Back Numbers : 映画ログ No.60



【青い春】三星半

一言で言うと :
松本大洋の同名コミックスに収録されている数本の短編を、【ポルノスター】【アンチェイン】の豊田利晃監督が再構成して映画化。
すごくよかったところ :
学校という狭い狭い宇宙の中に生息する男子高校生達の、苛立ちだったり焦りだったり諦念だったりするような感覚が入り混じる雰囲気の生々しさを、90分に満たない簡潔な映像の中で的確に捉えている。
かなりよかったところ・ちょっと惜しかったところ :
高岡蒼佑・大柴裕介・山崎裕太・新井浩文・忍成修吾、etc.etc.といったこれからが期待される若手俳優さん達が大挙して出演しているのは、一見しておく価値があるかも。中でも主演の松田龍平がやはり一番の注目株だろうが、彼の独得の存在感はこの映画には多分欠かせないものではあっても、演技力自体は残念ながらまだまだ発展途上といったところ。これからに期待致します。
その他のみどころ :
屋上というのは永遠に、日常からの逃避や逸脱を象徴する場所なのだろうか。確か以前にもそういうモチーフの映画を観たことがあるけれど。
監督さんへの思い入れ度 : 40%
コメント :
私も10代の頃はどうしようもないような閉塞感を山のように抱えて生きていた(というより死んでいた)のだが、それはこの映画の中の男の子達のものとは何かが根本的に異なっていたような気がする。(少なくとも私は一度も“退屈”を感じたことはなかったし、その頃はまだ“諦め”てもいなかったように思うので。)加えて、私は10代の頃のことは出来れば永遠に記憶の底に沈めておきたくて、わざわざ掘り返して思い出すことに何のカタルシスも感じられない。だから、私がこの映画の評価をあまり高くすることが出来なかったのは、この映画で描こうとしているものを受け取る素地が私の方に無かったからであって、この映画自体の確固とした屹立ぶりとはあまり関係がなかったのではないかと思われる。
ということで、この映画が気になる方は、本稿の評価のことなど気にせずに、まっすぐ映画館に行ってみて下さいね。

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【ヴェルクマイスター・ハーモニー】三星半

一言で言うと :
ハンガリーの田舎町の広場にやってきた移動サーカス。若い郵便配達夫が見せ物の巨大な鯨に驚愕する一方、サーカスの一員“プリンス”に扇動された町の人々は暴動を起こし始めるが……。ハンガリーの知られざる鬼才タル・ベーラ監督による寓話的なモノクロ映画。
個人的にニガテだったところ :
上のあらすじを読んで、意味、分かり……ます ? 私は実際映画を見てみても、どこがどういう寓話なのだかさっぱり判らなかったのだが。後で解説のようなものを読んでみたら、未開なものへの驚異や文明の衝突を描くことが意図されていたのだと書いてありましたけど……理解力が足りないというか何というか、全くどうも申し訳ありません。
かなりよかったところ :
でも、全編のほとんどがびっくりするような長回しで撮られているところも含め、今まで他では見たことのない何か未知の表現にゴリっと行き当たったような感触はしている。今時そんな映像経験を得ることはなかなか無いので、貴重な機会にはなるかも知れない。
長回しってどんなのかというと、タルコフスキーやアンゲロプロスの映画を観たことのある方なら、思い浮かべてみて戴ければ少しは近いだろうか(中身は全然違いますが)。撮影の対象が自然に推移していくプロセスを見詰めるように捉えようとするのが特徴で、波長さえ合えば気持ちがぐぐーっと盛り上がることこの上ない。私は、町に入ってきた巨大なトレーラーがサーカスだと判るまで主人公がひたすらじーっと見ているところが特に好きだった。ちなみに、この映画は2時間25分もあるのにカットは37しかないのだそうです。
ちょっと惜しかったところ :
このクジラさんだけは、どうしてもハリボテにしか見えません。よく考えたらハンガリーって海がない国だし、クジラ経験が少ない彼等には、日本人やノルウェー人が納得できるレベルのレプリカを作るのは難しかったのかも。
コメント :
ありきたりな映画を100本見るよりは、たまに訳の分からない映画を1本見る方が頭がスッキリするので私は結構好きなのですが。しかし、コピーライターの人がこの映画をパンクやロックになぞらえるのは、【アンダーグラウンド】辺りをちょっとだぶらせて客をだまくらかして見に来させようという意図がいくらか入っていやしませんか ? この映画、正しくは外国純文学系でしょう。いかにも配給元のビターズ・エンドさんが好きそうな。

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【海は見ていた】三つ星

一言で言うと :
山本周五郎の原作を基にした黒澤明監督の脚本の遺稿を、熊井啓監督が映画化。
深川の岡場所の遊女お新(遠野凪子)は、追われているところをたまたま匿った若侍(吉岡秀隆)に好意を寄せるようになるが、ほどなく若侍には縁組が決まってしまう。失意の中、客には惚れるなと姉さん遊女の菊乃(清水美砂)にたしなめられるお新だったが、客の良介(永瀬正敏)に自分の境遇に近いものを感じるようになり……。
かなりよかったところ :
下馬評ではあんまりいい評判を聞かなかったので一体どんな出来になっているのやらと危惧していたのだが……さすがにそれなりのクオリティはあるというか、心配していたほどには酷くなくってほっとした。
絵作りはしっかりしているし、脇を固める俳優さん達などに上手い人が多かったから、画面を見ていて一定の安定感はあったように思う。特に、菊乃姉さんに所帯を持たないかと持ちかける馴染みの御隠居さんの石橋蓮司さんや、この物語の唯一の悪役と言える菊乃姉さんのヒモの奥田瑛二さんなどはさすがの貫禄だった。
あまりよくなかったところ :
ではこの映画に合格点を差し上げられるかというと、やはりそれにはちょっと及ばないかもしれない。
ラブ・ストーリーと銘打っているのだから、このお話は一応、遊女であるヒロインがどんな切羽詰まった気持ちで他人を求めるのか、それは彼女がそれまでどんな悲痛な経験を背負ってきたからなのか、といった心情の部分の描き方が中心になってくるべきなのではないだろうか。そう考えると、このヒロインから人間の根っこの悲しみのようなものが(口ではいくら悲しいと言っていても)一向に伝わって来なかったというのは、ちと痛い。ヒロインの遠野凪子さんの演技は、想像していたよりはずっと良かったけれども、悲しみを包み隠して気丈に振る舞う粋の世界にまでは到達しきれていないように見えた。
前半では、ヒロインが吉岡秀隆さん扮する若侍の見せる親しげな様子を愛情と勘違いしてしまうという展開になるのだが、それなりにいろんな体験と場数を積んできている筈のヒロインがそんな“思い違い”に陥り、それを御丁寧に周りの百戦錬磨の遊女達までもが皆で応援することなるという下りは、やはり決定的に弱かったのではないだろうか。物語に説得力や深みを出すためには、若侍はもっと悪い奴なりずるい奴なりでしかるべきだったと思うし、そうしないというのであれば、もっと展開に相当工夫をしなければならなかった筈だ。
そもそも、岡場所という場所柄なのに雰囲気がえらく健康的過ぎるし、出てくる人達も、奥田瑛二さんを除いてほとんど皆が皆、いい人達過ぎる。お話の終盤の、不運続きで世をすねている男とヒロインの間に真の愛情が芽生えて……といった筋立てを活かすことを考えると、もっと人間のどうにもならなさとか世の中の世知辛さとかが(あるいは差別みたいなものも含めて)、画面の中でダイレクトに見えて来てもよかったのではないだろうか。熊井監督なら、そういったものを描くのもお得意でいらっしゃる筈だと思うのだが、どうにも解せない。
でこの映画、サントラにちょっと問題が……。
コメント :
黒澤監督は生前に、お気に入りの作家だったという山本周五郎の作品を原作として【椿三十郎】【赤ひげ】【どですかでん】などを映画化していらっしゃる。黒澤監督なら本作をどのようにして映像化したのだろう、といったことばかり考えながら観てしまうなんて、それは映画にとっては不幸なことに違いない……。

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【海辺の家】四つ星

一言で言うと :
自分の命があと3ヶ月だと知らされた男(ケヴィン・クライン)は、別れた妻(クリスティン・スコット・トーマス)の元で暮らす難しい年頃の息子(ヘイデン・クリステンセン)と共に家を建てようとする……。
【恋愛小説家】のマーク・アンドラスの脚本を、【ロッキー】【レイジング・ブル】【ラウンド・ミッドナイト】などの多くの名作を製作してきたアーウィン・ウィンクラーが自ら監督して映画化。
かなりよかったところ :
長年勤めていた設計事務所からはリストラされ、おまけに癌が発覚して人生行き詰まり状態になってしまった男。彼はぼろぼろの我が家を建て直すという行為を通して、グレかかっている息子や元妻との最悪だった関係を多少なりとも清算し、自分についての記憶を彼等の中に少しでも残していきたかったのであろう。原題の“LIFE AS A HOUSE”の示唆するところが興味深い。
ベタついたところのない非常に抑制の効いた演出、結構きわどいところもサラリと見せる上品さ、そして、しっかりと人物設定がなされているキャラクターを演じる俳優さんが一人一人、それぞれに素晴らしい。【スター・ウォーズ…】の新鋭ヘイデン・クリステンセン君の演技の実力のほどを堪能するのもいいけれど、しかし皆様、この映画はやっぱり最終的には、何と言ってもケヴィン・クライン様を観るためのものですよ ! この人はもう、本当に何を演らせても最高だったら !
ケヴィン・クラインへの思い入れ度 : 55%
コメント :
いかにもお涙頂戴的な設定だと思っていたのだが、でもこれが、分かっていても結構泣かされてしまうのだ。ここぞという泣かせどころこそを思いっきり冷静にクールに演出するのが、21世紀の正しいお涙頂戴モデルだと見た。

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【快盗ブラック・タイガー】三星半

一言で言うと :
タイの新鋭ウィシット・サーサナティヤン監督が独自の映像感覚で描く通称“トムヤムクン・ウェスタン” !?
農夫の息子ダム(チャッチャイ・ガムーサン)とお屋敷のお嬢様ラムプイ(ステラ・マールギー)は、大人になって再会し恋に落ちる。が、ダムは親を殺した相手に復讐するため快盗団に入り、一方のラムプイはエリート警部と結婚させられそうに……。
かなりよかったところ :
シンプルに様式化されたセット、そしてなんと言っても、まるで蛍光カラーみたいなどハデで独得な色使い ! このキッチュな画面のスタイルは、一度観たら忘れることが出来そうにない。
ちょっと惜しかったところ :
まぁそういったスタイルの独得さこそを見せたい映画のようだから、ストーリーの方は敢えて、ステレオタイプを狙った感じのお話になっているようで……。
コメント :
【アタック・ナンバー・ハーフ】【シックスティ・ナイン】【ナンナーク】【レイン】【タイム・リセット 運命からの逃走】【デッド・アウェイ/バンコク大捜査線】……ここ二、三年で日本で公開されたタイ映画を並べてみるだけでも、近年のタイの映画界では本当にいろんなタイプの映画が作られるようになってきているなぁと思う。
ウィシット・サーサナティヤン監督は広告業界の御出身なのだそうで、そう言われてみれば何だか、いかにも広告業界の人が好きそうな作風かもしれない。第三世界系の映画=素朴でプリミティブな力強さに溢れた映画、みたいなカテゴリー分けみたいなことは最早全く通用しない訳で、特に本作みたいな、いわゆるスタイル重視のカルト系の映画がタイのような国で作られるようになっているを見ていると、こういった国々の社会や産業構造などが(特に都市部で)如実に変化してきているのだなぁということを、肌で感じずにはいられない。

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【スター・ウォーズ エピソード2 クローンの攻撃】四つ星

一言で言うと :
御存知【スター・ウォーズ】新シリーズの第二作。今回は、成長したアナキン(勿論、後のダースベイダー)とアミダラの恋や、第三作で大カタストロフィとなるらしい“クローン戦争”に至る予兆などが描かれている。
コメント :
新シリーズは、第三作が終わって全貌が明らかになるまでは判断のつけようがないと思っていたのだが、現時点までのところでちょっとだけ見えてきたような気がする辺りをかいつまんでみることにする。
先週たまたま【帝国の逆襲】をテレビでやっているのを見て思った。旧シリーズと較べて新シリーズに絶対的に足りないもの……それはユーモアなんじゃないのか。話が全体的に暗黒面に向かうと分かっているから致し方のないことなのかもしれないが、それにしたって新シリーズはマジメでシリアス一方で、笑う暇(いとま)なんてありゃしないんだもの。コメディ・リリーフとして期待されていたのであろうジャー・ジャー・ビンクスはすっかり嫌われ者になってしまったしね。
加えて、旧シリーズが基本的に愛と勇気と正義のわくわくするような冒険譚であったのに較べ、新シリーズは基本的には冒険譚ではないからなぁ。愛はあるかもしれないけど、勇気と正義というよりは、みんな組織力学に基づいて行動しているようにしか見えないし。(まぁもしかすると、それも時代を反映しているのかもしれないが ? )
やはりまずは旧シリーズの存在ありきで、新シリーズはどこまで行っても、基本的には語らずもがなのサイドストーリーという位置付けになってしまうのではないかという感じは、かなりしてきてしまった。
でも改めて旧シリーズを観ていると、あぁあれが ! などと新シリーズのシーンなどが思い浮かんできたりして、それはそれでまた多層的で違った見方が出来て面白いのかも知れないと思った。でもそんな楽しみのためにこれだけの莫大な製作費と手間暇を掛けるので ? う~ん、贅沢と言えば凄い贅沢なのかもしれないが。
まぁ本作は【…エピソード1】ほどは説明的でもないし、見所も多くて飽きることはないだろう。今回から主役になるヘイデン・クリステンセン君もアナキン役としては最高のチョイスだったと思われる。しかし、(一部で言われているように)ルーカスさんはラブ・ストーリーを描くのはあまりお上手ではないかもしれない。だって、幾つか出てくるラブシーンはどれもほとんど同じに見えてしまうし、そもそも、これほど思慮分別の足りない青二才に、一国の元首をしていたほどの聡明な女性(の筈だ)がどうして魅かれるのかもよう分からん。
もう一つ気になることが…… :
ウチの妹が、「【…エピソード1】をテレビで見たら案外面白かった」などと発言していた。【…1】の公開時に一緒に映画館に行った時には「う~ん…」という反応だったのだが。しかしそう言われてみれば、CGを駆使しまくっている今回のもの凄い画面も、映画館のスクリーンで見ていると全体的に何かどことなく違和感があるような気が、私もしてきてしまった。
よく考えると、CGの技術者の人達が日々にらめっこしている画面って、どんなに大きくても基本的にテレビのサイズではありませんか。もしかして、新シリーズの方は最初から、“映画なるもの”であるというよりは、ビデオやDVDやネット配信のための“デジタルコンテンツ”でしかないものなんだったりして。
その辺りがもしかするとルーカスさんとスピルバーグさんの資質の違いなのだろうか。スピルバーグさんは最近、「ハリウッドが総てデジタル化されても私は最後までアナログで撮る」といった発言もしていらっしゃるみたいだし、言われてみれば彼は最初から、どこまでも根っからの映画小僧であり映画青年であったようにも思われるのである。

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【ダスト】四つ星

一言で言うと :
【ビフォア・ザ・レイン】で世界の耳目を集めたマケドニア出身のミルチョ・マンチェフスキー監督による第二作。今回のテーマは“物語を物語ること”。
2000年のニューヨーク。借金まみれでどうにもならない状態に陥った黒人青年(エイドリアン・レスター)はあるアパートに押し入るが、住人の老女(ローズマリー・マーフィー)に逆にやり込められる。老女は「自分を故郷に埋葬してくれたら金貨をあげる」とある物語を語り始めるのだった……。
100年ほど前、アメリカ西部に住むある兄弟は同じ女性(アンヌ・ブロシェ)を愛した。女性は弟(ジョセフ・ファインズ)の方と結婚したが、しばらくした後、兄(デヴィッド・ウェンハム)が突然姿を消してしまった。
流れ流れて、ヨーロッパの果てのマケドニアに行き着いた兄は、オスマントルコの勢力が弱まって混乱していたかの地で賞金稼ぎをしていた。賞金首の革命家を見つけて仕留めようとした兄はその時、彼を追ってやって来た弟に銃を突き付けられる。
その後、トルコ兵とも悶着を起こした兄は命からがら逃げ出して、お腹の大きいある少女(ニコリーナ・クジャカ)に助けられた。が、少女が宿していたのは革命家の子供だったので、やがてその村もトルコ兵の襲撃を受けることになり……。
かなりよかったところ :
現代のニューヨークと、百年前のもうほぼ伝説と化してるみたいな世界を、自由自在に行ったり来たり。そしてどっちの話も一筋縄では行かなくて、どうなっていくのか全く予断を許さない。
そうした多面的な構造の中で、“物語が紡がれること”のダイナミズムが現在進行形で展開する。物語が物語として成立していく瞬間を捉えたお話なんて、実はあんまり見たことがない。そういった部分でこの映画は、かなり面白い線を狙っているのじゃないかと思われた。
個人的にスキだったところ :
登場人物はみんな個性的で魅力があるのだが、中でもやはり、この映画全体の中心人物と言ってよいであろうニューヨークのおばあさんの逞しさとお茶目さが素敵だ。このお方、ニターッと笑ったところが何だか岸田今日子さんみたい……。
その他のみどころ :
監督は、マケドニア革命のさなかに降り立つカウボーイを見てみたかったのだそうで。ま、実際に年代的には不可能じゃないらしいんですが。
監督さんへの思い入れ度 : 45%
ちょっと惜しかったところ :
しかしこれは、お話がやはりちょっと複雑かも。大まかな流れが分かれば何とかなるので実際に見てるとそんなに気にはならないのだけれど、細かな点ではあとで資料を見て補ったところも確かにあります。
個人的にニガテだったところ :
これは本当に本当に個人的な好みの問題なのですが……ジョセフ・ファインズさんのお顔ってやっぱり私は好きじゃない……。
コメント :
今生きている人間の個人の“物語”なんて、百年も経てば誰も覚えちゃいないだろう。それは悲しいこと、なのかなぁ ? 私なんぞはむしろ、名もない歴史の、目にも見えないくらいちっぽけな一部としてさっさと埋没してしまいたいんだけれど。

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【父よ】四つ星

一言で言うと :
死刑囚となった息子(ヴァンサン・ルクール)を救い出すために、父親(ブリュノ・クレメール)はあらゆる手を尽くそうと人知れず奔走するのだった……。1960年代から70年代にかけてのフレンチ・シネマ・ノワールに原作小説を何本も提供してその立役者となり、後には何本かの映画も監督したジョゼ・ジョヴァンニが、自らの体験を基に描く“父親の無償の愛”。
すごくよかったところ :
ギャングの一員ではあったが実際に殺人は犯していなかった息子を助けようとする、賭博師を生業とする父(その設定が実話だというのがまず凄い……)。捕まる以前の息子は父とはずっと折り合いが悪かったのだが、父は息子の為にあらゆる手を尽くし、そしてそのことを息子に告げようとはしなかった。そんな昔気質の無骨な父親を何と形容すればいいのだろう、私は「渋い ! 」という言葉くらいしか思い付かない。既に老境に達していらっしゃるはずの監督御自身による、父親への思いを込めて切々と語るナレーションは、ただもう泣けてくる。
こんな映画は真似して創ろうと思っても決して創れるものではないだろう。
その他のみどころ ? :
オープニングとエンディングの曲はシュルジェンティというコルシカ島の伝統的な音楽をベースにしているグループによるものなのだそうだけど、これがどうも私の耳には、ロス・インディオスとかロス・プリモスとかいった日本のムード歌謡に酷似して聞こえてしまうのですが……。
個人的にニガテだったところ :
超美形のヴァンサン・ルクール君だが、口ヒゲはちょっと似合わないみたい……。
コメント :
私はフレンチ・ノワール系の映画はほとんど見たことがなく全く無知なので、大変失礼ながらジョゼ・ジョヴァンニ監督のことも今まで存じ上げなかった。映画にも出てくるジャック・ベッケル監督の【穴】(1960年)の原作者だと聞いてやっと接点が見つかったくらいだ。(あぁ、やっぱり好き嫌いせずに色々何でも見ておかなくては。)
ちなみに【穴】は、昔ジョヴァンニ監督が出所後に出版して小説家としてのデビューを果たした作品なのだそうで、実際に脱獄を試みて失敗した経験が基になっているのだとか。ベッケル監督の【穴】は名作中の名作なので未見の方には是非お薦めしたいが、そのようにほとんど神話の域に達しているような作家の、パーソナルな思い入れが詰まっている作品を同時代的に観ることが出来るというのには、何か格別の感慨がある。ま、自分自身の話とは切り離して見てるけど……。

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【チョコレート】三つ星

一言で言うと :
父親から極端にマッチョ的で人種差別的な傾向を受け継いだハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)の目の前で、彼に愛されなかったことを苦しんできた息子(ヒース・レジャー)は自殺してしまう。レティシア(ハル・ベリー)は夫を処刑され、最愛の息子も礫き逃げ事故で失うが、事故の時偶然通りすがりで助けてくれたハンクと少しずつ親しくなり始める。しかしハンクは実は、レティシアの夫が処刑された時の刑務所の看守だった……。
かなりよかったところ :
ハル・ベリーは本作で黒人女性初の主演女優賞を受賞 ! 確かにこの映画、それぞれの俳優さんの演技は非常にいいのではないかと思う。
あまりよくなかったところ :
で、そんな演技の上手さや、全体を覆っている重々しい雰囲気やなんかに一瞬ごまかされてしまうんだけど……しかしよく見るとこりゃ結構、御都合主義的でいい加減な話ですぜ。
二十歳を過ぎてもう仕事もしている成人男性がいまさら親の愛が足りないとか言って自殺する~ ? というのはウチの妹の弁だけど、確かにその辺りの父子関係の説明も全く不十分。また、それこそいくら息子の死という重大事があったとはいえ、何十年も人種差別主義者をやってきた白人男性がそ~んなに簡単に改心なんかするだろうか(する訳ないと思う)。それに、ヒロインが主人公にセマるシーンも(いくら寂しかったんだろうとはいえ)あんまりにも唐突に見えるし、主人公の親に対する決着の付け方もあっけなさすぎて、何しろ安易だ。
きっとこの映画を作った人は、“絶望からの再生”みたいなものをテーマに据えてみたかったのだろうと予想するのだが……う~ん、肝腎の人間が描けていないではどうしようもない。
コメント :
不思議なことに、アメリカ映画の中には時々、暗いものをただひたすら暗く描くことを目的にしているみたいな映画が忽然と出現することがあるみたいだ。私の頭に浮かんでいたのは、“それまでは本当に演技派だった”かのニコラス・ケイジ氏がカンチガイを始めてしまうきっかけとなってしまった【リービング・ラスベガス】という映画。そんな映画を見ていると、アメリカ人ってこういうの本っ当に下手ね、と思ってしまわずにはいられない(例外は多々あるかもしれないが)。
歴史的な情念を背負っちゃってるヨーロッパの人や日本の人は、暗いのなんてお家芸のはずなんだから、こぉんな映画に騙されてちゃあいけません。

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【月のひつじ】三星半

一言で言うと :
1969年、アポロ11号の月面着陸を全世界に生中継したのは、オーストラリアのパークスという田舎町の牧羊地のど真ん中にぽつんと立つ巨大なパラボラアンテナだった。という実話を基に、歴史的な大プロジェクトを前に大騒ぎする小さな町の人々と、アンテナの管理に右往左往する科学者チームの面々の姿を描いた物語。
かなりよかったところ :
“羊しかいないのに ! ”と町の人が自ら叫ぶような田舎町がどうして選ばれたのかというと、町長の思いつきでたまたま巨大なアンテナが建っていたから。文字通り宇宙的な規模の、非常に厳密で責任も重大なビッグ・プロジェクトと、責任感と誇りは感じつつもなかなかそんな厳粛な雰囲気にはなっていかない町の人々とのズレが何ともおかしい。(彼等のマイペースぶりにジリジリするNASAからの派遣職員役を一人入れてあるのがミソだろうか。)
原題の“The Dish”(お皿 ? )はその巨大アンテナの名前そのものなのだそうで、オーストラリア人が聞いたらピンと来るのかもしれないが、日本の人にはちょっとねぇ。でもって、この邦題はなかなかロマンティックで秀逸。賞があったらあげたいくらいだと思う。
個人的にスキだったところ :
オーストラリアの男優さんと聞いて思い浮かべるのは……メル・ギブソン ? ラッセル・クロウ ? いやいや、本作の主演のサム・ニールっすよ ! 生まれは北アイルランドで国籍はニュージーランド、現在はオーストラリアを拠点にして活動していらっしゃるというサム・ニールさんは、どんなにクセ者でもどこか一途さを失わないような役柄がよく似合う、うーぴーのお気に入りの役者さんの一人。ハリウッド映画にコンスタントに出ているようなタイプの人ではないのだが、時々思いがけない作品に出てるのに出会えたりすると嬉しいんですよね。
その他のみどころ :
本作の脚本・監督・製作を担当しているのは『ワーキング・ドッグ』という5人組のチーム。クレジットでは、製作=マイケル・ハーシュ、監督=ロブ・シッチ、脚本=サント・シラウロ/トム・グレイスナー/ジェーン・ケネディとなっているが、実際には共同でこれらの作業にあたっているとのことだ。
コメント :
よく考えると、この映画には悪人が一人も出て来ていない。そんな上品な映画作りが今時可能だというのはもしかして凄いんじゃないかと思うが、反面、あの頃は人類の進歩を無邪気に信じ皆で同じ夢を見ていられてよかったな、といったような懐古主義的なニオイが図らずもしてきてしまったところが、私には微妙~に引っかかってしまったみたいである。(ああ本当にヒネクレモノなんだから。)

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【ドッジGO ! GO ! 】四つ星

一言で言うと :
小学6年生の入江ゆきこ(田島有魅香)率いるドッジボールチーム「みなとドッジキッズ」は、同じ地区にある全国優勝チーム「山手ドッジファイターズ」にどうしても勝てない。チームの人数も減り、練習場も閉鎖されそうになった丁度その頃、プロ野球選手のゆきこのパパ(筧利夫)は韓国の釜山のチームへの移籍が決まる。もうこのまま「ドッジキッズ」は解散か……だが釜山で一人のドッジボール大好き少女(ファン・ナラ)と意気投合したゆきこは一念発起、「ドッジキッズ」の助っ人集めを開始するのだった。
近年では統一ルールも採用され、公式球技として小学生の間でますます盛んになりつつあるというドッジボールに題材に取った一本。製作は【ウォーターボーイズ】のアルタミラピクチャーズ、監督は【燃えよピンポン】【明日になれば……】などで独自の地歩を築きつつある三原光尋。
すごくよかったところ :
溌刺 ! という言葉を絵に描いたみたいな、抜群にはっちゃけた元気のよさ ! あくまでもポジティブで決してへこたれない主人公の女の子とその仲間たち ! 日本の子供たちだけでなく韓国の子供たちも個性豊かで元気いっぱい。全編がエネルギーに満ち溢れていて、見ているだけで本当に元気になれそう。
フェリーを使えば子供の持ち金でも行き来できてしまうというエピソードがあるくらいで、日本と釜山との距離は存外近いのだと実感する(でも子供たちだけでそんなことをするなんてイケマセンてば ! )。ネット通信なども駆使しつつ、彼等が実にさりげなく、当たり前みたいに日本と韓国を行ったり来たりしているのがいいなぁ。
筋はしっかりと押さえつつも、短い時間の中でサクサクと進む、小気味のいいストーリー展開。クライマックスの試合の迫力に比重が置かれていて、そこでチームが一つになっていくところもお見事 ! と思った。
意外なほどにまっとうなお父さんぶりを発揮した( ! )筧利夫さんを始めとした、大人の側のキャストも素晴らしい。コーチ(温水洋一)の奥さんでキッズ達の応援団長的な役まわりの板谷由夏さん、町内会の会長の小倉久寛さんなどが特に良かったし、ライバルチームのコーチ役の益子直美さんもなかなかいい雰囲気だった。
その他のみどころ :
釜山という街は、海が街のすぐそばみたいだし、高台からの眺めはいいし、町並みにも何だか親しみを感じるし、何だか凄くいい所のような気がしてきた。(……はっ、もしかしてこれは製作サイドの何かの陰謀なのか ? )
監督さんへの思い入れ度 : 75%
あまりよくなかったところ :
上映時間を短くしているのとも関係してると思うが、例えば、初対面で言葉もあまり通じない子供たちがいきなりチームを組んで試合に出るなど、現実ではそんなにスムーズにことが運ぶ訳がない。そういったところを、描写不足だと捉える人もあるみたいだ。
でも、現実はともかくお話の中では多分うまくいくのであろう過程は、くどくど説明などせずにいっそ潔くすっ飛ばして、例えば主人公とパパの親子の交流のシーンとか最後の試合のシーンとかいったもっと大事なシーンに比重を置いて描写するというのは、手法として決して間違っていないと思うのだが。そう思ってみると、83分という時間の中に必要な要素を過不足なく実にバランスよく配している手腕に、私は逆に感心してしまう。三原監督ってやっぱり上手いですよ。監督が拠点を置いているという関西だけでなく、東京方面でももっと評価が高くてもいい人の筈なんだけどなぁ~。
コメント :
小学生をメインの対象に考えているのかもしれないが、本作は大人が見てもそれなりにちゃんと面白い映画だ。こういう映画こそ、全国の小学校で巡回上映などでもして戴きたいものである。
しかしこれ、東京ではちゃんとプロモーションなどをしているのであろうか……舞台挨拶の回はともかく、その他の回は客席がちょっと寂しくて、折角の映画の出来からするとこれはちょっと勿体なさすぎ……。

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【にっぽん零年】三星半

一言で言うと :
1968年に日活が企画しておきながらその後中止にした安保反対闘争と学園闘争に関するドキュメンタリー。監督として携わっていた藤田繁矢(後の藤田敏八)と河辺和夫が秘かに完成させていたものが、34年ぶりにようやく一般公開されることになった。
この企画には当初、浦山桐郎(【キューポラのある街】【私が棄てた女】他)と斎藤光正(【戦国自衛隊】【悪魔が来りて笛を吹く】他)も参加していたそうだが、途中で企画を降りた為、両監督の担当部分は残ったフィルムには含まれていないということだ。
かなりよかったところ :
何といっても、当時の時代の空気がそのまま切り取られて封じ込められているのが貴重だろう。
コメント :
映画には、実際に学生運動に携わる東大の学生や、フーテンをやっている女の子、会社を辞めた後なんとなく自衛隊に入った若者などが取り上げられている。勿論、一見したところの物事への興味の持ち方や語り方なんかは今の時代とは違うけれど、彼等が自分の考えていることや自分の所在の不確かさに対する不安を吐露するところなどを見ていると、実は根っこのところでは今の人達とあまり変わりはしないのではないかという気がしてきた。(NHKの某番組など、今の若い人も案外語るのが好きなんだということを証明しちゃってますしね~。)そういった面が鮮明に捉えられていて、今見てもあまり古びた感じがしないのがこの映画の優れているところかなと思った。

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【猫の恩返し】三つ星
【ギブリーズ episode2】三星半

一言で言うと :
御存知、スタジオジブリの最新作。【ギブリーズ…】は“スタジオギブリ”で働く人々の姿をオムニバスで描いた百瀬義行監督による短編。【猫の恩返し】は、ジブリの1995年作品【耳をすませば】に出てくる猫のキャラクター達を使った森田宏幸監督作品。
かなりよかったところ :
【ギブリーズ…】はちょっと冒険的な企画のようで、それぞれの短いエピソードに対して、いかにも世界中のいろんなアニメを研究しています、といった趣きの様々な手法を使ってあるのが面白く、日常的な話の何気なさに逆に味があって飽きさせない。ちなみに、もともと“ジブリ”というのはサハラ砂漠に吹く熱い風のことで、日本以外の人は“ギブリ”と発音するのだそうな。“episode2”の方は……【スター・ウォーズ…】に掛けたんでしょうかね、きっと。
スタジオジブリには欠かせない色の魔術師、色彩設計の保田道世さん(宮崎・高畑両監督と同年代くらいの大ベテラン)は今回は【ギブリーズ…】の方に参加していらっしゃるようだ。どうりで色が超キレイ !
【猫の恩返し】の方は、猫を助けたら“恩返し”に猫の国へ連れて行かれてしまい、そこから脱出して元の世界へ帰るのに【耳を…】の猫キャラ達が力を貸してくれる、といったお話。少女マンガを意識したという絵柄が目に新しく、会話のテンポの独得の軽やかな間合いは結構好きかもしれない。
ちょっと惜しかったところ :
【猫の恩返し】の色使いも決して悪くはないんだけど、【ギブリーズ…】の色の美しさと較べてしまうと、どうしてもちょっとベタついて見えてしまう。監督以外でも若手の人材を育てなきゃ、という意図は分かるような気がするのだが、直接並べてしまうとちょっと気の毒だったかも。
異世界に行って帰ってくるというだけなら【猫の恩返し】は【千と千尋…】と同じなんだけど、千尋が迷い込んでしまったのが一種神話的な世界なら、【猫…】の主人公が迷い込んでしまったのはまるっきりマンガ的な世界。どたばた的な面白さはあるけれど、起ころうが起こるまいがどちらでもいいお話といった気がしなくもなくて、テーマ的にもあまり拡がりが感じられないように思われる。【耳をすませば】のキャラは借りてきていても、バロンの過去などの話の背景が全く出てこないのも何か勿体ないし。
【耳を…】の原作の柊あおいさんに今回の原作を依頼することを提案したのは宮崎駿監督だそうだけど、そもそもどうしてそんなに柊さんにこだわる必要があったのかは、はっきり言ってよく分からない。
あまりよくなかったところ :
【猫…】の方で、肝心の猫の立ち姿があまり良くなかったのはちょっと痛いかも。特に、縮めた前足の描線には少し手抜き感を感じてしまったのですが……。
コメント :
声のキャストなどは抜群にいいし、基本的にそんなに壊滅的につまらなくはないから、ジブリの巨匠達のあまりな重厚さと較べずにそんなに期待しすぎないで観れてみれば、それなりに楽しめるのではないだろうか。ちなみに私は、どちらかというと【ギブリーズ…】の方が好きだったかな。

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【パルコフィクション】四つ星

一言で言うと :
【ウォーターボーイズ】の矢口史靖監督と、監督の盟友である鈴木卓爾監督が手掛けた、ファッションビル“パルコ”にまつわる5本の短編からなるオムニバス。
第一話『パルコ誕生』第二話『入社試験』第四話『バーゲン』は矢口監督、第三話『はるこ』第五話『見上げてごらん』とエンディングロールの『ポップコーン・サンバ』は鈴木監督が担当した。
すごくよかったところ :
以前から『ワンピース』という連作短編集(漫画とは無関係)を手掛けているお二人だけあって、一本一本のお話が、短くてもしっかりとメリハリが効いていて確かな見応えが残る。両監督に特徴的な、のほほんとした中にも人を食ったような、確信犯的な図抜けたタッチも健在だ。
キャッチフレーズをつけるとすれば「一粒で5度おいしい」といった感じ ? パルコというモチーフがあったり、それぞれの作品が互いに少しずつ関連していたりするせいか、全部で1つの作品としての不思議な統一感がある。
かなりよかったところ ? :
この題名は【パルプ・フィクション】に引っ掛けてあるのは言うまでもないだろうが、これは逆に、安っぽいパチもん感を演出して“御大層な映画じゃないから肩ひじ張らないでお気軽に見てみてね♪”というメッセージを暗に伝えようとしている監督達の戦略なんじゃないのだろうか、という気が段々としてきてしまった……。
その他のみどころ :
エンドロールで使用されていたのは、東京での上映館“シネクイント”(渋谷パルコの8階にある)の入口ロビーのところ。掃除やらナワトビやらボーリング(というかフィルム投げ ? )やらやっていたのも、実際の従業員の皆さんのように見えるんだけど……。
監督さんへの思い入れ度 : 85%
コメント :
今回の映画の内容に関して、パルコの方からは特に何の制約も入らなかったそうだ。普通の企業じゃ、とてもじゃないけどそんな訳にはいかないだろうなぁ。パルコさんってば太っ腹ですわ。

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【ピンポン】四つ星

一言で言うと :
松本大洋原作の人気コミックの映画化。脚本は【Go】などで注目を集める宮藤官九郎。監督は【タイタニック】他で特殊効果を手掛けた経験を持つ曽利文彦(現在もTBSの社員でいらっしゃるとのこと)。
すごくよかったところ :
ストーリーを要約してみようと思ったが、途中であきらめてしまった。もしかしたら原作とは細かなテイストの違いなどがあるのかもしれないが(まだ読んでおりませんが御了承下さい)、ペコ(窪塚洋介)・スマイル(ARATA)・ドラゴン(中村獅童)・アクマ(大倉孝二)・チャイナ(サム・リー)の、卓球に自らを燃やし尽くす5人の男の子達を巡るストーリーラインの繊細な味わいは、きっとそのまま生かされているのではないかと思ったのだが。
かなりよかったところ :
監督さんが【タイタニック】で特殊効果チームにいた方なのだと聞いたので、映画がそれこそどっぷり特殊効果づけになっているのではないかと内心危惧していたのだが、あくまでもメインはストーリーやキャラクターで、特殊効果はシーンを盛り上げる為の介添役として大体は節度のある使われ方をされていたのではないかと思われた。特にやはり、卓球のスピード感などが効果的に演出されていたのはよかったんじゃないだろうか。(“蝶人間”だけはイマイチだったけど……。)
BGMにテクノポップを使うというのは、今までにありそうでなかった新機軸。これがバッチリ嵌まっている !
その他のみどころ :
5人のメインキャラと、夏木マリさん・竹中直人さんのサブキャラ以外で、コメディ・リリーフとして場をさらっていたのが、本作の脚本の宮藤官九郎さんと同じ劇団『大人計画』に所属している荒川良々さん。実は同号で紹介している【パルコフィクション】の第五話にも御出演なさっています。この独得のぬぼ~っとした存在感は、もしかしてこれから一部で注目されることになるかも。
ちょっと惜しかったところ :
やはりお話のクライマックスは、主人公のペコと幼なじみのスマイルのオトシマエということになるのではないかと思うのだが、そこに至る前にお話の一番の盛り上がりどころが来て終わってしまったみたいだった……ま、そこの展開も外せないかなとは思うんですけどねぇぇ。
あまりよくなかったところ :
しかしこの映画は、もっと重要な部分に致命的な欠陥がある……それは主人公の窪塚洋介君。このペコという特異なキャラクターは、非常に緻密な計算が要求される相当難しい役なんじゃないのか、なのに……思いっきり素じゃん !! 才能と勢いだけで押し切るのには限界があるんだってことを誰か周りのオトナが教えてやれよー !! (……って無理か。げーのう界にはあんまり大人はいなさそうだもんね。)
この映画、他の面ではほぼいい感じで推移していたんじゃないかと思われるのに……これでは監督が気の毒なんじゃないだろうか。
コメント :
ということで、私は途中からすっかりスマイル役のARATA君を中心に観ていたのだが、そうすると幸いなことに、かなり面白く観れたのではないかと思う。私の読んだ幾つかのゲバ評はなんだかあんまり芳しくなかったのだが、基本的にそんなにつまんなくはないと思うですよ、この映画。

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【フォーエヴァー・モーツァルト】三星半

一言で言うと :
日本初公開になるゴダールの1996年作品。
かなりよかったところ :
ええっと、一応筋を説明すると、戦火のサラエヴォに行って劇を上演しようとして死んでしまう若者達と、彼等の一人の父親でそれでも映画を創り続けようとする映画監督のお話で……おおすごい ! ゴダールにしてはかなり解り易い筋があるじゃん ! (ちなみにモーツァルトというのは芸術性の象徴ということらしくて、筋には直接は絡んでくるわけではありません。)
相変わらず私は最初から「ゴダールはよく分かんない」モードで見ていたし、やはり実際、あまりよくは分からなかったと思うのだが(←こんなのでそもそもどうして行こうと思うのでしょうか……)。しかしさすがに今回は、地続きの地で起こっているボスニアの内戦に対して当時のゴダールが(他の知識人達と同様に)非常に危機感を持っていて、そのような悲劇に対して芸術は何を為すことが出来るのかということの自分なりの声明を表してみたかったのだろうかなぁということは、何となく伝わってきた。
コメント :
しかしそんな映画は、その当時に同時代的に公開するのでなけりゃ、シリアスさも生々しさもその意義も半減してしまうのではないか。当時公開しなかった理由も、今頃になって公開する理由もよく分からないのだけれども。

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【プレッジ】四つ星

一言で言うと :
現在のアメリカで最高の俳優の一人で、映画監督としても高く評価されているショーン・ペンの監督第三作。
引退するその日、酷たらしく殺された少女の両親にその事実を告げに行った刑事(ジャック・ニコルソン)は、必ず犯人を捕まえるとその場で誓約した。(題名の“PLEDGE”は“誓約”の意味。)やがて捕まった犯人と思しき男は強引な取り調べにより犯行を自白して自殺するが、刑事は他に真犯人がいると確信、独りで調査を開始するのだが……。
すごくよかったところ :
この後、ジャック・ニコルソン演じる刑事は、親しくなった女性(ロビン・ライト・ペン)の娘に犯人が目をつけたことを予感し、犯人を捕まえようと試みる。犯人は無事に捕まるのだろうか、女の子は酷い目にあったりしないだろうか ? でも待てよ、まさかこれが全部ジャック・ニコルソンの妄想による思い込みなんて非道い展開になったりしないだろうな……と、最後の30分くらいは胃がキリキリするような気持ちで観ていたのだが……何とラストは、私が考えていたどの展開よりも(ある意味)残酷な展開になってしまった。
「私は論理よりも運命についての物語が好きだ」とショーン・ペン監督はのたまったというけれど、これが運命だとはそれは何てあんまりな……。ラストシーンのジャック・ニコルソンの表情は、さすがの一言だが。
美しい画面は青緑色のトーンで統一されているのだが、この青緑色が象徴するものは一体何だろう…… ? 青が理性の色、緑が生命を育む慈愛の色、だから青緑色は、人間の最も高貴な部分を象徴しているのではないだろうか。あくまでも私の勝手な解釈なんだけど。
役者としてはもう何も言うことの無いショーン・ペンだが、監督としての実力もますます磨きが掛かって安定してきたみたいだ。この人はこれから先、一体どんな境地まで行ってしまうつもりなのでしょうか。
その他のみどころ :
サム・シェパードやヴァネッサ・レッドグレーヴを始め、名だたる名優さん達がずらりと顔を並べているのもこの映画の見どころの一つだが、中でも特に、自殺してしまう容疑者役のベニチオ・デル・トロが凄まじい、というかコワイよこれ。一見して本人と分からなかったくらいのキレぶりだし、【トラフィック】などを見て「ベニチオ君カッコイイ~」とか言っていた人も本作を見て思い直すこと請け合いかも !?
監督さんへの思い入れ度 : 70%
コメント :
ジャック・ニコルソンが演じた男の気持ちは、私には本当は分かっていないのではないかと思われてならない。果たせるかどうか分からない約束なんて私なら絶対にしないし(かえって相手に迷惑が掛かるから)、そもそもそこまで深入りしなければならなかった義務など一切無かっただろうと思うのだ。彼をそこまで衝き動かしたものは、一体何だったのか。

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【プロミス】三星半

一言で言うと :
エルサレムで暮らすイスラエル人やパレスチナ人の、置かれている環境も立場も様々に違う7人の子供達にインタビューをしつつその姿を追ったドキュメンタリー。
かなりよかったところ :
非常に注意深く人選がなされているようで、実に様々なパターンの子供達が登場する。彼等の日常を追っているシーンでは、エルサレムという特殊な土地での生活という普段なかなか見ることの出来ない垣間見ることが出来て貴重だと思う。
この映画は、戦時下で過ごす子供達のメンタリティに非常に危機感を持っているジャスティーン・シャピロ監督や、少年時代の何年かを実際にエルサレムで過ごしていたB.Z.ゴールドバーグ監督らによって共同で創られたものだ。その真摯な製作意図は是非買っておきたい。
ちょっと惜しかったところ :
監督さん達がユダヤ人とパレスチナ人の子供達の間の交流をはかろうとするような後半のシーンも含めて、私にとっては内容が割と予想通りだったかなというような気持ちは否めない。
コメント :
この撮影が行われた数年前と違い、ユダヤ人・パレスチナ人両者の居住区は今ではほとんど行き来すら出来なくなっていて、子供達の何人かはその頃よりもずっと穏やかでない主張を持つようになってしまっているとのことだ。
周りで人が殺されたりするのを日常的に見て育つというのはどういう心持ちになるものなのか、私には知る術もない。しかしそうした環境の中で、周りの大人達が与えるしばしば最も近視眼的で排他主義的な解釈をそのまま鵜呑みにして口にしている幾人かの子供達を見ていると、暗澹たる気持ちになってくる。
個人の人生の悲しみや不満や恨みつらみを民族や神様の事情に置き換えたりするのは不毛な行為だという認識だけは、お願いだから早く人類共通の文化として確立してくれないか。“物語”は語り続けられるうちにある部分が神話と化していくものなのかもしれないけれど、でも“物語”を紡ぐ主体はあくまでも神様や集団ではなくて、個人であってしかるべきだと私は思います。

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【ラッキー・ブレイク】三つ星

一言で言うと :
チンケな犯罪の繰り返しの果てに銀行強盗で捕まって刑務所に入れられた小悪党のジミー(ジェームズ・ネズビット)は、受刑者たちによるミュージカルが上演される機会に脱走しようと相棒のルディ(レニー・ジャイムズ)らと共に計画を練る。様々な事件の起こる中、刑務所づきの女性教師(オリヴィア・ウィリアムス)ともいいムードになってきたジミーは、果たして無事に脱げおおせることができるのか ? 【フル・モンティ】で注目を集めたピーター・カッタネオ監督の最新作。
かなりよかったところ :
主人公のジミー役のジェームズ・ネズビットや相手役のオリヴィア・ウィリアムス(【シックス・センス】でブルース・ウィリスの奥さんを演っていた人だ ! )を始めとして、なかなか芸達者な人達がさりげなくも大挙して出演しているところは期待させる。例えば、ジミーと同室の受刑者役のティモシー・スポール(【秘密と嘘】【インティマシー】他)なんかも独得の風貌で様々な映画に特異なニュアンスを与えている人で、本作でも印象的な使われ方をしているが、刑務所の所長役のクリストファー・プラマーなんかも忘れちゃならないだろう。【サウンド・オブ・ミュージック】のトラップ大佐役があまりにも有名なお方だが、今回フィルモグラフィをちらっと見てみると、出演作がゆうに100は越えていたので驚いた。
ちょっと惜しかったところ :
それぞれの役柄は個性的だし、友情ありロマンスあり脱出劇ありと仕掛けはもの凄く面白そう……で、実際そんなに悪くもないんだけれど、思ったほどに膨らみもしないんだよね。折角何かをやってくれそうなキャラクター達なのに、実際はやることなすことありきたりで予想の範囲を越えるところがないというか、どの人もそれほど活躍しないまま盛り上がり不足で終わってしまったような。
コメント :
お話はつつがなく進んで行くけれど、それぞれの人物を生かし切れるようなこの映画独特のエピソードやダイアローグが決定的に不足していて、それでどこか厚みが足りない印象が残ってしまったのではないかと思われる。素材自体は決して悪く無さそうだったから、もう一歩工夫を凝らして練り込んで、熟成させる期間が必要だったのではなかったのだろうか。

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【笑う蛙】四星半

一言で言うと :
直木賞作家・藤田宣永による原作『虜』を、【愛を乞うひと】【ターン】の平山秀幸監督が映画化。
愛人に貢ぐ金を横領して何年も行方をくらませている元銀行支店長の男(長塚京三)は妻の実家の別荘に辿り着いたが、近年そちらに移り住んでいた妻(大塚寧々)に見つかってしまう。離婚届に判を押すことを交換条件にしばらく納戸に匿ってもらうことになった男は、小さな穴から妻の生活を覗き見始めたのだが……。
すごくよかったところ :
原作はもっとネトネト、ギトギトしたお話だというふうなことも小耳に挟んだのだが、平山秀幸監督の作風の故か、映画の方はごく上品な艶笑譚になっているのではないかと思われた。
主演の長塚京三さんを始めとして、妻の母役の大ベテランの雪村いづみさん、妻の現在の恋人役の國村隼さんなど、抜群に上手い人ぞろいなのが実に見応えがある。きたろうさんなんて見ているだけで可笑しいし、ミッキー・カーチスさん、南果歩さんといった引っかき回し役の人も味があるし、脇を固める金久美子さん、三田村周三さんといった方々も安定感があって芝居を引き締めていてくれる。主人公の相手役の大塚寧々さんも、見ていてもの凄く上手いという感じはしないのだが、あまりやり過ぎてしまっても違和感が生じてしまって難しいに違いないこの役をよく成立させているなと思った。
この芸達者な俳優さん達のアンサンブルが醸し出す絶妙の間が、人生の行間を感じさせるというか、とにかくもう可笑しくてしょうがない !! このリズム感はまるで落語の名人芸を見ているみたいだと思ったのだが、やはりこれは、若い人よりはどちらかといえばある程度年の行っている人が観てこそ楽しめる映画なのではないかと思う。
かなりよかったところ :
もうとっくに妻に対して何を言う権利も無くなっていると、頭では分かっているだろうに気持ちがついていかずについつい独占欲を発揮してしまう愚かな夫と、そんな夫の気持ちを知ってか知らずか(多分知っていて)涼しい顔をして翻弄し続ける妻の、微妙な関係が面白い。
監督さんへの思い入れ度 : 75%
ちょっと惜しかったところ:
最初の辺りの子供達が出てくるシーンは、それ以降のシーンのべらぼうな完璧さと比べてみると、ちょっとトーンが違ってしまっていただろうか。あと……この題名はちょっとなぁ。どういう映画なんだか人に説明しづらくてかなわない。
コメント :
ここのところどの映画を観てもハズレ無しで、100%の打率でホームランをかっ飛ばしている平山秀幸監督は、実は今現在の日本映画界の真のエースなのではないかという気がしてきた。こりゃ、現在準備中の桐野夏生さん原作の【OUT】も期待できそうです!

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