Back Numbers : 映画ログ No.6



今月の番外編 : 何ィ、【スクリーム】が上映中止だとぉ !? 腫れ物に触るようにとりあえず何でも自主規制、なんてことするくらいなら、過激な映画を世に問うことの社会的な影響くらい少しは考えといて、何でもかんでもすぐ規制だと言いたがる輩たちに対する反論くらい常日頃から用意しておくべきじゃないのっ ? それに、この映画が駄目だっつうくらいなら、世間にはもっと問題のあるもんがゴマンとはびこってるんじゃないのかっ ? 楽しみにしてたあたしの週末を返してーっ !!

【ウェルカム・ドールハウス】三星半
心の奥にしまってある昔懐かしいトラウマの数々を、これでもか、これでもか、と容赦なく攻めたて、思い出させてくれる怪作。そんなに愛に恵まれないならせめてなけなしの自分を好いてくれる人を慈しむとかすりゃあいいものを、それが出来ないってところまでが超リアルで、見ていて悲しくなっちゃうなぁ。てなとこまで織り込み済みで、この世界を再現し切ったこの監督さんって、まことにスゴいと思うわ。
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【コーリャ愛のプラハ】三星半
ほぼ予想通りの展開で、分かりきっているようなラストなんだけど、やっぱり泣けてしまった(……不覚)。しかし一番印象に残ったのは、コーリャ君よりも、プラハという都市が持っていた歴史的な豊かさの方。共産党独裁は崩れるべくして崩れたんだよな、ということを肌で分からせるのが、実はこの映画の目的だったのか ?
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【セイント・クララ】三つ星
平和ぼけと言われる日本ではあるが学校制度の締め付けが厳しいところはイスラエルと同じかな、くらいにしか思っていなかったのだが、この映画、見た直後より後になってから、じわじわと何度も思い出されてならなかった。独特の手創りっぽいテクスチャーに、何か昔の自主製作ものみたいな瑞々しさが思い出されてしまうのかもしれない。悪い意味じゃなくて。
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【SET IT OFF/セット・イット・オフ】三星半
この映画を見に行った理由は、一にも二にも三にも、どわい好きなクィーン・ラティファ姐さんが出ているから。なのに何なのよあの字幕はっ。レズ役だから男言葉って、一体何十年前のセンスなんだか。(余談だが、役ではあんなふうだったラティファ姐さんだけど、実物は相当インテリで、違った印象の人です。)本編の方は、マッチョな野郎どもではなく生き生きとした女の人達が主人公なところが何と言っても新味。でもやっぱり拳銃ぶっ放しちゃうのね、という部分はちょっと悲しかったけど。ラストシーンは【スウィート・スウィートバック】という映画をちょっと思い出してしまった。これはやっぱりこの映画が、由緒正しきブラック・ムービーの系譜に連なっていることの証左なのでしょうか。
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【天安門】四星半
日本では天安門事件の報道も検証も充分になされていなかった、と思っていたのだが、どうやら欧米のマスコミでも事情は似たり寄ったりだったらしい。しかしここで「ならば私が正しい記録を残さねば ! 」と立ち上がる人がいて、そして実際こんなに綿密で丁寧な仕事が実現する、という辺りに、アメリカと日本の紛れもない国力の差を見せつけられる思いがする。これは、天安門事件が20世紀の歴史に刻まれる以上、人類が滅びるその日まで必ずともに生き残る映画だ、と思う。この映画を観ずして、アジアの21世紀は語れまい。いや、マジで。
ところで : 某週刊誌にひどい記事が載っていたなぁ。パンフを読む限り、柴玲さんにも弁明の機会は与えられていたはずだし、映画をちゃんと見れば、彼女のあの状況下でのあの発言は理解できないことではないと読み取ることも不可能じゃない、ということがちゃんと分かるはずだ。ましてやあれを観て、あのムーブメントは学生だけのものでは無かった、という作り手のメッセージが分からなければどうかしている。そう、この記者は絶対、映画をちゃんと見ないままに欧米の一部マスコミの受け売りだけでこの記事を書いている。こんな記事をこのまま載せるだなんて無責任だとしか言いようがない !
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【東京夜曲】四星半
遠くの扉越しに見交わす長塚京三さんと桃井かおりさんの目線 !! もうこれだけでこの映画は、名作であると運命づけられたようなものだ。“お茶漬け”、くぅ~“お茶漬け”ですよ ? この間合い、お子様には分からなくてよろしい ! 大好きな桃井さんにとっても大好きな市川準監督にとっても、長塚さんにとっても倍賞さんにとっても、勿論他のこの映画に携わった全ての人にとっても、この映画が代表作の一本となることはもう決定した(今私が決めた)。こんな素晴らしい映画が生まれ出てきたことを、ただひたすらに喜びたい。しかし、【うなぎ】もいいけどこういう映画こそを、日本映画の現在形として大々的に海外に売り込むべきではないだろうか。
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【バスキア】三つ星
出ている俳優さんも、BGMで使用している楽曲も、実に好み、ではある。そういった表面上のテイストは来るものがあるのだが、しかし、見終わった後の感想を述べてみると、あんまり何も印象に残っていない、というような気がする。この監督さんはきっと“バスキアという現象”が存在していたことを世に問いたかったのではないかと思うのだが、ではその“バスキア”を形にしてみることで作者自身に於ける一体何を表現したかったのだろうと考えてみるに、今一つ、訴え掛けてくるものが思い当たらない。これを思いきり辛口に極論してみると、題材としてそれなりに面白いものをそれらしくカッコよく味つけてみただけ、となるのだが ? 真相やいかに。
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【變瞼<へんめん>・この櫂に手をそえて】三つ星
だからー、じーさんが四の五のさべっちぃなこと言ってないでとっととあの女の子に芸を伝授していれば、何にも問題は起こらなかったんじゃん。ま、あの子がけなげで一生懸命でかわいかったから、許しちゃるけどさぁ。
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【誘拐】二星半
筋立てはそれなりに面白いのに、いかんせん、前半の映像があまりに安っぽくて嘘くさい(大企業絡みの犯罪なのに会議のシーンの一つも無いなんて嘘だろ ? とか、モブを出しただけでマスコミを表現してるつもりなんて見る人間を舐めてんのか ? とか)ので、後の方まで見る気力を保ち続けるのが難しかったりして。折角後半になれば渡哲也氏や永瀬君のよさがじっくりと染み出してくるのに、実にもったいないなぁ、と思う。しかし今回の永瀬君は、プロファイリングの腕をバリバリに生かすアメリカ帰りの捜査官、って匂いがあんまりしなくて、背広のよく似合う近所の気のいいあんちゃんの域を脱していなかったと思うゾ。これは役作りの失敗か、演出の失敗なのか ?
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【雷魚】四つ星
最初のシーンの入り方、ちょっとしたカット割り、色遣い、観る者の目を釘付けにして離さない。ここに描き出される荒涼とした人間関係の、乾き具合といい粘り具合といい、この“湿度”のリアルさったらない。極東の島国に生まれた私らは、アントニオーニ先生を有り難がってる場合じゃありませんぜ ! コドモの私にゃ分からんかったのが、なんであそこでやっちゃうかなー、というくんだりだけですな。
ところで : 同じユーロスペースのレイトショーで、同じ瀬々敬久監督の初の一般映画 ! との触れ込みの【こっくりさん】も上映中です、が……予告編を見る限り面白そうだったんだけど、“オカルト=(内容はどうでも)とにかく客を見込める ! ”ってなんかいかにもの図式が透けて見えてそうで、どうも拒否反応が出ちまいまして観に行けませんでしたです。うう……。
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【ラブ&カタストロフィ】三星半
なんか、大学時代をすごく思い出してしまった。さりげなく撮っているように見えるけど、このビビッドさを殺さずにこんなにさくっと仕上げてしまえるなんて、実はすごいことなのでは。この監督さんは末恐ろしい人だと私は思った。
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【ロスト・ハイウェイ】二つ星
人間の見る“悪夢”をきっちり映像化すると、正にこんな感じになるのだろう。こんな抽象的なものをこれだけ見事に形にしてみせたリンチ監督の手腕はさすが、大したものではある、が……他人の悪夢を延々2時間以上も見せられて面白いものかどうかは甚だ疑問である。こういう映画を創りたいなら、最初から実験映画か何かだということでやるべきではないのだろうか。
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【われらの歪んだ英雄】二星半
後半の部分(主人公が級長にある種の憧れを抱くくだりや、級長の“歪んだ”権力が崩壊していく様の描写など)はまぁ面白かった。監督さんはこの部分に、現代の韓国社会の何かを意識的に投影させているのだろう。が、全体的に一昔前の映画といった古くさい雰囲気があると思うし、この主人公が、田舎は嫌だとすかしているわ先生に告げ口するわで、途中まで全っ然親しみを持てなかったので、前半を乗り切るのが正直ちょっときつかったかなぁ。
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