Back Numbers : 映画ログ No.56



【家路】三星半

一言で言うと :
今年で御年93歳になる(現役では多分世界最高齢 ! )、ポルトガルのマノエル・デ・オリヴェイラ監督の昨年の作品。主演はフランス映画界の重鎮ミシェル・ピコリ。監督の旧作に出演経験のあるカトリーヌ・ドヌーヴやジョン・マルコヴィッチも友情出演。
名優との誉れの高い老舞台俳優(ミシェル・ピコリ)は、妻と息子夫婦に事故で先立たれ、幼い孫息子との生活を新たに始めることになるが……。
かなりよかったところ :
あくまでも基調は俳優自身の日々の生活のゆったりしたテンポの中にあり、大きすぎる悲しみもちょっとした喜びも総て、非常に静かなタッチであくまでも淡々と捉えられているところに、シンプルな美しさを感じた。
家族を失った後、日々の生活の中でその喪失感といかに向き合うか、というのは【息子の部屋】などと共通した主題もあるように思われた。更に、老いというテーマが折り込まれているのも興味深く思われた。
個人的にニガテだったところ :
ただ、ラスト辺りの展開はちょっと唐突な気がしてしまったかな。その部分が何を意味しているのか、私は直ぐには分からなくて、後であれこれ考えてしまったのだが。
コメント :
このお話は、今まで観たことのあるオリヴェイラ監督作品の中では一番好きだったかも知れない。だからこそ今回はっきり感じたのだが、監督の話の描き方というのは、雄弁であるというよりは内省的で奥ゆかしく、がっちりと緻密に構成されているいうよりは、徒然なるままに書き留められる随筆に近いようなものなのではないだろうか。
そういったところがともすれば曖昧に感じられ、言いたいことの核心に手の届かないような歯がゆい感覚を味わったことも過去にはあるのだが、そういったところも含めて独得の味だったりするのかもしれないかなぁ、などと考えてみたりした。

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【活きる】四つ星

一言で言うと :
1940年代から70年代にかけての激動の時代の中国を生き抜いたある夫婦の姿を描く。監督は【紅いコーリャン】【初恋のきた道】などの作品を手がけ、自身もまた毛沢東時代の時代の波に翻弄された経験を持つチャン・イーモウ(張藝謀)。
博打で財産を食い潰した男(グォ・ヨウ(葛優))は、それ故に、有産階級であるとの攻撃を共産党から受けずに生き延びることができた。得意の影絵芝居に何とか生きる道を見いだし、妻(コン・リー(鞏俐))と二人の子供達との生活を営んでいたのだが……。
すごくよかったところ :
共産党の支配下の中国に暮らす家族に降り懸かる様々な苛酷な出来事と、そのところどころに垣間見えるささやかな喜び、その総てを最後には笑って飲み込んでしまうしかなくなる厳しいユーモア感などを、真摯さと軽妙さを絶妙に取り合わせながらじっくりと描く。終わってみれば、これでたったの2時間ちょっとだった ? の中身の濃~い大河ドラマだった。
コン・リーも勿論素晴らしかったけれど、グォ・ヨウの演じるちょっと世渡り下手なお父さんの、小市民的なたたずまいの中に次々と浮かび上がってくる朴訥とした喜怒哀楽が味わい深かった。
監督さんへの思い入れ度 : 50%
監督デビュー作の【紅いコーリャン】の衝撃は未だに忘れられないし、基本的にはずっと好きなんだけど、最近あまりにも名匠だ、名匠だと持ち上げられているのを見ているとどうも……(←へそまがり)。
コメント :
しかし、1994年度のカンヌで審査員特別賞まで獲っていた映画が、どうして今まで公開されなかったのだろう ? (当時の政治的な状況や何かが関連しているのか ? )何度も書いていることかもしれないが、こうやって見逃している映画ってきっと世界中に山のようにあるのよね。

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【うつくしい人生】四つ星

一言で言うと :
フランスの地方に住むある青年(エリック・カラヴァカ)は、一度きり偶然車に乗せて大した話もせずに別れた女性(イザベル・ルノー)が忘れられない。青年の一家は農業を営んでいたが、収益は厳しいのに借金はかさむ一方で、絶望した父親は自殺してしまい、ショックを受けた祖父も言動がおかしくなってしまう。そんな生活に希望を見いだせずにいた青年なのだが、ある時……。
すごくよかったところ :
穏やかなトーンで語られてはいるが、前半の話の内容にほとんど明るさはない。しかし青年は少しずつ、なんとか自分の生きる道を見出していく。
「人間は生まれてきたからには幸せになろうと努力する義務がある」というのは私の友人の名言だが、骨の髄まで絶望するだけ絶望しきった後は、少しだけ楽になって、自分の人生に実はまだ選択できる何かが残されていないか、一から見渡してみることができるのかもしれない。
その他のみどころ :
はっとさせられることが多くある美しい画面。全体の黄金色がかったトーンは、厳しいお話を、慈愛に満ちた表現へと変えている。(クシシュトフ・キエシロフスキ監督の【ふたりのベロニカ】を思い出して戴ければ一番近いだろうか。)聞くところによると、本作の撮影監督のテツオ・ナガタ氏は日本人なのだそうだ。
ちょっと惜しかったところ :
後半、話がちょっとうまく行き過ぎ、ではある。でもこのお話は、主人公が何らかの形でむくわれるのでなければ創られる意味はないからなぁ。
コメント :
ここ2~3年で、閉塞的な状況が進む地方の話を描いたフランス映画を何本か観ているように思う。日本でも、衰退化が著しい地方都市が数多くあるといった話を耳にすることが最近よくある。人生のある時点で一生都会に住むことを決めた私は、その状況に対して一体何をどうすればよいのだろうか。“ここで生きる。”というキャッチコピーが、心にのしかかる。

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【A2】四星半

一言で言うと :
地下鉄サリン事件後のオウム真理教団とその周辺の状況の在り様に迫った傑作ドキュメンタリー【「A」】の続編。
コメントその1 :
オウムの奴らなんて皆死刑になればいい、などと極端なことを考えている人はむしろそんなにいないのではないか、そうするとかなり多くの人(私も含め)が、彼等がいつかパチもんの似非宗教から目覚めて“まともな”世界に戻ってきてくれることを期待しているのではないかと思う。しかし映画を観れば分かるが、彼等はこちらの理解が及ばないくらい、彼等の世界観を深く“信じて”いるのだ。
人間誰しも、総てのものを疑い続けて生きていくことなど出来はしないし、生き続けていくためにはどこかで思考を停止させ、何かを“信じて”やっていくより他になくなる。それは、組織の論理に振り回されて出来の悪いサラリーマン仕事を繰り返すしか能のない映画の中の警察やマスコミの人間しかり、命じられれば今でもサリンを撒くかもしれないと告白する一部の信者しかりである。
しかし、他の人が“信じて”いることを変えようとすることは大変、大変難しい。その人が何を信じようとするのかは、その人が自ら抱えている苦しみや恐怖からいかに逃ようとしたかということと深く関わっているし……。
そうやってどこかで停止してしまった思考どうしのぶつかりあい、これでは永遠に何一つ決着を見そうにない。
でも、それじゃ、イカンのよ。停止してしまった思考をどこかでもう一度動かさして、お互い軌道修正を図らなければ。それが信じられないくらい遠い遠い道のりになりそうでも。
コメントその2 :
この映画に映っているものをどう捉えるのも、全く見た各人の自由だろう。ただ、情報を大量に流通させるため分かりやすい形に加工するといったマスメディアのプロセスの中で削ぎ落とされてしまった、あまりにも多くの事象が(意図的にか偶然にか)この映画には沢山映し込まれているから、とりあえずは観てから判断するべきだと思うのだ。全く無視しながら何かを語ろうとすることだけは、最早許されないだろう。
おまけ :
自分達の街にオウムが来て欲しくないという気持はよく分かる。でも、とりあえず自分達の視界から消えさえすれば、それで問題が解決したことになるんだろうか ?
彼等の居場所をなくそうとあちこちで追い立てることで、もしかしたら彼等の中にますますゆるぎないものを作っていやしないだろうか ? むしろその方がとっても恐いと思ったのだが。現にこの世に存在している限り彼等もどこがしかには行かざるを得ないのだから、なんてことを言っていた映画の中のインテリ右翼のオジサンが印象的だった。

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【折り梅】四星半

一言で言うと :
アルツハイマーの姑を介護した経験を綴った原作『忘れても、しあわせ』を、前作でもアルツハイマーをテーマに据えて【ユキエ】を撮った松井久子監督が映画化。
梅は、茎は折れても皮さえ繋がっていれば水を吸ってくれるほどに強いのだという。この映画の題名は、そうしたことから梅をわざと折って活ける生け花の手法から来ているのだそうだ。
すごくよかったところ :
介護問題というのはこの映画の大きなテーマとして勿論外せないが、その部分を特に意識しなくったって、本作は一編のドラマとして大変に秀逸だと思われる。感傷的にもウェットにも全くならず、かといって、それぞれの登場人物の心の動きが実にきめ細かく丁寧に描かれている、この演出力は実際、驚異的なのではないだろうか。
アルツハイマーの姑さんを演じられた吉行和子さんなんて、終わってしばらくして「はっ、これって演技だったんだっけ」と我に返って呆然としてしまった…。主婦の実像、というよりは限りなくありうべく理想的な、今日的な主婦像を演じられた原田美枝子さんも文句無く素晴らしい。降り掛かる現実的な問題にどうしていいのか分からなくて右往左往する旦那さん役のトミーズ雅さんもいい。子供達を始めとする他の登場人物も、皆それぞれによかった。
原作もいろいろと示唆するところの深い本なのだろうが、生身の役をしっかりと演じられる俳優さん達が演じてこそのドラマならではのよさといったものが、この映画ではひしひしと感じられた。こういう映画化ならば、原作をわざわざ映画にする意味というのがあろうというものだ。
様々な葛藤を経た上でかなり理想的な地点に到達したと思っていたら、最後のシーンにはまたドキリとさせられた。そして、現実を直視して正しい知識を持った上での介護、という全編のテーマが再び端的に表されているところに唸った。
まだまだ介護問題なんてひとごとだと思っている20代のアナタも30代のワタシも(勿論それ以上の人だって)、この映画の記憶をせめて心のどこかに留めておくことは必要なんじゃないだろうか。(そうは言っても、う~ん……。)
個人的にスキだったところ :
私は昔、量販店の社員をしていたことがあるのだが、お店の従業員の圧倒的多数を占めていたのは、言うまでもなくパートさん達であった。現状、そういう主婦層のパワーや労働力なしには世の中もう動きゃしませんという実態が、実際の社会の中では軽く見られすぎているきらいがあるのではないだろうか。本作ではそういった部分や、主婦同志のお互いの立場への理解や協力(慣れ合いではない)といったところが、端折られずにしっかりと描かれているのがいいと思った。
コメント :
この映画を見て、女性監督だから介護ものとかが得意で当たり前、と思ったりする人なんぞが、まさかいたりしないだろうね !? 男女を問わず、どの監督さんでも自分が積極的に関わりたい分野を中心に作品を創りたいと思うものだろうが、自分が一番得意な分野だからって、これだけのレベルのものが必ずしも創れるとは限らないのだから。

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【害虫】四つ星

一言で言うと :
【どこまでも行こう】【月光の囁き】の塩田明彦監督の描く、少女の心のサバイバル。
一人きりの家族のはずの母親(りょう)は男性関係から自殺未遂を起こし、自分も小学生の時の担任の先生(田辺誠一)と恋愛関係に陥ったと噂を立てられ、中学1年生のサチ子(宮崎あおい)は、居心地の悪い学校へは行かずに過ごすようになっていた。しかし、どこか遠くへ行こうと言ってくれた少年(沢木哲)のところにも、また学校に戻ろうと一生懸命誘ってくれた同級生(蒼井優)の元にも、本当は居場所なんてなかったのかもしれない……。
すごくよかったところ :
家庭なんて問題外だし、(少女のえも言われぬ吸引力に引き寄せられて)黙っていても近寄ってきてしまう性欲丸出しのおっさんたちは鬱陶しすぎる、自分に“同情”してくれる学校の同級生とも微妙に歯車が噛み合わないし、偶然知り合って気の合った男の子達は居場所と言うにはあまりに不安定、そして、唯一の逃げ道と思われた場所にも自らケリをつけるように……。
少女の心の行き場の無さというものを描いた映画というのは実はそれほど数もなくて、あったとしてもあまりピンとくるものはほとんどなかったというのが今までの実感だ。世の中の少女達の心の軌跡がみんなこんなだとは思わないけれど(私のかつての心の軌跡もこのようなものではありませんでしたけど)、でもこの映画は、例えば世のオジサン監督達によって勝手に捏造されたものではない少女の感覚や心の痛みの生々しさを含んでいるように思われた。これは清野弥生さんによる脚本、そしてその脚本を一種詩的なまでに丁寧に映像化しようとした塩田明彦監督の手腕の成せる業によるものであろう。(ちなみに清野さんは、塩田監督が講師を務める映画美学校の第一期生だったのだそうです。)
個人的にスキだったところ :
小学校の担任の先生と生徒の微妙な恋愛関係の描き方が上手いと思った。(私は、くらもちふさこさんの漫画『海の天辺』を少し思い出してしまいました。本作とは雰囲気も内容も全然違いますけど。)田辺誠一さんは、こういうニュアンスを含んだ役柄を演らせたら、いい色気の出る方ですよねぇ。
監督さんへの思い入れ度 : 75%
ちょっと惜しかったところ :
しかしこの結末って必ずしも納得が行かないというか……。一つの作品として考えるなら確かに、これはベストな意味合いを引き出せる終わり方なのかもしれませんが、でもぉ~。
ていうかですね、そこまで観て、宮崎あおいさんは(伊勢谷)友介君の口車に易々と乗るようなコではないんじゃない ? とハタと思ったのですが。翻って考えるに、彼女はこの役柄をやるのにはちょっと優等生的すぎやしないか ? という気も少々してきたりして……あ、でもそのアンバランスさがいいってことなのだろうか。
コメント :
以前の【どこまでも行こう】の評でも書いた気がするのだが、塩田監督の描く学校の風景って、今時というよりは、私らのような60年代生まれが学校に行っていた頃の雰囲気を感じさせるような気がする。でもって、今の学校って実際はどんな感じなのだろう。縁がないからさっぱり分かりゃしませんが。

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【元始、女性は太陽であった 平塚らいてうの生涯】三つ星

一言で言うと :
女性解放運動の草分け的存在・平塚雷鳥の生涯を、日本のドキュメンタリー映画界の第一人者の一人・羽田澄子監督が、膨大な史料を基に綴る。
かなりよかったところ :
平塚雷鳥さんというと明治くらいの人というイメージが強かったのだが、実はお亡くなりになったのは昭和46年なのだそうで、そんなに最近まで生きてらしたとは結構意外だった。この映画では、雷鳥さんが明治から大正、昭和の戦前から戦後に掛けての激動の時代といかに寄り添うように生きてきて、その時々でどういった考えや姿勢を持ち、それをいかなる言論や行動で示して周囲に影響を与えたか、といったことが綿密に検証されている。さすが羽田澄子監督、丁寧なお仕事をなさっています。
ちょっと惜しかったところ :
しかし、雷鳥さんが生きてらした頃の映像等がほとんど残っていないこともあり、全編のほとんどが後追いの資料解説に終始しているんですよね。(関係者へのインタビューのシーンも、一部を除き資料の裏づけ的な意味合いしか果たしていないように思う。)よほど彼女に興味のある人ならいざ知らず、そうでなければこのように一本調子な展開が続くのはかなりキビシイかもしれない。
あまりよくなかったところ :
しかしこの、不用意に暗くておどろおどろしいだけであまりテーマに添っているとも思えない音楽だけはどうにかして下さいよー !! このテの映画にこういった音楽をつけるのって、正直言って古いセンスだと思うんですよね。う~ん、大変申し訳ないけれど、星半分減点。
コメント :
雷鳥さんは本なんか原書で読むのが当たり前といったふうな大変なインテリかつ勉強家だったらしくて、そこには昔の時代のいい意味で折り目の正しい知識階級の姿が透けて見えてくるかのようだ。ただ、彼女がそうやって学問や執筆活動に没頭していられたのは、御実家がかなりの資産家で生活の心配をする必要があまりなく、かつ御両親が彼女の行動にそれなりには理解があったからだということもよ~く分かった……う~ん、それってかなり羨ましい、というか恨めしいくらいだったりして。

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【自殺サークル】四つ星

一言で言うと :
新宿駅で54人の女子高生が皆で手をつないで飛び降り自殺をした。これは事件なのか何なのか ? 刑事達(石橋凌、永瀬正敏、麿赤兒、迫英雄)が捜査を行う間にも全国で自殺者の数はどんどん増えていき、インターネット上では事件に関係あるかのような謎のサイトがみつかるが……。
80年代から作品を創り続けているPFF(ぴあフィルムフェスティバル)出身の映像作家にして詩人の、園子温(その・しおん)監督の最新作。
かなりよかったところ :
結構名前のある俳優さんのキャスティング、多くの謎が気にならずにはいられないストーリー、印象的なイメージを擁するシーンと、今回監督さんが、作家性は色濃く残しながらも作品をはっきりエンターテイメントとして成立させようとしていたところに、かなりの驚きを感じた。昔、同監督の映画を何本か見て、“こんなひとりよがりな映画を創る人とは絶対一生相入れない”などと思ったりしたものだったのだが……。
あまりよくなかったところ :
数々のシーンが強烈な印象は残すけれども、テーマがテーマだし、描き方も特異なので、受け入れられないと感じる人もいることだろうと思う。
ストーリーの整合性や論理的な説明よりは、それぞれのエピソードのイメージ先行で創られている感があるので、仕上げの荒いところや矛盾してる箇所なども見受けられるように思う。
個人的にニガテだったところ :
自分の存在が軽く感じられてしまうから死も軽いものに感じられるってこと ? 死が自分をないがしろにする世界への反抗や勝利だってこと ? で、どうして“皆と一緒に”死ななくちゃならない ? (私はずっと、自ら選ぶ死というのはもっと個人的な道義に基づくものだと思っていたのですが。)この映画は今の時代の若い人達の死に対する気分を部分的に写し取っているのだろうか。
20代の頃じゃあるまいし、私ゃ自分が自分のことしか考えていない下司人間だっていう理由じゃ今更もう死ねないもんなぁ。ましてや、“自分と自分の関係性”なんてものをガキ、もとい、お子様に説教されたって。
……私ゃ下手に歳だけ食ってオバサンになってしまっているので、ありていに言って、若いもんの考えることはよく分からなくなっているんじゃないだろうか。
コメント :
本作は自殺ということを面白おかしく取り上げた訳ではなく、今の日本の社会の中のどこかに巣くっている“死の気分”みたいなものを、監督なりの視点で真摯に捉えようとしたものなのだと思う。そこのところは信じられるような気がするので、監督さんの考え方や感覚と違っていると思われるところがあったり、他の難点が見受けられたりしても、この映画をある程度評価することは出来るだろうと思われた。

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【シッピング・ニュース】三星半

一言で言うと :
【サイダーハウス・ルール】の名匠ラッセ・ハルストレム監督が、ベストセラー小説を映画化。
奔放を絵に描いたような妻(ケイト・ブランシェット)を事故で失った男(ケヴィン・スペイシー)。失意の中、叔母(ジュディ・デンチ)の勧めでまだ見ぬ故郷のニューファンドランド島で暮らすことになり、やっと就職した地元の小さな新聞社で港湾ニュースのコラムを手掛けるようになった。その一方、障害を持つ息子と二人暮しの女性(ジュリアン・ムーア)と知り合いになったのだが……。
すごくよかったところ :
上記の方々以外にも、【父の祈りを】のピート・ポスルスウェイトや、最近イチオシのリス・エヴァンス(つい先日御紹介した【ヒューマンネイチュア】のお猿男の彼だ ! )など、私の好きな俳優さんばかりが大挙して出演し、失意の人間がゆっくりと再生に至るドラマを渋~く練り上げている。
その他のみどころ :
厳しいけど懐の深そうな自然。ニューファンドランド島ってこんなところなのか。なんか行ってみたくなった。
監督さんへの思い入れ度 : う~ん、本来は余裕で70%以上なんだが……。
あまりよくなかったところ :
で、ああこんなふうなお話なのねと、何となくは分からないじゃないんだけれど……どうも散漫でとりとめがなくて、どこがポイントなのかはっきりしない印象。これは脚本の足腰の弱さや詰めの甘さに原因があるのではないだろうか。映画を観ながらきっと原作は面白いんだろうなぁと終始思ってしまうというのはいかがなものかと。
コメント :
演技がいいので何とな~くは見れてしまうんだけど……それにしたって、主役のケヴィン・スペイシーと相手役のジュリアン・ムーア、デイム・ジュディ・デンチ御大を除けば、一人一人の出番はちょーっと物足りなかったような。スターをたくさん使い過ぎるというのも善し悪しですな。

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【ステイト・オブ・ドッグス】三つ星

一言で言うと :
ベルギーのドキュメンタリー映画監督とモンゴルのジャーナリストの共作による、野良犬を主人公にしたドキュメンタリー風の映像ドラマ。
モンゴルの首都ウランバートルの路地に住む野良犬のバッサルは、ある日ハンターに撃たれて殺されてしまう。(モンゴルでは犬が死ぬと人に生まれ変わると言われているそうなのだが、)それまでに人間がすっかり信じられなくなっていたので人には生まれ変わりたくないと思ったバッサルは、自分の記憶を辿る心の旅に出たのだが……。
かなりよかったところ :
資料等でよく見る草原の暮らしから、お祭りやモンゴル相撲といった珍しい映像、少し建物の並んだ都市部の光景まで、まるでモンゴルの風物詩総覧といった趣きで興味深い。時々垣間見える美しい風景の映像も忘れ難い。
途中にインサートされる詩のリーディングが、物語に一層の意味づけを与えていて印象的だった。この方はバタール・ガルザンスという詩人さんなのだそうだ。
あまりよくなかったところ :
ただこれは、所詮は“犬の視点”にはなりきれていないんじゃないのかなぁ、といった印象がしてしまった。結局はどうやったって人間が作るお話なのだから“犬の視点”といったって曖昧なのかもしれないし、そもそもこういったタイプのお話では視点をどこに定めるのかというのは難しい問題なのかもしれないけれど。
しかし、解説的なナレーションみたいなのはいっそ無い方が、もっと詩的な効果が出ていいんじゃないかと私は思ったのだが。
ドキュメンタリー・タッチと称するにも中途半端だし、かといって物語としてのしっかりした構成力といったものもあまり感じられないので、力点をどこにおいて観るのかが定めにくいのではないかと思われた。
コメント :
小さい頃、一匹の黒い野良犬が保健所の車に捕まって連れられていくところを、目の前で見た記憶がある。もう日本では街中で野良犬を見掛けるなんてなくなってしまいましたね。確かにそれは“安全”で“清潔”なことなのかもしれないけれど、人間の住む管理された都市には基本的には人間しか住めないということの象徴でもあるんですよね。

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【聖石傳説】三星半

一言で言うと :
台湾の伝統的な人形劇「布袋戯(プータイシ)」を現代風にアレンジしたTVシリーズ『聖石傳説』の映画化。台湾では記録的な動員数を叩き出したという。
かなりよかったところ :
イメージとしては、NHKの『八犬伝』(古いな)とか『三国志』とかいった時代劇ものの人形劇を、野外ロケや特撮、特殊なセット撮影などを使いまくって超ハイパーにした感じだろうか。こりゃすごい、カッコイー !
ちょっと惜しかったところ :
……なんだけど、こういった人形劇はどうもテレビで観たいと思ってしまうのは、小さい時から刷り込まれているせいだからなのだろうか。本編ももともとはTVシリーズだったのを映画化したという話だし、キャラクターの設定や話の筋なんかも、もっと細部に思い入れを持ちながら少しずつじっくり追いかけていく方が合っているような創りになっているのではないかと思われるのだが。
個人的にニガテだったところ :
プータイシでは統ての登場人物の声を全部一人でやるのが伝統的なのだそうだが(それも厳しい訓練の賜物だというお話ではあるのだが)、ヒロインの声も全部男の人が無理無理やるというのは、今の時代にはやっぱりちょっと違和感があるのではないだろうか。それも日本の歌舞伎みたいな伝統なんです ! と言われればどうしようもないんだけど、例えば、その歌舞伎の流れを汲んでいた関係で初期の頃は女優さんを使っていなかったという日本映画は、やはり女性の役を女性がやる説得力には適わなくて、その後女優さんを使わざるを得なくなっていった、とかいったような話も聞いたことがあるんですけれど。
コメント :
本作のTVシリーズ編もほどなくDVDで発売されるのだそうですが、いっそNHK辺りで権利を買ってテレビ放映とかしてもらえないものでしょーか。あぁ、そうやってテレビでじぶじぶ観たてら絶対にハマりそうなんだけどなぁ、これ。

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【タイムリセット 運命からの逃走】三つ星

一言で言うと :
ガールフレンド(ナンタリガ・タンマプリーダナン)が突然死の危機に陥った。謎の僧侶から前世の因縁が原因だと告げられた男(サンヤー・クンナゴン)は、彼女を死の淵から救おうと、同じく死の危険に晒されている見も知らぬ5人の命を救うべく奔走する。タイを拠点にして活動している香港出身のオキサイド・パン監督(【レイン】)のデビュー作。
かなりよかったところ :
ある目的のためにある時間までに何かを遂行するというプロットはまぁ定番だし、お話のアイディアは分かり易くうまくまとめられているのではないかと思った。
その骨子を前世の因縁云々と結び付ける発想や、主人公がちょっとした善行に目覚めたことが道を切り開くきっかけになるなど、意識しているのかしていないのか、仏教的なものの見方がかなりはっきりと浮き上がって見えてくるところが面白いなと感じた。(でも、あれ ? 監督さんってもともと香港の人だったんじゃなかったっけ ? )
ちょっと惜しかったところ :
若いからいろいろ試してみたいんだろうなぁ、といった感じの映像上の様々な細かな細工(例えばスローモーションの多用など)は、微笑ましいといえば微笑ましいんだけど、少しばかりクドくなりかけているかもしれない。
致命的に悪いところもそれほど見あたらないし、監督の意欲は画面のあちこちに感じられるんだけど、何を取っても普通なんだよね。これといった新鮮さや斬新さ、何か一つでもいいからどこか突出した部分が感じられないと、敢えてピックアップして鑑賞しようという気になるどうかは難しいかも。
コメント :
宣伝ポスターでは女の子だけをデカデカと使っていたけれど、彼女は本編の中ではそれほど活躍せず、主人公はあくまで彼女のボーイフレンドのメガネの男の人。演技力はともかく、風貌だけを見たらあんまりパッとしないからということなのかしらん。それってちょっとだけサギ。

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【とらばいゆ】三星半

一言で言うと :
【アベック・モン・マリ】で今まで日本では描かれたことのなかった今時のカップル像を描いてみせた俊英・大谷健太郎監督の、劇場用長編第二作目。
“travail”とはフランス語で“仕事”の意。女流棋士という職業のちょっと勝ち気でワガママな姉妹(瀬戸朝香、市川実日子)と、そのパートナーの男達(塚本晋他、村上淳)の紆余曲折を、コミカルに描く。
かなりよかったところ :
会話やシーンの運びなどの演出はますます洗練され、一段と磨きがかかっているように思われた。この軽やかな展開を堪能しながら最後まで飽きずに見ることができるところに、監督の実力の一層の深化が感じられた。
生き生きとした役者さんの演技は皆とても魅力的だったが、特に主人公の瀬戸朝香さんの旦那役の塚本晋也さんには、もう何とも言えない味があった。【鉄男】【TOKYO FIST】【バレット・バレエ】といった御自身の監督作を手掛ける傍ら、その特異な存在感から俳優としての出演依頼も引きもきらない塚本氏だが、こんなフツーのオジサンサラリーマン役もイケるとは思わなかったっす。しかもコメディ演技というのもレベル高し。
監督さんへの思い入れ度 : 50%
ちょっと惜しかったところ :
題名からしてこれは一応“お仕事”というものが大きなテーマだと思われるのだが、女流棋士というのはかなり特殊な職業で、そういった特異なシチュエーションに“仕事”という一般的な概念を代表させることには、どうも得心がいかないのだが。
あまりよくなかったところ :
で、ストーリー上での一番の難点はこの主人公のおねーちゃん。いい年こいて、何でここまで理不尽なまでにワガママなのよ ? こんな性格のアマさを引きずって、勝負の世界なんて厳しいところで何年もプロ張ってたなんて、うっそーん。確かにカンペキな人間よりも欠点だらけの人間の方が面白みがあるのかもしれないし、最後は彼女も成長するということでなんとか辻褄は合わせているのかもしれないが、何せ、途中までは共感できそうな要素がほとんど皆無なようじゃあ、そもそもお話にノッていくことが出来ませんがな。
旦那が結婚して豹変した ? と言ってるのがどうも説明的くさくて分かり難いし。その辺り、プロットを少々無理矢理に繋げてみた感じがないですかね ?
コメント :
難を感じたところを書いてはみたが、基本的には監督の安定した実力のほどを充分に見せてもらえたのではないかと思っている。次回作には更に期待をしてみたい。

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【ヒューマンネイチュア】三星半

一言で言うと :
異常に毛深い身体に生まれつき、都会で暮らすのを避けるあまりアウトドア作家になってしまった女(パトリシア・アークエット)は、両親のしつけのトラウマからネズミにテーブルマナーを教える研究に没頭する博士(ティム・ロビンズ)とつきあい始めた。彼等はある山の中で、小さい時父親に森に連れてこられ自分を猿だと思い込んで育った男(リス・エヴァンス)と出会ったが、博士は男に“人間”としてのマナーを教えようと思い立ち……。
【マルコヴィッチの穴】の鬼才チャーリー・カウフマンの脚本を、ビョークなどのビデオクリップを多く手掛け映像作家としては既に著名なミシェル・ゴンドリーが映画化。
すごくよかったところ :
登場人物達のプロフィールを聞いて思わず首をかしげてしまわない人はまずいないだろう。チャーリー・カウフマンさんって、なんて変わったことを考える人でしょう !
かなりよかったところ :
そんな彼等を中心に進む皮肉たっぷりのストーリー。サルとして暮らす男や毛深い女は存在自体が間違っているというのか ? 社会通念に従属しさえすればそれで人間として正しいということになるのか ? それで人間は本当に幸せなんだろうか ?
個人的にスキだったところ :
今までもたくさんの映画でそれぞれ雰囲気の違った役柄を驚くほど印象的に演じてきたリス・エヴァンスさんですが、今回のおサルさん演技には、ついに本格的にホレ込んでしまいましたわ♪
博士に言い寄るあんまりにも類型的にセクシーな助手の存在がかなりミソ。(ティム・ロビンスのやに下がった煩悩まみれの表情がまた見ものです ! )ミシェル・ゴンドリー監督はフランス人なのだが、フランス語なまりの舌ったらずな英語を喋るこの似非フランス女性の役柄は、監督のフランスの友人等たちには大変ウケていたとか。でも彼女を演じるミランダ・オットーさんは実はオーストラリア人。【女と女と井戸の中】等、日本でもそこそこ知名度がある作品への出演経験をお持ちの方です。
ちょっと惜しかったところ :
しかし、自然と人間性を巡るベーシックな考え方自体は結構類型的かもしれない。
と思っていたら最後はとんでもないどんでん返しが ! これも皮肉っぽい結末とも言えるかも知れないが、今までの流れは一体何だったの !? と思わないでもなかった……。
コメント :
基本的なアイディアなんかは面白いしどっちかというとかなりスキなんだけど、それぞれのエピソードを有機的に繋いで一つのダイナミックな流れを形作る映画的な豪腕さがもっとあればもっとよかったかなぁ、と思った。

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【ミスター・ルーキー】四つ星

一言で言うと :
阪神タイガースの救世主、甲子園にしか現れない謎の覆面リリーフエース=ミスター・ルーキーの正体は、何と会社勤めの妻子持ちのサラリーマンだった……。主演・長嶋一茂。監督と脚本を手掛けるのは【[FOCUS]】の井坂聡。
すごくよかったところ :
こーれは面白い !! 井坂聡監督の久々の大ヒット作だ !
妻も子もあるからサラリーマンとしてそれまで勤め上げた会社もやめられないけれど、昔抱いた夢が叶う千載一遇のチャンスも逃したくない……現実は厳しいながら、それでも夢を見続けることの素晴らしさ、尊さといったものが大きなテーマになっているので、単なる野球ドラマというだけに留まらない拡がりを持つ物語に仕上がったと思う。
パートタイムでしかも中途採用(?)のプロ野球選手という荒唐無稽(というか現実的には絶対ムリ ! )な設定ながら、そこに至るまでのプロセスも手を抜かずにきちんと説明しているので、(よく考えたらいろいろとおかしいのかもしれないけれど、でも一応は)何となく納得しつつ、するすると物語に入れてしまう。
自分も自分なりの夢や目標を持ち、ダンナの行動に腹を立てながら理解も示す奥さん役の鶴田真由さんとか(言いたいことがありすぎて逆に支離滅裂になってしまうケンカのシーンが面白い ! )、タヌキオヤジぶりが笑えて仕方がない監督役の橋爪功さん、いつもにも増して怪優モードが全開の会社の上司役の竹中直人さんなど、それぞれのキャラが立っていながら、全体としては調和を見せているところがすごくいい ! けど、何といっても一番注目するべきは、主人公のミスター・ルーキーこと長嶋一茂さん ! 実際に元選手だったというだけではなく、人のよさそうなところや実直そうなところ、妙にトボけた味などが役柄にぴったりで、一世一代のハマリ役になっていると思う。
思いっきりベタなお約束だと分かってはいるんだけど、手に汗握る展開を最後まできっちりと引っ張って、期待した通りに盛り上げてクライマックスに至る辺りが、もうお見事という他ない。
個人的にスキだったところ :
今回パツキンに染めちゃってる中国人トレーナー役の國村隼。あ、怪しすぎる……。
その他のみどころ :
阪神ゆかりの元選手や監督さん達などがたくさんゲスト出演しているが、最後はなんと、阪神の救世主と言えば、のあの人まで ! 「ギャラはどうすんねん ! 」のセリフには大笑いした。
背番号119番というのは“火消し”らしくっていいですね。誰か本当に使ったらいいのに。
監督さんへの思い入れ度 : 70%
あまりよくなかったところ :
だから、こんなに面白い映画をどうしてもっと性根を入れて真面目に宣伝しないのよ !?
コメント :
本当のことを言って、私は現実の阪神はあんまり好きじゃないというか、こんなに体質の古い球団が勝てる訳ないじゃんと、いろんな噂を聞く度にいつも思ってしまうのだが……それでもこの映画が面白かったことに変わりはない。阪神ファンの人もそうじゃない人も、野球好きな人もそうじゃない人も、等しく皆様に御覧になって戴きたい一本だ。

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【モンスターズ・インク】四つ星

一言で言うと :
子供の悲鳴をエネルギー源にしているモンスターの街にあるモンスターズ・インクは、子供達を恐がらせてエネルギーを採取・供給する会社。その工場の一番の稼ぎ頭の毛むくじゃらのサリー(声 : ジョン・グッドマン)はある日、彼等の世界に迷い込んでしまった人間の女の子を見つける。が、モンスターの世界では、人間の子供は核物質か強力な病原菌にも等しい汚染物だと信じられていたので、サリーとその相棒の一つ目のマイク(声 : ビリー・クリスタル)は大パニックに陥るのだが……。
【バグズ・ライフ】や【トイ・ストーリー】を手掛けたピクサー社が新たに創り上げたフルCGアニメーション。
すごくよかったところ :
次第に女の子を可愛いと思い始めた二人(二匹 ? )が彼女を元の世界に帰してやろうと画策するのとは裏腹に、そこには悪玉による陰謀の匂いが……。
お約束と言えばお約束の展開だけど、性格に欠点はあっても決して憎めないキャラクターや、いちいち手の込んだ楽しいディテールと相まって、破綻のない独自の世界を完璧に創り上げているとも言える。
最近の宮崎駿監督のアニメーションみたいに、ある意味破綻しちゃっているようなものもそれはそれで好きなんだけど、最後まで安心して楽しく見ることが出来るこういうのはこういうので、全くプロの仕事だなぁと感嘆してしまう。(ちなみに(丁度とある番組でやっていたんだけど)宮崎監督の“破綻”が許されるのは、彼が既にセオリーというセオリーをやり倒したスーパープロフェッショナルだからに他なりません。)
その他のみどころ :
女の子は2歳くらいの設定なのだそうだが、これがやたらと上手くてびっくり ! (声をやっているメアリー・ギブズさんは、子供さんだという以外あまり詳細が分かりません。)
ピクサー社作品のお約束のエンディングNG集(毎回わざわざそれ用に作っているのだ ! )もお楽しみに。
ピクサー社への思い入れ度 : 60%
ちょっと惜しかったところ :
このラスト、決して嫌いじゃなかったけど、こういうのじゃない方が余韻が残ったかもしれないかなぁ、なんて思わないでもなかった。
モンスターの世界から世界中の子供部屋のクローゼットに直通しているドアを見て「どこでもドア」を連想しない日本人はいないはず。アメリカ中から選りすぐられた筋金入りのアニメマニアがごろごろ働いているピクサーという大会社のスタッフの誰一人が、今までたったの一度も『ドラえもん』を見たことがありません、なんて、私ゃ絶対信じないからね !
そういや、敵役のランドール君(声 : スティーヴ・ブシェミ)のアシスタント君の姿形も、「♪赤と白の粒々~」のMr.コンタック様になんとな~く似てませんか ? そうでもない ?
個人的にニガテだったところ :
しかし、最初にこの映画のことをTVか何かで知った時、何となく抵抗感を感じたのよね……それは、あの蛍光色。昔からどぉ~も苦手なんですよね。実際のお話の中で彼等が動いているのを見ていたら、割と大丈夫だったけど。
コメント :
クローゼットから何かオバケが出てきそう、というのは、欧米の人は何か共通のトラウマとして持っているものなのだろうか。それなら尚更、彼等はこのお話には郷愁を感じることだろう。日本の人は伝統的にはクローゼットなんて持っていなかったので、その辺りの感覚は少し違っているのかも知れないなんて思うのですが、いかがなものでしょう。

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【Laundry〈ランドリー〉】三星半

一言で言うと :
頭に傷があり傷害を持っている青年(窪塚洋介)は、祖母の経営するコインランドリーで、洗濯ものを見張る仕事をいいつかっていた。青年はある時、忘れられた洗濯ものを届けに行ってとある女性(小雪)と親しくなるが、彼女は過去の手酷い恋愛経験を断ち切ってもう一度やり直すために田舎に帰ることを決意していた。が、青年は再度忘れものを届けに、彼女を田舎まで追い掛けて行き……。
かなりよかったところ :
“天使のように”“心やさしく、純粋な”青年が、傷ついた女の人の心を癒すなんて物語、そりゃ好きな人は好きだろうなぁ。
監督は主演の窪塚洋介君に、ファンタジーとリアリティの中間くらいの演技をして欲しいと要求したそうで、(そりゃまた中途半端なことを要求するものだが、)これを凡百の役者さんがやっていたら目も当てられない結果になっていたはずだが、実際の演技を見てみると、成程、何とか成立しているかなと思われた。これは、監督さんの演出力等も勿論あっただろうけど、俳優さんもそれなりの力量を持っているからだと考えてもいいのではないだろうか。
あまりよくなかったところ :
しかしずっと見ていると、そんなこと現実にはある訳ないじゃん ! のファンタジーの部分がどうしてもツクリモノめいて見えてきてしまって仕方なく、特に終盤は“もう勘弁してくれ~”と心の中で叫び続けていたのですが……。(主に、やっぱり窪塚君のキャラクターだろうか。現実の男の子はあんなふうにきれいではありえないでしょ。)そこのところに乗れるか否かで、この映画の評価は変わってくるのかもしれない。申し訳ないけれど、私は駄目でした。
個人的にニガテだったところ :
このテの“心やさしい”系の映画に、このテの決まりきったパターンの“心やさしい”系の音楽を音楽をつけるのは、いい加減に考え直そうよ。そこを見直しただけで大分印象が新鮮になってくるだろうに。
コメント :
窪塚君にはへんなふうにちっぽけに固まって欲しくないんだけどなぁ。(注 : この映画のことじゃなく。)そんなことを期待しても、いろんな意味で凄く凄く難しいのかもしれないけれど。

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【ロード・オブ・ザ・リング】四星半

一言で言うと :
原作は、あらゆるファンタジー作品の元祖と言われるJ・R・R・トルーキンの有名な長編ファンタジー小説で、世界を統べる力を持つ闇の指輪を捨てに行く旅を巡る物語。
ニュージーランド出身で原作の大ファンだというピーター・ジャクソン監督が映画化を熱望して、ついに実現にこぎつけた。原作と同じく三部作として構想されており、本編はその第一作目にあたる。
すごくよかったところ :
こんな美しいところが世界にまだ残っているの ! のニュージーランド・ロケと、これもまた在ニュージーランドのWETA社のスタジオワークのコラボレーションによる超美しい映像(出来れば映画館の大スクリーンで観てみることを是非お勧めします ! )。役柄にぴったりのキャスティングに、ハラハラドキドキ、息をもつかせないスペクタクルな展開。分かりやすくてしかも細部までかなり目の行き届いた抜群の語り口。原作を未読の人もこの世界には充分引き込まれてしまうだろうし(私はそうでした)、あれこれ気になるところもあるだろう原作のファンの人にも、かなり満足できる水準になっているのではないかと思われる。
監督さんへの思い入れ度 : 50%
ちょっと惜しかったところ :
本編が三部作の第一作目だと知らずに観た人は、思いっきり「つづく」になっているエンディングに面食らってしまうようなので御注意を。
コメント :
何事に於いてもこれだけ過剰に摂取することばかりを求められる時代に、あり余る力を捨てようとする物語に込められた知恵の示唆する意味は大きいはずだと、何かの雑誌に書いていた人がいた。ううむ成程、こりゃ深い話だなぁ。
でもそんなことはまぁいいや。とにかく早く続きが観たいぞ !

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