Back Numbers : 映画ログ No.7



今月の一言 : この夏のアメリカのBox Officeのチャートは、1位の入れ替わりが激しいみたい。これって裏を返せば、最初の週はものめずらしさで順位が上がっても、その後持ち堪えられないってことでは ? つまり、いくら宣伝で話題性を煽ってみても、これといった中身が無いからそれ以上はどうにもならない作品ばかり、ってことになるのではないのだろうか。

【アンナ・オズ】三星半
シャルロット・ゲンズブールってホントにいい女優さんになったよなぁ、と再確認。しかし映画の中身は、いつものロシャン監督っぽい登場人物の内面描写よりは、お話の筋そのものが先行した感があって、個人の好みとしてはちょっと物足りなかった気がした。無論、これは好き好きだと思うけど。
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【いさなのうみ】三星半
あまり誰も取り上げていないような素材をうまく扱って、美しく伸びやかに創り上げられているようには思う。が、敢えて難を言わせてもらえば、描かれているどのテーマも、どこかで見たような通り一辺倒なものだったような気がするのだが。くじらと人間との関係も、遠洋漁業の将来の問題も、青春期の恋愛や成長の物語も、もう少し踏み込んだ監督独自の視点のようなものが、私は観たかったなぁ。それから、私はイナカモノなもんで、女の子の成長の帰結点が誰かのオヨメサンになること、っていう展開には、どうも個人的には抵抗があったりするんだけど……。
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【ウォーターメロン・ウーマン】三星半
私達は黒人で、女性で、同性愛者であることで、アメリカ社会の中で三重に虐げられている、と以前見たブラック・レズビアンのドキュメンタリー・フィルムで出演者の一人が言っていた。かように自らのアイデンティティに対して真摯にならざるを得ないだろう部分を、このシェリル・ドゥニエ監督はユーモアたっぷりに実にさらりと描いている。この作風には多分、監督さんの自身の人生に対する姿勢が表れているのだろうし、また、自身をとりまく状況をこんなにもあっさり客観視出来るのは、この監督さんがクレバーなお方である証拠であるに違いない。は基本的に、こういうスタンスでものを創る人は大好きである。
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【浮き雲】四つ星
ぜっこうちょおのカウリスマキ節。極力セリフを省いたシンプル極まりない彼独特のこの間は、究極のミニマリズムと言えるであろうか。今回は特に、人間の情の表現に適度に味付けされて、ほどよくしっとりとしたいい雰囲気に仕上がっている。これならシニアの人だって喜んで観てくれそうだな。
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【THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に】四つ星
今回は正にテレフィーチャーの続きの2話分といったような形式だったので、御家庭のテレビモニターを映画館のスクリーンに移したものといった感はますますあるのだが、今回は時間もお金もそれなりにつぎ込めただろうし、テレビ放映だとやはり内容的にどうしても有形無形の制限があるかもしれないので、エヴァンゲリオンの終焉を飾るこのラストを映画という形にして、映画館に会したファンの皆様にイベントとして楽しんで戴くということには、それなりに意味があったのではないかと思う。中身の方は、TVシリーズを見ていないと確かにキツいものはあるかもしれないが、単なる映像表現として考えてもかなりスゴいものであることには間違いないので、こーゆーものが若いもんの間で流行っているのか、という見学の意味も含めて、見に行って全くのお金の無駄ということはないのではないかと、私は考えるのだが。さて、お話についてであるが、これはやはり単体の映画というよりは一連のアニメ作品として見るべきものだろうから、また時間があれば別途書かせて戴く、ということにしておきたいと思うのだが、ただ、この分だとその時間があるかどうかちょっと怪しいので、ごく手短にだけ感想を述べておきたい。この『エヴァンゲリオン』という作品はつまるところは庵野秀明監督のプライヴェート・フィルムである、ということは監督御本人も再三おっしゃっているが、そのように考えれば、この作品に出てくる女の人がみんな“女の人とはこういうものだ”といったごくいかにもな観念的な造形であることも合点が行くし、この作品が結局監督御自身の“自己と他者との関わり方”を描いたものになったのだと考えれば、いろいろな点で納得が行くのである。無論、私自身の考え方と違っているところはたくさんある(私ゃそもそも、いくら人類が出来が悪いからと言って、“補完”されるべきだなんて考えたこともないもんな)のだが、この監督がどう考えているのかということを鑑賞させて戴いている分には面白いので、それはそれでいいのではないかと私は思う、のだが、これを見て納得が行かない人々というのは、各自でこの作品のいろいろな部分を内面化しすぎていて、他人の創作物として切り離して見ることが難しくなっているのだろうな、きっと。(最も、そうでなければこれだけのブームにはなり得なかったのも確かだろうが。)ともあれ、最終話の部分など、これがある個人の内面の葛藤をイメージ化して映像化したものだと思えば、映像表現史上でもなかなか希有なものなのではなかろうかと思うし、自分にとって違和感のある他者を自分の望んだ世界に存在させることを選んだ展開は充分前向きだったのではないかと思ったし、何と言っても、(細部を見ていけばいろいろ破綻しているとは言われながらも、)このように自己膨張を続ける作品を本当に終わらせてしまった力業、表現者としての根性は、それだけでも充分敬服に値するものなのではなかろうかと思う。私としてはただ単に、賞賛させて戴きたい気持ちだ。
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【食神】四つ星
香港製コメディの独特の強引さ、アクの強さには好き好きがあると思うんだけど、この映画には、それがキライな人までをも無理矢理に引きずり込んでいやがおうにも笑わせてしまうだけのパワーがあると思う。こいつは是非とも暑気払いに映画館に行き、見知らぬ人達と共に大笑いして、チャウ・シンチーのファンになるのが正解である。(そしてあの【天使の涙】のカレン・モクの女優根性もその目で確認するべきだ ! )それにしても、どれもこれも、すんごいまずそうな料理だったなぁ(笑)。
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【世界の涯てに】三星半
香港を街ゆく人の目線の高さで映し取り、そのまま港に持って行くと(香港は実は港湾都市だった ! )、その海は、遠く、世界の最果ての島にまで繋がっている。香港という街をこんなスケールで捉えた映画を、少なくとも私は初めて観たような気がするし、イギリス(今回は特にスコットランドだが)との繋がりをこんなふうな視点で描いたものも初めてのような気がする。初めてなのはいいが……これで最後だったりしたらやだな。別にイギリスだけと仲良くすればいいということではなくて、香港は、世界中に対して開かれた都市であり続けて欲しいものである。さて、かように印象的な映画だったのだが、お話の方は……あの自分のことしか考えていないおぜうさまのキャラクターがどうもいまひとつだったんだが。あの好青年の二人(今回の金城武くんはスゴく素敵です ! )に二股かけるのは、まだ話の展開上仕方がないのかもしれんが、コネが嫌なら別の会社を受けろよ、とか、いい齢した人間が街中でのべつまくなしに倒れまくるなよ(人に迷惑と心配を掛けることが分かり切ってるんだから ! )、とか、いろいろな部分で引っ掛かってしまった。病気=悲劇(=同情してね・)という線で押し切ろうとするのは、ちょっと古典的すぎると私は思うぞ。
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【鉄塔武蔵野線】三つ星
子供の独白というのが実は大人の視点の押し付けだったりする(その時間が人生に二度と無い貴重なものかどうかは、それを経験している最中には普通分からないものじゃないだろうか)んで、ちょっとあなどいのではないかと私は思った。それでもあの主人公の男の子が、画面の中でどんどん逞しくなっていく過程には見応えがあった。そういえば12才の頃って、大人も所詮、自分に都合のいい考えを振りかざして生きているものに過ぎないんだってことが分かり掛けてきた時分だったっけな ?
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【とどかずの町で】三星半
以前、某映画監督が「独自の時間感覚を持っている人は誰でも映画監督になれる」と言っていたのを思い出した。モノクロの渋い画面に、急ぐことの出来ない現実の会話の時間をそのまま切り取ったような長回し。この間の空き具合に乗っかれない人にはかなりつらいかもしれないが、一旦シンクロしてしまうと目が離せなくなる、作品としての強さを持っていると思う。
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【ピーター・グリーナウェイの枕草子】
言っておくが、私はピーター・グリーナウェイは大好きだったのだ。【ZOO】なんていまだに、今まで観た全ての映画の中でのベストテンに入りそうなくらいなものである。しかし今回は、グリーナウェイはこれで最後にするだろうという予感を抱きつつ、積年の関係に落とし前をつけるために敢えて映画館に向かったのであった……。百歩譲って、たっぷり100年は時代感覚のズレたグロテスクなジャポネスクも、個人の趣味の領域として解釈してあげることにしよう。しかし、中国と日本の区別もろくについていない“奇妙な果実”を一方的にゴリ押しする彼に、現在形の日本人と対話する意思があるとは、私には到底思えないのだ。そんな独善的な人の映画を今後も敢えて観て差し上げる必要を、少なくとも私は感じないのである。
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【ペダル・ドゥース】二星半
出ている俳優さんはみんな魅力的で何だか面白そう……なんだけど、十分面白くなりきれないまま不発に終わってしまった感がある。なんていうか、人物の描写に一貫性が無くて(例えばファニー・アルダン様の演じるヒロインでも、これだけ自由で魅力的で頭のいい人が何であんなに頭がガチガチで融通の効かない人物に惚れるのかも、彼女が強い人なのか弱い人なのか、あるいはその両方なのかさえ最後までよく分からなかった)、結局全体として何を一番描きたかったのかがどうもはっきりせず、最後まで乗りきれなかったのだ。予告編を見た段階で、もっと人間がしっかり描けているようなコメディを、私は期待していたのだろうなぁ。
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【もののけ姫】四星半
敢えて語る必要もない(あるいは、語るには膨大になりすぎる)今年必見の一本。しかし、もの凄い壮大な展開の割にはラストが少しあっさりしすぎたような気もしたのだが、宮崎駿監督がどこかのインタビューで(宮崎監督は今回100本は取材を受けているんじゃないのか !? )、“僕は神様じゃないので皆を殺す権利は無いと思ったし、それでカタルシスが得られてしまっておしまい、といった終わり方にするのも避けたかった”というようなことをおっしゃっていたのを聞いて、なるほどなと思った。実際あの映画を見終わってから、「あの人達はその後どうしたのだろう」とふと考えている自分にたびたび気づいたりする……や、やられた、恐るべし宮崎駿。引退するなんて冗談ポイポイである。(本人が何と言おうと、どんなに形を変えようと、彼には死ぬまで創り続けねばならないカルマ(業)があると思うな。)
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【ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク】二つ星
(ちなみに……前作【ジュラシック・パーク】四つ星なんだけどっ !! )
前回も書いたが、うーぴーは前作は決してキライではなかった。原作と較べるとどうなのかは分からないが、恐竜に対する純粋な憧憬や未知なるものに対する畏怖や恐怖、手を触れてはいけない領域に踏み込んでしまった人間の愚かさ、人智の及ぶところではない圧倒的な自然の力、などがそれなりにちゃんと描かれていたのではないかと思うし、なんたって恐竜が生きて動いている様をあそこまで創り上げてみせたこと自体、映画史上、やはりエポック・メイキングな出来事だったのではないかと思う。しかし今回は、前作で良かった点がみんな反転してしまったかのようだ。SFXの新味が薄れるのはまぁ仕方がないとしても、人間の描写に全くの深みが無いところは如何ともしがたい。思い起こせば前作でも、“どーしてそこまで ? ”というような思慮の足りない人間のうかつな行動がストーリーを形作っていたきらいはあるのだが(それが大袈裟にならずに適度に抑えられていたのが前作の良かったところで、今にして思うに、リチャード・アッテンボローやサム・ニールらの演技の奥行きでその辺りもカバーされていたんだな)、今回は、ストーリー自体を無理矢理にひねり出した上に不必要に大仕掛けにしようとするあまり、この“あんまりなうかつ度”が10倍以上に跳ね上がっていて、お前いくらなんでも普通の判断力のある人間だったらそれはやらないだろーというような嘘くさい言動のオンパレードになり下がり、挙げ句の果てに、話の展開も不自然極まりないものになってしまっている。子供の出番にも全く必然性がなく、前作でウケた要素としてマーケティング的に取って付けたものだとしか思えない。要するにこれは、儲かるに決まっているから作った続編以外の何者でもなく、創造性のカケラも無いシロモノでしかない。スピルバーグ様、いくら【アミスタッド】の資金が欲しいからって(注 : 彼は前作でもうけたお金で【シンドラーのリスト】を作ったそうな。で、今回は奴隷制をテーマにした映画を作っているという)、これはないんじゃないの ? こんなやっつけ仕事では、手の込んだSFXも折角出てもらったいい俳優さん達も、期待して見に来た観客もみんな可哀想である。
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