Back Numbers : 映画ログ No.61



【アイス・エイジ】四つ星

一言で言うと :
動物達が南へと移動を始めつつあった氷河期、マンモスのマンフレッドとナマケモノのシド、サーベルタイガーのディエゴの三匹は、偶然拾った人間の赤ん坊を親元へ届けようと北へ向かうが……。
CG製作会社として頭角を現しつつあるブルー・スカイ・スタジオが手掛けたフル3DCGアニメーション。本作で監督を務めるクリス・ウェッジは、コンピュータ・アニメの黎明期の作品として知られる【トロン】(1982年)にも参加していた経験があるという。
かなりよかったところ :
まず絵にイラスト調の独得の味があるのが面白い。抜けるような青空などの比較的クッキリとした色遣いや(寒い時代だから空気も澄んでいるんだろうね)、なかなか凝ったアングルなども印象的。また、同種族の動物達の個体差を明確に出しているのが、見ていてとても楽しい。
お話自体はまぁ、主人公が氷河期の動物達という以外は目新しいところはほとんど無い定石的な作りだけど、ほとんど漫才トリオ+1のやりとりの軽妙さに重きが置かれ、たっぷり堪能させてくれるところがかえって潔い。
全体的に、エンターテイメントとして非常にバランスが取れていて、安定した実力を感じさせてくれる作品だ。
ちょっと惜しかったところ :
敢えて狙っている部分もあるのだろうけれど、キャラクターにどこかポリゴン(立体多面体)ぽい雰囲気が残っていて、特に人間の描写には少しばかり不自然な固さを感じない訳ではない。(こうしてみると、昨年の【ファイナル・ファンタジー】の人間描写の技術って、やっぱり図抜けていたのだなぁ。)
コメント :
フルCGアニメーション自体は段々珍しいものでもなくなって来つつある昨今、今後はそれぞれの会社がどうやって個性を出していくかといったことが重要になってくるのだろう。本作はディズニー配下のピクサー社やドリームワークス社の作品とはまた何か違った雰囲気を持っていて、第一作目としては充分な出来栄えだったように思う。今後はどんな作品を打ち出してくるのかを期待して待ちたい。

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【イン・ザ・ベッドルーム】五つ星

一言で言うと :
夫(トム・ウィルキンソン)は医者、妻(シシー・スペイセク)は音楽教師という夫婦は理想的な家庭を営んでいたいたが、彼等の一人息子(ニック・スタール)は、子持ちで離婚調停中のガールフレンド(マリサ・トメイ)の暴力夫(ウィリアム・マポーザー)に銃で撃ち殺されてしまう。悲しみにくれる夫婦に追い打ちを掛けるように、犯人には軽い罪が適用されることになり、やがて夫婦の間には癒しがたい軋みが見え隠れし始め……。
すごくよかったところ :
とにかく役者さんの演技がもうみんな素晴らしい ! トム・ウィルキンソン、シシー・スペイセク、マリサ・トメイ辺りの主役級の人達は言うに及ばないが(実際、様々な演技賞を山のようにもらっているし)、例えば暴力夫役のウィリアム・マポーザーなども、少しぐうたらで感情のコントロールが利かない、甘やかされて育ったプライドだけは高い小心者、といった、実際やるとなるとなかなか難しい役をしっかり体現していたように思う(この人がこういう男に見えなければ映画が全部死んでしまう ! )。他の役者さんにしても、あらゆる端役のどんな細かい演技にも意義が与えられており、意味の無い登場人物はおらず、必然的に意味の無い台詞もカットも無い。トッド・フィールド監督は今まで役者として知られていた人だということだが、確かにこの演出は、役者出身ならではの目配りの丁寧さやきめ細かさを感じさせてくれるものであるように思われた。
その役者さん達同士の受け答えの呼吸の中にこそ、この映画の生命があるのではないだろうか。何気ないダイアローグの中にも、会話を繋げようとして言葉を探したり、どのような言葉を掛けるべきかと細心の注意を払ったりといったような人への気遣い、大人の分別といったようなものが溢れている。そんな呼吸を見落とさずにきちんと描写して見せてくれている映画なんて、実はあまりお目に掛かったことがないかもしれない。
そのような互いへの気遣いは、もちろん親子や夫婦の間にも流れている。当然、彼等は偽善者などではなく、それどころか、お互いの考えていることや気持ちを理解しようと努め、必要な部分では気を遣ったりもすることは、成熟した人間ならば誰もが取っているのが当たり前の態度に違いない。そんな均衡が唯一破れてしまう、夫婦喧嘩のシーンがこの映画の白眉だ。そうして露わになってしまったものまでも、人間はきっと抱えて生きていかなくてはならないのだ。
世の中に起こる出来事は、総てが、一つ一つの状況とそれに伴う感情の積み重ねにしか過ぎないのかもしれない。出来事それ自体には、本来はいいこととか悪いこととかいった性格づけは含まれておらず、目の前に起こる出来事も悲劇ですらないのかもしれない。そんなことを感じながらこの映画を観ていた。
個人的にスキだったところ :
この映画ではいわゆるサウンドトラックが非常に少なかったように思う。代わりに、丁寧に処理されたいわゆる背景音が多用されているのが、かえって効果を上げていた。こういった作りの映画は、特に昨今のアメリカ映画では珍しいのではないのだろうか。
その他のみどころ :
銃というのはつくづく、人を殺す以外に何の用途も持っていない道具だ。……そんなものを持って人の家に押し入っていながら、たまたま実際に揉み合って殺した瞬間だけが目撃されていなかったというだけで「murder(謀殺 : 殺す意図を持った殺人)」ではなくて「manslaughter(故殺 : 殺す意図は持っていなかったがたまたま死んでしまった殺人でmurderより罪が軽い)」が成立してしまうなんて一体どういうこと ? アメリカ人、絶対どこかオカシイよ。
しかし結局、法律にも個人にも誰にも、“正しく裁く”なんてことは本質的に不可能なことなのかもしれないが。
コメント :
ストーリー展開だけを追っていたら、単なる暗い話というだけに過ぎなくなるかもしれない。それよりは、登場人物達のやりとりの行間にたっぷり詰まった情感の奏でる、人間という存在そのものの不条理さのようなものこそを観て欲しい。そんな映画だと思いました。
そういえばこの作品は今年のアカデミー賞にもたくさんノミネートされていた筈だけど、待てよ、そういや今年の作品賞って一体何だったっけ…… ? (正解はあの、ラッセル・クロウとジェニファー・コネリーが出てる数学のやつ。)思い出すのにたっぷり半日掛かってしまうような印象の薄い作品じゃなく、こういった映画の方をちゃんと評価してろよ、アカデミー賞 !
トッド・フィールド監督は、本作がまだ監督としての第一作目だというけれど、今後はどういった作品を手掛けるおつもりなのだろう……マジで楽しみな人が現れて下さって、私ゃ本当に嬉しいです♪

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【オースティン・パワーズ ゴールドメンバー】四つ星

一言で言うと :
御存知、マイク・マイヤーズ主演の【オースティン・パワーズ】シリーズの第三弾。
すごくよかったところ :
簡潔に言って、アホです。もう真剣にアホです。これだけアホなことにここまで命掛けてやっているというのが凄いです。
ノリのよさと勢いで誤魔化してるけど、ストーリーの語り口自体はどんどん雑になっていて、破綻する一歩手前のところでやっとギリギリ成立させているに過ぎないようにも思われる。一方で下品さもどんどん増していってるし。しかしこの映画の凄いところは、そういった万人にとっつきやすい形の整合性を犠牲にしてまで、マイク・マイヤーズの趣味的妄想=実はおたく的でマニアックな特殊なお笑いの世界、が力いっぱい全開になっているところだ。こんなもん、本来一般受けなんてする筈がねーじゃねぇか !! それが一体何の間違いなのか、マス・マーケットに乗っかって流通しているという現象自体に、一番のけぞってしまうんだけど。
その他のみどころ :
超ゴーカなオープニングには確かにびっくり。ただ、宣伝でオープニングばっかり誉めてるのはどうかと思うのだが。
オスカーを二度も受賞しているはずの名優マイケル・ケインが、オースティンのパパというあっ軽~い役を、それはもう嬉しそーに演じているのが笑える。ううむ懐の深いお方。何でもマイケル・ケインが60年代に主演していた一連のスパイ映画がオースティンというキャラの本ネタになっているのだそうで、マイケル・ケインは文字通りシリーズの生みの親という位置付けになるのだそうですが。
シリーズのテーマ曲『ソウル・ボサノヴァ』の作曲家クインシー・ジョーンズと、裏テーマ曲『世界は愛を求めてる(What The World Needs Is Love)』のバート・バカラックがついに共演か !? 直接一緒に出ているシーンは無いとはいえ、うーんゴージャスだ。
さすがに【フォクシー・ブラウン】と【クレオパトラ・ジョーンズ】(どちらも70年代のブラック・ムービーの有名なヒロイン)の名前を戴いているだけのことはある。爆発アフロヘアのフォクシー・クレオパトラ役のビヨンセちゃんは、キップのよいお姐さんキャラがなかなか板についていてカッコよかった。
今回、オースティン・パワーズとドクター・イーブルの過去の因縁が次々と明らかになるのだが、パブリック・スクール時代(イギリス人だから)の二人を演じたアーロン・ヒメルスタイン君とジョシュ・ザッカーマン君があんまりにも雰囲気が出ていて可笑しい。
オースティン・パワーズへの思い入れ度 : 認めたくないけど、50%くらいか ?
コメント :
かつて大島渚監督はいみじくも、大の大人が真剣に馬鹿馬鹿しい無駄遣いをするところにこそ映画というものの価値がある、と喝破したのだけれど、すると実はこういった映画にこそ映画なるものの真髄があるのだったりして……マジですか ?

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【さすらいのカウボーイ <ディレクターズカット版>】四つ星

一言で言うと :
ピーター・フォンダが【イージー・ライダー】出演直後の1971年に監督し主演も務めた、異色の西部劇。
何年もの放浪生活の果てに男(ピーター・フォンダ)はついに家へ帰ることを決意するが、かつて置き去りにしてしまった年上の妻(ヴェルナ・ブルーム)の態度は冷たい。使用人同然の扱いでようやく留まることを許された男は、妻の信頼を取り戻そうと黙々と働くが……。(原題の“THE HIRED HAND”は“働き手”や“使用人”といった意味。)
かなりよかったところ :
特に前半の、二重露光など(懐かしー ! )を多用した画面は夢のように美しい。
他の西部劇ではあまり聞いたことのないような話の切り口も面白い。特にお話の要(かなめ)になっているのはやはり、男の年上の妻のキャラクターだろう。決して美化されたタイプではない彼女の強さや弱さ、生々しさがリアルだし、だからこそピーター・フォンダが演じる夫の、髭だらけで一見武骨にも見えるキャクラターに潜むナイーブさも際立ってくるように見受けられる。
お話の最後は、夫の旅の仲間で一緒に牧場の働き手になっていた男(ウォーレン・オーツ)がキーマンとなり結構意外な展開を見せる。このお話のまとめ方は、なかなかすっきりしていてうまいなぁと思った。
コメント :
今観るとやはり70年代の頃のしっとりとした映画の香りがする。しかし、こんなにしっかりした作品が当時評価されなかったというのは(多分、【イージー・ライダー】のイメージとあまりにもかけ離れていたため)、ピーター・フォンダさんはあまりにもかわいそうだったかもしれない……。実は人間の才能の有る無しの評価なんて割と曖昧なもので、“成功”するかどうかには時流にうまく乗れるか否かの方が重要だったりするからなぁ。

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【チキン・ハート】四つ星

一言で言うと :
【生きない】でたけし軍団のダンカンの脚本を映画化した清水浩監督の、オリジナル脚本による作品。
かつてボクシングに挫折した青年・岩野(池内博之)は、サエない中年の丸さん(松尾スズキ)や、正体不明の自由人のサダさん(忌野清志郎)と共に、二分間二千円の“殴られ屋”をやっていた。三人の唯一の共通点は、定職に就くこともなく将来どうなるのかも分からないあてどない生活をしていること。だがやがて三人にも、それぞれに小さい転機が訪れ始めるのだが……。
かなりよかったところ :
三人のそれぞれのキャラが面白すぎる ! 池内さんは、ふと疑問を持ってしまったが為にいまいち何にも燃え上がれなくなってしまった青年をしっかり体現していて、役者として何だかいい感じにこなれてきているなと感じさせてくれたし、キヨシロさんはキヨシロさんでそのまんまなのが、端目で見てる分には凄く可笑しい(実際自分の職場とかにいたら迷惑以外の何者でもなさそうなタイプではあるけれど、反面、そういうふうにしか生きられない悲哀も背負って立って見せてくれているのでいいじゃないか)。でも何と言っても特筆すべきは、“キモい”という言葉をパーフェクトに絵に描いたらこんなになるんだろうなぁというような、他には決して類を見ない松尾スズキさん(劇団『大人計画』主宰)の演技だ ! 全く客の来ない親戚の古ぼけた帽子屋の店員なんぞをやりつつ、奇妙キテレツな日替りのラッキーアイテムを手放せない彼は、まだ幸せは(自分でガンバラなくても)誰かが運んできてくれると信じているのか !? あの「まいったなぁ~」の全然参っていない言い回しは、聴いたが最後、亡霊のように耳から離れてくれやしないし。こんな男の人が実際にいたら誰もが「アイタタタ」と目を逸らしてしまいたくなるようなネガティブなオーラを、(多分)計算ずくで出しているなんてもの凄すぎる……。
三人の行きつけの屋台のオヤジの荒木経推さん(これがまた荒木さんじゃなきゃ成立しないのね)に次いで、第5のキャストとも言うべきなのが音楽。アコーディオンっぽい音を中心に据えた、一見のほほ~んとのどかながらそこはかとない寂寥感を湛えたサウンドは、この映画の雰囲気をより一層明確に形作っている。こりゃさりげなくもいい仕事をする人がいるもんだと思っていたら、(ムーンライダーズの)鈴木慶一さんだった。いたく納得。
この映画のこの筋立てに、このキャストとこの作曲家を引っ張って持ってきたセンスだけでも、私ゃ思いきり買ってしまいたい、と思った。
ちょっと惜しかったところ :
何せこんなにいじましい三人のお話だから、相入れない人には全く受け付けられないことでしょう。
コメント :
なかなか決め打ち出来ない人の気持ち、それはもうよく分かる。というか、一度も悩まずに済ませられるなんて人の方が、今時、稀なんじゃないだろうか。そんなシアワセな人はこの映画を観る必要なんて全く無いに違いない。と思いながら某誌を見てみると、まんまシアワセな人ばっかりが評を書いていたので何だかな。

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【天国の口、終わりの楽園。】四つ星

一言で言うと:
本国メキシコで記録的なヒットを記録したというロードムービー。
17才の夏。それぞれのガールフレンドもバカンスに出掛けてしまい、テノッチ(ディエゴ・ルナ)とフリオ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は少し退屈を持て余し始めていた。そこに、先だってのパーティで少し話をした美しい大人の女性、テノッチの従兄の妻ルイサ(マリベル・ベルドゥー)から思いがけない誘いが。三人は伝説の海岸「天国の口」を目指して車で旅を始めるが……。
すごくよかったところ:
まったくもってセックスにしか興味がないような年頃の男の子達と、都合よく現れる年上のセクシーな女性……話だけを聞いていたら本っ当によくあるいわゆる“青春もの”みたいなのだが、どうしてこの映画だけ、他の凡百の作品と違って見えるのだろう ?
“青春もの”みたいな括りがしてあると、個人的には通常、それほど食指が動かなくなる。青春なるものを変に決めつけて美化していたり、逆に照れからなのか何なのか妙なひねりを入れて誤魔化そうとしたりするのが、わざとらしくて好きではないのだ。しかしこの映画ではそういった装飾が一切廃され、何もかもを身も蓋もないくらい開け透けに、そのまま切り取って見せようとする。そこに残るのは、美しさも痛みも総てを内包した、ある経験の記憶だけなのだ。
メキシコのラテンアメリカ的な風土を背景にして、無自覚に好き放題に振る舞っていた少年時代の終焉と、女性の決意していたある“清算”とが渾然一体となって語られる。そしてそれは、ある種普遍的にも見える寓話へと昇華して、他の何かには換え難い光彩を放っているように見受けられる。アルフォンソ・キュアロン監督は、一体どんなマジックを使えば、よくあるお話を一つの寓話へと化すことが出来たのだろう ? 分からない。
コメント:
キュアロン監督は、ハリー・ポッター・シリーズの第三作目【…アズカバンの囚人】の監督として指名されているのだそう。この映画での成功もきっと効いたのだろう。すごいじゃん。(ちなみに今秋公開される【…秘密の部屋】はシリーズ第二作目で、第一作目と同じクリス・コロンバスが監督を務めています。)

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【DRIVE <ドライブ>】四つ星

一言で言うと :
【弾丸ランナー】でデビューし、その後も着実に本数を重ねるSABU監督の第五作目。
いつもの街角にいつもの彼女(柴崎コウ)が現れる午後1時、男(堤真一)の車にいきなり三人組の銀行強盗(大杉漣、安藤政信、寺島進)が乗り込んで来た ! 金を持ち逃げした仲間(筧利夫)の車を追えと男を脅す三人だったが、男がいかなる枠組みも踏み外せない性分だったのが運のつき、決して法定速度を越えようとはしない運転に、車はどんどん離されていってしまう……。
かなりよかったところ :
かくして金を持ち逃げした男を見失った三人+一人が、巡り巡って何故かそれぞれの人生の落としどころを運命的に見つけてしまう……なんて奇想天外、ソンナバカナ ! のストーリー。
このメインの5人を演じる俳優さんの出している味が、まんまこの映画の味になっているんじゃないかと思う。シャウト系説教坊主の寺島進さん、やさぐれ少年の安藤政信さん、愛妻家の大杉漣さん、ジゴロ志向の筧利夫さんもそれぞれよいけれど、しかし何と言っても、堤真一さんの“踏み外せない男”のキャラの作り方が超絶品 ! 本当に皆様、芸達者でいらっしゃる。
監督さんへの思い入れ度 : 25%
あまりよくなかったところ :
しかし何故御先祖様が !? 兵隊さんの幽霊が !? 話を何とかして進める為に、ストーリーが恣意的に無理矢理組み立てられている感があるのは否めない。そこが鼻につき始めてしまうと、見ていて苦しいかもしれない。
個人的にニガテだったところ :
筧さん、最初の5分で気がついて穴掘ろうよー、と思った。もしかしてあれは手が抜けなくなってしまったってことなのか ? そんなふうには見えなかったんだけど。
コメント :
【弾丸ランナー】や第二作目の【ポストマン・ブルース】がとにかく走りっぱなしの映画だったから、SABU映画の特徴は疾走感にあるとずっと言われてきたのだけれど、実は監督の本質は、捻れたシチュエーションが転がっていくその不条理さの中にある面白みにこそあるのではないかと、最近思えてきた。そう考えると、本作こそは実にSABU監督らしい映画なのではないだろうか。

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【ノンストップ・ガール】三星半

一言で言うと:
スピリチュアルなパワーを信奉するジョリーン(ヘザー・グラハム)は、結婚して2年足らずで突然行方をくらませた夫(ルーク・ウィルソン)を追って全米中を探し回る。が、やがてメキシコの国境近くの街で見つけた夫は意外なことに……。【のら猫の日記】のリサ・クルーガー監督の第二作。
かなりよかったところ・個人的にスキだったところ:
原題“COMMITTED”のCOMMITは“積極的に関わり合いを持つ”といった意味になるだろうか。この映画の場合は、夫婦の結び付きは神聖なものと考えているヒロインが、夫に懸命に“尽くそう”とすることを指しているようだ。(アメリカに“尽くす”という発想があるというのがそもそも驚きなんだけど ! ←すごい偏見。)
ただその尽くし方が、夫が本来の自分を取り戻すまではただ黙って見守ろう(ただし夫の住居の近くに車を停車した中から ! )と決意したり、夫の調子をおかしくしているものを遠ざけようとおまじないを掛けたりと、一風変わっていたりして……。
そんな彼女の考えていることは俄かには理解しがたい面もあるけれど、パワフルで前向きで、とにかく健気なところが、見てるとついほだされてしまう。ヘザー・グラハムが今まで演じた役の中では、私的には一番好感が持てるなぁと思った。
そんな妻の努力( ? )なんて分かっちゃいないこの夫というのが……内向きで神経質で、自分のことしか考えてないからどうも身勝手、というケリの一つも入れてやりたくなるようなキャラクターなのだが、何だか変にリアルなところが、妙に笑えて仕方ない。
ヒロインがひょんなことから仲良くなる女性(パトリシア・ヴェラスケス)とヒロインの弟(ケイシー・アフレック)の賑やかしキャラも楽しいし、ヒロインの導き手になるメキシコ人のまじない師のおじいさんに【赤い薔薇ソースの伝説】のアルフォンソ・アラウ監督がさりげなく扮しているのも面白い。でも今回一番気になったのが、夫をずっと車から“見守っている”ヒロインに言い寄る、少々変態が入ってるアーティストの役のゴラン・ヴィシュニック。独得の陰影があっていいなと思っていたら、クロアチアの御出身の俳優さんなのだそうで、ハリウッドでも何本かの出演作があり、近作では【アイス・エイジ】のサーベルタイガーの親玉ソトの声なんかもなさっているようです。こりゃちょっとチェックを入れておきたい。
監督さんへの思い入れ度:60%
あまりよくなかったところ:
ということで、基本的には面白い個性を持った映画だと思うし、個人的にはかなり好きなのだけれども、この個性を構成している要素というのは反面、通常ではあまり馴染みの無いような概念ばかりで、しかも作者の都合で恣意的に組み立てられている感じがしたのは気になった。結果、お話がどうしても分かりにくいものになってしまったきらいがあるのは否めないだろう。
コメント:
女性達への視点の切り口が独得で優しいところがリサ・クルーガー監督の作風の特徴だと思う。監督の第一作目の【のら猫の日記】も、思えば一風変わったロード・ムービーだった。こちらのお話は幾分かは分かり易いし、個人的にはかなり気に入っている一本なので、興味のある方は是非お試しになってみて下さいね。

【ぼのぼの クモモの木のこと】三星半

一言で言うと:
いがらしみきお原作のコミックス『ぼのぼの』を、作者自らの脚本・監修によってフル3DCGアニメ化。監督は、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)出身のクマガイコウキ。
森で一番高い丘の上に立つクモモの木には、嫌なことを忘れさせてくれる不思議な力があった。ラッコのぼのぼのが出会ったフェレット(?)のポポは、「誰かがお前を迎えに来る」という父の言葉を信じてクモモの木の下でずっと待っているのだが……。
かなりよかったところ:
見る前は“ぼのぼのに毛なんて気持ち悪―い ! ”と思っていたのだが、実際映画を見ていると割と違和感がなくなってくるのが不思議だ。確かにこれは、まんまぬいぐるみみたいで可愛いかもしれない……。(でも隣の席の女の子達が、映画の間中ずっとかわいー♪かわいー♪と連発していたのはちょっとうるさかったんだけど。)
台詞の抑揚、色彩、背景の絵柄、特殊効果、音楽……といった総ての要素が完全に計算され尽くされ、原作のあの詩的な間が見事に再構築されているように感じられたし、数々のお約束のギャグの間もほぼ完璧 ! 場内のウケも大変によろしかった。『ぼのぼの』の映画化ということを考えるのならこれ以上望むのは難しいくらいかもしれなくて、一度でも原作のファンだったことのある人には、一見の価値ありとお勧めできる出来栄えなのではないかと思われた。
ちょっと惜しかったところ:
しかし原作のファンではない人にはどうなのだろう……この設定やお話のテーマの取り方自体が、既に一種のお約束の世界だから、いきなりこの映画だけを観て細かいニュアンスまで総てを把握しろと言っても、あるいは難しいかも知れないが。
それに中にはやはり、あのぬいぐるみが歩いているみたいなふわふわの姿を“暑苦しい”と感じる人もいるみたいだし……。
コメント:
“人は忘れることで本当に癒されるのか ? ”というのは実は大変大きなテーマだというのは言わずもがなであろう。生きている限りは本当に忘れることなんて出来ないから背負って立つしかないのだろう、と私は思うけど。

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【モンスーン・ウェディング】四つ星

一言で言うと:
【サラーム・ボンベイ ! 】【カーマ・スートラ】のミラ・ナイール監督が、インドの上流階級の結婚式を舞台に描く群像劇。脚本を手掛けたのは、ナイール監督のコロンビア大学(ニューヨーク)での教え子で、同じニューデリー出身のサブリナ・ダワン。
自慢の娘の結婚式の準備で、一家の主である父親は大忙し。だが、父親が決めた顔も見たことの無いフィアンセとは別に、娘には関係を断ち切れないでいる不倫相手がいた。一方、式の準備の為に雇われた業者の青年は、屋敷のメイドの女性が気になる様子……。
すごくよかったところ:
本編にはこの他にも、娘の母親や弟や従姉、膨大な数の親戚や知人の面々、業者の青年の仕事仲間達といった数え切れないほどの人物が登場し、重要な何人かの幾つかのエピソードを差し挟みつつ進行する。一つ一つのエピソードはよく見ると多少お約束的な傾向はあるかもしれないが、子供への性的虐待や親の世代と子供の世代の価値観の落差といったシリアスな問題までをも視野に入れつつ、人々の喜怒哀楽を一大タペストリーとして豊潤に織り成している、この構成の力は実に見事だと思う。
伝統と現代的なライフスタイルがごくナチュラルに同居している今時のインドの裕福な階級の姿を垣間見せてくれているのには目を引かれる。ただしこれは多分、あくまでも金持ちサイドから見たインドの姿。業者の青年やメイドの女性は多少は庶民側といったって、本当に貧しい人達は通りの背景にしか登場してこないみたいなので……。
個人的にニガテだったところ:
メインキャラの一人である業者の青年というのが、金勘定にはうるさくて口ばっかり達者なんだけど、見てると何だか自分では全然仕事をしていないの ! お調子者ぽくって憎めないタイプのキャラなんだけど、仕事をしない奴はキライなんだってば私ゃ !!
監督さんへの思い入れ度:30%
コメント:
本編はいわゆる伝統的なミュージカル型式のインド映画ではないのだが(だから普通のインド映画では御法度のはずのキスシーンなんかもあったりするようなのだけど)、最後にはやはり老若男女入り乱れての祝祭的な踊りのシーンになだれ込んでいくのは何だかおかしかった。ロマ(ジプシー)の起源もインドにあるという話だし、インドの人が歌と踊りが大好きなのは骨身に染み着いた性質なのだと、誰かが言っていたのを思い出してしまった。

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【夢なら醒めて…】二星半

一言で言うと :
アニメーション作品【PERFECT BLUE】の竹内義和の原作を元にした、同巧異奏の実写作品。監督は、“ピンク四天王”の一人として知られ、久々の一般作として本作を手掛けているサトウトシキ。
アイドル予備軍のアイ(前田綾花)は、アイのことなら何でも知っていると豪語するファンの男(大森南朋)に出会う。“究極の愛とはその人の人生そのものを生きること。”自殺した友人の作った曲でアイのCDデビューが決まりかけた頃、男は身体に変調を覚え始め……。
かなりよかったところ :
前田綾花さんや大森南朋さんを始めとするそれぞれのキャラクターは、誠実に演じられていて好感が持てると思った。
あまりよくなかったところ :
ただ、いくら演技そのものは悪くなくても、様々な描写がそれぞれ雑だったり食い足りなかったりするため、説得力を欠くものになってしまっている。例えば、そんな情念系の演歌みたいな内容の曲でトップアイドルを目指すだなんてそりゃ無理だろーとか、ヒロインの声量があんまりにも素人レベル、普通ボイトレくらい受けさせるでしょー、とか。他にも、ファンの男との出会いやマネージャーとのエピソードなど、唐突に感じられる部分も幾つかあったりした。
ファンの男はあるものに“変身”してしまうのだが、そのメタモルフォーゼのモチーフも活かされているとは言い難い。
個人的にニガテだったところ :
映画の題名にもなっているヒロインの歌は確かに耳には残る……だって和製ホラー映画みたいなんだもん。劇中で3回も4回もフルコーラスで聞かされるのには……申し訳ないけれどげんなりしてしまったのだが。
コメント :
サトウトシキ監督は、今回は様々な設定を消化するのだけで精一杯で、得意の生々しい感情描写にすら行き着けないで終わってしまっているという感じがしてしまった。一般映画ということで“禁じ手”を意識しすぎていたりしたのだろうか。ちょっと残念だったかな。

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