“研二と慶子”の思いっきりカラオケ向けのデュエット歌謡曲『まごごろよりどころ』も必聴 !
登場人物が突然、不可解なクレイ・アニメーションになったりするのは一体何なのぉ ? 見たところ、崖から落ちるとか火山の噴火とかいった手間暇やお金の掛かりそうなシーンで特殊効果の代わりに使われているような気がするのだが ? あ、でも、清志郎さんと西田尚美さんがラブラブデュエットを繰り広げるシーンでは、星空にお花を散らした中を飛ばせるというこっ恥ずかしいエフェクトを使っていたっけな。
監督さんへの思い入れ度 : 75%くらい ?
ちょっと惜しかったところ :
こういう本気のオアソビを“ふざけている”と感じる人も世の中にはいらっしゃるようで、誠に残念だ。
コメント :
途中で既にオリジナルの存在なんてカンペキに忘れ去ってしまっており、全編忍び笑いのし通しだった。しかし、この映画のディテールに嵌まって楽しめるかどうかは、ジュリーを見て反応出来るか否かという部分と密接な関わり合いがあるのではないだろうか。ああ、三池監督って明らかに、私と同じ世代のお人なのね。

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【がんばれ、リアム】三星半

一言で言うと :
不況に見舞われた20世紀前半のイギリス・リバプールの労働者一家の物語を、7歳の末っ子のリアム君(アンソニー・ボロウズ)の眼を通して描いた映画。脚本は【司祭】【GO NOW】【HEART】のジミー・マクガヴァン。監督は【マイ・ビューティフル・ランドレット】【危険な関係】【ハイ・フィデリティ】など多くの名作があるスティーブン・フリアーズ。
父親(イアン・ハート)が失業して経済状態は徐々に悪化するが、それでも、何とか真っ当に生きていこうとする家族達。しかし、ついに……。
かなりよかったところ :
物語はあくまでリアム君の視点を中心に綴られているようで、日常の細かな事象も大変な出来事も、嬉しいことも悲しいことも、総て均しく温かみのある優しいタッチで描かれているところに、希望のようなものが感じられる。実際、話自体は決して明るいものではない筈なのだが……。
監督さんへの思い入れ度 : 85%
あまりよくなかったところ :
イギリスやアイルランドなどのワーキング・クラスの貧しさを描いた映画というのは、かなりいろいろ存在する。そんな中この映画は、何故今新たに創られなければならなかったのか ? 残念ながら観ていても、その必然性のようなものをそれほど感じることが出来なかった。
何のかんの言いながら割と穏やかな雰囲気で推移しておきながら、ラストがこんな方向になってしまったのには少々面食らった。これじゃリアム君も、頑張りようがないじゃない。
個人的にニガテだったところ :
このリアム君をあまり可愛いとも上手いとも思えなかったのが、個人的にはちょっとマイナスに働いたかな。リアム君の顔がちょびっとオジサンくさいかったりするのは、多分狙って選んだのでしょうけれども……。
コメント :
宣伝では、家族を守るためにリアム君が頑張る、というニュアンスだったのだが、実際のリアム君は自分のことだけで精一杯で(その歳なら当たり前か)、2~3のシーンで髪を梳いてあげているくらいで、他は特には、ほとんど何をしてあげている訳でもない。これなら、本当に家族のために身を呈しているお姉ちゃん(ミーガン・バーンズ)の方がキャラ立っていたかもだが。

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【キリング・ミー・ソフトリー】一つ星

一言で言うと :
街角でふと出会った男(ジョセフ・ファインズ)との情事に溺れた女(ヘザー・グラハム)は、年来の恋人も捨てて彼と結婚してしまうが、周囲で次々と妙なことが起こり始め……。【さらば、わが愛/覇王別姫】のチェン・カイコー(陳凱歌)監督がハリウッドで映画を作ったら、こんなになってしまいました……。
かなりよかったところ :
ヘザー・グラハムみたいなタイプの金髪のおねーさんとかがお好きな人には、彼女の肢体をたっぷり眺められる(でもないが)のは嬉しいんじゃないの ?
あまりよくなかったところ :
ヒロインは思い込みで考え無しに突っ走った挙げ句、ちょっぴり湧いてきた疑念を頭いっぱいに膨張させてギャーギャー言ってるようにしか見えない。結局、彼女の抱いた疑念は全部反証可能だったという訳なのだが……全く、その程度で信じ切れなくなる程度の愛なら最初っから結婚なんてすんなー !!
そ~んな底の浅い疑念を大仰に見せといてサスペンスなんて言うつもりなの ? 更に終盤の安っぽい展開は一体何 ? ああもうこのプロットってどうしようもない !!
これだけおバカな振る舞いをしていながら、いっぱしの傷ついたヒロイン気取りの科白を吐いちゃってどうする。陳腐極まりないったら !
一応本作は、情欲に溺れた果ての男女の織りなすサスペンス、というコンセプトらしいのだが、なぁんでこれしきで18禁 !? という程度の中途半端なセックス・シーンが、また映画のいい加減さに火を注ぐ。【愛のコリーダ】や【クラッシュ】、【LIES】や【インティマシー】の爪のアカでも煎じて飲みやがれー !! げろげろの情念なんて描く器量もないくせに、おいそれと手を出すなんて身の程知らずもいいところ。
個人的にニガテだったところ :
あのプリンス系のコッテリ顔のジョセフ・ファインズがどうやらセクシー俳優のカテゴリーに入れられているらしいということが、私には理解できん。彼が画面でカッコつける度に、いちいち笑けてしまってもう……。
コメント :
まるで、こうしたら悪い映画が作れます、の見本みたいな映画。脚本を読んだ時点でこんなもん引き受けんなよ、チェン・カイコー ! 今回のこの映画の出来を教訓にして、ハリウッドで仕事をするというのはどういったことなのかを、根本的によぉ~く考え直してみた方がいいんじゃないのだろうか。

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【恋ごころ】四つ星

一言で言うと :
これまたヌーヴェル・バーグの時代から第一線で活躍を続けているジャック・リヴェット監督の、“不倫”をモチーフにした軽やかな味わいのコメディ。
イタリアで一旗上げたフランス人女優(ジャンヌ・バリバール)が、巡業の為、夫にして劇団主催者のイタリア人男性(セルジオ・カステリット)と共にパリへ帰ってきた。三年ぶりに会った元恋人(ジャック・ボナフェ)は既に魅力的な女性(マリアンヌ・バスレール)と結婚していたのだが……。一方の夫は、幻の戯曲探しに通う図書館で、知的な美人女学生(エレーヌ・ド・フジュロール)と知り合うが、彼女の兄(ブリュノ・トデスキーニ)は実は……。
すごくよかったところ :
“不倫”といってもそれほどには道を踏み外す訳でなく、見ていて気持ち的についていける程度にごくごくお上品。微妙に絡み合う主要な登場人物6人のセクステット(六重奏)は、淀みがなく饒舌で、軽快。まるで、人間って何か面白い生き物だねェって、監督がつぶやいているみたい。文芸大作といった趣きではないけれど、素直に楽しめる逸品である。
個人的にスキだったところ :
女学生役のエレーヌ・ド・フジュロールさんは、先日公開されていた【青い夢の女】で死体の役を演っていた人。あのビッチな雰囲気とは全くうって変わって、本作では清楚で知的な美しさを振りまいている。この変わりよう、う~ん、彼女ってもしかして大物になるかも。
監督さんへの思い入れ度 : 49.5%
コメント :
かつて観たリヴェット監督の映画は、その面白さがちっとも判らなかったり、とにかく長過ぎたりして(上映時間が4時間以上というのもざらです)、私は監督とはあまり相性がよくないのかとも思っていた。本作も決して短くはないけれど、観てるととにかくあっという間。監督ってこういう映画もお創りになるんですねぇ。さすがは巨匠、の余裕。

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【コンセント】三星半

一言で言うと :
兄(木下ほうか)が何故、アパートの部屋で独り死んでどろどろに腐った死体になって発見されたのかを、ユキ(市川実和子)は知りたいと思った。田口ランディ作のベストセラーを、【桜の園】【コキーユ】の中原俊監督が映画化。
かなりよかったところ :
大方は原作にほぼ忠実に、手堅い映画化が試みられているのではないかと思う。(珍しいことに、この映画は先に原作を読んでました。)
ヒロインといい、死んでしまったヒロインの兄といい、実際に映像化するとなると難しいキャラクターではないかと思われるのだが、市川実和子さんや木下ほうかさんの独得の存在感がうまく活かされてかなりの説得力が出ていたのではないだろうか。
個人的にニガテだったところ :
逆に、どちらかというと戯画的な解釈になっていたようなユキのカウンセラーの先生の役は、私のイメージではなかったかな。このキャラはある程度リアルな感じの方が説得力が出たのではないだろうか。少なくとも、女子大生に多少なりともモテそうな雰囲気は必要だったんじゃない ? (笑)
その他のみどころ :
このテーマ曲は【攻殻機動隊】【アヴァロン】等の川井憲次さんのものだとばかり思ってたら違っていて、イギリスのアディエマスというグループのものだった。こういった音楽をつければ話が何となく近未来的に見える、といった発想がもしあるとしたら、それは少し安易なのでは。
本作では、原作でヒロインが最後に至る状態である“解体”についてそれほど説明している訳ではない。これは重要な変更点なのではないかと思われる。原作のヒロインは、要するにほぼ男性に対してしか開かれていないような状態になったのに対し、映画版ではその辺りの意味合いが弱められ、もっと一般的な方向に拡散させられているように思われる。(そういえば、登場人物の一人である大学の同級生の女性とも、原作より映画版の方が仲よくなっているし。)
コメント :
伝統的には、女はアタマよりカラダで把握するというコンセプトが多分存在していたのだろうと思われるのだが(その方がかつての大方の男の人には都合がよかったのだろう)、それを逆手に取って突き詰めていくと『コンセント』みたいな話になっていくのではないだろうかと思われた。
しかし、カラダはニブニブだから所詮アタマでしか把握できない私のような人間には、ヒロインみたいな人物は全くのエイリアンにしか思えなかったし、こういったプロットを説明されてもふーんと思うばかりだった。
要するにヒロイン本人が何かに納得出来たのならそれでいいんじゃないかなぁ。ただし、それを巫女だのミューズだの(←宣伝文句より)呼んだりするのは、何だか前時代的じゃないかねぇ。

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【ジェヴォーダンの獣】四つ星

一言で言うと :
革命前の時代のフランスのジェヴォーダン地方に現れたという野獣の伝説を元にして創作されたエンターテイメント映画。
ジェヴォーダン地方を恐怖に陥れている獣の謎を解明するため国王に派遣されたフロンサック(サミュエル・ル・ビアン)は、やがて獣の正体と、その裏に蠢く陰謀を知ることとなった……。
かなりよかったところ :
時代考証なんぞは端から無視してしまいつつ、現代風な語り口のコスチューム・プレイの中に、アクションあり謎あり陰謀あり、美男美女ありロマンスあり友情ありetc.のてんこもりで飽きさせない。こういうのって、これまでありそうでなかった路線のエンターテイメントなのでは。
個人的にスキだったところ :
主人公の従者のマニ君(マーク・ダカスコス)は、主人公がアメリカ大陸から連れ帰ってきたインディアン( ! )という設定。何せ、西洋史でいうところの“地理上の発見”の時代はもうとっくに通過した後の話だから……といったって、彼がカンフーの達人という設定はいくらなんでもあんまりじゃない ? でも許す。カッコいいから。
その他のみどころ :
ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチといった大スターから、サミュエル・ル・ビアン、ジェレミー・レニエといったこれからが期待される俳優さんまでごっそりと登場させている目配りがなかなか。特に、カンヌのパルム・ドール受賞作【ロゼッタ】で必死で仕事を捜すヒロインを演じていたエミリー・デュケンヌが、本作ではあんなに可愛いお姫様になっていたのはちょっと意外。
コメント :
最近ではほとんどプロデュース業に専念しているかのリュック・ベッソンが、辛気くさいフランス映画のイメージを変えようと娯楽に徹した作品づくりに邁進している姿勢自体は、悪くはないと思う。ただそれなら、あんなふうに安っぽい映画を大量生産するよりは、労力と才能をもっと集中的に注ぎ込んで、この映画程度には凝ったもんを創った方がいいんじゃないのかなぁ。

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【地獄の黙示録 〈特別完全版〉】四星半

一言で言うと :
フランシス・フォード・コッポラ監督が1970年代に手掛けた超問題作を約20年振りに再編集。1時間近い未公開シーンを加えて完成された決定版。
ベトナム戦争の最中、ウィラード大尉(マーティン・シーン)の受けた極秘任務とは、密林の奥で自ら王と名乗って君臨する元エリート軍人のカーツ大佐(マーロン・ブランド)を暗殺することだった……。
すごくよかったところ :
70年代のオリジナルバージョンは、リアルタイムではなくかなり後になってからビデオで観たもので……【ゴッドファーザー】もそうだけど、コッポラ監督の映画は映画館の大画面で観ると全然迫力が違う !
かつてその元のバージョンを観た時には、変わり者の元軍人がジャングルの奥地で自分の王国を作っている、なんて奇矯な設定がいきなり呈示されるのに、かなり面食らってしまったものだ。しかし今回は、何故大佐みたいなエリート中のエリートがそのような道に足を踏み入れてしまったのかがかなり丁寧に示されているので、その分心情的にも話についていきやすかったように思う。
こうして全長版を観てしまうと、公開するためにどうしても縮めざるを得なかったという昔のバージョンは、確かに味が薄く感じられるかも。
その他の個人的なみどころ :
本作は実は、私がアメリカの男優さんで一番好きかもしれないローレンス(ラリー)・フィッシュバーン様(【ボーイズ・ン・ザ・フッド】【マトリックス】他)の、初期の出世作でもあったりする。当時年齢をゴマかしていたらしいが、10代だったのはまぁ確か。ウィラード大尉の4人の部下の一人という役どころなのだが、後年のイカツイ表情からは想像も出来ないのーてんきなお顔、個人的にはかなり笑えます。
監督さんへの思い入れ度 :
【ゴッドファーザー】とこの映画を創ったのだから、コッポラ監督は残りの人生ではもう何をしたっていいんです。
ちょっと惜しかったところ :
3時間半ずっと映画館に座っているというのは、やっぱり事前にそれなりには準備と覚悟が必要かもしれない。(実のところ、私は少ぉし甘く見ていて失敗しました。)ストーリーのおおまかな流れだけなら昔のバージョンでも追えないことはないので、この映画がどんな感じなのかは取り敢えずそちらで試してみて、もし興味が湧いたら全長版にもチャレンジしてみる、というふうにした方がいいかもしれない。
コメント :
本作がここまで、底の無い暗闇のような“戦争の狂気”を余すところなく物語っていた作品だったということを、ショートバージョンを観た当時の自分はあまりよく分かっていなかったかもしれない。
しかしそうなるといつも一つの結論に突き当たってしまうのだ。そもそも戦争なんかやらなきゃいいじゃん。そうすればそもそも何の問題も起こらないのだから……。

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【沈みゆく女】四つ星

一言で言うと :
ひなびた田舎のモーテルで受付係をしている主婦のレイラ(モリー・パーカー)は、ふとしたはずみから、モーテルの客相手に売春行為を働くようになる。が、そのうち客の一人(カルム・キース・レニー)から熱心に言い寄られ始め……。
すごくよかったところ :
このレイラさんというのが、絶世の美女という訳でもなく、本当にその辺にいそうなちょっときれいでちょっと色気のある奥さん、といった風情。それがかえって恐かったりして……。
この奥さんは、客にたまに殴られたりすることも、それでも自分が体を売るのを止められないことも、不幸だとは感じていない様子。まるで、過去の経験に対しても現在の生活に対しても、あらかたの感覚が麻痺してしまっているかのようなのだ。この、感覚が麻痺している主婦の姿、というのが、随分と生々しく映ってしまって仕方がなかった。
彼女が売春をしたり、絵に描いたようなおバカなことを次々としでかして泥沼にはまっていったりするところを、過度に感情的にも扇情的にもなることなく、まるで生き物の生態でも観察するみたいに淡々と描いているのがかえって、B級雑誌のありふれた三面記事のような事件がすぐ隣りで起こっているみたいな妙な臨場感を抱かせて、何とも落ち着かない気分にさせた。
こんなワイドショー的な、下世話でどこにでも転がっていそうなドロドロの世界を、ここまで真正面から、しかも端正で的確な文体を以て描いた作品というのは、今までありそうでどこにも無かったのではないだろうか。
かなりよかったところ :
このレイラの人となりを、また別の側面から映し出すことによってより立体的に膨らませてくれる少女(メアリー・ケイト・ウェルシュ)の配置の仕方も、面白いと思った。
コメント :
理路整然として冷徹でありながら、背後には何だか混沌とした感情が渦巻いている。こんなのは絶対にカナダ映画に違いないと思ったら、やはりその通りだった。
リン・ストップケウィッチ監督のデビュー作の【キスト】は屍体愛というちょっと特殊なテーマを扱っていたので一歩引いてしまった(まだ未見です)のだが、この第二作目の方が一見平凡なテーマでありながら、より深遠で恐ろしい世界を扱っているのではないかと思われた。監督の独得な世界観の深化に、次回作ではより注目してみたいものだ。

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【助太刀屋助六】三つ星

一言で言うと :
他人の仇討ちの助太刀を買って出ては勝手に助太刀屋を名乗っていた助六(真田広之)は、久しぶりに帰った故郷で、生き別れの父親が仇討ちされる場面に遭遇。勢い、今度は自分自身が仇討ちをすることになったのだが……。大ベテラン・岡本喜八監督の7年ぶりの新作。
かなりよかったところ :
仲代達矢さん、岸部一徳さん、岸田今日子さん、小林桂樹さん、村田雄浩さんといった芸達者なシブい役者さん達。出ていらっしゃるだけで画面にコクが出るのがスバラシイ !
主演の真田広之さんも、洒落者を気取ったお調子者を、絶妙な軽妙さで演じていらっしゃると思う。
あまりよくなかったところ :
総じて、登場人物のキャラクター設定やお話の中での位置付けが中途半端なので、誰に対しても今一つ感情移入がしにくく、お話に入って行きにくかったのではないだろうか。
個人的にニガテだったところ :
鈴木京香さん、垢抜けない田舎娘っていうコンセプトは分かるんだけど、どうしても野暮ったくしか見えないのが勿体ないっていうか、これなら他のもっと可愛らしい感じの人をキャスティングした方がよかったのでは……。
コメント :
岡本監督といえばテンポのよい大活劇が十八番で、確かに本作にもそんな雰囲気はあるのだけれども、それにしてはストーリーの説得力自体にちょっと無理があって乗りにくい印象を与えてしまったのではないかと思われた。

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【ピアニスト】四星半

一言で言うと :
強圧的な母親(アニー・ジラルド)と共に暮らす中年のエリカ(イザベル・ユペール)は、ストイックを絵に描いたようなピアノ教師だったが、年下の美青年(ブノワ・マジメル)に一途な思いを寄せられた時、今まで隠し持っていた極端な性的嗜好が暴走し始めてしまった……。ミヒャエル・ハネケ監督による、2001年度カンヌ映画祭のグランプリ(=次点)受賞作。
すごくよかったところ :
ヒロインが、思わずエッ !? と眼を剥いてしまうような行動をするシーンが4つも5つも出てきて……映画の中での極端なシーンにはかなり慣れている方だと思っていたのだが。
常軌を逸しているか否か、の境界線を引くことは本来は難しいことの筈なのだが、廻りの人の気持ちにも自分の痛みにも既に目が行かなくなっている辺り、ヒロインはかなりヤバイ状態にあると見て差し支えないかと思う。
どんなセクシャル・ファンタジーを抱こうと確かに個人の自由なんだけど……だからって生身の相手に一方的に自分の独り善がりな気持ちを押し付けていい訳はないだろう ? いくら強迫的な母親と音楽しかない生活という特殊な環境に縛られていたからって、このヒロイン、いい年こいてそんな人間関係の初歩の初歩も分かっていないとは……。
そんなふうな彼女に、最初は驚き、不快になり、そして最後にはどんどん可哀相になってきてしまった。ただ、人によってこの順番は違ってくるのかもしれないが。
このヒロインを演じたイザベル・ユペールさんの圧倒的な知性と女優魂 ! こりゃ凄すぎる ! いつか機会があったら一目でいいから観てみて欲しい。
その他のみどころ :
彼女の抱く性的妄想というのがまるっきり、AVの見過ぎで偏った偏見を抱くようになった男性のそれに酷似しているのだ ! う~ん、純粋培養って恐い。しかし、こういった現実離れした妄想を抱く男性は実際かなりいるのかと思うと、もっとオソロシー。
監督さんへの思い入れ度 : 45%
コメント :
あ~んな年下の美青年(才能抜群で頭も性格もよさそう)に言い寄られたんだからもっと大事にしてあげなよー、とお話中何度も思った。それができないことを、もしかしてヨーロッパの人は『愛の不毛』とか呼んだりしているのかなぁ……それって何だかヤだ。

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【ふたつの時、ふたりの時間】三星半

一言で言うと :
台湾からパリへ旅立つシアンチー(チェン・シアンチー)は、路上の時計売りのシャオカン(リー・カンション)から腕時計を買った。未知の世界に思いを馳せるシャオカン。孤独に旅するシアンチー。もう二度と出会うことはないかもしれない二人の時間がそれぞれに流れる。【愛情萬歳】【河】【Hole】などの特異な作風で知られるツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督の最新作。
個人的にニガテだったところ :
今回もやはり、ツァイ・ミンリャン映画を見るたびにいつも抱くような相容れなさをどことなく感じた。監督のどの辺りが好きじゃないのかと言えば、底無しの救い難い孤独だの絶望だのに、好き好んで執着しているかのように見えるところ。もしかしてこの人は、そういうのがカッコイイとか何とか思っているんじゃないのか ? いや私だってそういうものにこだわってしまう時期は確かにあったけど、それを他人様に見せびらかすのは罪悪に近いことだと思っていたんだけどなぁ。
かなりよかったところ :
とはいえ今回の作品は、その都会に住む人間の孤独のようなものの質をもっとしっかりと見据えて、ベトベトにウエットにせずにドライに撮り上げているように思われたのが、少しはいいかなと思えた。
コメント :
私も昔、ヨーロッパを一人で旅行したことがあるので、薄暗いホテルの部屋で果物や乾きものなんかを細々と食べる時のような寄る辺ない感じはよく判る。でも言わせてもらえば、そんな旅行者の孤独なんてたかだか底が知れてるもんね。

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【ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ】 四つ星

一言で言うと :
壁崩壊前の東ベルリンで生まれ育ち、ずっとロック歌手に憧れていたヘドウィグは、東から連れ出してくれるというアメリカ人の恋人のために性転換手術を受けたが、これが大失敗。股間に“怒りの1インチ”を残したまま恋人と分かれたヘドウィグが次に愛した少年は、何と彼(彼女 ? )の曲を勝手に盗んでロック・スターになってしまう……。同名のオフ・ブロードウェイの舞台を手掛けたジョン・キャメロン・ミッチェルが、自ら監督・主演を務めて映画化した作品。
ちょっと惜しかったところ :
やはり少しばかりは、元舞台だった作品特有の平坦さは感じられてしまったような気がする。
すごくよかったところ :
しかし、圧倒的なライブ・シーンの歌と演奏で物語を綴り、ところどころアニメーションなどでイメージを補ったりする方法はなかなかうまく効を奏していて、元の舞台にも(きっと)引けを取らない大迫力に仕上がっていたのではないかと思う。
このヘドウィグさんが絶唱しながら求める“愛”がせつない。人間は誰でも、かつて神に引き裂かれた自分のカタワレを探しているんだって。
個人的にスキだったところ :
ヘドウィグさんの好きな歌手の一人のデヴィッド・ボウイさんは、私も一時、腐るほど聴いたもので。全編グラム風を中心にした味付けというだけで、何だかイイなーって思ってしまう。
その他のみどころ :
ヘドウィグの現在の旦那さんのひげ面のイツハクさん、この役を演っている役者さんを調べていると……あれあれ ? このミリアム・ショアさんって女優さんなんですか ?
コメント :
才能がいくらあったってブレイク出来るとは限らない。時流に乗るというのは存外簡単じゃないこと。だからって、そのためなら何をやってもOKっていう風潮がはびこるっていうのは、なんてやーな世の中なのかしら。

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【マルホランド・ドライブ】三星半

一言で言うと :
デヴィッド・リンチ・ワールドが炸裂する、問答無用の不条理映画。
あまりよくなかったところ :
前半はダレダレで死ぬかと思った……。(皆さんあれが平気なんですか、そうですか……。)
かなりよかったところ :
まぁ後半は、これぞリンチ節、の悪夢のようなパラレルワールドが、これでもかと畳み掛けるように叩きつけられて、面白かったんだけど。
その他のみどころ :
この映画は最初はアメリカのABCが製作をしていたけど、途中まで創ったところを担当者に見せたらそれっきり進行がストップしてしまったとか……そこを拾い上げて製作を再会させたのがフランスのカナル社。そりゃそうか、こんな映画に芸術的価値か何かを見出して曲がりなりにもカネを出そうなんて考えるのは、(お金があり余っている時の日本人を除けば)フランス人以外にはありえないわよね。
故に、デヴィッド・リンチ監督がこの作品でアカデミー賞の監督賞にノミネートされたというのは、こういう前衛的なものも少しは判るのサ、と誇示したいハリウッド人種の見栄以外の何者でもないと思ったのだけれど。
コメント :
ストーリーを細々と説明したりしたって仕方ないんじゃないのかな。迷宮のような(=ワケワカラン)不条理的世界をどっぷり楽しみたい方は是非劇場へ ! それ以外の人は決して行ったりしないように !

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【無問題〈モウマンタイ〉2】二星半

一言で言うと :
人気お笑いコンビ・ナインティナインの岡村隆史主演のアクション・コメディ第2弾。出自は一応、香港映画。
かなりよかったところ :
岡村隆史さんがケガのためほとんど満足に動けなかった1作目(スタントマンになる話なのに ! )よりはアクション・シーンも増えて、映画に躍動感が出ていたのではないかと思う。
香港側のメインキャストにユン・ピョウ(昔より随分貫禄が……)やサム・リーといった日本でもかなり名前を知られている俳優さんを起用しているなど、出演者の充実ぶりはなかなかのもの。特に、ヒロインの一人(?)のキャンディ・ローさんの怪演は見逃せない。(なんだかこの人、コントをやっている時の久本雅美さんっぽくないですか ? )
あまりよくなかったところ :
とはいっても、最初からこのくらいって決め打ちされている感のあるストーリーも笑いの間も、何だか日本のお茶の間のバラエティ番組を見ているみたいな感触。破綻もしてないけれど、それ以上のインパクトに欠ける辺りが、どうにも安っぽいような気が。
コメント :
最初に【岸和田少年愚連隊】なんてかなり傑作な映画を見てしまったから、知らず知らずのうちに過大な期待をしてしまっているのだろうか……いやでも私ゃ、岡村さんが超一流のスタッフと組んで超本気で取り組んだノンストップ本格カンフーアクション・コメディが観たかったぞ ! 岡村さんにはそれだけのものを背負って立つ器と素質があると思うし。
……てなふうに思いが残っていたりして、3が出た時ついつい「今度こそは」と期待して、また見に行ってしまったりしたらどうしよう……。

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【夜風の匂い】三星半

一言で言うと :
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫ニコのかつての夫にして、内省的(で救いのない)作風が有名なフィリップ・ガレル監督が描く、中年男女の“愛の深淵”。ちなみに本作は、カトリーヌ・ドヌーヴが自らガレル監督に熱心に働きかけて実現した企画だとか。
若い恋人(グザヴィエ・ボヴォワ)との密会に溺れる人妻(カトリーヌ・ドヌーヴ)だったが、恋人は彼女との関係が重くなり始めていた。そんな頃人妻は、恋人の師匠筋でどことなく影のあるアーティストの男(ダニエル・デュバル)と偶然引き合わされたのだが……。
個人的にニガテだったところ :
だーっ !! このオッサン、昔とやることが全然変わってないー ! 分かった分かった、どこまで行っても他者とのコミュニケーションは不能で不毛で、機能不全しちゃってる愛に永遠に絶望していたいのだな。もう好きなだけやっていなはれ。
かなりよかったところ :
でも昔の同監督の映画よりは、監督自身のトラウマやら何やらから一歩引いた距離から主題を客観的に観察する姿勢が見受けられる(ように思われる)かもしれない。
静的で深みのある画創りは、以前のざらざらした画面よりは落ち着いた雰囲気を感じさせる。そこに主題が相俟って醸し出す、いかにも格調高くて不条理なフランス映画っぽい味わいを、好む向きはあるのかもしれない。
その他のみどころ :
御年60歳近くなっても、例えばレオス・カラックスやらラース・フォン・トリアーといった若手(比較的)の才能にも積極的にアプローチしたり、本作のようにまだまだ充分にお美しいところを見せつけ現役の女っぷりをいかんなく発揮したりして、女優としての果敢な攻めの姿勢を崩さないカトリーヌ・ドヌーヴ様。女優一筋、ここまで続けられるというのはエライわ。マジで尊敬しまっす。
コメント :
私がフランス映画をニガテだと思っているのは、きっとフィリップ・ガレルやらジャン・ユスターシュやらに代表されるような、内攻的な自己偏愛がごっつう強烈なような部分なのね。(“内攻”というところを除けば、ゴダールなんかも入れてもいいかもしんない。)彼等を称揚する人々がいるのも、まぁ好き好きだからいいんだけど、彼等がしばしば名乗ることもあるシネフィルなる存在には、私は一生なれないと思うし、なりたいとも思わない。

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