Back Numbers : 映画ログ No.62



【アバウト・ア・ボーイ】三星半

一言で言うと :
成長し切れない30男のドタバタを描いて定評のあるニック・ホーンビィ(【ハイ・フィデリティ】原作)の小説を、主演にヒュー・グラントを迎えて映画化。監督は【アメリカン・パイ】をヒットさせたポール&クリス・ウェイツ兄弟。
父親の作ったヒット曲の印税で仕事にも就かずに優雅な独身生活を送るウィル(ヒュー・グラント)は、後くされのないナンパをしようと、自分を子持ちと偽ってシングル・マザーの会にもぐり込む。その関係で知り合った12歳の少年マーカス(ニコラス・ホルト)は、何故かウィルの家に入り浸るようになる。最初はマーカスを鬱陶しく思っていたウィルだったが、そのうち彼等の関係は微妙に変化し始めて……。
かなりよかったところ :
マーカス君には実は、自殺未遂をしかねないほど情緒の不安定な母親に誰かをくっつけたいという切実な目的が当初はあったのだが、トニ・コレットの演じる母親(そういや【シックス・センス】でも母親役でしたっけ)はヒッピー系のなかなか強烈なキャラで、都会派のウィルとはどうも恋愛関係にはなりそうもないということはかなり早い段階で分かってしまう。しかし、お話が少しずつデリケートに転がっていくうち、母親思いで優しいが故に学校の子供社会の中で浮いた存在になってしまっていることに秘かに心を傷めている男の子と、人生空っぽでどうしようもなく浅はかだけど少年の心の機微には通じている中年男の、一風変わった友情がほんの少しずつ浮かび上がってくる。これがなかなか麗しいのだ !
そういえば今年【Shallow Hal(邦題 : 愛しのローズマリー)】なんて題名の映画もあったっけ。“shallow(浅い)” っていうのが何かのキーワードになっているんだろうか。見る側に反感を感じさせずにこのshallowな男を演じるのが多分難しい辺りで、ヒュー・グラント以外の人がこの男を演じたら成立しない可能性があったかもしれない。(【ハイ・フィデリティ】で主役を演じたジョン・キューザックなら出来たかな。)しかしそれ以上に、もう少しで世界に押し潰されそうになっている男の子を繊細に演じたニコラス・ホルト君が、何と言ってもこの映画の要で白眉だった !
個人的にニガテだったところ :
子持ちのふりをして女性に近づこうなんて悪行は、いくらなんでも言語道断だ !!!!!! 私もいい年こいてフラフラしている奴だけど、空虚な人生を埋める方法も大概知ってもいるけれど、そんなふうに人を傷つけるような真似を敢えてやろうとする大馬鹿者だけは、どんな理由があったってやっぱり好きにはなれないよ。“人間は孤島だ”って言い張るのなら、女なんかにもきれいさっぱり関わりを持たず本当に一人で生きてみろっての ! ……ま、そんな彼が後半どう変わってくるかってのがこの映画の見どころでもあるんだろうけど。
コメント :
この映画は、本国などでは“男性版ブリジット・ジョーンズ”という触れ込みで評判を取っていたようなのだが……そういえば私は【ブリジット・ジョーンズの日記】もあんまり好きじゃなかったんだっけ……。

タイトル・インデックスへ

【歩く、人】三星半

一言で言うと :
ピンク映画の脚本などを多く手掛け、自身でも【CLOSING TIME】【海賊版=BOOTLEG FILM】【殺し KOROSHI】等の監督作のある小林政広の最新監督作。北海道の増毛を舞台に、妻を失って二年になる初老の男(緒形拳)とその息子達(香川照之、林泰文)の関係を描く。
かなりよかったところ :
20代から30代に掛けての、そろそろ人生の方向性をはっきりさせなくてはならなくなる時期の逡巡と、人生の大きな山はあらかた越えてそろそろ老境に入りかけている時期の逡巡、これらの交錯を丁寧に綴っているのが興味深い。
ただ緒形拳さんの方は、老境といったって実は若い女性にしっかり懸想しているような役柄だったりして……うーん、いかにもそれっぽいかも。
その他のみどころ :
緒形さんの自作・自筆の、状況説明的な川柳のようなもの ? がところどころに入るのが面白い効果を上げていた。
BGMに、サン・サーンスの『動物たちの謝肉祭』のアレンジバージョンを使っていたのはなかなか斬新でよかったかもしれない。ただ、緒形さんが徘徊もどきの行動を取っていることを示す最初辺りのシーンで(実は女に会いに行っているのだが)“ライオンのテーマ”が何度もリピートで掛かっていたのは、ちょっとしつこかったかな。
緒形さんの話ばかり持ち出して申し訳ないのだが、やはりそれだけこの映画の中での存在感が大きかったということなのだろうと思う。御本人はこれだけの大御所であらせられるというのに、未だに予算の限られたインディーズ系の映画に出演することに何のためらいも見せない。この果敢な攻めの姿勢は本当に凄いと思う。
ちょっと惜しかったところ :
しかし中心に緒形さんを据えてしまうとなると、圧倒的に経験に乏しい他の役者さんとの落差を感じてしまう部分も、無きにしもあらずだったか。中堅どころの香川照之さんなんかは、さすがに安心して見ていられたけれども。
コメント :
小林政広監督の映画というと、妙なカッコつけがどうもいまいち私の好みには合わないという印象がずっとあったのだが、でも本作は、もっと地に足がついている感じがして好感が持てた。今まで観た監督の作品の中では一番好きだったかもしれない。

タイトル・インデックスへ

【イノセント・ボーイズ】三星半

一言で言うと :
31歳で亡くなったクリス・ファーマンの自伝的遺作で、14歳の少年の等身大の躓きと成長を瑞々しく描いた小説『放課後のギャング団』を、ジョディ・フォスターが自らのプロダクションで製作を務めて映画化。
かなりよかったところ :
酒、タバコ、時には度を越えた悪ふざけや悪戯、秘密を抱えた女の子……カトリックの学校に通う正に思春期の真っ只中の男の子達が、手探りで少しずつ現実なるものの感触を掴もうとしている姿を、非常に丁寧に追っているのが秀逸。一つ一つのエピソード自体はそれほど目新しいものでもないかもしれないが(でも中にはショッキングなものもあるけれど)、個々のエピソードをこれだけ丁寧に積み重ねていく作品となると、実はなかなかお目に掛かれないのではないだろうか。
主人公が自らの夢想を託している自作の漫画(当然アメコミ調)をアニメーションで表現して、ストーリーのあちこちにインサートしてあるのが面白い。例えば、主人公達の仮想敵である厳格すぎる尼さんの先生(これを演じているのがジョディ・フォスター)が彼の想像の世界では“nunzilla(尼ゴジラ)”となり、主人公達が変身したヒーローと戦ったりする。この想像と現実との対比が、映画の中で一定の効果を上げていると思う。
やはり、主人公を演じているエミール・ハーシュ君と、その親友役のキーラン・カルキン君のナイーヴな存在感があってこそ、お話に一定の説得力が出たのだと思う。キーラン君に較べてエミール君に華が無いのが不満だ、みたいな意見をどこかで読んだのだけれど、そりゃ違うんじゃないか ? 主人公は割と普通っぽくって、よりアウトサイダー的な男の子の方にもっと華がある、というバランスこそが妥当じゃないかと私は思うのだが。
その他のみどころ :
キーラン・カルキンという名前を聞いておやと思った方もいらっしゃるのでは……そう、かの【ホーム・アローン】の主役だったマコーレー・カルキン君の弟さんなのだそうです ! 更に、今号で紹介している【サイン】の子役のローリー・カルキン君ももっと下の弟さんなんだとか(全部で7人兄弟なんだって ! )。キーラン君には既に何本か出演作があり、繊細さを表現出来る若手俳優としてかなり注目されているという話。ちなみに、マコーレー君御本人は、先頃から舞台などで活動を再開しており、来年にはついに主演映画【Party Monster】が公開になる見込みなんだとか。ここいらで、世界一有名な子役となった後に苦難の道を歩くことになってしまったマコーレー君と、その兄弟達のリベンジ開始となりますか。
ちょっと惜しかったところ :
エピソードを丁寧に拾い上げ過ぎているせいか、上映時間が心持ち長く感じられてしまうような気がした。実際は2時間に満たない映画なんだけど。
コメント :
少年の成長云々というお話なんて、自分にとって基本的にはそれほどもの凄く興味をそそられるような分野ではないと思う。にも関わらず、本作は思ったよりずっといい出来だったので楽しんで観ることができた。良心的な仕事をしてますな、さすがはジョディ・フォスターが関わっているプロジェクトだけのことはある。
しかしその割には、あまりやる気を感じられない邦題の付け方といい、公開の仕方の方が中途半端で雑という印象が残ってしまった。どうにも勿体ない。

タイトル・インデックスへ

【命】四つ星

一言で言うと :
柳美里の自身の体験に基づく大ベストセラーを、【月とキャベツ】【はつ恋】他の篠原哲雄を監督に迎えて映画化。脚本は【39・刑法第三十九条】などで手腕の冴えを見せた大森寿美男。
個人的にニガテだったところ :
私は以前から柳美里さんのことはあまり好きじゃないと思っていたのだけれど、この映画を見て、その理由がかなりはっきり分かった気がした。「あなたは小説のネタにならないようなことはやりませんよ」というそのものずばりの科白があるのだが、自分が小説家であるというアイデンティティを保つために人生をわざと芝居がかったものにしている(下手するとそれを自分が成長しないことのエクスキューズにすら使っている)ような気が、昔からどうしてもしてしまっていたのだと思う。そして映画を見る限り、東由多加さんという方も、ある程度は似たようなところがある人だったのではないかと思えてしまったのだ。
すごくよかったところ :
しかし、たとえ誰かの生き方や考え方などが好きじゃないとしても、赤ちゃんが生まれるとか人が死ぬとかいったことの前には、そんなことは些末なことになってしまうのだなと思わせられた。そして、そういった人生の最重要事を前にして、彼女は彼女なりのやり方で自分の内側に抱えるものに向かい合って対処しようとしているのだろうなと信じさせてくれるだけの迫力が、この映画にはあったように思う。
主人公の二人を演じている江角マキコさんと豊川悦司さんの気迫の込もった演技には恐れ入る。特に豊川悦司さんの演技は、本当に東由多加さんが乗り移ったのではないかと思えるくらいに鬼気迫るものがあって凄まじかった。(しかし、江角さんってつくづく美人だなぁと映画中何回も思ってしまったのは、多分原作者の実物の顔と無意識のうちに見較べしまっていたからで……。)
この原作は、扱い方によっては私にとって見るに耐えないものになってしまっていた危険性を山のように孕んでいたのではないかと思う。この映画が評価に値するだけの作品になったのは、原作の良い部分をほぼ最良の形で引き出しているに違いない脚本や演出の力量によるところが非常に大きいと思われた。
コメント :
塩田明彦監督がSMAPの草なぎ君主演の映画を撮るとか(【黄泉がえり】)、瀬々敬久監督がGacktさん&Hydeさん主演の映画を撮るとか(【MOON CHILD】)、なんとあの平山秀幸監督が窪塚洋介君主演で【魔界転生】のリメイクを作るとか……。本作の篠原哲雄監督も含め、インディーズ出身というイメージの強い監督さんに、お茶の間でも名前を知られている芸能人を使うような比較的大きなプロジェクトを手掛けさせる傾向が、ここのところ特に強まってきている気がする。まぁスタジオ出身監督が幅を効かせる時代なんてとっくに終わってるゼとは思っていたのだが、それが具体的な形になりつつあるというのは、とりあえずは良いことなのだと解釈しておきたい。

タイトル・インデックスへ

【インソムニア】四つ星

一言で言うと :
驚愕の逆回転映画【メメント】で大きな注目を浴びたクリストファー・ノーラン監督の新作。1997年の同名のノルウェー映画(エーリク・ショルビャルグ監督)のハリウッド・リメイクにあたる。
過去の事件のきわどい捜査方法の内偵を受けていたロサンゼルスのベテラン刑事(アル・パチーノ)は、アラスカの小さな町で起きた少女殺人事件の捜査に派遣される。刑事は持ち前の捜査力で犯人を誘き出すことに成功するが、内偵の片棒を担ごうとしていた同僚を、濃霧の中、過って射殺してしまう。追及されるのを恐れるあまり、撃ったのは逃げおおせた犯人だったと偽証してしまった刑事だったが、慣れない白夜と罪の意識が重なって不眠症(insomnia)に陥ってしまう。そこにあろうことか犯人(ロビン・ウィリアムズ)から電話が掛かってきた。自分は刑事が同僚を撃ったところを見たのだと。……
すごくよかったところ :
軽飛行機が水色を帯びた氷河が延々と連なる上を飛んで行き、やがて山合いの入り江の奥に小さな町が見えてくる。白夜とはいっても完全な晴れ間にはならず、いつも薄曇りのくぐもった雰囲気のこの町で、全く隙の無い、息をもつかせぬサスペンスが推移する。カッ、カッコイー !! この演出はもう完っ璧で文句のつけようもありません。
アル・パチーノの演技は見ているだけもう幸せ。ロビン・ウィリアムズは、ここのところいわゆる“いい人”じゃない役柄ばかりを演じてタイプ・キャストからの脱却を図っているという噂だが、一見普通の人だけどどこかほのかに挙動不審の匂いのする犯人役を、やはりと言うべきかそれは見事に演じ切っていた。そしてもう一人の主要キャスト、地元の警察署の警官役のヒラリー・スワンク(【ボーイズ・ドント・クライ】他)も、まだ思うようなポジションにつけないけれど優秀で努力家でいい意味で野心のある(そして美人の ! )女性捜査官を、実に的確に演じてハマっていた。この理想的なキャスティングが、映画の完成度をより高めるために果たした役割は計り知れないだろう。
監督さんへの思い入れ度 : 75%
ちょっと惜しかったところ :
かように映画の出来栄えはどこをどう取っても完璧なのだけれども、しかし敢えて言うならば、【メメント】を観てしまった時みたいな、何か全く新しいものに遭遇してしまったような不隠さまでは感じ取れなかったかもしれない。
コメント :
まぁ、毎回毎回【メメント】みたいな作品を創るのも不可能だと思うので、今回は、本作がまだたったの三作目の筈のノーラン監督の驚異的な演出力を堪能させてもらえただけで満足としよう。さて、監督は今後はどのような作品を手掛けていくつもりなのやら……。
ちなみに私はノルウェー版の方は未見です。これは見較べてみたら面白そうなんですけども。

タイトル・インデックスへ

【歌え ! フィッシャーマン】四星半

一言で言うと :
ノルウェーの最北端にある小さな漁業の町ベルレヴォーグの、90年の歴史を誇る『ベルレヴォーグ男声合唱団』の姿を描くドキュメンタリー。
すごくよかったところ :
低音の響きが美しいハーモニー。この合唱自体、かなりレベルが高いとても見事なものだ。(あの車椅子に乗っている指揮者の方の腕が相当良いのだあろう。)ただ身を任せて聞いているだけで、文字通り心が洗われていくみたいだ。
合唱団のあるベルレヴォーグの人口は1200人くらいだそうだが、産業的には先細り、高齢化も進んできているように見受けられる(合唱団の平均年齢も60歳くらいだとか ! )。だからといって映画の中のこの町には、いかにも“過疎の町”といったようなわびしさや寂寥感はあまり感じられない。美しく清潔な町でこじんまりとした生活を静かに送る人々(ある人々は紆余曲折を経た後に、だけれども)は、皆、人生を真に豊かにするものが何なのかを知っているかのようだ。
個人的にスキだったところ :
合唱団がロシアの街までバスで演奏旅行に出掛ける下りがあるのだが、普段はいつも温和で楽しげな彼等が、ロシアとの国境を越えた途端に本気で怒り出し、大論争を繰り広げ始めるシーンが凄いと思った。彼等は一体どうして怒っていたのでしょう ? ……それは、共産党時代からの資源の収奪と無策のツケですっかり荒廃した森や大地の光景を目の当たりにしてしまったから。ベルレヴォーグの美しい風景と較べてみてもよく分かる。ノルウェーの人達の自然を愛する心というのが彼等のメンタリティの中にいかに深く滲み着いているのか、ということを一瞬見せてもらえた気がした。
あまりよくなかったところ :
映画の最初に日本語のテロップが出て、御丁寧に映画のみどころみたいなものを解説して下さる。日本側の配給会社の人がつけたのだろうが、はっきり言わせてもらおう。大きなお世話だってば ! その映画を見て何を感じるか、映画から何を受け取るかというのは、映画を見るそれぞれの人に委ねられるべきでしょう ? それって観客の感性を信頼していない証拠なんじゃないの ?
コメント :
(何度か書いているけれど)ノルウェーは私の心の故郷なのでぇ、お星様もちょっとくらいはおまけさせて戴いているかもしれない。まぁ、そこのところを除いたとしても、これは充分素敵な映画だと思いますから。

タイトル・インデックスへ

【金融破滅ニッポン 桃源郷の人々】四つ星

一言で言うと :
『ナニワ金融道』の作者で現在は主にエッセイストとして活動する青木雄二の原作小説を、三池崇史監督が映画化。
大手スーパーの倒産により連鎖倒産してしまった小さな印刷工場の社長(徳井優)は自殺を試みるが、ふとしたはずみで、河原にあるホームレスの集落の“村長”(哀川翔)や“助役”(佐野史郎)らと意気投合。皆で社長の夜逃げの相談をするうちに、村長が起死回生のアイディアを思い付き……。
すごくよかったところ :
技術大国ニッポンの産業を下支えしていると言われる、町工場の社長を中心に話が動いていくところがいかにも象徴的。不況にも負けずに必死で働いている庶民のファンタジー(皆で力を併せて一獲千金を狙うところとか、卑怯な金持ちの鼻を一瞬あかしてやるところとか)が、きちんと組み立てられて結実しているところが、お話として楽しめる。
青木雄二氏の漫画の核にある、シビアな世間の中で右往左往する庶民の喜怒哀楽みたいなものが、過度なエゲツなさだけをやんわり削ぎ落とした上品 ? な形で提示されているのがいいと思う。青木氏の作品のある種のエゲツなさは、勿論それ自体が魅力でもあるんだろうけど、一方では入っていきにくい印象を与える場合もあるかもしれないと思うから。そういえば三池監督って大阪出身だっだっけ ? 青木氏の作品と水が合ってる部分があるのかもしれない。
哀川さん、佐野さんの飄々とした演技もとてもいいけれど(佐野さんは久々にいい役 ! をもらいましたね)、この映画で出色なのは何と言っても徳井優さんだろう。正に庶民の悲哀が滲み出ているたたずまいが、もう抜群に素晴らしい ! ホームレス村のテントの中で「俺はアホやーっ !! 」って男泣きするシーンなんか、名シーン大賞を差し上げたいくらいだ。
監督さんへの思い入れ度 : うーん、なんか思い入れという感覚とは違っているような気がするが。
コメント :
日本映画に造旨の深いある映画評論家の方が、以前、某月刊誌に連載している自分のコラムを「“月刊三池崇史”」と評していたことがあった。そりゃ言いえて妙かもしれない。実は今週末にももう一本公開になるのだが、それって今年何本目になるんだっけ ? (多分、5~6本目くらい ? )……今更だけど、この人の頭の中身って一体どうなっているんだろう ?

タイトル・インデックスへ

【サイン】三星半

一言で言うと :
【シックス・センス】のM・ナイト・シャマラン監督の最新作。簡単に言えば、宇宙人が攻めてくる話です。
かなりよかったところ :
実際の舞台になるのは、ほとんどは主人公の家とその周辺のみ。宇宙人の存在の物証はちょこちょこ小出しで示されるけれど、主だった情報は基本的に、ほとんどテレビなどのメディアを通じてしか入って来ない。家族以外の人間との接触は少しだけ。家庭サイズに切り離された世界の中でのみ展開するお茶の間レベルの人類の危機というのは、一種異様な緊張感があって面白い切り口だ。
“街角の宇宙人”のビデオ映像は、何か知らないが得体の知れないものが映っているという感触が、ちょっと気持ち悪かった……。そして最後の30分は、この得体の知れないものを相手にする恐怖をうまく高めてあって、なかなか恐かったと思う。
あまりよくなかったところ :
しかし、それ以外の部分の映し方には、どちらかというと不満の方が大きかったかも……勿体つけた演出は相変わらずというか(それが作風みたいだからもうしょうがないのかな)、私とはどうも波長が合わないようで、何を言わんとしているのか見ていてピンとこない箇所も多いのだ。
特に、例の最後の30分に至るまでは、一向に恐怖感が盛り上がってこなかったのには困った。そもそも、彼等が何かに脅えているふうなのが全然釈然としなかったし。ましてや、テレビやラジオの情報なんて私ならそんなに簡単に鵜呑みに出来ないし、それと彼等の身の回りの怪異現象とを、こちらが預かり知らぬところで勝手に結び付けられてもねぇ。
個人的にニガテだったところ :
この映画の根底には、シャマラン監督が個人的に運命とか神様とかいったものをどう捉えるのかという話がどっかりと据えてあるように思われる……う~むそれでは、予兆とか符号とかを信じない無神論者の私めはカンペキにカヤの外だな。しかし、助かったら神様を信じて助からなかったら信じない、なんてことでいい訳なんですか ? よく知らないけど、そりゃ信仰ってものの本質とは何か違っているのでは ?
この内容なら、メル・ギブソンとかホアキン・フェニックスとかを使わないで、一説には1000万ドルという説もある法外な脚本料(!!)さえ取らなければ、実は【ブレア・ウイッチ・プロジェクト】に毛が生えたくらいの製作費で出来るのではあるまいか(宇宙人だって実際大して露出してないんだし、ミステリー・サークルなどはシーンの切り貼りや合成でいけそうだし)。これってずばり、大学生の卒業製作レベルのお話じゃないですか ? そこまで寄ってたかって褒めるべきものかなぁ ? (勿論、アメリカの映画大学の卒業製作がある程度レベルが高いことは前提にはしてますが。)確かにちょっと新しいアプローチの仕方のホラーだとは思うけど、それ以上のものだとは私にはどうしても思えなかったのだけれども。
コメント :
ホアキン・フェニックス君の存在が日本でももうちょっと知られるようになればそれでいい。私が個人的にこの映画に期待することは、本当はそれだけです !

タイトル・インデックスへ

【ザ・ロイヤル・テネンバウムズ】四つ星

一言で言うと :
【天才マックスの世界】(日本ではビデオの発売のみ)で高い評価を受けたウェス・アンダーソン監督&共同脚本のオーエン・ウィルソンのコンビが描く、ある歪んだ天才一家のクロニクル・コメディ。
長男のチャス(ベン・スティラー)は元天才少年実業家。養女のマーゴ(グウィネス・パルトロウ)は元天才少女劇作家。末っ子のリッチー(ルーク・ウィルソン)は元天才少年テニスプレイヤー。かつてはそれぞれに才能を発揮したテネンバウム家のきょうだい達だったが、彼等の不幸は、世界一自分勝手な男ロイヤル・テネンバウム(ジーン・ハックマン)を父に持っていたこと。それぞれ心に癒しがたい欠落感を抱えたきょうだい達は、やがて中途半端な大人になってしまう。一方、長年ロイヤルと別居していた妻エセル(アンジェリカ・ヒューストン)は会計士ヘンリー(ダニー・グローバー)との再婚を決意するが、折しも破産宣告を受けて寄る辺ない気分になっていたロイヤルは「自分はあと6週間の命だ」とつい出任せを口にしてしまう。ロイヤルの執事パゴダ(クマール・パラーナ)、マーゴの夫の精神科医レネイ(ビル・マーレー)、兄姉弟の幼なじみの隣人イーライ(オーエン・ウィルソン)をも巻き込んで久々に一堂に会することになった家族に、果たして再生は訪れるのか…… ?
すごくよかったところ :
これはまず何たって、この設定自体の抜群の面白さの勝利でしょう ! 天才きょうだいと常識外れに身勝手な父親 ? どんなアタマをしていればそんな無茶苦茶なシチュエーションを思いつくので ?
監督がこんな妙ちきりんな家族に語らせようとしているのは何なのか……私はズバリ、“大人になるって一体どういうこと ? ”なのかなと思った。この映画を観る限り、それは“ありのままの自分を認めて受け入れること”なのだろうか ? ただし、ありのままの自分にあんまりにも寛容で無比判でありすぎてしまって……ロイヤル氏みたいになってしまっても困るんだけど !
ロイヤル氏みたいな人物は、端目で見ている分には面白いけど、自分の近くにいたら心底嫌なことだろう(笑)。でもそれはテネンバウム家のきょうだい達も同様かもしれなかったりして(……実は似た者親子なのか ? )
ロイヤル氏とその子供達、子供達の母親とその婚約者、そしてその周辺の人達と、演じるのはいずれも当代一流の素晴らしい役者さんばかり。しかし何といっても中心をなすのはジーン・ハックマンの怪演でしょう ! 数多くの出演作の中でいつも超一級の演技を披露して下さっているジーン・ハックマンさんですが、本作もまた彼の代表作の一本になることは間違いありますまい。
ちょっと惜しかったところ :
本作にも勿論、一応ストーリーの流れはあるのだけれど、それに至る以前のセッティングの部分の方が圧倒的に多くを物語ってしまっているので……正直に言ってしまえば、予告編を見て期待した以上の面白さはあまり感じられなかったような気もするのだ。
コメント :
このウェス・アンダーソン&オーエン・ウィルソンのコンビの創り出す作品はあんまりにもオリジナルなので、今後どう転んだとしてもいわゆるハリウッド風の作風には染まらないような気がする。ということで本作は、とりあえずお試しという意味でも、一度は観てみて戴くことをお勧め致します。

タイトル・インデックスへ

【実録・安藤昇侠道<アウトロー>伝 烈火】四つ星

一言で言うと :
【荒ぶる魂たち】の武知鎮典脚本・三池崇史監督コンビによる、竹内力主演のヤクザ映画。
あまりよくなかったところ :
血気にはやり過ぎていて組織の枠に収まり切れないはぐれ者ヤクザの物語……って、そりゃ【荒ぶる魂…】と一緒じゃん ! 世間じゃそれをワンパターンと呼ばないか ?
かなりよかったところ :
……なので、そこのところをどうやって外していくかというのは、かなり意識的に工夫していたのじゃないかと思われた。基本的にはやはりハードなヤクザものながら、例えば、スーさんとタバタ君の殺し屋コンビ(美木良介、山口祥行)に多少コメディリリーフ的な役割を持たせてみたり(殺し屋を見ながら笑ってる場合じゃないのだが)、今までの三池作品から引用したセルフ・パロディ的なギャグを使ってみたりして、【荒ぶる…】よりは少し三の線の雰囲気に傾けてあるような気がした。
ラストも、このテの映画にしてはちょっと意外な展開になっていて、おや ? と思わせた。
何しろ、大物な俳優さんから無名の俳優さんまで、さまざまな俳優さんをがっぷりと組ませてお話を盛り立てているのが圧巻だった。特にかっこよかったのが、冒頭の丹波哲郎さんのナレーション。【カタクリ家の幸福】の時も思ったのだが、三池監督はこういった、もともと芸達者なタイプの俳優さんの上手さや味をより引き出す才に長けているのではあるまいか。
個人的にスキだったところ :
遠藤憲一さんが、竹内力さんの舎弟役として出ずっぱりの大活躍をしているのをたっぷり堪能できただけでも、私的には充分満足だ。
監督さんへの思い入れ度 : 先週書いた通りということで。
コメント :
Vシネとして観ればとても楽しめそう。勿論それ仕様に作ってあるのだろうけれど。

タイトル・インデックスへ

【SUPER 8】三つ星

一言で言うと :
旧ユーゴスラビア出身のエミール・クストリッツァ監督(【ジプシーのとき】【アンダーグラウンド】他)が、自身の率いるバンド“ノー・スモーキング・オーケストラ”のドキュメンタリー・フィルムを制作 !
かなりよかったところ :
このバンドが演奏するのは、今までのクストリッツァ監督の映画でもフィーチャーされてきたロマ(ジプシー)系・サウンドをベースにした音楽で、やはり監督のDNAにはこの手の音楽が染み込んでいるんだろうなぁということは納得できる。テクニック的にも超絶技巧 ! でバンドのレベルはかなり高い。バンドのファンなら楽しめること請け合いだろうし、こういったサウンドに馴染みがない人に音を紹介する意義はあるだろうと思われる。もし興味がある方があれば、ワールドミュージック系のコーナーに置いてあると思うので、まずはCDを聴いてみるというのはいかがでしょうか ?
ちょっと惜しかったところ :
映画の構成自体は、ステージでの演奏風景や、メンバーのプライベートでの素顔などの、音楽ドキュメンタリーによくある感じになっていると思われるので、クストリッツァ監督の作風がどうこうということを期待しすぎて観てしまうと肩透かしを喰らってしまうかもしれないし、音楽自体がどうしても馴染めないと処置なしかもしれない。
監督さんへの思い入れ度 : 監督さん自体に対しては、90%超なんだけど。
コメント :
ちなみに私は、ロマ系のサウンドは基本的には大好きなのですが、だからこそ少しばかり選り好みがあるかもしれなくて、もうちょーっとだけ泥くさくて地についた匂いがする方が好みかなぁなんて思ったり致しまして……微妙なところなんですが。

タイトル・インデックスへ

【ズーランダー】四つ星

一言で言うと :
【リアリティ・バイツ】などの監督経験を持ち、【メリーに首ったけ】【ミート・ザ・ペアレンツ】などで独得のコメディ・センスを見せるベン・スティラーが、ついに自らの持ちネタ“デレク・ズーランダー”を大々的に映画化 !
“3%の体脂肪率、1%の知能(3% body fat, 1% brain activity)”とのキャッチコピーを擁するデレク・ズーランダーとは……そう、男性スーパーモデルなんです !!
個人的にスキだったところ :
大体が、決して完全無欠なハンサム顔の範疇には入らないベン・スティラーが自分をスーパーモデルだって言い張って“キメ顔”なんて作っている時点で……もう私のツボには嵌まりまくり !! この上、【ザ・ロイヤル・テネンバウムズ】でも共演したオーエン・ウィルソンがなりきり演技でライバル・スーパーモデルを演じている日にゃあ……ああこの人達、バッカだーっ !!
【オースティン・パワーズ】よりはもうちょっと下ネタとかが少なくて上品で、理路整然としている感じかな ? 較べてしまうと破壊力には欠けているのかもしれないが、でも、(どんなにおバカでも)根は純でいい奴っていうズーランダーのキャラは、ベン・スティラーが演じる他の映画のキャラクターにも通じるところがあるのかもしれない。(そんなところが好きなのよね、きっと♪)
その他のみどころ :
謎のロシア人エージェントを演じるミラ・ジョヴォヴィッチの怪演は見逃せない !!
ミラさんはちゃんと役づきなんですが、ナタリー・ポートマンだのウィノナ・ライダーだのといった人々が大挙して出演して嬉々として御本人役を演っているのは一体どうゆうことなの !? 特にデヴィッド・ボウイさんが審判員として出演する“ウォーキング対決”のシーンは見逃せません !!
ズーランダーと親しくなる女性ジャーナリスト役のクリスティーン・テイラーさんという方は、実はベンちゃんの奥さんなのだそうです。
コメント :
あーもう可笑しかった !! 監督さんへの思い入れ度100% !! 私は今後、ベンちゃんのファンを公言することにしまーす !!
ということで、こればっかりは完っ璧に個人的な好みだと思いますので、星の数はあんまりあてにしないで下さいね。

タイトル・インデックスへ

【スパイキッズ2 失われた夢の島】四つ星

一言で言うと :
【デスペラード】のロバート・ロドリゲス監督の放つ【スパイ・キッズ】シリーズの第二弾。
かなりよかったところ :
秘密基地、秘密指令、秘密グッズに秘密武器、謎の生物達がのし歩く島に隠された謎の陰謀。練ったディテールの数々は、子供が見ても勿論楽しいと思うんだけど、大人が観たって、子供時代のノスタルジーがくすぐられまくること請け合い !
続編なので、説明的なシークエンスが不要になってますますテンポアップ。面白さのエッセンスだけがしっかりパワーアップして根を張ってるっていう感じがした。
その他のみどころ :
正式にスパイとして認定された子供達(アレクサ・ヴェガ、ダリル・サバラ)にライバル兄妹が登場 ! 彼等のやりとりの中に、結局、勝負は道具立てじゃなくてそれを使う人の資質で決まるのだというメッセージがさりげなく盛り込まれているようで面白い。しかし、彼等の中で一番冷静沈着で優秀なのは、実は一番年少のライバル妹だったりして……彼女を演じる子役はエミリー・オスメントちゃん。オスメントという名前でピンときた方はあなたは正しい。そう、かのハーレイ・ジョエル・オスメント君(【シックス・センス】他)の妹さんなのだそうです。
監督さんへの思い入れ度 : 60%くらいかなぁ。
ちょっと惜しかったところ :
ストーリーが単純明快なところとか徹底してオトナコドモ向け路線なところとかが気に入らない人達もいるらしいのだが……そういう人達はロドリゲス監督に一体何を期待しているので ? 本人が作りたければ大人向けの映画を作っても一向にかまわないんだけど、そうじゃなければ、そんな映画を無理無理作る必要なんてまーったく無いんじゃないのかな。
個人的に期待したいところ :
お話をますます子供達中心にシフトさせてるのは、全く正しいことだと思う。でももうちょーっとだけアントニオ・バンデラスを活躍させてもらえると、もっと嬉しいかもしれない。
コメント :
ロバート・ロドリゲス監督は、デビュー時から一貫してファイナル・カット(最終編集権)を保持し続けているハリウッドでは希有な人物。脚本・美術・音楽といまだに何にでも手をつけたがるところを見ると、まだまだ映画創りが心底面白くてたまらないらしい。子供の頃のワクワク感そのままに、このまま楽しく映画を創り続けていって欲しいものだなぁ、って前にも書いた気がするが。

タイトル・インデックスへ

【千年女優】三星半

一言で言うと :
【PERFECT BLUE】で海外でも高い評価を受けたという今敏監督の最新アニメーション映画。ちなみに本作もドリームワークスによる世界配給が決定しているとか。
30年前に表舞台から忽然と姿を消した幻の名女優・藤原千代子からようやく取材の許可を得た番組プロデューサーとカメラマンは、彼女の自宅へと向かう。やがて彼女の口から語られ始めたのは、彼女が終生追い続けた初恋の人の思い出だった……。
かなりよかったところ :
ロボットとか少年少女とか魔法使いとかいったマンガ的ステレオタイプキャラじゃなくて、女の人を主人公に描こうとするのは、アニメーションの主題としてはユニークなのではないかと思う。
原節子をモデルにしたような女優が演じた様々なキャラクターを、戦中・戦後の時代背景を織り込みながら綴っていき、彼女の個人史を浮かび上がらせる、といった発想は面白く、その描き方のクオリティは極めて高いと思われる。
ちょっと惜しかったところ :
でも基本的には、彼女がずっと初恋の人を追いかけるというワン・アイディアなので、私は途中からちょっと飽きてきてしまったかな。
個人的にニガテだったところ :
思えば【PERFECT BLUE】も女優を目指す女の子の話だったっけ。女の人を主人公にして描くとなると、対象を女優とかにしか設定できないのだろうか ? それって何かちょっと……偏ってません ? しかもこのオチ、女優とはそうした生き物だという意味なのかなぁ ? ちょっと唖然としてしまったのだが。
題名はどうやら“千年でも輝き続けられる女優”みたいな意味らしいのだが、私にはどうもしっくりこなかった。
コメント :
私は女優なる存在に幻想なんか抱けないタチなので、そこのところをテーマにされてもあんまり面白い訳がない。ということで、ちょっと辛めの評定になってしまったかもしれません。すいません。

タイトル・インデックスへ

【ディナーラッシュ】二星半

一言で言うと :
ニューヨークの超人気レストランの一夜を描いた物語。
オーナー(ダニー・アイエロ)の息子のシェフ(エドアルド・バレリーニ)の天才的な腕前のおかげで大繁盛しているイタリアン・レストラン。だが、店の経営権をなかなか譲ろうとしないオーナーに、シェフは不満を感じていた。一方、ギャンブル好きの副シェフ(カーク・アセヴェド)の借金の取り立てにやって来たギャング(マイク・マッグローン)は、店の利権も狙おうとオーナーに脅しを掛け始め……。
かなりよかったところ :
BGMにジャズなど多用したオシャレな雰囲気の中で、人生に起こり得る様々な出来事を一晩に凝縮させて展開させているところが見事、だとか言われているんだろうなぁ。まぁ料理自体はかろうじておいしそう……だったかしら ?
あまりよくなかったところ :
いきなりやってきて経営権寄こせとか言うギャングは何なんだ。で、何でそんなに無造作に人が死ぬんだよ。短い時間の中にいろんな要素を詰め込もう、っていう意図からそうなったのかどうかは知らないけれど、私には強引でわざとらし過ぎると感じられて、鼻についてしまった。
個人的にニガテだったところ :
ギャンブルも女も、厨房に持ち込むな ! 女といちゃついたり、経営の相談をしたりするのは仕事が終わってからにしろ ! そんなにしょっちゅう休憩ばっかり取ってんじゃない ! おまえら仕事しろ仕事 !
現実にはままあることかもしれないが、VIP客(有名料理評論家とか、有名画廊のオーナーとか、警察の有力者とか)だけを特別扱いする発想を、これだけあからさまに見せつけられると気分が悪い。
も一つついでに。そんなに自分の実力に自信があって、自分の思い通りに店を経営したけりゃ、自分で金を貯めて店を持て ! スネかじりの身でエバってみたってキマらないっちゅーの !
コメント :
これがニューヨークのオシャレなレストランってか ? 某誌の評価がエラく高かったのが理解できない。彼等とマジメさの基準が違うのはギリギリ、話の展開の都合や文化の違いとして解釈してあげるとしても、少なくとも私は、こんなに騒がしくて落ち着かないレストランなんかでメシなんて食いたくない。レストランを舞台にした映画なら、それだけで星を下げるには充分な理由になるでしょう ?

タイトル・インデックスへ

【ドニー・ダーコ】三つ星

一言で言うと :
サンダンス映画祭などで好評を博した、新鋭リチャード・ケリーの脚本・監督による一本。
1988年10月22日、ドニー・ダーコ(ジェイク・ギレンホール)は銀色のウサギに、世界の終末まであと28日6時間42分12秒だと告げられる。翌朝、ゴルフ場で目を覚まして帰宅したドニーは、夜中に飛行機のエンジンが落ちて自分の部屋が滅茶苦茶になっているのを目の当たりにする。その後、ドニーはウサギに導かれるままに破壊行為を繰り返す……。
かなりよかったところ :
ドニーが見ているのは現実か、それとも彼の破壊衝動が形作る妄想なのか ? 彼は常軌を逸しているのかもしれないし、誰よりもまともなのかもしれない。そんな彼を中心に据えて描かれる“終末的世界”のダークなトーンが独得だ。
銀色のウサギというけれど、等身大で二足歩行の、このシュールでねじくれたデザインの生き物をどうしてウサギと呼べるのやら ? こりゃウサギというよりエイリアンでしょう、とかツッ込んでみたくなるのも作者の狙い通りなんだろうけど。
その他のみどころ :
タイトル・ロールのドニー・ダーコを演じたジェイク・ギレンホール(【遠い空の向こうに】他)と、彼のガールフレンド役のジェナ・マローン(【海辺の家】他)は、個性的な役どころを演じる新進俳優として、今ハリウッドでかなり注目されているようだ。ジェナ・マローンの出演作【イノセント・ボーイズ】は今月中にも公開になるようだが、ジェイク・ギレンホールの出演した【The Good Girl】(ブラピの奥さんのジェニファー・アニストン主演/【チャック&バック】のマイク・ホワイト脚本)も、運がよければそのうち日本に来るかもしれない ?
脚本を読みプロデューサーを買って出て映画の完成に多大な貢献をしたというドリュー・バリモアや、インチキ教祖役のパトリック・スウェイジなど、この映画には意外なスターがちょっとした役で出演しているのだが、『ER』のカーター先生ことノア・ワイリーは最初ちょっと分かんなかったですねぇ。だって、実際の声って吹き替えの声よりかなり低いんだもん。
ちょっと惜しかったところ :
1988年がデュカキスと先代のブッシュが大統領戦を争っていた頃だとか言われても、その設定が示唆する時代の雰囲気なんて、アメリカ人以外の観客には多分、全然ピンと来ないのでは。
世界が終わるとか言ってる割には主人公は特に何をする訳でもなく(破壊行為に手を染めたりするのは以前からのことのようだし)、何だかどうも煮えきらない感じがするのだが。
でもって、こんなふうな形のオチ自体は、さほど珍しくはないように思われる。
個人的にニガテだったところ :
この監督さんの作ろうとしているものはニッチ(狭い隙間)に入り込み過ぎててどうも理解しがたいというのが、私の正直な感想だ。監督さんの中には作り出したいイメージの核はあるのかもしれないが、それを観客に伝えようという意志の方は果たして持っているのかな ? 勿体つけて必要以上にひねくり回して悦に入っている感じが、私にはどうもしてしまうのだが。
コメント :
新しい才能の出現をいつでも待ち望んでいるアメリカ映画界において(でもってその才能をあっという間に喰い潰してしまうのも得意なんだけど)、“才能”や“個性”の解釈の触れ幅を広く取る傾向があるのは結構なことなのだろう。がそれは時々、猫でも杓子でもとりあえず持ち上げてみる傾向があるというのと同意だったりしないだろうか。私としては、単なる“既定の要素の意外な順列組み合わせ”の実験を、そんなに簡単に“新しい個性”などとは呼びたくないのだけれど。

タイトル・インデックスへ

【ナビゲーター ある鉄道員の物語】四星半

一言で言うと :
イギリス映画界の至宝にして社会派と呼び慣わされるケン・ローチ監督の2001年の作品。1993年のイギリスで、鉄道の民営化政策に伴い環境の激変に晒され、苦難の道を歩くことになった鉄道員達の姿を描く。
すごくよかったところ :
現場のプロセスを顧みることなしに、書類の上だけで“合理的な”(=場合によっては無茶で血も涙も通わない)決定を行う人達。生活の糧を弱みに握られているから下の人間は逆うのが難しいという構造。効率優先主義が叫ばれる中、しばしば良心的な仕事をしようとすればするほど自分の首を絞めてしまうという矛盾。ここに描かれているのは、鉄道員の話というだけに留まらない、組織のもとで仕事をする全世界の人間に共通する悲哀なのではないだろうか。
物語のクライマックスで描かれているのは、自分の人生の基準をどこに置くことにするか、の選択に関わる命題に他なるまい。自分はそうはしたくはないと思ったとしても、彼等の行動を責めることが果たして誰に出来るだろうか。肝心なのは、彼等があのような行動を取らざるを得ない立場を強要されているということなのだ。
かなりよかったところ :
シリアスな内容なのだが観ていて決して辛気くさい雰囲気にはならず、むしろ、彼等の日常生活の中にあるユーモア感覚が、映画の中にごく自然に息づいているのが見て取れるのがよい。それが時にはより一層悲痛に感じられることもあるのだけれど……。
その他のみどころ :
本作の脚本を書いたロブ・ドーバーさんという方は、実際にイギリスの鉄道マンだったのだそうだ。残念ながら既にガンでお亡くなりになってしまったということですが。合掌。
監督さんへの思い入れ度 : 95%
コメント :
どこの世界もエラい人ってこんななんですかねー。あの社長のものの言い回しなんて、今働きに行っている会社の本社社長(外資系なので外国人)の一般社員向けの訓示メールの内容とどうにも似ていて笑えてしまった。ビジネススクールなんかで“一般社員をあしらう方法”とかがスタンダード化されて教えられていたりするんでしょうかねー。
日本全国のサラリーマン&サラリーウーマンの皆様に、今現在、何か映画を推薦するとするならば、私は是非この映画をお奨めしたいです。

タイトル・インデックスへ

【バイオハザード】四つ星

一言で言うと :
世界中で人気を博するカプコン社のゲームシリーズ『バイオハザード』がついに映画化 !
ラクーンシティに本社を置く大企業アンブレラ社が極秘で開発を手掛けていたのは、あらゆる生物を身体能力の高いゾンビへと変えてしまう生物兵器としての新種のウィルスだった。しかしそのウィルスが事故で流出してしまう……。
かなりよかったところ :
ゲームの『バイオハザード』(生物災厄、の意)は基本の案外設定がしっかりしているから、ストーリーに起こしてアクション映画にしても割とイケるかも、とは前々から思っていた。監督のポール・W・S・アンダーソン(【ブギーナイツ】【マグノリア】のポール・トーマス・アンダーソンと混ざってしまうからミドルネームをお忘れなきよう ! )はゲームの方の大ファンを自称しているそうだが、ちょっとした何気ないシーンにも随所にオリジナルに対する敬愛やこだわりが感じられるし、映画用の新しいストーリーも、設定を非常に深く読み込んである上で創造されているように見受けられるのが好感が持てたし、その上で本作を一本筋の通った近未来アクション映画に仕立て上げている手腕も、なかなかなものだと思った。
バイオハザードが起こって研究所員たちがゾンビになっていくシーンが敢えて描かれているのが興味深かった。ゲーム内ではゾンビの皆さんは最初から敵として容赦なく襲いかかってくるので、彼等がもともと人間だと分かってはいても、なかなか同情する気にはなれないものだから !
個人的にスキだったところ :
ヒロインのミラ・ジョヴォヴィッチも当然の如くよかったんだけど、特殊チームの隊員役のミシェル・ロドリゲスがカッコよかったっすねー。彼女はもともと【ガールファイト】(女の子がボクシングをする映画)で注目を集めた人だけど、その後も【ワイルドスピード】や今年の夏に公開になった【Blue Crush】(女の子がサーフィンをする映画)などで着々と独自の地歩を築きつつあるようだ。この際、このまま本格アクション女優街道まっしぐらでもいいんでないの ? それはそれで、今までに無かった形の時代のイコンになれそうな気がするのだが。
あまりよくなかったところ :
この映画の印象は一言で言って非常にクリアー。この明晰さは勿論良いところでもあるのだけれど、反面、オリジナルのゲームに特有のあの薄暗くておどろおどろしい空気感が欠落しているいうことでもあるのではないか。恐くて泣きながら無理無理やったあの薄気味悪さが欠如してしまったら、それはゲームの『バイオハザード』とは別物の何かとなってしまうのは間違いないだろう。
その他のみどころ :
ポール・W・S・アンダーソン監督ってマイナーな新人監督なのだとばかり思っていたのに、実は既に数本のキャリアがある人で、意外なことに今までの監督作はほとんど日本で公開されているようだ。【モータル・コンバット】やカート・ラッセル主演の【ソルジャー】なんかはちょっと知られていそうだが、中には私の大好きなローレンス・フィッシュバーン主演のSF【イベント・ホライゾン】なんて作品もあってびっくり。更に驚いたのは、監督デビュー作の【ショッピング】は何とジュード・ロウの映画デビュー作&ジュードが奥方のセイディ・フロストと出会った作品でもあったのだそうだ。ん ? バリバリのイギリス人のジュード・ロウの映画デビュー作 ? そう、なんとこの人、イギリス人だったのだ。なんとなくオタッキー系のアメリカ人だとばかり思っていたのに。
コメント :
この終わり方だと2が出来そうだなぁと思っていたら、やっぱり、来年の公開をめどに既に準備中みたいである。
ところでこのゲーム、海外では『RESIDENT EVIL』って名前で売ってるんですか ? (映画の英題がそうだったので。)初めて知った。

タイトル・インデックスへ

【ブレッド&ローズ】四星半

一言で言うと :
ケン・ローチ監督が【ナビゲーター】の前年の2000年に、初めてアメリカを舞台にして撮影した作品。
ロサンゼルスで暮らす姉のローサ(エルピディア・カリージョ)を頼ってメキシコから不法入国してきた妹のマヤ(ピラール・パディージャ)は、姉と同じ清掃会社での仕事を得る。が、その会社の労働条件は法律の基準すら満たしていないほど劣悪だった。労働組合運動家のサム(エイドリアン・ブロディ)と知り合いになったマヤはやがて組合運動に手を染めていくが、そんなマヤにローサは渋い表情を見せるのだった……。
すごくよかったところ :
“We want bread but roses too.”1912年にマサチューセッツ州で実際に起こった移民労働者の大規模デモの際のスローガンが本作の着想の基になっているのだという。本編ではサム君がこれに続ける-“We want all the beautiful things in life.”……“(パンだけでなく)人生を彩るあらゆる美しいものが必要だ。”このフレーズだけで私はもう泣けて泣けて仕方ない ! ムーンライダーズも「薔薇がなくちゃ生きていけない」と歌っているではありませんか(笑)。これは私自身の座右の銘の一つに近いものでもあるのだ。
マヤとローサの葛藤、または他の人達との交流や行き違いの描写が、この映画の表現を肉厚なものにしているのだろう。存在する一人一人の人間の姿に迫って誠実に捉えようとしているからこそ、この状況の中に潜む大きな問題がしっかりとあぶり出されて来るのではないだろうか。マヤはハラハラするくらい無鉄砲だったり、たまにオイオイと思うくらい世間知らずだったりもするけれど、逆にその純粋さが行動力の源でもあったりするんだろう。あぁ、若さのパワーってそういうことなのかなぁ。
その他のみどころ :
サム役のエイドリアン・ブロディは、今年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したロマン・ポランスキー監督の【戦場のピアニスト】で主役を努めているのだそうです。
マヤ達が働くビルのパーティのシーンで、ティム・ロス、ベニチオ・デル・トロ、ロン・パールマンといった方々が御本人役で出演しているのだそうですが……私はうっかり見逃してしまったぁ。
監督さんへの思い入れ度 : やはり95%で。
ちょっと惜しかったところ :
どうしても組合万歳 ! みたいな内容となってしまうので、抵抗を感じる人も中にはいるかもしれないが。
それぞれの人間がしっかり描けているからあまり気にならないのだけれど、ストーリーが割と予想したような展開そのままに進んでいくのが、図式的と言えないこともないかもしれない。よく考えると、正義はどこまでもかなり純粋に正義だし、悪役もあんまりにも悪役然としていて少々分かり易すぎるかもしれないし。やっぱりアメリカで撮っているから、ちょっとはそういった方向性におもねってるのかな ?
コメント :
“人は時給5ドル75セントで生きていけるか ? ”それを生きていけと強要することが、しばしば合理化やら雇用の流動化やらの正体だったりもするからなー。そんな用語を簡単に吐いちゃうことができる人々の言うことなんて、やたらと信用しちゃいけませんよー。

タイトル・インデックスへ

【まぼろし】四つ星

一言で言うと :
いつもの別荘でのいつものバカンスの途中、海で泳いでいたはずの夫(ブリュノ・クレメール)が突然姿を消してしまった。一人残された妻(シャーロット・ランプリング)は、夫の不在という事実をなかなか受け入れることが出来ない……。フランスで今一番注目されている若手監督(多分)、フランソワ・オゾンによる長編映画。
すごくよかったところ :
フランソワ・オゾン監督って確か30代やそこらのはずなんだが、なんでそんな若い身空で、そろそろ壮年期も終わりかけているようなヒロインの喪失感なんてものを描こうと思ったのだろう ? この人、歳を半分位にごまかしてるんじゃないの !?
オゾン監督は「シャーロット・ランプリングの皺の美しさを撮りたいと思った」と語ったとか。(だから、何でその歳でそんなものを撮りたいと思うのだ ? )かつて、50代の女性を主人公に据えて、決して枯れたお婆ちゃんなどにはなっていないその成熟した女性としての美しさを、これほど真正面から繊細に描き切った作品があっただろうか ? この作品、そしてこのヒロインを見事に演じきったシャーロット・ランプリングの姿は、必見 ! の部類に入ると思う。
個人的にスキだったところ :
ヒロインはいなくなってしまったはずの夫のリアルなまぼろしを何度も見るのだが、ガッチリとした大柄な体型のブリュノ・クレメールが、人生を謳歌しつついつまでも艶や色気を失わない典型的なフランス紳士、という匂いをしっかりとさせつつ夫役を演じているのがまたよろしいですね ! 彼女がどれほど夫を愛していたか、という部分に説得力が無ければ、お話そのものが死んでしまうかもしれないから。
その他のみどころ :
妻が夫の母を訪ねるシーンがあって、最初は二人とも当たり障りのない会話をしているのだが、別れ際には「養老院より精神病院に行くべきじゃないの ? 」「それはあなたの方でしょう ? 」って……こっ、こわーっ !! この嫁姑のやりとりに、オゾン監督らしい人間描写の容赦の無さが一番端的に表れていると思った。
監督さんへの思い入れ度 : 85%(作品によるけれど)
コメント :
かつて短編の旗手として名を馳せたというオゾン監督の切れ味を、やっと長編で見せてもらえたという感じがした。この調子で長編の傑作を次々とものして戴きたいものですなぁ。差し当たっては、多分今年の終わり頃に公開になる【8人の女たち】に期待したいです。

タイトル・インデックスへ

【メルシィ ! 人生】四つ星

一言で言うと :
【奇人たちの晩餐会】のフランシス・ヴェベール監督によるコメディ。
妻と子供にはとっくに逃げられ、職場でもあまりにも影の薄い経理部のピニョン(ダニエル・オートゥイユ)にリストラ話が持ち上がっていた。自分にすっかり嫌気が差して自殺を試みようとしたピニョンを制した隣家の老人(ミシェル・オーモン)は、ピニョンがゲイであるかのような写真を捏造してバラ撒くことを提案する。ピニョンの職場はコンドーム製造会社だったため、ゲイの人々から差別だと糾弾されることを恐れた社長(ジャン・ロシュフォール)らの決裁により、ピニョンのクビは撤回される。がそれは、ピニョンのゲイ説を疑う上司の女性(ミシェール・ラロック)や、今度はゲイ嫌いの君のクビが危ないと同僚(ティエリー・レルミット)に吹き込まれた人事部長(ジェラール・ドパルデュー)らを絡めてますます混迷していく事態の、ほんの序章に過ぎなかった……。
すごくよかったところ :
存在感が命の俳優さんにとって、影の薄い人間を演じるというのは究極的に難しいことなのではないのだろうか。しかしこれがまた滅法面白い。ダニエル・オートゥイユという方は本っっ当に大した俳優さんなのだなぁとつくづく感じ入る。
全編、とにかくキッチリ笑えてしまうというのはスゴいことだ。そうした笑いの中にも、社会的にどうしても苦しい立場に追い込まれてしまう人(この映画の場合は存在感皆無の主人公とか)がいかに自分らしさを取り戻して生きていくか、というテーマがさりげなく盛り込まれているのが素敵かもしれない。
コメント :
笑いの面白さを解説するというのは難しい、というか私にはその能力が足りていないような気がする。う~ん、どうもすみません。でもまぁとにかく掛け値なしに面白いですから、よっぽどマジメな人以外にはかなり幅広くお勧め出来るのではないかと思います。

タイトル・インデックスへ

【Returner<リターナー>】四つ星

一言で言うと :
【ジュブナイル】の山崎貴監督が手掛けたSFX巨編。
裏の世界の“奪還業者”のミヤモト(金城武)は、未来から来たと主張する少女ミリ(鈴木杏)に、彼女の仕事を手伝うことを無理矢理依頼される。ミリの使命は、後に地球を侵略することになる宇宙生物の最初の一匹を捜し出して殺すことだった。最初は半信半疑のミヤモトだったが、ミリの主張が次第に現実味を帯びてきたのに加え、幼なじみの仇の男・溝口(岸谷五朗)がその件に深く絡んでいることを知り……。
すごくよかったところ :
SFXは、観ていて違和感の無い非常に高いレベルを、ごく自然に達成しているように見える。本作は既に海外配給が決まっているいうことだが、少なくともこのレベルなら、他所に売ったって恥ずかしくはないんじゃないの ?
ハリウッドが映画にCGを多用し始めた頃、日本がその技術に追い付くのには何十年も掛かると言われていたと思うのだが、日本映画を巡るあんまり明るいとは言えない状況の中で、本作の山崎貴監督や【ピンポン】の曽利文彦監督やみたいな方が自然発生的に現れてきて頑張りを見せるというのは素晴らしいことであるように思われる。一方、そういった一部の人達の努力に寄り掛かりきりになってしまうのではなく(日本の映画界にはありがちなんだけど)、映画界全体で盛り立てていけるようになると理想的だと思うんだけどな。
SF自体としては内容に新味がある訳ではないのだけれど、そんなに革新性ばかりを追求しなくても、ウェルメイドなお話をキッチリ作り込んで見せていくという方向性も本作みたいな作品に関しては悪くないんじゃないかと思った。
金城君はまぁまぁ。岸谷さんはよかったけど【新・仁義の墓場】の時と演技が一緒だったという意見も聞こえてきたりして(私は未見なので分かりません、すみません)……しかし本編の主役をさらってしまったのは何と言っても鈴木杏さん ! この映画の筋立てにそれなりに説得力があったのは、彼女の驚異的な演技力に負うところが非常に大きいはずだ。クライマックスなんか、結構お決まりのシーンだというのに、あろうことかうるっときてしまったものー ! 彼女を観るだけでもこの映画、充分モトが取れますって !
ちょっと惜しかったところ :
ある部分は【ET】だったりある部分は【マトリックス】だったり……加速装置だなんて『サイボーグ009』だそりゃ ! 上でも少し触れたけど、やはりSF的な発想としてのオリジナリティに乏しいというのは、良い部分とは言えないと思う。
最後まで観てみると、ハードボイルドというよりは、やはり【ジュブナイル】の時みたいな藤子不二雄的少年少女向けSFの匂いを感じてしまった。まぁこれは既に監督の個性の一部でもあるのだろうから、良し悪しなのかもしれないが。
コメント :
鈴木杏さんは、(今でももう既に立派な女優さんですが)将来はもっともっとどえらい女優さんになることだろう。以前よりちょっとふっくらしたなんて言う人もいるのだけれど、無理なダイエットなんかは絶対したりしないで、10年後やそれ以降を見越して健やかに伸びやかに育っていって欲しいものです。万が一、拒食症とか過食症とかになっちゃうと後々大変なんだぞー(←経験者)。

タイトル・インデックスへ

【竜馬の妻とその夫と愛人】三星半

一言で言うと :
三谷幸喜脚本の舞台作品を市川準監督が映画化。主演は、【そろばんずく】以来16年ぶりの映画出演となる、とんねるずの木梨憲武。
坂本竜馬の13回忌。竜馬の元妻・おりょう(鈴木京香)の不品行な生活ぶりを聞きつけた元勤皇の志士達は、竜馬の名前に傷がつくことを恐れ、おりょうと縁続きの役人・覚兵衛(中井貴一)を監視のために送り込む。しかしおりょうは、気弱で風采の上がらない現在の夫・松兵衛(木梨憲武)を捨て、どこか竜馬に似た雰囲気を持つ男・虎蔵(江口洋介)と駆け落ちしようと企てていた……。
すごくよかったところ :
木梨憲武さんと中井貴一さんの、緩急自在をわきまえた演技は最高 !! この二人が絡んでいるところは、どこを切っても面白く観ることが出来た。
あまりよくなかったところ :
しかしよく見ていると、この二人が何らかの形で絡んでいる部分のみが面白い……んですよねぇ。
鈴木京香さんは、決してコメディが出来ない人って訳じゃないと思うんだけど、この映画ではどうもしっくりきていない。なぁんかマジメ過ぎるのだ。凛としたところはいいとしても、結構あちこちの男にふらふらとなびいてしまう役柄なんだから、もう少ぉし下卑だところとかが必要なのではないだろうか。この人は何をやってもどうしても上品になってしまうところが、見えざる限界なのかなぁという気が少ししてきてしまったのだが。でも、だったら例えば誰にこの役をやらせるのかと言われても……ちっとも思いつかないのが悲しいところなんだけど。
江口洋介さんは……う~ん、存在感自体は悪くない思うんだけど、木梨さんや中井さんの闊達さに較べると、どうも芸風がズブいのが目立ってしまうような気がしてしまって。いっそ、坂本竜馬を演じたトータス松本さんと役柄をひっくり返してみると面白かったのでは。江口さんの坂本竜馬……ウン、似合いそうじゃない。でもそうなると出番が少なくなってしまうのが、スポンサー的にNGになってしまうんだろうけどさぁ。
その他のみどころ :
この題名を聞くとどうしても、ピーター・グリーナウェイ監督の【コックと泥棒、その妻と愛人】を思い出してしまう。あぁ、あの頃はまだグリーナウェイ監督も好きだったんだけど。
コメント :
決して面白くない訳じゃないんだけど、コメディとしては中途半端になってしまったように思う。木梨・中井コンビが抜群に良かっただけに、かなり惜しいような気がした。

タイトル・インデックスへ

ご意見・ご感想はこちらまで


もとのページへもどる   もくじのページへもどる