Back Numbers : 映画ログ No.69



【あじまぁのウタ 上原知子・天上の歌声】四星半

俗に“神が宿る”と言うけれど、これはもう宿りまくりだって !! よく“歌姫”と言うけれど、上原知子さんはアジア一、いや、もしかしたら世界一の歌姫なのかもしれない。りんけんバンドはいつの間にこんなに凄いバンドになっていたのでしょう。いや、全く以ってうかつだったわ……。
ということでこの星の数は主にバンドそのものの凄さに捧げられるべきものだけれど、彼等の魅力を最大限に引き出すために、奇をてらったことはせずに真正面からぶつかってみた青山真治監督の正攻法の演出も、この際ちょっと褒めておこうかなと思う。

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【あずみ】三星半

上戸彩さんを始めとする若い役者さん達の上昇気運を汲み上げた、勢いのある作品になっているのは評価したい。オダギリジョーさんのハジケっぷりもなかなかよかった。
ただ、感情的なドラマの部分で今ひとつ盛り上がりに欠けるのは、やはり北村龍平監督の今後の課題なのでは。共に育った幼なじみ同士で斬り合いをさせられる(生き残った者だけが刺客になる)なんて、あまりにも過酷な彼等の運命を象徴するようなシーンでさえ気持ち的に全く迫ってこないのでは、どれだけカッコいいアクション・シーンを撮ったって効果も半減で、折角の努力が勿体ないじゃない。

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【アニマトリックス】四つ星

様々なアニメーション作家によって形作られる【マトリックス】のサイド・ストーリー。【マトリックス】が好きな人には、やはりこれも必見でしょう。監督を始めとして日本人アニメーターも多数参加しているところは、もっともっと注目してしかるべきなのでは。あぁ、やっぱり『ENTER THE MATRIX』もやっとかないとねー(1時間分くらいの独自映像があるという話なので……。)

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【アバウト・シュミット】四つ星

もっとハチャメチャな内容かと思いきや、長年大企業に勤めていたシュミットさんは、表面上には一応“常識”というリミッター掛っていたりする。だから割合地味だという印象を抱く人もいるのかもしれないが、でもだからこそ、ちょっとばかしズレかけている内面とのギャップが一層面白いのだ ! そうやって苦笑いをさせられつつ油断してしまっていた辺りで、何故か身につまされてほろりとさせられてしまうのがニクイ。
定年を迎えたおじさんの精神的危機なんて、若い人に受け入れられるテーマだとは思えない。だからもっと中高年向けにプロモーションしなくっちゃ !
やっぱりジャック・ニコルソンは稀代の名優。また代表作を増やしてしまった。

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【ALIVE】一星半

【あずみ】の時と違って、アクション・シーンが比較的少なくてストーリーで引っ張るという展開だったので、ドラマの描写が今ひとつという、北村龍平監督の欠点がもろに出てしまったみたい。特に中盤、非常にダレる。アクションに至るまでのプロセスの部分で食いつかせないと、アクションばかりが浮いてしまって観る側の気持ちはおいてけぼりなんじゃないの。やっぱり監督はその辺りを何とかしなくちゃしょうがないんじゃないのかなと思った。

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【永遠のマリア・カラス】三星半

生前のマリア・カラスと親交があったというフランコ・ゼフィレッリ監督には、彼女が主演する『カルメン』の映画を創ってみたかったという欲求が、きっとずっとどこかにあったのではないだろうか。で、最近のCG技術の進歩をもってしてモーション・キャプチャーで合成なんかしちゃったりすれば、恐ろしいことにそれは充分可能になってしまうときたもんだ。きっとハリウッドとかのプロデューサーの中には、監督に実際そんな話をもちかけた輩の一人や二人はいたんじゃなかろうか。で、監督ももしかしたら、1ミリくらいは心が動いたりしたんじゃないのだろうか。
でもそんなツクリモノのニセモノなんてあまりにも芸術上の道義に反している……という逡巡の結果が、もっとローテクな口パクという手法を使って、最初からあからさまにフィクションとして成立させたこの映画だったのだ、というのはあくまで私の勝手な想像なのだが。しかし、例え歌は口パクでカラスを演じるのがファニー・アルダン様であったとしても、この劇中劇の『カルメン』のシーンにはゾクゾクするほどの凄みがある。あぁ、オペラってこんなにカッコいいものだったっけ。観る側がそのことにチラとでも思いを馳せた瞬間に、ゼフィレッリ監督は所期の目的は充分果たせたのではないだろうか。

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【H story】一星半

【24時間の情事】? う~ん、この際、見ていてもあまり関係ないかも。これは、シネフィルの、シネフィルによる、シネフィルのための映画。で、シネフィルではない私は、この映画の意味について云々言ったり、評価を下したりする立場にはないのではないかと思う。というか私は、マジで気が遠くなって気絶しそうになりました。眠たくなるのじゃなくて。
あるいは、監督はベアトリス・ダルを撮ることができればそれで満足だったのだろうか。そういえば、女優さんをやたらと神話化したがるのも、シネフィルさんにありがちな傾向である。当然のことながら、私にはそういう趣味はまるっきり無いので、彼女ばかり長回しで延々と映されても思いっ切り退屈なだけだったんだけど……。

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【8Mile】四つ星

厳しい現実に揉まれながらラッパーとしての成功を夢見るデトロイトの白人低所得者層の若者、というのは、今まで青春ものとしてありそうで無かった切り口かも。ドラマの部分がかなりしっかりしているのは、さすがは【L.A.コンフィデンシャル】のカーティス・ハンソン監督。主役のエミネムも好演で、ミュージシャンを主人公に据えた映画としては出色の出来。
しかしあのラップ合戦って、お互いのくだらない悪口の言い合いっていうのが何とも不毛……。同じラップでも、何かもっと違うテーマで展開してみるって訳にはいかないのでしょうか。最後のエミネム君の開き直りは見事だったんだけどね。

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【X-MEN2】三星半

2まで見てしまうと、1を見ていた時にも実は感じていたらしい違和感がふつふつと……人間、どう変化したって目から光線が出たり皮膚が青くなったりはしないと思うの。では腕から糸が出たり壁に張り付いたりするのは可能なのか ? と言われても困ってしまうんだけど。
それにしても、ハル・ベリーが出世してしまったためにすっかり扱いが薄くなってしまった、本作のヒロインだったはずのファムケ・ヤンセンが気の毒で。最後はあんなことにまでなってしまうなんて何かもう……。

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【エデンより彼方に】四星半

「エデンより彼方に、輝く真実を求めて」というフレーズに、ああヤラレター !! と思った。私は画面の隅々までを綿密に計算し尽くして創ってあるような作品は基本的にはそんなに好みという訳ではないのだが、しかしここまできっちり“50年代”を作り込んであるのには恐れ入ったし、ましてや“50年代的主婦”の完膚なきまでの上品さと優美さを完璧に現出させてしまっているジュリアン・ムーアには本当に参ってしまった。(そんな荒技、地球上で一体何人の女優さんに出来るだろう ? この演技だけを取れば、【めぐりあう時間たち】のニコール・キッドマンよりぜーったい上だと私は思う。)
その総てが完璧に出来上がってしまっているアーティフィシャルな世界で表現しようとしているものは何なのかというと、そんなうわべの世界に惑わされないでものごとの本質に立ち向かって生きていくというのはどういうことかという……ああ、それって小学生の頃からの私の人生の根っこの根っこの大大大テーマじゃない。まさかこのような映画を観ていてそんな旧知のオトモダチと巡り会うとは思ってなかったぞ。自分が“ほんとう”と思うことを貫くことで周囲から孤立したマイノリティになってしまい(御自身がゲイであるトッド・ヘインズ監督のように ? )、そのためにどんなにリスクを払わされようと、そのやっかいなものを求め続けなくてはならないこともあるのだ。ヒロインが親密になった黒人の庭師の男性に言われるセリフ、「誇り高く生きて下さい」というのには、どんな口説き文句よりもグッと心に響いてしまった。何もかもが完璧。偉いぞヘインズ監督 !!

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【踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ】四つ星

ストーリーもキャラクターもいろんな仕掛けも前作よりも数段練られていて、エンターテイメントとしての完成度はうんと上がっているんじゃないのかなぁ。これは関係する総ての人々の努力の結晶であるに違いない。客席の反応からするとリピーターも続出で、こりゃあ製作サイドの思惑通りに大ヒットすることでしょう。最後の最後の有終の美ってことでパート3も出来るとみた。だって三部作にする方が切りも据わりもいいしねぇ。
個人的に好きじゃなかった部分を敢えて挙げるとすれば、いかにも現実ではありえないようなリアルじゃない描写がところどころ入ってしまうところ。それはフィクションの演出上では仕方ないんだろうと思ったけれど、でも沖田警視正のキャラクター造形だけは、見ながらかなりゲンナリしてしまった。う~ん、デキル女のイメージがステレオタイプで貧困すぎるんじゃないの ? 女は所詮、組織のトップに立てるような仕事は出来ないだなんて間違った認識が、全国のナイーブな青少年の皆様の潜在意識に植えつけられたら嫌だなぁ。

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【カクト】四つ星

きっとこの主人公は、この一晩の邂逅で成長した訳でもなんでもなく、ただ、自分がここに生きているという現実にちょっとばかり意識が向くようになっただけ。でもだからこそこの描写にはリアルさが感じられ、彼等の佇まいや、互いの距離感、その生々しさに目を見張らせられる。
伊勢谷友介君が末恐ろしいと思うのは、この映画に描かれているようなこの感覚を多分今しか切り取れないということを、おそらくは自覚しているからこそ今この題材でこの映画を撮った、というところだ。この人は5年後10年後、一体その目に何を見てどんな映画を創っているのだろうか。

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【神に選ばれし無敵の男】三つ星

最大の失敗は英語で作ったことなんじゃないだろうか。ダイアログが中学生の英作文みたいにシンプル過ぎて、陰影やニュアンスが全く感じられなかったのには、どうしてもいい点がつけられない。ナチズムが台頭する時代を背景にユダヤ人問題を絡めつつ、無垢さの中に宿る奇跡的な聖なる力というテーマを描くのは、ヴェルナー・ヘルツォーク監督らしいすこぶるドラマチックな展開になるはずだったのに……。

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【キリクと魔女】四つ星

正に、罪を憎んで人を憎まず。(あれ ? これ、フランスの映画だったわよねぇ。)今の時代だからこそ、このメッセージは大変真摯で重要であるに違いない。意表をついた結末にも驚いた ! 絵も端正で、計算された色遣いも大変カラフルで綺麗。総てに美しいアニメーション作品。夏休みに子供さんを連れて行くのにも最適なのでは。
しかしこの映画、ジブリが提供に協力しているということが知られているけど(日本語吹き替え版の監修は高畑勲監督がなさっています)、実は配給元はかの“キワモノ大王”アルバトロスだと知ってびっくり ! う~ん、何か騙されたような気が。違うか。ちなみに、私は【えびボクサー】は絶対見に行きません !

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【さよなら、クロ】四つ星

この映画でクロを演じたのは、ドッグ・トレーナーさんの実際の飼い犬で、名前も本当にクロと言うんだそうな。本作を創るにあたって誤算があったとすれば、クロがあんまりにも名演すぎたことなんじゃないかと思う……おかげで、様々な世代の生徒達とクロとの関わりの方をもっと観たいと思ってしまったので、妻夫木聡君を中心にした人間の側の物語がいきなり10年後に飛んでしまうのが、ちょっと物足りなく思えてしまったのだ……。
とはいえ、いかにも松岡錠司監督らしい、きめ細やかな叙情性に溢れた作品なのは間違いない。お勧めできる好編だと思いますです。

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【地獄甲子園】三つ星

なんか、こう来るから、こう笑ってね、といったような、定番のギャグのパロディのパロディみたいな、様式化されたパターンのようなものを感じる。まぁある種のお笑いというものにはそういう要素があるものなのかもしれないが、それに乗っかれば笑える、乗っかれなければ笑えないで、私は今回はそれほど笑うことが出来なかった。若い人にはこれが面白いんですかねぇ。あぁ何か、やっぱトシなのかなぁ……。

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【シティ・オブ・ゴッド】四つ星

道ならぬ道を行く人々の生理と病理と力学と悲哀を描いた映画は何も本作が初めてという訳ではないと思うが(日本にはヤクザ映画っちゅう確立されたジャンルがあることだし)、それをストリート・チルドレンや、ギャングスタの領域から掘り起こした作品は、今までにありそうでなかったんじゃないかと思う。ブラジルの熱く激しい陽性のリズムがよく似合う、圧倒的迫力の一本。

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【沙羅双樹】四つ星

呟くような台詞が時々非常に聞き取りにくいとか、バサラ祭りのシーンが(1チームしか踊っていないので)ちょっと寂しかったとか、シリアスな生瀬勝久さんを見ていると(演技がよければよいほど)どうも笑えてしまって仕方ないとか(キワモノっぽい番組にばかり出過ぎなんじゃないの ? )、細かなことを挙げればいくつか不満がない訳ではないのだが、まぁどれも映画の本質を揺るがせにするようなものではないに違いない。
きっとこの映画の一番の主役は奈良の旧市街そのもので、河瀨直美監督は、そこで連綿と紡がれ続ける人々の生の在り様そのものを映し撮ってみたかったのだろうなと思った。ドキュメンタリーに近い手法でフィクションを撮るという監督の長編映画で、本作が最も監督の生理に近いものが撮れたのではないかと予想する。監督のこれからの展開にすごく期待したくなってきた。

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【ジャンダラ】三星半

タイの国民的官能小説の映画化 !? といってもあんまりピンとこなかったけど、そーいや彼の地は、アジア一の歓楽街がある国だったっけ……。何だかこの亜熱帯系のドラマのねっとりと濃ゆい味付けにはクラクラしてしまった。

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【人生は、時々晴れ】四つ星

あらすじ自体を書いてしまうと大して面白くもなさそうな普通の人々の普通の生活の断片を、一瞬たりとも目を離すことが出来ないような濃密で劇的なドラマへと転化させてしまうのが、マイク・リー監督の真骨頂。本作は題名の通り“時々晴れ”なところが、監督の作品にしては救いがあって好きだった。
ところで、監督は前作の【Topsy-Turvy】の日本での公開が遅れていることにちょっと御立腹なさっている様子だ。この映画、日本には来ないのかなぁとか思っていたのだが、ある配給会社がもうとっくに権利を買っていたとは知らなかった。おーい、一体いつ公開する気なの ?

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【すてごろ】三つ星

『あしたのジョー』『巨人の星』『タイガーマスク』『空手バカ一代』といった作品が日本の大衆文化に未だに与え続けている影響の大きさを考えると、梶原一騎さんという作家は、もう少し大きく評価されてもいいのではないかという気がする。その作家のあまり評判のよろしくなかった生前の行状に、腕っぷし一本がモノを言う、といったような戦後の裏日本史の暴力の系譜のようなものを絡めて描くと、見応えのある作品になりそうな気もしたのだが……。(ちなみに“すてごろ”とは素手でのケンカといった意味らしい。)
この映画を製作しているのが梶原一騎さんの実弟である作家の真樹日佐夫さんだということもあるのかもしれないが、彼等の生きた軌跡を中立的な視点から描き出そうとしたというよりは、オレらはかっこよかったんだぞ、という身内の身贔屓的な見方がやはり中心になっていたように思われる。その分、作品として訴える力は弱くなってしまったようにも感じられるのが惜しかった。

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【スパイ・ゾルゲ】三星半

戦前の昭和通史をゾルゲ事件を切り口に解説しようという試みは、素晴らしい着眼点だったのだろうと思う。ゾルゲさんというスパイが実際にどういうことをやったのかということも、今回よく理解させて戴けたのはありがたかったし。(日本が北方進出にあまり興味が無いという情報がもたらされたからこそ、ソ連は軍を西の方に重点的に配備できたのだが、そうでなければソ連がナチスドイツの東進を食い止めることが出来なかったかもしれないし、そうすると第二次世界大戦の成り行きに大きな影響が出ていたかもしれない。)
でも、事実がいくら的確に切り分けられ、美しく整理されて提出されていたのだとしても、それはあくまでもお行儀のよい歴史学の論文にしかならないのではないだろうか。激動の時代を生きた人間の生々しい息づかいやドラマとしてのダイナミズムには欠けているような印象がどうもしてしまったのは残念かもしれないと思った。まぁそういう研究者肌っぽいところ自体が、篠田正治監督らしい特徴であったのかもしれないが。(長い間お疲れ様でした !! )

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【セクレタリー】四つ星

マギー・ギレンホール(【ムーンライト・マイル】のジェイク・ギレンホールの姉ちゃんだ ! )って、大変申し訳ないけれども、決してぱっと見で美人というタイプではない。で、決して美人とは言えない若い女優さんがある程度世間に名前を覚えてもらってサバイバっていくには、よっぽど個性的な映画に出て、自分のキャラクターと演技力をアピールしていくしかあるまい。時にはリスクを犯してだって……。
ある弁護士と秘書のSM的な関係を題材にしたこの映画は、一歩間違えば下世話な三流ポルノ並みの作品になってしまっていてもおかしくはなかったはずだ。これを、本人同士が納得してればどんな関係だって自由じゃないの、というソフィスティケイトされたちょっとアブナイ恋愛映画の域にまで持っていっているところが立派。隠された性癖に悩む弁護士のジェームズ・スペイダーも魅力的だったが、この秘書役で見事に賭けに勝ったマギー・ギレンホールの今後には大いに注目してみたい。
しかし、ワタシのいつもの苦言を一言だけ……君達、ホントにちゃんと仕事してんのか !?

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【ソラリス】三つ星

アンドレイ・タルコフスキー監督の稀代の名作【惑星ソラリス】にあって本作になかったものは何なのかしら ? と考えてみたのだが、それは“不可知なるものへの畏れ”の心だったんじゃないかと私は思った。本作だけを見てみればそれほど悪い出来のものでもないのかもしれなくても、人間性なるものの臨界をつきつけられずにはいられなかったかの作品と較べてしまうと(較べずにいるなんてどうしたって不可能だし)、本作はあまりにも、単なるラブ・ストーリーでしかない。ならば何もこの素材じゃなくてもよさそうなものじゃない。するに事欠いて、何でわざわざこんなものに手をつけてしまったんだ ? 自分達の才能が本物の巨匠の足元にも及ばない、ということを証明するためだったのか ?
どんな素材でも自分達で好き勝手に換骨奪胎していいなんて、その発想は、ハリウッドの他の拝金主義のおエライさん達と一体どう違うというのだ。いくらジェームズ・キャメロンの口車に乗せられたからといったって、ソダーバーグよ、お前もか、って感じで、個人的にはかなり脱力させられてしまった。

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【ダブル・ビジョン】三星半

東洋趣味をベースにしたミステリーという仕掛けは面白そうで、雰囲気は割と好きだったんだけど、ドラマに組み立てる構成力が弱くて中途半端に終わってしまった印象が。レオン・カーファイさん、久々にいい役やっててよかったんだけどなぁ。

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【チャーリーズ・エンジェル フルスロットル】三つ星

中身が無いというのは事前に聞いていたけれど、騒々しいのに只々疲れてしまったというのは、単に私がトシだっていう証拠なのかもしれないが……。キャメロン・ディアスのサービス精神旺盛なはしゃぎっぷりも、私はそろそろ、見ていてイタいんだけどもさ。

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【チャンピオン】四つ星

実話をベースにしていることもあるんだろうけれど、お話としては極めてオーソドックス。でもとにかく、人間としてはとても純でも戦う時には豹変するボクサーの主人公を演じたユ・オソンさんがすっごーーーくいい。漢(おとこ)気、なんて言葉を思い出したのは何年ぶりのことでしょう。これから先、もっともっと凄いスターになるに違いない彼を見ておくだけでも充分な価値があると思うので。

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【テープ】三つ星

こりゃあアメリカ版『藪の中』って感じかな……でも、ちょっとダメかな系のいい年こいたオニイサン達がうだうだ腹の探り合いをしている姿を見ても、あんまり興味が沸かないのには困ってしまった。途中でユマ・サーマンが颯爽と登場してきて、やっとちょっとほっとしたけれど。

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【テハンノで売春していてバラバラ殺人にあった女子高生、まだテハンノにいる】二星半

SFなんぞも取り混ぜたいろいろな要素のごった煮(寄せ集めとも言うかもしれない)をダークに味付け。韓国にもアングラってあるんだなーっていうのはある種の発見だったかもしれないけれど、あのおっさんの気持ち悪さもあまり理解できなかったし(それこそアングラ劇団の役者さんか何かなのだろうか ? )、タイトルロールとエンドロールばかり長すぎて雰囲気で押し切ってる感が否めないのが、私にはかったるかった。好きな人にはそういうところがいいのかもしれないけれど。

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【デブラ・ウィンガーを探して】四星半

私は長い間、ロザンナ・アークエットさんという方がどうも好きではなかったのだが、それがどうしてなのかやっと少し分かった気がした。俳優一家に生まれた彼女は、多分小さな頃から、クリエイティブな人間であらねばならないという強迫観念に近い感情があり、それが彼女自身の自意識を必要以上に誇張させていたんじゃないだろうか。そして彼女がこの映画を撮ろうと思った動機も、そうした自意識の延長線上にあったんじゃないかと思う。
で、映画を観終わってそんな彼女を少しは好きになったかというと……あんまりそんなことはないんだけど、それでもなお、この映画に撮られてしまったたくさんの女優さん達のインタビューは、同じ女優としての立場からしか導き出され得ないような特別なアングルからの鋭い視点が満載され、あんまりにも面白過ぎると思った。
女優という仕事にしか通用しないような独特の見解もあれば、働く女性一般に共通するような悩みもある。私が特に気に入ったのは、アルフレ・ウッダードさんの父親が彼女に言ったという「働く(立場にある)女性は働くべきだ。女性は社会の調整役なのだから。」という言葉(その通りかも、こりゃ鋭い ! )と、女性が社会の中でステレオタイプの役割に当てはめられてしまっていることをさっくりと混ぜっ返したウーピー・ゴールドバーグ様のキワどいユーモアである。(余談ですが、私の“うーぴー”という名前は特に彼女から戴いたものという訳ではありません。すごく尊敬はしてますけどね。)
何かね、私はこれから先どんどんオバサンになる訳なんですけれども、慌てず騒がず、“じゃあ本物のオバサンは本当は一体何を考えているのか”ということを素直にどんどん形にしていけばいーんだわ、と思えてきて、それで何だか凄く元気が出てきてしまったのです。(実は最近、このホームページの方向性なんかも、少し迷っていたりしていたところもあったので。)人間、どこに解答が転がっているかなんて分からないもんですよね。いや、面白いなぁ。

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【トーク・トゥ・ハー】四つ星

この映画を“オッシャレ~な恋愛映画”みたいにして宣伝している配給会社のギャガの担当の人に、私は文句を言いたい。あの的外れな予告編は一体何なのよ ? ラブラブカップルがデートに観に来て興醒めしたらどうすんの。これは愛の映画じゃなくて、孤独についての映画でしょ。私みたいなカナシイ人間が一人で観に来てさめざめと泣くための映画だっつーの。
大体がこの映画では、女の人達はどこまでも崇拝の対象物でしかなく、主人公はあくまであのオッサン二人で、彼等の心の動きが一番メインに描かれているのである。介護士の方のオッサンがやったかもしれないこと(はっきりと描かれている訳ではないのがこの映画の優美さだと思う。だってコトの真相や犯人探しがメインテーマじゃないもんね。)は何がどう転んだって許されることではないとは思うけれど、その行為自体がどれだけ罰せられたって、誰が彼の孤独まで断罪できるだろう ?
観終わった瞬間の第一印象は、正直言ってずし~んと暗かった。でも後でこの映画のイメージを思い返す度に、ほろほろと泣けてきてしまう。美しいなぁ。アルモドバル監督の映画がこんなに詩的でいいんだろうか。

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【NARC<ナーク>】四つ星

“NARC”というのは、犯罪組織の一員に成り済まして潜入捜査する警察官のことなんだそう。犯人の予測は途中でついたけど、息をもつかせぬどんでん返しの連続で、ことの真相は意外なところに帰着していった。警察官として生まれついて、真実に追いすがらずにはいられない男のサガが胸を締め付ける。これは拾いものの一本 !!

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【ナイン・ソウルズ】四つ星

千原浩史さんと鬼丸さんのキャラがちょいかぶっていたような気がするのだけがちょっとだけ気になったかな。(無論、お二人とも充分カッコよかったんですが。)でも9人の脱走犯達の道行きは、どこにも行き場のない男達のドン詰まりの切なさをこれでもかと見せつけてくれて目が離せません。上記のお二人に加えて、KEEさん、板尾創路さん、マメ山田さん、鈴木卓爾さん、大楽源太さん、そして松田龍平さんに極めつけの原田芳雄さん、あぁみんなよかった ! 豊田利晃監督の初期の集大成と呼ぶのに相応しい一本ですね。
松田君が持たされた透明な鍵は、オノ・ヨーコさんの『Glass Keys to Open the Skies』というガラスで出来た鍵の作品を連想した。大好きな作品なので、豊田監督もそこからインスパイアされていたのならかなり嬉しいんだけど、実際はどうなんでしょう ?

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【茄子 アンダルシアの夏】三星半

以前『ろばみみ』のコーナーの方でも書いてたんですが、あぁついに、黒田硫黄さん原作のアニメーションなんてものが公開されてしまうんですか……凄い時代になったものだ。
という訳で、私はとにかく原作の漫画の大ファンなので、本作に関しては“まぁちゃんと作ってあるなー(タイトルにちゃんと『茄子』ってつけてて律儀だなー)”という以上の感慨は抱きにくいかもしれないです。御了承下さい。
でも『茄子』シリーズなどは短編でストーリーラインがはっきりしているものが多いから、お話としては作り易いかもしれないですよね。(あまりに独特な原作の味がどこまで出るのか、そもそも出すつもりでやるのか ? といった辺りが大問題になるとは思いますが。)誰か『大日本天狗党絵詞』を映画化するようなムボーな人がいたら凄いと思うんだけど。

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【二重スパイ】三星半

【シュリ】のハン・ソッキュさんの久々の主演作。かっちり作ってあるところには好感が持てたけれど、二重スパイであることを余儀なくされた主人公の気持ちの変遷みたいなものは今ひとつ伝わって来にくくて、その分、私には哀感が感じられにくかったかも。

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【バトル・ロワイアルII 鎮魂歌<レクイエム>】三星半

わー凄い。この御時勢にテロリズムを真正面から擁護するような内容の作品を創って、よく上映禁止にならんかったねぇ。相変わらず人が虫ケラみたいにばんばん死んでいく展開にはやはり好き嫌いははっきり分かれると思うし、殺す側と殺される側の立場を巡る考察というのも、頑張ってはいるんだけどまだ充分とは言い難い。何より、はっきり言えば演出がまだ充分にこなれきれていないせいなのかもしれないが、言いたいことはよく分かるけれど青臭くてゴリゴリした印象が残ってしまうような場面もところどころにあった。それでも、この企画に誰よりもこだわったという深作欣二監督の遺志を継ぎ、きっと死ぬ気で完成に漕ぎ着けたに違いない深作健太監督のチャレンジングな姿勢は評価したいと思った。

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【ハリウッド★ホンコン】二星半

う~ん、あの異様に太ってるということ自体が、何かを象徴していたりするんでしょうか……。あの女の子も、やることなすこと、ちっとも可愛いと思えなかったしなぁ……。何か、私にはよく分からない、ひたすらキモチワルイ映画だったです。この映画の意味するところが分かるという方は、是非御教授下さいませ。取り敢えず、フルーツ・チャン監督の映画をわざわざ見に行くのは、個人的にそろそろ打ち止めにしようかなぁ。

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【ハルク】二つ星

まずはこの、主人公のハルクのCGがまるっきりコミカルでマンガチックで、周りの実景からすっかり浮き上がって見えてしまうのが戴けない。一応これ、わざわざ実写版として撮っているということは、もっとリアルに見えなくちゃお話にならないんじゃないのかなぁ。これがかの、天下のILMさんのお仕事なのでしょうか……信じられない。
でもって、かの【スパイダーマン】なんかと引き比べてよくよく考えてみたんだけど、アメリカン・コミックにおけるシリアスさというのは、文芸作品におけるシリアスさとは根本的に違っているんじゃないのだろうか。どれだけダークでシビアなテーマを扱っているように見えたって、やはりコミックスというのは基本的にポジティブなアミューズメントなのであって、そこにはある種の乾いたユーモア感覚のようなものがどうしたって必要なのでは。アン・リー監督は、根がマジメでまとも過ぎる上に、アメリカン・コミックが日常的に氾濫しているような土壌で育った訳ではないから、その辺りの文化の違いを皮膚感覚で理解した上でこの作品に手を染めるまでには至らなかったのではないのだろうか。監督が心血を注いでこの映画を作ったのだろうなと思えば思うほど、私はいたたまれなく思えてきて仕方なかったのでした……。

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【春の惑い】三星半

田荘荘監督の【盗馬賊】や【青い凧】は大変好きな作品なんだけれど……。端正で丁寧な作りはとても美しくても、そんなに好きでもない人と結婚しといて昔の人に未練タラタラ、というこの潔くない奥さんに、個人的にちっとも感情移入できなかったのは痛い。戦前の名作のリメイクともなると、やっぱりちょっと時代が違いすぎるわよねー、と思った。

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【パンチドランク・ラブ】四つ星

そういえば前作の【マグノリア】では、山ほどのカエルが空から降ってくるシーンが物議を醸しましたっけ……P・T・アンダーソン監督の作品世界のキーワードって実は“不条理”だったのね。でもってこの作品は、2時間半を越えるのもアタリマエという監督の映画にしては思いっきり短い(約1時間半)もんで、説明なんてすっ飛ばし=行間は自分で読んでね感がますます炸裂しております。そこんところを想像力で補うという作りに馴染めるかどうかが、この映画の好き嫌いの分かれ目になると思うんですが。
しかし、今回どこかのインタビューで、監督は【ぼくの伯父さん】のジャック・タチが好きで、そういうトーンを目指しているんだとか発言しているのを読んでしまった……そ、そこでしたか ! 私、ジャック・タチって実はイマイチ苦手なんだよね。その方向性、個人的にはあんまり追求しすぎないで欲しいんだけどなぁ……。

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【氷海の伝説】四つ星

徹頭徹尾、イヌイットの人々の伝統的な世界観だけで作られた映画というのはもしかして世界初 ? (これは現在の彼等の姿とは少し違っていることは、エンディングロールで流れるメイキング映像を見れば分かるが。)もう一面、180度ぐるりの視界に人工の建造物が全然見当たらない雪原というだけで、なんか凄い説得力が。ここで繰り広げられる神話的世界の力強さは、一見の価値があるでしょう。

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【BULLY<ブリー>】四つ星

いきあたりばったりで人を殺していきあたりばったりで罪をなすりつけ合うこのヴァカモノ(若者)達ってば、即物的すぎて頭悪すぎる。実際にこういうのが(国を問わず)行くところに行けばゴロゴロしているのかもしれないと思うと、心底心寒くなる。ラリー・クラーク監督の映画に今まで食指が動かなかったのはそういうところだったんじゃないかと思うが、それはそういうものとしてきっちり描くことができるというのは、やはり凄いことなのではないだろうか。

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【フリーダ】五つ星

先日、渋谷での上映館のある東急文化村で開催されている『フリーダ・カーロとその時代』展を観に行ってきたのだが、同時代のメキシコで制作活動をしていた他の女性アーティスト達の作品と較べても、彼女の絵には抜きん出た意思の強さが感じられるところが印象的だった。天から降って湧いたようなあらゆる苦悩と真正面から戦いながらその一生を駆け抜けたフリーダ・カーロの姿を、スクリーンの中に見ている間、私は、サルマ・ハエックという女優さんが彼女を演じているのだということをすっかり忘れてしまっていた。
フリーダ・カーロが特に好きで詳しいという人の中には、話がサクサク進みすぎるきらいがあるのが物足りないと感じるような向きも、もしかしたらあるかもしれない。でも私は、正に波乱万丈と言える彼女の人生を、よくぞここまでしっかりとまとめあげたものだと思った。この映画にマイナスポイントをつける理由が、私には見当たらなかった。
画家の伝記映画では、画面に登場してくる画家の絵に動きが無く、下手するとそこだけ浮いて見えてしまうことがままあるのだが、この映画では、フリーダ・カーロのそれぞれの時代の代表作が画面の中でしっかり息づいて、それぞれ重要な意味を帯びているように見えた。『ライオン・キング』の舞台で有名なジュリー・テイモア監督の卓越した視覚的センスが、この映画でこそ十二分に発揮されているように思われてお見事 ! だった。
本作のプロデュースも手掛けているサルマ・ハエックの、的確かつ熱意に溢れた仕事ぶりには本当に感銘を受けた。恐れ入りました。彼女がこれから自ら監督するという映画にも、是非期待してみたいと思います(日本に来るかどうかは分からないけど……)。

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【ぷりてぃ・ウーマン】四つ星

お話がベタすぎる、という意見を言う人もあったようだけれど、こういうのは分かり易すぎるくらいの定番の筋立てで正解なんじゃないかと私は思う。背筋をしゃんと伸ばして生きてきたおばあちゃんたちの姿の美しさは、淡路恵子さんを始めとする女優さん達の年輪を経た美しさがそのまんま滲み出ているものなのだろう。元気がよくて気持ちのいいところが私は好きだ。やる気があるんだかないんだか分かんない市役所職員役の市川実日子さんの怪演にも注目。

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【ブルークラッシュ】二星半

どんな道であれ、ある程度の実力があるのなら、自分の腕がどの辺りなのかということくらい分かりそうなもんでしょう。優勝するとか大口を叩きながら、努力は中途半端に放棄してフラフラしておいて、いざ本番になったら「周りは一流プロばっかり、私なんて……」とか言って焦るなんて一体なんのこっちゃねん。話が行き当たりばったり過ぎていい加減すぎるってば !!
売り物のサーフィンのシーンも、何だかカットが細切れになっていて、燃焼不足感ばかりが残ってしまった。これなら、【ガイア・シンフォニー】(第四章)でも観た方がずっと堪能できそうな気がするのだが。
あとのみどころはミシェル・ロドリゲスさんかな(【ガールファイト】以来、結構ファン)。彼女は、割と注目されている作品に出ちゃぁいい役をもらっているわよね。

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【ベアーズ・キス】三星半

孤独な少女だけを見つめて育った熊さんは、いつしか人間になって彼女と愛し合うようになり……すごくロマンティックでファンタスティックなストーリーだと思うんだけど、これがこうしてこうなりました、という事実関係の説明に終始して、それ以上に詩情が拡がっていかないのは一体どうした訳なんだろう。やっぱり英語で作っている(=ダイアローグが紋切型で陰影が感じられない)のが原因の一つなのかなぁ。
でも、孤独なサーカスの少女を演じたレベッカ・リリエベリ(【ショー・ミー・ラヴ】の彼女がこんなにきれいになりましたか ! )と、時々人になる熊さん(いかにもふかふかであったかそう)を演じたセルゲイ・ボドロフ・Jr.は、とてもよかったです。なのに……ボドロフ・Jr.さんは、なんと先年、御自身の監督作の撮影準備中に氷河崩落事故に巻き込まれて亡くなってしまわれたのだとか……将来有望な大変な逸材が失われてしまったことが惜しまれてならないのも勿論ですが、お父様であるセルゲイ・ボドロフ監督の御心痛は察するにあまりあります……。謹んで御冥福をお祈り申し上げたいと思います。

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【BORDER LINE】四つ星

複数の人間の人生の断片が少しずつ交錯するという構成も、それぞれのエピソード自体も、それほど目新しいものではないかもしれないけれど、いわばそんなありふれた物語を、まるでその場で見ているみたいな生々しい“現場”へとメタモルフォーゼさせてしまう李相日(り・さんいる)監督の演出力には度肝を抜かれてしまった。う~ん、本当にまだ長編第二作目の新人なんですか ? 凄すぎる。次回は是非この手腕を以ってして、それこそ誰もが度肝を抜くようなすんごいドラマを演出してみて戴きたいものです。

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【ホーリー・スモーク】三星半

ジェーン・カンピオン監督の作品って、そういえばドラマ自体は案外どれもダラダラしてたかもしれないよなぁと思い出す。某カルト宗教団体の事件を経験した日本人は、“脱洗脳”という素材にはセンシティブにならざるを得ないので、この能天気な扱い方にはずっこけてしまうんだけど。
が、この映画はあくまでもラブ・ストーリーなのだ ! そう考えれば、若い女(ケイト・ウィンスレットの豊満さの生々しい説得力ってば……)に狂って砂漠をよたよた走る、赤いドレスのハーヴェイ・カイテルのナサケナい姿も理解出来ようというもの。風変わりではあっても、これはこれでいかにもジェーン・カンピオンらしいユーモアと奇妙さと切実さが同居した、ファンの人には必見の作品かもしれない。少なくとも【ある貴婦人の肖像】よりは数段面白いと個人的には思うんだけど。

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【ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール】三つ星

女優である妻に嫉妬する夫、というコンセプトのみでほとんど全編引っ張ってしまうので、特に後半になってくると、正直言ってちょっと単調で飽きてきてしまった。それでも、かつてないほどリラックスしたシャルロット・ゲンズブールの、今まで見たことのないような魅力的な表情をたっぷり引き出しているのが、この映画のいいところ。さすがはイヴァン・アタル様、伊達に実の旦那じゃないですね。

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【ホテル・ハイビスカス】四つ星

中江裕司監督の映画は、静かでゆったりとしたテンポが私には少し馴染みにくく感じられてしまうので、元気な子供を主人公にするというのは正解だったんじゃないかなと思った。ただ、オムニバス形式にしない方が個人的にはもっと好みだったかもしれないけれど。
台詞が時々聞き取りにくいところは少し難だけど、魅力的な登場人物達の織り成す世界には、ずっと浸っていたいような豊かさがあった。特に、お母さんのヒモみたいな生活をしているし、頭はカツラだけど、肝心な時は必ず助けてくれるお父さんが最高にカッコよかった ! 監督の今までの作品の中では、私は本作が一番好きかもしれない。

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【マイ・ビッグ・ファット・ウェディング】四つ星

おせっかいでやかましいギリシャ系大家族(イトコもハトコもおじさんもおばさんも、その友達の友達だってみ~んな家族という世界)の、明るく賑やかな結婚騒動……う~ん、わたくし、強固な家父長制を中心にした大家族制ってものや、思いやりという美化された名前を持つ過剰な干渉にあんまりいい記憶がないんで、ホントは内心、笑ってばかりはいられませんが。でもこの場合、みんな陽気で善良で表裏がなくて、お互いにちゃんと愛し合ってるから(あんまり)問題ないんでしょう。まぁ楽しいからいいってことにしておくか。

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【マトリックス・リローデッド】五つ星

前作であれほど成功したウォシャウスキー兄弟が、どう転んでもある程度の利益は保証されている本作で思いっきりシュミに走ったとしたって、一体誰に文句が言えるだろう ? 究極のオタク映画でいいじゃない。それよりも、観る側の知性と感性を信頼して一回りバージョンアップした仕掛けを真正面からぶつけてきた監督達の誠意に、私は敬意を表したい。
ルーティンの中からは未来永劫同じものしか生まれない。創造性や革新は常に異常なもの(anomaly)の中からやって来る。てぇことはつまり……次回の【…レボリューションズ】(=“革命” !! )では一体どういう展開になるのだ ? “特殊な存在”であるらしいネオの果たす役目とは ? そして機械と人間の関係の行き着く先は ? あぁ冬が待ちきれないっ !!

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【マニトの靴】二星半

そもそもどうして西部劇なのにドイツ語なの ? 前に見た【キラー・コンドーム】って映画を思い出してしまったな……ドイツの人におけるC調の回路ってやっぱりよく分からない。でも不思議に後を引く魅力がどこかにあるような気がしなくもない、ヘンな映画であった。

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【ミニミニ大作戦】四つ星

エドワード・ノートンが悪役でマーク・ウォールバーグが主役ぅ !? おいおい逆だろうと思ったんだけど、実際見てみるとこれが正解。逆のパターンを想像してみて下さい、悪役に深みがない映画なんて薄っぺらくてつまらないのよね。逆に二枚目役なんて、ある程度は誰にだって務まるという訳。
大仕掛けの作戦をハデなアクションで決めるのが小気味いい。ヒロインのシャーリーズ・セロンの存在が映画を引き締めていたのがまたよかった。きっちり楽しめたところを評価したいと思います。ちなみにミニは、ほとんど色の区別しか判らないような超車オンチの私が、唯一好きだな~と思っている車だったりして。
でもこの間、若かりし頃のマイケル・ケイン様が主演している旧作の【ミニミニ大作戦】を(ずっと貸し出し中だったのをやっとこさ)借りて観てみたら、“大英帝国”ギャグを全部すっ飛ばして本当に単なるアクションものになってしまっている本作は、ちょっと物足りなく思えてしまったかな。まぁ、題名と役名を借りているのと、ミニを使っているっていうところ以外は全くの別物ですよね。

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【ムーンライト・マイル】四つ星

人の生き死にをメインに扱う映画ほど、創る人のパーソナリティやその体験がデリケートに反映される映画はないと思う。この映画の、しみじみしているけれど重すぎず軽すぎず、穏やかで静かであっさりと上品な部分が、本作の脚本も手掛けたブラッド・シルバーリング監督が通過してきた辛い経験(恋人をストーカーに殺されたのだとか……)を反映しているのかと思うと泣けてきてしまう。まぁ、(身近な方が亡くなった体験を持たない方には特に、)それがあっさりしすぎて物足りないと映る場合もあるのかもしれないけれど。
ダスティン・ホフマン ! スーザン・サランドン ! そして今、複雑なニュアンスを演じられる新鋭として大注目株のジェイク・ギレンホール ! まぁよくこれだけの面子を揃えられたものだ。彼等の醸し出すアンサンブルに、ゆっくりと身を委ねてみて戴きたい。
それにしても、私は同監督の【シティ・オブ・エンジェル】は大嫌いな映画だったんだけどな。やっぱり、一本を創るのにどれだけ年月が掛かったとしても、ものをつくることを志す人というのはずっと作家であり続けていて欲しいと思うのであります。

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【めぐりあう時間たち】四つ星

良くも悪くもお文学な映画といった印象。何たって暗い。やたらと暗い。欧米の映画の一部で、とにかく暗ければシリアスっぽいんじゃん ? みたいな傾向があるのは常々どうかと思っているんだが、この映画にもちょっとそういうところが感じられたのは個人的にはちょっとマイナスな部分。でもそういうのが嫌いじゃない人には悪くない映画だろうと思う。
それぞれの世代の孤独が世代を越えて交錯する、といった趣向は確かに面白いと思った。それに、メリル・ストリープ、ジュリアン・ムーア、ニコール・キッドマンといった女優陣の完全品質保証つきの見応えのある演技は、やはり見逃せないだろう。でも、人間は実は孤独です、なんてそんな当たり前のこと、今更大真面目な顔をして言われてもなぁ、という感触はぬぐえなかったのだが……。

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【メラニーは行く ! 】三つ星

【Sweet Home Alabama】という原題からすると、故郷がやっぱりいいわ、という結末になることは分かりきっているというのに、なーにこのヒロインはフラフラしてるんでしょう。そもそも、自分の気持ちごときがよく分かっていないようなタイプのヒトって、正直、私はあんまり得意ではないし。でもってその結末に無理矢理辿り着くために、次々に都合のよいエピソードが付け足されるのもいい加減で疲れる。
それでも、何も考えずに流れに身を任せていれば結構最後まで楽しんで見れるのは、くどいようだけどやはりヒロインを演じているリース・ウィザースプーンのおかげなのでしょう。
ところで、最初の方のあの宝石店でのプロポーズのシーン、私なら「アンタ、何くだらないことに無駄な労働力と手間隙をかけてんのよ !! 」って一発で破談になるところだけどね。親の七光りのくせにそんなことする人なんて、気持ち悪いよう。

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【ライフ・オブ・デビッド・ゲイル】四つ星

こんなもん、コイツもグルに決まっとるがな ! と思ってたら大体予想通りの展開になったんだけど、まぁそれはそれ。さすがはアラン・パーカー監督、無駄のない演出で全く飽きさせず、最後の最後までグイグイ引っ張ってくれる。
しかしですね、かのガンジーが昔“手段と目的との間にはなんら相関関係はないと考えるのは思い違いもはなはだしい”とか言っていたという話を、丁度読んだばっかりでして……私も基本的に死刑制度には反対なんだけど(人間はどうしたって他の人間をフェアには裁ききれないと思うから)、目的がいくら崇高であってもどうなんですかね、ソレ。まぁ、そういったことも総て含めての問い掛けではあるんだろうけれど。
ケヴィン・スペイシー、ケイト・ウィンスレットといった役者さんの存在感が勿論この映画を牽引しているんだろうけれど、ここは一つ、重要な役柄であるコンスタンスを演じたローラ・リネイさんの存在感にも注目してみて戴きたい。ハリウッドには我が我が、という一見明確な自我を持っている人が多いと思うので、彼女のように、相手の存在をまるごと受け止めながらも自分の力でしっかり立っているような“柔らかな強さ”を体現できている人はなかなかいないんじゃないかと思うのだ。本作の彼女が気になった方は、どうぞ今すぐビデオ屋さんに走って【ユー・キャン・カウント・オン・ミー】という作品をチェックしてみて下さいませ !

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【レセ・パセ 自由への通行許可証】四つ星

日本ではいつまでたっても忠臣蔵が廃れないように( ? )、フランスでは、ナチス支配下のレジスタンスものというのはいつまでたっても廃れないジャンルの一つなんじゃないかという気がする。日本人にはあまり馴染みのないテーマなので、日本での評価が今ひとつ盛り上がらないのは仕方ないのかもしれないけれど、よく見てみると骨太で見ごたえのあるドラマですのよ。それに何たって私、タヴェルニエ監督のファンなんだもん(←贔屓)。
最初、主人公2人の区別がちょっとつきにくいかもしれないけれど(そんなの私だけ ? )、フランス人にとっての自由とは ? というテーマを念頭に置きながら観て戴いたりなんかするといいんじゃないかと思う。フランスで二次大戦後に活躍した名だたる映画人の多くが、実はナチス支配下の撮影所の出身だった、という視点の提出も興味深いです。

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【恋愛寫眞<レンアイシャシン>】四つ星

広末涼子さんと松田龍平君は、素材としては大変素晴らしいものを持っている人達なのだなと再認識。彼等の魅力を最大限に引き出そうとする上で、堤幸彦監督の撮り方は抜群にうまかったのだろうなと思う。(さすが。)引き算すれば誰が犯人かすぐ分かってしまうから、ミステリーとして見ようとするのはちょっと難しいと思うけど、それこそまっとうな恋愛ものとして観る分には、瑞々しい香りのするなかなかの佳作なのではないでしょうか。監督にしてはまっとう過ぎるというのに、妙な違和感を覚えないと言うと嘘になりますが……。
でも、松田君の全くお上手とは言い難い英語をナレーションに使うというのだけは、ちと企画倒れだったと言わざるをえないと思います……。

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【六月の蛇】四星半

いたぶられがるままであるかのように見えて、自分を見据えて解放していく女。アブノーマルな成り行きではあるのかもしれないが、当事者にはそんな線引きは無意味であるに違いない。圧倒的な映画的カタルシス !! 巨大な鉄のドリル様ペニスで女を血まみれにしていた【鉄男】の塚本晋也監督がまさかこんな映画を創るようになるなんて、本人以外一体誰が想像した ?

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【ロスト・イン・ラ・マンチャ】四つ星

実現したかもしれないのに泡と消えてしまった映画の話というのは、それだけで涙がちょちょぎれずにはいられない。(私が一番に思い出すのは何たって大島渚監督の【ハリウッド・ゼン】ですね。)どんな映画でも、成立していること自体が奇跡のようなものなのだ。そう思うと、見ていてどんなに腹立たしいような映画であっても少しは愛情が沸いて……きたりするのかな。(やっぱりモノによるわな。)
次々に溢れかえるイメージの数々に生き生きと目を輝かせているテリー・ギリアム監督が(こういう姿を見ていると、やっぱりこの人は並みの人ではないのだなと思う)、冗談かと思うような不運の数々に見舞われ、撮影が中止になり、再開の可能性がどんどん減ってくるのにつれてどんどん意気消沈していってしまう様は、見ていてあまりにも痛々しい。とは言いながら、これほどエネルギーを浪費させられてボロボロになってもまた次に行こうとしてしまうのが、彼が根っからのクリエーターである所以なのだろう。創造するということにつきまとう業の深さを目の当たりにして戴ければと思う。

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