Back Numbers : 映画ログ No.57



【愛の世紀】四つ星

一言で言うと :
21世紀になってもお元気そうなゴダール先生の新作。
かなりよかったところ :
前半のモノクロの画像は震えが来るほどきれいだ。後半の、ビデオ画面から起こしてあると思われるドギツめの色彩も、前半とのメリハリがついて、私はいっそ好きだけどなぁ。
個人的にスキだったところ :
身も蓋もない言い方をすれば、今まで私が観てきたようなゴダールの映画は、ほとんどが私にとってはどうでもいいようなテーマしか扱っておらず、だから彼の映画を観てもあまり興味が湧かなかったのではないか(たまたまなのかもしれないが)。しかし今回の映画は、何かしらの表現活動をしようとすることについてまわる諸問題がテーマであるように見受けられ、私にとっては多少は分かりやすいお話であるかのように思われた。
ゴダールさんという方は、表現するということに関しては、やはりと言うべきか律儀というか生真面目な方なんだな(それはもう、もしかしたら今時時代遅れなくらいに)、で、こういうふうなことをこういうふうな感じで表現したいと思っていらっしゃるのかな、といったことのしっぽが、少しだけ垣間見えたような気がした。とは言え彼が本当に意図していることなんて、やはり永遠に分かりそうもないとはいえ。
あまりよくなかったところ :
しかし今回も、波長が合わなければ何だか理解し難そうな映画であることには変わりはないか。
その他のみどころ :
映画館の前辺りで、一瞬、ブレッソンの【スリ】(だったと思う)と【マトリックス】のポスターが並べて貼られているシーンがありましたねぇ。【スリ】はお好きに決まってるけど、【マトリックス】に関してはゴダールさんは一体どう解釈していらっしゃるのか。新たな時代のスペクタクルかそれともハリウッド主義の権化なのか ? 面白ぇ。
コメント :
ゴダールの映画にしては、この映画は、割と好きな方。機会があればもう一回観てみてもいいかもしれないと思った。ゴダールの映画に対してそのような感慨を抱くなんて、21世紀には何が起こるのか分からないもんだ。

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【荒ぶる魂たち】四星半

一言で言うと :
Vシネで【疵】シリーズなどを手掛けてきた武知鎮典による企画・脚本を、こちらもかつてVシネで力をつけ、今や日本を代表する監督の一人となった三池崇史が入魂の映画化。
すごくよかったところ :
真正面から直球勝負 !! これぞヤクザ映画 ! の傑作 !!
竹中直人、伊武雅刀、遠藤憲一、松方弘樹、秋野太作、白竜、ミッキー・カーチス、石橋蓮司、etc.etc.……多くの個性的な登場人物達それぞれに強い印象を持たせつつ、しかも脇役の一人一人にまで目を配りながら、幾重にも折り重なった物語が全体としては一つの大きなストーリーに収束するところが凄い。
そして何と言っても中心になるのは主人公の加藤雅也 !!! 実は彼の出演作で私が本当にいいなと思ったのは、坂東玉三郎監督作の【外科室】、阪本順治監督の【王手】に次いで、これがやっと三本目なのだ。本作は彼にとっても、きっと代表作の一本になるに違いない。
どこにも行き場がなく滅んでいくしかないことをどこかで自覚している者達のせつなさといったものに、三池崇史監督の真骨頂がひしひしと感じられ、本っ当に不覚なことに2回も泣いてしまった、2回も。ヤクザ映画で泣くのかよ私、オイ。(ちなみに、姐さんを訪ねるシーンとラスト直前の果たし合いのシーンでした。)
……って、この人には真骨頂が一体いくつあるんだか ?? レビューを書くのも今年に入って3本目だし。う~ん、三池さんって本当に底知れないお方だ……。
その他のみどころ :
加藤雅也さんの二人の舎弟、大地義行さん(裏切る方)と山口祥行さん(裏切らない方)が印象的だった。
ピアソラふうのBGMを使えば、絶望を孕んだ壮絶な美しさといったものが演出できるのだと思う。でも元々の素材の方にそれなりの強度がないと、負けてしまってお話にならないことだろう。三池作品ではうまい使い方がなされていると思う。
監督さんへの思い入れ度 : 今回は100%ということで !
あまりよくなかったところ :
多くの人が書いていることだろうと思うが、あのイメージビデオのような恋愛シーンもどきみたいなのは一体何 !? ストーリー上何の必然性もなければ、ちゃんとした濡れ場にすらなってないなんて一体どういうこっちゃ ? 流れを遮断してしまうだけなので即刻カットすべき。それも女のコに気の毒だと言うのなら、ビデオではせめて別立ての短編とかにしちゃった方がいいんじゃないのかな。
コメント :
よく考えたら、三池監督のヤクザものってビデオ(Vシネ)でしか観たことがなく、劇場で観るのはこれが始めてだったかもしれない。
ヤクザ映画というのも、幾重にも張り巡らされたお約束事の世界の中でしか成立しない、特殊なファンタジーなのだと思う。全体としてはもうとっくに滅びるべきジャンルだと思っていたのだが、滅びるどころか、Vシネの一連の隆盛で妙な発展の仕方を遂げてしまったのが(好ましいかどうかは別にしても)興味深い。
ちなみにヤクザ映画を見るコツは、何組と何組があって誰がどこに所属していて、誰と誰が対立しているのかをしっかり把握しながら見ることです。お試しあれ。

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【エイブル】三星半

一言で言うと :
ダウン症のゲン(渡辺元)君と自閉症のジュン(高橋淳)君が、アメリカのキャサリン&マーク・ルビ夫妻の家(ごく一般家庭)に3ヶ月間ホームステイして、様々な体験を積む様を捉える。
そもそもは、スポーツを通して知的障害者の自立と社会参加を促すスペシャルオリンピックスの活動をアピールする映画を作りたい、といった企画から始まって、巡り巡ってこのホームステイが実現したようだ。(ちなみに、スペシャルオリンピックスというのは、本家のオリンピック大会の後に開催されるパラリンピックとは別物みたいです。)
映画の製作資金は、スペシャルオリンピックス日本理事長である細川佳代子氏(細川護煕夫人)の呼びかけに賛同した一万人以上の人々からの寄付によって賄われた。監督は【日本鬼子/リーベンクイズ】で製作にあたった小栗謙一が務めている。
かなりよかったところ :
中心人物の二人は、片や知的障害者のための職業訓練施設に通い、片や地元の高校のスペシャルクラスに編入する。でも、あれ ? 彼等、英語だって話せない筈なのに、そんなことは感じさせないほど生き生きと環境に溶け込んで、いろいろなことを学びながら楽しんで生活しているのが見て取れる。
私は知的障害者の人達のそんなに生き生きとした感情の触れ幅を目の当たりにしたのも初めてなら、そんな彼等を掛け値なく魅力的だと感じたのも初めてだった。妙なてらいがなく何事にも積極的な彼等の姿は、実際に見ていて飽きることがないのである。
ホスト・ファミリーの夫妻は、こんな人達が本当にいるの ? っていうような野放図にいい人達だし。周りの人達もいい人ばかりで、これでは見ていて嫌な気持ちになりようがない。しかも、皆、頑張ってそんなふうにしていますというのではなく、総てごく当たり前のこととしてナチュラルに行動しているのだ。
個人的にニガテだったところ :
しかし、世の中そんなにいい人達ばっかりな訳がない、どこかにバランスの崩れたところもある筈じゃないの ? とか思ってしまったりするのは……そりゃ私のココロが完全にヨゴレきっている証拠なんでしょうね。
この映画にそういったところが一切映っていないのは、この映画の中では人間性のネガティブな側面に敢えてスポットを当てる必要は無いという製作側の強い意志があったからではないだろうか。それだけ製作意図がはっきりしているのなら、いいんじゃないのかな、そういうのはそういうので。
コメント :
ゲン君とジュン君の通っている学校や施設もそうだが、スペシャルオリンピックの活動や、障害者のための乗馬教室など、様々な障害者向けのプログラムが非常に充実していて、またそういった活動に対する一般市民の理解も、日本とは比べものにならないくらい深いように見えた。アメリカには良くも悪くも、正しいと思った理念の実現に向けてきっちり現実的に努力し邁進する姿勢があって、それがプラスに働いたら本当に素晴らしい結果を産むのだなぁと改めて思った。う~ん、そういうところはいいと思うんだけどなぁ、アメリカって国は。

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【エトワール】三つ星

一言で言うと :
300年以上の歴史を持つパリ・オペラ座のバレリーナ達へのインタビュー。フランス語で星を意味する“エトワール”とは、トップダンサー達に与えられる称号のことだが、本作にはエトワールに限らず様々な階級のバレエダンサーが登場する。
かなりよかったところ :
例えば、足に出来た血マメが化膿しても抗生物質を飲みながら躍る群舞のダンサーがいる。実力によって分けられた厳格な階級制の中、生活も何もかも、自分の半生のほとんど総てをバレエに捧げ、自分達の信じる“美”を自分達の肉体を通して実現させるためにただひたすら躍り続ける人達……何がそこまでさせるのか ? それは“美”に身を委ねたいと思う衝動から発せられる情熱に他なるまい。それはもう凄まじいとしか言い様のない世界だ。
ちょっと惜しかったところ :
しかし実のところ、この映画の中で語られているようなバレエの世界の厳しさやらバレエへの情熱やらといったものはどうも、今までテレビのドキュメンタリーやバレエまんが( ! )とかいった様々なメディアを通して見知ってきたバレエの世界に対する認識と、あまり大差ないような気がしてしまったのだが。つまりは、それほど新鮮さを感じられなかったということで。
その他のみどころ :
監督のニルス・タヴェルニエさんは、【ラウンド・ミッドナイト】【田舎の日曜日】【今日から始まる】の名匠ベルトラン・タヴェルニエ監督の息子さんなのだそうです。
コメント :
オペラ座のバレリーナ達は実は国家公務員で国からお給料を貰っているそうで、だから他に何の心配もせずに本当に四六時中バレエのことだけを考えていればいいのだそうである。そういえば他の芸術の分野でも、フランスでは国やその他のレベルで様々な補助や助勢の制度があるという。映画の分野などでは、国の手篤すぎる助勢金制度のせいで、小難しくて独り善がりな映画ばかりが増えてかえってレベルが落ちてしまったなんて話もあり、そういった制度の影響は一概には図り切れない面もあるかも知れない。でも少なくとも、フランスという国には、“美”という目には見えない観念を皆で守り育てていこうという国民的コンセンサスが存在しているのは確かだろう。それってかなりうらやましい話だ。そういう国に生まれていたら、正直、楽だったろうと思うのだ、いろいろと。

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【《上海アニメーションの奇跡》】四つ星

一言で言うと :
上海美術映画製作所で1960年代から80年代にかけて創られた短編~中編アニメーションの傑作を一挙公開。
かなりよかったところ :
セルアニメあり(【胡蝶の泉】【ナーザの大暴れ】)、切り絵アニメあり(【猿と満月】)、水墨画風アニメあり(【牧笛】【琴と少年】【鹿鈴】)、人形アニメあり(【不射の射】)で、バラエティにも富んでいるし、お話も叙情的なものが多く、技術的にも高水準。旧ソやチェコの作品などに代表されるような短編アニメーションがお好きな方は、これも是非チェックしなくては !
個人的にスキだったところ :
個人的には【胡蝶の泉】のアール・デコ調に洗練された絵柄やシブい色遣いが好きだったかな。
その他のみどころ :
人形アニメの【不射の射】は、NHKの人形劇『三国志』の人形製作などでお馴染みの川本喜八郎氏が、上海のスタジオに招聘されて創った作品なのだそうだ。TVなどでは過去数回オンエアされたことがあるらしいが、劇場で正式公開されるのは今回が初めてらしい。これは見逃せまい。
水墨画の滲みをそのまま画面にして動かしたかのような水墨画アニメは、実際はセルを使用して製作しているものらしいのだが、普通のセルアニメの三倍以上の工程を要する非常に手の込んだものらしい。このびっくりしてしまうような出来栄えは百聞は一件に敷かずです。
コメント :
しかし近年では、上海のスタジオからも人材の流出が著しいとのことで、今回上映が実現したような高い水準の作品が今後出てくる可能性は減ってきているとのこと。大体が、全世界的な傾向として、短編アニメーションを製作すること自体、難しくなっているようなのに(商業ベースに載せにくいから)。う~ん、寂しいですよねぇ~。

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【スリープレス】三星半

一言で言うと :
70年代から80年代に掛けて一時代を築いたイタリアン・ホラーの巨匠ダリオ・アルジェントが、久々に自らの作品のルーツのミラノに戻り、旧知のスタッフと共に作り上げた一編。
かなりよかったところ :
出てきた登場人物があっさりと殺されてしまい、その人に関わっていた次の人が重要人物かと思えばまたあっさりと殺され、またその次の人もまたあっさり……と、まるで殺人のバケツリレーみたいに次々と流れるように人(10~20人くらい ? )が死んでいってしまう展開に、口があんぐり。ちなみに、その連続殺人事件の解決に駆り出されたのが元刑事役のマックス・フォン・シドーなのだが……。
個人的にニガテだったところ :
しかし、ストーリーも事件の謎解きも細かいディテールも、登場人物たちですら、お話を淀みなく進めていくためだけにただ次々と差し出されていくコマであるかのように感じられた。
アルジェント監督はこのお話のスタイルにしか興味がなかったのでは。そういうある意味理路整然としたところも、好きな人にはたまらないのかもしれない。が、私はまずは物語ありきの人間で、スタイルに奉仕するための物語といったものには所詮それほど興味が持てないのだなといったことが、最近分かってきたところだったので。
コメント :
監督が一番活躍なさっていたのは私が映画を観始めるより少し前くらいだったようだし、もともとホラーはあんまり好きじゃないしで、監督の映画は今までに1~2本位しか見たことかなかったのだが、これから先も、メインの守備範囲になることはないのかもしれない。でも世間には、何せ無類のアルジェント好きがたくさんいらっしゃることだから、詳しい解説はそちらにおまかせすることにして……。

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【トゥーランドット】四つ星

一言で言うと :
プッチーニのオペラ『トゥーランドット』を物語の舞台である中国、しかも出来れば北京の紫禁城で上演してみたい ! この史上発の快挙を成し遂げるためのパートナーとして、指揮者ズービン・メータとプロデューサーは、映画監督として名高いチャン・イーモウ(【活きる】【紅いコーリャン】【初恋のきた道】他)を舞台監督に選んだ。1998年に実際に紫禁城で行われた公演の舞台裏を記録したドキュメンタリー。
すごくよかったところ :
ズービン・メータさんはもともとインドの人らしいし(知らなかった ! )、舞台演出家が中国人なら、総勢何百人になろうかというキャストやスタッフにもいろいろな肌の色をしたいろいろな国籍の人がいて、一体何ヶ国語が飛び交っているのやら、の世界。20世紀の終幕を飾る試みの一つとしてすぐお隣りの国でこんなスケールのデカいプロジェクトが進行していたというのに、当時は全く何のニュースを聞くこともなかったなんて……。それでもまぁ、今になってからでも教えてくれてありがとう ! といった感慨は抱ける。
同じプッチーニの『蝶々夫人』などを見れば、制作当時の西洋人の描いていた手前勝手なエキゾチズムを誰しも感じることだろうが、今回チャン・イーモウ監督は、そういったことは総て折り込み済みの上で敢えて、新たに中国の本物の伝統をふんだんに取り入れながら(authenticという言葉がよく使われていた)、一から再構築し、全くオリジナルなものとして提出していたように思う。この人の才能は本当に凄い。改めてそう感じた。
美しい刺繍のたくさん入った、総て職人さんの手作りの色とりどりの豪華絢爛な衣装、どこから何が飛び出して来るか分からない、空間を立体的に使うことを試みた目にも艶やかな仕掛けと演出、建物自体の醸し出す独得の歴史の重み、そして勿論、超一流の歌と演奏。本編の中に収められている舞台のほんの断片を観ただけだというのに、ドキドキして鳥肌が立ってきてしまった……すげぇーっ !! かっけーっ !! こりゃ全編通して見てみてぇーっ !!
あまりよくなかったところ :
……と盛り上がったところで映画は終了し、帰りに受け付けの前を通り掛かると……な、なんと ! その全編通しの舞台を収めたビデオやらDVDやらが売られているではありませんか ! な、なんちゅう汚い商売なんだ……あぁ、また余計なお金を使ってしまったじゃないの。(いいんだ、これは一生モノだもん、決して無駄遣いなんかじゃないもんね、フンだ。)
コメント :
本作は、ドキュメンタリー映画としての出来自体はそこそこだという評価も多いのだが……う~ん、冷静に考えてみれば確かにそうなのかもしれないが……。
しかし、日本ではオペラというジャンルに手を出すのはなかなか難しいですよね。料金高すぎますもん。

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【友へ・チング】四つ星

一言で言うと :
ヤクザの息子のジュンソク(ユ・オソン)、優等生のサンテク(ソ・テファ)、貧しい葬儀屋の息子のドンス(チャン・ドンゴン)、お調子者のジュンホ(チョン・ウンテク)は、少年時代を共に過ごした幼な馴染。だが、アメリカ留学までしたサンテクやそれなりに順調な人生を歩むジュンホとは道を分かち、ヤクザになったジュンソクとドンスは、互いの立場の違いから次第に対立を深めていき……。
【シュリ】や【JSA】の記録を塗り変え『チング・シンドローム』まで巻き起こした韓国の大ヒット作。本作の脚本は、クァク・キョンテク監督自らの体験が基になっているという。
ちょっと惜しかったところ :
言ってしまえば、お話自体はありがちというか、どうってことのない感じはする。
すごくよかったところ :
しかし本編は、少年時代の思い出に彩られた4人の友情がどのように変遷していくのかが実にじっくり丁寧に描かれているところがよかったのではないかと思う。
特に、中心人物のヤクザの息子・ジュンソクと、監督自身が投影されていると言われるエリートのサンテクの結びつき(多分この2人のシーンが最も多い)や、ジュンソクに憧れと嫉妬を感じるドンスの屈折やジュンソクとの因縁などがみどころだ。また、こんな味の濃い連中ばかりの間に、一般ピープル代表といった感じでごくニュートラルに配置されているジュンホの存在も、実は貴重なのかも知れない。
4人の演技はいずれも印象深いのだが、特に、男気には溢れているが悪い奴になりきるにはあまりにもナイーブな部分を抱え過ぎてしまっているジュンソク役のユ・オソンは是非見ておくべきだ ! 韓国では以前から若手の演技派として知られていたのだそうだが、彼はこれから後、とんでもないスーパースターになる可能性があるような気がする。
その他のみどころ :
日本の話じゃなくてお隣りの国の話なのに、彼等の少年時代の風物にはどこか奇妙な懐かしさがあったりする。やっぱり近い国なんだよねぇ。
コメント :
普段あまり映画に行かない30代の男性を大量動員できたことが、本国でのこの映画のヒットの一要因になったという。そんなメインの客層、現在30代で80年代に大学に入った60年代生まれの人のことを、韓国では386世代というのだそうな。おお、そんな便利な言い方が ! 正に私にもぴったりじゃありませんか。

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【ドリアン・ドリアン】三星半

一言で言うと :
大陸の北寄りの寒い土地から香港にやってきた若い女(チン・ハイルー)は、売春をして貯めたお金を携えて故郷に帰るが、娘の“成功”を祝って親族労党を集めて歓迎会を催す両親ですら、彼女が香港でどういった生活をしていたかということを知るよしもなかったのだ……。香港の若い人(時には子供)を中心に据えた映画を作り続けてきたフルーツ・チャン監督の最新作。
かなりよかったところ :
主人公の(香港のある)南に対する愛憎半ばする気持ちなどがまだしも分かる気もしたし、今まで観たフルーツ・チャン監督の映画の中では、まだしもちゃんと観る気にもなれたような気がした。
個人的にニガテだったところ :
被写体との距離の取り方とかセリフの入り方とかなのかなぁ、どこが悪いのか、はっきり言ってよく分からないのだが、監督の映画は見ていてもどうも今一つ気持ちが入っていかないというか、やっぱりちょっとニガテだ。
コメント :
公開初日だけ特別に、劇場で冷凍ドリアンのミニパックが売られていたので、せっかくだから買って食べてみた。私の印象では、ほんのりネギっぽい風味のする香ばしいバナナといった感じ。なかなか美味しかったですよ。
旅慣れた知人の女性の言うには、ドリアンはよく熟れたのを食べればちゃんと美味しい(まずいという人は未熟なものに当たった可能性が高い)のだそうだ。だから美味しいドリアンを食べたければ、まずは現地の人と仲良くなって、彼等に選んでもらうのが一番なんだって。成程。

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【光の旅人 K-PAX】三星半

一言で言うと :
精神科医(ジェフ・ブリッジズ)は自分をK-PAX星人だと言い張る男(ケヴィン・スペイシー)を診察する。彼は言動も少し変わっていれば、実際周りでは少々不思議な出来事も起こったりするのだが、それもこれも病気のせいだと考える精神科医は、彼を“治療”しようと懸命に試みるのだが……。【鳩の翼】【バック・ビート】のイアン・ソフトリー監督の描く、一風変わったファンタジー映画。
かなりよかったところ :
確かに宇宙人でもおかしくないかもしれないと思わせてしまうケヴィン・スペイシー。やはり彼がこの映画の要(かなめ)だ。
そのケヴィン・スペイシーを中心に、精神病棟の入院患者も私生活で悩む精神科医自身も、周りの人間達が少しずつ癒されていく過程が無理なくスムーズに描かれているところがいいのではないかと思う。
彼が本当に宇宙人かどうかが物語のハイライトになっているように思うのだが、真実はどうとでも取れるような、でもやっぱり一つしかないような、このちょっと曖昧にぼかした終わり方もなかなか好きだなぁと思った。
ちょっと惜しかったところ :
ジェフ・ブリッジズも含め、医者達がどうしてそこまでケヴィン・スペイシーを“治療”せねばならないと考えるのか、物語を進めるのには必要な設定なんだろうけど、その辺りがあまりきちんと描かれていないのが、多少強引な気がした。
周りの人が癒されていくっていうのも、欲を言えばちょっとよくありがちなパターンというか、図式的に映ったようにも思われた。
かように全編、悪くはないんだけど多少詰めが甘いかなとも感じられるところも少なくなかった。
その他のみどころ :
エンドロール後にもカットが1つありますので(このカットは結構重要な意味合いを持つのでは?)、席は最後まで立たないようお勧めします。
コメント :
真実はどうあれ、空の彼方の虚空に向けて祈った人がいたというのがこの話のキモかなと。人類は独りぼっちじゃない、といいんですけどね。

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【ビューティフル・マインド】四つ星

一言で言うと :
晩年にはノーベル賞を受賞した実在の数学者ジョン・ナッシュ・Jr.の半生を描いた評伝を、【バックドラフト】【アポロ13】など数多くのヒット作を持つロン・ハワード監督が映画化。本年度アカデミー賞の監督・作品賞受賞作。
かなりよかったところ :
若かりし主人公はいろいろあって次第に精神的に病んでいくのだが、その主人公の心象風景が明らかになったシーンではかなり度肝を抜かれた。
その主人公を支えていくことを決めた妻と主人公が、二人で次第に病いを克服していく様が、バランスよく整然と描かれているのがいいのではないかと思った。
主人公役のラッセル・クロウ、奥さん役のジェニファー・コネリーその他の方々(エージェント役のエド・ハリスも是非入れたい ! )の演技力次第では、これはもっと嘘っぽい話になっていてもちっとも不思議じゃなかっただろう。やはり大したものである。
個人的にニガテだったところ :
ロン・ハワード監督らしく手堅くまとまっていて、ごく普通に面白くていいんだけれど、実のところ、エピソードが右から左に流れていっただけという感じでえらくあっさり終わってしまったなー、というのが私の正直な印象だった。
特に、主人公の心の病が明らかになって後のこと。私も多少は経験があるのだけど、心の病気というのは、本人が病気を自覚してから後の方が、実際に立ち向かっていくのも大変になってくるし、よっぽど辛くて長い期間になってくる。そこのところが簡単に終わり過ぎてしまっているのにはどうにも違和感を覚えたのだが。(ハリウッドの超優等生で健康優良児のロン監督には、もしかしたらその辺りの話はあまり及びのつかない領域なのかもしれませんが。)
コメント :
ロン・ハワード監督というのは、まるでハリウッド映画のお手本みたいな完璧で破綻のないエンターテイメント作品を創る方だという認識があった。(それは大変高くて安定した能力がなければ出来ないことであり、決して揶揄して言っている訳ではない。)だから彼はいつかはアカデミー賞を取るのだろうと思っていたのだが、そのタイミングがたまたま合ったのが今年だったという訳で。ま、よかったですね。

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【ブラックホーク・ダウン】

一言で言うと :
1993年の米軍のソマリアでの軍事作戦の失敗を映画化。
あまりよくなかったところ :
ひとの国にいわば勝手に出掛けていって勝手に戦って……それでセンチメンタルに“何のために戦うのか”も何もないだろう。アタシだって余所の国の軍隊がいきなりやってきて街のド真ん中で辺り構わずミサイルぶっ放し始めたら、相手がどんな御立派な目的を持っているつもりなのであれ、そりゃ寄ってって石くらいは投げますよ、ええ。
途中で相手側の無力な女性や子供の姿なんかをインサートしてあるのも、自分達は人間的な心は忘れていないんだよという言い訳じみていて、見ていてすごく嫌な気持ちになった。だったらそもそもそんなドンパチなんてやってんじゃねーよ !! 余所の国に行って軍事力を振りかざすっていうのは、正にそういう民間の女子供をも巻き込んで人殺しをすることでしょう ? 今更何のきれいごとを言ってるんだか。
で、自分達の方だけ、“大切な家族”の写真(=人間らしさの発露 ? )が“狂った暴徒”に踏みにじられるシーンをこれみよがしに延々と流す ? 言っておくが、あなた方に襲いかかっている“暴徒”の一人一人にも家族はいるの。あなた方と全く同じなの。そしてあなた方はもしかしたら、彼等の“家族”の誰かを流れ弾か何かで殺しているかもしれないの。
それで亡くなった十数名の米軍兵士はエンドロールで全員丁寧に名前を紹介されて、ソマリア側の千人以上の死者は全部十把ひとからげ ? その切り取り方が片寄っていなくて何なのよ ? しかもダメ押しで言うに事欠いて「俺達は英雄じゃない」ですと !? 一体何なんだその過剰なナルシズムは ? 気持ち悪いったらない。
リドリー・スコット監督は、もしかしたら彼なりに客観的になろうとする努力はしているのかもしれない、が、しかし通底している視点はどう転んでも中立ではありえないし、結果この映画は、監督や一部の論者が主張しているような反戦的な映画にも決してなっていないと考える。
コメント :
この映画を製作したジェリー・ブラッカイマー(【パール・ハーバー】他のプロデューサー)のやっていることは、世界中に武器を売り歩いて人の命を消費して金儲けをしている“死の商人”と呼ばれている人々(政治家達にたくさん献金もしてせっせとロビー活動もして、眼には見えにくい形で政府だって動かしている)とあんまり変わらないのじゃないかと、私は思う。
でも実際、究極的には彼等の金儲けの目的の為に民主主義という福音(=実のところはフィクションなのかもしれない)を信じ込まされて自らの命を消費させられるアメリカ軍の人達というのも、気の毒な存在なのかもしれない。そういったところまでちらっと意識が行ったところだけが、この映画を見て唯一得ることが出来たことか。
もしこの映画をお好きだった方がいらっしゃったらごめんなさい。でも私はこの映画を下劣だとすら思ったし、結局この映画には星は差し上げられませんでした。

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